特許第5977090号(P5977090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977090アスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977090
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】アスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/00 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   E01C23/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-131677(P2012-131677)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-256755(P2013-256755A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502217997
【氏名又は名称】昭和瀝青工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080724
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 久喜
(72)【発明者】
【氏名】本松 資朗
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 智洋
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和也
(72)【発明者】
【氏名】山之口 浩
(72)【発明者】
【氏名】上坂 憲一
(72)【発明者】
【氏名】足立 明良
(72)【発明者】
【氏名】金尾 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】大久保 一成
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−178805(JP,U)
【文献】 特開2009−203703(JP,A)
【文献】 特開平05−262990(JP,A)
【文献】 特開平08−059326(JP,A)
【文献】 特開昭48−095035(JP,A)
【文献】 特開2012−149507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 21/00〜 23/24
E04G 23/00〜 23/08
E01C 1/00〜 17/00
E01C 19/00〜 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水性舗装のジョイント部に固化材を注入する方法であって、該注入は、ノズルの進行方向に一定間隔をあけた複数のノズルから、ノズルを移動しながら同時に行ない、該複数のノズルは、2本のノズルを1台の移動車に設け、且つその移動車を複数用いるものであり、注入する固化材は、その粘度が200mPa・s以下であり、該固化材が硬化した固化物の針入度が150以下である方法において、
該移動車は原動機付きであり、且つ、該ノズルすべてが、進行方向と直角に(左右に)調整でき該固化材の流通経路には流量調整弁が設けられていることを特徴とするアスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法。
【請求項2】
1台の移動車に設けられたノズル間距離は1〜3mである請求項1記載のアスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法。
【請求項3】
各移動車間距離は、2〜10mである請求項2記載のアスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装路のジョイント部への固化材注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装路は、舗装路では現在最も汎用されているものであるが、老朽化すると、道路に凹部(陥没)が生じ事故の原因になる。また、アスファルト骨材が離脱、飛散することにより、道路の断面が露出するようになり、骨材の飛散がより加速されることになる。
【0003】
また、最近では車道でのスリップ事故を軽減するため、道路は排水性や透水性を有し、表面に水がたまらないようにしている。このため、骨材間のアスファルトが少なくより強度が落ちることにもなっている。
【0004】
このような老朽化した舗装路は補修しなければならない。補修の方法は、既設のアスファルト舗装の基層、表層部をすべて切削除去し、そこに新しいアスファルト合材を敷き均して行なってきた。また、表層部のみを切削除去する方法もある。
【0005】
しかし、このようにアスファルト層を切削することは非常に経費と時間がかかり、道路の解放も遅れ交通渋滞の原因ともなる。これを軽減するため、出願人は、排水性アスファルト舗装路を簡単に予防又は補修でき、排水性も確保する方法を開発した。それは、排水性舗装の表面から、比較的粘度の低い固化材を散布する方法である。これなら、簡単に施工でき、且つ排水性層の下層まで浸透し、そこで固化ししゃ水層を形成する。さらに、排水性層の骨材の飛散も軽減し、耐久性を増す優れた方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この散布方式は、一様の舗装部分には何の問題もないが、ジョイント部が存在するとその部分には固化材が不足する。さらに、ジョイント部は接着が弱いため、どうしてもその部分にはクラックが入ったり、剥離したりすることが多い。そのため排水性層の下層への雨水の浸入を防ぐとともにそれを補強したいという要望もある。そこで、このジョイント部に固化材を注入する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような状況に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明固化材注入方法を完成したものであり、その特徴とするところは、排水性舗装のジョイント部に固化材を注入する方法であって、該注入は、ノズルの進行方向に一定間隔をあけた複数のノズルからノズルを移動しながら同時に行ない、該複数のノズルは、1〜3本(好ましくは2本)のノズルを1台の移動車に設け、且つその移動車を複数用いるものであり、注入する固化材は、その粘度が200mPa・s以下であり、該固化材が硬化した固化物の針入度が150以下である点にある。
【0008】
排水性舗装とは、中間粒度骨材の混合比率を下げ(トップサイズ骨材を多く)、又は粗骨材のサイズを単粒化する等によって、空隙をつくり、舗装層に水の通過する連続孔を形成したものである。空隙の量としては、限定はしないが、全体の10〜25容量%程度である。要するに現在施工されている通常の排水性舗装等である。
【0009】
ここで、舗装のジョイント部とは、舗装材(骨材とアスファルト)を、複数個所敷設したときの接合部である。例えば、2車線の道路を舗装する場合、2車線の幅で1度に敷設できない場合、1車線の幅で敷設し、その後隣接して次の1車線の幅を敷設して2車線にする場合、その最初の敷設した車線とその次の車線との接触部である。また、既設舗装を補修した場合に補修部と非補修部との境等も含まれる。横断(ヨコ)方向の施工ジョイントも含まれる。要するに、一般的に舗装のジョイント部と呼ばれる部分である。
【0010】
このジョイント部は同時に敷設した部分と異なり、空隙が大きいか、接着が弱いかの場合が多い。このような場合、上記したしゃ水層形成固化材を排水性舗装の表面から一様に散布したとしても、このジョイント部はどうしても固化材不足になる。本発明はこのような部分に対する措置である。
【0011】
ここでいう固化材は、注入(ノズルから吐出、噴出、流下、滴下、放出等)するときには200mPa・s以下の粘度の流体である。好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは60mPa・s以下のものである。また、流出の問題から30mPa・s以上が好ましい。また、注入後一定時間経過後固化するものであって、アスファルト乳剤、又はアスファルト乳剤と樹脂の混合物をいう。一定時間とは、数十分〜数十時間(20分〜20時間等)であり、分解剤を使用することもある。
【0012】
ノズルとは、前記固化材を吐出等する部材であり、単なるパイプでもよい。径としては、内径が2〜15mm、好ましくは4〜8mm程度である。
本発明は、このノズルを複数本用い、進行方向に前後して同時に固化材を注入することがポイントである。ジョイント部の長手方向に沿ってノズルを移動しながら注入するが、そのノズルの移動方向が進行方向である。同時に注入しているが、進行方法への進行速度と、2本の間隔とによって、同じ個所に注入する時間差がある。
また、同じ移動車のノズルは同時に吐出(注入)するが、移動車が異なる場合には、時間的に差がある場合もある。
【0013】
このノズルは、移動車に設けられている。ここでいう移動車は、タイヤ(車輪全般をいう)を有しジョイント部に沿って移動できるものであり、モーター等の原動機付きであっても、手押しタイプでもよい。フレームだけでできた簡単なものが便利である。この移動車に2本のノズルを設けている。2本のノズルは、進行方向に1直線状に並び、その間隔は1〜3m(好ましくは、1.8〜2.2m)である。この間隔は、前のノズルから注入された固化材がジョイント部の空隙の下方に浸透し、次の注入が可能になる距離(間隔)である。同時に吐出しているが、移動距離があるため、同じ場所に注入するのは、その時間だけ遅れて注入することになる。また、開始時の後側がまだ注入すべきジョイント部に届いていない時間は当然後側は吐出していない。
【0014】
ノズルは移動車に完全固定ではなく、進行方法と直角に(左右に)調整できるようにするのがよい。移動の方法は自由であり、ネジ等で固定してハンドルで移動させる等である。移動車を運転操作する(押す)者の手元に調整装置があればより便利である。
【0015】
この移動車を通常は、複数台(好ましくは3台)使用する。即ち、同一部分に2×3で6本のノズルから順次注入されるのである。総注入量としてはジョイント部1mあたり0.5〜2.5リットル(より一般的には1.8〜2.2リットル)が普通である。
ノズル1本あたりの吐出量は、0.5〜2.5リットル/分がよい。これ以上では注入が困難であり、これ以下では遅くなるためである。ノズル1本の時間あたりの注入量が1リットル/分、移動速度が3m/分とすると、1mあたり1/3リットルとなる。これが6本では2リットル/mとなる。これでジョイント部1mあたり2リットル注入できることになる。
【0016】
移動車を複数台(好ましくは3台)使用するのは、1台の移動車に多数のノズルを距離をおいて設けられないこと、分けた方が時間的な調整が容易であること等のためである。
【0017】
このノズルは、固化材供給装置(固化材タンクが加圧されている場合や、高い位置にある場合、ポンプを別途設けたもの等があり、排出力がある)と配管やチューブで接続されているが、1台の移動車で2本同時に注入するため、供給装置からの1本の配管を途中で分岐し2本のノズルに接続するのが便利である。固化材供給装置は、移動車に設けてもよい。
【0018】
また、注入量を調整するため、流量調整弁を設け、且つオンオフの弁も別途設けてもよい。さらに、供給装置から分岐までの間を2経路又は3経路に分配し、それぞれの経路に流量調整弁とオンオフ弁を設けてもよい。これは、それぞれの経路の流量を予め設定し、流量調整弁の開度を固定し、現場ではオンオフ弁だけでどの流路を使用するか決める方法をとるためである。
【0019】
また、前記した固化材としては、アスファルト乳剤、又はアスファルト乳剤に樹脂を混合したものが代表である。その粘度は、200mPa・s以下である。固化材であるため、通常は2000mPa・s以下程度であるが、本発明ではこれを限定して200mPa・s以下にしているのである。アスファルト乳剤とは、アスファルトを水中で乳化剤とともに乳化したものであり、水の量や乳化剤の種類により粘度が異なる。本発明で使用するものは上記した通り粘度が200mPa・s以下であるが、これは後述する樹脂を混合した場合も当てはまるものである。
この固化材が、排水層を通過し、基層の上方でしゃ水層を形成するだけでなくジョイント部の別舗装間の未接着部に浸透充填ししゃ水するとともに接着し補強する。
【0020】
さらに、固化材としては、アスファルト乳剤だけでなく、樹脂を混合したものでもよい。この混合は、アスファルト乳剤と樹脂の利点を合わせるためである。すなわち、樹脂の低温脆性のよさや強度、アスファルト乳剤の接着性や施工のよさ等の両方の利点を持たせるためである。樹脂としては、基本的にアスファルト乳剤と混合できるものであればどのようなものでもよい。例えば、ゴム、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂等であり、石油樹脂、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系の樹脂等がある。
【0021】
樹脂の混合量は自由である。例えば、容積比でアスファルト乳剤:樹脂=1:9〜10:0まで可能であるが、3:7〜9:1が好適であり、6:4〜9:1がより好適である。
【0022】
針入度とは、JISK2207で規定される固化物の硬さを表す指標であり、通常のアスファルト乳剤では蒸発残留後の針入度が60〜300である。本発明では、舗装路の表面に固化物が残った場合のベタツキを考慮してこれを150以下にしている。しかし、100以下、さらには60以下がより好適である。
【0023】
上記の固化材の注入は、ジョイント部の上方、1〜5cm離れた位置においてノズルから放出する方法である。放出といっても単なる落下でも圧をかけて放出してもよい。
【0024】
本発明自体は、固化材を上方からジョイント部の空隙を通過して所定位置に充填するため、排水性層の空隙が詰まっていると施工できない。よって、空隙詰まりを解消するため、注入前にバキューム装置(減圧吸引する装置)等によって、排水性層の空隙に詰まったゴミ等を吸引除去してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明には次のような効果がある。
(1) 表層(排水性)より下層のジョイントやひび割れに固化材が浸透・充填するため、舗装内部への雨水侵入を防ぐことができる。
(2)排水性舗装を切削または開削したり孔を開けたりすることなくジョイント部を補強できる。
(3) ジョイント部に複数回に分けて注入するため、十分に的確に注入することができる。
(4) 移動車に2本のノズルが設けられているため、時間的にも、場所的にも注入が容易である。
(5) 移動車を複数台用いているため、注入時間の調整等が容易である。
(6) 固化材として、非常に粘度が低く、且つ針入度の小さいものを用いているため、浸透は容易で、強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に使用する移動車1の1例を示す側面図である。
図2】固化材供給装置からノズルまでの概略経路図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面に示す実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明に使用する移動車1の1例を示すもので、手押しタイプである。台車2にタイヤが4つ設けられ、台車2には、固定フレーム4が1本取り付けられ、その固定フレーム4には、前後にノズル5が設けられている。ノズル間の間隔は2mである。ノズル5の先端は地面6から約10mmの位置にある。台車2には取っ手7が設けられ、作業者が手で押す。
【0029】
ノズル5には、ホース8が接続され、その中を固化材が送られてくる。このホースは、固化材供給装置(図示せず)に接続されており、その途中に種々の弁が設けれている。
【0030】
図2は、固化材供給装置9から、ノズル5までの配管(ホースやチューブでもよい)の1例を示す概略経路図である。固化材供給装置9の出側に弁10がある。これはそれより先を交換する場合等に閉止するためのものである。その先で経路は2つに別れている。その各々に流量調整弁11と、オンオフ弁12が設けられている。分岐部分には切替弁13が設けられている。流量調整弁11の開度を予め調整しておき、例えば1リットル/分、2リットル/分等に固定しておく。そして、現場では、その前に設けられているオンオフ弁12を完全開放か、完全閉止することによって、どちらの流路を使用するか決めるだけにする。予め流量が求められているため、開の時間がわかれば吐出した固化材の量がわかる。
【0031】
流路の切り替えは、現場で注入して、固化材の注入状況でジョイント部の空隙を推し量り、流量の多いほうか少ない方かを決めればよい。
【0032】
次に実際の排水性舗装のジョイント部に固化材を注入して性能試験を実施した。
舗装の構造は、下から順に下層路盤220mm、上層路盤80mm、基層60mm、表層40mmであった。この表層40mmが排水性の部分である。ここのジョイント部に上方から次の固化材を散布した。この固化材は、アスファルト乳剤に樹脂を15重量%(ドライベース)混合したものである。
【0033】
固化材の物性は次の通りである。
粘度:50mPa・s
平均粒子径:3μm
蒸発残留分試験:60%
蒸発残留物の針入度:34(1/10mm)
蒸発残留物の軟化点:54.5℃
貯蔵安定試験:1.5%(5日)
【0034】
この固化材を1mあたり2リットル注入した。結果は次の通りであった。
注入方法は、1台の移動車に2本のノズルがあるものを3台使用し、最初の移動車を3m/分の速度で移動させながら、1本目のノズルから1リットル/分の量で吐出する。2m間隔のあいた2本目のノズルは、約40秒後から吐出を始め、その後はともに吐出を続ける。同じ場所には、40秒遅れて2回目の注入がなされることになる。1本のノズルでは1mあたり1/3リットル注入されることになる。よって、1台の移動車ではジョイント部1mあたり2/3リットル注入されることになる。この移動車を3台同じジョイント部を走らせて、合計2リットル/m注入した。
【符号の説明】
【0035】
1 移動車
2 台車
3 タイヤ
4 固定フレーム
5 ノズル
6 地面
7 取っ手
8 ホース
9 固化材供給装置
10 弁
11 流量調整弁
12 オンオフ弁
13 切替弁
図1
図2