(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977601
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】医療用シース
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20160817BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20160817BHJP
A61B 17/34 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
A61M25/06 550
A61M25/00 530
A61B17/34
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-144338(P2012-144338)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-8079(P2014-8079A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】横田 博一
【審査官】
鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−35005(JP,A)
【文献】
特表2001−516625(JP,A)
【文献】
特表2011−516205(JP,A)
【文献】
米国特許第6423051(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0123461(US,A1)
【文献】
米国特許第4991578(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0294174(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/06
A61B 17/34
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端開口を有する筒状のシース本体と、
該シース本体の前記先端開口近傍の内壁面に対して半径方向に間隔を空けて周方向に沿って配置された円弧状の針状部材とを備え、
該針状部材と前記先端開口近傍の内壁面との隙間が心膜の厚さと略同一の寸法を有する医療用シース。
【請求項2】
前記針状部材が、その先端から基端側に向かうに従って、前記シース本体の基端側に延びる請求項1に記載の医療用シース。
【請求項3】
前記針状部材が、その基端部が前記シース本体に固定されたコイル状に形成されている請求項2に記載の医療用シース。
【請求項4】
前記針状部材が、複数備えられ、各該針状部材の先端が、前記シース本体の周方向に間隔を空けて配置されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の医療用シース。
【請求項5】
各前記針状部材の先端が、前記シース本体の長さ方向の略同一位置に配置されている請求項4に記載の医療用シース。
【請求項6】
前記針状部材の長手方向の少なくとも一部に、前記シース本体の長さ方向の略同一位置に配される平坦部が設けられている請求項1から請求項5のいずれかに記載の医療用シース。
【請求項7】
前記シース本体の内部を減圧する減圧手段を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の医療用シース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用シースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シース内を減圧し、心膜を吸着して心臓から引き離した状態で穿刺針を心膜に刺す心膜の穿刺方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−516625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸引力を過度に大きくすると心膜を損傷し、延いては、心臓を吸着してしまって心臓の拍動を阻害してしまうため、吸引力を低く抑えると、心臓の拍動に伴って動いている心膜を安定して吸着状態に維持することが困難であり、穿刺針を心膜のみに確実に刺すことは困難であるという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、心膜を心臓の表面から安定的に離間させた状態に維持して、穿刺針をより確実に心膜のみ刺すことができる医療用シースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、先端開口を有する筒状のシース本体と、該シース本体の前記先端開口近傍の内壁面に対して半径方向に間隔を空けて周方向に沿って配置された円弧状の針状部材とを備え
、該針状部材と前記先端開口近傍の内壁面との隙間が心膜の厚さと略同一の寸法を有する医療用シースを提供する。
【0007】
本態様によれば、シース本体の先端開口を心膜に密着させ、シース本体内部を減圧することにより、心膜をシース本体内に引き込んだ状態で、シース本体をその軸線回りに回転させることにより、シース本体の先端開口近傍に設けた円弧状の針状部材が、心膜に穿刺され、心膜の一部が針状部材に引っ掛かって懸架される。この後に、シース本体内の減圧状態を解除しても、心膜をシース本体内に吸引した状態に維持することができる。すなわち、心膜を強い吸引力によってシース本体内に引き込み続けなくても、心膜を心臓から離間させた状態に維持して、シース本体内部を介して基端側から先端側まで導入した穿刺針によって、心臓を傷つけることなく、心膜のみを穿刺することができる。
【0008】
上記態様においては、前記針状部材が、その先端から基端側に向かうに従って、前記シース本体の基端側に延びていてもよい。
このようにすることで、シース本体をその軸線回りに回転させると、針状部材が心膜に穿刺されるとともに、シース本体の回転に伴って、穿刺した部分をシース本体の基端側に徐々に移動させることができる。すなわち、心膜を低い吸引力でシース本体内に吸引しても、シース本体の回転によって徐々にシース本体内に引き込むことができ、心膜を心臓から十分に離間させることができる。
【0009】
また、上記態様においては、前記針状部材が、その基端部が前記シース本体に固定されたコイル状に形成されていてもよい。
このようにすることで、シース本体をその軸線回りに回転させると、コイル状に形成された針状部材のリードに従って、心膜を徐々にシース本体内に引き込むことができる。
【0010】
また、上記態様においては、前記針状部材が、複数備えられ、各該針状部材の先端が、前記シース本体の周方向に間隔を空けて配置されていてもよい。
このようにすることで、複数の針状部材が、シース本体の周方向に異なる位置で心膜に穿刺され,シース本体の回転によって複数箇所で心膜を引き込むので、より安定して心膜を懸架することができる。
【0011】
また、上記態様においては、各前記針状部材の先端が、前記シース本体の長さ方向の略同一位置に配置されていてもよい。
このようにすることで、シース本体の回転によって複数箇所で略同等に心膜を引き込むので、引き込んだ心膜をシース本体の長手軸に直交させて配置することができ、穿刺針による穿刺作業をより容易にすることができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記針状部材の長手方向の少なくとも一部に、前記シース本体の長さ方向の略同一位置に配される平坦部が設けられていてもよい。
このようにすることで、引き込んだ心膜を平坦部で支えることにより、心膜をシース本体の長手軸に直交させかつ平坦に張られた状態に配置することができ、穿刺針による穿刺作業をさらに容易にすることができる。
【0013】
また、上記態様においては、前記シース本体の内部を減圧する減圧手段を備えていてもよい。
このようにすることで、減圧手段の作動により、シース本体内を減圧して先端開口に近接させた心膜を容易に先端開口内に吸引し、フック部に懸架させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、心膜を心臓の表面から安定的に離間させた状態に維持して、穿刺針をより確実に心膜のみ刺すことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医療用シースを示す縦断面図である。
【
図2】
図1の医療用シースと組み合わせて使用されるダイレータを示す斜視図である。
【
図3】
図1の医療用シースを用いて心膜内にガイドワイヤを導入する処置を説明する図であり、体外から穿刺針を穿刺した状態を示す図である。
【
図4】
図3で穿刺した穿刺針を介してガイドワイヤを導入する工程を説明する図である。
【
図5】
図3で導入したガイドワイヤを残して、穿刺針を抜去する工程を説明する図である。
【
図6】医療用シースとダイレータとの組立体を示す図である。
【
図7】
図6の組立体を
図5で体内に残されたガイドワイヤをガイドとして体内に導入する工程を説明する図である。
【
図8】
図7で導入された医療用シースを残して、ダイレータを抜去する工程を説明する図である。
【
図9】シース本体の内孔内に心膜を吸引してフック部に懸架させる工程を説明する図である。
【
図10】
図9においてフック部に懸架させた心膜に穿刺針を穿刺する工程を説明する図である。
【
図11】
図10において穿刺した穿刺針を介してガイドワイヤを心膜内に導入する工程を説明する図である。
【
図12】
図1の医療用シースの第1の変形例を示す平面図である。
【
図13】
図1の医療用シースの第2の変形例を示す平面図である。
【
図14】
図1の医療用シースの第3の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る医療用シース1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る医療用シース1は、
図1に示されるように、先端開口2を有する円筒状のシース本体3と、該シース本体3内部の先端開口2近傍に配置された針状部材4と、シース本体3内を減圧する減圧ポンプ5とを備えている。
【0017】
シース本体3は、その長手方向の全長にわたって貫通する内孔3aを備え、後述するダイレータ6、ガイドワイヤ7、穿刺針8等を基端側から先端開口2まで貫通させることができるようになっている。
【0018】
針状部材4は、シース本体3の内孔3a内の先端開口2近傍に、内孔3aの内壁面から半径方向内方に一定の隙間をあけて配置されたコイル状に形成されるとともに、その基端部がシース本体3の内孔3aに固定されている。
これにより、針状部材4は、その尖鋭な先端を周方向に向けて配置されている。
【0019】
次に、本実施形態に係る医療用シース1の先端を心膜Aに近接配置させるためのダイレータ6について説明する。
ダイレータ6は、
図2に示されるように、シース本体3の内孔3a内に挿入される筒状部材であって、その全長にわたって貫通し、先端に開口を有する貫通孔6aを有している。貫通孔6aはガイドワイヤ7,9を挿入することができる口径を有している。
【0020】
ダイレータ6の外径寸法は、シース本体3の内孔3aの内径寸法より若干小さく、ダイレータ6を内孔3aに挿入すると、ダイレータ6がシース本体3の内孔3aにぴったり嵌合するようになっている。
また、ダイレータ6には、先端からなだらかに外径寸法が広がる先細形状の先端部6bと、該先端部6bよりも基端側に配置され、コイル状の針状部材4の内径よりも小さい外径寸法を有する小径部6cとが設けられている。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る医療用シース1を用いて、心膜Aにガイドワイヤ7を貫通させる処置について以下に説明する。
まず、
図3に示されるように、体外から剣状突起Bの下部に中空の穿刺針10を刺して、穿刺針10の先端を心膜A近傍に配置し、
図4に示されるように、穿刺針10の内孔を介してガイドワイヤ9を心膜A近傍まで導入する。そして、
図5に示されるように、ガイドワイヤ9を残して穿刺針10を抜去する。
【0022】
次いで、
図6に示されるように、医療用シース1のシース本体3の内孔3a内に、ダイレータ6を挿入し、ダイレータ6の先細形状の先端部6bをシース本体3の先端開口2から突出させた状態とした組立体を用意する。この組立体のダイレータ6の貫通孔6aの先端からガイドワイヤ9の基端を貫通孔6a内に挿入する。
【0023】
次に、
図7に示されるように、ガイドワイヤ9を案内として、ダイレータ6の先端部6bにより皮下組織を押し分けながら、医療用シース1とダイレータ6の組立体を皮下組織内に挿入していく。そして、ダイレータ6の先端が心膜Aに近接して配置された状態で、
図8に示されるように、医療用シース1を残してダイレータ6を抜去する。
【0024】
これにより、医療用シース1が、そのシース本体3の先端開口2を心膜Aに対向させ、基端側の開口を体外に露出させた状態に配置される。この状態で、減圧ポンプ5を作動させ、シース本体3の内孔3a内を減圧することにより、シース本体3の先端開口2に近接させていた心膜Aを吸着し、先端開口2から内孔3a内に吸引する。
【0025】
図9に示されるように、心膜Aが、針状部材4の先端位置まで、シース本体3の内孔3a内に引き込まれた状態で、シース本体3をその長手軸回りに回転させることにより、心膜Aに対して針状部材4をシース本体3の周方向に沿って移動させ、その尖鋭な先端によって心膜Aに穿刺することができる。これにより、心膜Aが針状部材4に引っ掛かって、シース本体3の先端開口2側に抜け出さないように維持される。
【0026】
すなわち、心膜Aはシース本体3の回転に伴って、コイル状の針状部材4のリードに従い、シース本体3内に引き込まれることにより、心臓Cの表面から離間させられ、針状部材4に懸架されるので、減圧状態が解除されても心臓Cの表面から離間させられた状態に維持される。
なお、心膜Aが針状部材4に引っ掛かったか否かを確認するには、シース本体3の内孔3aを介して内視鏡(図示略)を導入することにより、容易に確認することができる。
【0027】
この状態で、シース本体3の内孔3aを介して中空の穿刺針8を導入し、
図10に示されるように、心臓Cの表面から浮かせた状態に維持している心膜Aに穿刺する。心膜Aは心臓Cの表面から離間させられているので、心膜Aを貫通した穿刺針8の先端が心臓Cの表面に接触することが回避され、心臓Cに損傷を与えることを防止することができる。
【0028】
そして、穿刺針8の内孔を介してガイドワイヤ7を導入し、穿刺針8の先端からガイドワイヤ7を突出させることにより、心臓Cに損傷を与えることなく、ガイドワイヤ7の先端を心膜A内に配置することができる。この後に、
図11に示されるように、穿刺針8を抜去することにより、先端を心膜A内に配置した状態にガイドワイヤ7を留置することができる。そして,留置したガイドワイヤ7をガイドとして、図示しない内視鏡を心膜A内に容易に導入することができるという利点がある。
【0029】
このように、本実施形態に係る医療用シース1によれば、シース本体3内に吸引した心膜Aを針状部材4に引っ掛けるので、シース本体3内を高い減圧状態に維持せずに済み、強く吸引することによる心膜Aの損傷を防止することができる。また、心膜Aが一旦針状部材4に引っ掛かった後には、シース本体3内の減圧状態を解除することができ、心臓Cが拍動しても、心膜Aを安定的に、心臓Cの表面から離間した状態に維持することができる。その結果、穿刺針8による心膜Aのみの穿刺作業を容易にすることができ、かつ、穿刺針8の先端によって心臓Cを傷つけずに済むという利点がある。
【0030】
また、本実施形態においては、針状部材4をコイル状に形成したので、シース本体3をその長手軸回りに回転させるだけで、針状部材4のリードに従って心膜Aをシース本体3内に引き込んでいくことができる。したがって、先端開口2近傍に配置した針状部材4の先端位置まで、比較的低い減圧状態で心膜Aを引き込むだけで、シース本体3を回転させれば心膜Aを内孔3aの奥まで引き込むことができるという利点がある。
【0031】
また、本実施形態によれば、シース本体3を一方向に回転させて心膜Aを引き込むことができるとともに、シース本体3を逆方向に回転させて、心膜Aを解放することができる。したがって、シース本体3を体内から抜去するときには、シース本体3を逆方向に回転させるだけで、心膜Aを容易に解放することができ、心膜Aに与える損傷を最小限に抑えることができるという利点もある。
【0032】
なお、本実施形態においては、単一の針状部材4を備えた例を示したが、これに代えて、
図12に示されるように、2つの針状部材4を備えていてもよいし、3以上の針状部材4を備えていてもよい。
図12に示す例では、2つの針状部材4の先端は、シース本体3の長手方向の略同一位置に配置され、2つの針状部材4のリードも略同等に設けられている。
【0033】
このようにすることで、シース本体3内に引き込んだ心膜Aに2カ所で同時に針状部材4を穿刺し、かつ、同じリードに従って同じだけ引き込むことができる。これにより、心膜Aにかかる引き込み力を2カ所に分散し、過大な引き込み力が心膜Aに局所的にかかることを防止できる。
【0034】
また、コイル状の針状部材4を例示したが、これに代えて、
図13に示されるように、シース本体3の同一の長さ方向位置に周方向に沿って配置される円弧状の針状部材4を採用してもよい。このようにすることで、シース本体3内を減圧して、針状部材4の位置まで心膜Aを内孔3a内に引き込んだ状態で、シース本体3を長手軸回りに回転させることにより、針状部材4を心膜Aに穿刺することができる。
【0035】
これにより、心膜Aが針状部材4に引っ掛かった状態に維持されるので、減圧状態を解除しても、心膜Aを心臓Cから離間した状態に維持することができる。この場合に、2つの針状部材4に懸架された心膜Aは、シース本体3の長手方向に直交する平坦な平面状に懸架されるので、穿刺針による貫通作業を容易にすることができる。
【0036】
また、コイル状の針状部材4に代えて、
図14に示されるように、シース本体3の周方向に沿って徐々に長手方向に位置を変える傾斜部4aと、該傾斜部4aよりも基端側に、周方向に沿って長手方向の略同一位置に配置される平坦部4bとを有する針状部材4を採用してもよい。
このようにすることで、針状部材4に穿刺された心膜Aは、シース本体3の回転とともに傾斜部4aによって内孔3a内に引き込まれ、その後、平坦部4bによって平坦に張られた状態に懸架される。
【符号の説明】
【0037】
A 心膜
1 医療用シース
2 先端開口
3 シース本体
4 針状部材
4b 平坦部
5 減圧ポンプ(減圧手段)