(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であることから、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発することにより有機材料を用いた有機EL素子を実用的なものにした。かかる有機EL素子は、電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層することにより構成されるものであり、両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m
2以上の高輝度が得られるというものである(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機EL素子の実用化のために多くの改良がなされている。例えば、積層構造の各種の役割がさらに細分化され、基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極がこの順に設けられた構造のものが知られており、このような素子では、高効率と耐久性が達成されている。
また発光効率の更なる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられ、燐光発光性化合物の利用も検討されている。
【0005】
有機EL素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られるが、発光効率の向上、駆動電圧の低減、長寿命化を実現するためには、電子や正孔を効率良く注入・輸送し、両者が効率良く再結合できる、キャリアバランスに優れた素子とする必要がある。
【0006】
有機EL素子に用いられる正孔注入材料としては、初期には銅フタロシアニン(CuPc)のようなフタロシアニン類が提案されたが(例えば、特許文献3参照)、可視域に吸収があることから、フェニレンジアミン構造を有する材料が広く用いられるようになった(特許文献4参照)。
一方、正孔輸送材料としては、ベンジジン骨格を含むアリールアミン系材料が用いられてきた(特許文献5参照)。
【0007】
代表的な発光材料であるトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq
3)は電子輸送材料として一般的に使用されているが、一般的に使用されている正孔輸送材料が持つ正孔移動度に比べ、Alq
3が持つ電子移動度が低いこと、Alq
3の仕事関数が5.8eVと十分な正孔阻止能力があるとは言えないため、このような正孔輸送材料の使用は、正孔の一部が発光層を通り抜けてしまい、効率が低下してしまうという問題がある。
【0008】
更に、陽極および陰極から発光層へ、正孔注入または電子注入を効率良く行うため、材料の持つイオン化ポテンシャルの値と電子親和力の値を段階的に設定し、正孔注入層および電子注入層それぞれについて2層以上積層した素子が開発されているが(特許文献6参照)、用いられている材料では、発光効率、駆動電圧、素子寿命のいずれにおいても十分であるとはいえない。
【0009】
また、従来公知の有機EL素子では、正孔輸送層が通常極めて薄膜であるため、陽極として使用するITO電極等の透明電極の表面の粗さの影響を受け、作製した素子のショート発生等による不良品発生確率が高かった。この場合、正孔輸送層の膜厚を厚くすると、ITO電極等の陽極の表面の粗さを覆い隠すことができ、作製した素子の不良品発生確率を下げることができる。しかし、正孔輸送層の膜厚を厚くすると駆動電圧が高くなってしまい、実用駆動電圧を超えてしまう。即ち、実用駆動電圧での発光が困難となってしまう。
【0010】
有機EL素子の素子特性の改善や素子作製の歩留まり向上のために、正孔および電子の注入・輸送性能、薄膜の安定性や耐久性に優れた材料を組み合わせることで、正孔および電子が高効率で再結合できる、発光効率が高く、駆動電圧が低く、長寿命な素子が求められている。
【0011】
また、有機EL素子の素子特性を改善させるために、正孔および電子の注入・輸送性能、薄膜の安定性や耐久性に優れた材料を組み合わせることで、キャリアバランスのとれた高効率、低駆動電圧、長寿命な素子が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、正孔および電子の注入・輸送性能、薄膜の安定性や耐久性に優れた有機EL素子用の各種材料を、それぞれの材料が有する特性が効果的に発現できるように組み合わせることで、高効率、低駆動電圧、長寿命の有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは上記の目的を達成するために、アリールアミン系材料が、正孔注入および輸送能力、薄膜の安定性や耐久性に優れていることに着目して、特定の2種類のアリールアミン化合物を選択し、発光層へ正孔を効率良く注入・輸送できるように組み合わせた種々の有機EL素子を作製し、素子の特性評価を鋭意行なった。その結果、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明によれば、陽極と陰極との間に、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層が設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔輸送層が、3個以上のトリフェニルアミン骨格が単結合或いは2価の炭化水素基で結合されている分子構造を有するアリールアミン化合物(X)と、2個のトリフェニルアミン骨格が単結合或いは2価の炭化水素基で結合されている分子構造を有するアリールアミン化合物(Y)とを
、X:Y=1:9〜6:4の重量比で含んでいる有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記アリールアミン化合物(X)が、下記一般式(1)で表されることが好ましい。
【化1】
式中、
r
1〜r
12は、それぞれ、R
1〜R
12の数を示すものであり、
r
1、r
2、r
5、r
8、r
11及びr
12は、0〜5の整数を表し、
r
3、r
4、r
6、r
7、r
9及びr
10は、0〜4の整数を表し、
R
1〜R
12は、それぞれ、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、
シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の無置換アル
キル基、炭素原子数2ないし6の無置換もしくは置換アルケニル基、無
置換もしくは置換芳香族炭化水素基または無置換もしくは置換芳香族複
素環基であり、これらの基の中で同一のベンゼン環に結合しているもの
同士は、互いに結合して環を形成していてもよく、
A
1〜A
3は、それぞれ、単結合或いは下記構造式(B)〜(F)で
表される2価の炭化水素基を表す。
【化2】
(式中、n1は1〜3の整数である)
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0017】
前記一般式(1)で表されるアリールアミン化合物(X)では、R
1〜R
12の少なくとも一つが、重水素原子もしくは重水素原子を含む基であることが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、前記アリールアミン化合物(Y)が、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【化7】
式中、
r
13〜r
18は、R
13〜R
18の数を示すものであり、r
13、r
14、r
1
7及びr
18は、0〜5の整数であり、r
15及びr
16は、0〜4の整数を表し、
R
13〜R
18は、それぞれ、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ト
リフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の無置換アルキル基、炭素原子数2ない
し6の無置換もしくは置換アルケニル基、無置換もしくは置換芳香族炭化水素基また
は無置換もしくは置換芳香族複素環基であり、これらの基の中で同一のベンゼン環に
結合しているもの同士は、互いに結合して環を形成していてもよく、
A4は、単結合または
上記構造式(B)〜(F)で表される2価の炭化水素基を示
す。
【0019】
前記一般式(2)で表されるアリールアミン化合物(Y)では、R
13〜R
18の少なくとも一つが、重水素原子、もしくは重水素原子を含む基であることが好ましい。
【0020】
上述した本発明の有機EL素子においては、前記アリールアミン化合物(X)とアリールアミン化合物(Y)とが、
X:Y=1:9〜4:6、特に1:9〜2:8の重量比で前記正孔注入・輸送層に含まれているのがよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機EL素子では、トリフェニルアミン骨格を分子中に3個以上有するアリールアミン化合物(X)と、トリフェニルアミン骨格を分子中に2個有するアリールアミン化合物(Y)とにより正孔輸送層が形成されていることが顕著な特徴である。
即ち、このようなアリールアミン化合物(X)及び(Y)が組み合わせて含まれている正孔輸送層は、正孔の移動速度が速く、薄膜状態が安定に維持され且つ優れた耐熱性を示す。
従って、本発明の有機EL素子は、正孔輸送層から発光層への正孔を効率よく注入・輸送でき、高い発光効率を示し、駆動電圧も低く、この結果、長寿命化も実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層がこの順に形成されているという基本構造を有しているものであり、特に、正孔輸送層が、トリフェニルアミン骨格を有する2種のアリールアミン化合物(X),(Y)により形成されているという構造を有している。
以下、この有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0024】
<陽極>
陽極は、透明プラスチック基板(例えばポリエチレンテレフタレート基板)やガラス基板などの透明基板上への蒸着により設けられるものであり、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料により形成される。
【0025】
<正孔輸送層>
既に述べたように、発光層に対して陽極側に位置する正孔輸送層にはトリフェニルアミン骨格を有する2種のアリールアミン化合物(X),(Y)が含まれる。
【0026】
アリールアミン化合物(X);
一方のアリールアミン化合物(X)は、トリフェニルアミン骨格を3個以上有するものであり、これらのトリフェニルアミン骨格は、単結合、或いは2価の炭化水素基(即ち、ヘテロ原子を含まない2価の基)で結合されている。このアリールアミン化合物(X)は、後述するアリールアミン化合物(Y)と比較しても正孔移動度が高い。
【0027】
このようなアリールアミン化合物(X)は、例えば種々のトリフェニルアミンの3量体あるいは4量体などであり、特に正孔移動度が高いという点で、トリフェニルアミン骨格を4個有しているものが好ましい。このような4個のトリフェニルアミン骨格を有するアリールアミンとしては、下記の一般式(1)で表されるものを挙げることができる。
【化8】
【0028】
上記の一般式(1)において、r
1〜r
12は、分子中の各ベンゼン環に結合し得る基R
1〜R
12の数を示すものであり、r
1、r
2、r
5、r
8、r
11及びr
12は、0〜5の整数を表し、r
3、r
4、r
6、r
7、r
9及びr
10は、0〜4の整数を表す。即ち、r
1〜r
12の値が0であることは、当該ベンゼン環には基R
1〜R
12が結合していないことを意味する。
【0029】
R
1〜R
12は、同一でも異なってもよく、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の無置換アルキル基、炭素原子数
2ないし6の無置換もしくは置換アルケニル基、無置換もしくは置換芳香族炭化水素基または無置換もしくは置換芳香族複素環基を示す。また、基R
1〜R
12の中で複数存在するものは(r
1〜r
12が2以上の場合)、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0030】
上記のR
1〜R
12において、炭素原子数1ないし6の無置換アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0031】
炭素原子数2ないし6の無置換アルケニル基も、直鎖状でも分岐状でもよく、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基等を例示することができる。
【0032】
芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基
、インデニル基、ピレニル基等を挙げることができる。
【0033】
芳香族複素環基としては
、ピリジル基、ピリミジル基、フ
リル基、ピロ
リル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基等を例示することができる。
【0034】
また、上記のアルケニル基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、何れも置換基を有していてもよい。このような置換基は、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6のアルキル基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基を例示することができ、これらの置換基はさらに置換基を有しても良い。
【0035】
さらに、基R
1〜R
12の中で複数存在するものが互いに結合して環を形成する場合、単結合を介して互いに結合して環を形成していてもよいし、或いは置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。特に、ジメチルメチレン基を介して互いに結合して環を形成していることが好ましい。
【0036】
本発明においては、R
1〜R
12の少なくとも一つが、重水素原子であるか、或いは重水素原子を含む基、例えば重水素原子を置換基として有するアルケニル基、芳香族炭化水素基もしくは芳香族複素環基であることが好ましい。
【0037】
また、一般式(1)において、A
1〜A
3は、トリフェニルアミン骨格同士の結合部分に相当するものであり、単結合或いは2価の炭化水素基を示す。
この2価の炭化水素基、即ち、ヘテロ原子を含まない2価の基としては、下記構造式(B)〜(F)で表されるものを挙げることができる。
【0038】
【化9】
(式中、n1は1〜3の整数である)
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0039】
本発明において使用するトリフェニルアミン骨格を3個以上有するアリールアミン化合物(X)の具体例として、以下の(1−1)〜(1−20)の化合物を挙げることができるが、これらの中でも、上述した一般式(1)で表されるトリアリールアミン(トリフェニルアミン骨格を4個有するもの)が特に好ましい。
【0060】
アリールアミン化合物(Y);
上述したアリールアミン化合物(X)と併用されるアリールアミン化合物(Y)は、トリフェニルアミン骨格を2個有するものであり、これに限定されるものではないが、例えば下記の一般式(2)で表わされる。
【化34】
【0061】
上記一般式(2)において、r
13〜r
18は、分子中にベンゼン環に結合し得る基
R13〜
R18の数を示すものであり、r
13、r
14、r
17及びr
18は、0〜5の整数であり、r
15及びr
16は、0〜4の整数を表す。即ち、r
13〜r
18の値が0であるときは、当該ベンゼン環には基
R13〜
R18が結合していないことを意味する。
【0062】
R
13〜R
18は、同一でも異なってもよく、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の無置換アルキル基、炭素原子数
2ないし6の無置換もしくは置換アルケニル基、無置換もしくは置換芳香族炭化水素基または無置換もしくは置換芳香族複素環基を示す。また、R
13〜R
18が複数存在するものは(r
13〜r
18が2以上の場合)、互いに結合して環を形成していても良い。
【0063】
上記のR
13〜R
18において、炭素原子数1ないし6の無置換アルキル基または炭素原子数2ないし6の無置換アルケニル基は、直鎖状若しくは分岐状でもよく、具体的には、R
1〜R
12について例示したものと同じアルキル基及びアルケニル基を挙げることができる。
芳香族炭化水素基または芳香族複素環基の具体例としては、R
1〜R
12の場合と同様な基をあげることができる。
【0064】
さらに、上記のアルケニル基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は置換基を有していてもよく、このような置換基としても、R
1〜R
12について挙げた置換基と同じ基を挙げることができる。
【0065】
また、基R
13〜R
18の中で複数存在するものが互いに結合して環を形成する場合、単結合を介して互いに結合して環を形成していてもよいし、或いは置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。特に、ジメチルメチレン基を介して互いに結合して環を形成していることが好ましい。
【0066】
本発明において、R
13〜R
18の少なくとも一つが、重水素原子若しくは重水素原子を含む置換基(例えば、置換基として重水素原子を有するアルケニル基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基)であることが好ましい。
【0067】
また、一般式(2)において、A
4は、トリフェニルアミン骨格同士の結合部分に相当するものであり、単結合或いは2価の炭化水素基を示す。この2価の炭化水素基としては、前記構造式(B)〜(F)で表わされる。
【0068】
上述した一般式(2)で表されるアリールアミン化合物(Y)の好適な例としては、
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン
(TPD)、
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(α−ナフチル)ベンジジン
(NPD)、
1,1−ビス[4−(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン
(TAPC)、
及び、以下に挙げる(2−1)〜(2−26)の化合物を例示することができる。
【0069】
【化35】
[N,N,N’,N’−テトラビフェニリルベンジジン]
【0095】
また、一般式(2)で表されるものではないが、以下の(2’−1)及び(2’−2)の化合物も、トリフェニルアミン骨格を2個有するアリールアミン化合物(Y)として好適に使用される。
【0098】
尚、上述したアリールアミン化合物(X)及びアリールアミン化合物(Y)は、それ自体公知の方法によって合成することができる(例えば、特許文献7〜9参照)。
【0099】
本発明の有機EL素子の正孔輸送層は、上述した2種のアリールアミン化合物(X)とアリールアミン化合物(Y)とを含むものであり、このような2種のアリールアミン化合物(X)及び(Y)を使用することにより、正孔の移動速度が速く、高い発光効率を確保でき、駆動電圧を低くすることができる。また、駆動電圧が低いことに加えて、正孔輸送層の薄膜状態が安定に維持されるため、有機EL素子の長寿命化も実現できることとなる。
【0100】
本発明において、前記正孔輸送層に含まれるアリールアミン化合物(X)及びアリールアミン化合物(Y)の
重量比(X:Y)は、1:9〜6:4であり、好ましくは、1:9〜4:6であり、最も好ましくは、1:9〜2:8である。即ち、何れか一方の化合物のみにより正孔輸送層が形成されている場合には、正孔の移動速度と電子の移動速度とのバランスが崩れてしまい、2種のアリールアミン化合物が併用されている場合ほど、高い発光効率を得ることができず、また駆動電圧の低減化も実現できない。
【0101】
また、この正孔輸送層には、従来公知の正孔輸送層を形成するそれ自体公知の材料が含まれていてもよく、公知の材料を用いて形成された層が積層された積層構造を有するものであってもよい。例えば、トリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンなどをPドーピングした層が、独立した層として上記の2種のアリールアミン化合物を含む層に積層されていてもよい。
【0102】
本発明の有機EL素子において、上記のような2種のアリールアミン化合物を含む正孔輸送層の厚みは、通常40〜60nm程度であるが、低い駆動電圧で発光させることができるため、その厚みを例えば100nm以上に厚くした場合にも駆動電圧の上昇を抑えることができる。即ち、正孔輸送層の厚みの自由度が高く、例えば、20〜300nm、特に20〜200nmの厚みで実用駆動電圧を維持できる。
【0103】
このような正孔輸送層は、上述した2種のアリールアミン化合物(X)及びアリールアミン化合物(Y)を含む混合ガスを用いての共蒸着により形成することが好ましいが、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によっても形成することができる。
【0104】
<発光層>
発光層は、従来公知の有機EL素子に使用されているものと同じであり、用いる材料の種類に応じて、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法等の公知の方法によって形成される。
【0105】
例えば、Alq
3等のキノリノール誘導体の金属錯体のほか、亜鉛、ベリリウム、アルミニウムなどの各種金属の錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などの発光材料を用いて発光層を形成することができる。
【0106】
また、ホスト材料及びドーパント材料(ゲスト材料)を用いて発光層を形成することもできる。この場合、ホスト材料としては、上記の前記発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。ドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。
【0107】
更に、ゲスト材料として燐光発光体を使用することも可能である。燐光発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。例えば、Ir(ppy)
3などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp
2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体などが用いられる。
このときのホスト材料としては、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、TCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などの正孔注入・輸送性のホスト材料を用いることができ、p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)、2,2’,2’’−(1,3,5−フェニレン)−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール)(TPBI)などの電子輸送性のホスト材料も使用することができる。このようなホスト材料を使用することにより高性能の有機EL素子を作製することができる。
【0108】
尚、燐光発光体のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1〜30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0109】
尚、かかる発光層は、単層構造に限定されるものではなく、上述した各種の化合物を用いて形成された層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
【0110】
<電子輸送層>
電子輸送層は、それ自体公知の電子輸送材料から形成されていてよく、Alq
3等のキノリノール誘導体の金属錯体のほか、亜鉛、ベリリウム、アルミニウムなどの各種の金属錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体などを用いることができる。
【0111】
本発明において、このような電子輸送層は、用いる材料の種類に応じて、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法等の公知の方法によって形成される。
また、かかる電子輸送層は、単層構造に限定されるものではなく、上述した各種の化合物を用いて形成された層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
【0112】
<陰極>
本発明の有機EL素子の陰極としては、アルミニウムのような仕事関数の低い金属や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0113】
<その他の層>
本発明の有機EL素子は、上述の基本構造を有している限り、必要に応じてその他の層を有していてもよい。例えば、陽極と正孔輸送層との間に正孔注入層を設けることができ、正孔輸送層と発光層との間には電子阻止層を設けることができる。また、発光層と電子輸送層との間に正孔阻止層を設けることができる。さらに、電子輸送
層と陰極との間には、電子注入層を設けることができる。これらの正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層及び電子注入層は、それ自体公知の材料から形成されていてよく、何れも用いる材料の種類に応じて、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法等の公知の方法によって形成される。
【0114】
正孔注入層;
陽極と正孔輸送層との間に形成される正孔注入層は、前述したアリールアミン化合物(X)により正孔注入層が形成されていることが好ましい。即ち、このアリールアミン化合物(X)は、正孔移動度が極めて大きいからである。
【0115】
電子阻止層;
電子阻止層を形成するための材料としては、電子阻止性を有する種々の化合物を使用することができ、下記のカルバゾール誘導体が代表的である。
4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン
(TCTA);
9,9−ビス[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]フルオレン;
1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP);
2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンタン
(Ad−Cz);
また、上記のカルバゾール誘導体以外にも、9−[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]−9−[4−(トリフェニルシリル)フェニル]−9H−フルオレンに代表されるトリフェニルシリル基を有しており且つトリアリールアミン骨格を分子中に有している化合物なども、電子阻止層形成用の材料として使用することができる。
【0116】
正孔阻止層;
正孔阻止層は、バソクプロイン(BCP)などのフェナントロリン誘導体、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノレート(BAlq)などのキノリノール誘導体の金属錯体の他、各種の希土類錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体など、正孔阻止作用を有する化合物により形成される。
【0117】
電子注入層;
電子注入層は、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などを用いて形成することができる。
【0118】
尚、上述した正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層も、それぞれ、単層構造であってもよいし、複数の層から形成されていてもよい。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例において、2種の化合物の重量比は、それぞれの化合物を単独で用いて同条件で蒸着を行ったときの蒸着速度(成膜速度)から算出したものである。
【0120】
<実施例1>
下記の手順で、
図1に示す構造の有機EL素子を作製した。即ち、この有機EL素子は、ガラス基板1上に透明陽極2(ITO電極)、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極(アルミニウム電極)8が順に蒸着により設けられた構造を有している。
【0121】
先ず、膜厚150nmのITO(Indium Tin Oxide)を成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥を行った。その後、UVオゾン処理を5分間行った後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.001Pa以下まで減圧した。
続いて、下記化合物(1−1)を用いての蒸着により、透明陽極2を覆うように膜厚20nmの正孔注入層3を形成した。
この正孔注入層3の上に、正孔輸送層4として下記化合物(1−1)と下記化合物(2−1)とを、重量比が20:80となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した。
この正孔輸送層4の上に、発光層5として下記化合物(3)と下記化合物(4)とを、重量比が5:95となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚30nmとなるように形成した。
この発光層5の上に、電子輸送層6としてAlq
3を膜厚30nmとなるように蒸着した。
この電子輸送層6の上に、電子注入層7としてフッ化リチウムを膜厚0.5nmとなるように蒸着した。
最後に、アルミニウムを150nm蒸着して陰極8を形成した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0122】
【化63】
【0123】
【化64】
【0124】
【化65】
【0125】
【化66】
【0126】
<実施例2>
実施例1において、正孔輸送層4として前記化合物(1−1)と、前記化合物(2−1)とを、重量比が10:90となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0127】
<実施例3>
実施例1において、正孔輸送層4として前記化合物(1−1)と前記化合物(2−1)とを、重量比が40:60となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0128】
<実施例4>
実施例1において、正孔輸送層4として前記化合物(1−1)と前記化合物(2−1)とを、重量比が60:40となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0129】
<比較例1>
比較のために、実施例1において、正孔輸送層4として前記化合物(2−1)を膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0130】
<比較例2>
比較のために、実施例1において、正孔輸送層4として前記構造式の化合物1−1を膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0131】
<比較例3>
比較のために、実施例1において、正孔輸送層4として前記化合物(1−1)と前記化合物(2−1)とを、重量比が80:20となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0132】
【表1】
【0133】
表1に示す様に、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの駆動電圧は、実施例1〜4の素子の場合(4.9〜5.0V)、比較例1〜3の素子の場合(5.2〜5.8V)より低電圧化した。そして、発光効率においても、実施例1〜4の素子の場合(8.6〜9.1cd/A)は、比較例1〜3の素子の場合(7.5〜8.3cd/A)より向上しており、従って、電力効率においては、実施例1〜4の素子の場合(5.4〜5.6lm/W)、比較例1〜3の素子の場合(4.3〜4.4lm/W)より大きく向上する結果となった。
【0134】
<実施例5>
実施例1において、正孔輸送層4として下記化合物(1−16)と、下記化合物(2−22)とを、重量比が20:80となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表2にまとめて示した。
【0135】
【化67】
【0136】
【化68】
【0137】
<実施例6>
実施例5において、正孔輸送層4として前記化合物(1−16)と、前記化合物(2−22)とを、重量比が10:90となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表2にまとめて示した。
【0138】
<比較例4>
比較のために、実施例5において、正孔輸送層4として前記化合物(2−22)を膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表2にまとめて示した。
【0139】
<比較例5>
比較のために、実施例5において、正孔輸送層4として前記化合物(1−16)を膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。
作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表2にまとめて示した。
【0140】
【表2】
【0141】
表2に示す様に、電流密度10mA/cm
2の電流を流したときの駆動電圧は、実施例5〜6の素子の場合(5.0V)、比較例4〜5の素子の場合(5.2〜5.3V)より低電圧化した。そして、発光効率においても、実施例5〜6の素子の場合(8.9〜9.1cd/A)は、比較例4〜5の素子の場合(7.8〜8.3cd/A)より向上しており、従って、電力効率においては、実施例5〜6の素子の場合(5.5〜5.6lm/W)、比較例4〜5の素子の場合(4.5〜4.9lm/W)より大きく向上する結果となった。
【0142】
<有機EL素子の寿命評価>
実施例1、比較例1および比較例2と同一の有機EL素子を用いて、素子寿命を測定した結果を表3にまとめて示した。素子寿命は、発光輝度1000cd/m
2で発光させた時の電流量(W)を一定とした時の発光輝度について、初期輝度を100%とした時、輝度が95%まで減衰する時間を測定して求めた。
【0143】
【表3】
【0144】
表3に示す様に、実施例1の素子の場合(62時間)、比較例1〜2の素子(15〜25時間)に対し、大幅に長寿命化していることが分かる。
【0145】
本発明の有機EL素子は、特定の2種類のアリールアミン化合物を組み合わせることによって、有機EL素子内部のキャリアバランスを改善し、従来の有機EL素子と比較して、低駆動電圧、高発光効率、長寿命の有機EL素子を実現できることがわかった。