(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム内部に板状構造の低屈折率領域と板状構造の高屈折率領域を少なくとも有し、フィルム表面では該低屈折率領域と該高屈折率領域が交互に並んでおり、フィルム断面では該フィルム表面の該低屈折率領域および該高屈折率領域が厚さ方向に延存した構造を有する異方性光学フィルムであって、
該異方性光学フィルムは、少なくとも、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物の硬化物と、シリコーン骨格を有さない下記の化合物の硬化物のいずれかと、から構成され、
該シリコーン骨格を有する光硬化性化合物と、該シリコーン骨格を有さない化合物との比率が、質量比で15:85〜85:15の範囲にあることを特徴とする異方性光学フィルム。
シリコーン骨格を有さない化合物:
・光硬化性化合物
・熱可塑性樹脂
・熱硬化性樹脂
前記シリコーン骨格を有する光硬化性化合物が、末端にアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の異方性光学フィルム。
【背景技術】
【0002】
光拡散性を有する部材は、照明器具や建材の他、表示装置においても使用されている。この表示装置としては、例えば、液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)等がある。光拡散部材の光拡散発現機構としては、表面に形成された凹凸による散乱(表面散乱)、マトリックス樹脂とその中に分散された微粒子間の屈折率差による散乱(内部散乱)、及び表面散乱と内部散乱の両方によるものが挙げられる。但し、これら光拡散部材は、一般にその拡散性能は等方的であり、入射角度を少々変化させても、その透過光の拡散特性が大きく異なることはなかった。
【0003】
一方、一定の角度領域の入射光は強く拡散し、それ以外の角度の入射光は透過するという、光制御板(異方性光学フィルム)が知られている(例えば、特許文献1)。この光制御板は、シート状の感光性組成物層の上空から線状光源を用いて光を照射して硬化せしめたものである。そして、シート状の基体内には、
図1(a)に示すように、異方性光学フィルム50の作製時にその上空に配置した線状光源51の長さ方向に一致して、周辺領域と屈折率が異なる板状構造40が互いに平行に形成されていると考えられている。
図2に示すように、図示しない光源と受光器3との間にサンプルを配置し、サンプル表面の直線Lを中心軸として角度を変化させながらサンプルを直進透過して受光器3に入る直線透過率を測定することができる。
【0004】
図3は、
図2に示す方法を用いて測定した
図1に示す異方性光学フィルム50が有する散乱特性の入射角依存性を示す。縦軸は散乱の程度を表す指標である直線透過率(所定の光量の平行光線を入射させたときに、入射方向と同じ方向に出射された平行光線の光量)を示し、横軸は入射角を示す。
図3中の実線及び破線はそれぞれ、
図1中のA−A軸(板状構造を突き抜ける)及びB−B軸(板状構造に平行)を中心に異方性光学フィルム50を回転させた場合を示す。尚、入射角の正負は、異方性光学フィルム50を回転させる方向が反対であることを示す。
図3中の実線は、正面方向でも斜め方向でも直線透過率が小さいままであるが、これは、A−A軸を中心に回転させた場合には、光学フィルム50が入射角に無関係に散乱状態であることを意味する。また、
図3中の破線は、0°近傍の方向で直線透過率が小さくなっているが、これはB−B軸を中心に回転させた場合にも、光学フィルムが正面方向の光に対して散乱状態であることを意味する。更に、入射角が大きい方向では直線透過率が増加しているが、これは、B−B軸を中心に回転させた場合には、光学フィルムが斜め方向の光に対して透過状態であることを意味する。この構造のおかげで、例えば、横方向には透過度が入射角によって異なるものの、縦方向には入射角を変えても透過度が変わらない、という特性を与えることができる。ここで、
図3のように散乱特性の入射角依存性を示す曲線を以下、「光学プロファイル」と称する。光学プロファイルは、散乱特性を直接的に表現しているものではないが、直線透過率が低下することで逆に拡散透過率が増大していると解釈すれば、概ね拡散特性を示しているといえる。
【0005】
異方性光学フィルム50は、その板状構造40のフィルム法線に対する傾きにより光学特性が規定される。この場合、板状構造40にほぼ平行な方向からの入射光が強く拡散され、その板状構造を貫くように入射する光は殆ど拡散されずに透過するため、板状構造40は光散乱面といえる。
【0006】
この異方性光学フィルム50は入射光の波長によって、その光拡散性が異なる性質(波長分散)を有する。特定の波長範囲において光拡散性が異なると着色の問題が生ずるが、板状構造40を有する異方性光学フィルム50は、回折現象で拡散を発現するために拡散領域において着色を生じる問題があった。特に拡散しやすい低波長側の補色関係にある黄色から赤色に着色しやすく、黄色から赤味は人が不快に感じやすい色であるため、表示装置に使用する異方性光学フィルムとして使用する場合、改善が要求されていた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、本特許請求の範囲及び本明細書における各用語の定義を説明する。
【0014】
「低屈折率領域」と「高屈折率領域」は、異方性光学フィルムを構成する材料の局所的な屈折率の高低差により形成される領域であって、他方に比べて屈折率が低いか高いかを示した相対的なものである。これらの領域は、異方性光学フィルムを形成する材料が硬化する際に形成される。
【0015】
直線透過率は、光学フィルムに対して入射した光の直線透過性に関し、ある入射角から入射した際に、直線方向の透過光量と、入射した光の光量との比率であり、下記式で表される。
直線透過率(%)=(直線透過光量/入射光量)×100
【0016】
本発明の異方性光学フィルムは、後述の組成物および製造方法によって、波長依存性がない異方性拡散フィルムとすることが可能である。波長依存性がないとは、波長が450〜700nmの可視光領域において、
図3の直線透過光量が実質上同じであることを意味している。
また、可視光領域の全領域を確認せずとも、480nm、550nm、680nmなどの3つ以上の代表波長で直線透過光量を確認し、実質上同じであれば、可視光領域で波長依存性がないと判断することができる。
【0017】
以下、本発明の内容について説明する。
図1は本発明の異方性光学フィルム50の模式図である。
図1(a)に示すように、異方性光学フィルム50内には板状構造40が複数形成されている。板状構造40は、断面図の
図1(b)に示すように、低屈折領域41と高屈折率領域42を交互に含むものである。フィルム表面においても、低屈折率領域41と高屈折率領域42は交互に並んでいる。すなわち、本発明の異方性光学フィルム50は、フィルム表面の低屈折率領域41および高屈折率領域42が厚さ方向に延存した構造を形成するものである。
なお、低屈折領域41と高屈折領域42に加え、他の屈折率領域を含んでもよい。他の屈折率領域としては、例えば中屈折率領域が挙げられる。
【0018】
図1においては、低屈折率領域41と高屈折率領域42の界面を直線として描いているが、界面は略直線状であればよい。略直線状であっても、
図3に示すような入射角依存性を示す。
【0019】
異方性光学フィルムの製造方法
本発明の異方性光学フィルムは、特定の光硬化性化合物に特殊な条件で紫外線(UV)照射を行うことにより作製することが出来る。以下、まず異方性光学フィルムの原料を説明し、次いで製造プロセスを説明する。
【0020】
異方性光学フィルムの原料
本発明の異方性光学フィルムを形成する材料は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物のモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはマクロモノマーと光開始剤とから構成され、紫外線及び/又は可視光線を照射することにより重合・固化する材料である。
ここで、異方性光学フィルムを形成する材料が1種類であっても、密度の高低差ができることによって屈折率差が生ずる。UVの照射強度が強い部分は硬化速度が早くなるため、その硬化領域周囲に硬化材料が移動し、結果として屈折率が高くなる領域と屈折率が低くなる領域が形成されるからである。
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタアクリレートのどちらであってもよいことを意味する。
【0021】
(シリコーン骨格を有する光硬化性化合物)
上記シリコーン骨格を有する光硬化性化合物は、その構造(主にエーテル結合)に伴い配向して重合・固化し、低屈折率領域、高屈折率領域、又は、低屈折率領域及び高屈折率領域を形成する。これによって、他の材料では解決できなかった、構造分散による着色の問題を解決することができるものと考えられる。
【0022】
低屈折率領域において、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物の硬化物であるシリコーン樹脂が相対的に多くなることが好ましい。これによって、波長依存性をさらに低くすることができるため、構造分散による着色がさらに改善する。
シリコーン樹脂はシリコーン骨格を有さない化合物に比べ、シリカ(Si)を多く含有するため、このシリカを指標として、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を使用することによってシリコーン樹脂の相対的な量を確認することができる。
【0023】
シリコーン骨格を有する光硬化性化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマーまたはマクロモノマーである。ラジカル重合性の官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基などが挙げられ、カチオン重合性の官能基としては、エポキシ基、オキセタン基などが挙げられる。これらの官能基の種類と数に特に制限はないが、官能基が多いほど架橋密度が上がり、屈折率の差が生じやすいため好ましいことから、多官能のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有することが好ましい。また、シリコーン骨格を有する化合物はその構造から他の化合物との相容性において不十分なことがあるが、そのような場合にはウレタン化して相容性を高めることができる。本発明では末端にアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートが好適に用いられる。
【0024】
シリコーン骨格を有する光硬化性化合物の重量平均分子量(Mw)は、500〜50,000の範囲にあることが好ましい。より好ましくは2,000〜20,000の範囲である。重量平均分子量が上記範囲にあることにより、十分な光硬化反応が起こり、異方性光学フィルム内に存在するシリコーン樹脂が配向しやすくなり、構造分散による着色の問題を改善することができる。
【0025】
シリコーン骨格としては、例えば、下記の一般式(1)で示されるものが該当する。一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立に、メチル基、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ポリエーテル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の官能基を有する。
【0027】
(シリコーン骨格を有さない化合物)
シリコーン骨格を有する光硬化性化合物にシリコーン骨格を有さない化合物を配合して、異方性光学フィルムを形成すると、低屈折領域と高屈折率領域が分離して形成されやすくなり、異方性の程度が強くなり好ましい。シリコーン骨格を有さない化合物は、光硬化性化合物のほかに熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることができ、これらを併用することもできる。光硬化性化合物としては、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーを使用することができる(ただし、シリコーン骨格を有していないものである)。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂とその共重合体や変性物が挙げられる。熱可塑性樹脂を用いる場合においては熱可塑性樹脂が溶解する溶剤を使用して溶解し、塗布、乾燥後に紫外線でシリコーン骨格を有する光硬化性化合物を硬化せしめて異方性光学フィルムを成形する。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステルとその共重合体や変性物が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合においては、紫外線でシリコーン骨格を有する光硬化性化合物を硬化させた後に適宜過熱することで、熱硬化性樹脂を硬化せしめて異方性光学フィルムを成形する。シリコーン骨格を有さない化合物として最も好ましいのは光硬化性化合物であり、低屈折領域と高屈折率領域が分離しやすいことと、熱可塑性樹脂を用いる場合の溶剤が不要で乾燥過程が不要であること、熱硬化性樹脂のような熱硬化過程が不要であることとなど、生産性に優れている。
【0028】
低屈折領域と高屈折率領域の屈折率差(絶対値)は、0.02以上あることが好ましい。より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.04以上である。屈折率差が大きくなるほど、異方性の程度が大きくなることに加え、光学顕微鏡等で板状構造を形成しているか確認することが容易となる。
【0029】
ラジカル重合性化合物は、主に分子中に1個以上の不飽和二重結合を含有するもので、具体的にはエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート等の名称で呼ばれるアクリルオリゴマーと、2−エチルヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソノルボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシフタル酸、ジシクロペンテニルアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、EO変性フェニルアクリレート、アダマンタンアクリレート、ビフェニルアクリレート、フェノキシフェニルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変成トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のアクリレートモノマーが挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。尚、同様にメタクリレートも使用可能であるが、一般にはメタクリレートよりもアクリレートの方が光重合速度が速いので好ましい。
【0030】
カチオン重合性化合物としては、分子中にエポキシ基やビニルエーテル基、オキセタン基を1個以上有する化合物が使用できる。エポキシ基を有する化合物としては、2−エチルヘキシルジグリコールグリシジルエーテル、ビフェニルのグリシジルエーテル、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラック、オルトクレゾールノボラック等のノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのEO付加物、ビスフェノールAのPO付加物等のアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステルやダイマー酸のジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0031】
更に、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ジ(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、テトラ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ブタンテトラカルボキシレート、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)−4,5−エポキシテトラヒドロフタレート等の脂環式エポキシ化合物も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ビニルエーテル基を有する化合物としては、例えばジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚ビニルエーテル化合物は、一般にはカチオン重合性であるが、アクリレートと組み合わせることによりラジカル重合も可能である。
【0033】
オキセタン基を有する化合物としては、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)−オキセタン等が使用できる。
【0034】
尚、以上のカチオン重合性化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。上記光重合性化合物は、上述に限定されるものではない。又、十分な屈折率差を生じさせるべく、上記光重合性化合物には、低屈折率化を図るために、フッ素原子(F)を導入しても良く、高屈折率化を図るために、硫黄原子(S)、臭素原子(Br)、各種金属原子を導入しても良い。又、特表2005−514487に開示されるように、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化錫(SnOx)等の高屈折率の金属酸化物からなる超微粒子の表面に、アクリル基やメタクリル基、エポキシ基等の光重合性官能基を導入した機能性超微粒子を添加することも有効である。
【0035】
高屈折率領域において、シリコーン骨格を有さない化合物の硬化物(化合物がアクリレートであれば、硬化物はアクリル樹脂)が相対的に多くなることが好ましい。これによって、波長依存性をさらに低くすることができるため、構造分散による着色をさらに低減することができる。
シリコーン骨格を有さない化合物はシリコーン骨格を有する光硬化性化合物に比べ、炭素(C)を多く含有するため、この炭素を指標として、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を使用することによって確認することができる。
【0036】
(光開始剤)
異方性光学フィルムの原料(光開始剤)
ラジカル重合性化合物を重合させることのできる光開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0037】
カチオン重合性化合物の光開始剤は、光照射によって酸を発生し、この発生した酸により上述のカチオン重合性化合物を重合させることができる化合物であり、一般的には、オニウム塩、メタロセン錯体が好適に用いられる。オニウム塩としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩等が使用され、これらの対イオンには、BF
4−、PF
6−、AsF
6−、SbF
6−等のアニオンが用いられる。具体例としては、4−クロロベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェート、(η5−イソプロピルベンゼン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0038】
異方性光学フィルムの原料(配合量、その他任意成分)
本発明において、上記光開始剤は、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物とシリコーン骨格を有さない化合物からなる組成物中に含まれる光硬化性化合物の合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜7質量部、より好ましくは0.1〜5質量部程度配合される。これは、0.01質量部未満では光硬化性が低下し、10質量部を超えて配合した場合には、表面だけが硬化して内部の硬化性が低下してしまう弊害、着色、板状構造の形成の阻害を招くからである。これらの光開始剤は、通常粉体を上記組成物の混合物中に直接溶解して使用されるが、溶解性が悪い場合は光開始剤を予め極少量の溶剤に高濃度に溶解させたものを使用することもできる。このような溶剤としては光重合性であることが更に好ましく、具体的には炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。又、光重合性を向上させるために公知の各種染料や増感剤を添加することも可能である。更に光重合性化合物を加熱により硬化させることのできる熱硬化開始剤を光開始剤と共に併用することもできる。この場合、光硬化の後に加熱することにより光重合性化合物の重合硬化を更に促進し完全なものにすることが期待できる。
【0039】
本発明では、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物単独で、又はシリコーン骨格を有する光硬化性化合物とシリコーン骨格を有さない化合物を混合した組成物を硬化させて、異方性拡散層を形成することができる。いずれの化合物も単独で、又は複数を混合することができる。また、組成物中に必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、光安定化剤、界面活性剤、レベリング剤など、既知の添加剤を添加することも可能である。特に可塑剤、界面活性剤、レベリング剤可塑剤などは製膜性などを向上するためには有効で、フタル酸ポリエステル、アジピン酸ポリエステルなどの可塑剤、シリコーン系やアクリル系のレベリング剤が挙げられ、添加量は全組成物中0.5〜10重量%が好ましい。
【0040】
シリコーン骨格を有する光硬化性化合物と、シリコーン骨格を有さない化合物の比率は質量比で15:85〜85:15の範囲にあることが好ましい。より好ましくは30:70〜70:30の範囲である。当該範囲にすることによって、低屈折領域と高屈折率領域の相分離が進みやすくなるとともに、構造分散による着色の問題を解決しやすくなる。シリコーン骨格を有する光硬化性化合物の比率が下限値未満または上限値超であると、相分離が進みにくくなってしまい、構造分散による着色の問題を解決しにくくなる。シリコーン骨格を有する光硬化性化合物としてシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートを使用すると、シリコーン骨格を有さない化合物との相溶性が向上する。これによって、着色の問題を解決した上で、材料の混合比率を幅広くすることができる。
【0041】
[プロセス]
次に本発明の異方性光学フィルムの製造方法(プロセス)について説明する。上述の異方性光学フィルムの形成材料を透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような適当な基材上に塗工して塗工膜を設ける。必要に応じて乾燥して溶剤を揮発させるが、その乾燥膜厚は10〜500μm、より好ましくは20〜200μm、更に好ましくは30〜100μmである。乾燥膜厚が10μm未満では、後述するUV照射プロセスを経て得られる光拡散性が乏しいため好ましくない。一方乾燥膜厚が500μmを越えるような場合、全体の拡散性が強すぎて本発明の特徴的な異方性が得られ難くなると共に、コストアップ、薄型化用途に不適合といったことからも好ましくない。更に、この塗工膜上には離型フィルムや後述するマスクをラミネートして感光性の積層体を作ることもできる。
【0042】
(シリコーン骨格を有する光硬化性化合物を含む組成物を基材上にシート状に設ける手法)
ここで、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物を含む組成物を基材上にシート状に設ける手法としては、通常の塗工方式や印刷方式が適用される。具体的には、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティングや、グラビア印刷等の凹版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷等が使用できる。組成物が低粘度の場合は、基体の周囲に一定の高さの堰を設けて、この堰で囲まれた中に組成物をキャストすることもできる。
【0043】
(光源)
塗工膜に光照射を行うための光源としては、通常はショートアークの紫外線発生光源が使用され、具体的には高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタハライドランプ、キセノンランプ等が使用可能である。光硬化性化合物を含む組成物に照射する光線は、該光硬化性化合物を硬化可能な波長を含んでいることが必要で、通常は水銀灯の365nmを中心とする波長の光が利用される。
光源の形状は、線状であることが好ましく、被照射位置から見て光源が略線状に見えるようなものを使用してもよい。このような線状光線を得る方法としては種種の光源やレンズを用いた既知の方法を用いることができる。本発明では簡便な方法として、拡散光源をフレネルレンズ等で平行光線に変換し、さらに平行光線をレンチキュラーレンズを介して一方向にのみ拡散した線状光線に変換した光源を用いる例を示すが、この限りではない。
【0044】
本発明の異方性光学フィルムを作製する場合、塗工膜に照射されるUV光の照度としては、0.01〜100mW/cm
2の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20mW/cm
2の範囲である。照度が0.01mW/cm
2以下であると硬化に長時間を要するため、生産効率が悪くなり、100mW/cm
2以上であると光硬化性化合物の硬化が速すぎて構造形成を生じず、目的の異方性拡散特性を発現できなくなるからである。
【0045】
UVの照射時間は特に限定されないが、10〜180秒間、より好ましくは30〜120秒間である。その後、離型フィルムを剥離することで、本発明の異方性光学フィルムを得ることができる。
【0046】
本発明の異方性光学フィルムは、上述の如く低照度UV光を比較的長時間照射することにより光硬化性組成物中に特定の内部構造が形成されることで得られるものである。そのため、このようなUV照射だけでは未反応のモノマー成分が残存して、べたつきを生じたりしてハンドリング性や耐久性に問題がある場合がある。そのような場合は、1000mW/cm
2以上の高照度のUV光を追加照射して残存モノマーを重合させることが出来る。この時のUV照射は、先にUV照射を行った方向の逆側(基材側)から行うのが好ましい。
【0047】
表示装置
本発明の異方性光学フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)、表面電界ディスプレイ(SED)、電子ペーパーのような表示装置に適用することができる。特に好ましくは液晶表示装置(LCD)に用いられる。本発明の異方性光学フィルムは、シリコーン骨格を有する光硬化性化合物を硬化して形成されるものであるが、接着強度の問題は少なく、接着層や粘着層を介して、所望の場所に貼り合わせて使用することができる。
本発明の異方性光学フィルムは、透過型、反射型、または半透過型の液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下の方法に従って、本発明の異方性光学フィルム及び比較例の異方性光学フィルムを製造した。
【0049】
[実施例1]
厚さ100μm、76×26mmサイズのPETフィルム(東洋紡社製、商品名:A4300)の縁部全周に、ディスペンサーを使い硬化性樹脂で高さ0.2mmの隔壁を形成した。この中に下記の光硬化性樹脂組成物を充填し、別のPETフィルムでカバーした。
・シリコーンジアクリレート(屈折率:1.462、重量平均分子量:4,320) 40重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl350)
・ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート(屈折率:1.536) 60重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl150)
・2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン 4重量部
(BASF社製、商品名:Irgacure651)
この両面をPETフィルムで挟まれた0.2mmの厚さの液膜に対して、UVスポット光源(浜松ホトニクス社製、商品名:L2859−01)の落射用照射ユニットから出射される平行光線をレンチキュラーレンズを介して線状光線に変換した紫外線を垂直に、照射強度10mW/cm2として1分間照射して、
図1に示すような線状の微小な領域を多数有する実施例1の異方性拡散フィルムを得た。そこから、PETフィルムを剥がして本発明の異方性拡散フィルムを得た。
【0050】
[実施例2]
下記の光硬化性樹脂組成物を用いたことと、線状光線に変換した紫外線を液膜の法線方向から 約15°傾けて照射する以外は実施例1と同様にして、実施例2の異方性拡散フィルムを得た。
・シリコーン・ウレタン・アクリレート(屈折率:1.460) 60重量部
(RAHN社製、商品名:99−622)
・ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート(屈折率:1.536) 15重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl150)
・フェノキシエチルアクリレート(屈折率:1.518) 25重量部
(共栄社化学製、商品名:ライトアクリレートPO−A)
・2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン 4重量部
(BASF社製、商品名:Irgacure651)
【0051】
[実施例3]
シリコーンジアクリレートの配合量を75重量部とし、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレートの配合量を25重量部とした以外は実施例1と同様にして実施例3の異方性拡散フィルムを得た。
【0052】
[実施例4]
シリコーン・ウレタン・アクリレートの配合量を25重量部とし、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレートの配合量を25重量部とし、フェノキシエチルアクリレートの配合量を50重量部とした以外は実施例2と同様にして、実施例4の異方性拡散フィルムを得た。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同様にして準備した両面をPETフィルムで挟まれた0.2mmの厚さの液膜に対して、UVスポット光源(浜松ホトニクス社製、商品名:L2859−01)の落射用照射ユニットから出射される平行光線の紫外線を、液膜の法線方向から 約15°傾けて、照射強度30mW/cm2として1分間照射して、
図4に示すような棒状の微小な領域を多数有する比較例1の異方性拡散フィルムを得た。
【0054】
[比較例2]
下記の光硬化性樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の異方性拡散フィルムを得た。
・エポキシアクリレート (屈折率:1.556) 20重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl3700)
・フェノキシエチルアクリレート(屈折率:1.518) 40重量部
(共栄社化学製、商品名:ライトアクリレートPO−A)
・ポリエーテルアクリレート(屈折率:1.462) 40重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名:Ebecyl230)
・2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン 3重量部
(BASF社製、商品名:Irgacure651)
【0055】
実施例1〜4で使用したシリコーンジアクリレート及びシリコーン・ウレタン・アクリレートの重量平均分子量(Mw)の測定は、ポリスチレン換算分子量として、GPC法を用いて下記条件で行った。
デガッサー:DG-980-51(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU-980-51(日本分光株式会社製)
オートサンプラー:AS-950(日本分光株式会社製)
恒温槽:C-965(日本分光株式会社製)
カラム:Shodex KF-806L × 2本 (昭和電工株式会社製)
検出器:RI (SHIMAMURA YDR-880)
温度:40℃
溶離液:THF
注入量:150μl
流量:1.0ml/min
サンプル濃度:0.2%
【0056】
(異方性拡散フィルムの評価)
光源の投光角、受光器の受光角を任意に可変でき、分光測定が可能な表示パネル評価装置LCD7000(大塚電子社製)を用いて、実施例および比較例の異方性拡散フィルムの評価を行った。光源からの直進光を受ける位置に受光部を固定し、その間のサンプルホルダーに実施例および比較例で得られた異方性拡散フィルムをセットした。
図2に示すように回転軸(L)としてサンプルを回転させてそれぞれの入射角に対応する直線透過光量を測定した。この回転軸(L)は、
図1(a)または
図4に示されるサンプルの構造において、B軸と同じ軸である。直線透過光量の測定は、入射光の波長を480、550、680nmのそれぞれについて測定し、波長依存性を比較した。
【0057】
上記測定で得られた実施例の結果を、
図5(a)〜(b)に、比較例の結果を
図6(a)〜(b)に示した。
図5(a)は実施例1、
図5(b)は実施例2、
図6(a)は比較例1、
図6(b)は比較例2の結果である。
なお、実施例3及び4は、実施例1及び実施例4と同様の傾向を示したため、図示を省略した。
【0058】
図5、
図6からは、いずれの異方性拡散フィルムも入射光依存性を示し、製造時の光硬化の際のUV光線の入射角度に近い範囲では透過光量が低く拡散が強いことを示し、それ以外の入射角度では透過光量が高く拡散が弱いことを示している。
実施例1〜4の異方性拡散フィルムにおいては、各測定波長においても同様な直線透過光量のプロファイルを示し、波長依存性が極めて小さいことを示している。また、実施例1及び実施例2は実施例3及び実施例4よりも、より波長依存性が小さい結果を示した。
一方、比較例1、2の異方性拡散フィルムにおいては、直線透過光量の低い、つまり、拡散が強い領域において、測定波長における直線透過光量の違いが観察され、波長依存性の存在が認められる。さらに、比較例1においては直線透過光量の高い領域での波長依存性も認められ、広い範囲で着色が観察される。