(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ねじ末端が雄型又は雌型によりその外周表面又は内周表面に設けられたねじ領域(3;4)を含む炭化水素坑井の掘削又は作業のための管状コンポーネントのねじ末端(1;2)であって、
前記末端(1;2)の少なくとも一部が、イオン交換顔料が3重量%〜30重量%の割合で分散された有機マトリックスを含む乾燥フィルムでコーティングされ、
前記顔料が、カルシウムイオン交換非晶質シリカ、亜鉛イオン交換非晶質シリカ、コバルトイオン交換非晶質シリカ、ストロンチウムイオン交換非晶質シリカ、リチウムイオン交換非晶質シリカ、マグネシウムイオン交換非晶質シリカ及び/又はイットリウムイオン交換非晶質シリカ;カルシウムイオン交換ゼオライト、モリブデンイオン交換ゼオライト及び/又はナトリウムイオン交換ゼオライト;並びに、カルシウムイオン交換ベントナイト及び/又はセリウムイオン交換ベントナイト;からなる群から選択されるカチオン交換顔料を含み、
前記顔料が、バナジン酸塩イオン交換のハイドロタルサイトにより構成されるアニオン交換顔料を含む、
管状コンポーネントのねじ末端。
前記有機マトリックスは、接触圧での剪断強度が少なくとも500MPaであり、かつ、肩トルク抵抗値が、API基準RP5A3に適合するグリースで得られる剪断強度と同等かそれ以上である、請求項1記載の管状コンポーネントのねじ末端。
前記有機マトリックスが、ポリアミド、ポリエチレンワックス、酸二量体に基づくコポリアミド、エステル化コロファン(colophane)、テルペン樹脂、スチレン−テルペン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフルオロアルキル及びポリエーテルスルホンからなる群から選択される、請求項3記載の管状コンポーネントのねじ末端。
前記ポリウレタンマトリックスが、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて、フルオロウレタン重合体を水性分散又は溶媒基剤中で硬化させて得られる、請求項8記載の管状コンポーネントのねじ末端のコーティング方法。
前記ポリウレタンマトリックスが、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて、固体ポリエステルポリオールを硬化させて得られる、請求項8記載の管状コンポーネントのねじ末端のコーティング方法。
前記末端部分(1;2)が、前記末端部分を前記乾燥フィルムでコーティングする前に、サンダー仕上げ、化成処理及び電解堆積からなる群から選択される表面調製工程により前処理される、請求項1〜11のいずれか1項記載の管状コンポーネントのねじ末端のコーティング方法。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
より詳細には、本発明は、上記技術的仕様の全て又は一部を解決することが意図される。
【0008】
本発明は、ねじ末端が雄型又は雌型によりその外周表面又は内周表面に設けられたねじ領域を含む炭化水素坑井の掘削又は作業のための管状コンポーネントのねじ末端に関する。前記末端の少なくとも一部が、イオン交換顔料が3重量%〜30重量%の割合で分散された有機マトリックスを含む乾燥フィルムでコーティングされる。
【0009】
補完的又は代用的な随意的な特徴を以下に定義する。
【0010】
顔料は、カルシウムイオン交換非晶質シリカ、亜鉛イオン交換非晶質シリカ、コバルトイオン交換非晶質シリカ、ストロンチウムイオン交換非晶質シリカ、リチウムイオン交換非晶質シリカ、マグネシウムイオン交換非晶質シリカ及び/又はイットリウムイオン交換非晶質シリカ;カルシウムイオン交換ゼオライト、モリブデンイオン交換ゼオライト及び/又はナトリウムイオン交換ゼオライト;並びに、カルシウムイオン交換ベントナイト及び/又はセリウムイオン交換ベントナイトからなる群から選択されるカチオン交換顔料を含んでよい。
【0011】
顔料は、バナジン酸塩イオン交換のハイドロタルサイト等のアニオン交換顔料を含んでよい。
【0012】
有機マトリックスの剪断強度は、少なくとも500MPaの接触圧で、API基準RP5A3に基づいたグリースから得られる剪断強度と同等かそれ以上であってよい。同時に、有機マトリックスの肩トルク抵抗値は、API基準RP5A3に基づいたグリースから得られる肩トルク抵抗値と同等かそれ以上であってよい。
【0013】
有機マトリックスは熱可塑性マトリックスであってよい。
【0014】
有機マトリックスは、ポリアミド、ポリエチレンワックス、酸二量体ベースのコポリアミド、エステル化コロファン(colophane)、テルペン樹脂、スチレン−テルペン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフルオロアルキル及びポリエーテルスルホンにからなる群から選択されてよい。
【0015】
有機マトリックスはポリエチレンワックスを含んでよい。
【0016】
有機マトリックスはコポリアミド樹脂を含んでよい。
【0017】
有機マトリックスは熱硬化マトリックスであってよい。
【0018】
有機マトリックスはポリウレタンを含んでよい。
【0019】
ポリウレタンマトリックスは、フルオロウレタン重合体を、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて水性分散又は溶媒基剤中で硬化させて得てよい。
【0020】
ポリウレタンマトリックスは、固体のポリエステルポリオールを、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて硬化させて得てよい。
【0021】
ポリウレタンマトリックスは、ハイブリッド型アクリル−ウレタン共重合体をUV硬化した後、湿式重合させて得てよい。
【0022】
末端部分は、末端部分を乾燥フィルムでコーティングする前に、サンダー仕上げ、化成処理及び電解堆積からなる群から選択される1の表面調製工程により前処理されてよい。
【0023】
有機マトリックスはさらに、固体潤滑剤粒子を含んでよい。
【0024】
有機マトリックスはさらに、腐食防止剤を含んでよい。
【0025】
ねじ領域は少なくとも一部が乾燥フィルムでコーティングされてよい。
【0026】
ねじ末端は、乾燥フィルムでコーティングされるメタル/メタル封止表面を含んでよい。
【0027】
本発明はまた、互いに組み合わせられる雄ねじ末端及び雌ねじ末端を含み、ねじ末端の少なくとも一方が本発明の乾燥フィルムでコーティングされるねじ山付き管状接続部に関する。
【0028】
乾燥フィルムでコーティングされる末端は前記雌ねじ末端であってよい。
【0029】
本発明の特徴及び有利な点を、添付の図面を参照して、以下により詳しく記載する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に示すねじ山付き接続部は、雄型末端1を備える回転軸10がある第1の管状コンポーネントと、雌型末端2を備える回転軸10がある第2の管状コンポーネントとを含む。当該2つの末端(1及び2)は各々ねじ山付き接続部の軸10に関して半径方向に配向する終端表面で終わり、当該末端には、組立によるこれら当該2つのコンポーネントの相互接続のために相互に協同するねじ領域3及びねじ領域4がそれぞれ備わる。ねじ領域(3及び4)は、台形型、自動ロック式等のねじタイプであってよい。さらに、2つのねじ山付きコンポーネントを組立て接続した後で互いに締まり接触させる目的のメタル/メタル封止表面(5、6)が、ねじ領域(3、4)に近い雄型末端及び雌型末端に各々施される。最後に、当該2つの末端が互いに組み合わせられた場合、雄型末端1は、雌型末端2に施される対応する表面8に対して隣接する終端表面7で終わる。本出願人はまた他の態様を開発してきたが、それは、この場合に2つの接触表面(7及び8)により形成される隣接部がねじ領域(3、4)の自動ロック式の締まり協同により置換されるものである(米国特許第4822081号、米国再発行特許第30467号及び米国再発行特許第34467号を参照)。
【0035】
図1及び
図3に見られるように、ねじ山付き管状接続部の少なくとも一方は、下地11というその末端の一方の少なくとも一部分が、イオン交換顔料を含有する有機マトリックスを含む乾燥フィルム12でコーティングされる。乾燥フィルム12はねじ領域(3、4)を少なくとも部分的に覆ってよい。乾燥フィルム12はメタル/メタル封止表面(5、6)を少なくとも部分的に覆ってよい。
図1に例示する態様では、乾燥フィルム12がねじ領域4の中央領域に形成される。
【0036】
塗料タイプのコーティングでイオン交換顔料を腐食防止剤に用いるのは最近のことであり、極めて毒性であることが知られているクロム酸亜鉛系腐食防止剤等従来の腐食防止剤から徐々に置換されている点で積極的に貢献している。イオン交換顔料の保護機構が、水性基剤及び/又は溶媒基剤の有機コーティングで優先的に研究されている。
【0037】
イオン交換顔料の作用機構は、以下の
・コーティング12に存在する攻撃的イオンの吸着、
・下地11及びコーティング12の境界部13を不動態化する、表面不溶性保護層の形成
をもたらす、2つの異なる段階に基づく電気化学的プロセスとして記載されうる。
【0038】
本出願人は、カチオン交換シリカ、より具体的には、非常に良好な結果が得られるカルシウムイオン交換シリカに特に注目してきた。保護機構が、スチール下地11、水、酸素及び水酸化物イオンを含有する湿潤環境の場合を
図3に詳細に示す。金属の鉄原子は一般に、領域Aの陽極腐食部位で、電気化学的機構1aで第一鉄イオン(Fe
2+)に酸化され、第2段階で第二鉄イオン(Fe
3+)に酸化されてよい。
【0039】
有機コーティング12の透過性のため、酸素及び水は、コーティング12及び下地11の境界部13に存在することができ、当該境界部13で、酸素が領域Cでの陰極反応による電気化学的機構1bにより水酸化物イオン(OH
−)に還元される。
【0040】
シリカは、コーティング12のアルカリ性の関数としての電気化学的機構2aによりケイ酸塩イオンとなり溶解しうる。イオン交換顔料の当該可溶部分は、コーティング12及び下地11の境界部13において電気化学的機構3aにより第二鉄イオンと反応してよく、これにより、ケイ酸第二鉄4aの保護層を形成する。
【0041】
この反応と同時に、シリカ顔料の表面に存在するカルシウムイオンが、電気化学的機構2aにより、攻撃的なH
+イオンのシリカ表面での吸着の後で放出され、そして、電気化学的機構3bによる反応で、金属4bの表面でのアルカリ性領域でケイ酸塩イオンと反応して、ケイ酸カルシウムのフィルムを形成する。
【0042】
ケイ酸カルシウム粒子はケイ酸第二鉄の粒子と共に沈殿し、金属表面の混合酸化物の層の形成により不溶性の保護層を強化してもよい。
【0043】
当該機構案はまた、犠牲陽極腐食部位でZnSiO
3の保護層が形成されることで亜鉛等の鉄以外の金属原子についても有効である。耐食性を高める目的で、リン酸塩皮膜処理型表面調製又は電解堆積を行う場合、亜鉛が含まれる。
【0044】
その構造のため、カチオン交換シリカはまた、以下の:
・顔料表面が高度に塩基性であることは、コーティングで酸性化合物が中和されることを意味する(低アルカリ度コーティングは保護機構には不都合である);
・従来の無機の腐食防止剤顔料と比較して低密度及び大比表面積は、少量にもかかわらず良好な効率を示す;
・カチオン交換シリカが万能であることは、熱可塑性樹脂又は熱硬化樹脂等の広範囲のバインダーが、水性基剤、溶媒基剤又はホットメルト基剤で用いられうることを意味する
利点がある。
【0045】
用いることができるカチオン交換顔料は、合成カルシウムイオン交換非晶質シリカ顔料、合成亜鉛イオン交換非晶質シリカ顔料、合成コバルトイオン交換非晶質シリカ顔料、合成ストロンチウムイオン交換非晶質シリカ顔料、合成リチウムイオン交換非晶質シリカ顔料、合成マグネシウムイオン交換非晶質シリカ顔料若しくは合成イットリウムイオン交換非晶質シリカ顔料、カルシウムイオン交換合成ゼオライト、モリブデンイオン交換合成ゼオライト若しくはナトリウムイオン交換合成ゼオライト又はカルシウムイオン交換合成ベントナイト若しくはセリウムイオン交換の合成ベントナイトである。
【0046】
アニオン交換顔料に関して、アニオン交換反応はより具体的に、バナジン酸塩イオン交換のハイドロタルサイト等の塩化物イオンを含有する攻撃的な電解質により生じる。
【0047】
有機マトリックスの選定は好ましくは、少なくとも500MPaの接触圧での剪断強度が、API基準RP5A3に適合するグリースから得られる剪断強度と同等かそれ以上であり、かつ、肩トルク(torque on Shoulder)値が、API基準RP5A3に適合するグリースから得られる肩トルク値と同等かそれ以上である有機マトリックスに向けられる。少なくとも500MPaの接触圧での剪断強度は肩トルク値に関連する。肩トルク値からより高い高圧剪断強度が得られ、この場合、後者は、Bridgman型装置の試験を用いたAPIグリースの参照トルクについて決定される。試験を以下の本明細書で詳細に記載する。
【0048】
第1類有機マトリックス、すなわち、熱可塑性樹脂、より具体的には、ポリアミド、ポリエチレンワックス、酸二量体ベースのコポリアミド、エステル化コロファン、テルペン樹脂、スチレン−テルペン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフルオロアルキル及びポリエーテルスルホンが研究されてきた。
【0049】
第2類有機マトリックス、すなわち、熱硬化樹脂、より具体的には、ポリウレタンが研究されてきた。ポリウレタンを得る以下のいくつかの方法が想定されてきた:
・フルオロウレタン重合体を、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて水性分散又は溶媒基剤中で硬化させること;
・固体のポリエステルポリオールを、ポリイソシアネート型硬化剤を用いて硬化させること;
・ハイブリッド型アクリル−ウレタン共重合体を、UV重合の後、湿式重合により水性分散又は溶媒基剤中で硬化させること。
【0050】
本出願人は当初、カルシウムイオン交換シリカに対して腐食試験を行った。より具体的には製造者GRACE DAVISIONの商品名SHIELDEX AC5で販売されるカルシウムイオン交換の合成非晶質シリカに対して腐食試験を行った。
【0051】
本出願人は、様々な熱可塑性マトリックスにおけるカルシウムイオン交換シリカがもたらす防食を決定した。この場合、前記マトリックスはまた場合によって、固体潤滑剤又は腐食防止剤等の補助的な添加剤を含む。
【0052】
同様に、場合によっては、試験試料は当初、乾燥フィルムコーティング処理の前に、サンダー仕上げ、リン酸塩皮膜処理等の化成処理又はCu−Sn−Zn等の電解堆積からなる群から選択される表面調製工程を行った。
【0053】
腐食試験は、以下の条件:
35℃、50g/Lの食塩水溶液。但し、食塩水溶液は、25℃で1.029〜1.036の密度、25℃で6.5〜7.2のpHであり、かつ、1.5mL/hの平均速度で回収される;
で気候チャンバーで行った塩水噴霧試験からなる。
【0054】
錆が起こらず損傷がない試料はその後、暴露後のISO基準9227のReOクラスに対応しなければならなかった。本方法は、防食性コーティングの有無にかかわらず金属性材料の比較特性が維持されることを確認する手段を提供する。
【0055】
耐水性試験は、気候チャンバーで行うDIN基準50017に適合した加速腐食試験に試料を供したことからなる。この試験は、1日1回サイクルを含み、水蒸気を以下の条件:
:35℃、90%相対湿度、8時間の後、試料を乾燥させる;で凝縮させて堆積させたことからなり、7サイクル後、コーティングで保護される下地が腐食しているか否かを調べる検査を行う。
【0056】
抵抗性が優れるとは、ISO基準4628の以下の分類:Niの中間層を伴う、リン酸亜鉛処理(8〜20g/m
2のリン酸堆積物)で処理されるか又はCu−Sn−Zn三元合金の電解堆積物で処理される炭素鋼プレートの腐食がないこと;膨れがないこと;亀裂形成がないこと;又は剥離がないこと;に対応すべきことをいう。
【0057】
得られた結果を、従来の有機又は無機の腐食防止剤、すなわち、過アルカリ化スルホン酸カルシウム誘導体及び水和オルトリン酸ケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛、で得られる結果と比較した。
【0058】
最初に、本出願人は、電解Cu−Sn−Zn堆積物で処理した後、様々な従来の無機の腐食防止剤顔料(試料A、試料B、試料D)及びSHIELDEX(試料C)を含むポリエチレンワックス(ホモ重合体)等の粘塑性的タイプの一成分マトリックスでコーティングした炭素鋼表面の防食を決定した。以下の表1は、カルシウムイオン交換シリカを用いると、既知の顔料系又はワックス系の腐食防止剤と比較して耐食性が少なくとも50%高まることを示す。
【表1】
【0059】
上記第1の結果から、本出願人は防食が十分でありうる限界濃度を決定しようとした。
【表2】
【0060】
表2は、カルシウムイオン交換シリカの10重量%の限界濃度から防食効果があることを示す。より高い濃度では、防食はわずかに増大するものの、顔料が多量であるとフィルムが不均質となり、これにより、望ましくない多孔性が生じると考えられる。
【0061】
カルシウムイオン交換シリカの10重量%の最適濃度に基づき、本出願人は、事前に表面調製工程が施された炭素鋼表面について、接着特性が異なるいくつかの熱可塑性マトリックスの防食を比較した。この場合、表面調製は電解Cu−Sn−Zn堆積物であった。
【0063】
10%オルトリン酸ケイ酸ストロンチウムカルシウム亜鉛及び10%リン酸亜鉛等の他の無機顔料で得られた結果(表4)と比較すると、カルシウムイオン交換シリカは、用いる熱可塑性マトリックスにかかわらず、特に純粋なコポリアミド樹脂で、比較的多様な防食性がある。すなわち、イオン交換シリカの保護機構は、従来の陰極型機構及び/又は陽極型機構がもはや適用され得ないことを意味する。
【表4】
【0064】
表5に示すように、本出願人は、耐食保護性能に対する粒子サイズの重要性を確認した。平均粒子サイズが小さいカルシウムイオン交換シリカを、20μm以下の副層(sub‐layer)系コーティングに用いるのが望ましい。本出願人はまた、粒子サイズが小さいとコーティング厚がより薄くなり得ることが示されることを確認した。
【表5】
【0065】
その後、本出願人は、カルシウムイオン交換シリカの粒子サイズが小さくなるに比例して乾燥コーティング厚が薄くなると、防食性が2倍高まるという非常に興味深い塩水噴霧試験結果が得られたことを確認した。当該結果は、ショルダーリング(shouldering)期ではそれほど妨げにならないより薄い熱可塑性マトリックスでも潤滑コーティングが可能になる見込みを示し、それにより肩トルク値が管理されうる。
【0066】
フィルムのトライボロジー結果に関し、本出願人は、「プレミアム」接続部に特異的な組立操作中でのイオン交換顔料を取込みコーティングの挙動を求めた。より詳細には、肩トルク抵抗CBS(またToSR(torque on Shoulder Resistance))をモデル化して求めた。当該トルクは、石油産業で用いられるプレミアム接続部に特異的な組立操作中に発生して
図2で示される。
図2の曲線は、組立トルク(又は締めしろ)を行われる回転の回転数の関数として表す。
【0067】
示されうるように、「プレミアム」接続部の組立トルクのプロフィルは4部にわたる。第1部P1では、ねじ山付き管状接続部の第1コンポーネントの雄ねじ要素(又はピン)の外側ねじ山には、同じねじ山付き管状接続部の第2コンポーネントの対応する雌ねじ要素(又はボックス)の内側ねじ山の半径方向での締めしろがまだない。
【0068】
第2部P2では、雄ねじ要素及び雌ねじ要素のねじ山の幾何学的締めしろは、組立が続行するにつれて半径方向の締めしろが増す(これにより、組立トルクがわずかではあるが増加する)。
【0069】
第3部P3では、雄ねじ要素の末端部分の外周での封止表面が雄ねじ要素の対応する封止表面と半径方向で嵌り、メタル/メタルが密封される。
【0070】
第4部P4では、雄ねじ要素の前側末端表面が雄ねじ要素の組立隣接部の環状表面と軸方向で隣接する。この第4部P4は組立の終末期に対応する。第3部P3の終期と、第4部P4の始期に対応する組立トルクCABを肩トルクという。第4部P4の終期に対応する組立トルクCPを可塑化トルクという。
【0071】
当該可塑化トルクCPを超えると、雄型組立隣接部(雄ねじ要素の末端部分)及び/又は雌型組立隣接部(雌ねじ要素の環状隣接表面の背後に位置する領域)は塑性変形をうけ、これにより、封止表面の可塑化によっても封止表面間の接触の緊縛性能が損なわれるかもしれないことが推測される。可塑化トルクCP及び肩トルクCAB値の差を肩トルク抵抗CSB(CSB=CP−CAB)という。
【0072】
ねじ山付き管状接続部は組立終期で最適な締まりばめを受けて、例えば、引張り力や稼働中の偶発的ブレークアウトに関する最適な機械的強度や、最適封止性能が保証される。従って、ねじ山付き接続部の設計者は、所与のタイプのねじ山付き接続について、最適な組立トルクを特定することを強いられるが、これは、この接続タイプの全ての接続部について(隣接部の可塑化及びその結果生じる不都合を回避するため)可塑化トルクCPよりも低くなければならず、また、肩トルクCABよりも高くなければならない。
【0073】
組立終了時にトルクがCAB未満であると、雄型要素及び雌型要素を正確に相対的に配置すること、つまり、それらの封止表面間の密封を有効にかつ正確に相対的に配置することができない。さらに、ブレークアウトの危険がある。肩トルクCABの有効値が、雄ねじ山及び雌ねじ山並びに封止表面の直径方向及び軸方向の機械加工許容範囲に依存するので、同タイプの接続で接続毎に大きく変動する;最適化組立トルクは肩トルクCABよりも実質的に大きくなければならない。結果として、肩トルク抵抗CSBの値が大きいほど、最適化組立トルクを定義する限界が広くなり、かつ、ねじ山付き接続部の操作上の応力に対する抵抗性が高まるであろう。
【0074】
摩擦試験を、Bridgman型の装置を用いて行った。このタイプの装置は、具体的には、D Kuhlmann-Wilsdorf et al, "Plastic flow between Bridgman anvils under high pressures", J. Mater. Res., vol 6, no 12, Dec 1991に記載されている。
【0075】
Bridgman装置の概略的かつ機能的な一例を
図4に例示する。この装置は以下の:
・選択速度で回転駆動できるディスクDQ;
・ディスクDQの第1面に永続的に接続された第1アンビルEC1(好ましくは円錐型タイプ);
・ディスクDQの第2面(第1面とは反対側にある)に永続的に接続された第2アンビルEC2(好ましくは円錐型タイプ);
・選択軸圧力Pを負荷できる第1圧力要素EP1及び第2圧力要素EP2(例えば、ピストン等);
・第1圧力要素EP1の一方の面に永続的に接続された第3アンビルEC3(好ましくは円錐型タイプ);
・第2圧力要素EP2の一方の面に永続的に接続された第4アンビルEC4(好ましくは円錐型タイプ);
を含む。
【0076】
潤滑剤組成物を試験するため、ねじ要素を構成する材料と同一の材料の2つの材料片を、第1試料S1及び第2試料S2を作製するために前記組成物で覆った。次に、第1試料S1を、第1アンビルEC1の自由面及び第3アンビルEC3の自由面との間に配置し、第2試料S2を、第2アンビルEC2の自由面及び第4アンビルEC4の自由面との間に配置する。次に、ディスクDQが、選択軸圧力P(例えば、1GPa程度の軸圧力)を第1圧力要素EP1及び第2圧力要素EP2で各々加えながら、選択度で回転し、各試料(S1、S2)の組立トルクを測定する。
【0077】
組立終期の隣接表面のHertz圧力及び相対速度をモデル化するためにBridgman試験で軸圧力、回転速度及び回転角度を選択する。
【0078】
当該装置を用いて、所定の組立トルクを試料S1及び試料S2に負荷し、当該試料(S1及びS2)が所与の組立トルクプロフィルを厳密に生じるか否か、具体的には、当該試料が、選択した組立トルクについて選択された閾値と少なくとも等しい摩損前に完了回転数に達し得るか否かを調べるために、いくつかの異なるパラメーターの組合せ(組立トルク、回転速度)を定めうる。
【0079】
本発明では、接触圧を1GPa、回転速度を1rpmと選択した。試験試料は炭素鋼から作製され、機械加工した後、肩トルク抵抗(CSB又はToSR)を決定したほか、以下の表に挙げる種々の乾燥コーティングの配合物でコーティングした。
【0080】
本出願人は、イオン交換シリカ顔料を含まない熱可塑性マトリックスや、イオン交換シリカ顔料を含む熱可塑性マトリックスなど、様々な熱可塑性マトリックスについて、Bridgman試験を用いたトライボ−レオロジー(tribo−rheological)挙動を求めた。表6は、試験した熱可塑性マトリックスの代表部分についてのToSR及び塩水噴霧試験成績の概要である。
【表6】
【0081】
カルシウムイオン交換シリカを配合した後の結果を表7に示す。
【表7】
【0082】
本出願人は、カルシウムイオン交換シリカを腐食防止剤顔料として用いると防食が著しく補強されたことを認めた。これは、塩水噴霧試験で750時間以上暴露しても錆が発生しないことを意味する。表面調製の不動態化もまた非常に良好であり、検討した全ての試料で1000時間の暴露後で腐食した表面は10%未満であるか又は非不動態化された。
【0083】
同時に、カルシウムイオン交換シリカを様々な熱可塑性マトリックスで腐食防止剤として用いると、肩トルク抵抗のみを80%〜110%の範囲で示しているが、様々なマトリックスの当該値が高まることに大きく寄与する。相対的増加は7%〜13%の範囲である。
【0084】
当該良好な成績の点で、本出願人は、カルシウムイオン交換シリカの効率が、肩トルク抵抗及びコーティングの均質性に関する対する負の影響について特に認識される固体潤滑剤を配合するいくつかの配合物で維持されているか否かを確認した。配合物の組成及び成績を表8に示す。
【表8】
【0085】
一般に、固体潤滑剤は防食を損ねるほどマトリックスに配合されるが、それはコーティングの剛性を高めるためである。本出願人はサンプルAに亀裂及び早期剥離を認めた。
【0086】
対照的に、防食成績は優れており、とりわけ、十分に柔軟性がある熱可塑性マトリックスに対して優れていることが認められたが、これらは、表面処方が異なっても機械的カップリングにより接着が高められる。
【0087】
肩トルク抵抗値は変化せず、添加剤(固体潤滑剤、レオロジー改変添加剤、腐食防止剤)としての熱可塑性マトリックスの選択、そして、とりわけ、極めて高圧下では全体的なレオロジー挙動は完全には予測できないという予測の検討が重要であることを示す。
【0088】
カルシウムイオン交換シリカの有効性を最も信頼ある方法で確認すべく、本出願人は、同一熱可塑性マトリックスに、保護機構が異なる、異なる腐食防止剤顔料、すなわち、
・ステアリン酸亜鉛(イオン透過性を低下させ、湿潤接着を高める);
・層板状アルミニウム(表面電気抵抗を高め、犠牲陽極として作用する)
を比較することを選んだ。
【表9】
【0089】
本出願人は、他の腐食防止剤、すなわち、カルシウム修飾された三リン酸アルミニウムがある他の熱可塑性マトリックスを試験した場合と同じ結論に至った。非常に良好な結果を以下の表10に示す。
【表10】
【0090】
最後に、熱可塑性マトリックスで得られたイオン交換シリカの成績、すなわち、マトリックスをナノメートルサイズの顔料で強化すると相当に改善されうる。表11に得られた結果をまとめる。
【表11】
【0091】
本出願人は、固体潤滑剤を、ガンマ結晶構造のナノメートルサイズ(ナノメータ)のアルミナで置換すると、点さび跡を発生せずに、塩水噴霧試験で1500時間を超えた暴露でも防食がかなり強化されうること、そして摩擦及び肩トルク抵抗に関する機械的成績も変化しなかったことを認めた。加えて、イオン交換シリカと、ナノメートルサイズのアルミナとの相乗的組合せはまた、塩水噴霧試験の暴露が1500時間を超えても電解Cu−Sn−Znタイプの表面調製の不動態化を高めることには留意しなければならない。
【0092】
本出願人はまた、固体潤滑剤又は腐食防止剤等の補助的添加剤を場合により同様に含む様々な熱硬化マトリックスでのカルシウムイオン交換シリカで得られる防食を評価した。
【0093】
より具体的には、本出願人は、最初に電解Cu−Sn−Zn堆積物で処理した後、フルオロウレタンコーティングでコーティングした炭素鋼の防食を調べた。フルオロウレタンコーティングは、硬化性フルオロエチレンビニルエーテルの水性分散物から得られた。得られた結果を表12に示す。
【表12】
【0094】
イオン交換シリカの防食を改善するために、本研究者らは、相乗効果を得るという目的で、カルシウムイオン交換シリカをリンケイ酸塩タイプの腐食防止剤顔料と組み合わせた。結果を表13に示す。カルシウムイオン交換シリカと、Halox(登録商標)750等の腐食防止剤との相乗効果は、点さび跡、膨れ又は剥離を全くおこさず、かつ、表面調製が際立って不動態化されてISO基準9227に適合する1200時間以上、防食されたことを意味した。当該2つの腐食防止剤の重量比は好ましくは1であった。
【表13】
【0095】
つまり、カルシウムイオン交換シリカは、特に既知の腐食防止剤、過アルカリ化されたスルホン酸カルシウム又は無機のオルトリン酸カルシウム亜鉛ストロンチウムタイプの顔料又は層板状アルミニウムタイプのものと比較しても、用いられる様々な熱可塑性マトリックスに顕著な防食を付与しうる。
【0096】
その上、カルシウムイオン交換シリカを用いるとマトリックスのレオロジー挙動がより好ましい影響を受ける。
【0097】
カルシウムイオン交換シリカの使用は、以下の2つの目的:
・塩水噴霧試験を用いた750時間の厳しい環境の暴露期間を超える防食をもたらす;
・熱可塑性マトリックスの肩トルク抵抗の値を保持又は改善する;
を満たしうる。
【0098】
同時に、1のみの顔料構成成分をマトリックスに配合すると、本発明は、耐食特性と、低Herz負荷及び高Herz負荷での潤滑性能を変えずに、肩トルク抵抗値を高い値で安定化しうる特性とを同時にもたらす。
【0099】
保護の高まりに関して、アニオン交換顔料を、カルシウムイオン交換シリカ等のカチオン交換顔料と共に、又は、カルシウムイオン交換シリカ等のカチオン交換顔料に代えて用いると、表面又は表面調製にかかわらず、多湿条件下で防食に対する一層より一般的な応答が付与されるはずである。実際、当該保護機構は、塩化物イオンを含有する湿潤媒体に対して特に適合するため、また、表面の顔料及び金属原子各々の電気化学的ポテンシャルのために、アニオン交換顔料又はカチオン交換顔料の会合は、とりわけ、多数の不溶性保護層が、表面の様々な金属原子又は様々な表面調製で、当該機構で形成され得るように、特に好適でありうると思われる。
【0100】
一例として、カルシウムイオン交換シリカ及びバナジン酸塩イオン交換ハイドロタルサイトの会合は、攻撃的イオンの吸着(H
+及び塩化物)を改善するはずであり、また、存在するイオン種の電子的相互作用又は物理的吸着により境界での電解Cu−Sn−Zn堆積物の不動化を特に強化するはずである。
【0101】
適用について、イオン交換顔料が分散される有機マトリックスを含む乾燥フィルムは好ましくは、炭化水素坑井の掘削又は作業に用いられる管状コンポーネントのねじ領域に適用される。より具体的には、当該乾燥フィルムを雌ねじ領域に堆積させることができ、この場合、前記ねじ領域は、異なる性質のものであってもよい乾燥フィルムにより自身がコーティングされる雄ねじ領域との組立により協同するために提供される。
【0102】
限定されない様式において、イオン交換顔料が分散される有機マトリックスを含む乾燥フィルムはまた、
図1に記載され、かつ、締まりばめにより協同するために意図される封止表面(5、6)及び/又は、隣接表面(7、8)に対して適用しうる。