【実施例14】
【0069】
本実施例は、近赤外線吸収性繊維に関する。
【0070】
本実施例に係る近赤外線吸収性繊維は、前記実施例1の近赤外線吸収性繊維とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。
【0071】
図7に示すように、本実施例に係る近赤外線吸収性繊維10Fにおける該繊維10Fの長手軸と直交する断面は、X字形を呈する。
【0072】
(比較例1)
本比較例は、近赤外線吸収性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0073】
本比較例は、前記実施例1とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。
【0074】
近赤外線吸収性マスターバッチの製造において、本比較例における近赤外線吸収性粒子は、炭化ジルコニウム(John Young Enterprise Co., Ltd.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、800ナノメートルないし950ナノメートルである。前記粒子は、波長が1.2ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.86である遠赤外線放射性を有する。
【0075】
(比較例2)
本比較例は、近赤外線吸収性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0076】
本比較例は、前記実施例1とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。
【0077】
近赤外線吸収性マスターバッチの製造において、本比較例における近赤外線吸収性粒子は、二酸化スズ(John Young Enterprise Co., Ltd.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、300ナノメートルないし500ナノメートルである。前記粒子は、波長が1.2ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.86である遠赤外線放射性を有する。
【0078】
(比較例3)
本比較例は、近赤外線吸収性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0079】
本比較例は、前記実施例1とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。
【0080】
近赤外線吸収性マスターバッチの製造において、本比較例における近赤外線吸収性粒子は、二酸化ジルコニウム(Sigma−Aldrich Co.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、800ナノメートルないし900ナノメートルである。前記粒子は、波長が0.7ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.93である遠赤外線放射性を有する。
【0081】
(比較例4)
本比較例は、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0082】
本比較例は、前記実施例1とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。本比較例において、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物を製造するために、遠赤外線放射性粒子が用いられる。すなわち、前記実施例1と比べ、本比較例では、遠赤外線放射性粒子が前記実施例1に係る近赤外線吸収性の代わりに用いられる。
【0083】
また、本比較例に係る遠赤外線放射性マスターバッチの製造に用いられる遠赤外線放射性粒子は、麦飯石(John Young Enterprise Co., Ltd.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、800ナノメートルないし1000ナノメートルである。前記粒子は、波長が0.7ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.91である遠赤外線放射性を有する。
【0084】
(比較例5)
本比較例は、近赤外線吸収性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0085】
本比較例は、前記実施例7とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。
【0086】
近赤外線吸収性マスターバッチの製造において、本比較例における近赤外線吸収性粒子は、比較例1で用いられる炭化ジルコニウムである。
【0087】
(比較例6)
本比較例は、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0088】
本比較例は、前記実施例7とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。本比較例において、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物を製造するために、遠赤外線放射性粒子が用いられる。すなわち、前記実施例7と比べ、本比較例では、遠赤外線放射性粒子が前記実施例1に係る近赤外線吸収性の代わりに用いられる。
【0089】
また、本比較例に係る遠赤外線放射性マスターバッチの製造に用いられる遠赤外線放射性粒子は、竹炭(Jiangshan Luyi Bamboo Charcoal Co., Ltd.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、300ナノメートルないし400ナノメートルである。前記粒子は、波長が0.7ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.93である遠赤外線放射性を有する。
【0090】
(比較例7)
本比較例は、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物の製造に関する。
【0091】
本比較例は、前記実施例7とほぼ同様であるが、以下の点で異なる。本比較例において、遠赤外線放射性マスターバッチ、繊維、および織物を製造するために、遠赤外線放射性粒子が用いられる。すなわち、前記実施例7と比べ、本比較例では、遠赤外線放射性粒子が前記実施例1に係る近赤外線吸収性の代わりに用いられる。
【0092】
また、本比較例に係る遠赤外線放射性マスターバッチの製造に用いられる遠赤外線放射性粒子は、酸化アルミニウム(Sigma−Aldrich Co.から購入)である。前記粒子の二次粒径は、800ナノメートルないし900ナノメートルである。前記粒子は、波長が0.7ミクロメートルないし2ミクロメートルである領域のスペクトルにおける近赤外線吸収性を有する。また、前記粒子は、放射率が0.94である遠赤外線放射性を有する。
【0093】
(実験例1)
本実験例は、昇温性の実験に関する。
【0094】
500ワット型ハロゲンランプが被験織物の上方に位置させられ、該ハロゲンランプから該被験織物の表面までの距離は100センチメートルである。該ハロゲンランプの照射方向と該被験織物の表面との角度は45度である。該ハロゲンランプの照射を受けてから、該被験織物の表面温度が温度計測器(NEC(登録商標) Co.から購入)で測定される。
【0095】
昇温性は、被験織物で計測された表面温度と基準織物で計測された表面温度との温度差で算出される。該温度差は、符号「ΔT
1」で表示される。昇温性が高い織物は昇温性が低い織物より内層の衣服に好適である。
【0096】
被験織物として実施例1ないし実施例6に係る近赤外線吸収性織物、比較例1ないし比較例3に係る近赤外線吸収性織物、または比較例4に係る遠赤外線放射性織物が用いられる場合、基準織物としてポリアミド6樹脂からなる織物が用いられる。
【0097】
被験織物として実施例7および8に係る近赤外線吸収性織物、比較例5に係る近赤外線吸収性織物、または比較例6および比較例7に係る遠赤外線放射性織物が用いられる場合、基準織物としてポリエチレンテレフタレート樹脂からなる織物が用いられる。
【0098】
前記実験の結果は表1ないし表6に示す。
【0099】
(実験例2)
本実験例は、太陽光吸収性の実験に関する。
【0100】
前記各実施例および比較例に係る織物は、被験織物として、ソーラシミュレータ(All Real Technology Co. Ltd.から購入される「APOLLO」型ソーラシミュレータ)から12メートル離れた場所に設置される。該被験織物は、該ソーラシミュレータにより500ワット/平方メートルのエネルギーで10分間照射される。該被験織物における照射前後の表面温度が温度計測器で測定される。
【0101】
太陽光吸収性は、被験織物におけるソーラシミュレータ照射前後の表面温度の温度差(ΔT
2)で算出される。ΔT
2が高い織物は太陽光吸収性に優れているものとされる。
【0102】
また、織物の蓄熱性および室外における保温効果はΔT
2に依存する。ΔT
2が高い織物は有効に蓄熱すると共に、室外で人体の温度を保つことができる。即ち、太陽光吸収性に優れている織物は、有効に蓄熱することができると共に、室外で人体の温度を保つことができる。
【0103】
前記実験の結果は表1ないし表6に示す。
【0104】
(実験例3)
本実験例は、遠赤外線放射性の実験に関する。
【0105】
前記各実施例および比較例に係る織物は、被験織物として、セ氏25度で遠赤外線分光計(Bruker Co.から購入される「VERTEX 70」型遠赤外線分光計)により、遠赤外線放射性の測定をされる。前記実験の結果は表1ないし表6に示す。放射される遠赤外線は、2ミクロメートルないし22ミクロメートルの波長を有するものである。
【0106】
(実験例4)
本実験例は、紫外可視近赤外(UV−Vis−NIR)領域のスペクトルにおける吸収性の実験に関する。
【0107】
実施例1に係る近赤外線吸収性粒子と、臭化カリウムとからなる混合物をメノウ乳鉢で粉砕、混合することにより、細粉を得る。該細粉を錠剤機で圧縮することにより、サンプルを作成する。
該サンプルにおける波長が300ナノメートルないし2000ナノメートルである領域の吸収スペクトルが紫外可視近赤外分光計(Hitachi(登録商標)から購入される「U−4100」型紫外可視近赤外分光計)で測定される。該サンプルの吸収スペクトルを実施例1に係る近赤外線吸収性粒子の吸収スペクトルとする。
【0108】
比較例2に係る近赤外線吸収性粒子の吸収スペクトルは、実施例1に係る近赤外線吸収性粒子に施される上述の方法により測定される。
【0109】
前記実験の結果は
図8に示す。
【0110】
表1は、実施例1ないし実施例3に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性マスターバッチおよび繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示すように、実施例1ないし実施例3に係る近赤外線吸収性粒子の種類はアンチモンドープ酸化スズである。近赤外線吸収性繊維および繊物における前記粒子の濃度は同様である。近赤外線吸収性マスターバッチにおける前記粒子の濃度は、前記近赤外線吸収性繊維および繊物における前記粒子の濃度と異なるが、同様のΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を有する。
すなわち、実施例1ないし実施例3に係る近赤外線吸収性繊維および繊物は、同様の昇温性、太陽光吸収性および遠赤外線放射性を有する。
【0113】
表2は、実施例1、実施例4および実施例5に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性マスターバッチおよび繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示すように、実施例1、実施例4および実施例5に係る近赤外線吸収性粒子の種類はアンチモンドープ酸化スズである。表2に示される結果によれば、近赤外線吸収性繊維における近赤外線吸収性粒子の濃度が増大する場合、前記繊維からなる近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性が増大することがわかる。
すなわち、近赤外線吸収性繊維における近赤外線吸収性粒子の濃度の増大は、前記繊維からなる近赤外線吸収性織物における昇温性、太陽光吸収性および遠赤外線放射性の増大に繋がる。
【0116】
表3は、実施例1、実施例6、比較例1ないし比較例3に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0117】
【表3】
【0118】
表4は、比較例4に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0119】
【表4】
【0120】
表3および表4に示すように、実施例1および実施例6に係る近赤外線吸収性粒子の種類はアンチモンドープ酸化スズおよびアンチモンドープ酸化スズに被包される二酸化チタンであり、また、アンチモンドープ酸化スズおよびアンチモンドープ酸化スズに被包される二酸化チタンを用いることにより、実施例1および実施例6に係る織物は、比較例1ないし比較例4に係る織物より、ΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性が増大することがわかる。
すなわち、実施例1および実施例6に係る織物は、昇温性および太陽光吸収性に優れたものである。また、実施例1および実施例6に係る近赤外線吸収性織物は、室外にでも有効に体の温度を保つ保温効果を発揮することができる。
【0121】
図8に示すように、実施例1に係る近赤外線吸収性粒子であるアンチモンドープ酸化スズには、波長が700ナノメートルにイコールまたはより大きい領域のスペクトルに対する近赤外線吸収性が見られる。それに対して、比較例2に係る近赤外線吸収性粒子とされる二酸化スズの近赤外線吸収性は、波長が1200ナノメートルにイコールまたはより大きい領域のスペクトルに対するものである。
また、波長が700ナノメートルにイコールまたはより大きい領域のスペクトルに対する酸化スズの近赤外線吸収性は、アンチモンドープ酸化スズの近赤外線吸収性より低下するものである。これにより、比較例2と比べ、波長が700ナノメートルにイコールまたはより大きい領域のスペクトルに対し、実施例2に係る近赤外線吸収性粒子が著しく近赤外線吸収性に優れたことが明らかである。
【0122】
表3及び
図8に示すように、波長が700ナノメートルにイコールまたはより大きい領域のスペクトルに対する近赤外線吸収性に優れた近赤外線吸収性粒子を使用するので、実施例1に係る近赤外線吸収性織物は、比較例2を上回る太陽光吸収性(ΔT
2)を有する。また、実施例1に係る近赤外線吸収性織物は、比較例2より、室外でも有効に体の温度を保つ保温効果を発揮することができる。
【0123】
表5は、実施例7、実施例8、および比較例5に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0124】
【表5】
【0125】
表6は、比較例6および比較例7に係る近赤外線吸収性粒子の種類、近赤外線吸収性繊維における前記粒子の濃度、近赤外線吸収性織物におけるΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を示す。
【0126】
【表6】
【0127】
表5および表6に示すように、実施例7および実施例8に係る近赤外線吸収性粒子の種類はアンチモンドープ酸化スズおよびフッ素ドープ酸化スズである。アンチモンドープ酸化スズおよびフッ素ドープ酸化スズを用いることにより、実施例7および実施例8に係る織物は、比較例5ないし比較例7に係る織物より優れたΔT
1、ΔT
2、および遠赤外線放射性を有することがわかる。
すなわち、実施例7および実施例8に係る織物は、昇温性および太陽光吸収性に優れたものである。また、実施例7および実施例8に係る近赤外線吸収性織物は、室外にでも有効に体の温度を保つ保温効果を発揮することができる。
【0128】
さらに、表4に示すように、比較例5に係る近赤外線吸収性織物の温度を上げるためには、太陽光を吸収することが好適である。また、比較例6および比較例7に係る遠赤外線放射性織物の温度を上げるためには、遠赤外線を放射させることが好適である。
太陽光の吸収および遠赤外線の放射を行うことは、実施例7および実施例8に係る近赤外線吸収性織物に対して、共に好適である。
【0129】
上述したように、波長が2ミクロメートルないし22ミクロメートルである領域のスペクトルにおける放射率が0.85にイコールまたはより大きい遠赤外線放射性を有するアンチモンドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズに被包される二酸化チタン、またはフッ素ドープ酸化スズを近赤外線吸収性粒子として採用するので、この近赤外線吸収性粒子からなる実施例1ないし実施例8に係る近赤外線吸収性マスターバッチで融解紡糸を行うことにより作製される近赤外線吸収性繊維は、太陽光吸収性および遠赤外線放射性に優れた織物の製造に好適である。
すなわち、前記近赤外線吸収性繊維よりなる蓄熱性製品は、室内外でも好適に使用することができるものである。