特許第5977462号(P5977462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977462摺動性を有する医療用シリコーンゴムを使用したガスケット及び該ガスケットを使用したシリンジ並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5977462
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】摺動性を有する医療用シリコーンゴムを使用したガスケット及び該ガスケットを使用したシリンジ並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20160817BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   A61M5/315 510
   A61M5/28
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-551913(P2015-551913)
(86)(22)【出願日】2015年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2015002245
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2014/005104
(32)【優先日】2014年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591109751
【氏名又は名称】有限会社コーキ・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】四ツ辻 晃
【審査官】 姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001600(WO,A1)
【文献】 特開平05−131029(JP,A)
【文献】 特開2007−054621(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122574(WO,A1)
【文献】 特開2006−159819(JP,A)
【文献】 特許第5406416(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジバレルに圧入されて摺動状態で用いられるガスケットであって、
前記ガスケットは、シリンジバレルに充填される薬液に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接面を有する本体部分と、前記摺接面の全周に亘って形成された凹溝に嵌め込まれ、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接リングとで構成され、
前記摺接面の内、少なくとも薬液との接液面に隣接する摺接面が前記内周面に対して液密性に形成されており、
前記摺接リングは、シリコーンゴム基材に球形の超高分子ポリエチレン微粉末が添加された摺動性シリコーンゴムで形成されており、且つ、薬液との接液面に隣接する前記摺接面を有する接液側摺動部をバックアップするように接液側摺動部の背面に接触して配置されており、
摺動性シリコーンゴムは、容積比で、前記超高分子ポリエチレン微粉末を44.5〜60%、残りをシリコーンゴム基材としたことを特徴とするシリンジ用のガスケット。
【請求項2】
請求項1のガスケットにおいて、
摺接リングの摺動性シリコーンゴムにはシリコーンオイルが更に添加されており、
摺動性シリコーンゴムは、容積比で、超高分子ポリエチレン微粉末を30〜65%、シリコーンオイルを7〜40%、超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材としたことを特徴とするシリンジ用のガスケット。
【請求項3】
超高分子ポリエチレン微粒子の粒径範囲が10〜300μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンジ用のガスケット。
【請求項4】
微粒シリカを主成分とし、PTFE微粉末、ガラスビーズ、タルク、チタン粉又はカーボンの内の少なくとも1つが充填材としてシリコーンゴム基材に添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリンジ用のガスケット。
【請求項5】
摺接面の幅は、0.1mm〜2mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンジ用のガスケット。
【請求項6】
ガスケットの本体部分が独立気泡化されたPTFEであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンジ用のガスケット。
【請求項7】
内部に薬液が充填されるシリンジバレルと、シリンジバレル内に圧入された請求項1〜6のいずれかに記載のガスケット及び前記ガスケットに装着されたプランジャロッドとで構成されていることを特徴とするシリンジ。
【請求項8】
シリンジバレルに圧入されて摺動状態で用いられるガスケットの製造方法において、
前記ガスケットは、シリンジバレルに充填される薬液に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接面を有する本体部分と、前記摺接面の全周に亘って形成された凹溝に嵌め込まれ、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接リングとで構成され、
前記摺接面の内、少なくとも薬液との接液面に隣接する摺接面が前記内周面に対して液密性に形成されており、
前記摺接リングは、シリコーンゴム基材に球形の超高分子ポリエチレン微粉末が添加された摺動性シリコーンゴムで形成されており、且つ、薬液との接液面に隣接する前記摺接面を有する接液側摺動部をバックアップするように接液側摺動部の背面に接触して配置されており、
前記摺動性シリコーンゴムは、容積比で、前記超高分子ポリエチレン微粉末を44.5〜60%、残りをシリコーンゴム基材とし、
前記シリコーンゴム基材の素材が、分子内にビニル基を組み込んだ不定形のポリシロキサンと分子端末に反応性水素を組み込んだ不定形のポリシロキサンとを白金又はロジウム或いは錫の有機化合物のいずれか1つを触媒として反応により加熱硬化させたものであることを特徴とするシリンジ用のガスケットの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガスケットの製造方法において
摺接リングの摺動性シリコーンゴムにはシリコーンオイルが更に添加されており、
摺動性シリコーンゴムは、容積比で、超高分子ポリエチレン微粉末を30〜65%、シリコーンオイルを7〜40%、超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材としたことを特徴とするシリンジ用のガスケットの製造方法。
【請求項10】
シリンジバレルに圧入されて摺動状態で用いられるガスケットの製造方法において、
前記ガスケットは、シリンジバレルに充填される薬液に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接面を有する本体部分と、前記摺接面の全周に亘って形成された凹溝に嵌め込まれ、シリンジバレルの内周面に摺接する摺接リングとで構成され、
前記摺接面の内、少なくとも薬液との接液面に隣接する摺接面が前記内周面に対して液密性に形成されており、
前記摺接リングは、シリコーンゴム基材に球形の超高分子ポリエチレン微粉末が添加された摺動性シリコーンゴムで形成されており、且つ、薬液との接液面に隣接する前記摺接面を有する接液側摺動部をバックアップするように接液側摺動部の背面に接触して配置されており、
前記摺動性シリコーンゴムは、容積比で、前記超高分子ポリエチレン微粉末を44.5〜60%、残りをシリコーンゴム基材とし、
シリコーンゴム基材の素材が、過酸化物を硬化触媒としてビニル基を組み込んだポリシロキサンを硬化反応させたものであることを特徴とするシリンジ用のガスケットの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のガスケットの製造方法において
摺接リングの摺動性シリコーンゴムにはシリコーンオイルが更に添加されており、
摺動性シリコーンゴムは、容積比で、超高分子ポリエチレン微粉末を30〜65%、シリコーンオイルを7〜40%、超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材としたことを特徴とするシリンジ用のガスケットの製造方法。
【請求項12】
成形された摺接リングが130℃以下、4〜24時間で加熱されたものであることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載のシリンジ用のガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来、シリコーングリスのシリンジバレル(円筒形の筒)の内面への塗布が必須とされていた、ディスポーザブルを含む注射器、特に、プレフィルドシリンジ用のガスケットを、無シリコーングリスとすることのできる新規な構造のガスケットに関する。更に詳しく言えば、注射液に直接触れるガスケット本体にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のような硬質プラスチックを用い、注射液に触れない部分において、ガスケットの摺動性や密閉性を確保するために摺動性を有する医療用シリコーンゴムを使用した新規な構造のガスケットに関する。更には、本発明は、この新規なガスケットを使用したシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
注射針を装着する前の注射器は、プラスチック又はガラス製のシリンジバレル(円筒形の筒)、可動式のプランジャロッド(押子)、プランジャロッドの先端部分に取り付けられたガスケット及びシリンジバレルの針装着部に取り付けられているトップキャップとで構成されている。
ガスケットには、注射液が漏れないようにするため従来から加硫ゴム(ブチルゴム)が使用されている。
ブチルゴムや本発明の対象のシリコーンゴムを含むすべてのエラストマは接触対象物に対して摺動性を持たないと考えられていた。
【0003】
そこで、実際に、表1に示す素材を用いて凹溝を有するガスケット本体を製作し、凹溝に各種ゴムリングを嵌めて後述する摺動試験を行って各ゴムの摺動抵抗を測定した。
ゴム製ガスケットはシリンジバレルの内径より0.2mm大きく製作され、その長さは2mmとした。ガスケット本体はシリンジバレルの内周面に接触しないようにしてゴムリングの摺動抵抗だけが検出されるようにした。
その結果、表1に示すように、ブチルゴムは摺動せず、他は20N以上の摺動抵抗示した。
このような大きな摺動抵抗では注射をする時に、医者や看護師が手で注射器のプランジャロッドを押す場合、スムーズにプランジャロッドを押すことが出来ない。
この場合は最大でも8N以下が要求される。
また、注射装置に注射器を装着し、注射装置で注射器のプランジャロッドを機械押しする場合でも20N以上の摺動抵抗ではプランジャロッドがスムーズに移動しない。
注射装置により機械押しの場合でも15N以下の摺動抵抗が要求される。
そこで、これらゴム製ガスケットのシリンジバレルの内周面に対する摺動性の悪さを改善するために、従来からガスケット表面やシリンジバレルの内周面にシリコーングリスが塗布されていた。シリコーングリスの塗布量は、例えば容量が5ccのシリンジバレルン対しては8.0ミリグラム以下である。
シリコーングリスを塗布すると摺動抵抗は劇的に下がり、5〜8Nとなる(表1参照)。
【0004】
【表1】
【0005】
表1は、各種エラストマと本発明に係る医療用シリコーンゴムの摺動抵抗を比較した表である。
シリコーングリスはシリンジバレルの内周面に対するゴム製ガスケットの摺動抵抗の改善に劇的な効果がある。
しかしながら、上記のようにシリコーングリスをゴム製ガスケット表面やシリンジバレルの内周面に塗布すると、シリコーングリスがシリンジバレル内の薬液に直接接触する。その結果、当該シリコーングリスが薬液中の有効成分と反応してしまうことによる変質や、シリコーングリスから離脱したシリコン微粒子による薬液の微粒子汚染およびこれによる人体への悪影響があり、これが従来から問題視されていた。
又、ゴム中の可溶性成分が薬液中に溶出する虞もあった。
【0006】
特に、近年、増加している、予め薬液を充填したプレフィルドシリンジは長期にわたって保存され且つ様々な環境下で使用されるため、プレフィルドシリンジのガスケットには通常の注射器用よりも更に高いレベルでその性能が要求されている。
要求される性能は、例えば、(a) ガスケットが薬液と長期にわたって接触していたとしても薬液の品質に変化がなく、安全に使用できる事、(b) 高浸透性薬液に対しても密封性(薬液がガスケットとシリンジの間から漏れ出ない非液漏れ性やガスケットを通って薬液の水分が外部に透過しない水蒸気非透過性)が確保できること、(c) 通常の注射器におけるのと同等の摺動性(手で注射器のプランジャロッドを押す場合は8N以下、注射装置で機械押しの場合は15N以下の摺動抵抗)を有することなどである。
また、プレフィルドシリンジは、長期にわたって保管されるが、ガスケットが一つの位置に保持されたままになるとガスケットがシリンジバレルの内壁に付着してその位置に固着され、注射する時の初動圧力の増大につながる傾向もあり、使いずらいという問題も指摘されている。
【0007】
そこで、係る問題を解決すべく、特許文献1では、摺動性改善策として、ショアA硬度が30〜80(ブチルゴムの場合は通常40〜50)の熱可塑性又は熱硬化性の弾性エラストマと耐薬品性に優れた医療用グレードのポリプロピレンなどの硬質プラスチック材料(以下、単に、硬質プラスチックと称する。)の組み合わせを提案している。
即ち、シリンジバレルの内径よりも小さな外径を有する様々な形状のコアを硬質プラスチックで作成し、これに液漏れ防止のために「ゴム弾性」を具備するリング状のエラストマ製弾性スリーブを嵌め込んだガスケットを提案している。
また、別の例として、特許文献2には、シリコーンゴムにシリコーンオイルやポリエチレン粉末を充填し、これを加硫成形して全体を摺動性シリコーンゴムで形成したガスケットも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−505794号公報(段落番号0012)
【特許文献2】特開平05−131029号公報(段落番号0008−0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述のように従来知られているほとんどのエラストマは「ゴム弾性」を有するものの接触対象物に対して非常に高い「摺動抵抗」を有している。
換言すれば、摺動性を劇的に改善するシリコーングリスを用いずに高い「摺動性」を示すエラストマが現時点で周知ではなかったため、実用的な摺動性を得るには、シリンジの内周面に必ずシリコーングリスの塗布が不可欠であるとされていた。
従って、特許文献1に記載の注射器では実際には注射液とシリコーングリスとの接触は不可避である。
一方、特許文献2のように全体を摺動性シリコーンゴムで形成したガスケットが開示されているが、この場合、僅かであったとしても添加されたシリコーンオイルがガスケットの表面に滲み出して充填された注射液に接し、これを汚染してしまうことは避けられない。
そして、仮に、引用文献1の弾性スリーブに引用文献2の摺動性シリコーンゴムを適用したと仮定した場合でも、引用文献1のコアの接液側鍔部は弾性スリーブの外径より細くてシリンジバレルの内周面との間に隙間があるため、弾性スリーブをシリンジバレルに圧入してもシリンジバレルの内周面とコアの接液側鍔部との間には隙間が依然として発生しており、充填薬液がそこに入り込んで弾性スリーブに接し、弾性スリーブの表面にブリード(滲みだし)したシリコーンオイルに接触して充填薬液が汚染される恐れがある。
【0010】
そこで、発明者らは上記問題点の解決のために、注射液に直接触れる「ガスケット本体」にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のような医療グレードの硬質プラスチックを用い、注射液に触れない「摺接リング」に「摺動性シリコーンゴム」を使用した。
本発明の第1の課題は、長期にわたって安全性や密封性が高く、しかもガスケットのシリンジバレルに対する摺動抵抗が小さい、例えば、手で注射器のプランジャロッドを押す場合は8N以下、注射装置による機械押しの場合は15N以下の摺動抵抗を示すの画期的なガスケットを得ることである。
そして「密閉性(水密性)」を確保するための「ゴム弾性」を損なうことなく、且つこれと相反すると考えられていた「摺動性」を十分に満足させることができ、加えて高い「水蒸気非透過性」も兼ね備えたこのガスケットを用いることで上記の特性を有するシリンジを得ることを本発明の第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1は、シリンジバレル1に圧入されて摺動状態で用いられるガスケット10であって、
前記ガスケット10は、シリンジバレル1に充填される薬液30に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接面11を有する本体部分26と、前記摺接面11の全周に亘って形成された凹溝18に嵌め込まれ、シリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接リング19とで構成され、
前記摺接面11の内、少なくとも薬液30との接液面14に隣接する摺接面11aが前記内周面2に対して液密性に形成されており、
前記摺接リング19は、シリコーンゴム基材19cに球形の超高分子ポリエチレン微粉末19aが添加された摺動性シリコーンゴムGで形成されており、且つ、薬液30との接液面14に隣接する前記摺接面11aを有する接液側摺動部16をバックアップするように接液側摺動部16の背面に接触して配置されており、
摺動性シリコーンゴムGは、容積比で、前記超高分子ポリエチレン微粉末を44.5〜60%、残りをシリコーンゴム基材19cとしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2は、請求項1のガスケット10において、
摺接リング19の摺動性シリコーンゴムGにはシリコーンオイルが更に添加されており、
摺動性シリコーンゴムGは、容積比で、超高分子ポリエチレン微粉末を30〜65%、シリコーンオイルを7〜40%、超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材19cとしたことを特徴とする。
【0013】
請求項1又は2の「摺接リング19」として使用される硬化体である「医療用摺動性シリコーンゴムG」は、シリコーンゴム基材に球形の超高分子ポリエチレン微粉末を添加したもの(請求項1)、或いは、これに更にシリコーンオイルが添加されたもの(請求項2)がある。
医療用摺動性シリコーンゴムGに添加されている微粉末の超高分子ポリエチレン微粒子は図5(A)(B)に模式的にされている。図中、超高分子ポリエチレン微粒子を符号19aで示し、19cで超高分子ポリエチレン微粒子19aを繋ぐシリコーンゴム基材を示す。図5(B)では、符号19bで超高分子ポリエチレン微粒子19aの表面に付着した薄いシリコーンオイルを示す。
球形の超高分子ポリエチレン微粉末としては、例えば、平均分子量が1×106〜7×106で、透水性を有さず、殆どののものと接着せず、高温でも溶融しない。これが添加された医療用摺動性シリコーンゴムGを高圧で成形してもその球状形態を保持している。
【0014】
摺動性シリコーンゴムGの原料として、主鎖がケイ素−酸素で構成され、有機官能基(ビニル基など)を組み込んだ液状やグリス状或いは粘土状のオルガノポリシロキサンが使用される。
そして、必要添加物を添加して混練し、目的の分子量になるように重合して摺動性シリコーンゴムGとする。この摺動性シリコーンゴムGに限らず、すべての重合物がそうであるように、当然、分子量の小さい材料(オリゴマと呼ぶ)を極く僅か含有している。しかしながら高分子量の従来のシリコーンゴム自体は表1に示すように摺動抵抗が20N以上で摺動性を示さない。
【0015】
このような一般的技術常識に対して、請求項1に記載の本発明は、この「残存オリゴマ」に着目し、球形の超高分子ポリエチレン微粉末を添加することにより、この「残存オリゴマ」に「シリコーンオイル」的な役目を果たさせるようにしたものである。即ち、球形の超高分子微粒子19aの周囲に薄い「オリゴマ塗膜」を形成することで、球形の超高分子微粒子19aに回転作用を生じさせ、摺動性シリコーンゴムGの摺動抵抗をガスケットに適用できる実用範囲(9〜11N)迄小さくすることが出来たのである(表1)。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成にシリコーンオイルが必要量だけ更に添加されているものである。請求項1の「オリゴマ」の量は微少であるから、摺動性の改善には自ずと限界がある。
積極的にシリコーンオイルを添加することで本発明に係る医療用シリコーンゴムGの「摺動性」を(4〜8N)へと飛躍的に高めるようにした(表1)。
図5(B)は前述のようにシリコーンオイルを加えた場合の模式図で、図中、超高分子ポリエチレン微粒子19aの周囲に添加されたシリコーンオイル膜19bが付着し、超高分子ポリエチレン微粒子19a間をシリコーンゴム基材19cが埋める構造となっている。
請求項1の場合でも、請求項2の場合でも、超高分子ポリエチレン微粒子19aの添加量が過大になるとシリコーンゴム基材19cが繋ぎの働きをなくすことになる。逆に過少であれば、大半の超高分子ポリエチレン微粒子19aがシリコーンゴム基材19cの中に取り込まれてしまい、「摺動性」を示さなくなる。好ましい範囲は後述する。
【0017】
なお、請求項2において、添加されるシリコーンオイルには低粘度のもの(例えば、1000cP程度のもの)から、グリスと呼ばれるような高粘度のもの(例えば、100,000cP程度のもの或いはそれ以上のもの)迄含まれる(表2)。
シリコーンオイルの粘度は摺動性向上に若干寄与するものの超高分子ポリエチレン微粉末の「ベアリング効果」程ではない。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超高分子ポリエチレン微粉末に関するもので、超高分子ポリエチレン微粒子19aの粒径範囲が10〜300μmであることを特徴とする(表2)。更に好ましくはこれが20〜50μmである。粒径が300μm以上のものが含まれていると大き過ぎ、却って密閉性を損なう。
【0019】
使用される超高分子ポリエチレン微粉末は、例えば、平均分子量が1×106〜7×106の超高分子量材料である。
超高分子ポリエチレン微粉末の微粒子19aは、前述のように大小様々で球形をしており、その表面には微細な凹凸があり、シリコーンゴム基材19cに残留しているオリゴマや添加されたシリコーンオイルが薄膜となって付着している。
分子量が100万〜300万或いは700万に上る超高分子ポリエチレン微小粒子19aは、透水性を有さず、殆どののものと接着せず、高温でも溶融せず、高圧で成形してもその球状形態を保持している。
なお、超高分子ポリエチレン微粒子19aの粒径の範囲が10〜300μmと広いので、大きい粒子の間に小さい粒子が入り込んで大きい粒子間の隙間を埋めて超高分子ポリエチレン微粒子19aの充填度を高める。
その結果、微粒シリカのような充填材を添加した従来の透水性を有するシリコーンゴムに対して本発明のシリコーンゴムGの非透水性は大幅に向上する。
【0020】
表2は本発明の摺接リング19に用いられる摺動性シリコーンゴムGの配合表で、その数字の単位はml(ミリリットル)である。
上記のようにシリンジバレル内周面2に摺接しないようなガスケット本体26を製作し、これに表2に示された配合の摺接リング19を嵌め、摺接リング19のみの摺動抵抗を測定した。
なお、摺接リング19のみの摺動抵抗は、後述する過酸化物硬化型摺動性シリコーンゴムと付加反応型硬化摺動性シリコーンゴムでは殆ど変わらないか、付加反応型シリコーンゴムの方が若干良い。
【0021】
【表2】
【0022】
表2は、シリコーンゴムの配合表とその摺動抵抗を比較した表である。
●シリコーンオイルを添加せず、オリゴマの働きのみに頼る場合(No11〜15)
超高分子ポリエチレン微粉末は43.5容量%の場合(比較例1)、摺動抵抗平均値が17.3Nであって、43.5容量%以下の場合、機械押しの場合の目標値15Nを越えるので使用できない。
これに対して、超高分子ポリエチレン微粉末は44.5容量%以上であれば(実施例11〜13)、摺動抵抗平均値がそれぞれ10.3N、9.3N、10.5Nであって、機械押しの場合の目標値15N以下になるので、機械押しの場合には使用可能となる。以上から、シリコーンオイルを添加せず、オリゴマの働きのみに頼る場合、超高分子ポリエチレン微粉末は44容量%以上が要求される。
一方、シリコーンオイルを添加しない場合で、超高分子ポリエチレン微粉末が62.9容量%(比較例2)になると、シリコーンゴム基材を多く添加できず、ニーダ(練り機)で練った練成物に粘り気がなくなり、シリコーンゴム基材の繋ぎとしての働きが損なわれる。
従って、シリコーンオイルを添加しない場合、超高分子ポリエチレン微粉末の添加量は44〜60容量%(好ましくは45〜55容量%)となる。
●シリコーンオイルを添加する場合(No1〜10、16、17)
この場合は、シリコーンオイルの添加量にもよるが、超高分子ポリエチレン微粉末が24.9容量%以下の場合(比較例3)、超高分子ポリエチレン微粉末が過少であって摺動抵抗の改善には不足であった。
逆に、超高分子ポリエチレン微粉末が68.9容量%の場合、シリコーンゴム基材(26.8容量%)やシリコーンオイル(4.3容量%)の添加量が過少となり、この場合もニーダ(練り機)で練った練成物に粘り気がなくなり、シリコーンゴム基材の繋ぎとしての働きが損なわれる。
これに対して、超高分子ポリエチレン微粉末が32.1容量%以上の場合、シリコーンオイル(31.6容量%)、シリコーンゴム基材(36.3容量%)となって(実施例9)、その摺動抵抗平均値が4.7Nに下がり、手押しの場合にも適用できる摺動抵抗を示した(実施例9)。
従って、超高分子ポリエチレン微粉末は30容量%以上あればシリコーンゴムGの表面に現れて潤滑主剤として後述する「ベアリング」のような役割を十分に果たす。超高分子ポリエチレン微粉末の上限は65容量%である。即ち、超高分子ポリエチレン微粉末の添加量は、30〜65容量%である。
【0023】
以上から、シリコーンオイルを添加しない場合では、オリゴマ又はシリコーンオイルは超高分子ポリエチレン微粒子19aの表面に薄い膜を形成して後述する超高分子ポリエチレン微粒子19aの回転を助ける潤滑助剤としての働きをなす。
オリゴマの残留量は極く少ないので、積極的にシリコーンオイルを添加する場合に比べて潤滑助剤としての働きは小さい。
これに対して、積極的にシリコーンオイルを添加することで、摺動抵抗が次第に減少する。
しかしながらシリコーンオイルを添加した場合、40容量%以上添加しても摺動抵抗は左程上昇せず加工性が損なわれてむしろ弊害が多い(比較例3)。
積極的に摺動性を改善するためのシリコーンオイルの好ましい範囲は表2の実施例1〜10を参照すれば、7〜40容量%(摺動抵抗が7N以下となる、より好ましい範囲は10〜30容量%)である。
なお、金型成形して摺接リング19とした場合、好ましい範囲は、超高分子PE微粉末が40〜65容量%(より好ましい範囲は45〜55容量%)、シリコーンオイルは7〜40容量%(より好ましい範囲は10〜30容量%)である(表2の実施例1〜10参照)。
そして超高分子PE微粉末とシリコーンオイルは上記の範囲内で、且つ、容積比で超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材とする。なお、比較例3は超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計が65.9容量%であり、範囲内であるが、超高分子ポリエチレン微粉末は24.9容量%、シリコーンオイルが41.0容量%であり、いずれも範囲から外れる。
【0024】
(付加反応型摺動性シリコーンゴムG)は、シリコーンゴム基材19cの素材(或いは原料)に関し、分子内にビニル基を組み込んだ不定形のポリシロキサンと分子端末に反応性水素を組み込んだ不定形のポリシロキサンとを白金又はロジウム或いは錫の有機化合物のいずれか1つを触媒として反応により加熱硬化させたものであることを特徴とする。
【0025】
(過酸化物架橋型摺動性シリコーンゴムG)は、他のシリコーンゴム基材19cの素材(或いは原料)に関し、過酸化物を硬化触媒としてビニル基を組み込んだポリシロキサンを硬化反応させたものであることを特徴とする。
【0026】
請求項に記載の発明は、液状又はグリス状(即ち、不定形)のシリコーンゴム素材に添加されて形成される可塑度調整のために用いられる充填材に関し、充填材として、微粒シリカを主成分とし、PTFE微粉末、ガラスビーズ、タルク、チタン粉又はカーボンの内の少なくとも1つが充填材として添加される。微粒シリカの粒径は0.05〜2μmが好ましい。また、必要があれば着色剤として顔料が添加される。
【0027】
上記シリコーンゴム基材19cの素材(原料)としては、上記のように不定形のポリシロキサンが使用されるが、その可塑度が、例えば、100〜500となるように、微粉シリカその他の充填物が添加され、或いは重合度が調節されている。重合物には素材の極く一部がオリゴマとして残留する。素材に上記充填材が添加されたものが本発明シリコーンゴムGの原料になるシリコーンゴム基材19cである。
【0028】
本発明のガスケット10において、成形された摺接リング19が130℃以下、4〜24時間以下(好ましくは、120〜130℃で、4〜10時間)で加熱(アニーリング)されたものであることを特徴とする。
【0029】
この加熱(アニーリング)により、付加反応型シリコーンゴムの40℃における耐クリープ性が大幅に向上し、長時間上記高い温度に保持されても永久歪が出にくく、摺動リング19とした時に液漏れが発生しない。
【0030】
請求項に記載の発明は、請求項1〜2のいずれかに記載のガスケット10における摺接面11aに関し、摺接面11aの幅S(即ち、シール幅S)は、0.1mm〜2mm(更に好ましくは、0.2mm〜1.5mmの範囲)であることを特徴とする。
【0031】
摺接面11aの厚みSが、0.1以下mmの場合には、薄すぎて強度不足になるために薬液30の液漏れの可能性があり、摺接面11aの厚み(シール幅)Sが3mmで圧入のための直径差が150μmの場合、シリンジバレル1がシクロオレフィン樹脂(COP)の場合、割れを生じる恐れある。
安全性のためと摺動抵抗を15N以下にするために摺接面11aのシール幅Sの最大厚みを2mmとした。また、上記シール幅Sが0.1mmから0.6mmの場合、接液側摺動部16がシリンジバレル内周面2に圧接してエッジで大きく撓む。
これに対して、シール幅Sが0.6mmを越え、2mm迄はある程度接液側摺動部16に強度があるので、摺接面11aがシリンジバレル内周面2に接触して止水する。
【0032】
請求項に記載の発明は、請求項1〜2のいずれかに記載のガスケット10における本体部分26が独立気泡化されたPTFEであることを特徴とする。
熱間等方圧加圧法により独立気泡化されたPTFEは、焼結によって形成されたPTFEの粒間に存在する超微細間隙が確実に閉塞されている。
その結果、このPTFEで形成されておれば、薬液30を充填した状態で長期間の保存されるプレフィルドシリンジAにこのガスケット10を使用した場合、この保管中に薬液30が前記超微細間隙を通って漏れ出すようなことを確実に防止できる。
【0033】
請求項に記載の発明は、シリンジA(図1)に関し、「内部に薬液30が充填されるシリンジバレル1と、シリンジバレル1内に圧入された請求項1〜6のいずれかに記載のガスケット10及び前記ガスケット10に装着されたプランジャロッド5とで構成されている」ことを特徴とする。
【0034】
上記シリンジAは、プレフィルドシリンジと通常のディスポーザブルシリンジ(薬液が非充填の注射器で、注射時に薬液を注射針から吸引して使用する一般的な注射器を意味する)を含む。
ここで使用されたガスケット10は、上記のように「高摺動性」と「密閉性」を具備する上、これに加えて、図12に示すように本体部分26を構成する樹脂は勿論、本発明に係るシリコーンゴムGで形成された摺接リング19の水蒸気非透過性が非常に優れているので、シリンジをプレフィルドシリンジAとして内部に薬液30を充填した状態で長期間にわたって保存してもガスケット10を通じての水蒸気の透過は殆ど認められなかった。また、このガスケット10の摺接リング19に添加されているシリコーンオイルの表面への染み出し量は極めて僅かであるので、このガスケット10をシリンジバレル1内で往復移動させたとしても、摺接リング19から染み出したシリコーンオイルのシリンジバレル1の内面への付着量は殆どない。
それ故、このガスケット10は、上記プレフィルドシリンジ用としてだけではなく、通常のディスポーザブルシリンジ用としても使用できる。
【発明の効果】
【0035】
以上からわかるように本発明に係るガスケット10は、ガスケット本体にPTFEのような硬質プラスチックを用い、注射液に触れない部分において、「摺動性シリコーンゴム」を使用することで、要求される性能のガスケット及び注射器、特にプレフィルドシリンジを得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明を適用したプレフィルドシリンジの断面図。
図2】(A)(B)は図1の破線楕円で示す部分の拡大断面図。
図3】(A)は図1の破線楕円で示す部分拡大正面図で、(B)(C)(D)はその摺接リングの外形を示す図面。
図4】(A)(B)は図2の破線楕円で示す部分拡大正面図。
図5】(A)(B)は本発明のシリコーンゴムの正面図とその一部拡大断面図。
図6】本発明のシリコーンゴムの拡大代用写真。
図7】本発明のガスケットの摺動抵抗測定の概略図。
図8】本発明のガスケット(組成変化)の摺動抵抗の変化を示すグラフ。
図9】PTFEガスケットのシール幅に関する摺動抵抗の変化を示すグラフ。
図10】複合ガスケットのシール幅(0.1mm)に関する摺動抵抗の変化を示す表とグラフ。
図11】複合ガスケットのシール幅(0.2mm)に関する摺動抵抗の変化を示す表とグラフ。
図12】本発明(複合ガスケット)と従来のガスケット(PTFE、ブチルゴム)の水蒸気透過性評価結果を示すグラフ(シール幅0.2mm)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を図示実施例に従って説明する。図1は、本発明のガスケット10が適用されたプレフィルドシリンジAの断面図である。
図示していないが、本発明のガスケットは通常のディスポーザブルシリンジにも適用可能である。
以下、プレフィルドシリンジAを代表例として説明する。
図1に示すように、プレフィルドシリンジAは、ガスケット10と、薬液30が充填されたシリンジバレル1と、ガスケット10に装着されるプランジャロッド5と、トップキャップ8とで構成されている。ここで、本明細書において共通する部材は同一の符号で示し、図2以下の説明において、重複する部分は既に説明した記述を援用し、繁雑さを避けるためその説明を原則的に省略する。
【0038】
シリンジバレル1は円筒状の容器で、バレル本体1aの先端に図示しない注射針が装着される装着部1bが突設され、後端に指掛け用の鍔部1cが形成されている。シリンジバレル1の材質は、硬質樹脂(例えば、シクロオレフィン樹脂「以下、COPと言う。」)、ポリプロピレン(以下、PPと言う。)、エチレンノルボルネン共重合体(以下、COCという。)などが使われる。ガスケット本体26のシール幅S(後述する)が0.1〜0.6mm(好ましくは、0.1〜0.3mm)の場合は、シリンジバレル内周面2によく添うので、ガラスシリンジバレル1の使用も可能である。
【0039】
プランジャロッド5は、先端部に雄ネジ部5a、後端に指当て部5bが設けられたロッド状の部材である。このプランジャロッド5の雄ネジ部5aの外周面には上述したガスケット本体26の雌螺子穴15に螺着する雄ネジが刻設されている。プランジャロッド5の材質は環状ポリオレフィン、ポリカーボネートおよびポリプロピレン等の樹脂等で構成されている。
【0040】
トップキャップ8は、シリンジバレル1の針装着部1bに取り付けられ、シリンジバレル1内部に充填した薬液30が漏れないようにすると共に、当該薬液30が空気中を浮遊する雑菌などで汚染されないようにするための封止部材である。このトップキャップ8は、円錐台状のキャップ本体8aと、このキャップ本体8aの天面から開口方向に伸び、針装着部1bが嵌め込まれる凹部8bが形成された嵌合突部8cとで構成されている。トップキャップ8は耐薬液性フィルム(PTFEやPFA)を内周面に積層したエラストマで形成されている。エラストマには、「加硫ゴム」や「熱硬化性エラストマ」、又は、「熱可塑性エラストマ」のいずれをも含む。
【0041】
図1に示すガスケット10の本体部分26(或いは、ガスケット本体26とも称する)は全体がPTFE、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四ふっ化エチレンと六ふっ化プロピレンの共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリビリニデンフルオライド)、ポリプロピレン(PP)、超高分子ポリエチレンを含むポリエチレン、COP、COC或いはフッ素樹脂など、薬液30に反応しない硬質の材料(耐薬液性の硬質プラスチック)で形成されている。
【0042】
本発明において使用されるPTFEは、純PTFEでもよいが、例えば、PTFEの結晶化阻害剤であるポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(略称PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂を1〜15質量%混入した変性体を使用することがガスケット10の本体部分26に弾力性を付与することになってより好ましい。
本発明に使用されるPTFEは、上記純PTFE又はPTFEの変性体更には所謂HIP処理と言われる熱間等方圧加圧法による独立気泡化したブロック(丸棒材)も使用される。
PTFE1次焼結ブロックは、純PTFE粉又はPTFEの変性体の粉を圧縮成形し、これを焼結したものである。この焼結では、粉同士の接触部分は密着しているが、全体として非接触部分には極く微細な隙間が形成されており、これらが連続して微小な流体を通過させる。
このPTFE1次焼結ブロックを熱間等方圧加圧すれば、PTFE1次焼結ブロックは圧縮されてPTFEの粒間に存在する超微細間隙が確実に閉塞され、独立気泡化する。減圧下で熱間等方圧加圧を行えばより効果的である。
【0043】
次に、図1のガスケット10の形状について説明する。ガスケット10の本体部分26は円柱状で、後部端面にプランジャロッド5を装着する雌ネジ穴15が螺設されている。そして、本体部分26の先端側の外周面がシリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接面11で、摺接面11から後部端面であるプランジャロッド装着面17aにかけての部分17が、その直径が漸減するテーパー状に形成されている。この部分をテーパー部分17という。本体部分26の材質は前述のとおりである。
【0044】
本体部分26の前記摺接面11の中間部分にはその全周に亘って浅い凹溝18が凹成されている。
換言すれば、凹溝18の両側に狭い摺接面11a、11bが存在することになり、両摺接面11a、11bとも液密性であれば好ましいが、少なくとも薬液30との接液面14に隣接する摺接面11aには液密性が付与される。
即ち、シリンジバレル1にこの摺接面11aを有する部分(接液側摺動部16)が後述する圧入代をもって圧入される。
前記凹溝18にはシリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接リング19が嵌め込まれている。摺接面11aに付いては後述する。
【0045】
摺接リング19を構成する「摺動性シリコーンゴムG」は、前述の通りの摺動性エラストマで、シリコーンゴム素材の一例として用いられる熱硬化性樹脂である。
これには2種類があり、その一例は、原材料である液状又はグリス状の「オルガノポリシロキサン」は、分子内にメチル基、ビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基を組み込んだ材料で、各々は特殊な特性を要求された場合に使いわけられる。
本発明ではいずれのものも使用できるが、ここでは一例として、ビニル基が組み込まれた液状又はグリス状の「オルガノポリシロキサン」を用い、これに必要充填物と過酸化物硬化剤とを加えて混練して目標分子量まで硬化反応させてゴム状にした過酸化物架橋型シリコーンゴムである。
他の例としては、分子内にビニル基を組み込んだ粘土状のポリシロキサンと、分子端末に反応性水素を組み込んだ粘土状のポリシロキサンを、白金又はロジウム或いは錫の有機化合物を触媒として反応により加熱硬化させた付加反応型シリコーンゴムが挙げられる。この付加反応型シリコーンゴムは過酸化物架橋型シリコーンゴムに比べてより優れた耐クリープ特性を示す。
なお、「熱硬化性樹脂」である「摺動性シリコーンゴムG」に代えて「熱可塑性エラストマ」をガスケット用の摺接リングとして使用した場合、長期間にわたってシリンジバレル内で閉じ込められて保管された時に圧縮変形によって摺接リングにクリープ変形が発生し、液漏れや摺動不良を生じる恐れがあり、医療用には使えない。
この点、「熱硬化性樹脂」である上記摺動性シリコーンゴムGは「熱可塑性エラストマ」に比べてクリープ変形を生じず、医療用のガスケット用摺接リングとして最適である。
【0046】
上記本発明に係るシリコーンゴム基材は、シリコーンゴム素材である、例えば、液状又はグリス状のオルガノシロキサンに架橋剤である過酸化物(或いは、上記2種類の粘土状のポリシロキサンに硬化触媒)を加え、更に例えば25%のシリカ微粉末を添加してニーダで混練して形成される。そして、このシリコーンゴム基材19cに所定量の超高分子微粉末19a、更にはシリコーンオイルを添加して本発明に係る摺動性シリコーンゴムGとする。
【0047】
上記微粉末の微小粒子19aを形成するポリエチレン樹脂は超高分子である。
(例えば、平均分子量が100万〜300万或いはそれ以上で700万に達するものもある。)
このような超高分子粒子は、透水性がなくしかも殆どののものと接着しない。
そして超高分子ポリエチレンはその分子量があまりにも高いために高温でも溶融せず、高圧で成形してもその球状形態を保持している。
球状の超高分子ポリエチレンの表面は比較的滑らかであるが、若干の凹凸も認められる。
微粉末に含まれる球状の超高分子微粒子19aの粒径の範囲は10〜300μmである(表2)。更に好ましくは20〜50μmである。
グレードによって異なるが、平均粒径が25μmのものや30μm或いはそれ以外のものが使用される。
粒度分布の幅が広い場合、粒径の大きいものの間に粒径の小さいものが入り込んで大きい粒径のものの間の隙間を埋め、細密充填を実現する。
そして、細密充填となると、微小粒子19aは透水性を持たないので、仮に、透水性を有するシリコーンゴム基材やシリコーンオイルを使用したとしても本発明の医療用摺動性シリコーンゴム全体としては非常に低い透水性を示すことになる。
【0048】
本発明の摺動性シリコーンゴムGは、シリコーンオイルを添加しない場合と、添加する場合とがある。
前述のように重合して目的の分子量物となる際に、当然、分子量の小さい材料(オリゴマ)が極く僅か残留する。
シリコーンオイルを添加しない場合は、超高分子ポリエチレン微粒子19aの存在によりこれがシリコーンオイルと同様の働きをし、本来、摺動性が否定されていたシリコーンゴムに摺動性を付与する。
ただし、その残存量は微少であるため、超高分子ポリエチレン微粒子19aの存在があったとしても摺動性の向上は限られ、9〜11Nの範囲内程度の滑りを示す(表1)。
【0049】
これに対して、シリコーンオイルを添加する場合、練り込まれたシリコーンオイルとシリコーンゴム基材19cとの間には相溶性があり、適量充填すればシリコーンオイルはシリコーンゴム基材19cに均一に分散し、本発明の医療用摺動性シリコーンゴムGの表面に薄く滲み出す。
また、次に述べる観察から同時にシリコーンオイルは超高分子ポリエチレン微粒子19aの表面に付着して薄い膜19bを形成し、且つ、表面の凹部内に入り込み、これが潤滑液溜りとなって超高分子ポリエチレン微粒子19aの回転時の潤滑を助けると考えられる。
【0050】
摺接リング19の成形方法については、摺接リング19が成形できる圧縮金型を例えば150℃に加熱し、上記の成形材料(超高分子PE粉末や、更にはシリコーンオイルが添加されて練り上げられたシリコーンゴム基材19c)を充填して加熱加圧すると1〜10分で熱架橋し、目的の摺接リング19が得られる。
その後、付加反応型シリコーンゴムの場合は、更に120〜130℃で4〜10時間加熱(アニーリング)することで、目的の物性(耐クリープ性)を示す摺接リング19が得られる。
過酸化物架橋型シリコーンゴムの場合は、アニーリングによる物性改善効果は付加反応型シリコーンゴムに比べて小さいが、多少は改善される。
ここで、アニーリング温度が145℃以上の場合、シリコーンゴムG内部の低分子物質がシリコーンゴムGの表面にブリード(滲出)してくるので避けなければならない。
【0051】
摺接リング19の外径は本体部分26の接液側摺動部16の摺接面11a部分の外径よりやや大きくシリンジバレル1の内周面2に液密性をもって密着する形状とする。
その外周面の形状は、例えば、摺接リング19の外周面を直線状にしたもの、又は、中央を若干膨らませたアーチ状にしたもの、或いは、接液面側の摺接面11a側を若干膨らませたものなどが考えられる{図3(B)(C)(D)}。
直線状の場合は全外周面が均等にシリンジバレル内周面2に均等に接触し、膨らんでいるものは該膨らみ部分が強く接触する。
なお、摺接リング19は弾性伸びを有するので、本体部分26の凹溝18の溝底の太さや形状(上記のように直線状、溝中央をなだらかに太くした場合その他)を変えると溝底に合わせて摺接リング19も変形する。
この場合は、凹溝18の溝底の加工が容易であるから、摺接リング19自体に変形を与えるより摺接リング19の外周面形状の微妙な調整が可能となる。
【0052】
金型成形で得られた成形品(摺接リング19)を顕微鏡で観察してみると(図6:拡大写真)、成形品の表面には無数の大小様々な粒径のポリエチレン球体19aが張り付き、その間隙にはシリコーンゴムの薄膜が接着剤の役目をするかの如く張り付いているのが観察された。
また、摺接リング19及びポリエチレン球体19aの表面にはうっすらとシリコーンオイル膜19bが存在し撥水性を示した。
また、顕微鏡下で成形品中のポリエチレン球体19aを針状物で突くと、そのポリエチレン球体19aは成形品内に沈み込みながら僅かに移動することが観察された。
この現象により、このエラストマ成形品をわずかに加圧しつつ移動させると3〜8Nという極めて小さな摺動抵抗で移動した(表1 最下段の本発明エラストマの項目を参照)。
これはシリコーンオイルにアシストされて転がりやすくなったポリエチレン球体19aの転がり現象と、シリコーンオイルの連続した塗布潤滑現象により、本発明独自の「摺動性」が発露したものと考察される。
【0053】
次に、本体部分26の摺接面11に付いて述べる。
本体部分26は前述のようにシリンジバレル1に充填される薬液30に対して上記のような耐薬液性硬質プラスチックが適用されるが、以下では、PTFEを使用した場合を例にとって説明する。
【0054】
上記形状にする方法は、旋盤による切削加工や射出成形があるが、PTFEは切削加工のみである。
切削加工では、これに用いられる刃物は硬質プラスチックを滑らかに加工できるものであればどのようなものでもよいが、ここでは単結晶ダイヤモンドを用い、切削加工は汎用小型NC旋盤を用いた場合を例にとって説明する。
加工材料はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を切削加工して図1に示すガスケット本体26を得た。
水密性に対して重要な働きをなす、ガスケット本体26の接液側摺動部16の摺接面11aの幅(これをシール幅Sとする)を、0.1〜2.0mmの幅で削り出した。(勿論、PTFE以外の材料では、同じ形状のものを射出成形でも製作可能である。)
そして、このガスケット本体26の凹溝18に前述の摺接リング19を嵌め込み、ガスケット10とする。
【0055】
以上に示したこのような部材を組み立て、シリンジバレル1とガスケット10の閉じられた空間内に薬液30を充填し、図1に示すようなプレフィルドシリンジAを構成する。薬液充填は既述のような真空充填法が採用されることがあり、これに対応できる摺動性(8N以下)が求められる。
また、既述のように手動で注射する場合にも、同様に摺動性(8N以下)が求められる。
一方、機械で注射をする場合或いはプラグアシスト法により薬液を充填する場合は、プランジャロッド5に対する押込み力は15N以下であれば足る。
【0056】
換言すれば、本発明のプレフィルドシリンジAの総摺動抵抗は、摺接リング18の摺動抵抗とガスケット本体26の摺動抵抗の和ということになる。
摺接リング18の摺動抵抗は前述のように4〜8Nであるから、ガスケット本体26のシール幅Sとシリンジバレル1に対する接液側摺動部16の圧入代(直径差の半分)を調節することで、上記力は15N又は8N以下になるように調整される。
【0057】
このプレフィルドシリンジAを使用する場合は、トップキャップ8を外し、シリンジバレル1の針装着部1bに所定の針を装着するだけで使用に供することができる。
使用にあたってプランジャロッド5の動きは手動でも機械を使用した場合でも、初動も含めて極めてスムーズである。
また、同様に、ガスケット10は摺接リング19も含めたその優れた撥水性及び非透水性により常温は勿論、冷蔵保管を経たとしても摺接リング11aの非クリープ性により長期間にわたって良好な摺動性を保つ。
これと同時にガスケット10の内部及び内周面2との摺接面11aにおいて、漏液は勿論、その水蒸気の透過も生じない。
なお、種々な環境での使用も考慮して、加速試験(5℃及び40℃の雰囲気内に6か月保管)を経ても使用時には上記性能を満足した。
【0058】
これにより、ガスケットへの医療用栓被覆フィルムの使用やシリンジバレル内周面へのシリコーンオイルの塗布を必要とすることなく、且つ、小径から大径まで大きさに限定されることなく、しかも安価であって高い摺動性や、水蒸気非透過性、常温は勿論、低温保管を経た場合(或いは高温環境下での使用)でも非漏水性などの水密性を十分に満足させることのできるシリンジバレル用のガスケット10並びにプレフィルドシリンジAを提供することができるようになった。
【0059】
以上に示したプレフィルドシリンジAに対して、薬液30を充填しないものが、ディスポーザブルシリンジである。ディスポーザブルシリンジでは、薬液30を吸引するためにプランジャロッド5を引く。
これによりプランジャロッド5の先端に装着されているガスケット10はシリンジバレル1の先端側から後退し、シリンジバレル1とガスケット10の閉じられた空間内に薬液30が吸い込まれる。
この時、ガスケット10の摺接リング11aはシリンジバレル1の内面に摺動しながら後退する。
シリコーンオイルが充填されている摺接リング11aでは、その表面に滲み出した極めて薄い層のシリコーンオイルが存在するので、摺動跡にはシリコーンオイルの転移層がシリンジバレル1の内面に残留すると考えられる。
処が、1/10,000グラムのシリコーンオイルの検出が可能な化学天秤を使用してガスケット10を摺動後退させたシリンジバレル1を測定した処、シリコーンオイルの残留は検出されなかった。
以上の事実から、本発明に係るガスケット10は、プレフィルドシリンジAのみならず、ディスポーザブルシリンジにも適用可能であることが分かった。
【実施例】
【0060】
(1) 本発明の摺動性シリコーンゴム及び摺接リングの製作
「分子量の小さい液状又はグリス状或いは粘土状のオルガノポリシロキサン」をシリコーンゴム素材とし、これに25%のシリカ微粉末を加えてシリコーンゴム基材とし(可塑度180(ウイリアムスプラストメータで測定))、更にこれに超高分子ポリエチレン微粉末(更には、シリコーンオイル)を添加してニーダで混練して本発明の摺動性シリコーンゴムを形成する。各成分の配合比は表2による。
硬化触媒は、付加反応型摺動性シリコーンゴムの場合は、白金又はロジウム或いは錫の有機化合物のいずれか1つであり、過酸化物架橋型摺動性シリコーンゴムの場合は、過酸化物である。
摺接リングの成形方法については、上記形状の摺接リングが成形できるキャビティに摺動性シリコーンゴムを充填し、該圧縮金型を例えば140℃〜150℃、硬化時間は5分で加熱加圧した。然る後、これにより目的の摺接リングが得られる。更に130℃で8時間加熱(アニーリング)した。
【0061】
(2) 本発明の摺動性シリコーンゴムの摺動性試験(表2)
摺接リング19は本試験では、外径;6.4mm、内径;4.5mm、長さ;2.5mmとした。このように形成した摺接リングをガスケット本体(凹溝の直径×長さ=Φ4.5×2.7mm)に装着し、図7に示す摺動抵抗側的装置により、その「摺動抵抗」を測定した。
この場合、摺接リングのみの摺動抵抗を測定するためにガスケット本体はシリンジバレル内周面接触しない寸法とした。
測定結果は表2、図8の通りである。
配合によって摺動抵抗は幅を持つが、「超高分子ポリエチレン微粉末」のみの場合では、摺動抵抗は9〜11Nであった。
「ゴムに添加されたシリコーングリス」併用の場合は、4〜8Nであった。
【0062】
(3) ガスケット本体自体の摺動性試験
COP製シリンジバレル:内径=6.20mm(10本)
PTFEガスケット本体(摺接リングなし)
シール幅:0.1、 0.6、 2mmの3種類
直径差S:0.1mmでは、300、150、100、10μmの4種類
0.6mmでは、200、150、100μmの3種類
2mmでは、150、60、40、20μmの4種類である。
摺動抵抗は図9の通りである。なお、比較のため図10の複合ガスケット(シール幅=0.1mm)も併記した。
【0063】
(4) 複合ガスケット(ガスケット本体に摺接リング装着したもの:複合ガスケットの摺動抵抗=ガスケット本体の摺動抵抗+摺接リングの摺動抵抗)(図9〜11)
図10の複合ガスケット(シール幅S=0.1mm)はシリンジバレル内径とシール部分の外径との直径差が200μmの場合で5.1Nであり、手動での注射用に適用可能である。
図11の複合ガスケット(シール幅S=0.2mm)も直径差が200μmの場合で6.5Nであり、この場合でも手動での注射用に適用可能である。
この試験結果から考えると、複合ガスケットを使用したシリンジバレルの摺動抵抗を8Nとした場合、直径差が200μmとするとシール幅Sは0.3mm迄は適用可能と考えられる。シール幅Sを0.3mm以上とした場合、直径差を200μmから次第に小さくして行くことになる。
【0064】
これに対して、複合ガスケットの摺動抵抗を15Nにした場合、摺接リングの摺動抵抗は前述のように、「超高分子ポリエチレン微粉末」のみの場合は9〜13Nであり、「超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーングリス」併用の場合は4〜8Nであるから、プランジャロッドの最大押込み力15Nから摺接リングの摺動抵抗を差し引いた数値がガスケット側に許される摺動抵抗となり、この範囲の数値を示すガスケット本体が選択されることになる。
【0065】
図9から、シール幅Sの狭い時には圧入代(直径差の半分)を200μmとかなり大きくしても良好な摺動性を示す。なお、PTFE以外の硬質プラスチックでもシール幅Sが狭い場合、圧入代(直径差の半分)をかなり大きくしても良好な摺動性を示すことが分かる。これはシール部分である接液側摺動部がフィルム状であるため、背面の摺接リングの弾性にバックアップされつつ接液側摺動部の先端エッジがシリンジバレル内周面に圧接して変形し、シリンジバレルの内周面に密着するためである(図4(A))。ただし、シール幅Sが極端に狭いため、摺動安定性にやや難点がある形状といえるが、摺動リングの長さや形状、ガスケット本体のプランジャロッド5側の摺動面のシリンジバレル内周面への摺接度合いを工夫することで摺動安定性を高めることができる。なお、エッジ接触の場合には、薄い接液側摺動部が撓んで接液側摺動部の接液側のエッジ部分が接触して良好な止水性を示す。
【0066】
なお、前述のようにシール幅Sは2mm迄広げることが出来る。シール幅Sを0.1mmから2mmまで増大して行くと、接液面側摺動部の強度は次第に増加し、0.6mm幅程度までは上記のようなエッジ接触となるが、これを越えると次第に強度が増し、接液側摺動部の接液側摺接面が強くシリンジバレル内周面に接触するようになる。それ故、摺動抵抗を15N以下(手動の場合は8N以下)に抑えようとするとシリンジバレル内周面に対する圧入代を漸減させる必要がある。
【0067】
なお、この場合で、切削によるガスケット本体の形成の場合、最も重要な接液面側摺接面に微細且つ浅い切削筋溝が発生するが、切削ピッチと溝深さが十分小さければ(例えば、切削ピッチが40μm以下、溝深さが6μm以下)であれば、シリンジバレル内周面への押圧によって摺接面にコールドフローが生じ、切削筋溝が消滅してしまい良好な止水を実現する。射出成形の場合ではこのような点が該摺接面に発生しない。
【0068】
水蒸気透過試験
測定結果:従来用いられていたブチルゴムガスケットに対しては勿論、非透水性に優れたPTFEで全体を作成したPTFEガスケットに比べて複合ガスケットは更に優れた非透水性を示した。PTFEガスケットでは、シリンジバレル内周面とPTFEガスケットのシール面からの水蒸気の漏れが主と考えられる処、本発明の複合ガスケットでは、ゴム弾性に富み且つ非透水性に優れ、加えて粒度が広く分布した超高分子PE微粒子を細密状態で使用した結果、シリンジバレル内周面とPTFEガスケットのシール面からの水蒸気の漏れを更に抑制できた結果と考えられる。
【符号の説明】
【0069】
A: プレフィルドシリンジ、S:シール幅、:シリンジバレルの内径、1:シリンジバレル、1a:バレル本体、1b:針装着部、1c:鍔部、2:内周面(内周面)、5:プランジャロッド、5a:雄ネジ部、5b:指当て部、8:トップキャップ、8a:キャップ本体、8b:凹部、8c:嵌合突部、10:ガスケット、 11:摺接面、11a:接液面側の摺接面、11b:プランジャロッド側の摺動面、14:接液面、15:雌螺子穴、16:接液側摺動部、17:テーパー部分、 17a:プランジャロッドの装着面、18:凹溝、19:摺接リング、19a:微粒子、19b:シリコーンオイル膜、19c:シリコーンゴム基材、26:本体 部分(ガスケット本体)、30:薬液、31:薬剤。
【要約】
注射液に直接触れるガスケット本体にPTFEを用い、注射液に触れない部分に摺動性シリコーンゴムを使用したシリンジを得る。
シリンジバレル1と、シリンジバレル1内に圧入されたガスケット10及び前記ガスケット10に装着されたプランジャロッド5とで構成されていることを特徴とするシリンジAである。ガスケット10は、シリンジバレル1に充填される薬液30に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレル1の内周面2に摺接する本体部分26の摺接面11に全周に亘って凹溝18が形成されている。凹溝18に嵌め込まれ、シリンジバレル内周面2に摺接する摺接リング19は、シリコーンゴム基材19cにシリコーンオイルと、球形の超高分子微粉末とが添加されている。
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図12