特許第5977093号(P5977093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アスモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000002
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000003
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000004
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000005
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000006
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000007
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000008
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000009
  • 特許5977093-ロータの製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977093
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20160817BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H02K1/27 501C
   H02K1/27 501K
   H02K15/03 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-135761(P2012-135761)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3748(P2014-3748A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101352
【氏名又は名称】アスモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】長尾 喜信
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−056583(JP,A)
【文献】 特開平08−088963(JP,A)
【文献】 特開2007−037202(JP,A)
【文献】 特開2005−093453(JP,A)
【文献】 米国特許第05864191(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータに対し径方向に対向配置されるロータコアを有し、
前記ロータコアには、該ロータコアの軸方向端面から軸方向に延びる収容孔が形成され、該収容孔内に磁石が保持されてなるロータの製造方法であって、
前記収容孔の内面から反磁石側に延びる切れ込み部を前記ロータコアに剪断形成する工程と
前記ロータコアの軸方向端面の一部であって且つ前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なる位置を押圧治具にて軸方向に押圧することで、前記剪断形成する工程にて形成された略閉じた状態となっている前記切れ込み部を開くように変形させて、該切れ込み部の前記収容孔側の端部を前記磁石に圧接させる工程とを備えたことを特徴とするロータの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載のロータの製造方法において、
前記押圧治具の押圧部は三角形をなし、該押圧部の1つの頂部が前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように前記押圧部にて前記ロータコアの軸方向端面を押圧することを特徴とするロータの製造方法。
【請求項3】
請求項に記載のロータの製造方法において、
前記押圧治具の押圧部は円形をなし、該押圧部の円中心が前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように前記押圧部にて前記ロータコアの軸方向端面を押圧することを特徴とするロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータコアに収容孔を有し、この収容孔に磁石を配設した所謂IPM型のロータが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1のロータは、磁石を配置する収容孔(特許文献中、第2の穴)の近傍に、円形状の第3の穴を設け、収容孔と第3の穴との間に塑性変形される薄肉部を形成している。このため、前記第3の穴に略円柱状のピンを圧入することで、前記薄肉部が塑性変形されて収容孔に配置された磁石が圧接される。これにより、磁石が収容孔内に保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−184638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のような磁石固定方法では、磁石やロータコア側の寸法誤差によって薄肉部の磁石側への塑性変形量が過大となった場合、薄肉部から磁石に付与される圧が過剰となり、その結果、脆弱な磁石が損傷してしまう虞があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、磁石の損傷を抑えつつ磁石を収容孔に保持させることができるロータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項に記載の発明は、ステータに対し径方向に対向配置されるロータコアを有し、前記ロータコアには、該ロータコアの軸方向端面から軸方向に延びる収容孔が形成され、該収容孔内に磁石が保持されてなるロータの製造方法であって、前記収容孔の内面から反磁石側に延びる切れ込み部を前記ロータコアに剪断形成する工程と前記ロータコアの軸方向端面の一部であって且つ前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なる位置を押圧治具にて軸方向に押圧することで、前記剪断形成する工程にて形成された略閉じた状態となっている前記切れ込み部を開くように変形させて、該切れ込み部の前記収容孔側の端部を前記磁石に圧接させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この発明では、切れ込み部が開いた状態(つまり、切れ込み部によって分断された収容孔の内壁同士が離間する状態)で、その切れ込み部の端部が磁石に圧接されることで、磁石が収容孔に保持される。このため、押圧治具により切れ込み部の端部を磁石側に圧接させる際に、磁石や収容孔の寸法誤差等によって切れ込み部の端部の磁石側への突出量が過大となった場合に、磁石に圧接する切れ込み部の端部の肉を、その切れ込み部の内側に逃がすことができる。これにより、切れ込み部の端部から磁石に付与される圧が過剰とならず、その結果、磁石の損傷を抑えつつ磁石を収容孔に保持させることができる。また、切れ込み部は剪断形成されてなるものであり、剪断形成された該切れ込み部は略閉じた状態となっているため、切れ込み部の端部を磁石側に圧接させる際のその切れ込み部の開きが極めて小さくなる。このため、切れ込み部による有効磁束(ロータの回転に寄与する磁束)への影響を小さくすることができ、その結果、ロータのトルク低下を抑えることができる。
【0015】
この発明では、押圧治具の押圧による塑性変形によって切れ込み部の端部が磁石に圧接されるため、切れ込み部の端部が磁石への圧接方向とは反対側に押し戻されることは容易に生じない。このため、切れ込み部の端部による磁石の保持力が安定し、その結果、ロータの振動等によって磁石が軸方向にずれてしまうことを抑制することができる。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項に記載のロータの製造方法において、前記押圧治具
の押圧部は三角形をなし、該押圧部の1つの頂部が前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように前記押圧部にて前記ロータコアの軸方向端面を押圧することを特徴とする。
【0017】
この発明では、三角形をなす押圧部にてその1つの頂部が切れ込み部又は切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように押圧することで、切れ込み部を開きやすくすることが可能となり、その切れ込み部の端部(切れ込み部によって分断された収容孔の内壁)を広範囲に亘って磁石側に突出させることができる。これにより、切れ込み部の端部(収容孔の内壁)が磁石に圧接する面積を広くすることが可能となるため、磁石に加わる力を分散させて磁石の損傷をより抑えることが可能となる。
【0018】
請求項に記載の発明は、請求項に記載のロータの製造方法において、前記押圧治具の押圧部は円形をなし、該押圧部の円中心が前記切れ込み部又は前記切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように前記押圧部にて前記ロータコアの軸方向端面を押圧することを特徴とする。
【0019】
この発明では、円形をなす押圧部にてその円中心が切れ込み部又は切れ込み部の反収容孔側の延長線と重なるように押圧することで、その押圧にて生じる切れ込み部の端部(切れ込み部によって分断された収容孔の内壁)の変形範囲を小さくすることが可能となるため、押圧部の押圧による歪みがロータコアの外形へ与える影響を少なく抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
従って、上記記載の発明によれば、磁石の損傷を抑えつつ磁石を収容孔に保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態のモータの断面図である。
図2】(a)は同形態のロータ及びステータの平面図であり、(b)はロータの要部を拡大して示す平面図である。
図3】同形態のロータの製造方法を説明するための平面図である。
図4】同形態のロータの製造方法を説明するための断面図である。
図5】別例のロータの製造方法を説明するための平面図である。
図6】別例のロータの要部を拡大して示す平面図である。
図7】別例のロータの製造方法を説明するための平面図である。
図8】別例のロータの製造方法を説明するための断面図である。
図9】別例のロータの製造方法を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のモータ10を構成するモータケース11は、ケース本体12と、このケース本体12の開口部を閉塞する略円板状のカバープレート13とから構成されている。
【0023】
有底円筒状をなすケース本体12は、円筒状の筒状部12aと、同筒状部12aの軸方向の一端(図1では上端)を閉塞する閉塞部12bと、同筒状部12aの軸方向の他端部から径方向外側に延びる円環状のフランジ部12cとから構成されている。なお、筒状部12a、閉塞部12b及びフランジ部12cは一体に形成されている。また、本実施形態のケース本体12は、磁性体からなる金属板材にプレス加工を施して形成されている。そして、ケース本体12のフランジ部12cに前記カバープレート13が固定されることにより、ケース本体12の開口部は該カバープレート13にて閉塞されている。
【0024】
筒状部12aの内周面には、円筒状のステータ21が固定されている。このステータ21は、円筒状のステータコア22と、このステータコア22に巻装されたコイル23とを備えている。
【0025】
図1及び図2(a)に示すように、ステータコア22は、筒状部12aに固定される円筒状のステータ固定部22aと、該ステータ固定部22aから径方向内側に延びて前記コイル23が巻回された複数のティース22bとを有する。そして、このステータコア22は、周方向に配置されティース22bをそれぞれ有する複数(本実施形態では12個)の分割コア24から構成されている。
【0026】
図2(a)に示すように、各分割コア24は、軸方向から見た形状が円弧状をなす分割固定部24aと、この分割固定部24aの内周面から径方向内側に延びる前記ティース22bとから構成されている。各分割コア24において、ティース22bは、分割固定部24aの周方向の中央部から径方向内側に延びるとともに、各分割コア24は、軸方向から見た形状が略T字状をなしている。また、分割固定部24a及びティース22bは、軸方向の幅が等しく形成されている。
【0027】
そして、複数の分割コア24は、ティース22bの先端が径方向内側を向くように、且つ、分割固定部24aにて円筒状のステータ固定部22aが形成されるように連結されることによりステータコア22を形成している。
【0028】
図1及び図2(a)に示すように、前記ステータ21の内側には、ロータ31が配置されている。ロータ31は、円柱状の回転軸32と、この回転軸32に一体回転可能に固定されたロータコア33と、このロータコア33にて保持された複数(本実施形態では4個)の磁石34とから構成されている。
【0029】
回転軸32は、磁束が漏れないように好ましくはステンレス等の非磁性体から形成されるとともに、円柱状をなしている。この回転軸32の反出力側である基端部(図1において上側の端部)は、閉塞部12bの径方向の中央部に設けられた軸受32aによって軸支される。一方、同回転軸32の出力側である先端側の部位は、前記カバープレート13の径方向の中央部に設けられた軸受32bによって軸支されている。そして、回転軸32は、ステータコア22の径方向内側で同ステータコア22と同心状に配置されている。また、回転軸32の先端部は、カバープレート13の径方向の中央部を貫通してモータケース11の外部に突出(露出)して出力軸を形成する。
【0030】
前記ロータコア33は、磁性体よりなる金属板材をプレス加工により打ち抜いて形成した複数枚のコアシート35を積層して構成され、筒状の固定部33aと、この固定部33aの外周に固定部33aと一体に形成された4個の疑似磁極33bとを備えている。
【0031】
固定部33aの径方向の中央部に形成された固定孔33cは、固定部33aを回転軸32の軸方向に貫通するとともに、固定孔33cの内径は、回転軸32の外径よりも若干小さく設定されている。
【0032】
また、固定部33aの外周面には、疑似磁極33b間となる部分に軸方向に貫通する貫通孔36(収容孔)が形成されている。貫通孔36は、各コアシート35を軸方向に貫通しており、軸方向視の形状が略矩形状をなしている。つまり、貫通孔36は、ロータコア33の軸方向一端面から軸方向他端面まで軸方向に延びている。
【0033】
この貫通孔36には、磁石34が挿入されている。各磁石34は、ロータコア33の軸方向に長い直方体状をなしている。また、貫通孔36の径方向内側面36a(内面)は、磁石34の内側面34aと略平行をなすとともに、その内側面34aに対して若干の隙間を介して径方向に対向している。
【0034】
図2(b)に示すように、貫通孔36の径方向内側面36aには、径方向内側(反磁石側)に延びる切れ込み部42が剪断形成されている。つまり、貫通孔36の径方向内側面36a(内壁)は、切れ込み部42によって周方向に分断されている。また、切れ込み部42は、貫通孔36の径方向内側面36aの周方向中央部に形成されている。なお、切れ込み部42は、各コアシート35に形成されている。
【0035】
ロータコア33の軸方向両側から施されたステーキング(かしめ)によって、軸方向両端から所定枚数のコアシート35の切れ込み先端部43(切れ込み部42の貫通孔36側の端部)が径方向外側に塑性変形されて磁石34に対して圧接されている。この切れ込み先端部43の圧接によって、磁石34は貫通孔36の径方向外側面36b(内面)に押し付けられ、これにより、磁石34が貫通孔36内で保持されている。つまり、磁石34はその軸方向両端部で切れ込み先端部43にて固定されている。なお、上記のステーキングは、ロータコア33の軸方向両側からステーキング治具S1(図4参照)にて切れ込み部42の径方向内側(反貫通孔側)に施されるものであり、そのステーキングされた部位にはステーキング跡Mが形成されている。
【0036】
図2(a)に示すように、各貫通孔36に保持された磁石34は、本実施形態では、径方向外側の端部がN極、径方向内側の端部がS極となるようにそれぞれ着磁されている。従って、本実施形態のロータ31では、S極及びN極のうちN極の磁極の磁石34がロータコア33に対して周方向に4個配置されている。そして、各磁石34が貫通孔36に挿入されることにより、周方向に隣り合う磁石34間にそれぞれ疑似磁極33bが配置され、その結果、N極の磁石34と疑似磁極33bとが周方向に交互に配置される。疑似磁極33bを有するロータコア33に対して磁石34がこのように配置されることにより、疑似磁極33bは、疑似的にS極として機能する。即ち、本実施形態のロータ31は、一方の磁極の磁石34と他方の磁極として機能する疑似磁極33bとが周方向に交互に配置されたコンシクエントポール型のロータである。
【0037】
図1に示すように、前記回転軸32には、同回転軸32の先端面(図1において下側の端面)とロータコア33との間となる位置に、環状のセンサマグネット37が同回転軸32と一体回転可能に固定されている。センサマグネット37は、N極とS極とが周方向に交互となるように着磁されている。
【0038】
また、前記カバープレート13の内側面には、モータ10を制御するための図示しない回路素子が搭載された回路基板38が固定されている。この回路基板38上には、前記センサマグネット37と軸方向に対向するようにホールセンサ39が配置されている。ホールセンサ39は、ホール素子を備えたホールICである。また、回路基板38は、モータ10の外部に設けられる駆動制御回路(図示略)に電気的に接続されている。
【0039】
次に、上記構成のモータ10の動作例を記載する。モータ10では、コイル23に電源が供給されると、ステータ21にて発生される回転磁界に応じてロータ31が回転される。そして、ホールセンサ39は、ロータ31の回転軸32と一体回転するセンサマグネット37の磁界の変化を検出するとともに、検出した磁界の変化に応じたパルス信号である回転検出信号を駆動制御回路に出力する。駆動制御回路は、この回転検出信号に基づいて、ロータ31の回転情報(回転速度、回転位置等)を検出する。そして、駆動制御回路は、検出したロータ31の回転情報に基づいて、ロータ31の回転速度が所望の回転速度となるようにステータ21に供給する電源を制御する。従って、ロータ31の回転状態に応じて駆動制御回路からコイル23に電源が供給される。
【0040】
[磁石の固定方法]
次に、各貫通孔36への磁石34の固定(保持)方法について説明する。
先ず、塑性変形前(ステーキング前)の切れ込み部42の形状について説明する。図3に示すように、切れ込み部42は、貫通孔36の径方向内側面36aの周方向中央から径方向内側に延びている。この切れ込み部42は、各コアシート35に剪断形成されるものであり、ステーキング前の段階では略閉じた状態となっている。
【0041】
図4に示すように、ロータコア33の貫通孔36に軸方向から磁石34を挿入(遊嵌)し、その状態でステーキング治具S1(押圧治具)にてロータコア33の軸方向両側からステーキング(かしめ)を行う。このとき、ロータコア33の外周面に図示しない押さえ部材を当接させた状態でステーキングを行う。また、ステーキング治具S1は、押し付けに伴ってロータコア33(コアシート35)の肉をさらに押し広げるためのテーパ状の押圧部S1aを有している。
【0042】
図3に示すように、押圧部S1aは軸方向(押圧方向)視で三角形をなし、その押圧部S1aにて押圧される被押圧部位は、押圧部S1aの三角形の1つの頂部Tが切れ込み部42の内側端部(反貫通孔側の端部)と重なる位置に設定されている。また、押圧部S1aによる被押圧部位は、切れ込み部42の延長線Lに対して左右対称に設定されている。
【0043】
ステーキング治具S1がコアシート35の上記被押圧部位に軸方向に押し込まれると、切れ込み部42の径方向内側のコアシート35の肉が押圧部S1aによって径方向外側に延ばされる。このとき、切れ込み部42によって分断された貫通孔36の内壁が互いに離間するように若干拡がるとともに、その内壁が比較的広範囲に亘って磁石34側に突出し、切れ込み先端部43が磁石34の内側面34aに圧接される(図2(b)参照)。これにより、磁石34が切れ込み先端部43と貫通孔36の径方向外側面36bとに挟持されて、貫通孔36内で保持される。
【0044】
次に、本実施形態の作用について説明する。
上記の磁石固定方法では、ステーキングにより切れ込み部42が若干開いた状態でその先端部43が磁石34に圧接される。これにより、磁石34や貫通孔36の寸法誤差等によって切れ込み先端部43の径方向外側(磁石34側)への塑性変形量が過大となった場合、磁石34の内側面34aに圧接する切れ込み先端部43の肉が、切れ込み部42の内側に逃げる。このため、切れ込み先端部43から磁石34に付与される圧が過剰とならず、その結果、磁石34の損傷が抑制される。
【0045】
また、切れ込み部42(貫通孔36の内壁)がステーキングによって塑性変形されるため、切れ込み先端部43が磁石34への圧接方向とは反対側(径方向内側)に押し戻されることは容易に生じない。換言すれば、切れ込み先端部43が磁石34に対して離間方向に相対移動不能となる。このため、切れ込み先端部43による磁石34の保持力が安定し、その結果、ロータ31の振動等によって磁石34が軸方向にずれてしまうことが抑制されている。
【0046】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)ロータコア33には、貫通孔36の径方向内側面36aから反磁石側に延びる切れ込み部42が剪断形成される。そして、切れ込み部42が開いた状態(つまり、切れ込み部42によって分断された貫通孔36の内壁同士が離間する状態)で、該切れ込み部42の貫通孔36側の端部(切れ込み先端部43)が磁石34に圧接され、これにより、磁石34が貫通孔36に保持される。このため、ステーキングにより切れ込み先端部43を磁石34側に圧接させる際に、磁石34や貫通孔36の寸法誤差等によって切れ込み先端部43の磁石34側への突出量が過大となった場合、磁石34に圧接する切れ込み先端部43の肉を、切れ込み部42の内側に逃がすことができる。これにより、切れ込み先端部43から磁石34に付与される圧が過剰とならず、その結果、磁石34の損傷を抑えつつ磁石34を貫通孔36に保持させることができる。
【0047】
また、切れ込み部42は剪断形成されてなるため、切れ込み先端部43を磁石34側に圧接させる際のその切れ込み部42の開きが極めて小さくなる。このため、切れ込み部42による有効磁束(ロータ31の回転に寄与する磁束)への影響を小さくすることができ、その結果、ロータ31のトルク低下を抑えることができる。
【0048】
(2)切れ込み先端部43は、塑性変形によって磁石34に圧接されるため、切れ込み先端部43が磁石34への圧接方向とは反対側に押し戻されることは容易に生じない。このため、磁石34の保持力が安定し、その結果、ロータ31の振動等によって磁石34が軸方向にずれてしまうことを抑制することができる。
【0049】
(3)切れ込み部42は、貫通孔36におけるステータ21から遠い側の径方向内面(径方向内側面36a)に形成される。これにより、貫通孔36の径方向外側面36bに切れ込み部42を形成した構成と比べて、切れ込み部42による有効磁束への影響をより小さくすることができ、ロータ31のトルク低下をより抑えることができる。
【0050】
(4)切れ込み部42は、径方向内側面36aの周方向中央部に形成されるため、磁石34の磁束が切れ込み部42の周方向両側にバランス良く流れる。このため、切れ込み部42による有効磁束への影響をより小さくすることができ、その結果、ロータ31のトルク低下をより抑えることができる。
【0051】
(5)ステーキング治具S1の押圧部S1aは三角形をなし、押圧部S1aの1つの頂部Tが切れ込み部42と重なるようにその押圧部S1aでロータコア33の軸方向端面を押圧する。これにより、切れ込み部42を開きやすくすることが可能となり、その切れ込み先端部43(切れ込み部42によって分断された貫通孔36の内壁)を広範囲に亘って磁石34側に突出させることができる。これにより、切れ込み先端部43(貫通孔36の内壁)が磁石34に圧接する面積を広くすることが可能となるため、磁石34に加わる力を分散させて磁石34の損傷をより抑えることが可能となる。
【0052】
なお、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、ロータコア33の被押圧部位は、押圧部S1aの三角形の1つの頂部Tが切れ込み部42の内側端部と重なる位置に設定されたが、これ以外に例えば、頂部Tが切れ込み部42の中間部と重なるように設定してもよく、また、頂部Tが切れ込み部42の径方向内側(反貫通孔側)の延長線Lと重なるように切れ込み部42の径方向内側に設定してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、ステーキング治具S1の押圧部S1aが軸方向視で三角形をなすが、これに特に限定されるものではなく、矩形や円形等の他の形状としてもよい。図5及び図6には、押圧部S2aが円形をなすステーキング治具S2でステーキングを行う一例を示す。図5に示すように、押圧部S2aにて押圧される被押圧部位は、押圧部S2aの円中心Cが切れ込み部42の径方向内側の延長線Lと重なる位置に設定されている。
【0054】
円形の押圧部S2aにてステーキングを行うと、そのステーキングにて生じる切れ込み先端部43(切れ込み部42によって分断された貫通孔36の内壁)の変形範囲が、上記実施形態(三角形)と比べて狭くなりやすく、それにより、ステーキングによるロータコア33の歪みが切れ込み部42付近に局所的に生じやすくなる(図6参照)。このため、ステーキングによる歪みがロータコア33の外形へ与える影響を少なく抑えることができる。
【0055】
・上記実施形態では、ステーキング治具S1にてロータコア33にステーキングを行うことで、切れ込み先端部43を磁石34に圧接させたが、これに特に限定されるものではない。例えば、図7図9に示すように、ロータコア33にパンチ圧入孔41を形成し、そのパンチ圧入孔41にパンチ50を圧入することで、切れ込み先端部43を磁石34に圧接させてもよい。
【0056】
図7に、パンチ圧入前のパンチ圧入孔41及び切れ込み部42を示している。同図に示すように、パンチ圧入孔41は、貫通孔36の周方向中央の内側位置でロータコア33を軸方向に貫通するように形成されている。パンチ圧入孔41は、軸方向視で三角形をなし、その頂点41aの1つが径方向外側(貫通孔36側)を向いて切れ込み部42の内側端部と繋がるように形成されている。切れ込み部42は、上記実施形態と同様に、圧入前の段階では略閉じた状態となっている。
【0057】
図8に示すように、ロータコア33の貫通孔36に軸方向から磁石34を挿入(遊嵌)し、その状態でパンチ圧入孔41に軸方向からパンチ50を圧入する。このとき、ロータコア33の外周面に図示しない押さえ部材を当接させた状態でパンチ50の圧入を行う。
【0058】
パンチ圧入孔41にパンチ50が圧入されると、図9に示すように、パンチ圧入孔41における切れ込み部42と繋がる2辺が両側に拡がる。それに伴い、切れ込み部42によって分断された貫通孔36の内壁が互いに離間するように若干拡がるとともに、その内壁が比較的広範囲に亘って磁石34側に突出し、切れ込み先端部43が磁石34の内側面34aに圧接される。これにより、磁石34が切れ込み先端部43と貫通孔36の径方向外側面36bとに挟持されて、貫通孔36内で保持される。
【0059】
このようなパンチ50の圧入による磁石固定方法によっても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、図7図9に示す例では、パンチ圧入孔41を軸方向視で三角形としたが、これ以外に例えば、矩形や円形等の他の形状としてもよい。なお、パンチ圧入孔41を円形とした場合には、図5及び図6に示したステーキングの例と略同様の作用効果を得ることができる。
【0060】
・上記実施形態では、切れ込み部42が貫通孔36の径方向内側面36aに形成されたが、これ以外に例えば、周方向内面や径方向外側面36bに形成してもよい。
・上記実施形態では、磁石34を収容する収容孔を、ロータコア33を軸方向に貫通する貫通孔36として構成したが、これ以外に例えば、ロータコア33の軸方向一端部で閉塞された貫通していない孔としてもよい。
【0061】
・上記実施形態の貫通孔36及び磁石34の個数や形状等の構成は、適宜変更してもよい。また、上記実施形態の磁石34の極性を反対としてもよい。
・上記実施形態では、ロータコア33は、複数のコアシート35が積層されて構成されたが、これに限定されるものではなく、例えば、鍛造加工により一体形成してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、所謂コンシクエントポール型としてロータ31を構成したが、これに限らず、極性の異なる磁石を周方向において交互に配置した構成を採用してもよい。要は、ロータコア33内に磁石を埋設する所謂IPM型のロータであればよい。
【0063】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ) 記ロータコアには、前記切れ込み部の反収容孔側の端部と繋がるパンチ圧入孔が形成されていることを特徴とする。
【0064】
この構成によれば、パンチ圧入孔へのパンチ圧入による塑性変形によって切れ込み部の端部を磁石に圧接させることが可能となる。
(ロ) 上記付記(イ)に記載のロータにおいて、
前記パンチ圧入孔は、1つの頂点が前記切れ込み部と繋がる三角形をなすことを特徴とするロータ。
【0065】
この構成によれば、三角形をなすパンチ圧入孔にパンチを圧入したとき、切れ込み部と繋がるパンチ圧入孔の2辺が両側に開いて、切れ込み部の端部(切れ込み部によって分断された収容孔の内壁)を広範囲に亘って磁石側に突出させることができる。これにより、切れ込み部の端部(収容孔の内壁)が磁石に圧接する面積を広くすることが可能となるため、磁石に加わる力を分散させて磁石の損傷をより抑えることが可能となる。
【0066】
(ハ) 上記付記(イ)に記載のロータにおいて、
前記パンチ圧入孔は、円形をなすことを特徴とするロータ。
この構成によれば、パンチ圧入孔へのパンチ圧入による切れ込み部の端部(切れ込み部によって分断された収容孔の内壁)の変形範囲を小さくすることが可能となるため、パンチ圧入による歪みがロータコアの外形へ与える影響を少なく抑えることができる。
【符号の説明】
【0067】
21…ステータ、31…ロータ、33…ロータコア、34…磁石、36…貫通孔(収容孔)、36a…径方向内側面(径方向内面)、42…切れ込み部、43…切れ込み先端部、S1,S2…ステーキング治具(押圧治具)、S1a,S2a…押圧部、T…頂部、L…延長線、C…円中心。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9