(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本発明の一実施形態としての繊維巻付装置の外観構成を示す斜視図である。繊維巻付装置10は、フィラメントワインディング法によってマンドレル20に繊維を巻き付ける装置である。本実施形態では、マンドレル20に巻き付ける繊維は、直径が数マイクロメートル程度の単繊維を多数(例えば、2万本)束ねて構成され、熱硬化性樹脂が含浸されたカーボン繊維(いわゆるプリプレグ)である。本実施形態では、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を用いる。また、本実施形態では、カーボン繊維として、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維を用いる。なお、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維に代えて、レーヨン系カーボン繊維やピッチ系カーボン繊維など、他の任意のプリプレグを用いてもよい。
【0016】
マンドレル20は、本実施形態では、樹脂成形品により構成されている。なお、かかる樹脂成形品に代えて、高強度のアルミニウム材やステンレス材等の金属材により構成してもよい。マンドレル20は、カプセル状の外観形状を有する。具体的には、マンドレル20は、マンドレル20の軸AX方向の中央部分に形成された胴体部と、胴体部の両端からそれぞれ連続して形成されているドーム状の外観形状を有するドーム部とを有する。マンドレル20の両端に位置する2つのドーム部のうち、少なくとも一方のドーム部の円頂部分には、図示しない口金部が形成されている。本実施形態では、カーボン繊維(以下、単に「繊維」と呼ぶ)が巻き付けられたマンドレルを利用して、高圧ガスタンクが製造される。この高圧ガスタンクは、例えば、燃料電池車両において、燃料ガスである水素ガスの収容タンクとして用いられる。前述の口金部は、タンクへの水素ガスの貯蔵およびタンクからの水素ガスの排出に用いられる。なお、
図1には、X軸とY軸とZ軸とを明示している。X軸は、マンドレル20の軸AX方向と平行である。Y軸は鉛直方向と平行である。なお、−Y方向は、鉛直下方に相当する。Z軸は、水平方向と平行である。
【0017】
繊維巻付装置10は、クリール装置210と、基台300と、フープ巻き装置100と、ヘリカル巻き装置200と、繊維処理ユニット400とを備えている。
【0018】
クリール装置210は、繊維が巻かれた多数のボビン211と、給糸ガイド212とを備えており、各ボビン211から給糸ガイド212を介してヘリカル巻き装置200に繊維を供給する。
図1に示すように、クリール装置210は、基台300と平行して配置されている。
【0019】
基台300は、X軸に沿って延設されており、第1のレール302と、第2のレール304と、第1の支持台310と、第2の支持台311とを備えている。第1のレール302及び第2のレール304は、いずれも基台300の上面において互いに平行となるように形成された一対の溝であり、基台300の長手方向(X軸に沿った方向)に延設されている。第2のレール304は、第1のレール302を挟むように配置されている。
【0020】
第1の支持台310は、繊維処理ユニット400を支持し、かつ、第2の支持台311と共にマンドレル20を支持する。第1の支持台310は、基台300の上面において、ヘリカル巻き装置200に対して+X方向側に配置されている。第1の支持台310は、図示しない駆動機構により駆動されて、第1のレール302上を往復動できる。第1の支持台310は、ベース312と、支持腕314とを備えている。ベース312は、板状の部材であり、第1のレール302に対して、スライド可能に配置されている。支持腕314は、Y軸方向を長手方向とする四角柱状の外観形状を有し、一端はベース312に接続され、他端は繊維処理ユニット400に接続されている。
【0021】
第2の支持台311は、取り付け治具315を支持し、かつ、第1の支持台310と共にマンドレル20を支持する。第2の支持台311は、フープ巻き装置100に対して−X方向側に配置されている点と、繊維処理ユニット400に代えて取り付け治具315を支持している点とにおいて、第1の支持台310と異なり、他の構成は第1の支持台310と同じであるため、詳細な説明を省略する。取り付け治具315は、棒状の部材であって、X軸と平行に配置されている。取り付け治具315の中心軸は、マンドレル20の軸AXと一致している。取り付け治具315の一端は第2の支持台311の支持腕314(
図2)に固定されており、他端はマンドレル20を支持する。取り付け治具315は、図示しない駆動機構により、軸を中心として回転される。このため、取り付け治具315により支持されるマンドレル20も、取り付け治具315と共に軸AXを中心として回転する。
【0022】
フープ巻き装置100は、基台300の上面に配置されており、マンドレル20に繊維をフープ巻きする。フープ巻き装置100は、フレーム102と、巻掛テーブル104と、5個のホルダー106と、5個のボビン107とを備えている。フレーム102は、フープ巻き装置100の各部材を収容する筐体である。フレーム102は、図示しない駆動機構により駆動されて、第2のレール304上を往復動できる。
【0023】
巻掛テーブル104は、円盤状の外観形状を有し、厚さ方向がX軸と平行となるように、フレーム102に固定されている。巻掛テーブル104の中央には、厚さ方向に貫通する中央孔105が形成されている。中央孔105の中心は軸AX上に位置し、中央孔105には、取り付け治具315が貫通されている。巻掛テーブル104は、中央孔105の近傍に、第1のガイド給糸部108と、第2のガイド給糸部109とを備えている。第1のガイド給糸部108および第2のガイド給糸部109は、それぞれ巻掛テーブル104から+X方向に突出して配置されている。第1のガイド給糸部108は、マンドレル20に対して上方(+Y方向)に位置している。第2のガイド給糸部109は、マンドレル20に対して下方(−Y方向)に位置している。第1のガイド給糸部108と第2のガイド給糸部109とは、マンドレル20に向かって繊維を繰り出す。
【0024】
5個のホルダー106は、巻掛テーブル104において、中央孔105を囲むように環状に並んで配置されている。各ホルダー106は、それぞれ1つのボビン107を収容する。ボビン107には、ボビン211と同様に予め繊維が巻かれている。各ホルダー106は、図示しない駆動機構により回転駆動され、ボビン107から第1のガイド給糸部108および第2のガイド給糸部109に繊維を繰り出す。
【0025】
ヘリカル巻き装置200は、基台300の上面に配置されており、マンドレル20に繊維をヘリカル巻きする。ヘリカル巻き装置200は、フレーム202と、給糸リング204とを備えている。フレーム202は、給糸リング204を収容する筐体である。マンドレル20は、図示しない駆動機構により駆動されて、給糸リング204の中を往復動できる。
【0026】
給糸リング204は、クリール装置210から供給される繊維を、マンドレル20に向けて繰り出す。給糸リング204は、厚み方向がX軸と平行となる略円柱状の外観形状を有する。給糸リング204の軸は、マンドレル20の軸AXと一致する。給糸リング204の中央には、厚み方向に貫通する中央孔206が形成されている。中央孔206内には、マンドレル20又は繊維処理ユニット400の先端側(支持腕314と接続された側とは反対側)が配置され得る。中央孔206を形成する給糸リング204の内壁には、繊維を排出するための図示しない繊維供給口が多数設けられており、かかる繊維供給口からマンドレル20に向かって多数の繊維(繊維束)が繰り出される。
【0027】
ヘリカル巻き装置200は、軸AXを中心として回転しているマンドレル20に、繊維を軸AXに対して低角度で交差させつつ巻き付ける。また、ヘリカル巻き装置200は、繊維をマンドレル20の両端のドーム部に掛け渡すように螺旋状に繰り返し巻き付ける。
【0028】
図2は、
図1に示す繊維処理ユニット400の詳細構成を示す斜視図である。繊維処理ユニット400は、軸AXと一致する軸を有する略円筒形の外観形状を有する。繊維処理ユニット400は、繊維押さえ部410と、繊維固定部480とを備えている。
【0029】
繊維押さえ部410は、繊維処理ユニット400において最も−X方向に位置する。繊維押さえ部410は、胴体部411と、テーパ部412と、先端部413とを備えている。胴体部411は、円筒形の外観形状を有し、一端はテーパ部412に接続され、他端は繊維固定部480(後述するベース部471)に接続されている。胴体部411の表面には、胴体部411の円周方向に沿って所定の間隔で並んだ吸引孔421の列が、X軸方向に2つ並んで形成されている。各吸引孔421は、繊維押さえ部410の内部に形成された流体流路と連通している。なお、流体流路については後述する。
【0030】
テーパ部412は、胴体部411と先端部413との間に配置され、軸AXと一致する軸を有する略円錐状の外観形状を有する。具体的には、テーパ部412は、−X方向に向かうにつれて細くなる外観形状を有する。テーパ部412の表面には、テーパ部412の円周方向に沿って所定の間隔で並んだ噴射孔423の列が形成されている。噴射孔423は、繊維押さえ部410の内部に形成された流体流路と連通している。
【0031】
先端部413は、繊維押さえ部410において最も−X方向に位置する。先端部413は、軸AXと一致する軸を有する円柱状(棒状)の部材である。先端部413の一端は、テーパ部412に接続され、他端はマンドレル20を保持する。
【0032】
繊維固定部480は、軸AXと一致する軸を有する略円筒形の外観形状を有し、
図2では、繊維押さえ部410よりも+X方向に位置する。繊維固定部480は、チャック部430と、繊維巻取部450と、支持部460と、駆動部470とを備えている。
【0033】
チャック部430は、繊維を把持することにより固定し、また、固定した繊維を開放することができる。チャック部430は、環状に並んだ多数のチャックピンからなる内側チャックピン列431と、環状に並んだ多数のチャックピンからなる外側チャックピン列432とを備えている。内側チャックピン列431は、外側チャックピン列432よりも内側に位置している。換言すると、内側チャックピン列431の直径は、外側チャックピン列432の直径よりも小さい。チャック部430は、繊維押さえ部410の胴体部411の一部を囲むように配置されている。チャック部430により繊維が固定される際、繊維は、内側チャックピン列431において隣り合う2つのチャックピンの間に配置されると共に、外側チャックピン列432において隣り合う2つのチャックピンの間に配置される。そして、内側チャックピン列431が円周方向に沿って若干回転する(ずれる)ことにより、繊維は固定される。なお、内側チャックピン列431に代えて、外側チャックピン列432が円周方向に沿って回転することにより繊維を固定してもよい。また、内側チャックピン列431と外側チャックピン列432とが互いに円周方向に沿って反対に回転することにより、繊維を固定してもよい。図示は省略しているが、内側チャックピン列431のさらに内側には、円周方向に回転可能な切断部が配置されている。
【0034】
繊維巻取部450は、繊維が切断された後に、繊維を巻き取る。支持部460は、X軸方向に沿って延設された多数の柱状部材と、これら柱状部材を支持するリング状の部材とを有し、チャック部430を支持すると共に駆動部470を支持する。
【0035】
駆動部470は、繊維処理ユニット400の構成部材のうち、一部の構成部材を駆動する。例えば、駆動部470は、内側チャックピン列431を円周方向に沿って移動させる。また、駆動部470は、チャック部430および支持部460を、X軸方向に沿って移動させる。したがって、胴体部411の表面のうち、チャック部430により覆われる部分の面積は、チャック部430および支持部460の配置位置によって異なる。
【0036】
上記構成を備える繊維巻付装置10を用いて、後述するタンクの製造方法が実行されると、マンドレル20に繊維を巻き付けた後において繊維を切断した場合に、マンドレル20に巻き付けられた繊維の緩みを抑制できると共に、巻き付けられている繊維の端部の広がりを抑制できる。
【0037】
上述した繊維押さえ部410は、請求項における繊維押さえ装置および繊維押さえ部に相当する。また、ヘリカル巻き装置200は、請求項における繊維巻き装置に相当する。
【0038】
A2.タンクの製造:
図3は、本発明の一実施形態としてのタンクの製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0039】
マンドレル20が繊維巻付装置10に取り付けられる(ステップS105)。このステップS105の処理では、マンドレル20が、繊維処理ユニット400(先端部413)と取り付け治具315とにより支持される。このとき、マンドレル20の口金部には、繊維処理ユニット400の先端部413が挿入される。
【0040】
フープ巻き装置100およびヘリカル巻き装置200により、マンドレル20と繊維押さえ部410とに繊維が巻き付けられる(ステップS110)。本実施形態では、先ずフープ巻き装置100によりマンドレル20に繊維がフープ巻きされ、次に、マンドレル20にフープ巻きされた繊維の上に、ヘリカル巻き装置200により繊維がヘリカル巻きされ、その後、ヘリカル巻き装置200により繊維押さえ部410に繊維が巻き付けられる。ここで、ヘリカル巻き装置200によるマンドレル20への繊維の巻き付けと、繊維押さえ部410への繊維の巻き付けとは連続的に行われる。
【0041】
図4は、実施形態におけるタンクの製造方法の一部の処理を模式的に示す説明図である。
図4において最上段は、ステップS110の処理を模式的に示している。
図4において、上から2段目は後述するステップS115およびS120の処理を、上から3段目は後述するステップS125およびS130の処理を、最下段は後述するステップS135およびS140の処理を、それぞれ模式的に示している。なお、
図4では、図示の便宜上、マンドレル20が有する2つのドーム部のうち、一方のドーム部22のみ明示し、他方のドーム部は省略している。
【0042】
図4の最上段に示すように、ステップS110が実行された後には、マンドレル20と繊維押さえ部410の一部に繊維が巻き付けられている。前述の「繊維押さえ部410の一部」とは、先端部413と、テーパ部412と、胴体部411のうちの先端側(−X方向側)の一部とを意味する。
図4の最上段に示すように、ステップS110実行後において、繊維処理ユニット400のチャック部430は、ヘリカル巻き装置200に対して+X方向に位置している。
【0043】
図3に示すように、チャック部430は、−X方向に移動(前進)する(ステップS115)。このとき、ヘリカル巻き装置200から繰り出された各繊維は、内側チャックピン列431における隣り合う2つのチャックピンの間に入り込むと共に、外側チャックピン列432における隣り合う2つのチャックピンの間に入り込む。
【0044】
図3に示すように、駆動部470により内側チャックピン列431が所定の角度だけ回転移動され、内側チャックピン列431と外側チャックピン列432とにより、繊維が、胴体部411に巻き付けられた部分と装置200との間において固定される(ステップS120)。
図4の上から2段目に示すように、前述のステップS115およびS120が実行されると、チャック部430は、最上段の状態に比べて−X方向に移動し、繊維処理ユニット400により繊維が固定される。なお、チャック部430の移動と共に、繊維巻取部450および支持部460も併せて−X方向に移動している。
【0045】
図3に示すように、ヘリカル巻き装置200により、繊維固定部480に繊維が巻き付けられる(ステップS125)。
図4において上から3段目に示すように、ヘリカル巻き装置200は、
図4の最上段および上から2段目の状態よりも+X方向に移動し、繊維処理ユニット400(支持部460)には、繊維が巻かれている。なお、
図4において上から3段目では、繊維処理ユニット400(支持部460)への繊維の巻き付き量は、およそ7周であるが、2〜3周にすることもできる。
【0046】
図3に示すように、繊維押さえ部410の内部に空気を供給する(ステップS130)。
図5は、ステップS130が実行される際の繊維押さえ部410近傍における空気の流れを示す概略断面図である。
図5に示すように、繊維押さえ部410の内部には、流体が流れる複数の流体流路424が形成されている。本実施形態では、流体は空気である。複数の流体流路424は、いずれも繊維押さえ部410内部においてX軸と平行に延設されており、互いに円周方向に沿って所定の間隔で並んで配置されている。なお、
図5では、複数の流体流路424のうち、2つの流体流路424のみ表している。各流体流路424は、2つの吸引孔421および1つの噴射孔423と連通している。
【0047】
繊維押さえ部410の基端部(+X方向側の端部)は、ベース部471に接続されている。ベース部471は、分配流路472と、押当駆動部494と、支持部492と、押当部490とを備えている。分配流路472は、ベース部471の内部に設けられた流体(空気)の流路である。分配流路472の一端は、弁473を介してエアコンプレッサー474に接続され、他端は各流体流路424に接続されている。分配流路472は、エアコンプレッサー474から供給される圧縮空気を、各流体流路424に分配する。なお、弁473の開度およびエアコンプレッサー474の供給空気量は、図示しない制御部により制御される。
【0048】
押当駆動部494は、支持部492をX軸に沿って移動させる。支持部492は、一端が押当駆動部494に接続され、他端が押当部490に接続されている。押当部490は、繊維押さえ部410の表面を覆うリング状の部材であり、支持部492の移動に合わせて、X軸に沿って移動する。なお、ベース部471、弁473およびエアコンプレッサー474は、前述の駆動部470の一部に該当する。
【0049】
上述のステップS130では、弁473が開放され、エアコンプレッサー474から供給される圧縮空気が分配流路472に流れ込む。分配流路472に流れ込んだ空気は、各流体流路424に分配される。噴射孔423は、流体流路424の−X方向の端に設けられているので、流体流路424を−X方向に流れる空気は、噴射孔423から−X方向に噴出する。なお、噴射孔423の上にも繊維は巻かれているが、繊維と繊維との間の空隙から、空気は噴出し得る。
【0050】
ここで、流体流路424の延長上には、ドーム部22が配置されているので、噴射孔423から噴出した空気は、ドーム部22の表面に巻き付けられている繊維に吹き付けられる。このため、ドーム部22の表面に巻き付けられている繊維は、ドーム部22の表面に向かって押し付けられる。したがって、ドーム部22の表面に巻き付けられている繊維が緩んで、ドーム部22(マンドレル20)の表面から浮き上がることが抑制される。
【0051】
これに対して、吸引孔421は、流体流路424に対して垂直に形成されている。このため、流体流路424を流れる空気は、吸引孔421からほとんど噴出しない。流体流路424内を空気が高速で流れることにより、いわゆるベルヌイ効果によって吸引孔421に負圧が発生する。このため、繊維押さえ部410に巻き付けられている繊維は、繊維押さえ部410の表面に向かって吸引される。
【0052】
なお、上述した吸引孔421は、請求項における連通孔に相当する。また、流体流路424および分配流路472は請求項における流路に、弁473およびエアコンプレッサー474は請求項における流体供給部に、流体流路424と分配流路472と弁473とエアコンプレッサー474とは請求項における吸引部に、それぞれ相当する。
【0053】
図3に示すように、ステップS130が実行された後、押当部490により、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付いた繊維が押さえられる(ステップS135)。ステップS135では、
図5に示す押当部490が−X方向に移動する。そして、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられ、繊維押さえ部410の表面に向かって吸引された繊維は、押当部490により、繊維押さえ部410(胴体部411)の表面に向かって押さえられる。
【0054】
図3に示すように、繊維押さえ部410(胴体部411)とチャック部430との間において、図示しない切断部により繊維が切断される(ステップS140)。上述したように、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付いた繊維は、繊維押さえ部410の表面に向かって吸引されると共に、押当部490により繊維押さえ部410の表面に向かって押さえられる。したがって、ステップS140により繊維が切断された後において、マンドレル20および繊維押さえ部410に巻き付いた繊維の端部が広がることが抑制される。
【0055】
図3に示すように、繊維が切断された後(ステップS140の後)、弁473が閉じられ、繊維押さえ部410内部への空気の供給が停止される(ステップS145)。押当部490がマンドレル20から離れる方向(+X方向)に戻され、マンドレル20が繊維巻付装置10から取り外される(ステップS150)。内側チャックピン列431が回転駆動され、チャック部430により固定されていた繊維が開放される(ステップS155)。繊維巻取部450により、チャック部430とヘリカル巻き装置200との間に巻き付いていた繊維が巻き取られる(ステップS160)。
【0056】
繊維巻付装置10から取り外されたマンドレル20が加熱される(ステップS165)。この加熱により、繊維に含浸されていた熱硬化性樹脂が硬化し、タンクが完成する。なお、ステップS155とステップS165との間において、口金部21より先(+X方向)に存在する余分な繊維を切断してもよい。
【0057】
図6は、上述したステップS140(繊維の切断)を実行した直後のマンドレル20の実際の様子を示す説明図である。
図6に示すように、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられている繊維W1は、繊維押さえ部410(胴体部411)の表面に向かって吸引されており、かつ、繊維の端部W2は広がっていない。このため、繊維の端部W2が周辺に存在する設備やマンドレル20のドーム部22等に絡むことを抑制できる。
【0058】
図7は、比較例において繊維が切断された直後のマンドレル20の実際の様子を示す説明図である。比較例では、
図3に示す各処理のうち、ステップS130およびS135が省略される。したがって、比較例では、ステップS125(繊維押さえ部410への繊維の巻き付け)が実行された後にステップS140(繊維の切断)が実行される。そして、
図7は、比較例において、ステップS140が実行された直後のマンドレル20の実際の様子を示している。
【0059】
図7に示すように、比較例では、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられた繊維は繊維押さえ部410(胴体部411)から離れ、繊維の端部W3は、径方向(繊維押さえ部410軸と垂直な方向)に広がっている。したがって、繊維の端部W3が周辺に存在する設備やマンドレル20のドーム部22に絡むおそれがある。
【0060】
以上説明したように、実施形態のタンクの製造方法によると、繊維押さえ部410の吸引孔421に負圧を発生させ、胴体部411に巻き付いた繊維を繊維押さえ部410(胴体部411)の表面に向かって吸引するので、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられていた繊維が繊維押さえ部410から離れてしまい、繊維の端部が広がることを抑制できる。したがって、繊維の端部が、周辺の設備やマンドレル20(ドーム部22等)に巻き付けられている繊維に絡んでしまうことを抑制できるので、設備の故障やマンドレル20の劣化を抑制できる。
【0061】
加えて、繊維押さえ部410の内部を流通した空気を、マンドレル20のドーム部22に向かって吹き付けるので、ドーム部22に巻き付けられている繊維を、ドーム部22の表面に向かって押し付けることができる。このため、ドーム部22表面に巻き付けられている繊維が緩んで、ドーム部22の表面から浮き上がることを抑制できる。したがって、ドーム部22の表面と巻き付いた繊維との間に空隙が生じることを抑制できるので、マンドレル20の強度劣化を抑制できる。また、吸引孔421に負圧を発生させるために、繊維押さえ部410の内部に空気を供給するので、例えば、ポンプ等により、繊維押さえ部410の内部を吸引して負圧を発生させる構成に比べて、繊維押さえ部410の気密性を高める必要がない。このため、繊維押さえ部410の製造コストを抑えることができる。
【0062】
また、マンドレル20を繊維巻付装置10に取り付ける際に、繊維処理ユニット400の先端部413がマンドレル20の口金部21に挿入するようにマンドレル20が配置される。このため、繊維押さえ部410は、マンドレル20に対して軸AX方向に沿って隣接して配置されるので、マンドレル20と繊維押さえ部410(胴体部411)とに繊維を巻き付ける際に、これら部位に連続して繊維を巻き付けることができる。したがって、タンクの製造時間を短縮できる。
【0063】
また、チャック部430は、繊維押さえ部410を円周方向に沿って囲んで配置されているので、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられているすべての繊維を、確実に固定できる。
【0064】
また、繊維処理ユニット400は、切断部を備えているので、繊維押さえ部410(胴体部411)に巻き付けられている繊維を押さえる処理(ステップS130およびS135)と、繊維を切断する処理(ステップS140)とを連続して実行することができる。このため、タンクの製造時間を短縮化できる。加えて、繊維を切断するために、繊維処理ユニット400とは別の装置として切断装置を用意する必要がないので、タンクの製造設備全体を小型化できる。
【0065】
B.変形例:
B1.変形例1:
上述した実施形態では、繊維に含浸される樹脂は、エポキシ樹脂であったが、エポキシ樹脂に限らず任意の樹脂を採用してもよい。例えば、フェノール樹脂や、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いてもよい。また、上述した実施形態では、マンドレル20に巻き付けられる繊維は、熱硬化性樹脂が含浸されたカーボン繊維であったが、かかるカーボン繊維に代えて、または、カーボン繊維に加えて、ガラス繊維やアラミド繊維などの任意の繊維を用いてもよい。このような構成においても、マンドレル20に巻き付けられている繊維の切断後において、繊維の端部の広がりを抑制し、かつ、マンドレル20に巻き付いた繊維の緩みを抑制できる。
【0066】
B2.変形例2:
上述した実施形態では、繊維押さえ部410の内部(流体流路424)を流通する流体は、空気であったが、空気に代えて、窒素ガスや炭酸ガスなど任意の流体を用いてもよい。また、上述した実施形態では、流体流路424に空気を流通させることにより吸引孔421に負圧を発生させていたが、他の任意の方法により負圧を発生させてもよい。例えば、エアコンプレッサー474の代わりにポンプを配置し、かかるポンプによって分配流路472内の空気を吸引することにより、吸引孔421に負圧を発生させてもよい。かかる構成によっても、胴体部411および先端部413に巻き付いた繊維を、胴体部411の表面および先端部413の表面に押し付けることができる。
【0067】
B3.変形例3:
上述した実施形態では、ステップS140において、繊維巻付装置10(繊維処理ユニット400)が備える切断部により繊維が切断されていたが、かかる切断部とは異なる切断手段により、繊維を切断してもよい。具体的には、例えば、繊維巻付装置10とは別体として用意された切断装置(カッター)を用いて、繊維押さえ部410とチャック部430との間において繊維を切断する構成を採用してもよい。この構成によれば、繊維巻付装置10(繊維処理ユニット400)は切断部を備えなくてもよい。
【0068】
B4.変形例4:
上述した実施形態では、チャック部430は、内側チャックピン列431と外側チャックピン列432とにより構成されていたが、かかる構成に代えて、繊維を固定可能な任意の構成を採用してもよい。
【0069】
B5.変形例5:
上述した実施形態では、繊維処理ユニット400の先端部413は、マンドレル20の口金部21に挿入されていたが、口金部21に挿入させることに代えて、口金部21の端部に接して配置されていてもよい。また、口金部21に代えて、マンドレル20の任意の位置に接して配置してもよい。例えば、口金部21が設けられているドーム部とは反対側のドーム部の円頂部に、先端部413を接して配置してもよい。この構成では、取り付け治具315は、口金部21に接して配置される。すなわち、一般には、繊維押さえ部410を口金部21に接して配置する工程を、本発明に採用してもよい。
【0070】
B6.変形例6:
上述した実施形態では、燃料電池システムで用いられる高圧ガスタンクが製造されたが、かかる高圧ガスタンクに代えて、他の任意の用途で用いられる高圧ガスタンクを製造してもよい。また、高圧ガスタンクに限らず、液体等の他の任意の流体を貯蔵可能なタンクを製造してもよい。
【0071】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。