特許第5977546号(P5977546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977546アーク溶接における溶接状態監視装置及び溶接状態監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977546
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】アーク溶接における溶接状態監視装置及び溶接状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   B23K9/095 515A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-58888(P2012-58888)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-188790(P2013-188790A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】山角 覚
(72)【発明者】
【氏名】長友 正裕
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−047541(JP,A)
【文献】 特開平09−101113(JP,A)
【文献】 特開平11−077308(JP,A)
【文献】 特開平07−032146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/08 − 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材と電極部材との間にアークを発生させ、アークの熱により被溶接部材を溶融させて接合するアーク溶接における溶接状態監視装置であって、
アーク柱の撮像を行い、撮像した画像を出力する撮像手段と、
前記撮像手段の出力画像に基づき、前記アーク柱の外形を特定する画像処理手段と、
前記画像処理手段で特定した前記アーク柱の外形に基づき、磁気吹きによる影響の有無を判定する判定手段と、
を備え
前記画像処理手段は、特定した前記アーク柱の外形から左右のアーク柱直線を算出し、
前記判定手段は、算出した左右の前記アーク柱直線の形状変化に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定することを特徴とするアーク溶接における溶接状態監視装置。
【請求項2】
前記撮像手段は、電極部材の撮像を行い、撮像した画像を出力し、
前記画像処理手段は、出力画像に基づいて電極部材の外形の特定を行い、特定された電極部材の外形から電極直線を算出し、
前記判定手段は、前記アーク柱直線及び電極直線に基づき、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにした請求項に記載のアーク溶接における溶接状態監視装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、前記算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度を算出し、
前記判定手段は、算出された交差角度に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにした請求項に記載のアーク溶接における溶接状態監視装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度として、電極部材の軸線に対して対称位置の交差角度を第一交差角度及び第二交差角度として算出し、
前記判定手段は、前記第一交差角度と第二交差角度との角度差が略同一であれば、磁気吹きによる影響が無いものと判定するようにした請求項に記載のアーク溶接における溶接状態監視装置。
【請求項5】
前記判定手段が磁気吹きによる影響が有ると判定した時に警告を発する警告発生手段を更に備えている請求項1〜のいずれか1項に記載のアーク溶接における溶接状態監視装置。
【請求項6】
被溶接部材と電極部材との間にアークを発生させ、アークの熱により被溶接部材を溶融させて接合するアーク溶接における溶接状態監視方法であって、
アーク柱を撮像した出力画像に基づいてアーク柱の外形を特定し、前記特定されたアーク柱の外形から左右のアーク柱直線を算出し、
電極部材を撮像した出力画像に基づいて電極部材の外形の特定を行い、特定された電極部材の外形から電極直線を算出し、
前記アーク柱直線と前記電極直線とが交差する交差角度を算出し、
該算出された交差角度の変化に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにしたことを特徴とするアーク溶接における溶接状態監視方法。
【請求項7】
前記算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度として、電極部材の軸線に対して対称位置の交差角度を第一交差角度及び第二交差角度として算出し、
前記第一交差角度と第二交差角度との角度差が略同一であれば、磁気吹きによる影響が無いものと判定するようにした請求項に記載のアーク溶接における溶接状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接の溶接状態を監視する監視装置及び監視方法に関し、特に、アーク柱の状態を監視する溶接状態監視装置及び溶接状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材を接合する方法としてアーク溶接が広く用いられているが、特に工業的に使用されるほとんどの金属や合金の接合が可能であることから、TIG溶接(Tungsten Inert Gas Arc Welding)が用いられる場合がある。
【0003】
TIG溶接は、アルゴンガスやヘリウムガスなどの不活性ガスをシールドガスとしてノズル内から噴流させ、そのシールドガス中で融点の高い電極部材(溶接トーチ)と、接合したい被溶接部材との間にアークを発生させ、そのアークの熱により被溶接部材を溶融、接合する方法である。また、TIG溶接では、一般的に、溶接部における溶融池に溶加材(溶着金属)が供給されている。
【0004】
このようなアーク溶接は、図6(a) に示すように、溶接トーチ(電極部材)100と被溶接部材110,111との間にアーク(アーク柱)120を発生させ、溶けた被溶接部材110,111の溶融池130に溶加材(図示略)を供給して溶接する。しかし、このようなアーク溶接においては、図6(b) に示すように、アーク120が磁気作用によって偏向する「磁気吹き」という現象が発生する場合がある。この磁気吹きは、溶接電流によって生じる磁界や被溶接部材の残留磁気がアーク柱の電流に非対称に作用することによって起こる。特に、開先底部やT継手を直流アーク溶接する場合に被溶接部材の端部で起こりやすいが、中間部分でも起こる場合がある。しかも、予測することができず、被溶接部材の材質や溶接継手の形状等、様々な条件によって生じていると考えられる。
【0005】
そして、磁気吹きが発生しても電流・電圧に異常が起きないため、これに気付かないまま溶接を続けて溶接不良を起こしてしまうことがある。しかも、例えば、上記TIG溶接の場合、約0.2mmのずれを監視して調整する場合があり、上記磁気吹きを生じた場合には溶接品質の悪化につながる。その上、磁気吹きを生じた場合には補修が必要であるが、例えば、上記TIG溶接で溶接する被溶接部材の場合には再加熱が制約される部材もあり、そのような被溶接部材の場合には補修が難しくなる。
【0006】
このようなアーク溶接における溶接状態を監視する先行技術として、例えば、溶接施工中における溶融金属の温度変化を算出し、その算出結果に基づいて溶接状態の冶金的健全性を評価するようにした監視装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、他の先行技術として、溶接電流によって発生する磁界を溶接トーチの先端部に設置された磁気センサユニットによって一定時間毎に検出し、検出された磁界の強さと方向の変化量に基づいて磁気吹きの影響が大であるか否かを判定するようにした磁気吹き検知装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−216563号公報
【特許文献2】特開平07−321146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明は、溶融部の輝度変化に基づいて溶接状態を監視するものであり、アークに生じる磁気吹きを検知できるものではない。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の発明では、磁界の強度の変化から磁気吹きの影響が大きいか否かを監視しているが、アークに磁気吹きが生じていることを直接監視するものではないため、上記したように、被溶接部材の材質や溶接継手の形状等、様々な条件によって生じていると考えられる磁気吹きを安定して監視するには信頼性が低く、溶接品質の点で課題が残る。
【0011】
このように、これらの先行技術では、磁気吹きを安定して監視し、磁気吹きが生じた場合には溶接停止等の対策を迅速に取ることができない。
【0012】
そこで、本発明は、磁気吹きによる影響の有無を判定する要素としてアーク柱の形状に着目し、アーク柱の形状を監視することにより磁気吹きを監視し、溶接品質の悪化を防いで溶接品質向上を図ることができるアーク溶接における溶接状態監視装置及び溶接状態監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るアーク溶接における溶接状態監視装置は、被溶接部材と電極部材との間にアークを発生させ、アークの熱により被溶接部材を溶融させて接合するアーク溶接における溶接状態監視装置であって、アーク柱の撮像を行い、撮像した画像を出力する撮像手段と、前記撮像手段の出力画像に基づき、前記アーク柱の外形を特定する画像処理手段と、前記画像処理手段で特定したアーク柱の外形に基づき、磁気吹きによる影響の有無を判定する判定手段と、を備えている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「アーク柱の外形」は、「アーク柱の輪郭」と同一の概念である。
【0014】
この構成により、磁気吹きの有無を判定する要素としてアーク柱の外形(輪郭)に着目し、撮像したアーク柱の外形を画像処理手段によって特定し、そのアーク柱の外形形状によってアーク柱が変化しているか否かを判断して、磁気吹きの有無を簡易に判定することができる。この判定により、アーク溶接を止めるなどの対策を取って、溶接品質の悪化を低減して溶接品質の向上を図ることができる。
【0015】
また、前記画像処理手段は、特定されたアーク柱の外形からアーク柱直線を算出し、前記判定手段は、算出されたアーク柱直線に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにしてもよい。このように構成すれば、アーク柱の外形から算出したアーク柱直線を利用し、このアーク柱直線の傾きによって磁気吹きの有無を簡易に判定することができる。
【0016】
また、前記撮像手段は、電極部材の撮像を行い、撮像した画像を出力し、前記画像処理手段は、出力画像に基づいて電極部材の外形の特定を行い、特定された電極部材の外形から電極直線を算出し、前記判定手段は、前記アーク柱直線及び電極直線に基づき、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにしてもよい。このように構成すれば、アーク柱の外形に加えて電極部材の外形を利用してアーク柱が変化していることを判定するので、撮像手段が電極部材の軸方向に対して傾いていたとしても、その影響を受けることなく、安定して磁気吹きの有無を判定することができる。
【0017】
また、前記画像処理手段は、前記算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度を算出し、前記判定手段は、算出された交差角度に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにしてもよい。このように構成すれば、算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度から磁気吹きによる影響の有無を判定するので、撮像手段が電極部材の軸方向に対して傾いていたとしても、その影響を受けることなく、交差角度を指標として安定して磁気吹きの有無を判定することができる。
【0018】
また、前記画像処理手段は、算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度として、電極部材の軸線に対して対称位置の交差角度を第一交差角度及び第二交差角度として算出し、前記判定手段は、前記第一交差角度と第二交差角度との角度差が略同一であれば、磁気吹きによる影響が無いものと判定するようにしてもよい。この第一交差角度と第二交差角度の角度差としては、例えば、±10°の範囲が好ましい。このように構成すれば、電極部材の軸線に対して対称位置の二つの交差角度を算出し、これらの交差角度がほぼ等しい値である場合は、磁気吹きによる影響が無いと判定できるため、より安定した磁気吹きの有無の判定により、溶接品質の向上を図ることができる。しかも、交差角度の角度差が所定範囲を越えたことでアーク溶接を自動停止させることもできる。
【0019】
また、前記判定手段が磁気吹きによる影響が有ると判定した時に警告を発する警告発生手段を更に備えていてもよい。このように構成すれば、磁気吹きによる影響が有ると判定された時に警告を発することで、作業者に磁気吹きが生じていることを注意喚起することができる。また、自動運転においては、自動運転を停止等させることができ、磁気吹きによる溶接品質への影響を最小限で留めることができる。
【0020】
一方、本発明に係るアーク溶接における溶接状態監視方法は、被溶接部材と電極部材との間にアークを発生させ、アークの熱により被溶接部材を溶融させて接合するアーク溶接における溶接状態監視方法であって、アーク柱を撮像した出力画像に基づいてアーク柱の外形を特定し、前記特定されたアーク柱の外形からアーク柱直線を算出し、電極部材を撮像した出力画像に基づいて電極部材の外形の特定を行い、特定された電極部材の外形から電極直線を算出し、前記アーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度を算出し、該算出された交差角度に基づいて、磁気吹きによる影響の有無を判定するようにしている。
【0021】
この構成により、アーク柱外形の直線と電極部材外形の直線との交差角度からアーク柱が偏向して磁気吹きが生じていることを容易に判定することができ、磁気吹きによる溶接品質の悪化を未然に防ぎ溶接品質の向上を図ることができる。
【0022】
また、前記算出されたアーク柱直線と電極直線とが交差する交差角度として、電極部材の軸線に対して対称位置の交差角度を第一交差角度及び第二交差角度として算出し、前記第一交差角度と第二交差角度との角度差が略同一であれば、磁気吹きによる影響が無いものと判定するようにしてもよい。このように構成すれば、電極部材の軸線に対して対称位置の二つの交差角度がほぼ等しい値である場合は、磁気吹きによる影響が無いと判定できるため、より安定した磁気吹きの有無の判定により、溶接品質の向上を図ることができる。しかも、交差角度の角度差が所定範囲を越えたことでアーク溶接を自動停止させることもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アーク溶接におけるアーク柱の形状を直接的に監視することによって、アーク溶接の品質悪化を抑止して溶接品質向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接状態監視装置の構成図である。
図2図1の溶接状態監視装置における第1監視方法を示す図面である。
図3図2の第1監視方法における外形特定の閾値決定方法を示す図面である。
図4図1の溶接状態監視装置における第2監視方法を示す図面である。
図5図1の溶接状態監視装置における第3監視方法を示す図面である。
図6】(a) は通常のアーク柱を示す模式図であり、(b) は磁気吹きを生じた場合のアーク柱を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、アーク溶接の一例としてTIG溶接を行う溶接装置の溶接状態監視装置1を例に説明する。また、上述した図6に示す構成と同一の構成には同一符号を付して説明する。さらに、溶接の進行方向を溶接進行方向Fで示す。
【0026】
図1に示すように、溶接状態監視装置1は、被溶接部材(以下、「母材」ともいう)110,111に対してTIG溶接を行う溶接装置10と、この溶接装置10の動作を制御する制御装置20と、溶接装置10による溶接状態を撮像する撮像手段たるアーク監視用カメラ30と、アーク監視用カメラ30からの画像を処理する画像処理手段たる画像処理装置40とを備えている。
【0027】
上記溶接装置10には、先端に溶接トーチ(電極部材)100が設けられたオシレータヘッド11と、このオシレータヘッド11に設けられ、溶接トーチ100の先端部分に形成される溶融池に溶加材ワイヤ12を供給するワイヤガイド13と、これらを溶接進行方向Fに移動させる溶接ロボット14が備えられている。オシレータヘッド11は、溶接する開先の形状や大きさに応じて所定の振り幅で溶接トーチ100及び溶加材ワイヤ12を供給するワイヤガイド13を左右に揺動させるようになっている。
【0028】
上記溶接ロボット14のアーム15に取付けられた支持フレーム16に上記オシレータヘッド11を揺動させる機構が備えられている。この支持フレーム16には、上記ワイヤガイド13の溶接進行方向F前方から溶接トーチ100の溶接部を撮像するように、上記アーク監視用カメラ30を支持する支持ブラケット17が設けられている。この支持ブラケット17に支持されたアーク監視用カメラ30は、溶接進行方向Fの前方からアーク柱120を監視するように設けられている。アーク監視用カメラ30の配置としては、溶接線上が好ましい。このアーク監視用カメラ30としては、例えば、CCDカメラ(例えば、ワイドダイナミックレンジ(例えば、120dB)のデイナイトカメラ等)を用いることができるが、アーク柱120を撮影できる機能を備えた撮像手段であればよい。
【0029】
溶接ロボット14は、上記制御装置20に配線50で接続されており、制御装置20に備えられたロボットコントローラの機能によって、溶接トーチ100を被溶接部材110,111との間隔を保ちながら溶接進行方向Fに移動させる。
【0030】
また、上記溶接トーチ100と被溶接部材110,111とには、アーク120を発生させるTIG溶接機18が配線51,52で接続されている。このTIG溶接機18は、上記制御装置20に配線53で接続されている。
【0031】
さらに、上記オシレータヘッド11は、配線54で制御装置20に設けられたオシレータ制御部21に接続されている。このオシレータ制御部21からの信号により、上記オシレータヘッド11の揺動等の動作が制御される。
【0032】
一方、上記溶接装置10の支持ブラケット17に設けられたアーク監視用カメラ30は、画像処理手段たる画像処理装置40と配線55で電気的に接続されている。この画像処理装置40は、上記アーク監視用カメラ30からの画像を処理して映し出すモニタ41を有している。この画像処理装置40も、上記制御装置20と配線56で電気的に接続されている。この配線56による接続としては、例えば、オープンフィールドネットワーク等で接続され、高速通信ができるようにするのが好ましい。
【0033】
従って、上記制御装置20は、上記TIG溶接機18の制御と、溶接ロボット14の制御、オシレータヘッド11の制御、及び画像処理装置40の制御とを行う機能が備えられている。この実施形態では、制御装置20に複数の機能を備えさせているが、個々の機能を備えた装置を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、この実施形態では、制御装置20に警告灯22が設けられており、後述するようにアーク柱120の異常を検知すると、この警告灯22を点灯させて作業者に異常を知らせるようになっている。
【0035】
このような溶接状態監視装置1によれば、制御装置20からの信号でTIG溶接機18及び溶接装置10が制御されると共に、オシレータ制御部21からの信号でオシレータヘッド11が動作し、被溶接部材110,111に対してアーク溶接が行われる。このアーク溶接を行っている状態は、上記アーク監視用カメラ30によって撮影され、画像処理装置40によって画像処理される。
【0036】
そして、この画像処理装置40によって画像処理されたアーク柱120は、後述するような監視方法によって監視され、正常状態から変わっているか否かが判定され、変わっていれば磁気吹きが生じていると判定し、アーク溶接が停止させられる。
【0037】
また、この実施形態では、磁気吹きが生じていることを作業者に知らせるために、制御装置20に設けられた警告灯22が点灯するようになっている。
【0038】
次に、上記画像処理装置40におけるアーク柱120の監視方法を説明する。上記図1に示す構成には、その符号を付して説明は省略する。なお、以下の説明では、上記したようにオシレータヘッド11によって揺動させる溶接トーチ100が中央位置(溶接トーチ100の軸心が被溶接部材110,111の上面と直交する位置)においてアーク柱120の形状を監視する例を説明する。溶接トーチ100が中央位置における状態を監視することにより、溶接トーチ100の軸線に対して左右対称画像で磁気吹きの有無を容易に判定できるようにしている。また、アーク柱120の外形は、図面上では溶接トーチ100の先端角と同一角で描いて説明する。
【0039】
図2に示す第1監視方法は、アーク柱120の外形からアーク柱120に磁気吹きが生じていないかを判定する方法である。この方法では、図示するように、アーク監視用カメラ30から得られた画像から、画像処理装置40によってアーク柱120の外形(輪郭)が直線的に特定される。そして、この外形からアーク柱直線L1,L2が算出される。図示する左側を外形L1、右側を外形L2としている。このアーク柱直線L1,L2としては、例えば、一般的な直線の公式である「L:ax+by+c=0」によって求められる。この例では3点を直線的に結んだ線をアーク柱直線L1,L2としている。図示する左側の外形(直線)は、L1:a1x+b1y+c1=0、右側の外形(直線)は、L2:a2x+b2y+c2=0、によって求めている。このようにして、アーク柱120の左右において、外形が直線的に特定される。
【0040】
このようにアーク柱120の外形を特定する場合、図3に示すように、アーク柱120の部分における輝度差からアーク柱120の光と影の部分の境目(外形)を検出点60として決定している。この検出点60としては、例えば、最も明るい部分M1と最も暗い部分M2の差の約60%の輝度の位置としている「M2+(M1−M2)×0.6」。このように、輝度差の中間部分よりも明るい側に検出点60の閾値を設定することにより、作業者の見た目と同様の境目位置としている。この検出点60を基準にして、アーク柱120の外形(輪郭)が特定されている。この検出点60は一例であり、溶接条件等に応じて好ましい条件に決定すればよい。
【0041】
そして、このアーク柱120の外形(輪郭)が異常な形状であれば、制御装置20によってアーク溶接が中止されると共に、警告灯22が点灯させられて作業者に異常が知らされる。また、アーク柱120の外形が左右対称形であれば、磁気吹きを生じていないと判断される。
【0042】
次に、図4に示す第2監視方法は、アーク監視用カメラ30から得られた画像から、画像処理装置40によって溶接トーチ(電極部材)100の外形が直線的に特定される。そして、この外形から電極直線L3,L4が算出される。この電極直線L3,L4も、一般的な公式により、図示する左側の外形(直線)は、L3:a3x+b3y+c3=0、右側の外形(直線)は、L4:a4x+b4y+c4=0、によって算出される。そして、これらの電極直線L3,L4と上記図2に示すアーク柱120の外形であるアーク柱直線L1,L2とから、磁気吹きによてアーク柱120に異常が生じているか否かが判定される。
【0043】
この方法の場合、アーク柱120の外形に加えて溶接トーチ(電極部材)100の外形を利用してアーク柱120が変化しているか否かを判定するので、アーク監視用カメラ(撮像手段)30が溶接トーチ100の軸方向に対して傾いていたとしても、その影響を受けることなく、安定して磁気吹きの有無を判定することができる。
【0044】
次に、図5に示す第3監視方法は、上記した第1監視方法で算出したアーク柱120のアーク柱直線L1,L2と、第2監視方法で算出した溶接トーチ100の電極直線L3,L4との交点70を求め、その交点70における角度θ1,θ2を求めてアーク柱120の状態を監視する方法である。
【0045】
この方法では、図示する左側を第一交差角度θ1とし、右側を第二交差角度θ2とし、これら第一交差角度θ1と第二交差角度θ2との角度を比較し、角度差が例えば、±10°を越えていればアーク柱120に磁気吹きが発生していると判定するようにしている。
【0046】
この方法の場合、アーク柱直線L1,L2と電極直線L3,L4との交差角度からアーク柱120が偏向して磁気吹きを生じているか否かを容易に判定することができる。また、第一交差角度θ1と第二交差角度θ2とがほぼ等しい値である場合は、磁気吹きによる影響が無いと判定できるため、より安定した磁気吹きの有無の判定により、溶接品質の向上を図ることができる。しかも、交差角度θ1,θ2の角度差が上記所定範囲を越えたことでアーク溶接を自動停止させることもできる。
【0047】
以上のように、上記溶接状態監視装置1によれば、溶接中のアーク柱120をアーク監視用カメラ30で撮影し、そのアーク柱120の画像から磁気吹きを生じているか否かの判断ができるので、磁気吹きによる溶接品質の悪化を未然に防ぎ、溶接品質の向上を図ることが可能となる。
【0048】
また、常にアーク柱12660を監視し、異常と判断したら警告灯22を点灯させたり、アーク溶接の自動停止等を図ることも可能であるので、アーク溶接の自動運転も可能となり、大幅な作業性の向上を図ることができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、TIG溶接を例に説明したが、MIG溶接等のアーク溶接においても同様に溶接状態を監視することができ、アーク溶接の種類は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
また、上記実施形態では、アーク柱直線L1,L2及び電極直線L3,L4の形状特定を3点監視によって行っているが、より多くの点で監視することで形状の特定を行うようにしてもよく、形状の特定は上記実施形態に限定されるものではない。
【0051】
さらに、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るアーク溶接における溶接状態監視装置は、TIG溶接等のアーク溶接において、磁気吹きによってアーク柱が偏向するのを監視し、溶接品質を向上させたいアーク溶接に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 溶接状態監視装置
10 溶接装置
11 オシレータヘッド
12 溶加材ワイヤ
13 ワイヤガイド
14 溶接ロボット
15 アーム
16 支持フレーム
17 支持ブラケット
18 TIG溶接機
20 制御装置(判定手段)
21 オシレータ制御部
22 警告灯(警告発生手段)
30 アーク監視用カメラ(撮像手段)
40 画像処理装置(画像処理手段)
41 モニタ
50〜55 配線
56 配線
60 検出点
70 交点
100 溶接トーチ(電極部材)
110,111 被溶接部材(母材)
120 アーク柱
L1 アーク柱直線
L2 アーク柱直線
L3 電極直線
L4 電極直線
θ1 第一交差角度
θ2 第二交差角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6