特許第5977912号(P5977912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5977912内視鏡システム及び内視鏡ビデオプロセッサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5977912
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】内視鏡システム及び内視鏡ビデオプロセッサ
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/04 20060101AFI20160817BHJP
   G02B 23/24 20060101ALI20160817BHJP
   G02B 23/26 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   A61B1/04 370
   G02B23/24 B
   G02B23/26 C
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-523344(P2016-523344)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2015085510
【審査請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-258920(P2014-258920)
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 智樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健夫
(72)【発明者】
【氏名】本田 一樹
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−66648(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/088076(WO,A1)
【文献】 特開2012−157577(JP,A)
【文献】 特開2010−99178(JP,A)
【文献】 特開2015−119827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
G02B 23/24−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の内部に挿入される挿入部と、
前記挿入部に設けられ、前記被写体の第1の領域から第1の被写体像を取得する第1の被写体像取得部と、
前記挿入部に設けられ、前記第1の領域とは異なる前記被写体の第2の領域から第2の被写体像を取得する第2の被写体像取得部と、
前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像を撮像する撮像部と、
前記撮像部において前記第1の被写体像が結像される第1の結像領域と、前記第2の被写体像が結像される第2の結像領域の位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部と、
前記位置関係検出情報に基づき、前記第1の結像領域に設けた第1の基準位置と前記第2の結像領域に設けた第2の基準位置と合わせて前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像とを配置した画像信号を生成する画像信号生成部と、
を備えたことを特徴とする内視鏡システム。
【請求項2】
前記画像信号生成部は、前記第1の被写体像の中心位置の座標と、前記第2の被写体像の中心位置の座標のずれを補正するように、前記第1の被写体像又は前記第2の被写体像の少なくとも一方の位置を変化させる処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記画像信号生成部は、前記第1の被写体像の所定の座標から垂直又は水平方向に延出した直線と、前記第2の被写体像の所定の座標から垂直又は水平方向に延出した直線とのずれを補正するように、前記第1の被写体像又は前記第2の被写体像の少なくとも一方の位置を変化させる処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項4】
前記位置関係は、前記撮像部が取得する被写体像についての所定位置に対する前記撮像部の前記第1の結像領域の第1のずれ量と、前記所定位置に対する前記撮像部の前記第2の結像領域の第2のずれ量とにより示され、
前記位置関係検出情報は、前記第1のずれ量と前記第2のずれ量を含むことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項5】
前記第1の被写体像取得部は、前記挿入部の長手方向に略平行な挿入部前方を含む領域の被写体像を取得する前方画像取得部であり、
前記第2の被写体像取得部は、前記挿入部の長手方向に略直交する挿入部側方を含む領域の被写体像を取得する側方画像取得部であることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項6】
前記第1の被写体像取得部は、前記挿入部の長手方向の先端部に、前記挿入部が挿入される方向に向けて配置され、
前記第2の被写体像取得部は、前記挿入部の側面に、前記挿入部の径方向に向けて配置されることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項7】
前記撮像部は、前記第1の被写体像取得部が取得する前記第1の被写体像を光電変換する第1の撮像素子と、前記第2の被写体像取得部が取得する前記第2の被写体像を光電変換する前記第1の撮像素子とは別個の第2の撮像素子とを含み、
前記第1の撮像素子と前記第2の撮像素子とが、前記画像信号生成部にそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項8】
前記第2の被写体像は、複数存在すると共に、前記第1の被写体像に対して各々隣り合う位置に複数の前記第2の被写体像が配置され、
前記画像信号生成部は、前記撮像部における前記第1の結像領域に設けた第1の基準位置の座標と、少なくとも2つの前記撮像部における前記第2の結像領域にそれぞれ設けた第2の基準位置の座標とをそれぞれ合わせるように、前記第1の被写体像と前記第2の被写体像の配置を変化させた画像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項9】
前記撮像部は、前記第1の被写体像取得部が取得する前記第1の被写体像と、前記第2の被写体像取得部が取得する前記第2の被写体像とを、共に1つの撮像面において光電変換する撮像素子を含むことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項10】
前記画像信号生成部から前記画像信号を入力し、前記第1の被写体像と前記第2の被写体像に基づく画像信号を表示部に表示させるための表示信号を生成する画像出力部を備え、
前記第1の被写体像は、略円形状になるように前記表示部に表示されると共に、前記第2の被写体像は、前記第1の被写体像の周囲を囲む略円環状になるように前記表示部に表示されることを特徴とする請求項9に記載の内視鏡システム
【請求項11】
前記挿入部を有する内視鏡に前記位置関係検出情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記画像信号生成部は、前記位置関係検出信号が更新されるまで、前記第1の被写体像と前記第2の被写体像の配置を、前記記憶部に記憶された前記位置関係検出情報に基づいて変化させた画像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム
【請求項12】
前記画像信号生成部は、前記第1の被写体像の中心位置の座標及び前記第2の被写体像の中心位置の座標のうち少なくとも一方を前記撮像部が撮像する撮像面の中心と一致するように、前記第1の被写体像と前記第2の被写体像を配置した画像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項13】
被写体内部に挿入された内視鏡の撮像部において取得した第1の被写体像及び前記第1の被写体像とは異なる方向から取得した第2の被写体像が入力される内視鏡ビデオプロセッサであって、
前記第1の被写体像が前記撮像部において結像される第1の結像領域と、前記第2の被写体像が前記撮像部において結像される第2の結像領域と、の位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部と、
前記位置関係検出情報に基づき、前記第1の結像領域に設けた第1の基準位置と前記第2の結像領域に設けた第2の基準位置と合わせて前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像とを配置した画像信号を生成する画像信号生成部と、
を備えたことを特徴とする内視鏡ビデオプロセッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システム及び内視鏡ビデオプロセッサに関し、特に、前方視野及び側方視野を独立してかつ同時に観察することが可能な内視鏡システム及び内視鏡ビデオプロセッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検体の内部の被写体を撮像する内視鏡、及び、内視鏡により撮像された被写体の観察画像を生成する画像処理装置等を具備する内視鏡システムが、医療分野及び工業分野等において広く用いられている。
【0003】
また、内視鏡システムには、病変部の見落とし防止等のために、広い視野で被検体を観察可能なものもある。例えば、日本特開2013−66648号公報には、前方視野画像と側方視野画像と同時に取得し、表示部に表示可能な内視鏡が開示されている。
【0004】
しかし、例えば、上述した日本特開2013−66648号公報に開示の内視鏡においては、撮像ユニットを組み立てる際に、対物光学系のレンズあるいは撮像素子を固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等により、前方視野画像と側方視野画像の光学系間でずれが生じ、円形の前方視野画像の中心と円環状の側方視野画像の中心がずれてしまう場合がある。
【0005】
前方視野画像と側方視野画像の中心がずれると、モニタに表示された前方視野画像と側方視野画像は、内視鏡画像を見る者に違和感を生じさせるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、前方視野画像と側方視野画像の光学系間でずれがあっても、表示部に同時に表示された前方視野画像と側方視野画像にユーザが違和感を感じさせない内視鏡システム及び内視鏡ビデオプロセッサを提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の内視鏡システムは、被写体の内部に挿入される挿入部と、前記挿入部に設けられ、前記被写体の第1の領域から第1の被写体像を取得する第1の被写体像取得部と、前記挿入部に設けられ、前記第1の領域とは異なる前記被写体の第2の領域から第2の被写体像を取得する第2の被写体像取得部と、前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像を撮像する撮像部と、前記撮像部において前記第1の被写体像が結像される第1の結像領域と、前記第2の被写体像が結像される第2の結像領域の位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部と、前記位置関係検出情報に基づき、前記第1の結像領域に設けた第1の基準位置と前記第2の結像領域に設けた第2の基準位置と合わせて前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像とを配置した画像信号を生成する画像信号生成部と、を備えた。
【0008】
本発明の内視鏡ビデオプロセッサは、被写体内部に挿入された内視鏡の撮像部において取得した第1の被写体像及び前記第1の被写体像とは異なる方向から取得した第2の被写体像が入力される内視鏡ビデオプロセッサであって、前記第1の被写体像が前記撮像部において結像される第1の結像領域と、前記第2の被写体像が前記撮像部において結像される第2の結像領域と、の位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部と、 前記位置関係検出情報に基づき、前記第1の結像領域に設けた第1の基準位置と前記第2の結像領域に設けた第2の基準位置と合わせて前記第1の被写体像及び前記第2の被写体像とを配置した画像信号を生成する画像信号生成部と、を備えた
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る内視鏡システムの構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る、内視鏡の挿入部の先端部の構成を示す斜視図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る、内視鏡の挿入部の先端部の構成を示す正面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態の内視鏡システムにおける挿入部先端部の構成を示す要部断面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る、内視鏡システムのビデオプロセッサによる画像処理により、モニタに表示される観察画像の一例を示す図である。
図6】本発明の第1の実施の形態に係るビデオプロセッサ32の構成を示すブロック図である。
図7】本発明の第1の実施の形態に係る、位置ずれ補正部65と境界補正部66の構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第1の実施の形態に係る、中心座標推定部71における、撮像素子40の撮像面40a上に投影された前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSの位置ずれを説明するための図である。
図9】本発明の第1の実施の形態に係る、切り出し部73、拡大部74及び合成部67における処理を説明するための図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係る内視鏡2Aの先端部6の簡略化した模式的斜視図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係る先端部6の内部構成を示す模式的構成図である。
図12】本発明の第2の実施の形態に係るビデオプロセッサ32Aの構成を示すブロック図である。
図13】本発明の第2の実施の形態に係る、内視鏡システム1Aのビデオプロセッサ32Aによる画像処理により、モニタ35に表示される観察画像の一例を示す図である。
図14】本発明の第2の実施の形態に係るキャップ91の構成を示す斜視図である。
図15】本発明の第2の実施の形態に係る、各撮像素子40A、40B、40Cの撮像面に形成された被写体像のずれを説明するための図である。
図16】本発明の第2の実施の形態による位置ずれ補正を行った場合の例を説明するための図である。
図17】本発明の第2の実施の形態の変形例に関わる、側方観察用のユニットが取り付けられた挿入部4の先端部6aの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
(システム構成)
まず、図1から図4を用いて第1の実施の形態の内視鏡システムの構成について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る内視鏡システムの構成を示す図である。図2は、内視鏡の挿入部の先端部の構成を示す斜視図である。図3は、内視鏡の挿入部の先端部の構成を示す正面図である。図4は、第1の実施の形態の内視鏡システムにおける挿入部先端部の構成を示す要部断面図である。図5は、内視鏡システムのビデオプロセッサによる画像処理により、モニタに表示される観察画像の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、内視鏡システム1は、観察対象物(被写体)を撮像して撮像信号を出力する内視鏡2と、観察対象物を照明するための照明光を供給する光源装置31と、撮像信号に応じた映像信号を生成及び出力する画像処理装置であるビデオプロセッサ32と、映像信号に応じた内視鏡画像である観察画像を表示するモニタ35と、を有している。
【0013】
内視鏡2は、術者が把持して操作を行う操作部3と、操作部3の先端側に形成され、被写体である体腔内等に挿入される細長の挿入部4と、操作部3の側部から延出するように一方の端部が設けられたユニバーサルコード5と、を有して構成されている。
【0014】
本実施形態の内視鏡2は、複数の視野画像を表示させることで180度以上の視野を観察可能な広角内視鏡であり、体腔内、特に大腸内において、襞の裏や臓器の境界等、前方の観察だけでは見難い場所の病変を見落とすことを防ぐことを実現する。大腸内に内視鏡2の挿入部4を挿入するにあたっては、通常の大腸内視鏡と同様、挿入部4に捻り、往復運動、腸壁のフックを行うことによる仮固定等の動作が発生する。
【0015】
被写体の内部に挿入される挿入部4は、最も先端側に設けられた硬質の先端部6と、先端部6の後端に設けられた湾曲自在の湾曲部7と、湾曲部7の後端に設けられた長尺かつ可撓性を有する可撓管部8と、を有して構成されている。また、湾曲部7は、操作部3に設けられた湾曲操作レバー9の操作に応じた湾曲動作を行う。
一方、図2に示すように、挿入部4の先端部6には、先端部6の先端面の中央から上方寄りに偏心した位置から突出して設けられた、円柱形状の円筒部10が形成されている。
【0016】
円筒部10の先端部には、前方視野及び側方視野の両方の観察のための図示しない対物光学系が設けられている。また、円筒部10の先端部は、前記図示しない対物光学系の前方に相当する箇所に配置された前方観察窓12と、前記図示しない対物光学系の側視方向に相当する箇所に配置された側方観察窓13と、を有して構成されている。さらに、円筒部10の基端付近には、側方を照明するための光を出射する側方照明窓14が形成されている。側方観察窓13は、前方観察窓12よりも、挿入部4の基端側に配置されている。
【0017】
側方観察窓13は、円柱形状の円筒部10における周りから入射される観察対象物からの戻り光、すなわち反射光、を側方視野内に捉えることにより側方視野画像を取得可能とするための、側視用ミラーレンズ15を備えている。
【0018】
なお、前記図示しない対物光学系の結像位置には、前方観察窓12の視野内の観察対象物の画像が円形の前方視野画像として中心部に形成され、かつ、側方観察窓13の視野内の観察対象物の画像が円環形状の側方視野画像として前方視野画像の外周部に形成されるように、撮像素子40の撮像面が配置されている。
【0019】
すなわち、前方観察窓12は、挿入部4に設けられ、第1の方向である前方を含む第1の領域から第1の被写体像の画像を取得する第1の被写体像取得部を構成し、側方観察窓13は、挿入部4に設けられ、前方とは異なる第2の方向である側方を含む第2の領域から第2の被写体像を取得する第2の被写体像取得部を構成する。言い換えれば、前方観察窓12は、挿入部前方を含む領域の被写体像を取得する前方画像取得部であり、側方観察窓13は、挿入部側方を含む領域の被写体像を取得する側方画像取得部である。
【0020】
前方観察窓12は、挿入部4の長手方向における先端部6に、挿入部4が挿入される方向である前方からの被写体像を取得するように、配置され、側方観察窓13は、側方からの被写体像を取得するように、挿入部4の外径方向に沿って配置されている。言い換えれば、第1の被写体像は、挿入部4の長手方向に略平行な挿入部前方を含む、第1の方向の被写体像であり、第2の被写体像は、挿入部4の長手方向に例えば直角等の角度で交わる挿入部側方を含む、第2の方向の被写体像である。
【0021】
そして、撮像部である撮像素子40は、前方視野画像と側方視野画像を1つの撮像面において光電変換し、前方視野画像の画像信号と側方視野画像の画像信号は、撮像素子40において得られた画像から切り出して生成される。すなわち、撮像素子40は、第1の被写体像及び第2の被写体像を撮像する撮像部を構成し、ビデオプロセッサ32と電気的に接続されている。
【0022】
先端部6の先端面には、円筒部10に隣接する位置に配置され、前方観察窓12の前方視野の範囲に照明光を出射する前方照明窓16と、挿入部4内に配設されたチューブ等により形成された図示しない処置具チャンネルに連通するとともに、処置具チャンネルに挿通された処置具の先端部を突出させることが可能な先端開口部17と、が設けられている。
【0023】
また、挿入部4の先端部6は、先端部6の先端面から突出するように設けられた支持部18を有し、この支持部18は円筒部10の下部側に隣接して位置する。
支持部18は、先端部6の先端面から突出させるように配置された各突出部材を支持または保持可能に構成されている。具体的には、支持部18は、前述の各突出部材としての、前方観察窓12を洗浄するための気体または液体を射出する前方観察窓用ノズル部19と、前方方向を照明するための光を出射するもう一つの前方照明窓21と、側方観察窓13を洗浄するための気体または液体を射出する側方観察窓用ノズル部22と、をそれぞれ支持または保持可能に構成されている。
【0024】
一方、支持部18は、本来の観察対象物とは異なる物体である前述の各突出部材が側方視野内に現れることにより、各突出部材のいずれかを含むような側方視野画像を取得してしまわないようにするための、光学的な遮蔽部材である遮蔽部18aを有して形成されている。すなわち、遮蔽部18aを支持部18に設けることにより、前方観察窓用ノズル部19、前方照明窓21、及び、側方観察窓用ノズル部22がいずれも含まれないような側視視野画像を得ることができる。
側方観察窓用ノズル部22は、図2及び図3に示すように、支持部18の2箇所に設けられているとともに、支持部18の側面から先端が突出するように配置されている。
【0025】
操作部3には、図1に示すように、前方観察窓12を洗浄するための気体または液体を前方観察窓用ノズル部19から射出させる操作指示が可能な送気送液操作ボタン24aと、側方観察窓13を洗浄するための気体または液体を側方観察窓用ノズル部22から射出させる操作指示が可能な送気送液操作ボタン24bと、が設けられ、この送気送液操作ボタン24a及び24bの押下により送気と送液とが切り替え可能である。また、本実施形態では、それぞれのノズル部に対応するように複数の送気送液操作ボタンを設けているが、例えば1つの送気送液操作ボタンの操作により前方観察窓用ノズル部19と側方観察窓用ノズル部22の両方から気体または液体が射出されるようにしてもよい。
【0026】
スコープスイッチ25は、操作部3の頂部に複数設けられており、内視鏡2において使用可能な種々の記載のオンまたはオフ等に対応した信号を出力させるように、スイッチ毎の機能を割り付けることが可能な構成を有している。具体的には、スコープスイッチ25には、例えば、前方送水の開始及び停止、静止画撮影のためのフリーズの実行及び解除、及び、処置具の使用状態の告知等に対応した信号を出力させる機能を、スイッチ毎の機能として割り付けることができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、送気送液操作ボタン24a及び24bのうちの少なくともいずれか一方の機能を、スコープスイッチ25のうちのいずれかに割り付けるようにしてもよい。
【0028】
また、操作部3には、体腔内の粘液等を先端開口部17より吸引して回収するための指示を図示しない吸引ユニット等に対して行うことが可能な吸引操作ボタン26が配設されている。
【0029】
そして、図示しない吸引ユニット等の動作に応じて吸引された体腔内の粘液等は、先端開口部17と、挿入部4内の図示しない処置具チャンネルと、操作部3の前端付近に設けられた処置具挿入口27とを経た後、図示しない吸引ユニットの吸引ボトル等に回収される。
【0030】
処置具挿入口27は、挿入部4内の図示しない処置具チャンネルに連通しているとともに、図示しない処置具を挿入可能な開口として形成されている。すなわち、術者は、処置具挿入口27から処置具を挿入し、処置具の先端側を先端開口部17から突出させることにより、処置具を用いた処置を行うことができる。
一方、図1に示すように、ユニバーサルコード5の他方の端部には、光源装置31に接続可能なコネクタ29が設けられている。
【0031】
コネクタ29の先端部には、流体管路の接続端部となる口金(図示せず)と、照明光の供給端部となるライトガイド口金(図示せず)とが設けられている。また、コネクタ29の側面には、接続ケーブル33の一方の端部を接続可能な電気接点部(図示せず)が設けられている。さらに、接続ケーブル33の他方の端部には、内視鏡2とビデオプロセッサ32と電気的に接続するためのコネクタが設けられている。
【0032】
ユニバーサルコード5には、種々の電気信号を伝送するための複数の信号線、及び、光源装置31から供給される照明光を伝送するためのライトガイドが束ねられた状態として内蔵されている。
【0033】
挿入部4からユニバーサルコード5にかけて内蔵された前記ライトガイドは、光出射側の端部が挿入部4付近において少なくとも2方向に分岐されるとともに、一方の側の光出射端面が前方照明窓16及び21に配置され、かつ、他方の側の光出射端面が側方照明窓14に配置されるような構成を有している。また、前記ライトガイドは、光入射側の端部がコネクタ29のライトガイド口金に配置されるような構成を有している。
【0034】
画像処理装置及び画像信号生成装置であるビデオプロセッサ32は、内視鏡2の先端部6に設けられた撮像素子40を駆動するための駆動信号を出力する。そして、ビデオプロセッサ32は、後述するように、内視鏡2の使用状態に応じて、前記撮像素子40から出力される撮像信号に対して信号処理(所定の領域を切り出す)を施すことにより、映像信号を生成してモニタ35へ出力する。
【0035】
光源装置31、ビデオプロセッサ32及びモニタ35等の周辺装置は、患者情報の入力等を行うキーボード34とともに、架台36に配置されている。
光源装置31は、ランプを内蔵する。ランプから出射された光は、ライトガイドを介して、ユニバーサルコード5のコネクタ29が接続されるコネクタ部へ導光されており、光源装置31は、ユニバーサルコード5内のライトガイドへ照明光を供給する。
【0036】
図4は、第1の実施の形態の内視鏡システムにおける挿入部4の先端部6の構成を示す要部断面図であり、前方及び側方を兼ねる対物光学系11及び側方照明窓14周辺部の構成を示す。
【0037】
先端部6から突出する円筒部10の中心軸に沿った撮像中心Oと一致する光軸上に、それぞれ回転対称形状をした前レンズ41、ミラーレンズ15及び後レンズ群43を配置して撮像素子40に結像する対物光学系11が形成されている。なお、撮像素子40の前面にはカバーガラス42が設けられている。前レンズ41、ミラーレンズ15、および後レンズ群43は円筒部10内のレンズ枠に固定されている。
【0038】
対物光学系11を構成し、円形の前方観察窓12に設けられた前レンズ41は、挿入部4の挿入方向に沿ったその先端側を観察視野とする広角の前方視野を形成する。
【0039】
この前レンズ41の直後に配置された反射光学系としてのミラーレンズ15は、図4に示すように側面方向から入射される光を接合面と前面とで2回反射して、後レンズ群43側に導光する2つのレンズを接合したもので構成されている。
なお、このミラーレンズ15における前レンズ41に対向するレンズ部分は、前レンズ41からの光を屈折して、後レンズ群43側に導光する機能も兼ねる。
【0040】
そして、側方観察窓13に設けられたミラーレンズ15により、この側方観察窓13は、挿入部長軸方向に対して側方方向の光軸を略中心とした所定の視野角度を有しつつ、挿入部周方向における全周をカバーする略円環状の観察視野を形成する。
【0041】
なお、図4では、前方観察窓12を形成する前レンズ41に、その視野内の被写体側から入射される光線と、側方観察窓13を形成するミラーレンズ15に、その視野内の被写体側から入射される光線の概略の経路を示している。
【0042】
そして、撮像素子40の撮像面には、その中央側に前方観察窓12の前レンズ41による挿入方向に向いて設けられた前方視野内の被写体の像が円形に結像され、前方視野画像として取得される。また、この撮像面には、前方視野画像の外周側に側方観察窓13に臨むミラーレンズ15により側方視野内の被写体の像が円環形状に結像され、側方視野画像として取得されることになる。
【0043】
但し、本実施の形態においては、円環形状の側方視野内に入射される被写体側からの光をメカニカルに遮蔽する遮蔽部18aが支持部18により形成される。また、本実施形態においては、側方照明窓14側から側面方向に出射される側方照明光を、支持部18側に出射しない構成にしている。
【0044】
尚、前方視野画像と側方視野画像を1つの撮像素子に結像させる方法として、本実施の形態では2回反射光学系を用いて側方視野画像を取得しているが、1回反射光学系を用いて側方視野画像を取得してもよい。1回反射光学系を用いる場合、必要に応じて画像処理等で側方視野画像の画像の向きを揃えてもよい。
【0045】
円筒部10における側方観察窓13に隣接する基端付近の外周面における複数箇所に側方照明窓14が設けられている。本実施形態においては、周方向における左右両側の2箇所に側方照明窓14が設けられており、支持部18が設けられた下部側を除く周方向の全域に側方照明光を出射する。
【0046】
図4に示すように先端部6の長手方向に沿って配置された光出射部材としてのライトガイド44の先端側は、先端部6の先端面から突出している円筒部10を構成する円筒部材10aの基端付近まで延出される。
【0047】
そして、円筒部10の基端付近(後レンズ群43の外周側)で、その側面近くにライトガイド44の先端面が配置され、このライトガイド44の先端面が導光した光を出射する出射端面となり、先端方向に光を出射する。本実施例においてはこの出射端面は円形であるが、円形に限らず、楕円形や多角形を含む異形形状であってもよい。
【0048】
この出射端面が臨む位置には、その位置を中心として円筒部10の円筒形状の側面外周に沿って帯状に長く延び、光を導光する溝部としての導光溝45を形成する凹部が設けられている。凹部内に、出射端面に対面するように形成される照明反射部としての反射部材46を配置して、この反射部材46の内面に、光を反射する反射部46aを設けた導光溝45が形成される。
【0049】
反射部材46により形成される導光溝45の内面の反射部46aは、図4に示す縦断面においては略半球形状の凹面となっている。また、この反射部46aは、その半球形状の凹面が円筒部10の円周方向に沿って、ライトガイド44の出射端面よりも長く形成されている。
【0050】
そして、この反射部46aは、出射端面から先端部6の先端側に向けて出射される光を、この反射部46aにより反射して側面方向に光の進行方向を変えると共に、円周方向に沿った広範囲の側面方向に導光して側方照明窓14から出射し、側方観察窓13の観察視野側(観察対象側)を照明する。従って、この導光溝45から側面方向に出射される光が側方照明光となる。
なお、反射部46aは、アルミニウム、クロム、ニッケルクロム、銀、金などの高い反射率を有する金属薄膜を反射部材46の内面に設けて形成することができる。
【0051】
このように本実施の形態においては、円筒部10の側面外周に沿って反射部46aが設けられた導光溝45が長く形成されるように、導光溝45の凹部内に反射部材46を配置している。また、反射部材46又は導光溝45における周方向の中央位置付近に光出射部材としてのライトガイド44の出射端面が位置するように配置している。
【0052】
ライトガイド44の出射端面から出射された光を、該出射端面の周囲に反射面を形成するように配置された反射部46aで反射して、導光溝45が設けられた側方照明窓14から側方に照明光を広範囲に出射する。
【0053】
図5は、モニタ35に表示される内視鏡画像の例を示す。モニタ35の表示画面35a上に表示される内視鏡画像である観察画像50は、略矩形の画像であり、2つの部分52と53を有する。中央部の円形の部分52は、前方視野画像を表示する部分であり、中央部の部分52の周囲のC字状の部分53は、側方視野画像を表示する部分である。
【0054】
なお、モニタ35に表示される内視鏡画像の部分52に表示される画像と部分53に表示される画像は、それぞれ、前方視野内の被写体の像と側方視野内の被写体の像と同一は限らない。
【0055】
すなわち、前方視野画像は、略円形状になるようにモニタ35の表示画面35a上に表示され、側方視野画像は、前方視野画像の周囲の少なくとも一部を囲む略円環状になるように表示画面35a上に表示される。よって、モニタ35には、広角の内視鏡画像が表示される。
【0056】
図5に示す内視鏡画像は、撮像素子40(図2)により取得された取得画像から生成される。観察画像50は、先端部6内に設けられた対物光学系により、撮像素子40の撮像面に投影された被写体像を光電変換して、黒く塗りつぶされたマスク領域54を除く、部分52に対応する中央の前方視野の画像の部分と、部分53に対応する側方視野の画像の部分とを合成して生成される。
【0057】
(ビデオプロセッサの構成)
図6は、ビデオプロセッサ32の構成を示すブロック図である。図6では、以下に説明する本実施の形態の機能に関わる構成のみが示されており、画像の記録などの他の機能に関わる構成要素については省略されている。
【0058】
ビデオプロセッサ32は、制御部60と、アナログデジタル変換部(以下、A/D変換部という)61、前処理部62と、調光部63と、拡大縮小部64と、位置ずれ補正部65と、境界補正部66と、合成部67と、画像出力部68と、レジスタ69と、を有している。ビデオプロセッサ32は、後述するように、画像処理を行った画像を生成する機能を有する。
【0059】
また、内視鏡2は、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ70を有している。メモリ70には、後述するずれ量データがビデオプロセッサ32により書き込まれて記憶され、ビデオプロセッサ32により読み出し可能となる。
【0060】
制御部60は、中央処理装置(CPU)、ROM、RAM等を含み、図示しない操作パネルなどからのユーザのコマンド入力等の指示に応じて所定のソフトウエアプログラムを実行し、各種制御信号やデータ信号を生成してあるいは読み出して、ビデオプロセッサ32内の必要な各回路及び各部を制御する。
【0061】
A/D変換部61は、A/D変換回路を含み、内視鏡2の撮像素子40からの撮像信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換する回路である。
【0062】
前処理部62は、内視鏡2の撮像素子40からの撮像信号に対して、色フィルタ変換などの処理を行って、映像信号を出力する回路である。
調光部63は、映像信号に基づき画像の明るさを判定し、光源装置31の調光状態に基づいて、光源装置31へ調光制御信号を出力する回路である。
【0063】
拡大縮小部64は、前処理部62から出力された映像信号の画像を、モニタ35のサイズ及びフォーマットに合わせて拡大あるいは縮小して、拡大あるいは縮小した画像の映像信号を位置ずれ補正部65へ出力する。
【0064】
位置ずれ補正部65は、前方視野画像FVと側方視野画像SVの2つの中心座標を推定し、推定された2つの中心座標のズレ量を算出する処理を実行する。位置ずれ補正部65は、算出したズレ量を、内視鏡2のメモリ70に格納すると共に、レジスタ69にも格納する。
【0065】
位置ずれ補正部65は、入力された前方視野画像FVと側方視野画像SVを含む映像信号を境界補正部66に出力する。
境界補正部66は、レジスタ69に格納されたずれ量データを用いて、入力された映像信号から前方視野画像FVと側方視野画像SV を切り出し、所定の拡大処理を実行する。
【0066】
図7は、位置ずれ補正部65と境界補正部66の構成を示すブロック図である。
【0067】
位置ずれ補正部65は、中心座標推定部71とずれ量算出部72を含む。
中心座標推定部71は、撮像素子40の撮像面40a上における、前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSの位置のズレ量を算出して推定する回路である。
【0068】
図4に示す光学系により撮像面40a上に形成される、前方視野画像部分FVaが円形で、側方視野画像部分SVaが円環形状であるので、中心座標推定部71は、円形の前方視野画像部分FVaの中心CFと、円環形状の側方視野画像部分SVaの中心CSを算出することができる。
【0069】
制御部60は、内視鏡2のメモリ70からデータを読み出して、ずれ量データの有無を判定し、ずれ量データがメモリ70に記憶されていないとき、中心座標推定部71とずれ量算出部72を動作させるように位置ずれ補正部65を制御する。
【0070】
図7に示すように、境界補正部66は、切り出し部73と拡大部74を含む。
切り出し部73は、レジスタ69から読み出したずれ量データに基づいて、入力された映像信号から、前方視野画像部分FVaの前方視野画像FVと側方視野画像部分Svaの側方視野画像SVとを切り出し、拡大部74へ出力する回路である。
拡大部74は、切り出された前方視野画像FVに対して、所定の倍率で拡大処理を行って、合成部67へ出力する。
【0071】
図6に戻り、合成部67は、入力された前方視野画像FVと側方視野画像SVの各中心CF,CVが撮像面40aの中心Cと一致するように、前方視野画像FVと側方視野画像SVを合成して、合成した画像を画像出力部68へ出力する。
なお、合成部67は、マスク処理も実行する。
【0072】
画像出力部68は、合成部67からの前方視野画像FVと側方視野画像SVを含む画像信号を画像処理により生成して、画像信号を表示信号に変換してモニタ35に出力する画像生成部としての回路である。すなわち、画像出力部68は、合成部67から画像信号を入力し、前方視野画像FVと側方視野画像SVに基づく画像信号を表示部であるモニタ35に表示させるための表示信号を生成する。
(作用)
次に、ビデオプロセッサ32における前方視野画像と側方視野画像間の位置ずれの補正処理方法に関する手順の例について説明する。
【0073】
はじめに、前方視野画像と側方視野画像の位置ずれについて説明する。
図8は、中心座標推定部71における、撮像素子40の撮像面40a上に投影された前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSの位置ずれを説明するための図である。
【0074】
撮像素子40の撮像面40a上には、前方観察窓12の前レンズ41を含む前方視野光学系による円形の前方視野画像FVに対応する前方視野画像部分FVaと、側方観察窓13に臨むミラーレンズ15を含む側方視野光学系による円環形状の側方視野画像SVに対応する側方視野画像部分SVaとが形成される。
【0075】
上述したように、対物光学系の各レンズあるいは撮像素子40を固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等により、図8に示すように、円形の前方視野画像部分FVa(点線で示す)の中心CFと円環状の側方視野画像部分SVa(一点鎖線で示す)の中心CSが相対的にずれてしまう場合がある。
【0076】
さらに、前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSが、撮像素子40の撮像面40aの中心Cに対してもずれてしまう場合もある。図8では、前方視野画像部分FVaの中心CFと、側方視野画像部分SVaの中心CSは、撮像面40aの中心Cに対してもずれている。
【0077】
ビデオプロセッサ32の位置ずれ補正部65は、そこで、前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSとの相対的なずれ量、あるいは撮像面40aの中心Cに対する前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSのそれぞれのずれ量を算出する。ここでは、位置ずれ補正部65では、撮像面40aの中心Cに対する前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSのそれぞれのずれ量が算出される。
【0078】
例えば、内視鏡2の製造時に、挿入部4の先端部6により適当な被写体像を撮像することにより、撮像面40a上に、前方視野の被写体像と側方視野の被写体像を投影させて、位置ずれ補正部65を動作させる。前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaの両方を含む画像の映像信号が、中心座標推定部71に入力される。
なお、中心座標推定部71は、ユーザの指示により動作するようにしてもよいし、あるいはメモリ70にずれ量データが格納されていないと判定されたときに自動的に動作するようにしてもよい。
【0079】
中心座標推定部71は、入力された映像信号の画素の輝度値に基づき、前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaとを画像処理により抽出し、抽出された各部分の中心を求める。
【0080】
例えば、中心座標推定部71は、各画素の輝度値の差から、円形の前方視野画像部分FVaに対応する撮像面40a上の画素領域と、円環状の側方視野画像部分SVaに対応する撮像面40a上の画素領域とを抽出することができる。
【0081】
図8において、撮像面40a上における前方視野画像部分FVaの中心CFの座標は、円形の前方視野画像部分FVaを通る適当な2本の直線L1aとL1b(二点鎖線で示す)を仮定し、直線L1aとL1bのそれぞれの円の内側の線分についての垂直二等分線L1avとL1bv(二点鎖線で示す)の交点を算出することにより、求めることができる。
【0082】
同様に、撮像面40a上における側方視野画像部分SVaの中心CSの座標は、円環状の側方視野画像部分SVaを通る適当な2本の直線L2aとL2b(二点鎖線で示す)を仮定し、直線L2aとL2bのそれぞれの側方視野画像部分SVaの外側円の内側の線分についての垂直二等分線L2avとL2bvの交点を算出することにより、得ることができる。
【0083】
撮像面40aの中心Cの座標を(x0,y0)とし、得られた前方視野画像部分FVaの中心CFの座標を(xf1,yf1)とし、得られた側方視野画像部分SVaの中心CSの座標を(xs1,ys1)とする。
【0084】
ずれ量算出部72は、中心座標推定部71において求めた前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSから、ずれ量を算出する。
撮像面40aの中心Cに対する中心CFのx軸方向のずれ量dfxは、式(1)で表わされる。
【0085】
Dfx=(xf1−x0) ・・・(1)
また、撮像面40aの中心Cに対する中心CFのy軸方向のずれ量dfyは、式(2)で表わされる。
【0086】
Dfy=(yf1−x0) ・・・(2)
同様に、撮像面40aの中心Cに対する中心CSのx軸方向のずれ量dsxは、式(3)で表わされる。
【0087】
Dsx=(xs1−x0) ・・・(3)
また、撮像面40aの中心Cに対する中心CSのy軸方向のずれ量dsyは、式(4)で表わされる。
【0088】
Dsy=(ys1−x0) ・・・(4)
以上のように、中心座標推定部71は、前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSを求め、ずれ量算出部72は、中心座標推定部71において求めた前方視野画像部分FVaの中心CFと側方視野画像部分SVaの中心CSの座標から、ずれ量を算出することができる。
【0089】
制御部60は、算出されたズレ量データを、メモリ70に書込、かつレジスタ69に書き込む。
その結果、制御部60は、内視鏡2を製造後あるいは最初の使用時、内視鏡システム1の電源がオンになって中心座標推定部71が動作したことがあるときは、ビデオプロセッサ32は、メモリ70からずれ量データを読み出すことができるので、読み出したずれ量データをレジスタ69に書き込む。すなわち、境界補正部66は、位置関係検出信号が更新されるまで、前方視野画像FVと側方視野画像の配置を、メモリ70に記憶された位置関係検出情報に基づいて変化させた画像信号を生成する。
【0090】
また、内視鏡2を製造後、内視鏡システム1の電源がオンになって中心座標推定部71が動作したことがないときは、制御部60は、内視鏡システム1の電源がオンになったときに、メモリ70からずれ量データを読み出すことができない。そのようなときは、制御部60は、中心座標推定部71とずれ量算出部72を動作させて、上述した式(1)〜(4)の演算を行ってずれ量データDfx,Dfy,Dsx,Dsyを算出し、メモリ70に記憶すると共に、レジスタ69に書き込む。
【0091】
以上のように、ずれ量データDfx,Dfy,Dsx,Dsyは、前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaの位置関係を示す情報である。メモリ70は、位置関係検出情報を記憶する記憶部である。
【0092】
よって、位置ずれ補正部65は、前方の被写体像及び側方の被写体像を撮像する撮像素子40において、前方の被写体像が結像される第1の部分である前方視野画像部分Fvaと、側方の被写体像が結像される第2の部分である側方視野画像部分SVaとの位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部を構成する。
【0093】
ここでは、位置関係は、撮像素子40が取得する画像についての所定位置である撮像面40aの中心Cに対する部分FVaのずれ量と、撮像面40aの中心Cに対する部分SVaのずれ量とにより示される。よって、位置関係検出情報は、これら2つのずれ量を含む。
【0094】
ずれ量算出部72は、上述したずれ量の算出処理を実行すると共に、映像信号を切り出し部73へ出力する。
図9は、切り出し部73、拡大部74及び合成部67における処理を説明するための図である。
【0095】
切り出し部73は、入力された映像信号から、ずれ量データDfx,Dfy,Dsx,Dsyに基づいて、前方視野画像FVと側方視野画像SVを切り出し、さらに、図9に示すように、その前方視野画像FVから所定の半径rpの中央部画像FVcを切り出す。この結果、前方視野画像FVの周辺部分の画像は、観察画像には用いられない。
【0096】
拡大部74は、中央部画像FVcを所定の倍率mrで拡大して、拡大中央部画像FVeを生成する。倍率mrは、拡大された拡大中央部画像FVeの半径が、切り出し部73で切り出された前方視野画像FVの直径よりも大きくなるような値である。
【0097】
合成部67は、拡大中央部画像FVeと側方視野画像SVとを合成して、必要なマスク処理を行って、画像出力部68へ出力する。
その結果、合成されて得られた観察画像50は、側方視野画像SVの内側周縁部が、拡大中央部画像FVeにより覆い隠された画像となり、合成された観察画像50において、前方視野画像FVと側方視野画像SVの境界領域がスムーズな画像領域となる。
【0098】
従って、境界補正部66は、位置関係検出情報に基づき、画像処理により、前方視野画像部分FVaに設けた基準位置である中心CFと、側方視野画像部分SVaに設けた基準位置である中心CSと合わせて、前方視野画像FV及び側方視野画像SVとを配置した画像信号を生成する画像信号生成部を構成する。
【0099】
なお、ここでは、境界補正部66は、前方視野画像部分FVaの被写体像の中心位置と側方視野画像部分SVaの被写体像の中心位置が共に、撮像面40aの中心Cに一致するように、前方視野画像FVと側方視野画像SVの位置を変化させているが、境界補正部66は、前方視野画像部分FVaの被写体像の中心位置の座標と、側方視野画像部分SVaの被写体像の中心位置の座標のずれを補正するように、前方視野画像FV及び側方視野画像SVの少なくとも一方の位置を変化させる処理を行うようにしてもよい。その場合は、境界補正部66は、前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaとの位置関係を示す位置関係検出情報に基づき、前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaの一方の配置を、前方視野画像部分FVaと側方視野画像部分SVaの他方の位置に合わせて変化させる。
【0100】
さらになお、被写体像の中心位置の座標は、前方視野画像FV及び側方視野画像SVが表示される表示部であるモニタ35上の画素の座標で、ずれの量は、座標上における画素数で換算されて表すようにしてもよい。
【0101】
なお、内視鏡2毎に前方視野画像FV及び側方視野画像SVのサイズなどが異なるので、所定の半径rpと所定の倍率mrの情報は、内視鏡2のメモリ70に予め格納されていてもよく、内視鏡2がビデオプロセッサ32に接続されて電源がオンになったときに、制御部60がメモリ70から読み出して、レジスタ69に格納するようにしてもよい。境界補正部66は、レジスタ69から所定の半径rpと所定の倍率mrの情報を読み出して、中央部画像FVcの切り出し及び拡大を行う。その結果、モニタ35に表示される観察画像50において、前方視野画像FVと側方視野画像SVの境界は、目立たなくなる。
なお、合成された前方視野画像FVと側方視野画像SVの境界領域に対して、一般的なスムージング処理を施してもよい。
【0102】
上述したように、内視鏡2がビデオプロセッサ32に接続されて、位置ずれ補正部65の処理が一回実行されると、メモリ70にずれ量データが格納されるので、その後の内視鏡2とビデオプロセッサ32とが接続されて電源がオンになったときは、位置ずれ補正部65の処理は実行されず、制御部60がメモリ70からずれ量データを読み出して、その読み出してレジスタ69に格納されたずれ量データに基づいて、境界補正部66が境界補正を行う。
【0103】
位置ずれ補正部65の処理は、内視鏡2の製造時に実行するようにしてもよいし、製造時に実行されなくても、内視鏡2がはじめてビデオプロセッサ32に接続されたときに実行される。
さらに、位置ずれ補正部65の処理は、内視鏡2の修理時にも実行するようにしてもよい。
【0104】
以上のように、上述した実施の形態によれば、対物光学系のレンズあるいは撮像素子を固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等により、前方視野画像FVと側方視野画像SVの光学系間でずれがあっても、モニタ35に同時に表示された前方視野画像FVと側方視野画像SVにユーザが違和感を感じさせない内視鏡システムを提供することができる。
【0105】
さらに、前方視野画像FVと側方視野画像SVの中心が一致するので、境界補正処理を、精度よく行うことができる。
【0106】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態の内視鏡システム1は、前方視野画像と、前方視野画像を囲むように配置された側方視野画像とを1つの撮像素子で得る内視鏡2を有しているが、第2の実施の形態の内視鏡システム1Aは、前方視野画像と側方視野画像を、別々の撮像素子で得る内視鏡2Aを有している。
【0107】
なお、第2の実施の形態の内視鏡システム1Aの構成は、図1に示す第1の実施の形態で説明した内視鏡システム1と略同じであり、同じ構成要素については、同じ符号を付し、説明は省略する。
【0108】
(システム構成)
図10は、本実施の形態の内視鏡2Aの先端部6の簡略化した模式的斜視図である。図11は、先端部6の内部構成を示す模式的構成図である。図10図11では、処置具開口、洗浄ノズル等の要素は省略されている。
【0109】
図11に示すように、内視鏡2Aの円柱状の先端部6の先端面には、前方視野用の撮像ユニット51Aが設けられている。内視鏡2Aの先端部6の側面には、側方視野用の2つの撮像ユニット51B,51Cが設けられている。3つの撮像ユニット51A、51B、51Cは、それぞれ、撮像素子40A、40B、40Cを有し、各撮像ユニットには、図示しない対物光学系が設けられている。
【0110】
各撮像ユニット51A、51B、51Cは、それぞれ前方観察窓12A、側方観察窓13A、13Bの背面側に配置されている。撮像ユニット51A、51B、51Cは、それぞれ2つの照明窓55A、56A、56Bから出射された照明光により照明された被写体からの反射光を受光して撮像信号を出力する。
【0111】
3つの撮像素子40A、40B、40Cからの3つの撮像信号は、後述するA/D変換部61A(図12)に入力される。
前方観察窓12Aは、挿入部4の先端部6に、挿入部4が挿入される方向に向けて配置されている。側方観察窓13Aと13Bは、挿入部4の側面部に挿入部4の外径方向に向けて、先端部6の周方向に略均等な角度で配置されており、側方観察窓13Aと13Bは、先端部6において互いに反対方向を向くように配置されている。
【0112】
撮像ユニット51A、51B、51Cの撮像素子40A、40B、40Cは、ビデオプロセッサ32A(図12)と電気的に接続され、ビデオプロセッサ32Aにより制御されて、撮像信号をビデオプロセッサ32Aへ出力する。各撮像ユニット51A、51B、51Cは、被写体像を光電変換する撮像部である。
【0113】
すなわち、前方観察窓12Aは、挿入部4に設けられ、第1の方向である前方から第1の被写体像の画像を取得する第1の画像取得部を構成し、側方観察窓13Aと13Bの各々は、挿入部4に設けられ、前方とは異なる第2の方向である側方から第2の被写体像を取得する第2の画像取得部を構成する。言い換えれば、第1の被写体像は、挿入部4の長手方向に略平行な挿入部前方を含む、第1の方向の被写体像であり、第2の被写体像は、挿入部4の長手方向に略直交する挿入部側方を含む、第2の方向の被写体像である。さらに、前方観察窓12Aは、挿入部前方を含む方向の被写体像を取得する前方画像取得部であり、側方観察窓13Aと13Bは、挿入部側方を含む方向の被写体像を取得する側方画像取得部である。
【0114】
撮像ユニット51Aは、前方観察窓12Aからの画像を光電変換する撮像部であり、撮像ユニット51Bと51Cは、それぞれ側方観察窓13Aと13Bからの2つの画像を光電変換する撮像部である。すなわち、撮像ユニット51Aは、前方視野画像を取得するための被写体像を撮像する撮像部であり、撮像ユニット51Bと51Cは、それぞれ側方視野画像を取得するための被写体像を撮像する撮像部であり、前方視野画像の画像信号は、撮像ユニット51Aにおいて得られた画像から生成され、2つの側方視野画像の画像信号は、撮像ユニット51Bと51Cにおいて得られた画像から生成される。
【0115】
各照明窓55A、56A、56Bの後ろ側には、図示しないライトガイドの先端部又は発光ダイオード(LED)等の発光体が先端部6内に配設されている。
【0116】
(ビデオプロセッサの構成)
図12は、本実施の形態に係るビデオプロセッサ32Aの構成を示すブロック図である。なお、図12では、以下に説明する本実施の形態の機能に関わる構成のみが示されており、画像の記録などの他の機能に関わる構成要素については省略されている。また、図12のビデオプロセッサ32Aの構成において、第1の実施の形態のビデオプロセッサ32と同じ構成要素については、同じ符号を付して説明は省略する。
【0117】
図12に示すように、ビデオプロセッサ32Aは、制御部60と、A/D変換部61Aと、位置ずれ補正部65Aと、境界補正部66Aと、合成部67Aと、前処理部62と、調光部63Aと、拡大縮小部64Aと、画像出力部68と、レジスタ69と、を有している。
【0118】
A/D変換部61Aは、3つのA/D変換回路を含む。各A/D変換回路は、内視鏡2Aの各撮像素子40A、40B、40Cからの撮像信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換する回路である。
【0119】
位置ずれ補正部65Aは、図7に示す中心座標推定部71とずれ量算出部72を有し、3つの撮像素子40A、40B、40Cにより得られた3つの画像のそれぞれについて、各画像のズレ量を算出する処理を実行する。位置ずれ補正部65Aは、3つの撮像素子40A、40B、40Cについての算出した3つのずれ量データを、内視鏡2のメモリ70に格納すると共に、レジスタ69にも格納する。
【0120】
位置ずれ補正部65Aは、入力された3つの画像の映像信号を境界補正部66Aに出力する。
境界補正部66Aは、図7に示す切り出し部73と拡大部74を有し、レジスタ69に格納された3つのずれ量データを用いて、入力された各映像信号に対して、画像の切り出し処理と所定の拡大処理を実行する。
【0121】
合成部67Aは、3つの内視鏡画像を、モニタ35の画面上に並べて表示するために合成して、合成した画像を前処理部62へ出力する。
なお、本実施の形態では、モニタ35は1つであるが、前方視野画像と2つの側方視野画像をそれぞれ別々のモニタに表示するようにしてもよく、そのような場合には、合成部67Aは不要である。
【0122】
調光部63Aは、前処理部62から受信した映像信号中の各画像の明るさを判定し、光源装置31の調光状態に基づいて、光源装置31へ調光制御信号を出力する回路である。
【0123】
拡大縮小部64Aは、前処理部62からの映像信号の画像を、モニタ35のサイズ及びフォーマットに合わせて拡大あるいは縮小して、拡大あるいは縮小した画像の映像信号を画像出力部68へ出力する。
【0124】
図13は、内視鏡システム1Aのビデオプロセッサ32Aによる画像処理により、モニタ35に表示される観察画像の一例を示す図である。
図13に示すように、モニタ35の表示画面35a上に表示される内視鏡画像である観察画像50Aは、3つの画像表示部分81、82、83を含む。各画像表示部分81、82、83は、略矩形の画像であり、中央に前方視野画像FVが表示され、右側には、右側の側方視野画像SV1が表示され、左側には、左側の側方視野画像SV2が表示される。すなわち、画像出力部68は、前方視野画像FVに隣り合うように2つの側方視野画像SV1、SV2を表示部であるモニタ35に表示させる。
【0125】
そして、側方視野画像は、複数存在すると共に、ここでは、前方視野画像FVの少なくとも両隣に複数の、ここでは2つの、側方視野画像SV1、SV2が配置されている。
【0126】
前方視野画像FVは、撮像ユニット51Aの撮像素子40A(図11)により取得された画像から生成される。画像表示部分82の画像は、撮像ユニット51Bの撮像素子40B(図11)により取得された画像から生成される。画像表示部分83の画像は、撮像ユニット51Cの撮像素子40C(図11)により取得された画像から生成される。
【0127】
(作用)
次に、ビデオプロセッサ32Aにおける前方視野画像FVと2つの側方視野画像SV1、SV2間の位置ずれの補正処理方法に関する手順の例について説明する。
【0128】
本実施の形態の場合、撮像ユニット51Aが先端部6の前方を撮像するように、2つの撮像ユニット51Bと51Cが互いに逆方向で先端部6の側方を撮像するように、先端部6に配置されている。よって、各撮像ユニット51A、51B、51Cの対物光学系の各レンズあるいは撮像素子40A、40B、40Cを固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等により、3つの撮像素子40A、40B、40Cの各中心軸が、水平及び垂直方向において、所定の光軸に対してずれてしまう場合がある。
【0129】
そこで、本実施の形態では、位置ずれ補正処理を実行する位置ずれ補正部65Aが、画像処理により、3つの画像について所定の位置からのずれ量を算出する。
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、内視鏡2Aの製造時、あるいは内視鏡2Aの最初の使用時に、内視鏡2Aをビデオプロセッサ32Aに接続して電源をオンにしたときに動作するように、位置ずれ補正部65Aは、制御部60により制御される。
【0130】
そのとき、所定のキャップ91を先端部6に被せた状態で、位置ずれ補正処理を実行させる。
図14は、キャップ91の構成を示す斜視図である。
【0131】
キャップ91は、先端部が閉じた円筒形状を有する部材である。キャップ91は、キャップ91の基端側から挿入部4の先端部6を挿入可能な開口部91aを有している。
キャップ91の先端側の内壁面92及び、内周面93上には、所定の参照図形が印刷などにより設けられている。
【0132】
ここでは、キャップ91の先端側の内壁面92に設けられる参照画像は、上下方向と左右方向にそれぞれ伸びる十字線94である。キャップ91の内周面93に設けられる参照画像は、上下方向と左右方向にそれぞれ伸びる格子線95である。
ユーザは、二点鎖線の矢印Aで示すように、開口部91aから先端部6をキャップ91内に挿入し、先端部6にキャップ91を被せてから、位置ずれ補正部65Aを動作させる。
【0133】
なお、各撮像素子40A、40B、40Cがそれぞれキャップ91内の十字線94と格子線95を、先端部6の軸周りに所定の角度で撮像するように、位置合わせのための基準位置マーク(図示せず)等が、キャップ91と先端部6には設けられている。
【0134】
すなわち、キャップ91と先端部6における基準位置マーク(図示せず)等同士を一致させて先端部6にキャップ91を被せた状態では、撮像素子40Aがキャップ91内の十字線94を撮像したときに得られる画像において、撮像素子40Aの縦方向と、十字線94の縦線の方向と一致し、撮像素子40Aの横方向と、十字線94の横線の方向とが一致する。
【0135】
キャップ91と先端部6における基準位置マーク(図示せず)等同士を一致させて先端部6にキャップ91を被せた状態では、撮像素子40Aがキャップ91内の十字線94を撮像したときに得られる画像において、撮像素子40Bと40Cの各縦方向と、格子線95の縦線の方向とが一致する。
【0136】
図15は、各撮像素子40A、40B、40Cの撮像面に形成された被写体像のずれを説明するための図である。図15において、領域40AI、40BI、40CIは、それぞれ撮像素子40A、40B、40Cの撮像面において得られる画像の範囲を示す。
【0137】
各撮像素子により得られる画像は、各撮像素子の撮像信号中の所定の大きさの領域が切り出される。切り出しの基準点は、各画像の中心点(以下、画像中心点という)である。
【0138】
撮像素子40Aにより得られる領域40AIから、画像中心点CCを基準として所定の領域が切り出され、撮像素子40Bにより得られる領域40BIから、画像中心点CRを基準として所定の領域が切り出され、撮像素子40Cにより得られる領域40CIから、画像中心点CLを基準として所定の領域が切り出される。
【0139】
位置ずれ補正処理時、撮像素子40Aにより得られる領域40AI中には、キャップ91の先端側の内壁面92に設けられた十字線94の像が含まれる。撮像素子40Bと40Cにより得られる領域40BIと40CI中には、キャップ91の内周面93に設けられた格子線95の像が含まれる。
【0140】
各撮像ユニットの対物光学系の各レンズあるいは撮像素子を固定する枠の加工精度が完全でかつ組み立て時のばらつき等がなければ、領域40AIにおいて、画像中心点CCは、十字線94の中心点としての交点CPと一致する。さらに、撮像素子40Bと40Cにおける画像中心点CRとCLは、それぞれ格子線95の中心点GRとGLと一致する。
【0141】
しかし、図15に示すように、撮像素子40Aによる得られる領域40AIでは、十字線94の縦線は、Y方向に平行に、十字線94の横線は、X方向に平行になるが、各撮像ユニットの対物光学系の各レンズあるいは撮像素子を固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等があると、撮像素子40Aの中心軸を通る画像中心点CCと十字線94の中心点としての交点CPが一致していない。
【0142】
撮像素子40Bによる得られる領域40BIにおいても、同様の理由で、格子線95の縦線は、Y方向に平行に、格子線95の横線は、X方向に平行になるが、撮像素子40Bの中心軸を通る画像中心点CRと格子線95の中心点GRが一致していない。撮像素子40Cによる得られる画像においても、同様の理由で、格子線95の縦線は、Y方向に平行に、格子線95の横線は、X方向に平行になるが、撮像素子40Cの中心軸を通る画像中心点CLと格子線95の中心点GLが一致していない。
【0143】
ここでは、ずれ量を求めるために、十字線94の交点CP、格子線95の2本の縦線間における横線の中央の点GR.GLと、各画像中心点CC,CR,CLとを用いているが、他の位置の点を用いてもよい。
【0144】
位置ずれ補正部65Aの中心座標推定部71は、各画像における参照図形(十字線94、格子線95)の中心点(以下、参照図形中心点という)を算出して推定する。具体的には、中心座標推定部71は、画像処理により、領域40AIにおいては、十字線94の交点CPの撮像面40a上の位置を、領域40BIと画像CIにおいては、それぞれ格子線95の中心点GRとGLの撮像面40a上の位置を求める。
【0145】
ずれ量算出部72は、各画像の画像中心点に対する参照図形中心点のずれ量を算出する。制御部60は、算出されたずれ量データを、内視鏡2Aのメモリ70に記憶すると共に、レジスタ69に格納する。
【0146】
各画像の画像中心点に対する参照図形中心点のずれ量データは、領域40AI、40BI、40CIの位置関係を示す情報である。具体的には、位置ずれ補正部65Aは、領域40AIについて、撮像素子40Aの撮像面40a上における、画像中心点CCと十字線94の参照図形中心点CPとの、X軸方向におけるずれ量D1xと、Y軸方向におけるずれ量D1yと算出する。
【0147】
同様に、位置ずれ補正部65Aは、領域40BIについて、撮像素子40Bの撮像面40a上における、画像中心点CRと格子線95の参照図形中心点GRとの、X軸方向におけるずれ量D2xと、Y軸方向におけるずれ量D2yと算出する。
【0148】
同様に、位置ずれ補正部65Aは、領域40CIについて、撮像素子40Cの撮像面40a上における、画像中心点CLと格子線95の参照図形中心点GLとの、X軸方向におけるずれ量D3xと、Y軸方向におけるずれ量D3yと算出する。
【0149】
よって、位置ずれ補正部65は、前方の被写体像及び2つの側方の被写体像を撮像する撮像素子40A、40B、40Cにおいて、前方の被写体像が結像される領域40AIと、第1の側方の被写体像が結像される領域40BIと、第2の側方の被写体像が結像される領域40CIとの位置関係を検出して位置関係検出情報を生成する被写体像位置検出部を構成する。
【0150】
境界補正部66Aは、レジスタ69に格納されている3つのずれ量データに基づいて、各画像から、3つの参照図形中心点CP、GR、GLが一致するように、画像を切り出し、各画像が同じ大きさになるように拡大処理を実行する。
【0151】
境界補正部66Aの切り出し部73は、例えば、領域40AIについては、参照図形中心点CPを画像切り出しの中心として、領域40BIについては、参照図形中心点CRを画像切り出しの中心として、領域40CIについては、参照図形中心点CLを画像切り出しの中心として、各画像を切り出す。
その結果、図15においては、領域40AI、BI、CIから、それぞれ、二点鎖線で示す領域が、切り出される。
【0152】
境界補正部66Aの拡大部74は、切り出し部73において切り出された3つの画像のサイズが異なる場合もあることから、3つの画像のサイズが同じになるように、各画像に対して、拡大処理あるいは縮小処理を実行して、合成部67Aに出力する。
【0153】
すなわち、境界補正部66Aは、位置関係検出情報に基づき、領域40AIに設けた基準位置である参照図形中心点CPと、領域40BI、40CIに設けた第2の基準位置である参照図形中心点GR、GLと合わせて前方視野画像FVと2つの側方視野画像SV1,SV2とを配置した画像信号を生成する画像信号生成部を構成する。
【0154】
言い換えれば、境界補正部66Aは、領域40AIに設けた基準位置である参照図形中心点CPの座標と、少なくとも2つの領域40BI、40CIにそれぞれ設けた参照図形中心点GR、GLの座標とをそれぞれ合わせるように、前方視野画像FVと2つの側方視野画像SV1,SV2の配置を変化させた画像信号を生成する。
【0155】
なお、ここでは、境界補正部66Aは、各領域40AI、40BI、40CIの参照図形中心点CP、GR、GLが一致するように、前方視野画像FVと側方視野画像SV1,SV2の切り出し位置を変化させているが、境界補正部66Aは、各領域40AI、40BI、40CI内において、前方視野画像部分FVa中の参照図形の所定の位置の座標から垂直又は水平方向に延出した直線と、側方視野画像部分SVa中の参照図形の所定の位置の座標から垂直又は水平方向に延出した直線とのずれを補正するように、前方視野画像FV及び側方視野画像SVの少なくとも一方の位置を変化させる処理を行うようにしてもよい。その場合は、境界補正部66Aは、各領域40AI、40BI、40CIの位置関係を示す位置関係検出情報に基づき、3つの領域のうちの2つの配置を、他の1つの領域の位置に合わせて変化させる。
【0156】
さらになお、各参照画像の座標は、前方視野画像FV及び側方視野画像SV1,SV2が表示される表示部であるモニタ35上の画素の座標で、ずれの量は、座標上における画素数で換算されて表すようにしてもよい。
【0157】
図16は、本実施の形態による位置ずれ補正を行った場合の例を説明するための図である。
図16において、上段は、3つの各領域40AI、40BI、40CIを示し、各領域40AI、40BI、40CIにおける画像中心点が、加工精度または組み立て時のばらつき等が無い場合の所定の位置に対してずれている。
【0158】
しかし、上述したような位置ずれ補正処理を行うことにより、切り出し領域が変更されて、下段のように、3つの内視鏡画像がモニタ35上に表示され、ユーザは違和感のない3つの内視鏡画像を見ることができる。
【0159】
なお、上述した例では、横方向の位置ずれの調整は、各領域40AI、40BI、40CI内において、画像中心点に対する参照図形中心点のずれ量に基づいて、行われているが、横方向の位置ずれの調整は、表示画面35a上における、画像表示部分81中の参照図形中心点CPから画像表示部分82中の参照図形中心点CRまでの距離と、画像表示部分81中の参照図形中心点CPから画像表示部分83中の参照図形中心点CLまでの距離が等しくなるように、行われるようにしてもよい。
【0160】
本実施の形態においても、制御部60は、内視鏡2のメモリ70からデータを読み出して、ずれ量データの有無を判定し、ずれ量データがメモリ70に記憶されていないとき、中心座標推定部71とずれ量算出部72を動作させて位置ずれ補正処理を実行するように制御する。
なお、本実施の形態においても、位置ずれ補正部65の処理は、内視鏡2の修理時にも実行するようにしてもよい。
【0161】
さらになお、上述した第2の実施の形態において、側方を照明及び観察する機能を実現する機構は、前方を照明及び観察する機能を実現する機構と共に、挿入部4に内蔵されているが、側方を照明及び観察する機能を実現する機構は、挿入部4に対して着脱可能な別体にしてもよい。
【0162】
図17は、第2の実施の形態の変形例に関わる、側方観察用のユニットが取り付けられた挿入部4の先端部6aの斜視図である。挿入部4の先端部6aは、前方視野用ユニット600を有している。側方視野用ユニット500は、前方視野用ユニット600に対してクリップ部501により着脱自在な構成を有している。
【0163】
前方視野用ユニット600は、前方視野画像FVを取得するための前方観察窓12Aと、前方を照明するための照明窓601を有している。側方視野用ユニット500は、左右方向の画像を取得するための2つの側方観察窓13A、13Bと、左右方向を照明するための2つの照明窓502を有している。
ビデオプロセッサ32A等は、側方視野用ユニット500の各照明窓502の点灯と消灯を、前方視野のフレームレートに合わせて行うようにして、上述した実施の形態に示したような観察画像の取得と表示を行うことができる。
以上のように、上述した実施の形態によれば、対物光学系のレンズあるいは撮像素子を固定する枠の加工精度または組み立て時のばらつき等により、前方視野画像FVと側方視野画像SVの光学系間でずれがあっても、モニタ35に同時に表示された前方視野画像FVと2つの側方視野画像SV1,SV2にユーザが違和感を感じさせない内視鏡システム及び画像処理方法を提供することができる。
【0164】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【0165】
本出願は、2014年12月22日に日本国に出願された特願2014−258920号を優先権主張の基礎として出願するものであり、上記の開示内容は、本願明細書、請求の範囲に引用されるものとする。
【要約】
内視鏡システム1は、挿入部4と、前方視野画像FVを取得する前方観察窓12と、側方視野画像SVを取得する側方観察窓13と、撮像素子40と、ビデオプロセッサ32を有する。ビデオプロセッサ32の位置ずれ補正部65は、撮像素子40において前方視野画像FVが結像される部分FVaと、側方視野画像SVが結像される部分SVaとの位置関係を検出してずれ量データを生成し、境界補正部66は、ずれ量データに基づき、部分FVaに設けた画像中心点CFと部分SVaに設けた画像中心点CSと合わせて前方視野画像FV及び側方視野画像SVとを配置した画像信号を生成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17