【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1は、シリンジバレル1に圧入されて摺動状態で用いられるガスケット10であって、
前記ガスケット10は、シリンジバレル1に充填される薬液30に対して耐薬液性を有する硬質プラスチックで形成され、シリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接面11を有する本体部分26と、前記摺接面11の全周に亘って形成された凹溝18に嵌め込まれ、シリンジバレル1の内周面2に摺接する摺接リング19とで構成され、
前記摺接面11の内、少なくとも薬液30との接液面14に隣接する摺接面11aが前記内周面2に対して液密性に形成されており、
前記摺接リング19は、シリコーンゴム基材19cに球形の超高分子ポリエチレン微粉末19aが添加された摺動性シリコーンゴムGで形成されており、
且つ、薬液30との接液面14に隣接する前記摺接面11aを有する接液側摺動部16をバックアップするように接液側摺動部16の背面に接触して配置されており、
摺動性シリコーンゴムGは、容積比で、前記超高分子ポリエチレン微粉末を44.5〜60%、残りをシリコーンゴム基材19cとしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2は、請求項1のガスケット10において、
摺接リング19の摺動性シリコーンゴムGにはシリコーンオイルが更に添加されており、
摺動性シリコーンゴムGは、容積比で、超高分子ポリエチレン微粉末を30〜65%、シリコーンオイルを7〜40%、超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材19cとしたことを特徴とする。
【0013】
請求項1又は2の「摺接リング19」として使用される硬化体である「医療用摺動性シリコーンゴムG」は、シリコーンゴム基材に球形の超高分子ポリエチレン微粉末を添加したもの(請求項1)、或いは、これに更にシリコーンオイルが添加されたもの(請求項2)がある。
医療用摺動性シリコーンゴムGに添加されている微粉末の超高分子ポリエチレン微粒子は
図5(A)(B)に模式的にされている。図中、超高分子ポリエチレン微粒子を符号19aで示し、19cで超高分子ポリエチレン微粒子19aを繋ぐシリコーンゴム基材を示す。
図5(B)では、符号19bで超高分子ポリエチレン微粒子19aの表面に付着した薄いシリコーンオイルを示す。
球形の超高分子ポリエチレン微粉末としては、例えば、平均分子量が1×10
6〜7×10
6で、透水性を有さず、殆どののものと接着せず、高温でも溶融しない。これが添加された医療用摺動性シリコーンゴムGを高圧で成形してもその球状形態を保持している。
【0014】
摺動性シリコーンゴムGの原料として、主鎖がケイ素−酸素で構成され、有機官能基(ビニル基など)を組み込んだ液状やグリス状或いは粘土状のオルガノポリシロキサンが使用される。
そして、必要添加物を添加して混練し、目的の分子量になるように重合して摺動性シリコーンゴムGとする。この摺動性シリコーンゴムGに限らず、すべての重合物がそうであるように、当然、分子量の小さい材料(オリゴマと呼ぶ)を極く僅か含有している。しかしながら高分子量の従来のシリコーンゴム自体は表1に示すように摺動抵抗が20N以上で摺動性を示さない。
【0015】
このような一般的技術常識に対して、請求項1に記載の本発明は、この「残存オリゴマ」に着目し、球形の超高分子ポリエチレン微粉末を添加することにより、この「残存オリゴマ」に「シリコーンオイル」的な役目を果たさせるようにしたものである。即ち、球形の超高分子微粒子19aの周囲に薄い「オリゴマ塗膜」を形成することで、球形の超高分子微粒子19aに回転作用を生じさせ、摺動性シリコーンゴムGの摺動抵抗をガスケットに適用できる実用範囲(9〜11N)迄小さくすることが出来たのである(表1)。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成にシリコーンオイルが必要量だけ更に添加されているものである。請求項1の「オリゴマ」の量は微少であるから、摺動性の改善には自ずと限界がある。
積極的にシリコーンオイルを添加することで本発明に係る医療用シリコーンゴムGの「摺動性」を(4〜8N)へと飛躍的に高めるようにした(表1)。
図5(B)は前述のようにシリコーンオイルを加えた場合の模式図で、図中、超高分子ポリエチレン微粒子19aの周囲に添加されたシリコーンオイル膜19bが付着し、超高分子ポリエチレン微粒子19a間をシリコーンゴム基材19cが埋める構造となっている。
請求項1の場合でも、請求項2の場合でも、超高分子ポリエチレン微粒子19aの添加量が過大になるとシリコーンゴム基材19cが繋ぎの働きをなくすことになる。逆に過少であれば、大半の超高分子ポリエチレン微粒子19aがシリコーンゴム基材19cの中に取り込まれてしまい、「摺動性」を示さなくなる。好ましい範囲は後述する。
【0017】
なお、請求項2において、添加されるシリコーンオイルには低粘度のもの(例えば、1000cP程度のもの)から、グリスと呼ばれるような高粘度のもの(例えば、100,000cP程度のもの或いはそれ以上のもの)迄含まれる(表2)。
シリコーンオイルの粘度は摺動性向上に若干寄与するものの超高分子ポリエチレン微粉末の「ベアリング効果」程ではない。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超高分子ポリエチレン微粉末に関するもので、超高分子ポリエチレン微粒子19aの粒径範囲が10〜300μmであることを特徴とする(表2)。更に好ましくはこれが20〜50μmである。粒径が300μm以上のものが含まれていると大き過ぎ、却って密閉性を損なう。
【0019】
使用される超高分子ポリエチレン微粉末は、例えば、平均分子量が1×10
6〜7×10
6の超高分子量材料である。
超高分子ポリエチレン微粉末の微粒子19aは、前述のように大小様々で球形をしており、その表面には微細な凹凸があり、シリコーンゴム基材19cに残留しているオリゴマや添加されたシリコーンオイルが薄膜となって付着している。
分子量が100万〜300万或いは700万に上る超高分子ポリエチレン微小粒子19aは、透水性を有さず、殆どののものと接着せず、高温でも溶融せず、高圧で成形してもその球状形態を保持している。
なお、超高分子ポリエチレン微粒子19aの粒径の範囲が10〜300μmと広いので、大きい粒子の間に小さい粒子が入り込んで大きい粒子間の隙間を埋めて超高分子ポリエチレン微粒子19aの充填度を高める。
その結果、微粒シリカのような充填材を添加した従来の透水性を有するシリコーンゴムに対して本発明のシリコーンゴムGの非透水性は大幅に向上する。
【0020】
表2は本発明の摺接リング19に用いられる摺動性シリコーンゴムGの配合表で、その数字の単位はml(ミリリットル)である。
上記のようにシリンジバレル内周面2に摺接しないようなガスケット本体26を製作し、これに表2に示された配合の摺接リング19を嵌め、摺接リング19のみの摺動抵抗を測定した。
なお、摺接リング19のみの摺動抵抗は、後述する過酸化物硬化型摺動性シリコーンゴムと付加反応型硬化摺動性シリコーンゴムでは殆ど変わらないか、付加反応型シリコーンゴムの方が若干良い。
【0021】
【表2】
【0022】
表2は、シリコーンゴムの配合表とその摺動抵抗を比較した表である。
●シリコーンオイルを添加せず、オリゴマの働きのみに頼る場合(No11〜15)
超高分子ポリエチレン微粉末は43.5容量%の場合(比較例1)、摺動抵抗平均値が17.3Nであって、43.5容量%以下の場合、機械押しの場合の目標値15Nを越えるので使用できない。
これに対して、超高分子ポリエチレン微粉末は44.5容量%以上であれば(実施例11〜13)、摺動抵抗平均値がそれぞれ10.3N、9.3N、10.5Nであって、機械押しの場合の目標値15N以下になるので、機械押しの場合には使用可能となる。以上から、シリコーンオイルを添加せず、オリゴマの働きのみに頼る場合、超高分子ポリエチレン微粉末は44容量%以上が要求される。
一方、シリコーンオイルを添加しない場合で、超高分子ポリエチレン微粉末が62.9容量%(比較例2)になると、シリコーンゴム基材を多く添加できず、ニーダ(練り機)で練った練成物に粘り気がなくなり、シリコーンゴム基材の繋ぎとしての働きが損なわれる。
従って、シリコーンオイルを添加しない場合、超高分子ポリエチレン微粉末の添加量は44〜60容量%(好ましくは45〜55容量%)となる。
●シリコーンオイルを添加する場合(No1〜10、16、17)
この場合は、シリコーンオイルの添加量にもよるが、超高分子ポリエチレン微粉末が24.9容量%以下の場合(比較例3)、超高分子ポリエチレン微粉末が過少であって摺動抵抗の改善には不足であった。
逆に、超高分子ポリエチレン微粉末が68.9容量%の場合、シリコーンゴム基材(26.8容量%)やシリコーンオイル(4.3容量%)の添加量が過少となり、この場合もニーダ(練り機)で練った練成物に粘り気がなくなり、シリコーンゴム基材の繋ぎとしての働きが損なわれる。
これに対して、超高分子ポリエチレン微粉末が32.1容量%以上の場合、シリコーンオイル(31.6容量%)、シリコーンゴム基材(36.3容量%)となって(実施例9)、その摺動抵抗平均値が4.7Nに下がり、手押しの場合にも適用できる摺動抵抗を示した(実施例9)。
従って、超高分子ポリエチレン微粉末は30容量%以上あればシリコーンゴムGの表面に現れて潤滑主剤として後述する「ベアリング」のような役割を十分に果たす。超高分子ポリエチレン微粉末の上限は65容量%である。即ち、超高分子ポリエチレン微粉末の添加量は、30〜65容量%である。
【0023】
以上から、シリコーンオイルを添加しない場合では、オリゴマ又はシリコーンオイルは超高分子ポリエチレン微粒子19aの表面に薄い膜を形成して後述する超高分子ポリエチレン微粒子19aの回転を助ける潤滑助剤としての働きをなす。
オリゴマの残留量は極く少ないので、積極的にシリコーンオイルを添加する場合に比べて潤滑助剤としての働きは小さい。
これに対して、積極的にシリコーンオイルを添加することで、摺動抵抗が次第に減少する。
しかしながらシリコーンオイルを添加した場合、40容量%以上添加しても摺動抵抗は左程上昇せず加工性が損なわれてむしろ弊害が多い(比較例3)。
積極的に摺動性を改善するためのシリコーンオイルの好ましい範囲は表2の実施例1〜10を参照すれば、7〜40容量%(摺動抵抗が7N以下となる、より好ましい範囲は10〜30容量%)である。
なお、金型成形して摺接リング19とした場合、好ましい範囲は、超高分子PE微粉末が40〜65容量%(より好ましい範囲は45〜55容量%)、シリコーンオイルは7〜40容量%(より好ましい範囲は10〜30容量%)である(表2の実施例1〜10参照)。
そして超高分子PE微粉末とシリコーンオイルは上記の範囲内で、且つ、容積比で超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計を37〜72%とし、残りをシリコーンゴム基材とする。なお、比較例3は超高分子ポリエチレン微粉末とシリコーンオイルの合計が65.9容量%であり、範囲内であるが、超高分子ポリエチレン微粉末は24.9容量%、シリコーンオイルが41.0容量%であり、いずれも範囲から外れる。
【0024】
(付加反応型摺動性シリコーンゴムG)は、シリコーンゴム基材19cの素材(或いは原料)に関し、分子内にビニル基を組み込んだ不定形のポリシロキサンと分子端末に反応性水素を組み込んだ不定形のポリシロキサンとを白金又はロジウム或いは錫の有機化合物のいずれか1つを触媒として反応により加熱硬化させたものであることを特徴とする。
【0025】
(過酸化物架橋型摺動性シリコーンゴムG)は、他のシリコーンゴム基材19cの素材(或いは原料)に関し、過酸化物を硬化触媒としてビニル基を組み込んだポリシロキサンを硬化反応させたものであることを特徴とする。
【0026】
請求項
4に記載の発明は、液状又はグリス状(即ち、不定形)のシリコーンゴム素材に添加されて形成される可塑度調整のために用いられる充填材に関し、充填材として、微粒シリカを主成分とし、PTFE微粉末、ガラスビーズ、タルク、チタン粉又はカーボンの内の少なくとも1つが充填材として添加される。微粒シリカの粒径は0.05〜2μmが好ましい。また、必要があれば着色剤として顔料が添加される。
【0027】
上記シリコーンゴム基材19cの素材(原料)としては、上記のように不定形のポリシロキサンが使用されるが、その可塑度が、例えば、100〜500となるように、微粉シリカその他の充填物が添加され、或いは重合度が調節されている。重合物には素材の極く一部がオリゴマとして残留する。素材に上記充填材が添加されたものが本発明シリコーンゴムGの原料になるシリコーンゴム基材19cである。
【0028】
本発明のガスケット10において、成形された摺接リング19が130℃以下、4〜24時間以下(好ましくは、120〜130℃で、4〜10時間)で加熱(アニーリング)されたものであることを特徴とする。
【0029】
この加熱(アニーリング)により、付加反応型シリコーンゴムの40℃における耐クリープ性が大幅に向上し、長時間上記高い温度に保持されても永久歪が出にくく、摺動リング19とした時に液漏れが発生しない。
【0030】
請求項
5に記載の発明は、請求項1〜2のいずれかに記載のガスケット10における摺接面11aに関し、摺接面11aの幅S(即ち、シール幅S)は、0.1mm〜2mm(更に好ましくは、0.2mm〜1.5mmの範囲)であることを特徴とする。
【0031】
摺接面11aの厚みSが、0.1以下mmの場合には、薄すぎて強度不足になるために薬液30の液漏れの可能性があり、摺接面11aの厚み(シール幅)Sが3mmで圧入のための直径差が150μmの場合、シリンジバレル1がシクロオレフィン樹脂(COP)の場合、割れを生じる恐れある。
安全性のためと摺動抵抗を15N以下にするために摺接面11aのシール幅Sの最大厚みを2mmとした。また、上記シール幅Sが0.1mmから0.6mmの場合、接液側摺動部16がシリンジバレル内周面2に圧接してエッジで大きく撓む。
これに対して、シール幅Sが0.6mmを越え、2mm迄はある程度接液側摺動部16に強度があるので、摺接面11aがシリンジバレル内周面2に接触して止水する。
【0032】
請求項
6に記載の発明は、請求項1〜2のいずれかに記載のガスケット10における本体部分26が独立気泡化されたPTFEであることを特徴とする。
熱間等方圧加圧法により独立気泡化されたPTFEは、焼結によって形成されたPTFEの粒間に存在する超微細間隙が確実に閉塞されている。
その結果、このPTFEで形成されておれば、薬液30を充填した状態で長期間の保存されるプレフィルドシリンジAにこのガスケット10を使用した場合、この保管中に薬液30が前記超微細間隙を通って漏れ出すようなことを確実に防止できる。
【0033】
請求項
7に記載の発明は、シリンジA(
図1)に関し、「内部に薬液30が充填されるシリンジバレル1と、シリンジバレル1内に圧入された請求項1〜
6のいずれかに記載のガスケット10及び前記ガスケット10に装着されたプランジャロッド5とで構成されている」ことを特徴とする。
【0034】
上記シリンジAは、プレフィルドシリンジと通常のディスポーザブルシリンジ(薬液が非充填の注射器で、注射時に薬液を注射針から吸引して使用する一般的な注射器を意味する)を含む。
ここで使用されたガスケット10は、上記のように「高摺動性」と「密閉性」を具備する上、これに加えて、
図12に示すように本体部分26を構成する樹脂は勿論、本発明に係るシリコーンゴムGで形成された摺接リング19の水蒸気非透過性が非常に優れているので、シリンジをプレフィルドシリンジAとして内部に薬液30を充填した状態で長期間にわたって保存してもガスケット10を通じての水蒸気の透過は殆ど認められなかった。また、このガスケット10の摺接リング19に添加されているシリコーンオイルの表面への染み出し量は極めて僅かであるので、このガスケット10をシリンジバレル1内で往復移動させたとしても、摺接リング19から染み出したシリコーンオイルのシリンジバレル1の内面への付着量は殆どない。
それ故、このガスケット10は、上記プレフィルドシリンジ用としてだけではなく、通常のディスポーザブルシリンジ用としても使用できる。