【文献】
門毅、神原満彦,無公害高効率半導体ナノ発光体の開発,11月度NBMFの概要,日本,NBCI イノベーションエンジン(株)、(株)シナジッ,2005年11月16日
【文献】
Journal of Physical Chemistry C,2009年,Vol.113(2009), pp.1293-1300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸素を含むガスを供給した後に、前記波長変換ナノ粒子が分散した溶液のpHを低下させるpH低下処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法。
前記波長変換ナノ粒子が分散した溶液に、希釈溶液を加えることによって前記溶液を希釈して、前記pHを低下させることを特徴とする請求項3又は4に記載の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法。
前記波長変換ナノ粒子が分散した溶液に、該溶液に溶解することによって該溶液のpHを低下させるガスを供給することにより、前記pHを低下させることを特徴とする請求項3に記載の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法。
前記波長変換ナノ粒子を製造した後に、前記溶液の周囲に不活性ガスを供給し、その後、前記酸素を含むガスを供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法と、この輝度調整方法によって発光輝度が調整された波長変換ナノ粒子の実施形態について説明する。
[実施形態]
・本発明では、波長変換ナノ粒子が分散した溶液に供給するガスの酸素濃度としては、大気中の酸素濃度を下回る濃度を採用できる。
【0015】
特に、後述する実験例に示す様に、酸素濃度が低いものほど、(時間がかかるものの)高い発光輝度を得ることができる。
・また、後述する実験例に示す様に、酸素を含むガスを供給した後に、波長変換ナノ粒子が分散した溶液のpHを低下させるpH低下処理を行うと、短時間で発光輝度を高めることができる。なお、pH低下処理としては、pHを6〜8の範囲に低下させると、急速に発光輝度を高めることができる。
【0016】
このpH低下処理としては、「波長変換ナノ粒子が分散した溶液に、酸性溶液を加えてpHを低下させる方法」、「波長変換ナノ粒子が分散した溶液に、希釈溶液を加えることによって溶液を希釈して、pHを低下させる方法」、「波長変換ナノ粒子が分散した溶液に、その溶液に溶解することによってpHを低下させるガスを供給する方法」を用いることができる。
【0017】
なお、pHを低下させるために用いる酸性溶液としては、塩酸が挙げられるが、それ以外にも、硫酸や硝酸などが考えられる。このうち、塩酸は、ドープされた金属(例えばMn)と沈殿物を生成する恐れがないので、好適である。
【0018】
一方、pHを低下させるために用いるガスとしては、炭酸ガス(二酸化炭素)が挙げられるが、それ以外にも、硫化水素や塩酸ガスなどが考えられる。このうち、炭酸ガスは、安全上扱い易いので、好適である。
【0019】
また、発光中心となる金属イオンとしては、Mnイオンを採用でき、無機ナノ粒子を構成する原子としては、Znを含むことができる。Znを含む無機ナノ粒子は、紫外領域の光を良好に吸収し、その無機ナノ粒子にMnイオンがドープされていると、紫外領域の光を可視領域の光に変換して発生することができる。従って、その場合、太陽電池の効率を向上させるなどの用途に良好に応用することができる。
【0020】
・更に、波長変換ナノ粒子を製造した後に、溶液の周囲に例えばアルゴン(Ar)ガス、窒素(N
2)ガス等の不活性ガスを供給し、その後、pH低下処理を行ってもよい。この不活性ガスの供給により輝度変動を抑制することができるので、pH低下処理を行うまでは、その輝度を保持することができる。
【0021】
・また、上述した波長変換ナノ粒子の輝度変動を完全に停止させて、その輝度を保持する場合には、波長変換ナノ粒子が分散した溶液を固化させればよい。この固化させる方法としては、ガラスをバインダとするゾルゲル法や、ポリ水酸化ビニルに混入し固化させる方法などが挙げられる。
【0022】
・更に、波長変換ナノ粒子を製造する製造工程としては、発光中心となる金属イオンを提供するイオン源と、無機ナノ粒子を構成する原子を提供するイオン源と、無機ナノ粒子に配位する親水性の配位子と、を水系溶媒中で混合し、得られた溶液のpH調整を行う混合工程と、pH調整後の溶液を高圧下で150℃〜250℃に加熱して、溶液中にて波長変換ナノ粒子を生成する加熱工程とを採用できる。
【0023】
つまり、水系溶媒中で波長変換ナノ粒子を製造する場合に、150℃〜250℃に加熱して製造すると、良好な発光輝度を有する波長変換ナノ粒子が得られる。
なお、配位子としては、N−アセチル−L−システインを採用できるが、N−アセチル−L−システインの他、メルカプト酢酸,メルカプトプロピオン酸,メルカプトこはく酸等が使用可能である。
【0024】
・ここで、無機ナノ粒子にMnイオンがドープされている場合は、混合工程では、N−アセチル−L−システインとイオン源中のMnイオンとを1:1のモル比で含む溶液と、N−アセチル−L−システインとイオン源中のZn原子とを1:4.8のモル比で含む溶液とを混合してもよい。
【0025】
・また、無機ナノ粒子を構成する原子として、SとSeとを含む場合は、混合工程は、無機ナノ粒子を構成するSe以外の各原子を各々提供する各イオン源と、配位子と、を水系溶媒中で混合し、得られた溶液のpH調整を行う第1混合工程と、無機ナノ粒子を構成するS以外の各原子を各々提供する各イオン源と、配位子と、を水系溶媒中で混合し、得られた溶液のpH調整を行う第2混合工程と、第1混合工程で得られたpH調整後の溶液と、第2混合工程で得られたpH調整後の溶液とを混合する第3混合工程と、からなり、発光中心となる金属イオンを提供するイオン源は、第1混合工程または第2混合工程で溶液に混合してもよい。
【0026】
こうすることによって、前述のような混晶からなる波長変換ナノ粒子を良好に製造することができる。
【実施例1】
【0027】
以下に、本発明の波長変換ナノ粒子の輝度調整方法と、この輝度調整方法によって発光輝度が調整された波長変換ナノ粒子の具体的な実施例について説明する。
a)まず、実施例1の波長変換ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0028】
図1(A)に示すように、本実施例では、先ず、Znイオン源(例えば、過塩素酸亜鉛)とN−アセチル−L−システイン(以下、NACという)とを1:4.8のモル比で含む水溶液と、Mnイオン源(例えば、過塩素酸マンガン)とNACとを1:1のモル比で含む水溶液とを混合した。なお、前者の水溶液と後者の水溶液とは10:1の割合で混合し、混合後の水溶液全体に対するMnの濃度が2mol%となるようにした。
【0029】
次に、
図1(B)に示すように、その水溶液にNaOHを添加することによってpH8.5に調整した。
次に、
図1(C)に示すように、Seイオン源(例えばNaHSe)を1.2mmol添加した。なお、このときのZn:Seのモル比は(1:0.6)である。また、この水溶液、即ち、ZnMnSeの前駆体(Precursor)では、金属原子にNACのSH基が配位し、NACのカルボキシル基が水系溶媒への溶解を促進しているものと推定される。
【0030】
次に、前記水溶液に、更にNaOHを添加することによって、
図1(D)に示すように、pH10.5に調整した後、高圧下(例えば6気圧)で200℃に加熱することによって、波長変換ナノ粒子(ZnSe:Mn)を製造した。なお、加熱時間は10分とした。
【0031】
そして、この様にして製造した波長変換ナノ粒子に対して、蛍光分光測定器(日立ハイテクノロジー社製のF2500)を用いて、波長325nmの紫外線を当て、波長変換ナノ粒子の発光スペクトルを調べた。
【0032】
その結果を、
図2に示すが、ZnSe系の無機ナノ粒子にMnイオンがドープされた実施例1の波長変換ナノ粒子(ZnSe:Mn)では、540nm〜640nmの可視領域(特に582nm)に、発光輝度(以下、発光スペクトルの大きさを示す場合は、発光強度と記すこともある)のピークが現れた。なお、同図ではピークの強度は16000である。
【0033】
この様に、本実施例の波長変換ナノ粒子では、従来の水系溶媒中で製造された波長変換ナノ粒子よりも極めて強い発光輝度(発光強度)が得られた。これは、高温でナノ粒子を生成することにより、きれいな結晶ができるためと考えられる。
【0034】
なお、以下に述べる発光スペクトル及び(ピークの)発光強度の測定方法は、特に記載しない限りは、前記と同様である。
また、グラフ縦軸の発光強度は、必ずしもカンデラ等の単位と1対1に対応するものではなく、当該グラフ中で対比された強度同士を相対的に比較した値である(以下同様)。従って、同じ試料であっても、強度等の値は後述のグラフ等における値と必ずしも一致しない。
【0035】
b)次に、上述の様にして製造された波長変換ナノ粒子の輝度調整方法について説明する。
この輝度調整方法とは、製造時の発光輝度を更に向上させるための処理方法であり、本実施例では、酸素(O
2)を用いて発光輝度を向上させる。
【0036】
まず、
図3(A)に示すように、上述した製造方法によって製造された波長変換ナノ粒子を含む水溶液、即ち、波長変換ナノ粒子が分散したpH10.5の水溶液を5mlとり、容積10mlのガラス容器1に入れた。
【0037】
なお、ガラス容器1の容積は、投入する水溶液の量より多いので、ガラス容器1内の水溶液の上方には、ガス(ここでは空気)が存在する空間3がある。
次に、ガラス容器1の開口5をゴム栓7で封をするとともに、ゴム栓7が外れないように、ゴム栓7の周囲にパラフィルム(図示せず)を巻き、ゴム栓7をガラス容器3に固定した。
【0038】
また、このゴム栓7には、ガラス容器1中の水溶液のpHを測定できるように、pH測定器(pHメータ)9が挿入されている。
なお、この時点で、ガラス容器1内に、例えばアルゴン(Ar)ガス、窒素(N
2)ガス等の不活性ガスを充填して密閉することにより、波長変換ナノ粒子の輝度の劣化(低下)を防止することができる。即ち、その時点の輝度を保持することができる。
【0039】
これとは別に、
図3(B)に示すように、窒素ガスボンベ11に配管13を接続し、配管13の先端に第1注射針15を取り付けた。
そして、
図3(C)に示すように、ガラス容器1のゴム栓7に第2注射針17を刺し、ガラス容器3内のガスがガラス容器1外に排出されるようにした。
【0040】
次に、
図3(D)に示すように、ガラス容器1のゴム栓7に第1注射針15を刺し、窒素ガスボンベ13から第1注射針15を介してガラス容器1内に窒素ガスを供給した。詳しくは、窒素ガスを毎分1000ccで5分間供給した。これにより、ガラス容器1中のガス(ここでは水溶液上方の空間3の空気)を窒素ガスに入れ替えた。
【0041】
次に、ガラス容器1のゴム栓7にマイクロシリング(図示せず)を差し込み、空間3内に純酸素100μl供給した。これにより、空間3内の酸素濃度を2%(空間3の容積の5mlに対して100μl)とした。
【0042】
そして、酸素供給後の水溶液に対して、21日後に、波長変換ナノ粒子の発光スペクトルを調べた。
その結果、酸素を供給した溶液中の波長変換ナノ粒子の発光強度(具体的には582nmにおける発光ピーク強度)は、pH10.5の水溶液中の製造直後の波長変換ナノ粒子に比べて大きく(10倍以上)向上していた。
【0043】
c)次に、本実施例の作用効果について説明する。
本実施例では、上述したように、波長変換ナノ粒子の製造工程において、pHを従来より高いpH10.5に調整した後、高圧(例えば6気圧)及び高温(例えば200℃)にて処理することにより、従来より発光輝度を高めることができる。
【0044】
しかも、本実施例では、波長変換ナノ粒子を製造した後に、この波長変換ナノ粒子が分散した水溶液に酸素を供給することにより、後述する実験例からも明らかな様に、製造直後の波長変換ナノ粒子の発光輝度を更に高めることができる。
【0045】
従って、このように輝度調整されて発光輝度が高くなった波長変換ナノ粒子を、太陽電池等に応用すれば、紫外線を可視光線に変換して太陽電池の効率を向上させることができるという顕著な効果を奏する。
【0046】
d)次に、本実施例の変形例について説明する。
例えば、Znイオン源としては、前述の過塩素酸亜鉛の他、塩化亜鉛,酢酸亜鉛,硝酸亜鉛等が使用できる。また、Mnイオン源としては、前述の過塩素酸マンガンの他、塩化マンガン,酢酸マンガン,臭化マンガン等が使用できる。
【0047】
また、Seイオン源としては、前述のNaHSeの他、セレノウレア,セレン化水素ガス等が使用できる。更に、配位子としては、前述のNACの他、メルカプト酢酸,メルカプトプロピオン酸,メルカプトこはく酸等が使用できる。
【0048】
更に、Seの代わりにSを使用してもよい。その場合も、
図1(A)の工程の後にはpHを10.5に調整するのが望ましい。また、その場合、
図1(B)の工程で用いるSイオン源としては、硫化ナトリウム,チオ尿素,硫化水素ガス等が使用でき、Zn:Sのモル比が1:0.6となるようにするのが望ましい。
【実施例2】
【0049】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略又は簡易化する。
前述のように、無機ナノ粒子を構成するアニオンとして、Seを用いる場合とSを用いる場合とでは、
図1(A)の工程の後において調整すべきpHの値が異なる。
【0050】
そこで、実施例2では、次のような方法により、アニオンとしてSeとSとの両方を用いていわゆる混晶半導体としての無機ナノ粒子をMnイオンでドープした波長変換ナノ粒子を製造した。
【0051】
a)まず、実施例2の波長変換ナノ粒子の製造方法について説明する。
本実施例では、前述の
図1(A),(B)の工程によって製造されたZnMnSeの前駆体水溶液と、その
図1(A),(B)の工程において前述のようにSeの代わりにSを使用して製造されたZnS:Mnの前駆体水溶液とを、別々に製造した。
【0052】
そして、pH10.5に調整の後、両者を混合して200℃で10分加熱することによって波長変換ナノ粒子を得た。この波長変換ナノ粒子では、SeとSとの比は自由に調整でき、ZnSe
xS
1-x:Mn(0<X<1)なる一般式で表すことができる。なお、以下では、ZnSe
xS
1-xをZnSeSと記す。
【0053】
この製造直後の波長変換ナノ粒子の製造直後の発光スペクトルを測定した。その結果を、
図4に示すが(この
図4では混合比(X)が異なる例を示している)、波長変換ナノ粒子(ZnSe:Mn)にSを加えることで、400nm近傍の発光強度のピークが減少し、600nm近傍の発光強度のピークが強くなることが分かった。
【0054】
つまり、例えばX=0.6の場合、波長変換ナノ粒子の発光強度(具体的には582nmにおける発光ピーク強度)は、52000であった。
b)次に、上述の様にして製造された波長変換ナノ粒子の輝度調整方法について説明する。
【0055】
本実施例における輝度調整方法は、前記実施例1と同様である。
具体的には、前記
図3に示す様に、波長変換ナノ粒子が分散したpH10.5の水溶液を5mlとり、容積10mlのガラス容器1に入れた後に、ガラス容器1をゴム栓7で封止する。
【0056】
その後、ゴム栓7に第2注射針17を刺した後に、第1注射針15を刺し、窒素ガスボンベ13から第1注射針15を介してガラス容器1内に窒素ガスを供給した。
次に、ガラス容器1のゴム栓7にマイクロシリングを差し込み、純酸素100μl供給した。これにより、空間3内の酸素濃度を2%とした。
【0057】
その結果、酸素を供給してから21日後の溶液中の波長変換ナノ粒子の発光強度(具体的には587nmにおける発光ピーク強度)は、pH10.5の水溶液中の製造直後の波長変換ナノ粒子に比べて大きく(10倍以上)向上していた。
【0058】
この様に、SeとSとの両者を用いた波長変換ナノ粒子(ZnSeS:Mn)では、実施例1より一層良好な発光強度が得られ、太陽電池等に応用すればその効率を一層向上させられることが分かった。
【0059】
c)次に、上述した酸素を供給する処理によって発光輝度を高めることができる原理について説明する。
図5(A)に示す様に、本実施例の製造方法の場合は、Zn、Se、S、Mnを含む前駆体の水溶液を、pH10.5に調整して、6気圧にて、200℃で加熱すると、波長変換ナノ粒子(ZnSeS:Mn)が生成される。
【0060】
この状態では、
図5(B)に示すように、ZnSeS中に多くのMnが含まれるので、多数のMnが影響し合って発光が低減するいわゆる濃度消光によって、発光輝度が低下する。なお、濃度消光については、例えば”N.Pradhan,J.A.M.CHEM.SOC.129,11,2007,3339”に開示されている。
【0061】
その後、
図5(C)に示すように、水溶液を酸素に晒すことにより、波長変換ナノ粒子(ZnSeS:Mn)中の過剰のMnが酸化して水溶液中に析出する。これによって、ZnSeS中のMnが少なくなるので、濃度消光の影響が低下し、よって、発光輝度が向上すると推定される。
【実施例3】
【0062】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例2と同様な内容の説明は省略又は簡易化する。
本実施例では、波長変換ナノ粒子の製造方法は、前記実施例2と同様であるが、その後の輝度調整方法において、酸素を供給した後に炭酸ガスを供給した点が異なるので、異なる輝度調整方法について説明する。
【0063】
具体的には、前記
図3に示す様に、波長変換ナノ粒子が分散したpH10.5の水溶液を5mlとり、容積10mlのガラス容器1に入れた後に、ガラス容器1をゴム栓7で封止する。
【0064】
その後、ゴム栓7に第2注射針17を刺した後に、第1注射針15を刺し、窒素ガスボンベ13から第1注射針15を介してガラス容器1内に窒素ガスを供給した。
次に、ガラス容器1のゴム栓7にマイクロシリングを差し込み、純酸素100μl供給した。これにより、空間3内の酸素濃度を2%とした。
【0065】
そして、酸素を供給した後に、例えば16日後に、空間3内に炭酸ガスを5分間供給した。これによって、水溶液のpHが(例えば7.0に)低下する。
このpHが低下すると、波長変換ナノ粒子中のMnが水溶液中に溶出するので、上述した濃度消光の影響が一層低減する。その結果、波長変換ナノ粒子の発光強度が向上する。
[実験例1]
次に、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0066】
本実験例1は、前記実施例2の輝度調整方法を用いて、酸素濃度と発光輝度(発光強度)の径時変化との関係を調べたものである。
具体的には、実施例2の方法で製造された波長変換ナノ粒子が分散した水溶液に対して、濃度が異なる酸素を加えた試料を作製した。
【0067】
そして、各試料における発光強度(Mn発光ピーク強度:582nm)の径時変化を調べた。その結果を、
図6に示す。
図6に示すように、酸素濃度20%の試料は、酸素を供給してから4日後に発光強度のピークに達し、その後白濁した。
【0068】
また、酸素濃度10%の試料は、酸素を供給してから8日後に発光強度のピークに達し、その後白濁した。なお、この試料の強度ピークは、酸素濃度20%の試料の強度ピークよりも大きかった。
【0069】
更に、酸素濃度2%の試料は、酸素を供給してから20日後に発光強度のピークに達し、その後白濁した。なお、この試料の強度ピークは、酸素濃度20%、10%の試料の強度ピークよりも大きかった。
【0070】
この実験例から、酸素濃度の低いものは、発光強度の上昇率は小さいものの、最も大きな発光強度が得られることが分かる。
従って、最も高い発光強度の状態で、水溶液にプルランやポリ水酸化ビニル系等のバインダを加えて固化させることにより、その発光強度を維持することができる。
【0071】
なお、各試料を入れた容器の底部に僅かに茶色の沈殿が見えられた。この沈殿を分析したところMnの酸化物であった。
[実験例2]
次に、他の実験例2について説明する。
【0072】
本実験例は、水溶液に酸素を供給するだけでなく、酸素供給後に水溶液のpHを低下させ、その場合の発光強度の変化を調べたものである。
具体的には、実施例2の方法で製造された波長変換ナノ粒子が分散した水溶液に対して、酸素濃度2%となる試料を作製し、酸素の供給後16日目に、水溶液に炭酸ガス(CO2)を5分間供給して封入した。これによって、水溶液のpHを低下させた。その結果を、
図7に示すが、炭酸ガスの供給直後に発光強度が急上昇した。
【0073】
これにより、酸素の供給に加えて、炭酸ガスを供給してpHを低下させることによって、発光強度を大きく向上できることが分かった。
なお、本実験例では、炭酸ガスを供給して水溶液のpHを低回させたが、これとは別に、水溶液に、例えばHCl等の酸性溶液を加えたり、純水を加えて希釈することにより、pHを低下させてもよい。
【0074】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、上記各実施例では、カチオンとしてZn,Mnを使用しているが、Mnの代わりにCdを用いるなど、カチオンの種類も種々に変更することができる。また、SまたはSeと、Mnと、Znとは、どういう順番で混ぜてもよい。
【0075】
(2)また、本発明の輝度調整方法は、例えば上述した非特許文献1に記載の製造方法で製造された波長変換ナノ粒子の輝度調整にも利用することができる。