(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、ライトトラック用タイヤには、市場における損傷として、その使用期間の末期に、ブレーカ(ベルト)とカーカスプライとの剥離(B/Pセパレーション)、ブレーカ同士の剥離(B/Bセパレーション)等という内部損傷が発生することがある。タイヤは、長期間の使用により、その内部構成部材が酸素や熱によって劣化し、ベルトとカーカスプライとの間の剥離抗力、ベルト同士の間の剥離抗力等が低下する。B/BセパレーションやB/Pセパレーションは、剥離抗力が低下したタイヤに衝撃力が加わったときに発生しやすい。これらの損傷は、ライトトラック用タイヤの耐久性に大きな影響を及ぼす。
【0003】
一方、従来、駆動ドラムを有する台上試験装置により、タイヤの耐久試験が実施されている。この試験は、例えば、JIS D4230の規定に準拠して実施されることがある。JIS D4230では、供試タイヤを、その内部に所定の空気圧を充填し、所定の荷重を負荷したうえで走行させる。しかしながら、JIS D4230に規定された試験方法には、市場におけるタイヤの経時劣化が考慮されていない。
【0004】
前述したB/Bセパレーションは、タイヤの使用期間の末期において見られることが多い。通常の台上試験装置による耐久試験において、市場でのB/Bセパレーションを再現するためには、長期間の走行が必要とされる。しかし、台上試験装置による耐久試験においてB/Bセパレーションが発生する前に、上記タイヤ外部に近い部分の損傷が発生する。この場合、B/Bセパレーションの再現が不可能になってしまう。
【0005】
特開2003−161674公報には、タイヤの経年劣化に対する耐久性の評価を行うための試験方法が提案されている。このタイヤの耐久性評価試験は、供試タイヤを予め劣化させた上で、駆動ドラムを備えた台上試験装置上で走行させるものである。供試タイヤの劣化には、タイヤに対する酸素の注入及び加熱がなされる。しかしながら、上記公報に開示された試験条件からすれば、この耐久試験は、タイヤの特定の内部劣化の再現を目的とした試験でないと考えられる。この条件下における試験では、タイヤのクラック等の外部損傷が発生しうる。このため、タイヤの内部損傷が再現し得ないこととなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
[供試タイヤ]
図1には、耐久性の評価試験の対象となりうる空気入りタイヤ2が示されている。このタイヤ2は、トレッド4、サイドウォール6、ビード8、クリンチ部10、カーカス12、ベルト14、バンド16、インナーライナー18及びチェーファー20を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、ライトトラック等の商用車に装着されうる。
【0015】
図1において、上下方向がタイヤの半径方向であり、左右方向がタイヤの軸方向であり、紙面に対して垂直な方向がタイヤの周方向である。
図1において、一点鎖線で示す中心線CLはタイヤ2の赤道面EQをも表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面EQに関して左右対称である。トレッド4は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4の外周面は、路面と接地するトレッド面22を構成する。トレッド面22には、溝24が刻まれている。この溝24により、トレッドパターンが形成されている。
【0016】
サイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6は、架橋ゴムからなる。サイドウォール6は、カーカス12の外傷を防止する。
【0017】
ビード8は、サイドウォール6の半径方向内側に位置している。ビード8は、コア26と、このコア26から半径方向外向きに延びるビードエイペックス28とを備えている。コア26はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤー(典型的にはスチール製ワイヤー)を含む。ビードエイペックス28は、半径方向外向きに先細りである。ビードエイペックス28は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0018】
カーカス12は、第一プライ30、第二プライ32及び第三プライ34からなる。カーカスプライ6は、並列された図示しない多数のコードとトッピングゴムとからなる。第一プライ30、第二プライ32及び第三プライ34は、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。第一プライ30及び第二プライ32は、コア26の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、第一プライ30及び第二プライ32には、それぞれ、折り返し部36、38が形成されている。
【0019】
ベルト14は、カーカス12の半径方向外側に積層されている。ベルト14は、カーカス12を補強する。このタイヤ2では、ベルト14は、半径方向内側から順に、第一層14a、第二層14b及び第三層14cの三層からなる。図示されていないが、第一層14a、第二層14b及び第三層14cのそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードは、スチールからなる。コードに、有機繊維が用いられてもよい。
【0020】
上記コードは、赤道面EQに対して傾斜している。この傾斜の角度の絶対値は、通常は10°以上35°以下である。第一層14aのコードの傾斜角は、第二層14bのコードの傾斜角とは赤道面EQに対する正負(左右)が逆である。第三層14cのコードの傾斜角も、第二層14bのコードの傾斜角とは赤道面EQに対する正負(左右)が逆である。
【0021】
半径方向最外層である第三層14cのコードは、赤道面EQに対して左方に傾斜している(
図4参照)。これを左上がり構造と呼ぶ。第三層14cのコードは、タイヤの平面視で前方に向けて、赤道面EQから左方へ10°以上35°以下傾斜している。図示しない第二層14bのコードは赤道面EQに対して右方に傾斜し、図示しない第一層14aのコードは左方に傾斜している。この第三層14cのコードの傾斜は、左向きでなく右向きであってもよい。この場合、第二層14b及び第三層14cの各コードの傾斜方向も、左右が上記とは逆になる。
【0022】
バンド16は、ベルト14の半径方向外側に位置している。このバンド16は、図示されていないが、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド16は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。このコードによりベルト14が拘束されるので、ベルト14のリフティングが抑制される。ベルト14及びバンド16は、補強層を構成している。ベルト14のみから、補強層が構成されてもよい。
【0023】
[ゴム劣化処理]
上記タイヤ2は耐久性評価のための走行試験に供せられる。この走行試験に先立って、供試タイヤ2には、内部損傷の発生を促進するためのゴム劣化処理が施される。この走行前の劣化処理により、特に、タイヤ2のベルト14及びカーカスプライ28のトッピングゴムの物性が変化させられる。この前処理工程は、供試タイヤ2に対する酸素充填及び加熱による、内部コンポーネントであるゴムの劣化ステップである。換言すれば、この前処理はゴムの熱劣化処理である。このステップは、供試タイヤ2のベルト14の層間(BB間)の剥離抗力を低下させることを目的とする。この剥離抗力が低下することにより、前述したタイヤ2のB/Bセパレーションの発生が促進される。
【0024】
上記ゴムの熱劣化処理は、供試タイヤの特性を、市場において内部劣化したタイヤの特性に、短期間で近づけるためのものである。市場におけるタイヤの経時劣化の調査として、市場でB/Bセパレーションが発生した多数の古品タイヤに対し、そのBB間の隔離抗力及びBP間の剥離抗力の検査がなされた。その結果、これら古品タイヤのBB間の剥離抗力の指数が、30から60の範囲に低下していることが判った。また、この古品タイヤのBP間の剥離抗力の指数は、50から70の範囲に低下していることが判った。上記指数は、上記古品タイヤと同一仕様のタイヤの、新品時におけるBB間及びBP間の剥離抗力をそれぞれ100としたものである。そこで、当該タイヤ2のBB間剥離抗力及びBP間剥離抗力が上記範囲となるように、以下のゴム劣化処理が行われる。
【0025】
以下、上記ゴム劣化ステップにおけるタイヤ2の処理内容が説明される。まず、タイヤ2が試験用のリムに組み込まれる。このタイヤ2の内部に、大量の酸素を含有した空気が充填される。酸素を含有した窒素等が充填されてもよい。タイヤ2に充填される空気の酸素含有率(酸素濃度)X(%)は、下式によって算出される。
X(%) = (Po/Pt)×100
ここで、Ptは、酸素を含む気体の全圧である。Poは、上記全圧に対する酸素の分圧である。この酸素濃度Xは、70%以上100%以下とされる。
【0026】
酸素濃度が70%未満であれば、タイヤ内部の劣化の進行が遅くなる。ゴム劣化ステップの時間を長くせざるを得なくなる。その結果、他の構成部材が酸素劣化する可能性がある。この場合、ベルト14の層間の剥離が生じるより先に、カーカス12及びベルト14以外の構成部材が破壊してしまうという事態を招きうる。内部劣化に対する耐久試験を継続することができなくなる。かかる観点からすれば、酸素濃度Xは、90%以上100%以下とされるのが好ましい。
【0027】
上記酸素含有空気の充填により、タイヤ2の内圧は、正規内圧の80%以上100%以下とされるのが好ましい。タイヤ内圧が、正規内圧の80%未満では、インナーライナー8を透過してカーカス12及びベルト14に至る酸素の量が少なくなり、タイヤ内部の劣化の進行が遅くなる。その結果、上記したと同様の結果となり、カーカス12及びベルト14以外の構成部材が破壊するという事態を招きうる。
【0028】
タイヤ2は、リムに装着され且つ上記内圧が維持された状態で加熱される。タイヤ2は内部温度が65℃以上75℃以下のオーブン内に、14日間以上26日間以下の期間保持される。タイヤのオーブン投入期間は、インナーライナー8の材質(ブチルゴムの比率等)及び厚みによって調節されうる。ライトトラック等の商用車用タイヤの場合、65℃未満又は14日間未満では、タイヤ内部の劣化の進行が遅くなる。75℃を超えるか又は26日間を超えて加熱されると、多くの構成部材が熱劣化するおそれがある。その結果、ベルト14の層間の剥離が生じるより先に、カーカス12及びベルト14以外の構成部材が破壊するという事態を招きうる。この場合、内部劣化に対する耐久試験を継続することができなくなる。かかる観点から、オーブン内への保持期間は、18日間以上24日間以下とするのが好ましい。
【0029】
[剥離試験]
以上のごとくして、ゴム劣化処理が施されたタイヤ2に対し、そのベルト14の層間の剥離抗力、及び、カーカス12とベルト14との間の剥離抗力の測定(剥離試験)が行われる。剥離試験については以下に説明される。
【0030】
図2を参照しつつ、以下に、ベルト14の第二層14bと第三層14cとの間の剥離抗力の測定要領が説明される。3層ベルト構造のタイヤは、市場における実績及びドラム走行試験における実績では、第二層と第三層との間でのみ剥離している。このため、剥離試験においても、第二層14bと第三層14cとの間の剥離抗力のみが測定され、第一層14aと第二層14bとの間の剥離抗力は測定されない。上記したゴム劣化ステップにおける処理が終了したタイヤ2について、上記剥離抗力が測定される。
図2(a)に示されるように、同一条件下でゴム劣化ステップの処理が施された複数個のタイヤ2のうちの1個から、剥離抗力測定対象のサンプル42が採取される。このサンプル42から、
図2(b)に示されるテストピース44が切り出される。テストピース44は、ベルト14の第一層14aと第二層14bと第三層14cとを含んでいる。このテストピース44に対する測定結果が、上記複数個のうちの他のタイヤの剥離抗力をも示しているとされる。
【0031】
剥離抗力は、JIS K6256−1の規定に準じて測定されてもよい。この測定に際して、
図2(b)に示されるように、テストピース44中の第三層14cが第二層14bから剥離される。剥離される第三層14cの部分(以下、剥離層という)14sの幅Wは25.0±0.5mmであり、剥離される長さLは少なくとも100mmである。剥離層14sの剥離幅Wが変化しないように、予め、第三層14cにおける剥離層14sの両側端に、剥離方向に沿って切り込み46を形成するのが好ましい。さらに、剥離層14sの両側端の外側に近接した部位から、コード48を一本ずつ抜き取っておくのが好ましい。剥離層14sの前後の一方の端部50が、図示しない試験機による掴み代として、予め剥離される。
【0032】
テストピース44が図示しない剥離試験機に固定される。上記掴み代の部分50が、試験機の掴み具によって掴まれる。剥離層14sが、掴み具によって引っ張られて、第二層14bから剥離される。剥離速度は50.0±2.5mm/分とされる。剥離力と剥離距離とが測定され、両者の関係を示すグラフが作成される。測定された剥離力は、25mmの幅Wに対する力である。一般的に、剥離の進行の過程で剥離力は変動する。この変動した測定値は、JIS K6274の規定に基づいて解析され、平均値が算出されてもよい。
【0033】
以上の剥離抗力測定の説明は、ベルト14の第二層14bと第三層14cとの間の剥離抗力を例にとった。しかし、ベルト14とカーカス12との間の剥離抗力、すなわち、ベルト14の第一層14aとカーカス12の第三プライ34との間の剥離抗力についても、同様の方法によって測定されうる。
【0034】
以上の剥離試験により、市場におけるタイヤの内部劣化が、供試タイヤ2に再現されうることが確認される。これは、後述する実施例により明らかとなる。内部劣化の再現が確認されたタイヤ2は、内部劣化に対する耐久性能を評価するための走行試験に供される。
【0035】
[走行試験装置]
図3が参照されつつ、以下に、上記タイヤ2の内部劣化に対する耐久性能を評価するための試験方法(以下、評価方法ともいう)が説明される。
図3には、本実施形態に係る評価方法の実行に用いられる試験装置52が示されている。この試験装置52は、タイヤ2の走行試験を行うための装置である。この試験装置52は、供試タイヤ2が装着される試験用の正規リム54、このリム54を支持する支持装置56、及び、供試タイヤ2を回転駆動する駆動ドラム58を備えている。
【0036】
リム54は、支持装置56の回転軸60に、回転可能に支持される。支持装置56は、図示しない回転駆動装置及びブレーキ機構を備えている。支持装置56は、この回転軸60を、回転自在にすること、駆動ドラム58に依らずに回転駆動すること、及び、拘束する(ブレーキをかける)ことが可能である。支持装置56のこれらの作用により、リム54(供試タイヤ2)の、加速、減速及び回転停止が可能となる。支持装置56及び駆動ドラム58は試験架台52aに設置されている。駆動ドラム58は、図示しない電動モータによって回転可能である。支持装置56は、図示しない流体圧シリンダ等の昇降装置により、タイヤ2を上下動させうる。その結果、タイヤ2は、駆動ドラム58に対して離間及び接近することができる。リム54に装着された供試タイヤ2は、上記昇降装置により、所定荷重が負荷されて駆動ドラム58に押圧させられる。供試タイヤ2は、この状態で、駆動ドラム58によって回転駆動されうる。
【0037】
[走行試験]
走行試験には、上記試験装置52が用いられる。この走行試験は、上記ゴム劣化処理が施されたタイヤ2に対して行われる。この試験は、タイヤ2の走行ステップである。タイヤ2が装着された試験用の正規リム54は、支持装置56の回転軸60に取り付けられる。タイヤ2に所定の試験内圧が充填された上で、走行試験が開始される。タイヤ2は、支持装置56により、駆動ドラム58の外周面に、所定の試験荷重で押圧される。この走行試験は台上試験とも呼ばれる。市場での走行モードが考慮され、タイヤ2にはスリップ角が設定される。スリップ角とは、タイヤの回転面(赤道面EQ)と、路面上(駆動ドラム58上)でのタイヤの進行方向とがなす角度である。タイヤ2は、この状態で、後述する所定速度(走行試験速度)で走行させられる。走行の終了後、このタイヤ2の損傷状態が確認される。
【0038】
走行ステップでは、試験内圧及び試験荷重が負荷され、スリップ角が設定された状態のタイヤ2が、試験装置52上で回転させられる。タイヤ2に供給される試験内圧は、正規内圧とされる。
【0039】
走行試験において、タイヤ2が駆動ドラム58の外周面に押圧される試験荷重は、正規荷重の120%とされる。
【0040】
走行試験において、支持装置56に取り付けられたタイヤ2には、前述のとおりスリップ角が設定される。設定されるスリップ角の左右の向きは、タイヤ2の最外ベルト層のコードの傾斜方向に応じて決定される。本実施形態における最外ベルト層は第三層14cである。
【0041】
図4(a)及び
図4(b)には、駆動ドラム58上に接地されたタイヤ2、及び、タイヤ2のベルトの第三層14cのコード48が示されている。
図4(a)には、タイヤ2にスリップ角が設定されていない状態が示され、
図4(b)には、タイヤ2にスリップ角αが設定されている状態が示されている。
図4(b)では、理解容易のために、スリップ角αが実際よりも大きく示されている。
図4(a)に示されるように、第三層14cのコードの傾斜が左方(左上がり構造)であるので、
図4(b)に示されるように、スリップ角αの向きは右方とされる。仮に、第三層14cのコードの傾斜が右上がり構造である場合は、スリップ角αの向きは左方とされる。
【0042】
スリップ角αが上記のように設定される理由は、最外ベルト層が左上がり構造であると、スリップ角αが0°であっても、タイヤの走行方向がやや右方に向くからである。逆に、最外ベルト層が右上がり構造であると、スリップ角αが0°であっても、タイヤの走行方向がやや左方に向くからである。すなわち、走行タイヤには、その最外ベルト層のコードの傾斜の向きとは反対向きのコーナリングフォースが発生する。タイヤはかかる特性を有するころが判ったので、最外ベルト層のコードの傾斜方向と同一方向のスリップ角αが設定されると、スリップ角αによるコーナリングフォースが相殺されてしまうおそれがある。その場合、スリップ角αを設定した効果が得られにくい。以上から、スリップ角αの傾斜の向きは、タイヤ2の最外ベルト層のコードの傾斜の向きと反対の向きに設定される。
【0043】
スリップ角αは、左右共に1.2°以上1.8°以下の範囲内で設定される。換言すると、スリップ角αは、左向き傾斜の場合は+1.2°以上+1.8°以下の範囲内、右向き傾斜の場合は−1.8°以上−1.2°以下の範囲内で設定される。すなわち、スリップ角αは、左向き傾斜角が+(プラス)で表され、右向き傾斜角が−(マイナス)で表される。スリップ角αが+1.2°未満である(−1.2°を超える)と、タイヤに加わる横力が十分ではなく、B/Bセパレーション等が再現され得ないおそれがある。一方、スリップ角αが+1.8°を超える(−1.8°未満である)と、タイヤ2のトレッドショルダー部に過度の摩耗が発生するおそれがある。トレッドショルダー部に完全摩耗が生じた場合、ベルト14や図示しないバンドが露出して、タイヤの走行が不可能になってしまう。
【0044】
個別具体的な供試タイヤのスリップ角αは、供試タイヤのサイズ、プロファイル、成形構造、市場における使用条件等に基づいて予備試験を行うこと等により、上記範囲内において好ましい値が選択される。タイヤ2は、スリップ角αが設定された状態で、駆動ドラム58によって回転走行させられる。この走行試験におけるタイヤ2の走行速度は、80km/hとされる。
【0045】
上記走行試験での、走行距離は、最長で20000kmである。走行距離20000kmに至るまでに供試タイヤ2に損傷が発生したとき、検出器がこれを検知する。このとき、その走行が中止される。この走行試験が終了した後のタイヤ2に対して、その表面及び内部における損傷の状況が目視検査によって確認され、その結果が記録される。これらの記録から、タイヤ2の内部劣化に対する耐久性能が比較、評価される。また、市場におけるタイヤの内部損傷が、供試タイヤ2に再現されているか否かが確認される。これは、後述する実施例により明らかである。
【0046】
ここでは、正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格で定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0048】
[実施例1]
同一条件下でゴム劣化処理が施された2個のタイヤが実施例1とされた。これらのタイヤは、
図1に示されたライトトラック用と基本構成が同一である。これらのタイヤのサイズは205/75R16である。これらのタイヤのベルトの最外層(第三層)は左上がりの構造(
図4)を有している。ゴム劣化処理の要領は前述したとおりである。この実施例1のタイヤに対する酸素及び熱による劣化処理の各条件(酸素濃度、保持温度、保持期間)が表1に示される。上記2個のタイヤのうちの1個に対し、前述した剥離試験が行われた。剥離試験の結果である第三層第二層間のBB間剥離抗力の平均値、及び、BP間剥離抗力の平均値は、いずれも指数として表1に示される。この指数は、同一仕様のタイヤの新品時の剥離抗力を100としたものである。上記2個のうちの1個に対して前述した走行試験が行われた。試験用リムは、規定の16x5.5Kである。最長の試験走行距離は20000kmとされた。タイヤに設定されたスリップ角αは表1に示されるとおりである。スリップ角αの−(マイナス)記号は右向き傾斜を意味する。走行試験の結果である走行距離及び確認された損傷は、いずれも表1に示される。ベルト同士の剥離は「B/Bセパ」と表し、ベルトとカーカスプライとの剥離は「B/Pセパ」と表している。
【0049】
[実施例2−10]
実施例2から10は、そのいずれもが、ゴム劣化処理が施された2個のタイヤである。同一実施例における2個のタイヤのゴム劣化処理条件は互いに同一である。各実施例のタイヤに対する酸素及び熱による劣化処理の各条件(酸素濃度、保持温度、保持期間)が表1及び表2に示される。各実施例のタイヤの上記2個のうちの1個に対して前述した剥離試験が行われた。剥離試験の結果であるBB間剥離抗力の平均値、及び、BP間剥離抗力の平均値は、いずれも指数として表1及び表2に示される。その他の処理要領、タイヤの仕様及び構造、並びに、指数の算出方法は、上記実施例1と同じである。各実施例の上記2個のうちの1個に対して前述した走行試験が行われた。タイヤに設定されたスリップ角αは表1及び表2に示されるとおりである。その他の走行試験要領は実施例1と同じである。走行試験の結果である走行距離及び確認された損傷は、いずれも表1及び表2に示される。
【0050】
[比較例1−8、10]
比較例1から8及び10は、そのいずれもが、ゴム劣化処理が施された2個のタイヤである。同一比較例における2個のタイヤのゴム劣化処理条件は互いに同一である。各比較例のタイヤに対する酸素及び熱による劣化処理の各条件(酸素濃度、保持温度、保持期間)が表2及び表3に示される。各比較例のタイヤの上記2個のうちの1個に対して前述した剥離試験が行われた。剥離試験の結果であるBB間剥離抗力の平均値、及び、BP間剥離抗力の平均値は、いずれも指数として表2及び表3に示される。その他の処理要領、タイヤの仕様及び構造、並びに、指数の算出方法は、上記実施例1と同じである。各比較例の上記2個のうちの1個に対して前述した走行試験が行われた。タイヤに設定されたスリップ角αは表2及び表3に示されるとおりである。その他の走行試験要領は実施例1と同じである。走行試験の結果である走行距離及び確認された損傷は、いずれも表2及び表3に示される。
【0051】
[比較例9]
比較例9は、同一条件下でゴム劣化処理が施された2個のタイヤである。比較例9のタイヤに対する酸素及び熱による劣化処理の各条件(酸素濃度、保持温度、保持期間)が表2に示される。比較例9のタイヤの上記2個のうちの1個に対して前述した剥離試験が行われた。剥離試験の結果であるBB間剥離抗力の平均値、及び、BP間剥離抗力の平均値は、いずれも指数として表2に示される。その他の処理要領、タイヤの仕様及び構造、並びに、指数の算出方法は、上記実施例1と同じである。比較例9の上記2個のうちの1個に対して前述した走行試験が行われた。タイヤに設定されたスリップ角αは、表2に+(プラス)で示されるとおり、左向きに傾斜している。すなわち、スリップ角αの傾斜の向きは、ベルトの最外層のコードの傾斜の向き(左向き)と同一の向きである。その他の走行試験要領は実施例1と同じである。走行試験の結果である走行距離及び確認された損傷は、いずれも表2に示される。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
[剥離試験結果の評価]
評価の基準は、前述した、市場においてB/Bセパレーションが発生した古品タイヤの剥離抗力である。すなわち、BB間剥離の評価基準は、新品時のBB間剥離抗力の指数を100としたときの、目標値である上記古品タイヤのBB間剥離抗力指数(30以上60以下)である。また、BP間剥離の評価基準は、新品時のBP間剥離抗力の指数を100としたときの、目標値である上記古品タイヤのBP間剥離抗力指数(50以上70以下)である。実施例1から10のいずれも、BB間剥離抗力及びBP間剥離抗力ともに、市場での実勢を再現しているといえる。一方、比較例2から8のいずれも、BB間剥離抗力及びBP間剥離抗力のうち、少なくとも一方が、市場における実勢を再現し得ていない。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0056】
[走行試験結果の評価]
評価の基準は、前述した、市場においてB/Bセパレーションが発生した古品タイヤの内部損傷の状況である。表1から表3に示されるように、実施例1から10には、B/Bセパレーションが発生している。実施例1から10のいずれも、市場での内部損傷を再現し得ている。一方、比較例1から10のいずれにも、B/Bセパレーションは発生していない。比較例には、B/Pセパレーションが発生しているものがある。また、比較例1は、トレッドショルダー部の摩耗により、走行不能となっている。その他の比較例には、損傷は発生していない。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。