特許第5977554号(P5977554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977554誘導電圧計算精度確認方法及び誘導電圧計算精度確認装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977554
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】誘導電圧計算精度確認方法及び誘導電圧計算精度確認装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   H02J3/00 170
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-69506(P2012-69506)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-201855(P2013-201855A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年6月16日
【審判番号】不服2015-15299(P2015-15299/J1)
【審判請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】399040405
【氏名又は名称】東日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】出口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅久
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康則
(72)【発明者】
【氏名】村川 一雄
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 中川 真一
【審判官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−281230(JP,A)
【文献】 特開平04−229324(JP,A)
【文献】 特開2004−038774(JP,A)
【文献】 特開2002−209337(JP,A)
【文献】 日本電信電話株式会社,誘導予測計算支援ツールの開発,NTT技術ジャーナル,日本,日本電信電話株式会社,2010年 7月,第22巻/第7号,第42−44頁,
【文献】 日本電信電話株式会社,通信設備設計における誘導予測計算法,NTTジャーナル,日本,日本電信電話株式会社,2006年 7月,第18巻/第7号,第70−71頁,
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電圧計算装置が送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを、前記送電線と前記通信線が直交マスの頂点を通る直線上に描画された紙あるいは前記送電線に対する前記通信線の角度を0度、±45度、±90度として描画された紙をスキャナで読み取り入力するステップと、
前記誘導電圧計算装置が前記確認モデルに基づいて誘導電圧を計算するステップと、
前記誘導電圧計算装置が計算した前記確認モデルの誘導電圧の計算値と前記確認モデルの誘導電圧の理論値を比較するステップと、
前記誘導電圧計算装置に入力された前記送電線と前記通信線の離間距離を検査するステップと、
を有することを特徴とする誘導電圧計算精度確認方法。
【請求項2】
送電線と通信線の位置関係が平行・斜行・交差・逆行それぞれのパターンの組み合わせと発電所から地絡点の距離の条件とを組み合わせた複数の確認モデルを入力することを特徴とする請求項1記載の誘導電圧計算精度確認方法。
【請求項3】
送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを、前記送電線と前記通信線が直交マスの頂点を通る直線上に描画された紙あるいは前記送電線に対する前記通信線の角度を0度、±45度、±90度として描画された紙をスキャナで読み取り入力する入力手段と、
前記確認モデルに基づいて誘導電圧を計算する誘導電圧計算手段と、
前記誘導電圧計算手段が計算した前記確認モデルの誘導電圧の計算値と前記確認モデルの誘導電圧の理論値を入力して比較する比較手段と、
前記入力手段に入力された前記送電線と前記通信線の離間距離を検査する検査手段と、
を有することを特徴とする誘導電圧計算精度確認装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線により通信線に誘導される誘導電圧を計算する装置の計算精度を確認する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社からの昇圧計画等の相談を契機として通信線に発生する誘導電圧を計算することがある。計算した誘導電圧が制限値を超えた場合、通信線のシールド化や光化などの対策が必要となる。また、送電線で地絡故障等が発生した場合、近接する通信線に異常時誘導危険電圧などの誘導電圧が発生することがある。この場合も通信線に発生する誘導電圧を計算する。
【0003】
誘導電圧の計算は、電力会社から提案される送電線ルートや地絡電流値などの情報と通信線などの通信設備情報を基に、定規を使って同一地図上に送電線ルート、通信線ルートを転記し、離隔図を作成し、地絡電流値を算出するなど、ほぼ手作業で実施している。
【0004】
近年では、誘導予測計算ができる有スキル者の高齢化などにより人員が減少傾向にあり、誘導予測計算や誘導対策に対するノウハウの蓄積が困難となっている。そこで、簡易かつ高精度に誘導計算できるツールの開発が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「誘導予測計算支援ツールの開発」、NTT技術ジャーナル、日本電信電話株式会社、2010年、第22巻、第7号、p.42-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでは誘導電圧を計算する誘導電圧計算装置の計算精度を検証する手段がなかった。送電線ルート、地絡電流値は、電力会社から紙で提供されるため、誘導電圧計算装置にスキャンして入力する。このため位置情報の読み取り精度の検証が必要となる。また、送電線と通信線の位置関係などにより誘導電圧の計算アルゴリズムが異なるため、全ての計算アルゴリズムの検証が必要となる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、誘導電圧計算装置の計算精度及び正常性を検証することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明に係る誘導電圧計算精度確認方法は、誘導電圧計算装置が送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを、前記送電線と前記通信線が直交マスの頂点を通る直線上に描画された紙あるいは前記送電線に対する前記通信線の角度を0度、±45度、±90度として描画された紙をスキャナで読み取り入力するステップと、前記誘導電圧計算装置が前記確認モデルに基づいて誘導電圧を計算するステップと、前記誘導電圧計算装置が計算した前記確認モデルの誘導電圧の計算値と前記確認モデルの誘導電圧の理論値を比較するステップと、前記誘導電圧計算装置に入力された前記送電線と前記通信線の離間距離を検査するステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記誘導電圧計算精度確認方法において、送電線と通信線の位置関係が平行・斜行・交差・逆行それぞれのパターンの組み合わせと発電所から地絡点の距離の条件とを組み合わせた複数の確認モデルを入力することを特徴とする。
【0010】
第2の本発明に係る誘導電圧計算精度確認装置は、送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを、前記送電線と前記通信線が直交マスの頂点を通る直線上に描画された紙あるいは前記送電線に対する前記通信線の角度を0度、±45度、±90度として描画された紙をスキャナで読み取り入力する入力手段と、前記確認モデルに基づいて誘導電圧を計算する誘導電圧計算手段と、前記誘導電圧計算手段が計算した前記確認モデルの誘導電圧の計算値と前記確認モデルの誘導電圧の理論値を入力して比較する比較手段と、前記入力手段に入力された前記送電線と前記通信線の離間距離を検査する検査手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘導電圧計算装置の計算精度を検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態における誘導電圧計算精度確認システムの構成を示す機能ブロック図である。
図2】方眼紙に送電線と通信線を記載した確認モデルの例を示す図である。
図3】送電線と通信線の位置関係が異なる確認モデルを示す図である。
図4】複数送電線の場合の確認モデルを示す図である。
図5】発電所から地絡点までの距離をパラメータとした確認モデルを示す図である。
図6図1の誘導電圧計算精度確認システムの比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態における誘導電圧計算精度確認システムの構成を示す機能ブロック図である。図1に示す誘導電圧計算精度確認システムは、誘導電圧計算装置1と比較装置2を備える。以下、誘導電圧計算装置1について説明する。
【0015】
誘導電圧計算装置1は、送電線、通信線の位置情報(緯度・経度)などを入力する入力部11と、送電線により通信線に誘導される誘導電圧値を計算する誘導電圧計算部12を備える。
【0016】
入力部11は、電力会社から受け取った送電線ルートが描画された紙をスキャナで読み取り、読み取った画像と誘導電圧計算装置1内に保持する地図とを縮尺を合わせてモニタなどに重ねて表示し、マウスなどのポインティングデバイスで送電線ルートをクリックして送電線の位置情報を入力する。通信線ルートについては、設備情報などから送電線ルートを抽出して位置情報を取得する。もちろん通信線のルートについてもスキャナで読み取ってマウスで入力してもよい。また、送電線の地絡電流値も電力会社から紙にグラフで描画されたものを受け取るので、地絡電流値のグラフが描画された紙をスキャナで読み取り、マウスなどでクリックして値を入力する。
【0017】
誘導電圧計算部12は、入力部11から入力した送電線、通信線の位置情報から送電線と通信線の離隔距離を求め、離隔距離を元に算出した相互インダクタンスと地絡電流値により通信線に誘導される誘導電圧値を計算する。
【0018】
この誘導電圧計算装置1の計算精度を検証するため、本実施の形態における誘導電圧計算精度確認システムでは、送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを誘導電圧計算装置1に入力し、比較装置2に理論値と誘導電圧計算装置1が計算した計算値を入力してその誤差を求めて、誘導電圧計算装置1のデータの読み取り精度、誘導電圧の計算アルゴリズムの検証を行う。以下、確認モデルについて説明する。
【0019】
確認モデルは、有限長の送電線と有限長の通信線を模擬する線路モデルを方眼紙など直交マスの頂点を通る直線上に配置したり、送電線に対する通信線の角度を0度、±45度、±90度として、任意の縮尺(例えば1/5000,・・・,1/50000など)で作成したものである。これにより、確認モデルの送電線、通信線間の離隔距離が明確となり、誤差を含まない正確な誘導電圧の理論値を求めることができる。
【0020】
図2は、方眼紙に送電線と通信線を記載した確認モデルの例を示す図である。図2に示す確認モデルは、縮尺を1/50000として、送信線を方眼紙の横線にあわせて記載し、通信線は、送電線の0km地点で0.5km、送電線の8km地点で4km離隔させ、送電線に対して斜行させた斜行回線モデルである。送電線投影長をlとすると、離隔距離d=0.5l+0.5となる。
【0021】
次に、確認モデルを入力して計算精度を検証する処理の流れについて説明する。
【0022】
確認モデルは、入力部11を用いて誘導電圧計算装置1に入力される。確認モデルを誘導電圧計算装置1に入力する場合、確認モデルを描画した紙をスキャナで読み取り、読み取った画像と地図とを縮尺を合わせてモニタなどに重ねて表示する。確認モデルは仮想の送電線、通信線を記載したものなので、確認モデルに重ねる地図は縮尺が同じであればどの地図を用いてもよい。そして、確認モデルの送電線ルート、通信線ルートをマウスでクリックして位置情報を入力する。なお、ここで確認モデルの地絡電流値も入力する。
【0023】
確認モデルを誘導電圧計算装置1に入力すると、入力された確認モデルの送電線と通信線の離隔距離が算出され、送電線と通信線の相互インダクタンスが求められる。求めた相互インダクタンスに地絡電流値を積算して通信線に誘起する誘導電流が計算される。
【0024】
そして、入力した確認モデルの誘導電流の理論値と誘導電圧計算装置1が計算した誘導電流の計算値を比較装置2に入力して誤差を求める。誤差の大きさを見ることで、誘導電圧計算装置1の計算アルゴリズムを検証することが可能となる。
【0025】
なお、入力部11での入力誤差が大きい場合、計算アルゴリズムが正しくても比較装置2での誤差が大きくなる。確認モデルにおける送電線と通信線の離隔距離は正確に分かるので、入力部11で確認モデルを入力したときに、入力された送電線と通信線の離隔距離を検査することで、入力誤差の大きさを知ることができる。入力誤差が大きくなる場合は、誘導電圧計算装置1の入力方法を検討する必要がある。
【0026】
次に、確認モデルのパターンについて説明する。
【0027】
送電線と通信線の位置関係が平行・斜行、交差、逆行の場合や発電所から地絡点までの距離により計算アルゴリズムはそれぞれ異なるため、誘導電圧計算装置1が実装した全ての計算アルゴリズムを検証するためには、いくつかのパターンの確認モデルを入力する必要がある。以下、確認モデルのパターンについて説明する。
【0028】
図3は、5つの送電線と通信線の位置関係の確認モデルのパターンを示す図である。
【0029】
図3(a)は、送電線と通信線が平行する関係の平行回線の確認モデルの例を示す。図3(b)は、送電線と通信線が斜行する関係の斜行回線の確認モデルの例を示す。図3(c)は、送電線と通信線が交差する関係の斜行・交差回線の確認モデルの例を示す。図3(d)は、送電線と通信線が平行、斜行、逆行する関係の平行・斜行・逆行回線の確認モデルの例を示す。図3(e)は、送電線と通信線が平行、斜行、交差、逆行する関係の平行・斜行・交差・逆行回線の確認モデルの例を示す。
【0030】
図3に示す5つのパターンの確認モデルを入力することで、位置関係が異なる場合の計算アルゴリズムを検証することができる。
【0031】
図4は、複数送電線の確認モデルの各パターンを示す図である。
【0032】
図4(a)は2送電線・平行、(b)は2送電線・斜行・通信線順方向、(c)は2送電線・斜行・通信線逆方向、(d)は3送電線・交差・通信線順方向、(e)は3送電線・交差・通信線逆方向、(f)は3送電線・斜行、(g)は3送電線・交差の確認モデルの例を示す。
【0033】
図5は、発電所から地絡点までの距離をパラメータとした確認モデルを示す図である。
【0034】
図5では、地絡点が、始発発電所(発電所A)から9km、始発発電所から21km、終点発電所(発電所B)から25kmの3つのパターンを示している。計算アルゴリズムは、発電所から地絡点までの距離が10km以内と10km超とで異なるので、それぞれの条件の確認モデルを入力する。
【0035】
図6は、送電線と通信線の位置関係が異なる5つのパターンと距離のパラメータが異なる3つのパターンの確認モデルの誘導電圧を求めて計算精度を検証した、誘導電圧計算精度確認システムの比較結果を示す図である。
【0036】
送電線と通信線の位置関係として図3に示した5つのパターンを用い、それぞれに対して図5に示した3つの距離パラメータを適用した5×3=15の確認モデルを誘導電圧計算装置1に入力して誘導電圧を計算し、計算結果を比較装置2により理論値と比較した。なお、図6では、各確認モデルについて、大地導電率σ=0.01,0.001としてそれぞれについて誘導電圧を求めて比較した。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態によれば、送電線と通信線の離隔距離が明確で誘導電圧の理論値が既知な確認モデルを誘導電圧計算装置1に入力して誘導電圧を計算し、誘導電圧計算装置1が計算した誘導電圧の計算値と確認モデルの誘導電圧の理論値とを比較装置2に入力して比較することにより、誘導電圧計算装置1の計算精度を検証することが可能となる。
【0038】
本実施の形態によれば、送電線と通信線の位置関係が平行・斜行・交差・逆行それぞれのパターンの組み合わせと発電所から地絡点の距離の条件とを組み合わせた複数の確認モデルを用いることにより、誘導電圧計算装置1が実装した全ての計算アルゴリズムを検証することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…誘導電圧計算装置
11…入力部
12…誘導電圧計算部
2…比較装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6