特許第5977797号(P5977797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977797冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法、冷菓又はチルドデザート用香料添加食品及びこれを用いた冷菓又はチルドデザート、冷菓又はチルドデザートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977797
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法、冷菓又はチルドデザート用香料添加食品及びこれを用いた冷菓又はチルドデザート、冷菓又はチルドデザートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20160817BHJP
   A23B 7/00 20060101ALI20160817BHJP
   A23G 9/32 20060101ALI20160817BHJP
   A23G 9/44 20060101ALI20160817BHJP
   A23G 9/52 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   A23L27/00 C
   A23B7/00 101
   A23G9/02
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-230126(P2014-230126)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-93108(P2016-93108A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年11月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593222698
【氏名又は名称】赤城乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(72)【発明者】
【氏名】井上 創太
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−249569(JP,A)
【文献】 特表2004−500069(JP,A)
【文献】 特開2014−100150(JP,A)
【文献】 特開2010−136638(JP,A)
【文献】 特開2006−257246(JP,A)
【文献】 特許第126598(JP,C2)
【文献】 国際公開第2010/035704(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23B 7/00
A23G 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷菓又はチルドデザートに混在させる冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法であって、
容器に野菜又は果肉を収容する工程と、
前記容器に乳化香料を混入した溶液を注入する工程と、
前記容器を蓋体で密封し加熱殺菌する工程と、を具備し、
前記乳化香料を前記野菜又は果肉の内部に浸透させて呈味感を向上させる
ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法であって、
前記乳化香料は、油溶性の香料を乳化剤により乳化させたものである、
ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法であって、
前記呈味感の向上とは、濃厚感、熟感および甘さの少なくともいずれかの向上である、
ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法。
【請求項4】
野菜又は果肉の表面から内部に浸透させた乳化香料によって呈味感を向上させた冷菓又はチルドデザート用香料添加食品。
【請求項5】
請求項4に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品であって、
前記野菜又は果は加熱殺菌処理済みである、
ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品であって、
前記呈味感の向上とは、濃厚感、熟感および甘さの少なくともいずれかの向上である、
ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品を含有してなる冷菓又はチルドデザート。
【請求項8】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品とミックスを混ぜ合わせる工程を有する冷菓又はチルドデザートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料添加食品の製造方法、香料添加食品及びこれを用いた冷菓、冷菓の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、みかん等の果実の果肉を食感が残る程度の大きさでそのままアイスクリームなどに埋め込んだ果肉入り氷菓(冷菓)が知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、冷菓に果肉を混ぜ込む場合、特に市販の冷菓においては、保存の容易性の観点からも缶詰されたシロップ漬けの果肉(缶詰のみかん、桃など)が用いられることが一般的である。
【0003】
一般的に、生鮮の果肉を冷菓に混ぜ込むと、果肉が低温になることでその香り(特に香りによる濃厚感、熟感、甘さなど)を感じにくくなり、食感はあるが果肉の風味が劣化することが多い。またこのことは、冷菓に混ぜ込む果肉がシロップ漬けされた缶詰の果肉であっても同様である。
【0004】
一方、シロップ漬けされた缶詰の果肉においては、水溶性の香料をシロップに混入させることができるため、添加する水溶性の香料の調整によって、より強く着香することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−236426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水溶性の香料は熱に弱いため、缶詰の製造工程において加熱殺菌処理を経ると、添加した香料が劣化してしまう問題がある。このため、強い香料で着香したとしても、結局、製造工程中に添加した香りが劣化してしまい、特に官能的な評価において香りが不足し、果肉の風味を十分に味わえないといった問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためのものであって、加熱殺菌工程を経ても添加した香料の劣化が少なく、十分な着香が可能となる冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法、冷菓又はチルドデザート用香料添加食品及びこれを用いた冷菓又はチルドデザート、冷菓又はチルドデザートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記課題に鑑みてなされ、冷菓又はチルドデザートに混在させる冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法であって、容器に野菜又は果肉を収容する工程と、前記容器に乳化香料を混入した溶液を注入する工程と、前記容器を蓋体で密封し加熱殺菌する工程と、を具備し、前記乳化香料を前記野菜又は果肉の内部に浸透させて呈味感を向上させる、ことを特徴とする冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法である。
【0009】
(2)また、本発明は、野菜又は果肉の表面から内部に浸透させた乳化香料によって呈味感を向上させた冷菓又はチルドデザート用香料添加食品である。
【0010】
(3)また、本発明は、上記 の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品を含有してなる冷菓又はチルドデザートである。
【0011】
(4)また、本発明は、上記の冷菓又はチルドデザート用香料添加食品とミックスを混ぜ合わせる工程を有する冷菓又はチルドデザートの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱殺菌工程を経ても添加した香料の劣化が少なく、十分な着香が可能となる香料添加食品の製造方法を提供でき、十分に着香された冷菓又はチルドデザート用香料添加食品の製造方法、冷菓又はチルドデザート用香料添加食品及びこれを用いた冷菓又はチルドデザート、冷菓又はチルドデザートの製造方法を提供することができるという優れた効果を奏し得る。

【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の香料添加食品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態の冷菓の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】香料無添加食品の香気成分の分析結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態の香料添加食品に添加した乳化香料の香気成分の分析結果を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態の香料添加食品の香気成分の分析結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態の香料添加食品の官能評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
<香料添加食品の製造方法>
【0017】
実施形態に係る香料添加食品の製造方法は、容器に食品を収容する工程と、容器に高耐熱性の香料を混入した溶液を注入する工程と、容器を蓋体で密封し、加熱殺菌する工程とを含む。
【0018】
本実施形態における高耐熱性の香料は食品香料(フレーバー)であって、耐熱性の高い乳化香料であり、例えば、油溶性の(水に溶解、分散しない又はし難い)香料成分を乳化剤(または界面活性剤)で乳化させた液状の香料をいう。
【0019】
油溶性の香料成分は、例えば果物の精油であり、具体的には、桃、みかん(オレンジ)、ぶどう、レモン、パイン、イチゴ、マンゴーなどの精油、あるいはこれらを調合したものである。油溶性の香料成分は、天然物であっても合成物であってもよい。なお、必ずしも香料を添加する食品(原料)を再現した香料を調合するとは限らず、一般には最終製品において求められるイメージを表現する香気に調整される。
【0020】
また、乳化剤は既知のものが利用でき、例えば、アラビアガム、加工でん粉、キラヤ抽出物、キサンタンガム、ペクチン、カラギナン、カゼイン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル等である。また、乳化の際に既知の溶剤を用いても良く、溶剤の一例としては、エタノール、プロピレングリコール・グリセリン等の多価アルコール、水、水あめ等の糖類等が挙げられる。
【0021】
なお、上記の例に限らず、本実施形態における乳化香料とは、油溶性の香料成分が乳化されたものであればよく、乳化の手法はどのようなものであってもよい。
【0022】
また、本実施形態における香料を添加する食品としては、加熱殺菌処理が施されて長期間の保存が可能とされた野菜又は果実(特に果肉)が好ましく、容器内に充填された溶液に浸されて、密閉状態で保存されるものが更に望ましい。以下の実施形態では、缶詰されるシロップ漬けの果肉を例に、これに香料を添加する場合について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る香料添加食品の製造方法の一例を示すフローチャートであり、具体的には、果肉(例えば、桃)の缶詰の製造工程の一例を示すフロー図である。
【0024】
ステップS01では、前処理を行う。前処理では、例えば洗浄されて缶詰された原料(桃)を開缶し、異物除去を行う。異物の除去は例えば、マグネットフィルターによる金属の除去や、ネットコンベア上の搬送による異物の除去などであり、この工程で果肉の残皮残核も除去される。あるいは、前処理では、貯蔵された生鮮の原料(桃)の皮むき、種子除去などの加工を行う。
【0025】
ステップS02では、ダイサーを用いて果肉を所望のサイズにカット(ダイスカット)し、カット後の果肉を洗浄する。
【0026】
ステップS03では再び異物の除去を行う。この工程では、バックライトテーブル(異物検査装置)によって目視による異物除去を行う。また、マグネットフィルターを用いて金属除去を行ったのち、金属検出機にて金属の検出がないかを確認する。
【0027】
ステップS04では容器(缶詰本体)に桃の果肉を収容し(詰め込み)、果肉を詰めた状態で、計量を行う。
【0028】
ステップS05では、果肉を浸漬するシロップ(糖液)を調合する。また、調合後のシロップに、乳化香料を添加する。シロップは例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、クエン酸、ビタミンCなどを調合したものである。乳化香料は、例えばピーチフレーバーの場合には、エステル(例えば、ヘキシルアセテート)、アルコール(例えばヘキサノール)、ラクトン(例えばデカラクトン他)の香気成分(基剤)からなる合成香料を用いる。なお、ここに記載した以外の香気成分が含まれていても良い。シロップの分量は、例えば重量比(重量%)で果肉の分量と略同等(1:1)であり、乳化香料の添加量は、一例として、シロップと果肉の総重量に対し、0.2重量%程度である。そして乳化香料が添加されたシロップを、缶詰本体に注入(充填)する。
【0029】
ステップS06では、後の加熱殺菌工程において缶内の空気の膨張により缶が変形するのを防ぎ、缶詰貯蔵中の缶内面の腐食を防ぐために缶内の脱気を行う。これにより、内容物の色、味、ビタミンその他の栄養素の変化を防ぐこともできる。その後、缶詰の蓋体を缶詰本体に巻締し、完全に密封する。
【0030】
ステップS07では、密封した缶詰を、例えば動揺式の殺菌機によって加熱殺菌する。これにより、細菌など微生物を死滅させて腐敗を防ぎ、長く貯蔵できるようにする。加熱時間は、中身の種類によって異なるが、ここででは一例として、95℃で25分(缶詰の中心温度は83℃以上)程度とする。
【0031】
ステップS08では、品質の変化を防ぐため、殺菌後の缶詰を動揺式の冷却機によって例えば40℃程度に冷却し、保管する。
【0032】
本実施形態によれば、耐熱性の高い乳化香料(油溶性の香料成分を乳化させた乳化香料)をシロップに添加するため、密封後に缶詰を加熱殺菌処理した場合であっても、果肉に十分な香料を添加することができる。
【0033】
なお、上記の例ではシロップ漬けの果肉に香料を添加する場合を例に説明したが、これに限らず、例えば酢酸溶液(食酢)に乳化香料を添加し、食品として野菜などを溶液に浸すことで、香料が添加された酢漬け食品(漬物)を得ることもできる。
【0034】
<香料添加食品/冷菓>
【0035】
本実施形態の香料添加食品は、例えば、図1に示す製造方法によって製造された缶詰の香料添加食品である。
【0036】
食品(例えば、果肉)は、図1に示すステップS05の工程において、乳化香料が添加されたシロップに浸漬されることによって着香される。このようにして得た香料添加食品(例えば、香料添加果肉)は、冷菓やデザートなどに用いると好適である。
【0037】
例えば、市販の冷菓などに果肉を混ぜ込む(埋め込む)場合、保存の容易性から缶詰の果肉が用いられることが多い。しかし、果肉をそのまま食する場合と比較して、冷菓に果肉を混ぜ込むとその香りが劣化し、食感はあるが果肉の風味がしないなどの問題がある。一方、従来のシロップ漬けされた缶詰の果肉では、水溶性の香料をシロップに混入させることができるため、添加する水溶性の香料の調整によって、より強く着香することも考えられる。しかしながら、缶詰の場合は密閉後に高温(例えば95℃程度)の加熱殺菌処理の工程が必須であるため、水溶性の香料の場合は、当該加熱殺菌処理工程において香料が劣化してしまう問題がある。
【0038】
一方、上述の如く本実施形態の乳化香料は耐熱性が高いものであるため、着香後の果肉を加熱殺菌処理した場合であっても香料の劣化は生じにくい。しかも、乳化香料であるため比較的濃厚(重厚)な香り付けが可能となり、冷菓と共に食した場合であっても、果肉の風味を十分に味わうことができる。
【0039】
本実施形態の冷菓は例えば、乳等省令で規定されているアイスクリームの他、アイスミルク及びラクトアイス(以下、これらをアイスクリーム類という。)を含み、更にシャーベット、かき氷アイスおよびアイスキャンディーなどの氷菓類も含まれる。
【0040】
上記アイスクリーム類の原料としては、従来より一般的に用いられている原料、すなわち乳、乳製品、糖類、卵、植物油脂、安定剤、乳化剤、着色料、甘味料、香料、果汁、及び風味原料などを適宜選択して用いることができる。また、同様に上記氷菓類の原料としては、従来より一般に用いられている原料、すなわち糖類、乳製品、果汁、安定剤、着色料、甘味料、香料などを適宜選択して用いることができる。
【0041】
また、本実施形態においてミックスとは、上記アイスクリーム類や氷菓類の原料を混ぜ均質化したものをいう。
【0042】
一例として、本実施形態の香料添加食品(香料添加果肉)を含むアイスキャンディーについて説明する。本実施形態のアイスキャンディーとは、乳製品を含まないミックスに香料添加果肉を混在させ、オーバーランをかけずに針状結晶を生成するように凍結させたものをいう。例えば、桃味のアイスキャンディーのミックスの場合、本実施形態の上記方法により乳化香料を添加した缶詰の桃果肉を必要に応じて適宜所望のサイズにカットして混入させる。みかん味のアイスキャンディーのミックスの場合、本実施形態の上記方法により乳化香料を添加した缶詰のみかん果肉を必要に応じて適宜所望のサイズにカットして混入させる。また、パイン味のアイスキャンディーのミックスの場合には、本実施形態の上記方法により乳化香料を添加した缶詰のパイン果肉を必要に応じて適宜所望のサイズにカットして混入させる。
【0043】
本実施形態の香料添加果肉は、乳化香料によって十分に着香され、比較的濃厚(重厚)な香り付けが可能となるため、缶詰の果肉を冷菓に混在した場合であっても、香りが劣化しにくく果肉(果実)の風味を楽しむことができる。
【0044】
<冷菓の製造方法>
【0045】
図2は、本実施形態の冷菓の製造方法の一例を示すフローチャートである。ここでは一例として、本実施形態の香料添加果肉を含有するアイスキャンディーの製造方法について説明する。
【0046】
ステップS11では、原料(例えば、パイン味のアイスキャンディーの原料)の各種成分を計量し、ミキサーにて溶解・混合する。原料の各種成分(原材料)の一例としては、本実施形態の香料添加果肉(パイン果肉)、パイン果汁、異性化糖(ぶどう糖と果糖の混合物)、砂糖、水飴、リキュール、食塩、酸味料、安定剤(増粘多糖類)、香料などである。その後、マグネットフィルターなどによって金属製の異物を除去し、原料をろ過する。
【0047】
ステップS12では、調合タンクやパスタンクにて、原料を例えば65℃〜75℃まで昇温し、保温する。これにより原料の各種成分(例えば、乳化剤など)をさらに溶解する。その後、原料を再びろ過する。
【0048】
ステップS13では、原料を均質機(ホモゲナイザー)で細かく破砕して、均一な状態にする。圧力は例えば5MPa〜15MPaである。これにより原料に含まれる成分を完全に混合させる。
【0049】
ステップS14では、加熱殺菌を行う。例えばプレート式熱交換機により、原料を例えば84℃以上の温度で20秒間、あるいは86℃以上の温度で14秒間加熱して殺菌する。その後、原料の冷却を行う。同じく例えばプレート式熱交換機により、20℃以下まで冷却する。
【0050】
ステップS15では、必要に応じて他の香料等を混合し、エージングを行う。すなわち原料をエージングタンクに投入し、例えば0℃〜5℃で所定時間冷蔵して、安定剤の膨潤などをコントロールすることで、品質を安定させる。その後再び原料をろ過する。このようにして本実施形態のミックスを得る。
【0051】
ステップS16では、混合タンクにてミックスに本実施形態の香料添加果肉(例えば、パイン果肉)を混合させる。香料添加果肉は、アイスキャンディーの可食部分全体に対して、例えば20%程度の分量となるように混合する。その後、香料添加果肉を混合したミックスを充填機に移す。
【0052】
ステップS17では、ミックスをアイス型に1食ずつ分注し、それぞれにスティックを挿してブライン槽にて硬化する。これにより、香料添加果肉入りアイスキャンディーを得る。
【0053】
以上、本実施形態では、香料添加果肉入りアイスキャンディーについて説明したが、アイスクリームやかき氷アイスなど他の冷菓に本実施形態の香料添加果肉を混在させてもよい。
【0054】
また、ミックスに香料添加果肉を混在させる例に限らず、冷菓あるいは、ヨーグルト、ケーキ類などデザートのトッピングとして、本実施形態の香料添加果肉を添えても良い。また、本実施形態の香料添加果肉をソースやジャムなどに加工しても良く、これらを冷菓やヨーグルト、ケーキ類などデザートのトッピングにしてもよい。また、香料を添加する食品は果物に限らず野菜であってもよい。
【0055】
なお、本実施形態の香料添加食品は、食品、特に野菜や果実等の表面から浸透させた高耐熱性の香料(乳化香料)によって香りが付与されたものであるが、乳化香料によって香りが付加(着香、賦香)されたものであれば、上記の製造方法によるものに限らない。例えば、食品の外表に乳化香料を付着させ、食品の有する水分(内部の水分)と乳化香料を置換させることによって食品に香りを付与することができる。
【0056】
また、上記の実施形態では、耐熱性の高い乳化香料として油溶性の香料成分を乳化させた乳化香料を用いる場合を例に説明したが、これに限らず、例えば缶詰後(容器密閉後)の加熱殺菌処理工程において、香料成分が劣化しないものであればよい。従って、水溶性の香料成分であっても耐熱性の高いものであれば同様に実施でき、当該水溶性の香料成分をシロップに添加してもよい。
【0057】
<実施例>
【0058】
本実施形態の製造方法によって香料を添加した缶詰の果肉(桃の果肉)について、着香の程度を調べるため、着香後にガスクロマトグラフィー法による香気成分(基剤)の分析を行った。
【0059】
まず、図3は香料無添加の果肉(桃の果肉)の香気成分の分析結果を示すグラフである。図4が着香に用いた香料成分(ピーチフレーバー)のみの香気成分の分析結果であり、図5は、本実施形態の香料添加果肉(桃の果肉)の香気成分の分析結果を示すグラフである。
【0060】
分析に用いた香料添加果肉(桃の果肉)は、砂糖、ブドウ糖、果糖、クエン酸、ビタミンCなどを調合したシロップに、ピーチフレーバーの乳化香料(エステル、アルコール、ラクトンの香気成分(基剤)からなる合成香料)を添加し、シロップと重量比が同等となるように桃の果肉を浸漬して製造した缶詰果肉である。乳化香料の添加量は、一例として、シロップと果肉の総重量に対し、0.2重量%程度である。
【0061】
いずれも、縦軸は検出成分の強度であり、横軸は時間である。香気成分は複数混在しており、経過時間に伴い、抽出される香気成分は、低沸点で香り立ちに効く成分から高沸点で呈味に効く香気成分へと変化する。
【0062】
図3において、59分付近のピークは、抽出溶媒由来(BHT)の香気成分であり、その他のピークが桃果肉由来(桃果肉自身)の香気成分である。また、図4に示すように、缶詰の桃果肉の着香に用いた乳化香料(ピーチフレーバー)の主要な香気成分は、Hexyl acetate(酢酸ヘキシル(ヘキシルアセテート))、Hexanol(ヘキサノール)、gamma-Decalactone(γ−デカノラクトン)、delta-Decalactone(δ−デカノラクトン)、gamma-Undecalactone(δ−デカノラクトン)である。Hexyl acetateおよびHexanolは、桃の新鮮で青い特徴がある香気成分であり、gamma-Decalactone、delta-Decalactone、gamma-Undecalactoneが熟した桃の甘い特徴のある香気成分である。なお、7分頃の大きな細いピークはエタノール(溶剤)、40分〜45分のピークはプロピレングリコール(溶剤)である。
【0063】
上記の乳化香料の成分の内、ヘキサノールはアルコール類のため水、油のどちらにも溶解するが、特に水と油が共存する環境下では、油に溶けやすい。つまり本実施形態の乳化香料の状態では、ヘキサノールは油滴中に存在している。
【0064】
そして、図5に示すように、本実施形態の香料添加食品の製造方法によってピーチフレーバーを添加した桃の果肉では、図4と同じピーチフレーバーの香気成分が抽出された。なお、59分付近のピークは、抽出溶媒由来(BHT)の香気成分である。
【0065】
本実施形態のピーチフレーバーを添加した桃の果肉は、香料成分を含まないシロップでリンスすることで、果肉表面に付着した香料成分は除かれている。すなわち、図5において検出されるピークは含浸した香料由来のものである。つまり、桃の果肉中にピーチフレーバーの香気成分が残存している(果肉に香料が染み込んで(浸透して)いる)ことが明らかとなった。
【0066】
図6は、本実施形態の香料添加食品(缶詰の桃果肉)と、水溶性香料によって着香した缶詰の桃果肉、および香料無添加の缶詰の桃果肉の官能評価の結果である。同図(a)は、評価結果を数値で示す表であり、同図(b)は同図(a)の結果のレーダーチャートである。
【0067】
いずれも缶詰の果肉は、シロップと分離し、香料を添加していない別途調製したBx20°のシロップで洗浄した。その後、果肉と洗浄用シロップを分離し、果肉のみ試食して評価した。
【0068】
評価方法は、香料無添加の果肉(点線)、水溶性香料を添加した果肉(一点鎖線)、本実施形態の乳化香料を添加した果肉(実線)の3種の香味について、香り立ち、瑞々しさ、濃厚感、熟感、甘さの5項目について5段階で評価した。なお、水溶性香料と乳化香料の香気成分部分は同じ濃度、成分のものを使用した。評価者は男性4名、女性5名である。
【0069】
この結果、水溶性香料を添加した場合は、香り立ち、瑞々しさは改善されているが、呈味感(濃厚感、熟感、甘さ)がやや弱いという評価となった。これに対し、香料無添加の果肉および水溶性香料添加の果肉と比較して本実施形態の乳化香料を添加した果肉が特に濃厚感、熟感、甘さにおいて効果があることが分かった。また、乳化香料添加の果肉のほうが自然な風味と感じている評価者もあった。
【0070】
この結果からも明らかなように、評価者のほぼ全員が濃厚感、熟感、甘さの点で乳化香料を添加した果肉の方が、水溶性香料を添加した果肉と比較して効果があると感じていることから、乳化香料の果肉への浸透具合の良さが呈味感の向上として表れたといえる。本実施形態の乳化香料は、ミセルの内部に油溶性の香料を取り込んだ構造となっている。このため、揮発性に違いが生まれ、食する際に呈味感の向上に大きく寄与するものとなったと考えられる。
【0071】
また、乳化香料を添加した果肉では、評価結果のチャートが正五角形に近いため、全体的なバランスがよいといえ、果肉の自然な風味に感じられると考えられる。
【0072】
更に、果肉を冷菓に混在させる場合は、特に呈味感が失われやすい傾向があるが、本実施形態の香料添加果肉を用いることで、冷菓に用いても果肉の風味を十分に味わうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、果肉入り冷菓、デザートなどに利用することができる。
図1
図2
図3
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図5
図6