特許第5977413号(P5977413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977413
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】固形天然ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 1/00 20060101AFI20160817BHJP
   C08J 5/02 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C08C1/00
   C08J5/02CEQ
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-181764(P2015-181764)
(22)【出願日】2015年9月15日
(62)【分割の表示】特願2012-38436(P2012-38436)の分割
【原出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-221914(P2015-221914A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 治
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−514009(JP,A)
【文献】 特開平04−089847(JP,A)
【文献】 特開2008−263806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02
5/12−5/22
C08C 1/00−4/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された基材表面に天然ゴムラテックスを吹き付けて該基材表面に該天然ゴムラテックスをドット状に付着させ、水溶性の非ゴム成分を流出させずに乾燥して、窒素含有量が0.6質量%以上である固形天然ゴムを製造する固形天然ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記天然ゴムラテックスの凝固、凝固物の水分絞り出しおよび水洗を行わない請求項1に記載の固形天然ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品の製造原料となる固形天然ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ない等の優れた性質を有している。このため、従来より、タイヤ、防振ゴム、ベルト、ゴム手袋等、様々なゴム製品の原料として用いられている。ゴム製品の製造原料として流通している固形の天然ゴムは、視覚格付けゴム(VGR)と、技術的格付けゴム(TSR)と、に大別される。VGRの中では、「天然ゴム各種等級品の国際品質包装規格(通称グリーンブック)」に基づく格付けによる燻煙シート(RSS)が代表的である。例えば、RSSは、次のようにして製造される。まず、フィールドラテックスにギ酸や酢酸等の酸を加えて凝固させた後、作業台の上に載せ、棒で伸ばして厚さを調整する。続いて、波形(リブ形状)ロールで伸ばしながら水分を絞り、シート状に成形する。次に、成形したシートを数日間吊して乾燥させる。そして、乾燥後の未燻煙シート(USS)を水洗し、数日間燻煙、乾燥させる。また、TSRは、カップランプ(フィールドラテックスが収集カップ中で自然凝固したもの)等の原料を粉砕しながら水洗し、粉砕物を繰り返しロールに通して水分を絞り出した後、熱風乾燥させて製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−89847号公報
【特許文献2】特開2008−263806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、固形の天然ゴムを製造する場合には、ラテックスの酸による凝固、水分を絞りながらのシート成形、およびシートの水洗といった工程が必要である。一方、天然ゴムには、ゴム成分の他に、タンパク質、脂質等の非ゴム成分が含まれる。これらの非ゴム成分のうち、タンパク質等の水溶性のものは、ロールで伸ばしてシート化する際や、水洗の際に、水分と共に流出する。このため、水溶性の非ゴム成分を含む排水の処理が、問題になる。また、本発明者が検討した結果、タンパク質の流出は、天然ゴムが本来有する機能を低下させ、それから製造されるゴム製品の特性にも影響を及ぼす、という知見が得られた。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、天然ゴムに元々含まれるタンパク質の残存量が多い固形天然ゴムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固形天然ゴムの製造方法は、加熱された基材表面に天然ゴムラテックスを吹き付けて該基材表面に該天然ゴムラテックスをドット状に付着させ、水溶性の非ゴム成分を流出させずに乾燥して、窒素含有量が0.6質量%以上である固形天然ゴムを製造することを特徴とする。
本発明の固形天然ゴムの製造方法によると、従来の方法とは異なり、天然ゴムラテックスの凝固、凝固物の水分絞り出しおよび水洗を行わない。このため、水溶性の非ゴム成分であるタンパク質の流出が抑制される。つまり、天然ゴムに元々含まれるタンパク質を、残存させることができる。加えて、従来の方法において生じていた、水溶性の非ゴム成分を含む排水処理の問題も解消される。
本発明の固形天然ゴムの製造方法によると、天然ゴムラテックスを基材表面に吹き付ける。これにより、天然ゴムラテックスは基材表面にドット状に付着する。このため、基材表面に塗布した場合と比較して、比表面積が大きくなり、乾燥しやすい。したがって、天然ゴムラテックスを、より短時間で乾燥させることができる。このように、本発明の製造方法によると、乾燥時間を短縮することができる。よって、天然ゴムの熱劣化を抑制することができると共に、生産性が向上する。
本明細書においては、窒素含有量として、Perkin Elmer社の「2400II 全自動元素分析装置(CHNS/O)」により測定された値を採用している。
【0007】
上述したように、天然ゴムには、元々、タンパク質、脂質等の非ゴム成分が含まれる。架橋前の固形天然ゴム中の窒素は、主にタンパク質に由来する。このため、窒素含有量が多いほど、タンパク質が多く含まれると考えられる。本発明の固形天然ゴムにおいては、窒素含有量が多い。換言すると、残存たんぱく質量が多い。このため、本発明の固形天然ゴムによると、天然ゴムが本来有する機能を、充分発揮させることができる。
【0008】
具体的には、本発明の固形天然ゴムを硫黄架橋した場合、架橋速度および架橋密度が大きくなる。この理由としては、次の二つが考えられる。一つは、タンパク質が加硫促進剤となり、ゴム成分と硫黄との反応を促進するからである。もう一つは、タンパク質自身が、架橋剤としての役割を果たし、タンパク質を介した新たな架橋構造が形成されるからである。また、本発明の固形天然ゴムを架橋して得られる架橋物の強度が、大きくなる。これは、タンパク質が天然ゴムの補強材として機能しているため、と考えられる。特に、本発明の固形天然ゴムに、補強材としてカーボンブラックを配合した場合には、タンパク質が、あたかもカップリング剤のように天然ゴムとカーボンブラックとの間を橋渡しして、両者の結合を促進すると考えられる。
【0009】
このように、本発明の固形天然ゴムを用いると、水洗等によりタンパク質が流出した従来の固形天然ゴムと比較して、架橋物(ゴム製品)を製造する際の架橋時間を短縮することができる。すなわち、架橋に必要な加熱時間を、短縮することができる。これにより、架橋物の製造工程におけるエネルギー消費を低減し、製造コストを削減することができる。また、架橋密度および強度が大きい架橋物を製造することができる。
【0010】
【0011】
【0012】
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】補強材無しの各組成物を架橋した場合の架橋曲線を示すグラフである。
図2】補強材無しの各組成物を架橋した場合のt(10)に対して最大トルク値をプロットしたグラフである。
図3】補強材有りの各組成物を架橋した場合の架橋曲線を示すグラフである。
図4】補強材有りの各組成物を架橋した場合のt(10)に対して最大トルク値をプロットしたグラフである。
図5】補強材無しの各架橋物における架橋時間と100%モジュラスとの関係を示すグラフである。
図6】補強材有りの各架橋物における架橋時間と100%モジュラスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の固形天然ゴムの製造方法と、それにより製造される固形天然ゴム、天然ゴム組成物、および架橋物の実施形態について説明する。
【0015】
<固形天然ゴム>
天然ゴムラテックスを酸により凝固して、水分を絞りながらのシート成形、およびシートの水洗を行う従来の方法によると、天然ゴムに含まれるタンパク質が、水分と共に流出する。このため、従来の方法により得られる固形天然ゴムの窒素含有量は、0.5質量%程度である。これに対して、本発明の製造方法により得られる固形天然ゴムの窒素含有量は、0.6質量%以上である。窒素含有量が0.7質量%以上であると、より好適である。
【0016】
本発明の固形天然ゴムは、天然ゴムラテックスを乾燥して製造される。天然ゴムラテックスとしては、タッピングにより採液されたフィールドラテックスや、それにアンモニアを加えて処理されたラテックス(ハイアンモニアラテックス)を用いればよい。すなわち、本発明の固形天然ゴムは、従来の方法とは異なり、天然ゴムラテックスの凝固、凝固物の水分絞り出しおよび水洗を行わずに、製造される。凝固物の水分の絞り出しや水洗を行わないため、水溶性の非ゴム成分であるタンパク質の流出が抑制される。つまり、天然ゴムに元々含まれるタンパク質を、残存させることができる。この場合、従来の方法において生じていた、水溶性の非ゴム成分を含む排水処理の問題も、解消される。
【0017】
本発明の固形天然ゴムの製造方法は、加熱された基材表面に天然ゴムラテックスを吹き付けて該基材表面に該天然ゴムラテックスをドット状に付着させ、水溶性の非ゴム成分を流出させずに乾燥する。天然ゴムラテックスを基材表面にドット状に付着させて乾燥するため、天然ゴムラテックスを基材表面に塗布した場合と比較して、天然ゴムラテックスの比表面積が大きくなる。したがって、天然ゴムラテックスを、短時間で乾燥させることができる。
【0018】
基材の形状等は、特に限定されない。例えば、基材としてドラム等の回転部材を使用するとよい。この場合、回転部材の加熱された無端環状面(例えばドラムの外周面)に、天然ゴムラテックスを吹き付けて、無端環状面を回転させながら、塗液を乾燥する。そして、得られた固形天然ゴムを、順に無端環状面から剥離すればよい。こうすることにより、天然ゴムラテックスの吹き付け→乾燥→固形天然ゴムの剥離、という一連の工程の自動化が可能となる。したがって、生産性が格段に向上する。
【0019】
基材表面の温度は、120℃以上200℃以下の範囲が望ましい。基材表面の温度が低すぎると、実用的な乾燥時間で、天然ゴムラテックスの乾燥を充分に行うことができない。反対に、基材表面の温度が高すぎると、付着した天然ゴムラテックスが過剰に加熱され、劣化するおそれがある。
【0020】
<天然ゴム組成物>
本発明の天然ゴム組成物は、上記本発明の固形天然ゴムを含んで調製される。本発明の固形天然ゴム以外の材料としては、架橋剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、加工助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤等が挙げられる。架橋剤としては、通常、天然ゴムの架橋に用いられる硫黄(粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄等)、または有機過酸化物を用いればよい。架橋剤として硫黄を用いた場合、硫黄の配合量は、固形天然ゴムの100質量部に対して、0.3質量部以上7質量部以下であるとよい。より好適には、1質量部以上5質量部以下である。硫黄の配合量が少ないと、架橋を充分に進行させることができない。反対に、硫黄の配合量が多いと、架橋点が多くなり、架橋密度が大きくなる。しかし、架橋点は熱により切断されやすい。このため、硫黄の配合量が多いと、架橋物の耐熱性が低下するおそれがある。この点、本発明の固形天然ゴムによると、残存タンパク質量が多い分、架橋密度が大きい架橋物を製造することができる。したがって、架橋密度を維持しながら、従来より硫黄の配合量を少なくして、架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0021】
本発明の天然ゴム組成物は、本発明の固形天然ゴムに、架橋剤、および必要に応じて加硫促進剤等の添加剤を配合して、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を用いて混練りすることにより、調製すればよい。
【0022】
<架橋物>
本発明の架橋物は、上記本発明の天然ゴム組成物を架橋してなる。すなわち、本発明の架橋物を製造するには、本発明の天然ゴム組成物を、例えば140〜170℃の温度下で5〜30分間保持して、架橋させればよい。
【実施例】
【0023】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0024】
<固形天然ゴムの製造>
天然ゴムラテックスとして、パラゴムノキからタッピングにて採液したフィールドラテックスに、アンモニアを0.5質量%添加したものを使用した。まず、天然ゴムラテックスを、回転するドラムの外周面に吹き付けて、乾燥させた。ドラムの回転速度は、約1rpm(1分間に約1回転)であり、ドラムの外周面は、予め約180℃に加熱されている。吹き付けられた天然ゴムラテックスの液滴は、ドラムの回転と共に乾燥しながら互いに結着して、シート状に固形化される。次に、ドラムが約3/4回転したところで、形成されたシートを、ドラムの外周面から剥離した。このように、天然ゴムラテックスの吹き付け→乾燥→固形天然ゴムシートの剥離、という一連の工程を繰り返して、固形天然ゴムを製造した。得られた固形天然ゴム中の窒素含有量を、Perkin Elmer社製「2400II 全自動元素分析装置(CHNS/O)」により測定したところ、0.7質量%であった。
【0025】
<天然ゴム組成物の調製および架橋物の製造>
(1)補強材無しの場合
[実施例1]
まず、製造した固形天然ゴムを用い、JIS K6352(2005)の5.1の表1に規定される標準配合に従って、天然ゴム組成物を調製した。すなわち、固形天然ゴム100質量部と、酸化亜鉛2種(堺化学工業(株)製)6質量部と、加工助剤のステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S30」)0.5質量部と、加硫促進剤(三新化学工業(株)製「サンセラー(登録商標)NS−G」)0.7質量部と、硫黄(鶴見化学工業(株)製「サルファックスT−10」)3.5質量部と、をロールを用いて混練して、天然ゴム組成物を調製した。調製した天然ゴム組成物を、実施例1の組成物とした。
【0026】
次に、実施例1の組成物を160℃±0.3℃下で架橋して、架橋時間に対するトルクの変化(架橋曲線)を測定した。測定は、(株)東洋精機製作所製のロータレス式レオメータ試験機を使用して、JIS K6300−2(2001)に準じて行った。振幅角度は1°とした。
【0027】
これとは別に、実施例1の組成物を、140℃下、四種類の時間(20分、30分、40分、60分)で架橋して、架橋物を製造した。そして、得られた架橋物から、JIS K 6251(2010)に規定されるダンベル状5号形の試験片を作製し、同JISに規定される引張試験を行った。
【0028】
[比較例1−1]
製造した固形天然ゴムに代えて、従来の方法により製造された固形天然ゴム「RSS#3」を素練りしたものを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1−1の組成物を調製した。使用した固形天然ゴム中の窒素含有量は、0.5質量%であった。そして、比較例1−1の組成物を、実施例1と同様に160℃±0.3℃下で架橋して、架橋時間に対するトルクの変化を測定した。また、比較例1−1の組成物を、140℃下、実施例1と同じ四種類の時間で架橋して、架橋物を製造した。そして、実施例1と同様に、得られた架橋物の引張試験を行った。
【0029】
[比較例1−2]
製造した固形天然ゴムに代えて、従来の方法により製造された固形天然ゴム「CV(Constant Viscosity)50」を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1−2の組成物を調製した。使用した固形天然ゴム中の窒素含有量は、0.5質量%であった。そして、比較例1−2の組成物を、実施例1と同様に160℃±0.3℃下で架橋して、架橋時間に対するトルクの変化を測定した。また、比較例1−2の組成物を、140℃下、実施例1と同じ四種類の時間で架橋して、架橋物を製造した。そして、実施例1と同様に、得られた架橋物の引張試験を行った。
【0030】
(2)補強材有りの場合
[実施例2]
実施例1の組成物を調製した材料に、さらに、補強材のカーボンブラック(HAF)35質量部を加えて、実施例2の組成物を調製した。この場合、酸化亜鉛2種の配合量を5質量部、ステアリン酸の配合量を2質量部、硫黄の配合量を2.25質量部に、変更した。本配合も、JIS K6352(2005)の5.1の表1に規定される標準配合に従うものである。そして、実施例1と同様に、実施例2の組成物を架橋して、架橋曲線の測定および架橋物の引張試験を行った。
【0031】
[比較例2−1]
比較例1−1の組成物を調製した材料に、さらに、補強材のカーボンブラック(HAF)35質量部を加えて、比較例2−1の組成物を調製した。この場合、実施例2と同様に、酸化亜鉛2種の配合量を5質量部、ステアリン酸の配合量を2質量部、硫黄の配合量を2.25質量部に、変更した。そして、比較例1−1と同様に、比較例2−1の組成物を架橋して、架橋曲線の測定および架橋物の引張試験を行った。
【0032】
[比較例2−2]
比較例1−2の組成物を調製した材料に、さらに、補強材のカーボンブラック(HAF)35質量部を加えて、比較例2−2の組成物を調製した。この場合、実施例2と同様に、酸化亜鉛2種の配合量を5質量部、ステアリン酸の配合量を2質量部、硫黄の配合量を2.25質量部に、変更した。そして、比較例1−2と同様に、比較例2−2の組成物を架橋して、架橋曲線の測定および架橋物の引張試験を行った。
【0033】
<架橋特性の評価>
まず、補強材を含まない組成物の架橋特性について説明する。図1に、補強材無しの各組成物を架橋した場合の架橋曲線を示す。図1に示す架橋曲線からわかるように、本発明の固形天然ゴムを用いた実施例1の組成物を架橋した場合、従来の固形天然ゴムを用いた比較例1−1、1−2の組成物を架橋した場合と比較して、トルクの上昇が速くなり、かつ、トルクの最大値も大きくなった。このことは、t(10)に対して最大トルク値をプロットした図2のグラフからも明らかである。ここで、t(10)は、10%架橋時間(架橋開始点)である。図2に示すように、実施例1の組成物を架橋した場合において、t(10)が最も短くなり、かつ、最大トルク値が最も大きくなった。これより、実施例1の組成物の架橋速度は、比較例1−1、1−2の組成物の架橋速度よりも、大きいことがわかる。また、実施例1の架橋物の架橋密度は、比較例1−1、1−2の架橋物の架橋密度よりも、大きいことがわかる。
【0034】
次に、補強材を含む組成物の架橋特性について説明する。図3に、補強材有りの各組成物を架橋した場合の架橋曲線を示す。図4に、補強材有りの各組成物を架橋した場合のt(10)に対して最大トルク値をプロットしたグラフを示す。図3図4からわかるように、補強材を含む場合においても、本発明の固形天然ゴムを用いた実施例2の組成物を架橋した場合、従来の固形天然ゴムを用いた比較例2−1、2−2の組成物を架橋した場合と比較して、トルクの上昇が速くなった。換言すると、t(10)が短くなった。一方、実施例2の組成物を架橋した場合のトルクの最大値は、比較例2−2よりは大きくなったが、比較例2−1との間に差は見られなかった。これは、カーボンブラックによる補強性が発現されたためと考えられる。
【0035】
以上より、本発明の固形天然ゴムは、架橋特性に優れることが確認された。すなわち、本発明の固形天然ゴムを用いると、架橋速度が大きくなり、架橋密度が大きい架橋物を製造できることが確認された。
【0036】
<引張特性の評価>
図5に、補強材無しの各架橋物における架橋時間と100%伸び引張応力(100%モジュラス)との関係を示す。図6に、補強材有りの各架橋物における架橋時間と100%モジュラスとの関係を示す。
【0037】
図5図6に示すように、補強材の有無に関わらず、実施例1、2の架橋物においては、架橋時間が短くても、100%モジュラスが大きくなった。また、同じ架橋時間で比較した場合、実施例1の架橋物は比較例1−1、1−2の架橋物よりも、実施例2の架橋物は比較例2−1、2−2の架橋物よりも、100%モジュラスが大きくなった。このように、本発明の固形天然ゴムを用いると、架橋時間が短くても、強度が大きい架橋物を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の製造方法によると、天然ゴムの熱劣化を抑制しつつ、天然ゴムに元々含まれるタンパク質の残存量が多い固形天然ゴムを製造することができる。本発明の固形天然ゴムによると、架橋時間を短縮することができ、架橋密度および強度が大きい架橋物を製造することができる。したがって、本発明の固形天然ゴムは、ゴム製品の製造原料として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6