(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
トンカツ、コロッケ、魚介類フライなどの油ちょう調理食品は、肉、野菜、魚介類などの揚げ種にパン粉などの衣材を付けて、油で揚げることによって作られる。こうして作られる油ちょう調理食品は、揚げ種を包む衣材と衣材に吸収された油脂との作用によって、サクサクとした特徴的な食感や香ばしい香りを得ることができる。油ちょう調理食品に用いられる衣材は、一般に粒状又は針状の形状を有しており、揚げ種の水分、旨み成分、ビタミン類、水分などの損失を防止する機能を持つ。しかしながら、従来の油ちょう調理食品は、油を用いて調理される際に衣材が多くの油脂を吸収するため、高カロリーとなり、健康に悪影響を与える可能性がある。
【0003】
こうした背景から、衣材製造業、製粉業、油ちょう調理食品業などの業界においては、低吸油性の衣材及び衣食品の開発が行われており、これらに関する種々の技術が提案されている。これらの従来の技術は、原材料に低吸油性に寄与する材料を混合する技術と、原材料は常法において用いられるものと同様のものを用いるが、製造方法に特徴を持たせた技術とに大別することができる。
【0004】
前者の技術として、例えば、生地原料の一部に大豆種皮を用いて製造されたパン粉(特許文献1)、生地原料に水溶性食物繊維を配合して製造されたパン粉(特許文献2)、こんにゃくゲル及びこんにゃくゾルからなる群から選択された少なくとも1種を生地原料に配合して製造されたパン粉(特許文献3)などが提案されている。
【0005】
後者の技術として、例えば、常法によって得られたパン粉を圧扁して薄片状の圧扁パン粉とすることによって吸油性を低下させたパン粉(特許文献4)、加湿した原料パン粉を、含まれる澱粉の糊化温度以上の温度で乾燥することによって、吸油性を低下させたパン粉(特許文献5)などが提案されている。
【0006】
また、衣材には、サクサクとした食感も求められる。このような食感を向上させるための技術として、例えば、発酵時における生地の組織の膨張方向を抑制することによって、粉末にしたときに粒子が均一になるようにしたパン粉(特許文献6)、生地の発酵の方法を工夫することによって、剣立ちが多くかつソフトな食感を有するパン粉(特許文献7)などが提案されている。上述の特許文献4において提案されているパン粉も、食感が向上するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術には、衣材を構成する個々の衣片の構造そのものを新たな構造とし、そのことによって低吸油性及び食感などといった特性を向上させた技術は存在しない。
【0009】
また、上述のように、従来の技術においては、衣材に所望の機能を付加するために穀粉類以外の材料を衣材の原材料に混合したり、こうした材料を混合することなく製造工程を改良したりすることによって、衣材の吸油性や食感を制御する技術が提案されている。しかしながら、これらの技術においては、衣材が硬くなって食感が悪くなる、望ましい食感が持続しない、必要な特性の向上を同時に達成できない、製造コストが高くなるなどといった欠点がある。
【0010】
本発明は、従来のパン粉などの衣材とは全く異なる構造の層状衣材、すなわち、層状衣材を構成する個々の衣片の各々がフレーク状であり且つその厚み方向に層状に形成された層状衣材を提供することを目的とする。また、本発明は、こうした層状衣材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、生地を圧延し、層間の付着を防止しながら層状に形成して焼成することによって、層状衣材を構成する個々の衣片の各々がフレーク状であり且つその厚み方向に層状に形成された層状衣材が得られることを見出した。こうして得られた層状衣材は、各々のフレーク状衣片が複数の層から形成されており、かつ層の各々の密度が高いため、吸油性が低く、食感に優れ、油ちょう後に時間が経過したり、一旦冷めた油ちょう後の食品を再加熱したりした場合でも食感が損なわれないという利点を有する。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、本発明は、複数のフレーク状衣片の集合体である層状衣材を提供する。複数のフレーク状衣片の各々は、複数の焼成衣層が厚み方向に積層されたものである。本発明の一実施形態においては、層状衣材は、油ちょう調理時の吸油率が75%より低いことが好ましい。また、本発明の一実施形態においては、層状衣材は、水分量を20重量%〜30重量%に調整したときの比重が0.25より大きいことが好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、本発明は、複数のフレーク状衣片の集合体である層状衣材を製造する方法を提供する。複数のフレーク状衣片の各々は、複数の焼成衣層が厚み方向に積層されたものである。本方法は、穀粉類及び水を含む原材料を混捏及び発酵させて、又は混捏して、生地を生成する、生地生成工程を含む。生地生成工程において生成された生地は、層形成工程において、圧延され、表面に層間付着防止材が配置され、折り畳み及び/又は積層が行われて、複数の生地層を有する層状生地となる。層形成工程において生成された層状生地は、焼成工程において焼成されて、複数の焼成衣層を有する層状焼成生地となる。層状焼成生地は、破砕工程において、破砕され、複数のフレーク状衣片になる。
【0014】
本発明の一実施形態においては、焼成工程において生成された層状焼成生地は、水分調整工程において、少なくとも表面の水分が調整されることが好ましい。一実施形態においては、層状焼成生地の水分調整は、層状焼成生地の表面に水又は水を含む液体を噴霧することによって行うことができる。別の実施形態においては、層状焼成生地の水分調整は、層状焼成生地を加湿空間内に保持することによって行うことができる。さらに別の実施形態においては、層状焼成生地の水分調整は、層状焼成生地を水中に浸漬させることによって行うことができる。
【0015】
本発明の一実施形態においては、層形成工程は、生地を圧延する第1の圧延工程と、圧延された生地の表面に層間付着防止材を配置すること、及び、生地を折り畳み及び/又は積層することによって生地を層状にすることを、少なくとも2回繰り返す、層化工程と、層化された生地を圧延して複数の生地層を有する層状生地を生成する第2の圧延工程とを含むものとすることができる。
【0016】
本発明の一実施形態においては、焼成工程において層状生地を焼成する温度は、100℃〜350℃であることが好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態においては、層形成工程の後に、生成される層状生地に複数の切れ込みを形成する工程をさらに含むことができる。本発明の別の実施形態においては、生成される層状生地に複数の孔を形成する工程をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、本発明に係る層状衣材は油ちょう調理時における吸油性が低いため、該層状衣材を用いた油ちょう調理食品は、従来の衣材を用いた油ちょう調理食品と比べて低カロリーであり、健康増進に寄与することができる。また、本発明に係る層状衣材は、油ちょう調理時の吸油性が低いため、べたつかず、サクサクした軽い食感の油ちょう調理食品を得ることができる。また、本発明に係る層状衣材を用いた油ちょう調理食品は、油ちょう調理後に時間が経過した場合や、冷めた後に電子レンジなどで再加熱処理を施した場合でも、特有のサクサクとした軽い食感を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る層状衣材について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における層状衣材に含まれる1つのフレーク状衣片の断面を撮影した写真である。本発明に係る層状衣材は、複数のフレーク状衣片(薄片状の衣片)の集合体であり、複数のフレーク状衣片の各々は、
図1に示されるように、厚み方向に複数の焼成衣層が積層されたものである。本明細書においては、焼成衣層とは、後述するように生地が層状に形成された層状生地を焼成することによって得られる、フレーク状の衣片の各々を構成する層である。すなわち、本発明に係る層状衣材を構成する複数のフレーク状衣片の各々は、層状生地が焼成されることによって得られた複数の焼成衣層と、該複数の焼成衣層の間に形成された複数の空気層とによって構成されている。
【0021】
本発明に係る層状衣材に含まれるフレーク状衣片は、水分量を20重量%〜30重量%に調整して測定したときの比重を約0.25より大きくすることができる。フレーク状衣片の大きさについては、破砕機のスクリーンメッシュのサイズによって任意の大きさのフレーク状衣片を得ることができる。フレーク状衣片の厚みは、好ましくは約0.4mm〜約2mmであり、
図1に示されるフレーク状衣片の場合には、厚みは約1.5mmである。
【0022】
本発明に係る層状衣材は、該層状衣材の層によって外面が覆われた揚げ種を油ちょう調理した際に、油を吸収する割合、すなわち吸油率が低いという特徴を有する。油ちょう調理時における吸油率は、油ちょう調理前後における層状衣材の層の重量増加率で表される(吸油率の算出方法の詳細は、実施例を参照されたい)。本発明に係る層状衣材の吸油率は、75%より低く、好ましくは30%〜75%であり、より好ましくは35%〜70%である。
【0023】
本発明に係る層状衣材は、構成する複数のフレーク状衣片の各々が複数の焼成衣層とその間の空気層とによって構成されているため、油ちょう調理時に焼成衣層の間の空気層に入り混んだ油は、層状衣材が油から取り出されるときに排出されやすい。また、焼成衣層の各々は、薄い層になるように圧延された層状生地の各々の層が焼成されて形成されたものであるため、比重が高く高密度であり、層の内部には気泡がなく、したがって層自体が油を吸収しにくい。従来の衣材は、水分量を20重量%〜30重量%に調整して測定したときの比重が0.25より小さいのに対して、本発明に係る層状衣材の比重は、好ましくは0.25より大きく、より好ましくは0.28より大きい。このように、焼成衣層の各々は油を吸収しにくく、焼成衣層の間に入り込んだ油は排出されやすいため、結果として、本発明に係る層状衣材は、油ちょう調理時における吸油率を低下させることができる。
【0024】
さらに、本発明に係る層状衣材は、吸油性が低いことから、油ちょう調理後に食品が冷めたときに、例えば電子レンジによって再加熱した場合でも、サクサクとした軽い食感が持続するという特徴を有する。従来の油ちょう調理食品は、冷却後に再加熱を行うと、衣材に含まれる油が衣材から排出される一方で、排出された油と置換されるようにして揚げ種からの水分が衣材に吸収されるため、衣層の水分量が多くなり、ベタッとした食感となってしまっていた。これに対して、本発明に係る層状衣材は、低吸油性という特性により、再加熱によって衣材から排出される油が少ないため、揚げ物から放出された水分のうち衣材内部で油と置換される量が少なく、その結果、再加熱によっても衣層がへたらずに、軽い食感を長時間維持することができる。
【0025】
次に、本発明に係る層状衣材の製造方法を説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る層状衣材の製造工程を示す工程図である。
【0026】
[生地生成工程]
(原材料)
本発明に係る層状衣材の原材料は、通常のパン粉などの衣材の原材料として用いられるものであれば、その具体的な種類は特に限定されるものではない。原材料は、典型的には、穀粉類、イースト、食塩、糖類、油脂、イーストフード及び水を含むものとすることができ、必要に応じて他の材料を混合してもよい。穀粉類としては、小麦粉を用いることが好ましく、薄力粉がより好ましいが、これらに限定されるものではない。例えば、薄力粉、中力粉又は強力粉を適宜混合して用いることもできる。穀粉類として、米粉を混合してもよい。米粉を混合することによって、食感に悪影響を与えることなく吸油率をさらに低下させることができる。原材料の配合割合は、特に限定されるものではないが、典型的には、小麦粉100重量部に対して、イースト3.0重量部、食塩1.0重量部、糖類1.0重量部、油脂12.0重量部、イーストフード0.1〜1.0重量部、水37.0重量部とすることが好ましい。
【0027】
(生地の生成)
次に、配合された原材料を混捏し、発酵させて、生地を生成する。生地の製法としては、中種法又はストレート法のいずれを用いることもできる。
中種法を用いる場合には、例えば、まず上述の原材料の一部を、例えば混捏ミキサーなどを用いて、好ましくは約23℃〜約25℃、低速約2分間〜約4分間の条件で、混捏する。混捏時の温度は、低すぎると発酵不良によって層自体が形成されにくく、高すぎると過発酵によって、層が形成されても独立した層となりにくい。混捏時間は、短すぎるとグルテンネットワークの形成不足により、微粒子化が生じて衣片がフレーク状になりにくく、長すぎるとオーバーミキシングによる生地ダレが生じて、層が形成されにくくなる。次に、混捏した原材料を、好ましくは温度約28℃〜約31℃、湿度約70%〜約80%、時間約2時間〜約3時間の条件で発酵させて、中種を生成する。最後に、中種に残りの原料を加え、好ましくは約26℃〜約30℃、低速約3分〜約6分間の条件で本混捏して、生地を得ることができる。
【0028】
ストレート法を用いる場合には、例えば、上記の原材料のすべてを、例えば混捏ミキサーなどを用いて、好ましくは約26℃〜約30℃、低速約3分間〜約6分間の条件で混捏することによって、生地を得ることができる。この場合には、生地は、後の工程を経過する際に発酵が徐々に進んでいくことになる。
【0029】
中種法及びストレート法のいずれにおいても、生地の水分量は、生地生成工程終了時における水分量が約40重量%以下となるように調整することが好ましい。生地の水分量が約40重量%より多い場合には、生地から離水が生じて、後述する層間付着防止材がその水を吸収するため、形成された層同士が付着し、層ができにくい。また、本発明に係る層状衣材の製法としては、生地の伸ばしやすさや滑らかさ、生地の水分調整の容易さなどの観点から、中種法を用いることがより好ましい。
【0030】
なお、本発明に係る層状衣材は、密度の高い複数の衣層が積層した構成のフレーク状衣片からなっている。このように各々の衣片に複数の層が形成されるためには、生地生成工程後に生地の発酵が必要以上に進行しないように、各工程は低温環境下で行われることが好ましく、その温度は、約20℃より低いことが好ましい。
【0031】
[層形成工程]
次に、生地生成工程において生成された生地を、複数の生地層を有する層状生地にする。
まず、生地生成工程において生成された生地を、第1の圧延工程においてローラなどで連続的に圧延し、好ましくは約2.5mm、より好ましくは約2.0mmより薄いシート状の生地を生成する。厚みについては、必ずしも約2.5mmより薄いことを要するものではないが、この圧延工程において約2.5mmより薄くなるように圧延することによって、次の層形成工程における層の形成が容易になる。この時点での生地の厚みが約2.5mmより厚くなると、層形成の過程で生地がつぶれて、層が形成しにくくなる場合がある。
【0032】
次に、圧延された生地を折り畳み及び/又は積層して複数の層からなる生地にする。シート状生地を折り畳む/積層する前には、シート状生地の表面に、生地の層同士を付着させない機能を少なくとも有する層間付着防止材を配置する。層間付着防止材は、例えば、米粉、全粒粉、澱粉、加工澱粉などといった材料を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、生地の層同士の付着を防止することができ、かつ最終の層状衣材の機能を損なわない材料であれば、例えば液体状の付着防止材を用いてもよい。層間付着防止材が配置されない場合には、生地の層の一部又は全部が相互に付着して、フレーク状衣片の各々が厚くなり、軽くて食感の良い層状衣材にならないおそれがある。
【0033】
複数の層を形成する方法としては、第1の圧延工程において圧延されたシート状の生地を折り畳む方法を用いることが好ましい。この場合には、第1の圧延工程において生成された帯状のシート状生地を、好ましくは長手方向に平行な線で折り畳んで、複数の層を有する帯状生地を生成することができる。折り畳みは、三つ折り又は四つ折りが好ましい。
【0034】
複数の層を形成する別の方法として、第1の圧延工程において圧延された複数のシート状生地を積層する方法を用いることもできる。この場合には、第1の圧延工程において生成された複数の帯状のシート状生地を積み重ねて、複数の層を有する帯状生地を生成することができる。積み重ねるシート状生地の枚数は、3枚又は4枚であることが好ましい。生成される生地の厚みは、例えば三つ折りにした場合又は3枚重ねにした場合には、約4.5mm〜約7.5mmであることが好ましい。
【0035】
次に、複数の層を有する帯状生地をさらに折り畳み及び/又は積層して、さらに多くの層を有する生地を生成することが好ましい。この折り畳み/積層の前にも、生地の表面に層間付着防止材を配置することが好ましい。折り畳み方法の場合には、上述のとおり複数の層を有する帯状生地を、その長手方向を横切る方向、すなわち短手方向に平行な線で、好ましくは8段〜10段になるように折り畳むことができる。
【0036】
別の方法として、複数の層を有する複数の帯状生地を、例えば8枚〜10枚積み重ねて、さらに多くの層を有する生地を生成する方法を用いることもできる。さらに別の方法として、複数の層を有する帯状生地をロール状に、例えば8回〜10回巻いて、さらに多くの層を有する生地を生成する方法を用いることもできる。複数の層を有する帯状生地を折り畳み/積層した後の生地は、厚みが約30mm〜約50mm、層の数が約25層〜約40層であることが好ましい。
【0037】
このようにして多数の層が形成された生地を、第2の圧延工程においてローラなどでさらに圧延し、最終的に帯状の層状生地を得ることができる。圧延された層状生地は、厚みが、約4mmより薄いことが好ましい。また、1層の厚みは、約0.2mmより薄いことが好ましく、約0.13mm〜約0.17mmであることが好ましい。
【0038】
[切れ込み/孔形成工程]
生成された層状生地には、切れ込み/孔形成工程において、複数の切れ込み及び/又は複数の孔を形成することが好ましい。上述のように、本発明に係る層状衣材は、発酵工程後に生地の発酵がそれ以上進行しないようにすることが必要であり、そのためには、後述する焼成工程においても、生地の発酵を進行させることなく層状生地全体を焼成することが必要である。そこで、層状生地に切れ込み/孔を形成することによって、生地への熱の通りが良くなり、発酵が進行することなく確実に層形成が行われることになる。切れ込み/孔を形成せずに焼成工程を行うと、生地の中心が焼成に必要な温度に達するまでに時間がかかり、その温度より低い温度(すなわち、発酵に適した温度)に維持される時間が長くなるため、意図しない発酵が進行する場合があり、この場合には層が形成されなくなる。
【0039】
また、焼成工程において形成された層は、その後の破砕工程において破壊されないようにしなければならない。生地に切れ込み/孔などを形成せずに破砕工程を行うと、焼成生地が破砕時に押しつぶされ、焼成工程において形成された層が破壊される場合がある。しかし、生地に切れ込み/孔が形成されていれば、その部分は他の部分より強度が低いため、破砕時に切れ込み/孔の部分から容易に破砕され、したがって形成された層が破壊されにくくなる。
【0040】
さらに、層状生地に切れ込み/孔が形成されていない場合には、焼成工程において生地が火ぶくれを生じて層が破壊される場合があるが、切れ込み/孔の存在によって、焼成時の生地の火ぶくれを防止することができる。火ぶくれが生じると、層が破壊されるだけではなく、焼成時の生地において火ぶくれ部分の焼き色が濃くなるなど、全体の焼き色にムラが生じ、フレーク状衣片及び層状衣材の食感が劣化することになるため、好ましくない。
【0041】
複数の切れ込みを生地に形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、刃物などを用いて、生地が切断されない程度の深さで切り込みを生地に形成することができる。複数の切れ込みは、帯状の層状生地の長手方向及び短手方向の各々に、間隔をもって形成されることが好ましい。切れ込みの間隔は、特に限定されるものではなく、得られるフレーク状衣片の所望の大きさに応じて適宜決定することができる。間隔は、フレーク状衣片の食感や見た目などを考慮し、細かい破片とならないように、約2cmとすることが好ましい。
【0042】
複数の孔を生地に形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば表面に複数の突起が設けられたローラを用い、そのローラを生地の表面に沿って転がすことによって、複数の孔を生地に形成することができる。複数の孔は、帯状の層状生地に間隔をもって、生地の裏側まで貫通しない程度の深さで、形成されることが好ましい。複数の孔の間隔は、特に限定されるものではなく、得られるフレーク状衣片の所望の大きさに応じて適宜決定することができる。間隔は、フレーク状衣片の食感や見た目などを考慮し、細かい破片とならないように、約2cmとすることが好ましい。
【0043】
[焼成工程]
次いで、層状生地は、焼成工程において焼成される。焼成工程は、パン粉などの衣材の製造に一般的に用いられる方法、例えば、焙焼式又は通電式などといった方法を用いて行うことができ、一般的に用いられる装置、例えば、スチームコンベクションオーブン、マイクロウェーブ焼成機、タンドールなどといった装置を用いて行うことができる。焼成温度は、約100℃〜約350℃が好ましく、約150℃〜約200℃がより好ましく、約170℃が最も好ましい。約100℃より低い温度で層状生地の焼成を行うと、層状生地の中心部が焼成に必要な温度(約92℃)に達する前に生地の発酵が進み、焼成衣層の生成が困難となる。一方、約350℃より高い温度で層状生地の焼成を行うと、水分が必要以上に奪われて生地が乾燥するため、後述される破砕工程において層状衣材としての形状を損なう恐れがある。焼成時間は、焼成後の層状生地の中心温度が約92℃以上になるように、上記焼成温度との関係で調整され、約2分〜約20分であることが好ましい。
【0044】
焼成工程が終了した層状生地(以下、層状焼成生地という)は、所定の温度環境下で冷却されることが好ましい。例えば、層状焼成生地は、約30℃以下の温度環境下において、生地の温度が約40℃以下になるまで冷却される。
【0045】
[水分調整工程]
次いで、層状焼成生地は、破砕工程の前に、少なくとも表面の水分が適切に調整されることが好ましい。焼成後の生地は表面が乾燥して硬い状態になっているため、そのまま破砕すると、形成された層が破壊され、衣片の層状態を維持することができないだけではなく、細かく破砕されてしまい、ある程度の大きなサイズを有するフレーク状の衣片とならない場合がある。また、表面が硬い状態で破砕すると、破砕後の衣片のサイズが小さくなる場合があり、そのような衣片が多いと、油ちょう調理を行ったときにサクサクとした軽い食感を得ることができなくなる。なお、従来の衣材の製造においては、焼成後の生地を破砕して細かくしたり針状にしたりする必要があるため、焼成後の生地に水分を与えると、生地が柔らかくなり、所望の状態に破砕することが難しくなる。また、水分を与えた生地は、ある程度細かく破砕できたとしても、破砕後に個々の粒子が凝集し、油ちょう調理を行ったときに軽い食感が得られなくなる。したがって、従来の衣材の製造においては、焼成後の生地に水分を与えることは考えられない。
【0046】
水分調整工程において層状焼成生地の水分を調整する方法は、層状焼成生地に水又は水を含む液体を噴霧する方法、層状焼成生地を加湿環境下において一定時間保持する方法、又は層状焼成生地を所定時間、水中に浸漬させる方法を採用することができるが、これらに限定されるものではなく、例えば、水又は水を含む液体を層状焼成生地に塗布する方法などを採用してもよい。
【0047】
帯状の層状焼成生地に水又は水を含む液体を噴霧する場合は、帯状の層状焼成生地の両面に水又は水を含む液体を噴霧し、全体になじませた上で、数分間、好ましくは3分間〜5分間程度、静置する。水を含む液体として、例えば、風味液、調味液、殺菌効果のある液体などといった種々の液体を用いることができる。水又は水を含む液体の噴霧量は、例えば、噴霧前の層状焼成生地の重量に対する噴霧後の重量の増加割合が、好ましくは約1.0%〜約4.0%、より好ましくは約1.5%〜約3.0%となるように決定される。噴霧後の層状焼成生地の水分量は、約25%〜約30%であることが好ましい。噴霧される水又は水を含む液体の温度は、特に限定されないが、約5℃〜約60℃であることが好ましい。
【0048】
層状焼成生地を加湿環境下において一定時間保持する場合には、例えば、層状焼成生地を、加湿器を配置した室内に一定時間、静置する。室内の湿度は、噴霧の場合と同様に、加湿前の層状焼成生地の重量に対する加湿後の重量の増加割合が、好ましくは約1.0%〜約4.0%、より好ましくは約1.5%〜約3.0%となるように決定される。
【0049】
層状焼成生地を水中に浸漬させる場合には、例えば、層状焼成生地を所定時間の間、好ましくは数秒から1分程度、水中に浸漬させることができる。水中に浸漬した後、生地の表面の水分がある程度なじんだ後に、後の破砕工程を行うことが好ましい。
【0050】
[破砕工程]
水分調整工程によって水分量が調整された層状焼成生地は、次に破砕され、適切なサイズの複数のフレーク状衣片からなる層状衣材にされる。破砕工程は、通常の衣材の製造において一般的に用いられる破砕機を用いて行うことができる。破砕工程においては、例えば破砕機に装着されるスクリーンメッシュを適切なサイズのものにすることによって、所望のサイズを有する複数のフレーク状衣片を得ることができる。破砕後のフレーク状衣片は、最後に適切な時間をかけて乾燥させることが好ましい
【実施例】
【0051】
(実施例1)
小麦粉2,000gを準備し、その一部の1,400gと、イースト60gと、イーストフード20gと、水600gとを、パン粉の製造に一般的に用いられる混捏ミキサーを用いて、低速4分、混捏温度23〜25℃の条件で混捏し、温度30℃、湿度75%の発酵室で3時間発酵さ せて、中種を生成した。この中種に、小麦粉の残り600gと、食塩20gと、糖類20gと、油脂240gと、水200gとを加え、混捏ミキサーを用いて、低速3分、温度28℃の条件で本混捏して、生地を得た。この生地から150gを分割してローラによって圧延し、長さ70cm、幅15cm、厚み0.25cmの薄いシート状生地を生成した。得られたシート状生地の表面に、生地の付着を防止するための打ち粉を散布した。シート状生地を、長手方向に平行な線で三つ折りし、幅6cm、厚み0.75cmの帯状生地を生成した。次いで、この帯状生地にさらに打ち粉を散布し、長手方向に9回巻いて、ロール状生地を生成した。ロール状生地をローラによってさらに圧延し、長さ25cm、幅15cm、厚み0.4cmの帯状の層状生地を得た。
【0052】
次いで、表面に複数の突起を有するローラを用いて、得られた層状生地に、生地の裏側まで貫通しない程度の深さの複数の孔を空けた。孔同士の間隔は約2cmであった。こうして得られた、表面に複数の孔が設けられた層状生地を、170℃のオーブンで10分間焼成して、焼成された層状生地(層状焼成生地)を得た。層状焼成生地を30℃以下の環境で40℃以下の温度になるまで放置して冷却した後、噴霧器を用いて、層状焼成生地の両面に水を噴霧し、水が生地の表面になじむまで3分間放置した。次いで、層状焼成生地を、14mmのサイズのスクリーンメッシュを装着した、パン粉の製造に一般的に用いられる破砕機に投入し、複数のフレーク状衣片からなる層状衣材を得た。
【0053】
(実施例2)
この実施例においては、小麦粉2,100gと、米粉900gとを準備し、これらに、イースト90gと、イーストフード30gと、食塩30gと、油脂360gと、糖類30gと、水1,400gとを加え、混捏ミキサーを用いて、低速4分、混捏温度28℃〜30℃の条件で混捏することにより、生地を得た。得られた生地から層状衣材を得る工程は、実施例1と同じ条件であった。
【0054】
(実施例3)
この実施例においては、小麦粉1,500gと、米粉1,500gとを準備し、これらに、イースト90gと、イーストフード30gと、食塩30gと、油脂360gと、糖類30gと、水1,500gとを加え、混捏ミキサーを用いて実施例2と同じ条件で混捏することにより、生地を得た。得られた生地から層状衣材を得る工程は、実施例1と同じ条件であった。
【0055】
(実施例4)
この実施例においては、小麦粉900gと、米粉2,100gとを準備し、これらに、イースト90gと、イーストフード30gと、食塩30gと、油脂360gと、糖類30gと、水1,600gとを加え、混捏ミキサーを用いて実施例2と同じ条件で混捏することにより、生地を得た。得られた生地から層状衣材を得る工程は、実施例1と同じ条件であった。
【0056】
(実施例5)
この実施例においては、小麦粉2,100gと、片栗粉900gとを準備し、これらに、イースト90gと、イーストフード30gと、食塩30gと、油脂360gと、糖類30gと、水1,400gとを加え、混捏ミキサーを用いて実施例2と同じ条件で混捏することにより、生地を得た。得られた生地から層状衣材を得る工程は、実施例1と同じ条件であった。
【0057】
(実施例6)
この実施例においては、小麦粉1,500gと、片栗粉1,500gとを準備し、これらに、イースト90gと、イーストフード30gと、食塩30gと、油脂360gと、糖類30gと、水1,500gとを加え、混捏ミキサーを用いて実施例2と同じ条件で混捏することにより、生地を得た。得られた生地から層状衣材を得る工程は、実施例1と同じ条件であった。
【0058】
(実施例7〜実施例12)
実施例7〜実施例12の層状衣材は、それぞれ実施例1〜6と同様の条件で層状焼成衣材を得て、30℃以下の環境で40℃以下の温度になるまで放置して冷却した後、水を噴霧することなく、14mmサイズのメッシュスクリーンを装着した破砕機で破砕することによって得た。
【0059】
(比較例1)
市販品である横山食品株式会社製の「生パン粉120g」を比較例1として用いた。なお、このパン粉の原材料として用いられている穀粉類は、小麦粉100%である。
【0060】
(比較例2)
原材料として、小麦粉2,240gと、米粉960gとを準備し、これらに、イースト96gと、イーストフード5.12gと、食塩48gと、油脂64gと、糖類48gと、水2,100gとを加え、混捏ミキサーを用いて、低速4分の後に高速4分、混捏温度28℃〜30℃の条件で混捏することにより、生地を得た。この生地から、通常の生パン粉を製造する比較例1と同様の方法を用いて、生パン粉を得た。
【0061】
(比較例3)
比較例1の生パン粉30gを袋に入れ、薄く広げて平らにし、袋の上から重さ8kgのローラを用いてゆっくりと伸ばし広げた。これを数回繰り返し、比較例1の生パン粉より薄いフレーク状の圧扁パン粉を得た。この圧扁パン粉の厚さは約1mmであった。
【0062】
1.吸油率
上記実施例の層状衣材及び比較例のパン粉について、油ちょう時における吸油率を測定した。吸油率の測定は、全国パン粉工業協同組合連合会「パン粉の吸油率簡易測定法について」に準じて行った。測定方法の概要は以下のとおりである。まず、測定する層状衣材及びパン粉を、均一の粒度となるように粒度調整をして、水分含量を測定した後、茶漉しに層状衣材及びパン粉を25g計量した。計量した25gの層状衣材及びパン粉を180℃の油で3分間油ちょうした後、2分間放置して余分な油を切った。油ちょう後の層状衣材及びパン粉の重量と水分含量とを測定し、以下の式で吸油率を算出した。
吸油率(%)=((B−A)+(A×C−B×D))÷A×100
ここで、
A:油ちょう前の衣材及びパン粉の重量(g)
B:油ちょう後の衣材及びパン粉の重量(g)
C:油ちょう前の衣材及びパン粉の水分含量(%)
D:油ちょう後の衣材及びパン粉の水分含量(%)
である。
【0063】
比重の測定方法は以下のとおりである。まず、比重測定前に実施例の層状衣材及び比較例のパン粉の水分調整を行い、粒度調整を行った。水分量は、25重量%〜30重量%となるように調整した。次いで、100mlのメスシリンダーに層状衣材及びパン粉をそれぞれ入れた。このとき、メスシリンダーに振動を与えて、層状衣材及びパン粉が沈まなくなるまで入れた。その後、層状衣材及びパン粉の重量を測定した。
【0064】
吸油率及び比重の測定結果を表1に示す。表中の水分量は、比重測定のために水分量の調整を行った後に測定した値を表す。本発明に係る層状衣材は、比較例のパン粉と比較して、吸油率が著しく低い。また、本発明に係る層状衣材は、比較例のパン粉より比重が大きい。本発明に係る層状衣材は、油ちょう調理時における吸油率を低下させることができており、これは、焼成衣層の各々の構造が密であるため油を吸収しにくく、その一方で焼成衣層の間に入り込んだ油は排出されやすいためであると考えられる。
【0065】
【表1】
【0066】
2.官能検査
実施例1〜実施例3の層状衣材並びに比較例1〜比較例3のパン粉を衣材として用いた油ちょう調理食品について、油ちょう調理直後のもの、油ちょう調理後3時間経過したもの、及び油ちょう調理後3時間経過したものを電子レンジで加熱したもののそれぞれについて、官能検査を行った。実施例及び比較例について、官能検査に供した油ちょう調理食品は、以下にようにして得た。まず、ポテトコロッケパテを準備し、これにバッター液を塗布した。こうして得られたバッター液付きパテに、層状衣材を衣付けしたものと、パン粉を衣付けしたものとを作成し、それぞれ180℃の油で6分間油ちょうした。こうして得られた油ちょう調理食品の食感を、12名の評価者によって評価した。この結果から、本発明に係る層状衣材は、油ちょう調理直後はもとより、油ちょう調理後に時間が経過した後でも、さくさくとした食感や風味、揚げ色が持続しており、また、油ちょう調理後時間が経過して冷めた場合でも、電子レンジで温めることによって、油ちょう調理直後とほぼ変わらない食感が維持できていることがわかる。
【0067】
【表2】
【0068】
3.粒度分布
本発明に係る層状衣材について、得られたフレーク状衣片の大きさの分布(粒度分布)を測定した。
図3は、粒度分布の測定結果を示す。この図は、層状衣材を五段式しんとう機によって、層状衣片のサイズを6つの区分にふるい分け、それぞれの区分の重量割合を測定することによって得た。横軸はふるい目のサイズ、縦軸はそれぞれのふるいに残った層状衣片の重量割合(%)を示す。サンプル1及びサンプル2のデータは、実施例1に記載の方法と同じ方法で得られた層状焼成生地に対して水を噴霧してから破砕したものと、その層状焼成生地を水を噴霧することなく破砕したものとについて、それぞれ粒度分布を測定した結果である。また、サンプル3及びサンプル4のデータは、サンプル1及びサンプル2に用いた層状焼成生地とは別の層状焼成生地に対して水を噴霧してから破砕したものと、その層状焼成生地を水を噴霧することなく破砕したものとについて、それぞれ粒度分布を測定した結果である。
図3には、比較例1のパン粉と同等の生地を14mmのスクリーンメッシュによって粉砕したときの粒度分布も示している。
【0069】
図3から分かるように、本発明に係る層状衣材は、5.6mmのふるいに残った割合が最も多く、それより大きいサイズの8.0mmのふるいに残った割合が次に多かったことが分かる。また、サンプル1とサンプル2との比較、及びサンプル3とサンプル4との比較から、水の噴霧後に破砕して得られた層状衣材にはサイズの大きな衣片がより多く含まれていたことが分かる。一方、比較例1のパン粉の場合には、5.6mmのふるいに残った割合が最も多かったことは同様であるが、8.0mmのふるいに残った割合は大きく減少し、より小さなサイズの衣片が相対的に増加したことが分かる。