(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の像振れ補正カメラでは、カメラの撮像面に対して、縦方向及び、横方向の加速度検出結果から重力加速度の影響を除去した加速度を積分して速度を算出し、さらに、その速度を積分することで並進移動量を算出している。
【0008】
しかしながら、加速度センサは、周囲の温度や、センサ自体が持つ特性により、基準電圧に対して誤差を持つ場合がある。この誤差を持つ状態で、長い期間積分を繰り返すと誤差が拡大し、実際に求められる速度及び、移動量か大きくずれてしまい、正確な検出ができない。
【0009】
本発明は、このような問題に着眼しなされたものであり、加速度センサの出力に基準電圧との誤差が生じる場合でも、その積分結果の誤差を抑えることができ、正確に並進移動
量を検出できるブレ量検出装置、撮像装置及びブレ量検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため本発明に係るブレ量検出装置は、
第1軸方向の第1加速度を検出する第1加速度検出部と、
前記第1軸と直交する第2軸周りの第2角速度を検出する第2角速度検出部と、
前記第1軸及び前記第2軸と直交する第3軸周りの第3角速度を検出する第3角速度検出部と、
前記第1加速度、前記第2角速度、前記第3角速度に基づいて、前記第1軸方向の移動量を算出する算出部を備え、
前記算出部は、
前記第1加速度を時間積分して第1速度を算出する第1積分処理と、
前記第1速度を時間積分して前記第1軸方向の移動量を算出する第2積分処理と、
前記第3角速度が0になる第1タイミングから、再度0になる第2タイミングまでの前記第1加速度を時間積分した第1速度変化と、前記第1タイミングにおける前記第2角速度と、前記第2タイミングにおける前記第2角速度に基づいて、前記第1軸方向の推定第1速度を算出する推定処理と、
前記第1積分処理で算出した前記第1速度を、前記推定処理で推定した前記推定第1速度に更新する更新処理と、を実行することを特徴とする。
【0011】
また本発明に係る撮像装置は、
前述したブレ量検出装置と、
被写体からの光を被写体像として結像させる光学系と、
前記光学系により結像された被写体像を映像信号に変換する撮像素子と、
前記ブレ量検出装置により算出された前記移動量を打ち消す方向に、前記光学系と前記撮像素子の少なくとも一方を駆動する駆動部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また本発明に係る撮像方法は、
第1軸方向の第1加速度を検出し、
前記第1軸と直交する第2軸周りの第2角速度を検出し、
前記第1軸及び前記第2軸と直交する第3軸周りの第3角速度を検出し、
前記第1加速度、前記第2角速度、前記第3角速度に基づいて、前記第1軸方向の移動量を算出する算出処理を実行し、
前記算出処理は、
前記第1加速度を時間積分して第1速度を算出する第1積分処理と、
前記第1速度を時間積分して前記第1軸方向の移動量を算出する第2積分処理と、
前記第3角速度が0になる第1タイミングから、再度0になる第2タイミングまでの前記第1加速度を時間積分した第1速度変化と、前記第1タイミングにおける前記第2角速度と、前記第2タイミングにおける前記第2角速度に基づいて、前記第1軸方向の推定第1速度を算出する推定処理と、
前記第1積分処理で算出した前記第1速度を、前記推定処理で推定した前記推定第1速度に更新する更新処理と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブレ量検出装置、撮像装置及びブレ量検出方法によれば、加速度センサ等で発生する誤差が抑えられた移動量を算出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1から
図8は本発明の実施形態を示したものであり、
図1は撮像装置に生じる回転運動の種類を説明するための斜視図である。
【0016】
まず、
図1を参照して、撮像装置1(撮像装置1は、撮像機能を備えた装置であれば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ機能付き携帯電話など各種の装置を広く含むが、以下では、代表して適宜カメラ1などという)に設定する座標系や回転方向について説明する。
【0017】
カメラ1は、被写体からの光を被写体像として結像する光学系2を備えており、この光学系2の光軸方向をZ方向とする。ここに、正のZ方向は、カメラ1から被写体に向く方向とする。また、カメラ1の標準姿勢(いわゆる横位置)において、カメラ1の水平方向をX方向とする。ここに、正のX方向は、被写体側からカメラ1を見て右方向(つまり、撮影者からカメラ1を見て左方向)とする。さらに、カメラ1の標準姿勢において、カメラ1の垂直方向をY方向とする。ここに、正のY方向は、標準姿勢における上方向とする。
【0018】
なお、
図1では、座標系がカメラ1と重複して見難くなるのを防ぐために座標系の原点位置をずらして記載しているが、座標系の原点は撮像素子4(
図3参照)の撮像面の中心であり、一般的には、撮像面と光学系2の光軸とが交差する点である。この座標系は、カメラ1に固定した座標系であり、カメラ1が移動または回転すれば、座標系も地球に対して移動または回転することになる。また、この座標系において、X−Y平面は撮像面に一致する面である。
【0019】
そして、このような座標系において、Z軸周りの回転運動がロール、X軸周りの回転運動がピッチ、Y軸周りの回転運動がヨーである。さらに、以下では例えば、原点からZ軸正方向を見たときのZ軸周りの左回転がロールの正方向回転、原点からX軸正方向を見たときのX軸周りの左回転がピッチの正方向回転、原点からY軸正方向を見たときのY軸周りの右回転がヨーの正方向回転であるものとする。
【0020】
なお、上述した座標軸の正負方向や回転方向の正負は、後述する角速度センサ8や加速度センサ9(
図3等参照)の実装方向に依存する便宜上のものであり、理論的には上記に限定されるものではない。
【0021】
次に、上述した座標系において、回転中心が原点(あるいは、原点も含めて、回転中心がカメラ1内)にある場合は主に角度ブレをもたらし、回転中心がカメラ1の外部にある場合には角度ブレに加えて並進ブレをもたらす。従って、ブレ補正を行う必要があるような並進ブレが発生するのは、実質的に、回転中心がカメラ1の外部にあるときであると考
えても差し支えない。
【0022】
まず、角度ブレに関しては、原点周りの回転運動として記述すればよい。すなわち、ヨー方向の回転運動により光軸が左右に振られて撮像素子4上に結像される被写体範囲が左右に移動し、ピッチ方向の回転運動により光軸が上下に振られて撮像素子4上に結像される被写体範囲が上下に移動することはよく知られている通りである。また、ロール方向の回転運動は、画面の横位置や縦位置、およびその中間の斜め位置をもたらすこともよく知られている通りである。
【0023】
一方、並進ブレに関しては、上述したように、カメラ1の外部に回転中心がある回転運動として記述することができる。
図2(A)はヨー回転により撮像装置にX方向の移動量が生じる様子を示す図、
図2(B)はピッチ回転により撮像装置にY方向の移動量が生じる様子を示す図、
図2(C)はロール回転により撮像装置にX方向およびY方向の移動量が生じる様子を示す図である。
【0024】
図2(A)に示すように、カメラ1の外部の、原点から距離(回転半径)Ryawの位置
に回転中心Cyawをもつヨー方向の回転運動がカメラ1に発生すると、X方向の移動量が
生じる。また、
図2(B)に示すように、カメラ1の外部の、原点から距離(回転半径)Rpitchの位置に回転中心Cpitchをもつピッチ方向の回転運動がカメラ1に発生すると、Y方向の移動量が生じる。さらに、
図2(C)に示すように、カメラ1の外部の、原点から距離(回転半径)Rrollの位置に回転中心Crollをもつロール方向の回転運動がカメラ1に発生すると、一般に、X方向への移動量成分、およびY方向への移動量成分を含む移動量が生じる。
【0025】
そして、角度ブレと並進ブレとのうち、前者の角度ブレに関しては公知の技術を適宜用いることが可能であるために、本実施形態においては、後者の並進ブレについて主に説明する。
【0026】
まず、
図3は、撮像装置1の構成を示すブロック図である。撮像装置であるカメラ1は、光学系2と、フォーカルプレーンシャッタ3と、撮像素子4と、駆動部5と、システムコントローラ6と、ブレ補正マイクロコンピュータ7と、角速度センサ8a〜8cと、加速度センサ9と、レリーズスイッチ10と、EVF(電子ビューファインダ)11と、内部フラッシュメモリ13と、を備えている。また、
図3にはメモリカード12も記載されているが、メモリカード12は例えばカメラ1に対して着脱自在に構成されたものであるために、カメラ1に固有の構成でなくても構わない。
【0027】
光学系2は、被写体からの光を、被写体像として撮像素子4の撮像面に結像するものである。
【0028】
フォーカルプレーンシャッタ3は、撮像素子4の前面(光学系2側)に配設されていて、開閉動作を行うことにより露光時間を制御するものである。すなわち、フォーカルプレーンシャッタ3は、開くことで撮像素子4を露光状態にし、閉じることで遮光状態にする。
【0029】
撮像素子4は、システムコントローラ6の指示に基づいて、撮像面に結像された被写体像を電気信号に変換する。この変換された電気信号は、システムコントローラ6によって映像信号として読み出される。
【0030】
駆動部5は、撮像面内に平行な2次元方向に移動可能となるように撮像素子4を支持しており、ブレ補正マイクロコンピュータ7からの指示に基づいて、
図1等に示したX方向
およびY方向に撮像素子4を駆動する。
【0031】
システムコントローラ6は、前述した映像信号の読み出しを含む、カメラ1全体の機能に関わる各種の制御を統合的に行う制御部である。システムコントローラ6は、以下に説明するように、ブレ補正マイクロコンピュータ7にブレ検出を行わせ、ブレ検出結果に基づいてブレ補正を行わせる制御も行う。
【0032】
角速度センサ8は、回転運動を検出する角速度検出部として構成されたセンサであり、単位時間当たりの角度変化を角速度として検出しブレ補正マイクロコンピュータ7へ出力する。角速度センサ8は、
図2Aに示したようなY軸(第2軸)周りのヨー回転運動に係るヨー角速度を検出するヨー角速度検出部(第2角速度検出部)たるヨー角速度センサ8aと、
図2Bに示したようなX軸(第1軸)周りのピッチ回転運動に係るピッチ角速度を検出するピッチ角速度検出部(第1角速度検出部)たるピッチ角速度センサ8bと、
図2Cに示したようなZ軸(第3軸)周りのロール回転運動に係るロール角速度を検出するロール角速度検出部(第3角速度検出部)たるロール角速度センサ8cとを含み、回転方向の3自由度の角速度を検出するように構成されている。
【0033】
これらヨー角速度センサ8aと、ピッチ角速度センサ8bと、ロール角速度センサ8cは、例えば、同一機種のセンサを用いて、実装方向を異ならせることにより、各軸周りの回転運動を検出する。
【0034】
加速度センサ9は、少なくともX軸方向の加速度(X加速度)とY軸方向の加速度(Y加速度)とを検出する加速度検出部であり、本実施形態においてはさらに、Z軸方向の加速度(Z加速度)も検出し得るセンサを採用している。そして、加速度センサ9は、検出した各方向への加速度を、ブレ補正マイクロコンピュータ7へ出力する。
【0035】
ブレ補正マイクロコンピュータ7は、システムコントローラ6の指示に基づいて、角速度センサ8の出力と加速度センサ9の出力とからカメラ1のブレ量を算出する。そして、ブレ補正マイクロコンピュータ7は、検出したブレ方向と反対方向に検出したブレ量だけ撮像素子4を駆動する指示を駆動部5に対して出力する。これにより駆動部5が、撮像面におけるブレを打ち消すように撮像素子4を駆動するために、撮影画像に発生するブレを抑制することができる。なお、ここでは撮像素子4を駆動してブレ補正を行っているが、これに代えて、あるいはこれに加えて、光学系2を駆動してブレ補正を行うようにしても構わない。
【0036】
そして、ブレ補正マイクロコンピュータ7、角速度センサ8、加速度センサ9を含んでブレ量検出装置が構成され、このブレ量検出装置と駆動部5とを含んでブレ補正装置が構成されている。
【0037】
レリーズスイッチ10は、システムコントローラ6と接続された例えば2段式の押圧スイッチでなり、1段目の押圧(半押し、あるいは1stレリーズ)でAFやAEが行われ、2段目の押圧(全押し、あるいは2ndレリーズ)で露光が開始されるようになっている。
【0038】
EVF11は、液晶パネル等を含んで構成された表示部であり、撮像素子4から読み出され、システムコントローラ6等において表示可能な形式に変換された映像信号を、ユーザが視認可能となるように表示する。
【0039】
メモリカード12は、撮像素子4から読み出され、システムコントローラ6等において記録可能な形式に変換された映像信号を記録する不揮発性の記録媒体であり、上述したよ
うに、カメラ1に対して例えば着脱自在に構成されている。
【0040】
内部フラッシュメモリ13は、システムコントローラ6が実行するカメラ1の制御プログラムや、制御に用いられる各種パラメータ等を記録する不揮発性の記録媒体である。
【0041】
図4は、ブレ補正マイクロコンピュータ7の構成を示すブロック図である。ブレ補正マイクロコンピュータ7は、CPU70と、ADC(アナログ・デジタル・コンバータ)71a〜71cと、SIO(Serial Input/Output:シリアル入出力)72a、72bと、
ドライバ73と、を備えている。
【0042】
ADC71a〜71cは、角速度センサ8a〜8cから入力されるアナログ信号を、それぞれデジタル信号に変換する。
【0043】
SIO72a、72bは、CPU70が外部デバイスとシリアルインタフェースで通信を行う通信部であり、SIO72aは加速度センサ9が検出した加速度の値をCPU70が読み出すために用いられ、SIO72bはCPU70がシステムコントローラ6とコマンドのやり取りを行う通信に用いられる。
【0044】
ドライバ73は、CPU70により算出された補正量に基づいて、駆動部5を駆動するための信号を出力する。
【0045】
CPU70は、加速度取得部702と、角度ブレ補正部703と、並進ブレ補正部704と、通信部705と、加算部706とを、例えば内部プログラムであるファームウェアにより構成される機能として備えており(ただし、ハードウェアとして構成しても勿論構わない)、角速度センサ8および加速度センサ9の検出結果に基づき、角度ブレおよび並進ブレの補正量を算出する。
【0046】
加速度取得部702は、SIO72aを経由して、加速度センサから独立した3軸方向の加速度を読み出して、
図2等に示したX軸、Y軸、Z軸の各方向への加速度情報に分割する。そして、加速度取得部702は、取得したX加速度、Y加速度を並進ブレ補正部704へ出力する。
【0047】
角度ブレ補正部703は、ヨー回転運動およびピッチ回転運動に基づいて、角度変化に伴うブレ量(角度ブレ)を算出するものであるが、この角度ブレについては公知の技術を適宜利用することができるために、詳細は記載しない。
【0048】
並進ブレ補正部704は、加速度および角速度に基づいて、カメラ1の並進移動量を算出し、算出した移動量を撮像面における被写体像のブレ量に変換し、補正量として駆動部5へ伝達する。
【0049】
通信部705は、SIO72bを経由して、システムコントローラ6と通信する。
【0050】
加算部706は、角度ブレ補正部703により算出された角度ブレ量と、並進ブレ補正部704により算出された並進ブレ量とを加算して、トータルのブレ量をドライバ73へ出力する。
【0051】
なお、ADC71a〜71cの出力、そして、加速度取得部702が出力するX〜Z各方向の加速度に対しては、低周波成分を除去するため、ハイパス処理、あるいは、ゼロ点補正処理を行うこととしてもよい。ここで除去する低周波成分は、例えば1Hz以下の周波数成分が挙げられるが、この帯域に限定されるものではない。手ブレに基づく周波数は
、1Hzから10Hz程度の間であることが実験で確認されており、これにより、手ブレ以外の要因によるセンサの動き(例えば、ドリフトなど)による経時変化の成分を除去することができる。
【0052】
さらに、加速度取得部702にて取得された各方向に関する加速度の少なくとも一方に対して、重力に関する補正を行うことで、並進ブレ補正部704でのブレ量算出精度の向上を図ることも可能である。
【0053】
図5はX方向に関する並進ブレ補正部704の構成を示すブロック図である。並進ブレ補正部704(本発明における「算出部」に相当)は、加速度及び角速度をもとに、カメラ本体のX方向に関する移動量を算出し、その移動量を像面での被写体像のブレ量に変換し、補正量として駆動部5に伝達する。
【0054】
並進ブレ補正部704は、積分部7041a〜7041c、速度算出部7042と、乗算部7043を含んで構成される。
【0055】
本実施形態の並進ブレ補正部704は、入力されるX方向の加速度(X加速度)を、積部分部7041b、7041cにて2回、時間積分することで、X方向の並進ブレ量を算出している。すなわち、X加速度を積分部7041bにて時間積分する(本発明における「第1積分処理」に相当)ことで、X方向の速度(X速度)が算出され、さらにX速度を積分部7041cにて時間積分する(本発明における「第2積分処理」に相当)ことで、X方向の並進ブレ量が算出される。その際、乗算部7043において、X速度は、光学系2に設定された像倍率が乗算され、撮像面における被写体像の速度に換算される。
【0056】
このように本実施形態の並進ブレ補正部704は、2つの積分部7041b、7041cによる時間積分を基本として並進ブレ量を算出している。しかしながら、加速度センサ9にて検出される加速度は、センサ自体が持つ特性により基準電圧に対して誤差を有する場合がある。このような誤差は、長い時間積分を行った場合、誤差自体が積分されることで拡大され、検出する並進ブレ量自体に大きな誤差を伴うこととなる。
【0057】
本実施形態では、このような誤差の拡大を抑制するため、積分部7041aと、速度算出部7042による推定処理、更新処理を行うこととしている。この推定処理は、ロール角速度のゼロクロス期間(ロール角速度がゼロとなってから再度ゼロとなるまでの期間)を利用して、X方向の推定速度(推定X速度)を算出する処理である。推定X速度は、ゼロクロス期間中に積算されたX加速度と、最初にロール角速度がゼロクロスしたとき(ロール角速度がゼロとなるタイミング)のヨー角速度と、再度ロール角速度がゼロクロスしたとき(ロール角速度がゼロとなるタイミング)のヨー角速度に基づいて算出される。算出された推定X速度は、積分部7041bで算出されるX速度の更新処理に使用されるが詳細は後で説明する。
【0058】
なお、積分部7041aあるいは積分部7041bの少なくとも一方の前段にて、低周波除去するためのハイパス処理、あるいは、ゼロ点補正処理を行うこととしてもよい。前述したADC71a〜71cの出力、そして、加速度取得部702が出力するX〜Z各方向の加速度に対する処理と同様、ここでの処理は1Hz以下の周波数が除去され、加速度センサ9が持つ、温度などの影響によるドリフトの影響が除去される。この並進ブレ補正部704内での処理は、前述したADC71a〜71cの出力、そして、加速度取得部702が出力するX〜Z各方向の加速度に対する処理にて補正可能な場合、設けなくても良い。
【0059】
図6は、X方向に関する推定速度(推定X速度)について、その考え方を説明するため
の図である。推定速度の算出は、
図5の速度算出部7043の処理にあたるものであり、ロール角速度がゼロクロスする度に行われる。
【0060】
まず、ロール角速度ωrollのゼロクロス(t
zc1)から再度ゼロクロス(t
zc2)するまでのゼロクロス期間におけるX方向の加速度αxの時間積分値ΔVxと、t
zc1時点とt
zc2時点でのヨー角速度ωyawの変化量Δωyを求める。これらは、それぞれ、以下式で求めることができる。
ΔVx=∫αx・dt=Vx2−Vx1 … (式1)
Δωy=ωy2−ωy1 … (式2)
一方で、速度Vxと角速度ωは、回転半径Rにより、以下の関係が成り立つ。
V=R・ω … (式3)
ここで、t
zc1からt
zc2までの間のロール角速度の変化は0なので、X方向の速度変化は、ヨー方向の回転運動の影響のみにより生じたものと考えることができる。
ΔV=R×Δωyaw … (式4)
さらに、この間の回転半径Rが一定であったと仮定すると、以下の式が成り立つ。
Vx2=∫(αx)・dt×ωy2/(ωy2−ωy1) …(式5)
以上より、(式5)に基づいてtzc2におけるX方向の速度(推定X速度)を算出する
ことができる。
【0061】
算出されたX方向の速度は、時間積分部7041bで時間積分された推定X速度に更新される。このように本実施形態では、ロール角速度がゼロクロスする度に、時間積分部7041bで時間積分されたX速度を、推定X速度に更新することで、時間積分部7041bで積算されるX加速度をリセットし、積算される誤差の解消を図ることが可能となる。
【0062】
本実施形態では、速度算出部7042における推定X速度の算出に関し、回転半径Rが一定であることを仮定して行っているが、この回転半径Rの値もしくは回動中心位置は、常に一定とは限らない。すなわち、ゼロクロス期間中に回転半径Rが大きく変化する場合は、推定X速度の算出誤差が大きくなるため、この場合はX速度の更新を行わないようにすることが好ましい。回転半径Rの変化に関しては、加速度αxと角速度ωyawの関係から回転半径が大きく変化したかを判定することができる。
【0063】
図7は、X加速度αxとヨー角速度ωyawの関係を示している。手ブレを反発力による往復運動と考えた場合、角速度が0になるタイミングで、加速度は最大となる。このとき、角速度と加速度は、
図7(a)のような関係になる。しかしながら実際には、
図7(b)や
図7(c)の関係が現象として観察される。このような現象は、カメラ本体に発生する並進運動の回転中心が移動する場合や、ロールの影響が優勢の場合など、回転半径Rに関する値が大きく変化していることが考えられ、このときは、(式5)では正しい速度が算出できない。
【0064】
したがって、本実施形態では、推定X速度の信頼性を判定する信頼性判定処理を実行し、推定X速度の信頼性が有ると判定された場合のみ、推定X速度による更新を行うこととしている。この推定X速度の信頼性は、具体的には、回転半径Rに関する信頼性であって、X加速度αxとヨー角速度ωyawの関係に基づいて判定される。
【0065】
詳細には、信頼性の判定は、
図7で説明したようにゼロクロス期間、すなわち、ロール角速度ωrollがゼロクロスしてから再度ゼロクロスするまでの期間内において、ヨー角速度ωyawがゼロクロスしたとき(ヨー角速度がゼロとなるタイミング)、X加速度αxの絶対値が十分に大きいか、すなわち、設定された閾値よりも大きいか否かに基づいて判定される。X加速度αxの絶対値が閾値よりも大きい場合には、信頼性有りと判定され、X加
速度αxの絶対値が閾値以下の場合には、信頼性無しと判定される。
【0066】
このように本実施形態では、推定X速度の信頼性を判定する信頼性判定処理を実行することで、更新処理の可否を決定し、
図7(a)に示されるような信頼性の有るゼロクロス期間のみ、X速度の更新を行うことで、不正な速度に更新されることを抑制可能としている。
【0067】
では、本実施形態における並進移動量検出の制御フローについて
図8を参照しつつ説明する。処理が開始されると、まず、積分部7041aは、X加速度の時間積分を行うことでX速度変化を算出する(S1)。積分部7041aにおける時間積分は、前回のS5において定期的にクリアされているため、加速度センサ9などで発生する誤差が抑えられた値となっている。
【0068】
次に、積分部7041bは、X加速度の時間積分を行うことでX速度を算出する(S2)。
【0069】
次に、ロール角速度がゼロクロスしたか否かが判定される(S3)。ゼロクロスの確認は、前回のロール角速度の値と今回のロール角速度の値の符号が一致するかどうかで判別できる。ゼロクロスが発生した場合(S3:Yes)にはS4の処理に、発生していない場合(S3:No)にはS7の処理に移行する。
【0070】
ロール角速度のゼロクロスが発生している場合、速度算出部7042は、推定X速度を算出する(S4)。(式5)で説明したように、前回のゼロクロス時のヨー角速度と今回のゼロクロス時のヨー角速度の変化量と、前回のゼロクロス時からの加速度の時間積分値に基づいて算出される。
【0071】
この推定X速度を算出した後、積分部7041aでの積分結果はクリアされる(S5)。このように、推定X速度を算出するための積分結果は、ロール角速度がゼロクロスする度にクリアされるため、誤差が長時間にわたって積算される恐れがない。
【0072】
次に、積分部7041bの出力を、S4で算出した推定X速度に更新(置き換え)する(S6)。ただし、前述した信頼性判定処理にて、推定X速度に信頼性が無いと判定された場合には更新を実行しない。信頼性判定処理は、ロール角速度のゼロクロス期間において、ヨー角速度がゼロクロスしたかを判定し、そのときの対応するX加速度の絶対値が所定の閾値を超えている場合は信頼性があると判定する。なお、信頼性の判定方法は、前述の方法のみに限定されるものでは無い。ゼロクロス期間で、加速度と角速度の関係が大きく変化していないことが判定可能であれば各種方法を採用することが可能である。
【0073】
次に、積分部7041bが出力するX速度に対し、乗算部7043にて像倍率が乗算される(S7)。像倍率は、通信部705により、SIO72bを介して、システムコントローラ6から通信により通知される。
【0074】
S7により補正されたX速度を、積分部7041cに対応する処理にて時間積分し、X方向並進ブレ量として算出する(S8)。算出されたX方向並進ブレ量は、駆動部5に入力され、撮像装置1の像ブレ補正に使用される。
【0075】
以上、撮像装置1について、X方向のブレ量補正について説明を行ったが、Y方向の並進ブレ量補正についても同様に行うことで、撮像素子4の平行となる面に関してブレ量補正が可能となり、撮像素子4で撮像される被写体像のブレが抑制される。なお、Y方向の並進ブレ補正量は、Y加速度と、ピッチ角速度、ロール角速度を使用して算出される。その際、X方向のブレ量補正と同様、ロール角速度がゼロクロスする期間をゼロクロス期間
とする。
【0076】
以上、本発明のある態様に係る実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となる。