(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977918
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】打錠杵とこれを用いた打錠成形機
(51)【国際特許分類】
B30B 11/08 20060101AFI20160817BHJP
A61J 3/10 20060101ALI20160817BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
B30B11/08 D
A61J3/10 B
C22C19/05 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-284645(P2009-284645)
(22)【出願日】2009年12月16日
(65)【公開番号】特開2011-125876(P2011-125876A)
(43)【公開日】2011年6月30日
【審査請求日】2012年11月30日
【審判番号】不服2015-5996(P2015-5996/J1)
【審判請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】599163849
【氏名又は名称】株式会社 ヤマシタワークス
(73)【特許権者】
【識別番号】509205674
【氏名又は名称】有限会社チタン
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(72)【発明者】
【氏名】山下 健治
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹也
(72)【発明者】
【氏名】浜田 賢治
【合議体】
【審判長】
平岩 正一
【審判官】
渡邊 真
【審判官】
栗田 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−82687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/02
B30B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具鋼からなる胴部材に、先端側に径小の圧縮ピン部を備えた析出硬化合金からなる杵先部材が同心状に連結一体化され、
前記胴部材は、丸軸状の軸本体部の一端側にヘッド部を有すると共に、該軸本体部の他端側の端面の中央部に開口した杵先嵌合孔を備え、軸本体部の径に対する該杵先嵌合孔の内径が40〜60%に設定され、
前記杵先部材は、基端側に、胴部材の前記杵先嵌合孔に圧入させる嵌入軸部と、該胴部材の軸本体部と略同径で当該軸本体部の端面の略全体に接当する環状当接部とを有すると共に、中間に前記圧縮ピン部側へ向けて窄まる縮径部を有し、圧入前の嵌入軸部が前記杵先嵌合孔に対して0.1〜0.3%径大に設定され、
前記杵先部材の析出硬化合金が、重量%で、Cr:30〜45%とAl:1.5〜5.0%を含有し、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cu:4.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下であって、残余がNi及び不可避不純物からなる組成のニッケル基合金を析出硬化処理したものである打錠杵。
【請求項2】
前記胴部材の工具鋼がJIS記号SKD11系のダイス鋼である請求項1に記載の打錠杵。
【請求項3】
回転テーブルの周方向に沿って配列した各臼の上下方向に沿う成形孔に、定位置で粉末原料を充填し、その回転方向下流側で各臼の上下に配置した上杵及び下杵によって該成形孔内の粉末原料を上下から加圧して錠剤に成形し、この錠剤を更に回転方向下流側で下杵の突き上げによって成形孔から排出するように構成され、その上杵及び下杵が前記請求項1又は2に記載の打錠杵からなることを特徴とする打錠成形機。
【請求項4】
前記成形時の打錠圧が500kg以下である請求項3に記載の打錠成形機。
【請求項5】
前記錠剤が口腔内崩壊錠である請求項3又は4に記載の打錠成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠成形における成形金型である臼の成形孔内に充填した粉末原料を圧縮して医薬品や化学品等の錠剤を成形するのに使用する打錠杵と、この打錠杵を用いた回転テーブル式の打錠成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、回転テーブル式の打錠成形機は、
図7の円周方向断面展開図及び
図8の縦断面図に示すように、回転テーブル1の周方向に沿って一定間隔置きに、上下方向の成形孔4aを備えた成形金型である臼4─が固定的に保持され、また各臼4に対応して上下に対向配置して上杵2及び下杵3が上下方向摺動自在に保持されると共に、該回転テーブル1の回転に伴い、上杵2及び下杵3が各ヘッド部2a,3aに嵌合した上下のガイドレール5A,5Bに規制されて上下変位するように構成されている。そして、回転テーブル1の1回転の行程中には、回転方向上流側から順次、各臼4の成形孔4aに粉末原料Pを充填する粉末充填部S1、上杵2及び下杵3を予圧ロール6A,6B及び本圧ロール7A,7Bで押圧し、成形孔4a内の粉末原料Pを上下から二段階に圧縮して錠剤Tに成形する圧縮成形部S2、成形された錠剤Tを下杵3の突き上げによって成形孔4aから排出する錠剤取出部S3が定位置に構成されている。
【0003】
従来、このような打錠成形機に用いる上杵及び下杵(以下、総称する場合には打錠杵という)としては、粉末圧縮時のロール加圧に耐える機械的強度を確保するために、全体を工具鋼によって製作すると共に、粉末原料との接触による腐食を防止するために、全体又は杵先側の表面にクロムメッキや各種コーティング等による表面処理を施したものが汎用されていた。しかるに、これらの表面処理では、腐食を確実には防止できず、不完全な下地処理に起因した処理膜の剥がれ、表面処理の不均一さによるピンホールやひび割れ等を生じて耐食性が低下し易い上、剥離した処理膜成分が錠剤に混入する懸念もあった。また、特に近年では、口腔内崩壊錠等として酸性の強い医薬品錠剤の需要が増えており、その打錠成形に用いる打錠杵には従来の汎用品では対処できない高度な耐食性が要求されている。
【0004】
そこで、打錠杵等の圧縮成形用金型として、重量%で,Co:36〜53%、W:10〜20%、C:2〜3%を含有する成分に、TaとNbの少なくとも一方を0.2〜5%加えた特殊な合金の焼結体を用いることが提案されている(特許文献1)。また、打錠杵の製造方法として、SKD11素材を切削により荒加工し、焼入れ後に胴部及び先端部の研磨、放電加工による先端R部の形成、鏡面加工を行い、更に表面にPVD処理又は窒化処理を施すことも提案されている(特許文献2)。更に、同様の打錠杵等の粉末成形用金型として、重量%で,Cr:30〜45%、Al:1.5〜5.0%を含有し、C,Si,Mn,Cu,P,Sがそれぞれ微量の特定値以下であるニッケル基合金を用いることも提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−158571号公報
【特許文献2】特開2001−1078号公報
【特許文献3】特開2007−289993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記提案に係る特殊な合金の焼結体を用いる圧縮成形用金型では、機械的性質及び耐食性に優れ、打錠の繰り返しで温度が上昇しても寸法変化は小さいという利点はあるが、材料が高価である上に加工性に劣るという難点があった。また、前記提案に係るSKD11素材を用いて表面にPVD処理又は窒化処理を施した打錠杵では、耐食性が充分とは言えず、且つ表面処理コストが高くつくという問題があった。一方、上記後者の提案に係る粉末成形用金型では、ニッケル基合金を析出硬化合金とすることで高い耐食性が得られると共に成形物の離型性もよくなるが、耐摩耗性が不充分であるため、特に打錠杵の場合には、回転移動に伴ってガイドレールに摺接して且つ予圧ロール及び本圧ロールに強圧されるヘッド部の摩耗が早く進行し、早期の交換を余儀なくされて打錠成形機の稼働コストが嵩むという難点があった。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑み、成形材料と接触する杵先部が高い耐食性を備えて且つ成形物の離型性にも優れ、しかもヘッド部を含む胴部側が高い耐摩耗性及び大きな機械的強度を備え、もって卓越した耐久性を発揮できる打錠杵と、これを用いた打錠成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明に係る打錠杵(上杵2,下杵3)は、工具鋼からなる胴部材21,31に、先端側に径小の圧縮ピン部2b,3bを備えた析出硬化合金からなる杵先部材22,32が同心状に連結一体化され、胴部材21,31は、丸軸状の軸本体部20,30の一端側にヘッド部2a,3aを有すると共に、該軸本体部20,30の他端側の端面20a,30a
の中央部に開口した杵先嵌合孔21a,31aを備え、軸本体部20,30の径に対する該杵先嵌合孔21a,31aの内径が40〜60%に設定され、杵先部材22,32は、基端側に、胴部材21,31の杵先嵌合孔21a,31aに圧入させる嵌入軸部22a,32aと、該胴部材21,31の軸本体部20,30と略同径で当該軸本体部20,30の端面20a,30aの略全体に接当する環状当接部22b,32bとを有すると共に、中間に圧縮ピン部2b,3b側へ向けて窄まる縮径部22c,32cを有し、圧入前の嵌入軸部22a,32aが杵先嵌合孔21a,31aに対して0.1〜0.3%径大に設定され、
杵先部材22,32の析出硬化合金が、重量%で、Cr:30〜45%とAl:1.5〜5.0%を含有し、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cu:4.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下であって、残余がNi及び不可避不純物からなる組成のニッケル基合金を析出硬化処理したものであるものとしている。
【0009】
【0011】
請求項
2の発明は、上記請求項
1の打錠杵において、胴部材21,31の工具鋼がJIS記号SKD11系のダイス鋼である構成としている。
【0012】
請求項
3の発明に係る打錠成形機は、回転テーブル1の周方向に沿って配列した各臼4の上下方向に沿う成形孔4aに、定位置で粉末原料Pを充填し、その回転方向下流側で各臼4の上下に配置した上杵2及び下杵3によって該成形孔4a内の粉末原料Pを上下から加圧して錠剤Tに成形し、この錠剤Tを更に回転方向下流側で下杵3の突き上げによって成形孔4aから排出するように構成され、その上杵2及び下杵3が請求項
1又は2に記載の打錠杵からなることを特徴としている。
【0013】
請求項
4の発明は、上記請求項
3の打錠成形機において、成形時の打錠圧が500kg以下である構成としている。
【0014】
請求項
5の発明は、上記請求項
3又は4の打錠成形機において、錠剤Tが口腔内崩壊錠である構成としている。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず、請求項1の発明に係る打錠杵(上杵2,下杵3)では、成形材料と接触する杵先側(杵先部材22,32)が
特定組成の析出硬化合金にて形成され、その表面が該析出硬化合金にて構成されていることから、メッキやコーティングのような表面処理膜の剥離による錠剤Tへの混入の問題がないと共に、靱性が高いので欠けを生じることもない上、該析出硬化合金が非常に優れた耐食性を具備し、強酸性の薬剤成分に接触しても腐食せず、また析出硬化合金の組織が微細であるため、研磨した表面が滑らかで成形物に対して良好な離型性を示す。一方、該打錠杵の胴部側(胴部材21,31)は、高い耐摩耗性及び大きな機械的強度を備える工具鋼にて形成されているから、ガイドレール5A,5Bと摺接するヘッド部2a,3aの摩耗が少なく、且つ粉末圧縮時のロール加圧による繰り返しの負荷に充分に耐えることができる。従って、打錠杵全体として卓越した耐久性を発揮する。また、圧入前の杵先部材22,32の嵌入軸部22a,32aは胴部材21,31の杵先嵌合孔21a,31aに対して特定範囲の径大に設定するが、胴部材21,31が高剛性であっても、杵先部材22,32は靱性に富むため、両者の圧入による連結を無理なく行える。
【0016】
しかも、
胴部材21,31の杵先嵌合孔21a,31aは丸軸状の軸本体部20,30における端面20a,30aの中央部に開口し、その内径が該軸本体部20,30の径に対して特定範囲に設定されており、該軸本体部20,30の端面20a,30aの略全体に
、杵先部材22,32の略同径の環状当接部22b,32bが面接触するから、杵先部材22,32と胴部材21,31の圧入連結部が揺るぎなく高剛性になる。従って、杵先部材22,32の先端側の切削・研削加工やピン端面の放電加工を胴部材21,31との圧入連結後に行うようにすれば、これら加工時に胴部側で把持できるので加工容易になると共に、高い寸法精度を達成できる。
【0018】
請求項
2の発明によれば、胴部材21,31の工具鋼がJIS記号SKD11系のダイス鋼であるから、胴部側の耐摩耗性及び機械的強度がより優れたものになる。
【0019】
請求項
3の発明によれば、回転テーブル式の打錠成形機において、その上杵2及び下杵3として上記の工具鋼からなる胴部材21,31の先端部に析出硬化合金からなる杵先部材22,32を圧入一体化した打錠杵を用いることから、これら上杵2及び下杵3が耐久性に優れて長期にわたって継続使用でき、それだけ稼働コストが低減される上、成形された錠剤Tに打錠杵の構成成分が混入する懸念がなく、また錠剤Tは離型性がよいために形崩れしにくく、もって高品位の錠剤Tを安定的に得ることができる。
【0020】
請求項
4の発明によれば、上記打錠成形機の成形時の打錠圧が500kg以下であるから、上杵2及び下杵3に用いる打錠杵の杵先部材22,32が析出硬化合金であっても割れや欠けを生じる懸念がなく、これら上杵2及び下杵3を長期にわたって継続使用できるという利点がある。
【0021】
請求項
5の発明によれば、打錠成形の対象が一般的に酸性の強い口腔内崩壊錠であるにもかかわらず、上杵2及び下杵3の杵先側が優れた耐食性を備えるから、これら上杵2及び下杵3を長期にわたって継続使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る上杵用の打錠杵を示す側面図である。
【
図3】同打錠杵の杵先部材を示し、(A)は仕上げ加工前の側面図、(A)は仕上げ加工後の側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る下杵用の打錠杵を示す側面図である。
【
図6】同打錠杵の杵先部材を示し、(A)は仕上げ加工前の側面図、(A)は仕上げ加工後の側面図である。
【
図7】回転テーブル式打錠成形機の一例を模式的に示す周方向断面展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係る打錠杵及び打錠成形機の一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1で示す上杵2用の打錠杵は、工具鋼からなる略丸軸状の胴部材21と、析出硬化合金からなる杵先部材22とが同心状に連結一体化されてなる。その胴部材21は、
図2でも示すように、
丸軸状の軸本体部20の一端側に径大で頂面が中央の高い凸曲面をなすヘッド部2aを有すると共に、
該軸本体部20の他端側には端面
20aの中央部に同心の円形に開口した杵先嵌合孔21aが形成されており、ヘッド部2aの根元側がやや径小のネック部21bになっている。
【0025】
また、杵先部材22は、
図3(B)でも示すように、先端側に上杵2としての
径小で短い丸軸状の圧縮ピン部2bを有し、基端側には胴部材21の杵先嵌合孔21aに圧入する断面円形の嵌入軸部22aが突設されると共に、該嵌入軸部22aの根元にフランジ状の環状当接部22bが形成され、軸方向中間部にベローズ装着用環状溝2c
と該環状溝2c側から圧縮ピン部2b側へ向けて窄まる縮径部22cを備えている。なお、圧縮ピン部2bは頂端が凹面状をなし、その表面に錠剤に対する刻印用の記号や文字等が凸パターン(図示省略)で形成され
ている。
【0026】
しかして、杵先部材22は、
図3(A)で示すように先端側が未仕上げの単純な太径円筒部22dの状態で、その嵌入軸部22aを胴部材21の杵先嵌合孔21aに圧入することにより、該胴部材21に連結一体化したのち、太径円筒部22dを切削及び研削加工して圧縮ピン部2b及び
縮径部22cを形成し、次いで該圧縮ピン部2bの頂端を放電加工で凹面状にすると共に記号や文字等の凸パターンを形成し、もって最終形態に仕上げるようにしている。その仕上げ後の杵先部材22は、表面処理をしていないため、素地の析出硬化合金が表面に露呈している。
【0027】
一方、
図4で示す下杵3用の打錠杵も、前述した上杵2用と同様に、工具鋼からなる略丸軸状の胴部材31と、析出硬化合金からなる杵先部材32とが同心状に連結一体化されてなる。その胴部材31は、
図5でも示すように、上杵2用の場合と同じく、
丸軸状の軸本体部30の一端側に径大のヘッド部3a、他端側
の端面30aに杵先嵌合孔31aを有しており、ヘッド部3aの根元側がやや径小のネック部21bになっている。また、杵先部材32は、
図6(B)でも示すように、先端側に下杵3としての
径小で長い丸軸状の圧縮ピン部3bを有し、基端側には胴部材31の杵先嵌合孔31aに圧入する断面円形の嵌入軸部32aが突設されると共に、該嵌入軸部32aの根元にフランジ状の環状当接部32bが形成され
、中間が該環状当接部32bから圧縮ピン部3b側へ向けて窄まる縮径部32cとなっている。なお、圧縮ピン部3bの頂部3cはやや径大に形成され、その凹面状をなす頂面に上杵2用と同様の記号や文字等が凸パターン(図示省略)で形成され
ている。
【0028】
そして、この杵先部材32においても、上杵2用の場合と同様に、
図6(A)で示すように先端側が未仕上げの単純な太径円筒部
32dの状態で、その嵌入軸部32aを胴部材31の杵先嵌合孔31aに圧入して該胴部材21に連結一体化したのち、太径円筒部32cを切削及び研削加工して圧縮ピン部3b及び太径の頂部3cを形成し、次いで該圧縮ピン部3bの頂端を放電加工で凹面状にして記号や文字等の凸パターンを形成して仕上げるが、その仕上げ後の表面には素地の析出硬化合金が露呈している。
【0029】
上述のように胴部材21,31の杵先嵌合孔21a,31aに杵先部材22,32の嵌入軸部22a,32aを圧入して連結一体化するには、当然に圧入前の杵先部材22,32の嵌入軸部22a,32aの外径を、胴部材21,31の杵先嵌合孔21a,31aの内径よりも大きく設定するが、杵先嵌合孔21a,31aに対して嵌入軸部22a,32aを0.1〜0.3%径大にするのがよい。すなわち、この径差が0.1%未満では圧入部が抜け易くなり、逆に0.3%より大きくなると圧入時に胴部材21,31側に亀裂を生じ易くなる。なお、胴部材21,31の軸本体部
20,30の径に対する杵先嵌合孔21a,31aの内径は、40〜60%
の範囲とする。
【0030】
上杵2用及び下杵3用の杵先部材22,32に用いる析出硬化合金は、炭素を殆ど含まない合金を析出硬化処理、つまり固溶化熱処理(溶体化処理とも称され、合金の溶融開始温度直下の高温で保持すること)したのちに時効処理(時効硬化を人工的に温度を上げた状態で行うこと)したものである。しかして、通常の炭素を含む鉄鋼材料では、焼入れによる相変態に伴ってマルテンサイトの硬い基質が形成され、焼き戻しによって合金元素が炭素と結合して炭化物粒子を形成して硬度を増すことから、炭素含有量が多いほど、また炭化物形成元素が多いほど高強度になる。これに対し、析出硬化合金では、元の炭素を殆ど含まない合金は柔らかく展延性に富む反面で強度が低く、焼き戻しても炭化物の析出硬化を生じないが、炭化物の代わりに金属間化合物の微小な析出物粒子を微細なマトリックス組織中に分散析出させることで、高靱性を保持しながら高硬度化するという特徴がある。また、析出硬化合金の場合、微細な組織であることに起因して、耐酸性等の耐食性が高いことに加え、研磨後の表面粗さが小さいため、打錠杵の杵先側に用いれば滑らかな表面によって圧縮成形物(錠剤)に対する優れた離型性が得られる。
【0031】
このような析出硬化合金としては、例えば数十重量%のCrと少量のAlを含むニッケル基合金、SUS630やSUS631の如きステンレス鋼の600番台、マルエージング鋼、ベリリウム鋼、シリコロイA2やシリコロイXVIの如きシリコロイ鋼、アルミニウム合金の2000番台,6000番台,7000番台及びアルミニウム合金鋳物等を析出硬化処理(固溶化熱処理+時効処理)したものが代表的なものとして挙げられる。しかして、本発明の打錠杵の杵先部材22,32には、これら析出硬化合金のいずれをも使用できるが、これらの中でも上記のニッケル基合金の析出硬化処理物が特に耐食性に優れて高硬度である点から推奨される。
【0032】
上記のニッケル基合金の析出硬化処理物の好適な具体例としては、重量%で、Cr:30〜45%とAl:1.5〜5.0%を含有し、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cu:4.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下であって、残余がNi及び不可避不純物からなる組成のニッケル基合金を析出硬化処理したものが挙げられる。この場合の析出硬化処理は、例えば固溶化熱処理として合金インゴットを1150℃程度で1時間程度保持して急冷し、冷間加工で鍛造・圧延して上杵及び下杵の胴部材及び杵先部材の原形の丸棒形態としたのち、時効処理として575℃程度で24時間程度保持する。なお、このニッケル基合金の析出硬化処理については既述の特許文献3に具体的に開示されている。
【0033】
一方、上杵2用及び下杵3用の胴部材21,31に用いる工具鋼としては、従来より打錠杵に採用されている種々の工具鋼をいずれも支障なく使用できるが、特にJIS記号SKD11系のダイス鋼が耐摩耗性に優れて高硬度である点から好適である。このようなSKD11系のダイス鋼の市販品としては、例えば大同特殊鋼社製の商品名DC11,DC53、日立金属社製の商品名SLD,SLD−MAGIC,SLD10,SLD8、日本高周波鋼業社製の商品名KD11,KD11S、山陽特殊鋼社製の商品名QC11、QCM7、QCM8、愛知製鋼社製の商品名SX等が挙げられ、これらの中でも大同特殊鋼社製の商品名DC53(C:1重量%、Cr;8重量%の汎用冷間ダイス鋼)が最も好適なものとして推奨される。
【0034】
上記構成の上杵2用及び下杵3用の打錠杵は、例えば既述した
図7及び
図8で示すような回転テーブル式の打錠成形機の上杵2及び下杵3として使用される。この打錠成形機では、回転テーブル1の周方向に沿って一定間隔置きに、上下方向の成形孔4aを備えた成形金型である臼4─がテーブル中段部1cに固定的に保持されると共に、各臼4に対応して、テーブル上下段部1a,1bの垂直孔10,11(
図8参照、
図7では図示省略)にそれぞれ上杵2及び下杵3が上下方向摺動自在に保持されている。また、回転テーブル1の周辺部の上下には、上杵2及び下杵3の各ヘッド部2a,3aに嵌合摺接して両杵2,3の上下変位を司る上下のガイドレール5A,5Bが配設されている。そして、回転テーブル1の1回転の行程中には、回転方向上流側から順次、粉末充填部S1、圧縮成形部S2、錠剤取出部S3が定位置に構成されている。
【0035】
この打錠成形機においては、回転テーブル1が連続的に定速回転する過程で、自動的に粉末原料Pから錠剤Tが連続的に製出して取り出される。まず、粉末充填部S1においては、下側ガイドレール5Bの下降誘導部51によって下杵3が手前の圧縮成形部S2での上限位置から下降し、これに伴って臼4の成形孔4aに上端まで嵌入していた圧縮ピン部3bが下がることにより、原料供給部8の粉末原料Pが成形孔4aに充填される。次に圧縮成形部S2へ移動する過程で、上側ガイドレール5Aの下降誘導部51によって上杵2が下降し、その圧縮ピン部2bが成形孔4aに浅く嵌入する。そして、圧縮成形部S2では、上杵2及び下杵3は、まず上下の予圧ロール6A,6Bによってヘッド部2a,3aを押圧され、続いて本圧ロール7A,7Bによって更にヘッド部2a,3aを強圧されて互いに接近するように変位する。この接近変位に伴い、成形孔4a内の粉末原料Pは、上下の圧縮ピン部2b,3b間で圧縮され、錠剤Tに転化する。次の錠剤取出部S3においては、上下のガイドレール5A,5Bの上昇誘導部53,54によって上杵2及び下杵3が上昇し、圧縮ピン部2bが成形孔4aから上方へ離脱し、同時に圧縮ピン部3bが錠剤Tを突き上げて排出し、排出された錠剤Tは図示省略したスクレーパ等によって外部へ取り出される。なお、図示を省略しているが、上杵2の杵先側には環状溝2cを利用してベローズを装着するのが普通である。
【0036】
しかして、本発明の打錠杵を用いた上杵2及び下杵3では、粉末原料P及び成形物の錠剤Tに接触する杵先側は、析出硬化合金からなる杵先部材22,32にて形成され、その表面が該析出硬化合金にて構成されているから、メッキやコーティングのように表面処理膜の剥離による錠剤Tへの混入の問題がないと共に、靱性が高いので欠けを生じることもない上、該析出硬化合金が非常に優れた耐食性を具備するから、口腔内崩壊錠のような強酸性の薬剤成分に接触しても腐食せず、また成形物に対する良好な離型性を示す。従って、錠剤Tとして、不純物を含まず、且つ形崩れがなく表面の印字も鮮明な高品位のものを、高歩留りで安定的に製出できる。一方、該打錠杵の胴部側は、工具鋼からなる胴部材21,31にて形成され、該工具鋼が高い耐摩耗性及び大きな機械的強度を備えることから、ガイドレール5A,5Bと摺接するヘッド部2a,3aの摩耗が少なく、且つ粉末圧縮時のロール加圧による繰り返しの負荷に充分に耐えることができる。従って、杵先側の優れた耐食性と相俟って、打錠杵全体として卓越した耐久性が得られ、その交換頻度が従来に比較して大幅に減少するから、打錠成形機の稼働コスト及び保全コストが著しく低減される。
【0037】
また、打錠杵の製作においては、胴部材21,31と杵先部材22,32とを圧入によって連結一体化するが、高剛性の胴部材21,31に対して杵先部材22,32が靱性に富むため、両者の圧入による連結を無理なく行える。また、既述のように、杵先部材22,32の嵌入軸部22a,32aの外径を杵先嵌合孔21a,31aの内径に対して特定範囲で大きく設定することで、圧入部に亀裂を生じることなく大きな固着強度を付与できると共に、実施形態のように杵先部材22,32の環状当接部22b,32bが胴部材21,31
における軸本体部20,30の端面20a,30aの略全体に面接触する構成とすることで、杵先部材22,32と胴部材21,31の圧入連結部が揺るぎなく高剛性になる。従って、杵先部材22,32の先端側の切削・研削加工やピン端面の放電加工を胴部材21,31との圧入連結後に行うようにすれば、これら加工時に胴部側で把持できるので加工容易になると共に、高い寸法精度を達成できるという利点がある。
【0038】
打錠成形機の成形時の打錠圧は、特に制約されないが、本発明の打錠成形機では500kg以下とすることが推奨される。これは、上杵2及び下杵3に用いる打錠杵の杵先部材22,32が析出硬化合金からなり、一般的な工具鋼からなる杵先部よりも機械的強度が若干低下するが、打錠圧500kg以下では割れや欠けを生じる懸念がない上、口腔内崩壊錠のように用途的に成形物が硬過ぎるのを嫌う錠剤用途が多々あり、これら錠剤用途では打錠圧を500kg以下にする必要があることによる。
【0039】
成形対象の錠剤Tとしては、医薬品や化学品が主であるが、他に錠菓、浴用剤、電池用合剤等の広範な分野に及ぶものがあり、その形態も両端面が曲面や平面をなす典型的な偏平丸形の他にリング状、球状、三角又は四角厚板状、円柱状、多角柱状等と様々であり、更には異種成分を積層構造や被包構造にして合体したものもある。従って、上杵2及び下杵3における圧縮ピン部2b,2bとその頂端は、成形対象とする錠剤Tの形態に対応する形状に設定することになる。また、異種成分が積層構造や被包構造になった錠剤Tでは、その打錠成形機として、臼4の成形孔4aに対して各成分の粉末原料を順次に充填する機構等を組み込む必要がある。
【符号の説明】
【0040】
1 回転テーブル
2 上杵(打錠杵)
2a ヘッド部
2b 圧縮ピン部
20 軸本体部
20a 端面
21 胴部材
21a 杵先嵌合孔
22b 環状当接部
22 杵先部材
22a 嵌入軸部
22b 環状当接部
22c 縮径部
3 下杵(打錠杵)
3a ヘッド部
3b 圧縮ピン部
30 軸本体部
30a 端面
31 胴部材
31a 杵先嵌合孔
32 杵先部材
32a 嵌入軸部
32b 環状当接部
32c 縮径部
4 臼
4a 成形孔
P 粉末原料
T 錠剤