特許第5977198号(P5977198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977198
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】堤体
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   E02B3/06 301
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-110195(P2013-110195)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-227775(P2014-227775A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162216
【氏名又は名称】共和コンクリート工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513131589
【氏名又は名称】池田東北株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】北村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 春幸
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 栄二
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−311169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04−3/14
E02D 29/02
E02D 17/00−17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管と、
この鋼管にその一端から突出した状態で挿入され、かつ前記鋼管の軸方向に長尺な構造部材と、
前記鋼管とこの鋼管に挿入された前記構造部材の挿入部との間に充填されたコンクリートとを有する一体化された構造体を備え、
前記鋼管または前記構造部材のいずれか一方が杭、他方が柱となっており、
前記構造体の上部に、壁体を構成するプレキャスト部材が前記柱の上方から外挿された状態で固定され、
前記鋼管に挿入されている前記構造部材の挿入部と前記鋼管とが重なっているラップが、前記構造体に発生すると想定される断面力が大きい部分を含む位置に設けられていることを特徴とする堤体。
【請求項2】
前記構造部材は、鋼材またはプレキャストコンクリート部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の堤体。
【請求項3】
鋼管と、
この鋼管にその一端から突出した状態で挿入され、かつ前記鋼管の軸方向に長尺な構造部材と、
前記鋼管とこの鋼管に挿入された前記構造部材の挿入部との間に充填されたコンクリートとを有する一体化された構造体を備え、
前記鋼管または前記構造部材のいずれか一方が杭、他方が柱となっており、
前記構造体の上部に、壁体を構成するプレキャスト部材が前記柱の上方から外挿された状態で固定され、
前記プレキャスト部材に挿入孔が形成されており、
前記構造体に、前記挿入孔の内壁が固定金具によって固定されていることを特徴とする堤体。
【請求項4】
前記プレキャスト部材に挿入孔が形成されており、
この挿入孔と、当該挿入孔に挿入される前記構造体との間に充填材が充填されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の堤体。
【請求項5】
鋼管と、
この鋼管にその一端から突出した状態で挿入され、かつ前記鋼管の軸方向に長尺な構造部材と、
前記鋼管とこの鋼管に挿入された前記構造部材の挿入部との間に充填されたコンクリートとを有する一体化された構造体を備え、
前記鋼管または前記構造部材のいずれか一方が杭、他方が柱となっており、
前記構造体の上部に、壁体を構成するプレキャスト部材が前記柱の上方から外挿された状態で固定され、
前記構造体が横方向に所定間隔で複数設けられており、
前記プレキャスト部材に、複数の前記構造体をまとめて挿入する1つの前記挿入孔または複数の前記構造体をそれぞれ挿入する複数の前記挿入孔が形成されていることを特徴とする堤体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸部等に設けられる堤体に関する。
【背景技術】
【0002】
東北地方太平洋沖地震による大津波に鑑み、将来的に津波が押し寄せると考えられる沿岸部において、防潮堤等の堤体を短期間で施工することが望まれている。
現地での施工期間短縮のために堤体をプレキャスト化することが考えられるが、具体的に堤体をどのような構造とするかについては現在検討されているところである。
【0003】
防波堤においては、特許文献1に記載のものが知られている。この防波堤は、杭頭が水底面から突出した状態となるように打設された杭と、該杭によって支持されるとともに、波浪の進行方向に対して直交状態に延在する防波板部とを備えた防波堤であって、前記防波板部は、複数の防波ブロックを一体化することにより形成され、該防波ブロックは、該上下に貫通する貫通孔を備えた構成とされ、該貫通孔に前記杭が挿通されることにより、前記防波ブロックと前記杭とが一体化されてなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−3331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、海底地震が起きた場所や当該地震の規模によって、それぞれの沿岸部に押し寄せる津波の高さや強さが異なるため、これに対応して防潮堤等の堤体を短期間で施工する必要がある。
しかし、前記従来の防波堤は、防波板部が杭によって支持されている構造であるため、これを防潮堤等の堤体に転用した場合、防潮堤の高さや強度を調整することは困難である。つまり、防潮堤の高さや強度を調整するには、杭の長さや、杭の太さ等を変更しなればならず、施工現場でこれに対応することは困難である。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、堤体の高さや強度を容易に調整できるとともに、施工期間の短縮化を図ることができる堤体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の堤体は、鋼管と、
この鋼管にその一端から突出した状態で挿入され、かつ前記鋼管の軸方向に長尺な構造部材と、
前記鋼管とこの鋼管に挿入された前記構造部材の挿入部との間に充填されたコンクリートとを有する一体化された構造体を備え、
前記鋼管または前記構造部材のいずれか一方が杭、他方が柱となっており、
前記構造体の上部に、壁体を構成するプレキャスト部材が前記柱の上方から外挿された状態で固定され、
前記鋼管に挿入されている前記構造部材の挿入部と前記鋼管とが重なっているラップが、前記構造体に発生すると想定される断面力が大きい部分を含む位置に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、鋼管に構造部材が鋼管の一端から突出するように挿入されているので、当該構造部材の突出長さを調整することによって、構造体の高さを調整することができる。そして、この高さ調整された構造体の上部に壁体を構成するプレキャスト部材が柱の上方から外挿されて固定されているので、堤体の高さを容易に調整できる。
また、前記鋼管に挿入されている構造部材の挿入部と前記鋼管とが重なっているラップ部は、合成構造として鋼管と構造部材の累加強度(単純累加強度または一般化累加強度)を耐力として評価できる。したがって、鋼管や構造部材の長さや太さ(直径)、さらに、ラップ部の位置や長さを調整することによって、津波等の外力に応じた経済的な設計が可能であり、堤体の強度(耐力)を容易に調整できる。
【0009】
また、構造体は、鋼管とこの鋼管に挿入された構造部材の挿入部との間に、コンクリートが充填されることによって、鋼管と構造部材とが一体化してなるものであるので、鋼管と構造部材との溶接が不要となり、その結果、工期を短縮できるとともに品質管理も容易であり、さらに、現場での鋼管や構造部材の寸法合わせも容易となる。
さらに、鋼管と構造部材とが一体化してなる構造体に、壁体を構成するプレキャスト部材が外挿されて固定されているので、現場での鉄筋組立てや型枠組立の作業が不要となり、この点においても施工期間の短縮化を図ることができる。
また、構造体にプレキャスト部材を固定した壁体構造となっているので、壁体の品質管理が容易であり、壁体の一部が損傷、劣化した場合、その部分のプレキャスト部材を取り換えることによって、部分的な補修も容易となる。
加えて、堤体の主要構造が鋼管と構造部材との一体構造であるため、構造的な弱点が無く粘り強いものとなるとともに、プレキャスト部材の厚さを薄くすることがきるので、堤体として全体的にスリムになり、狭隘地にも容易に施工できる。
【0011】
また、津波等の外力を受けることによって、構造体に発生すると想定される断面力が大きい部分を含む位置に、ラップ部が設けられているので、津波等の外力に対して効果的かつ十分に耐え得るものとなる。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記構造部材は、鋼材またはプレキャストコンクリート部材によって構成されていてもよい。
この場合、構造部材は杭として使用してもよいし、柱として使用してもよい。
【0013】
このような構成によれば、構造部材が鋼材によって構成されている場合、当該構造部材と鋼管との双方が鋼材で構成されているので、鋼管と構造部材とが一体化してなる構造体としてさらに粘り強いものとなる。
また、構造部材がプレキャストコンクリート部材によって構成されるとともに柱である場合、当該柱が潮風に含まれている塩分等によって腐食され難いという利点があり、構造部材がプレキャストコンクリート部材によって構成されるとともに杭である場合、当該杭が沿岸部の地盤に含まれている塩分等によって腐食され難いという利点がある。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記プレキャスト部材に挿入孔が形成されており、
前記構造体に、前記挿入孔の内壁が固定金具によって固定されていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、構造体に、固定金具によってプレキャスト部材を確実に固定できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記プレキャスト部材に挿入孔が形成されており、
この挿入孔と、当該挿入孔に挿入される前記構造体との間に充填材が充填されているのが好ましい。
【0017】
ここで、前記充填材としては、場所打ちコンクリート、瓦礫、土石が好適に使用されるが、これらを混合したものであってもよい。
【0018】
このような構成によれば、プレキャスト部材に形成された挿入孔と、前記構造体との間が充填材によって満たされるので、堤体としての強度が高まるともに、充填材が場所打ちコンクリートの場合、構造体にプレキャスト部材を強固に固定でき、また、充填材が瓦礫や土石の場合、これらの処理にも役立つ。
【0019】
また、本発明の前記構成において、前記構造体が横方向に所定間隔で複数設けられており、
前記プレキャスト部材に、複数の前記構造体をまとめて挿入する挿入孔または複数の前記構造体をそれぞれ挿入する複数の挿入孔が形成されていてもよい。
【0020】
このような構成によれば、プレキャスト部材に、複数の構造体をまとめて挿入する挿入孔が形成されている場合、複数の構造体を容易に挿入孔に挿入できるとともに、挿入孔が比較的大きなものとなるで、プレキャスト部材に、複数の構造体をそれぞれ挿入する複数の挿入孔が形成されている場合に比して、プレキャスト部材の製造が容易となるとともに、当該プレキャスト部材の製造に使用されるコンクリートの量を抑えることができる。
また、プレキャスト部材に、複数の構造体をそれぞれ挿入する複数の挿入孔が形成されている場合、構造体に対するプレキャスト部材の固定精度が高まるともに、構造体とプレキャスト部材の挿入孔との間にコンクリートを充填する場合の、当該コンクリートの充填量を少なくできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、堤体の高さや強度を容易に調整できるとともに、施工期間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る堤体の第1の実施の形態を示すもので、堤体の正面図である。
図2】同、(a)は堤体の側面図、(b)は構造体の断面図である。
図3】同、図1におけるB−B線断面図である。
図4】同、図1におけるA−A線断面図である。
図5】同、(a)プレキャスト部材の平面図、(b)はプレキャスト部材の断面図である。
図6】同、堤体の変形例を示す側面図である。
図7】同、(a)は鋼管杭の固定金具を取り付けた状態を示す断面図、(b)は固定金具の正面図である。
図8】同、(a)は柱に固定金具を取り付けた状態を示す断面図、(b)は固定金具の正面図である。
図9】本発明に係る堤体の第2の実施の形態を示すもので、堤体の背面図である。
図10】同、堤体の側面図である。
図11】同、図9におけるB−B線断面図である。
図12】同、図9におけるA−A線断面図である。
図13】同、(a)プレキャスト部材の平面図、(b)はプレキャスト部材の正面図である。
図14】同、堤体の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の係る堤体の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1図4は第1の形態の堤体を示すもので、図1は正面図、図2(a)は側面図、図2(b)は後述するラップ部の断面図、図3図1におけるB−B線断面図、図4図1におけるA−A線断面図である。
【0024】
これらの図に示す堤体は防潮堤として構築されたものであり、複数の構造体1と、当該構造体1に外挿されて固定されて、壁体を構成する複数のプレキャスト部材2とを有している。
構造体1は、鋼管5と、この鋼管5に当該鋼管5の上端から突出するようにして挿入された構造部材6との間にコンクリートC(図2(b)参照)が充填されることによって、鋼管5と構造部材6とが一体化してなるものである。
そして、本実施の形態では、鋼管5が杭、構造部材6が柱となっている。以下では、鋼管5を鋼管杭5、構造部材6を柱6として説明する。したがって、本実施の形態における構造体1は、鋼管杭5と柱6とがコンクリートCによって一体化してなるものである。
【0025】
なお、図1および図2(a)、図6においては、鋼管杭5および柱6や、後述する固定金具11,12は、内部構造であるので本来は隠れ線として破線で記載すべきものであるが、図示を分かりやすくするために実線で記載している。
【0026】
鋼管杭5は円筒状のものであり、海岸線の地盤に当該海岸線に沿って所定間隔で複数本打設されている。なお、鋼管杭5は周知の中堀工法等によって打設すればよい。打設された鋼管杭5の上端部は地盤Gの地盤面から所定長さだけ突出している。鋼管杭5が打設された地盤中には基礎砕石による砕石層7が施工され、この砕石層7上に基礎コンクリート8が施工されている。
前記柱6は、円筒状のプレキャストコンクリート部材によって構成されている。このプレキャストコンクリート部材としては、例えば、PHC杭(高強度プレストレストコンクリート杭)を柱として転用したものを使用できる。
この柱6は、鋼管杭5に当該鋼管杭5の上端から突出するようにして、鋼管杭5の上端開口から挿入されたものであり、鋼管杭5の上端からの突出長さは、適宜設定される。また、柱6の下端は、本実施の形態では地盤Gの地盤面より上方に位置しているが、これに限ることはなく、柱6の下端位置は適宜設定される。また、柱6は鋼管杭5に同軸になるようにして挿入されている。
【0027】
前記鋼管杭5に挿入されている柱6の挿入部6aと鋼管杭5の上端部とが重なっているラップ部10において、柱6と鋼管杭5との間にコンクリートCが充填されており(図2(b)参照)、これによって、鋼管杭5と柱6とがコンクリートCによって一体化されて前記構造体1が構成されている。
柱6と鋼管杭5との間にコンクリートCを充填する場合、例えば、鋼管杭5の内周面に、底板を前記ラップ部10より下方の位置で固定したうえで、鋼管5の上端開口からコンクリートCを充填すればよい。このコンクリートCは底板より上方に充填され、ラップ部10において、柱6と鋼管杭5との間に充填される。
なお、前記ラップ部10において、鋼管杭5の内周面と、柱6の外周面とのうち、少なくともいずれか一方に突起を設けることによって、ラップ部10における鋼管杭5と柱6との一体化強度を高めることができる。
【0028】
このようなラップ部10は、津波を受けることによって、構造体1に発生すると想定される断面力が大きい部分を含む位置に設けられている。つまり、津波等の外力を受けた際に生じる曲げモーメントが大きくなる部分を含む位置に設けられている。例えば、本実施の形態では、後述する中段のプレキャスト部材22,2(22)が設けられる部位に対応して設けられている。
なお、鋼管杭5は海岸線に沿って所定間隔で複数本打設されているので、構造体1も海岸線に沿って所定間隔で複数構築されている。
【0029】
前記のようにして構築された構造体1に、前記プレキャスト部材2が外挿されて固定されることによって本実施の形態の堤体が構築されている。
すなわち、まず本実施の形態では、図3図5に示すように、プレキャスト部材2は鉄筋コンクリート製の矩形筒状のもので、3種類用意されている。プレキャスト部材2は、図5(a)に示すように、2つの門形のカルバート部材2a,2aを対向させて連結金物2cで連結することによって矩形筒状に形成されている。
このようなプレキャスト部材2のうち、図1および図2に示すように、下段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材21、中段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材22、上段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材23とする。
【0030】
3種類のプレキャスト部材21,22,23は高さと左右方向の幅は等しくなっているが、奥行き方向(図2(a)において左右方向)の厚さが異なっている。この厚さは、図2(a)に示すように、プレキャスト部材21が最も厚く、プレキャスト部材22,23の順で薄くなっている。
また、プレキャスト部材21,22,23の内側には、複数(本実施の形態では、3個)の構造体1をまとめて挿入する挿入孔21a,22a,23aが形成されている。これら挿入孔21a,22a,23aは平面視において矩形状に形成されている。
【0031】
そして、3個の構造体1に、プレキャスト部材21,22,23を外挿する場合、下段から順にプレキャスト部材21,22,23をそれぞれ2個ずつ、基礎コンクリート8上に積み上げていくとともに、これらプレキャスト部材21,22,23の挿入孔21a,22a,23aに構造体1を3個まとめて相対的に挿入することにより行う。
なお、プレキャスト部材21,22,23を上下に積み上げていく場合、上下に隣り合うプレキャスト部材21,22(22,23)を左右にずらして、いわゆる千鳥状に積み上げていってもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、構造体1を構成する鋼管杭5の上端と中段の上側のプレキャスト部材22の上端とが同じ高さに位置している。したがって、鋼管杭5には、下段の2個のプレキャスト部材21と中段の2個のプレキャスト部材22とが外挿されている。
また、プレキャスト部材21,22,23の挿入孔21a,22a,23aに構造体1を挿入する場合、これらプレキャスト部材21,22,23の海側を向く面(図2において左側面)が鉛直かつ面一になるようにして挿入して、プレキャスト部材21の上に順次、プレキャスト部材22,23を積み重ねる。
このようにして、上下に合計6個のプレキャスト部材21,22,23が積み重ねられて堤体が構成される。このような堤体では、図2に示すように、海側を向く面は鉛直な平面となっているが、それと反対側の陸側を向く面は階段状になっている。
【0033】
なお、図6に示すように、プレキャスト部材2が積み重ねられてなる堤体の陸側を向く面を、下方の方が前後方向の厚さが厚くなるような傾斜面に形成してもよい。この場合、上下に6段積み重ねるプレキャスト部材2は、側面視において台形状に形成されたものとなる。
【0034】
また、前記プレキャスト部材21,22,23は以下のようにして、構造体1に固定されている。
すなわち、まずプレキャスト部材21の挿入孔21aに構造体1を相対的に挿入した後、この構造体1に挿入孔21aの内壁が固定金具11によって固定されている。
構造体1の鋼管杭5の外周部には前記ラップ部10の下方において、固定金具11が溶接等によって取り付けられている。この固定金具11は予め工場で鋼管杭5に取り付けておくのが好ましいが、現場で取り付けてもよい。
固定金具11は、図3および図7に示すように、鋼管杭5の外周部に直径方向に延出するようにして取付られた一対のプレート11aと、このプレート11aに挿通されるインサートアンカー11bとを有している。
【0035】
そして、図3に示すように、インサートアンカー11bを挿入孔21aの内壁に設けられた図示しないインサートにねじ込むことによって、構造体1の鋼管杭5に挿入孔21aの内壁が固定されている。つまり、構造体1の鋼管杭5に挿入孔21aの内壁が固定金具11を介して固定されている。
なお、プレキャスト部材21の内壁には対向する壁面のうち一方の壁面に凸部21bが形成され、固定金具11の他方のプレート11aに挿通されたインサートアンカー11bが凸部21bに設けられた図示しないインサートにねじ込まれている。
また、中段のプレキャスト部材22の挿入孔22aに構造体1を相対的に挿入した後、構造体1の鋼管杭5に挿入孔22aの内壁が同様の固定金具11によって、同様にして固定されている。
【0036】
さらに、上段のプレキャスト部材23の挿入孔23aに構造体1を挿入した後、構造体1の柱6に挿入孔23aの内壁が固定金具12によって固定されている。
すなわちまず、構造体1の柱6の外周部には固定金具12が取り付けられている。この固定金具12は予め工場で柱6に取り付けておくのが好ましいが、現場で取り付けてもよい。
固定金具12は、図8に示すように、柱6の外周部に直径方向に延出するようにして取付られた一対のプレート12aと、このプレート12aに挿通されるインサートアンカー12bとを有している。プレート12aは柱6の半外周面に装着される円弧状プレート12cに取り付けられており、この円弧状プレート12cの両端部にそれぞれ接合プレート12dが形成されている。
そして、一対の円弧状プレート12c,12cが柱6の外周面に装着されたうえで、接合プレート12d,12dがボルトとナットによって接合されることによって、固定金具12が柱6の外周面に取り付けられている。
【0037】
そして、図4に示すように、インサートアンカー12bを挿入孔23aの内壁に設けられた図示しないインサートにねじ込むことによって、構造体1の柱6に、挿入孔23aの内壁が固定されている。つまり、構造体1の柱6に、挿入孔23aの内壁が固定金具12を介して固定されている。
このようにして、構造体1にプレキャスト部材21,22,23が固定金具11,12を介して固定されている。
【0038】
そして、図1および図2(a)に示すように、構造体1に固定されたプレキャスト部材21,22,23の、上段のプレキャスト部材23の上端に天端コンクリートC1を打設して、当該プレキャスト部材23の挿入孔23aを塞いで、雨水等の侵入を防止することによって、本実施の形態における堤体が構築されている。
【0039】
なお、前記プレキャスト部材21,22,23に形成された挿入孔21a,22a,23aの内壁と構造体1との間に充填材が充填されていてもよい。
この充填材としては、例えば、瓦礫や土石を使用してもよい。この場合、瓦礫や土砂とともに、モルタルを充填するのが好ましい。
また、充填材として場所打ちコンクリートを使用してもよい。この場合、挿入孔21a,22a,23aの内壁と構造体1との双方にコンクリートが付着するので、構造体1にプレキャスト部材21,22,23をさらに強固に固定できる。
このようにして構築された防潮堤では、プレキャスト部材21,22,23によって構成された壁体が、構造体1を支点とする構造壁として、津波や津波漂流物による外力に耐え得るものとなる。
【0040】
なお、本実施の形態の堤体は防潮堤であるので、海岸線に沿って数キロメートルに亙って構築される。したがって、このような防潮堤は、所定数の構造体1を海岸線に沿って所定間隔で構築したうえで、当該所定数の構造体1にプレキャスト部材21,22,23を外挿して固定する工程を順次繰り返して行うことによって、構築される。
【0041】
また、左右に隣り合うプレキャスト部材21,21どうし、プレキャスト部材22,22どうし、プレキャスト部材23,23どうしは、互いに対向する側面が当接しているが、この対向する側面の一方の凹部を設け、他方に凸部を設け、互いの対向する側面を当接する際に、これらを凹凸嵌合させてもよいし、互いの対向する側面どうしを連結金具や場所打ちコンクリートによって連結してもよい。
さらに、上下に積み重ねられるプレキャスト部材21,21どうし、プレキャスト部材21,22どうし、プレキャスト部材22,23どうし、プレキャスト部材23,23どうしは、上下のプレキャスト部材どうしが接しているが、プレキャスト部材どうしが当接している一方の当接面に凹部を設け、他方の当接面に凸部を設け、上下のプレキャスト部材どうしを当接する際に、これらを凹凸嵌合させてもよい。
【0042】
本実施の形態によれば、鋼管杭5に柱6が鋼管杭5の上端から突出するように挿入されているので、当該柱6の突出長さを調整することによって、構造体1の高さを調整することができる。したがって、この高さ調整された構造体1に壁体を構成するプレキャスト部材21,22,23が外挿されて固定されているので、堤体の高さを容易に調整できる。
【0043】
また、津波を受けることによって、構造体1に発生すると想定される断面力が大きい部分を含む位置に、ラップ部10が設けられており、このラップ部10は鋼管杭5と柱6の累加強度を耐力して評価できる。したがって、鋼管杭5や柱6の長さや太さ(直径)、さらに、ラップ部10の位置や長さを調整することによって、津波等の外力に応じた経済的な設計が可能であり、堤体の強度(耐力)を容易に調整できる。よって、本実施の形態の堤体は津波の力に対して十分に耐え得るものとなる。
ラップ部10の位置を調整する場合、鋼管杭5の高さや、柱6の鋼管杭5への挿入長さを調整することによって行え、ラップ部10の長さを調整する場合、柱6の鋼管杭5への挿入長さを調整することによって行える。
また、構造体1は、鋼管杭5とこの鋼管5に挿入された柱6の挿入部6aとの間に、コンクリートCが充填されることによって、鋼管杭5と柱6とが一体化してなるものであるので、鋼管杭5と柱6との溶接が不要となり、その結果、工期を短縮できるとともに品質管理も容易であり、さらに、現場での寸法合わせも容易となる。
【0044】
さらに、鋼管杭5と柱6とが一体化してなる構造体1に、壁体を構成するプレキャスト部材21,22,23が外挿されて固定されているので、現場での鉄筋組立やそれに伴う溶接作業、さらには、型枠組立の作業が不要となり、施工期間の短縮化を図ることができる。
また、柱6がプレキャストコンクリート部材の一つである高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)によって構成されているので、当該柱6が潮風に含まれている塩分等によって腐食され難いという利点がある。
【0045】
また、プレキャスト部材21,22,23に形成された挿入孔21a,22a,23aと、構造体1との間に充填材を充填した場合、堤体(防潮堤)としての強度が高まるともに、充填材が場所打ちコンクリートの場合、構造体1にプレキャスト部材21,22,23をさらに強固に固定でき、また、充填材が瓦礫や土石の場合、これらの処理にも役立つ。
さらに、構造体1に、プレキャスト部材21,22,23に形成された挿入孔21a,22a,23aの内壁が固定金具11,12によって固定されているので、構造体1にプレキャスト部材21,22,23を確実に固定できる。
加えて、構造体1にプレキャスト部材21,22,23を固定した壁体構造となっているので、壁体の品質管理が容易であり、壁体の一部が損傷、劣化した場合、その部分のプレキャスト部材21,22,23を取り換えることによって、部分的な補修も容易となる。
また、主要構造が鋼管杭5と柱6との一体構造であるため、構造的な弱点が無く粘り強いものとなるとともに、プレキャスト部材21,22,23の厚さを薄くすることがきるので、堤体(防潮堤)として全体的にスリムになり、狭隘地にも容易に施工できる。
【0046】
なお、本実施の形態では、構造体1に、プレキャスト部材21,22,23を固定金具11,12によって固定したが、プレキャスト部材21,22,23に形成された挿入孔21a,22a,23aと、構造体1との間に、コンクリート等のように挿入孔21a,22a,23aの内壁と構造体1との双方に付着可能なものを充填するのであれば、前記固定金具11,12は使用しなくてもよい。
【0047】
(第2の実施の形態)
図9図12は第2の実施の形態の堤体を示すもので、図9は背面図、図10は側面図、図11図1におけるB−B線断面図、図12図1におけるA−A線断面図である。
これらの図に示す堤体が、前記第1の実施の形態の堤体と異なる点は、構造体1に外挿されて固定されるプレキャスト部材3の構成であるので、以下ではこのプレキャスト部材について詳しく説明し、第1の実施の形態の堤体と同一構成には同一符号を付して、その説明を省略ないし簡略化する。
【0048】
なお、図9および図10においては、鋼管杭5および柱6は、内部構造であるので本来は隠れ線として破線で記載すべきものであるが、図示を分かりやすくするために実線で記載している。
【0049】
プレキャスト部材3は鉄筋コンクリート製のもので、図9図12に示すように、3種類用意されている。下段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材31、中段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材32、上段に上下に2つ設置されるものをプレキャスト部材33とする。
3種類のプレキャスト部材31,32,33は高さと左右方向の幅は等しくなっているが、奥行き方向の厚さが異なっている。厚さはプレキャスト部材31が最も厚く、プレキャスト部材32,33の順で薄くなっている。
【0050】
プレキャスト部材33は、図12および図13に示すように、矩形板状の基板3aと、この基板3aに左右方向に所定間隔で複数(本実施の形態では3つ)形成された凸条33aとを備えている。凸条33aは平面視略台形状で、基板3aの高さ方向に沿って形成されている。隣り合う凸条33a,33a間は、植栽を施す場所として利用できる。
凸条33aには、1つの構造体1を挿入する挿入孔33bが形成されている。挿入孔33bは1つの構造体1を挿入可能な大きさに形成され、平断面略台形状の貫通孔となっている。また、プレキャスト部材33の基板3aの側部には連結金物3bが設けられている。また、隣り合う凸条33a,33a間には、補強リブ3cが上下に所定間隔で形成されている。
同様にして、プレキャスト部材32は、基板3a、凸条32a、挿入孔32bを備え、隣り合う凸条32a,32a間には、補強リブ3cが上下に所定間隔で形成されている。また同様にして、プレキャスト部材31は、基板3a、凸条31a、挿入孔31bを備え、隣り合う凸条31a,31a間には、補強リブ3cが上下に所定間隔で形成されている。
また、前記凸条31a,32a,33aは、この順で基板3aから突出長さが長くなっている。
【0051】
そして、3個の構造体1に、プレキャスト部材31,32,33を外挿する場合、下段から順にプレキャスト部材31,32,33をそれぞれ2個ずつ、積み上げていくとともに、これらプレキャスト部材31,32,33のそれぞれの3つの挿入孔31b,32b,33bに構造体1を1個ずつ相対的に挿入することにより行う。
また、本実施の形態では、構造体1を構成する鋼管杭5の上端と中段の上側のプレキャスト部材32の上端とが同じ高さに位置している。つまり、鋼管杭5に下段の2個のプレキャスト部材31と中段の2個のプレキャスト部材32とが外挿されている。
また、プレキャスト部材31,32,33の挿入孔31b,32b,33bに構造体1を挿入する場合、これらプレキャスト部材31,32,33の海側を向く面(図10において左側面)、つまり基板3aが鉛直かつ面一になるようにして挿入して、プレキャスト部材31の上に順次、プレキャスト部材32,33を積み重ねる。
さらに、左右に隣り合うプレキャスト部材3(31,32,33),3(31,32,33)どうしの基板3a,3aの側端面は互いに当接され、連結金具3b,3bによって連結されている。
【0052】
前記ようにして、上下に合計6個のプレキャスト部材31,32,33が積み重ねられて堤体が構成される。このような堤体では、図10に示すように、海側を向く面は鉛直な平面となっているが、それと反対側の陸側を向く面は階段状になっている。
【0053】
なお、図14に示すように、プレキャスト部材3が積み重ねられてなる堤体の陸側を向く面を、下方の方が前後方向の厚さが厚くなるような傾斜面に形成してもよい。この場合、上下に6段積み重ねるプレキャスト部材3は、側面視において台形状に形成されたものとなる。
【0054】
前記のようにして積み上げられたプレキャスト部材31,32,33に形成された挿入孔31b,32b,33bの内壁と構造体1との間には、図11および図12に示すように、充填材35が充填されている。
この充填材35としては前述のように瓦礫、土砂、場所打ちコンクリート等を使用すればよい。
充填材35として場所打ちコンクリートを使用すれば、挿入孔31b,32b,33bの内壁と構造体1との双方にコンクリートが付着するので、構造体1にプレキャスト部材31,32,33を強固に固定できる。
プレキャスト部材31,32では、挿入孔31b,32bの内壁と、構造体1を構成する鋼管杭5との間に充填材35が充填され、プレキャスト部材33では、挿入孔33bの内壁と、構造体を構成する柱6との間に充填材35が充填されている。
図9および図10に示した第2の実施の形態の堤体では、最上段のプレキャスト部材33の部分の挿入孔33bの内壁と、構造体を構成する柱6との間に充填する充填材35として、場所打ちコンクリートを採用することによって、柱6が飛来する塩分等から保護されることで腐食され難くなる。
【0055】
本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同様の効果を得ることがきる他、プレキャスト部材31,32,33に、それぞれ1つの構造体1を挿入する複数(本実施の形態では3個)の挿入孔31b,32b,33bが形成されているので、構造体1に対するプレキャスト部材31,32,33の固定精度が高まるという利点がある。
また、挿入孔31b,32b,33bは、第1の実施の形態における挿入孔21a,22a,23aより断面積が小さいので、現場で挿入孔31b,32b,33bに充填するコンクリートの量を減らすことができる。
【0056】
なお、前記第1および第2の実施の形態では、鋼管5を杭、構造部材としてのプレキャストコンクリート部材(PHC杭)を柱6とした場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限ることなく、構造部材としてのプレキャストコンクリート部材を杭、鋼管を柱としてもよい。この場合、構造体は、杭と、この杭に当該杭の上端から突出するようにして外挿された鋼管柱との間にコンクリートが充填されることによって、鋼管柱と杭とが一体化したものとなる。
【0057】
また、前記第1および第2の実施の形態では、構造体1を構成する構造部材として、プレキャストコンクリート部材を使用した場合を例にとって説明したが、構造部材はH形鋼等の鋼材であってもよい。H形鋼を使用する場合、そのフランジが堤体の正面と平行になるようにして、H形鋼を配置する。
この場合、構造部材と鋼管との双方が鋼材で構成されているので、鋼管と構造部材とが一体化してなる構造体としてさらに粘り強いものとなる。
【0058】
また、構造部材を柱としてH形鋼等の鋼材によって構成した場合、この鋼材を鋼管杭に挿入するが、その場合、鋼材を鋼管杭に所定長さだけ挿入したうえで、この鋼材を鋼管杭に溶接やその他の補助部材等によって仮留めするとともに、鋼材の直下に底板を配置してこの底板を鋼管杭に固定したうえで、鋼管杭と鋼材との間にコンクリートを充填して、鋼管杭と鋼材とを一体化して構造体を構成すればよい。
さらに、前記第1および第2の実施の形態では、構造体1を横一列に配置した構造としたが、これに限ることなく、構造体1を複数列に配置した構造としてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 構造体
2,3,21,22,23,31,32,33 プレキャスト部材
21a,22a,23a,31b,32b,33b 挿入孔
5 鋼管杭(鋼管)
6 柱(構造部材)
10 ラップ部
11,12 固定金具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14