特許第5977268号(P5977268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977268
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】肌理の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/107 20060101AFI20160817BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160817BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   A61B5/10 300Q
   G01N33/50 Q
   G01N33/68
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-2662(P2014-2662)
(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公開番号】特開2015-130916(P2015-130916A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2014年8月8日
【審判番号】不服2015-10854(P2015-10854/J1)
【審判請求日】2015年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 有希子
(72)【発明者】
【氏名】池田 麻里子
【合議体】
【審判長】 三崎 仁
【審判官】 信田 昌男
【審判官】 小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3590708(JP,B2)
【文献】 特開2014−41043(JP,A)
【文献】 「テープ診断」で潜在的な肌質をチェック,日経ビジネスオンライン,日本,2013年10月19日,URL,http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20131017/164381/?bpnet
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50-68
A61B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め測定しておいた集団のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量分布と皮溝及び皮丘の状況観察によって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量が多ければ、肌理が細かいと判定され、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量が少なければ、肌理が粗いと判定されるように設定された皮膚のキメスコアに基づく皮膚の肌理を評価するために、皮膚角層中のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を測定する方法。
【請求項2】
皮膚角層がテープストリッピング法により採取されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
皮膚の肌理を評価するために、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を、予め測定しておいた集団のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量分布と比較して対応するキメスコアを得る比較工程を有する、請求項1または2に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌理の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚の表面には、「肌理」と呼ばれる細かいあやがある。具体的には網目状の溝であり、溝の部分を「皮溝」とよぶ。また、「皮溝」に囲まれた部分を「皮丘」とよぶ。肌理の細かい肌は美しい肌であるといわれている。また、肌理の細かい肌に見せるために種々のファンデーションが開発されている。美しく、かつ健康的な肌に見せるためには、肌理を細かく目立たなくすることが重要なポイントとされている。
肌理の評価技術としては、皮膚表面の明暗分布を強調して撮像し、しわや肌理の視覚的粗さを客観的に数値化することにより、しわ、肌理を評価し、さらに化粧料塗布後のしわ、肌理の隠蔽効果を評価する装置が開発されている(特許文献1:特開平6−189942号公報)。
また、使用者の肌理に応じてファンデーションを選択するための、目視観察によるキメチェッカー(特許文献2:特開平9−262135号公報)などの簡便な比較見本を備えた化粧用具なども開発されている。
各個人が本来有する肌は、それぞれ異なるものであるから、他人の肌状態と比較し、相対的に評価しても、正確に肌理の良否を判断したことにならないとの考えに基づき、肌理のレプリカを顕微鏡で拡大して目視観察し、筋肉疲労度の低い「口元」の肌理と、筋肉疲労度の高い「頬」の肌理を比較する技術も開発されている(特許文献3:特開2005−58756号公報)。
また、肌理が細かいと、皮膚のギラつきやテカりが少ないことに着目し、レプリカ法で肌理の細かさを評価し、皮膚のギラつきやテカりの評価に役立てる技術が開発されている(特許文献4:特開2010−273736号公報)。
通常は、皮膚の肌理を4段階にスコア化(キメスコア化)した皮膚のレプリカモデルを作成し、これを参照しながら、あるいは直接肌を目視して、専門家が肌理について評価を行うのが一般的である。
肌理は個人差が大きいため、ファンデーションを選択するための有益な情報として、また、肌の美しさの指標として、肌理の評価は重要であるが、直接肉眼で観察することは難しく、レプリカを用いて拡大画像を詳細に観察することは技術が必要であり、また操作も煩雑である。また、肌理の目視評価について、評価者によるばらつきが生じる恐れがある。そこで、簡便な肌理の客観的な評価方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−189942号公報
【特許文献2】特開平9−262135号公報
【特許文献3】特開2005−58756号公報
【特許文献4】特開2010−273736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、肌理を客観的に評価する方法が望まれている。本発明は、外科的に皮膚を摘出したりして皮膚に刺激を与える等のない方法であって、肌理を簡便かつ確実に評価することができる新規な評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の構成である。
(1)予め測定しておいた集団のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量分布と皮溝及び皮丘の状況観察によって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量が多ければ、肌理が細かいと判定され、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量が少なければ、肌理が粗いと判定されるように設定された皮膚のキメスコアに基づく皮膚の肌理を評価するために、皮膚角層中のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を測定する方法。
(2)皮膚角層がテープストリッピング法により採取されたものである(1)に記載の方法。
(3)皮膚の肌理を評価するために、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を、予め測定しておいた集団のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量分布と比較して対応するキメスコアを得る比較工程を有する、(1)または(2)に記載の測定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、専門家による視覚的な評価方法に代えて、皮膚角層のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を測定することで皮膚の肌理を客観的に評価できる。
また、本発明の評価方法は、テープストリッピング法など簡便な操作方法で評価試料を採取するため、被験者の負担が少なく、だれでも簡単に評価することが可能となる。また生化学的な試験方法であり、誰が測定しても同一の結果が得られるため、従来のような専門家による目視判定が不要となる。
また本発明の方法によって化粧料による肌理を整える効果を客観的に数値化して簡便に評価できるため、ひいては化粧料などの効果を客観的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】肌理の評価に用いる皮膚のレプリカモデルとキメスコアを対比した図である。
図2】キメスコアで1〜4に分類された皮膚の肌理状態を撮影した画像である。
図3】キメスコアで分類した皮膚から採取した角層中のインターロイキン−1レセプターアンタゴニスト量の測定結果を示す箱ひげ図である。
図4】横軸をキメスコア、縦軸を角層中のインターロイキン−1レセプターアンタゴニスト量とした散布図を示す。
図5】30代の女性のキメスコアの人数分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、皮膚角層中のインターロイキン−1レセプターアンタゴニストの発現量を指標とする皮膚の肌理の評価方法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の肌理の評価方法は、皮膚角層におけるインターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(以下、IL−1Raとよぶ。)の発現量を指標とすることを特徴としている。
本発明における肌理とは、ヒトの皮膚の表面の細かいあやのことであり、具体的には網目状の溝である。溝の部分を「皮溝」とよぶ。また、「皮溝」に囲まれた部分を「皮丘」とよぶ。肌理の細かい肌、すなわち、皮溝の網目が細かく、規則正しく、明瞭な肌は美しい肌であるといわれている。
肌理の形状は個人差が大きく、各人の持って生まれた皮膚形態であると言える。加齢に伴って、肌理は粗くなり、不規則、不明瞭となっていく傾向はあるものの、形態の個人差が大きく、若年者でも肌理が不明瞭な場合があることから、必ずしも老化と肌理の粗さが直接対応するわけではない。
肌理の細かさは、図1に示す基準となる肌理のレプリカ画像を用意し、その基準の画像と、皮膚表面の画像を比較し、目視により肌理の細かさを判定することができる。そのように判定された肌理の細かさと、皮膚角層におけるIL−1Raの発現量に相関することが見出された。
【0009】
IL−1Raは単球やマクロファージ等で産生される抗炎症性のサイトカインであり、炎症時に増加し、皮膚を正常化させる。IL−1Raはインターロイキン−1の働きを拮抗的に阻害する。細胞レベルでIL−1Raが増加すると、コラーゲンを分解し、断片化する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ−1が減少する。
【0010】
角層は、皮膚の一番上にある組織であり、体の外からの異物や刺激から皮膚を守る働きを有している。
本発明における評価対象部位は、角層が入手できる部分であれば、いかなる部位をも包含しうるが、主な部位としては評価対象部位である顔面、頚部、上腕部を挙げることができる。肌理の評価が重要となる顔面の角層を評価することが特に好ましい。従来の方法に従い、これらの部位の皮膚由来の角層を得ることができる。しかし、前述のように、外科的に皮膚を摘出する等の方法は、ユーザーに負担を与えるため、テープストリッピング法、擦過等の簡便に角層を得られる方法が好ましい。特にテープストリッピング法が好ましい。
【0011】
こうして用意した各試料におけるIL−1Raの発現量は、従来から知られている方法で測定することができる。例えば、IL−1Raに対する抗体との反応に基づくエンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、ウエスタンブロッティング法等の方法を用いることができる。このような測定手段はすでに市販されており、代表的なIL−1RaのエンザイムイムノアッセイキットとしてR&D Systems社製のHuman IL−1Ra/IL-1F3 Quantikine ELISA KitやLife Technologies社製のIL-1Ra Human ELISA Kitを例示することができる。
各試料からIL−1Raをそれ自体既知の生化学的方法、たとえば凍結融解法、超音波破砕法、ホモジュネート法等を介して可溶性画分として抽出する。抽出後は、速やかに測定する。
【0012】
肌理の細かい人の角層におけるIL−1Raの発現量が肌理の粗い人の角層におけるIL−1Raの発現量と比べて有意に高いため、角層におけるIL−1Raの発現量の多寡をキメスコアに代えて肌理の指標とする。
角層は、テープストリッピング法あるいは同様の皮膚角層の表層部分のみを角質テープで採取する簡単な方法で採取する。
テープストリッピング法は、被験者に負担を与えることがなく、簡便に試料採集が可能であるため特に好ましい。
【0013】
本発明の評価方法は、角層を採取する採取工程と、前記採取工程で採取された角層におけるIL−1Raの発現量を測定する測定工程と、前記測定工程で測定されたIL−1Raの発現量を予め測定しておいた集団の角層におけるIL−1Raの発現量分布と比較する比較工程から構成される。被験者のIL−1Raの発現量が予め測定しておいた集団の角層におけるIL−1Raの発現量分布と比べて、発現量が多ければ、肌理が細かいと判定され、発現量が少なければ、肌理が粗いと判定される。
【0014】
以下、具体的な実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
試験例
被験者集団の肌理の評価とIL−1Raの発現量との関係確認試験
<被験者>
健常人の女性(18才〜65才、平均年齢40才)172名を被験者とした。
【0016】
<頬の肌理の評価>
被験者の頬の拡大写真をPocket Micro(スカラ株式会社)装着したiPhone(商品名:Apple Inc.)で撮影し、肌理を専門の美容研究員の目視判定により、次の基準で4段階にスコア付けした。
4段階の基準は、1:皮溝、皮丘が不明瞭、2:皮溝、皮丘が流れており粗い、3:皮溝、皮丘はあるが、乱れている、4:皮溝、皮丘があり、整っている、とした。
各基準の皮膚のレプリカ写真を図1に示す。
また、各スコアに評価された代表的な頬の拡大写真を図2に示す。
【0017】
<角層サンプル抽出方法、タンパク質定量>
被験者の頬に角層チェッカー(アサヒバイオメッド社製)を貼り付け、角層を採取した。角層チェッカーからビーズ法(容器に検体と直径約2mmのガラスビーズと抽出液を入れて振盪抽出する方法)にてT-PER抽出バッファー(Tissue Protein ExtRaction Reagent Thermo Scientific製(product# 78510)))500μlを用いて角層タンパク質の抽出を行った。各サンプルのタンパク質量はPierce BCA protein Assay Kit (Thermo Scientific #23225)で測定した。測定には前記角層タンパク質抽出液10μlにPierce BCA protein Assay Kitの反応試薬液200μlを加え、60℃30分でインキュベーションしたのち、562nmの吸光度を測定した。同時にBSAで検量線をひき、吸光度の値からタンパク質量を算出した。
【0018】
<角層中のIL−1Raの測定>
同様にテープから抽出した角層タンパク質抽出液をR&D Systems社製のELISAキット[Human IL-1Ra/IL-1F3 Quantikine ELISA Kit]を用いてIL−1Raの発現量を測定した。まず、costar製の96wellプレート(#3590)に1次抗体となる固相化抗体をキット指定の濃度で20℃、一晩固相化した。次に1%BSA、37℃1時間でプレートをブロッキングし、0.01% Tween-PBSでプレートを洗浄したのち、検量線となるスタンダードおよびサンプルを100μlずつアプライし、25℃で2時間インキュベーションした。0.01% Tween-PBSでプレートを洗浄したのち、2次抗体をキット指定濃度で25℃、2時間インキュベーションした。さらに、0.01% Tween-PBSでプレートを洗浄したのち、Streptavidin-HRPをキット指定濃度で25℃、30分インキュベーションした。最後に、0.01% Tween-PBSでプレートを洗浄したのち、発色基質であるTMB solution (Promega, G7431))を100μl/wellで加え、キット指定の時間の後、stop solution (0.5M 硫酸)を100μl加え、450nmの吸光度を測定し、検量線から発現量を算出した。
得られたIL−1Ra値は、キメスコアで分類し、箱ひげ図及び散布図として解析した。
【0019】
<結果>
横軸を4段階のキメスコア値、縦軸に被験者の角層中のIL−1Ra値から結果求めた箱ひげ図による分布を図3に示す。
図3から明らかなように、IL−1Raの発現量の高い被験者は肌理が細かく(キメスコア4)、IL−1Raの発現量の少ない人は肌理が粗い(キメスコア1)ことが判明した。
また横軸をキメスコア、縦軸をIL−1Ra発現量とした散布図を図4に示す。この散布図からIL−1Raの発現量はキメスコアの増加に正の相関を示し、キメスコアに代わる指標として活用できることが明らかとなった。
【0020】
<参考例>
被験者から30代の女性を抽出し、キメスコアの分布を確認した(30名)。
図5に示すように、同年代であっても、キメスコアは特定のスコアで代表されるものではなく。広く分布することがわかる。
【0021】
図2に示す写真から、レプリカに比して、皮膚のキメを肉眼で評価することは非常に不鮮明で判断しにくことが確認された。図3から皮膚角層のIL−1Ra値は、専門家の評価するキメスコアとよく一致することが判明した。したがって、皮膚の角層のIL−1Raを測定することで専門家でなくとも皮膚の肌理を評価することが可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5