特許第5977978号(P5977978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977978
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】スピーカー装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/02 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   H04R9/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-79180(P2012-79180)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211628(P2013-211628A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221926
【氏名又は名称】東北パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 益実
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−273067(JP,A)
【文献】 実公昭48−006673(JP,Y1)
【文献】 実開昭57−111196(JP,U)
【文献】 実開平06−007394(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/00 − 9/10
H04R 7/00 − 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、ボイスコイルと、磁気回路と、前記振動板の音放射方向の面に設置されたセ
ンターキャップと、を有し、
前記センターキャップの音放射方向の面とは反対側の面には、当該反対側の面にのみ接
する環形状の接着剤があるスピーカー装置
【請求項2】
前記接着剤は、前記センターキャップの前記音放射方向の面を形成する材料より大きい
内部損失を有する請求項1に記載のスピーカー装置。
【請求項3】
前記接着剤は、ゴム系の接着剤を有する請求項1又は2に記載のスピーカー装置。
【請求項4】
前記接着剤は、ブチルゴムを有する請求項1乃至3のいずれかに記載のスピーカー装置
【請求項5】
前記センターキャップの前記音放射方向の面を形成する材料は、繊維材料である請求項
1乃至4のいずれかに記載のスピーカー装置
【請求項6】
前記音放射方向において、前記センターキャップの最小厚さが前記接着剤の最大厚さよ
りも小さい請求項1乃至5のいずれかに記載のスピーカー装置。
【請求項7】
前記接着剤は、略円環形状を少なくとも有する請求項1乃至のいずれかに記載のスピ
ーカー装置
【請求項8】
前記接着剤は、略楕円環形状を少なくとも有する請求項1乃至のいずれかに記載の
ピーカー装置
【請求項9】
前記接着剤は、略多角環形状を少なくとも有する請求項1乃至6のいずれかに記載の
ピーカー装置
【請求項10】
前記センターキャップは、略円盤形状を有し、
記センターキャップの平面形状の図心と、前記接着剤の平面形状の図心とは、略同一
の位置にある請求項7乃至9のいずれかに記載のスピーカー装置。
【請求項11】
前記ボイスコイルは、ボイスコイルボビンを介して前記振動板に接続されており、
前記ボイスコイルボビンは、略円筒形状を有し、
前記接着剤は、略円環形状を有し、
前記ボイスコイルボビンの中心軸と、前記接着剤の中心軸とは、略同一である請求項
乃至6及び10のいずれかに記載のスピーカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターキャップ及びスピーカー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイスコイル等のスピーカー装置内部への防塵対策として振動板中央に設置されるセンターキャップ(ダストキャップ)に対して、再生音の高音域特性を改善させる機能を付与することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、振動板の中心孔を覆うキャップ本体とは異なる部材の薄膜部材をキャップ本体の裏面に貼付して、スピーカー装置用のセンターキャップを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−273066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の薄膜部材は、その厚さが10μm〜150μm程度と非常に薄い。このため、薄膜部材の成形作業や貼付作業は煩雑な作業を伴う。よって、特許文献1では、スピーカー装置の組立工程における作業性が損なわれてしまう。しかも、特許文献1では、振動板やセンターキャップの形状に応じて、種々の寸法及び形状を有する薄膜部材を用意しなければならず、汎用性に乏しい。
【0006】
更に、特許文献1では、薄膜部材が、通常のスピーカー装置の組立工程では使用しない部材であるため、薄膜部材の導入に伴う部材コストの増加や工数増加に伴うコストの増加等を回避することができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とするものである。すなわち、本発明は、作業性及び汎用性を確保しながらもコスト増加を抑制し、且つ、高音域特性を改善可能なセンターキャップ及びスピーカー装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るスピーカー装置は、振動板と、ボイスコイルと、磁気回路と、
前記振動板の音放射方向の面に設置されたセンターキャップと、を有し、前記センターキ
ャップの音放射方向の面とは反対側の面には、当該反対側の面にのみ接する環形状の接着
剤があるスピーカー装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るスピーカー装置の概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係るセンターキャップの概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスピーカー装置における再生音の出力特性を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスピーカー装置における再生音の高音域での出力特性を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るセンターキャップに固着された接着剤の形状における他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスピーカー装置1の概略図である。図1では、スピーカー装置1の音放射方向で破断した縦断面構造を示している。
図1のスピーカー装置1は、音放射方向を中心軸とする低背の略円錐台形形状をしている。図1では、スピーカー装置1の軸方向を紙面の上下方向とし、スピーカー装置1の径方向を紙面の左右方向並びに手前及び奥行き方向とする。図1では、スピーカー装置1の音放射方向を上方とする。図2以降も同様とする。
スピーカー装置1は、磁気回路10と、ボイスコイル20と、フレーム30と、ダンパー40と、振動板50と、センターキャップ100とを少なくとも有する。
【0012】
磁気回路10は、ボイスコイル20を収容可能な磁気ギャップGを形成し、ボイスコイル20の振動に必要な磁束を供給する。
磁気回路10は、プレート11と、ヨーク12と、磁石13とを有する。磁気回路10は、ヨーク12、磁石13、及びプレート11を、下方から上方に向かって順に積層させた構造を有する。
図1の磁気回路10は、いわゆる外磁型のスピーカー装置用磁気回路であるが、内磁型でもよい。
【0013】
プレート11は、磁気回路10の磁路及び磁気ギャップGの一端を形成する。
プレート11は、鉄等の磁性材料を用いて、中心軸が軸方向の略円環形状に形成されている。略円環形状に形成されたプレート11の内径は、ボイスコイル20の外径より大きい。プレート11の外径は、磁石13の外径と同程度か小さい。プレート11の厚さは、略均一である。
【0014】
プレート11の下面は、磁石13の一極側(例えば、S極側)と磁気的に接合している。プレート11内には、磁石13から流出された磁束が通過する。プレート11の内周面は、ヨーク12を構成する後述のセンターポール部12bの外周面と略平行に対向しており、磁気ギャップGの一端を形成する。
【0015】
ヨーク12は、磁気回路10の磁路及び磁気ギャップGの一端を形成する。
ヨーク12は、底板部12aと、センターポール部12bとを有する。
底板部12aは、中心軸が軸方向の略円板形状に形成されている。略円板形状に形成された底板部12aの外径は、磁石13の外径と同程度か小さい。底板部12aの厚さは、略均一である。
センターポール部12bは、底板部12aの中心を基端として、中心軸を軸方向に沿って上方へ延出する略円柱形状に形成されている。略円柱形状に形成されたセンターポール部12bの外径は、後述するボイスコイルボビン21の外径より小さい。センターポール部12bの高さは、略均一である。
底板部12a及びセンターポール部12bは、鉄等の磁性材料を用いて形成されており、一体成形されている。
【0016】
底板部12aの上面は、磁石13の他極側(プレート11と接合する磁極とは異なる側であり、例えば、N極側)と磁気的に接合している。ヨーク12内には、磁石13から流出された磁束が通過する。センターポール部12bの外周面は、プレート11の内周面と略平行に対向しており、磁気ギャップGの一端を形成する。
【0017】
プレート11の内周面とセンターポール部12bの外周面とは、所定間隔をおいて略平行に対向する。当該所定間隔は、ボイスコイル20及びボイスコイルボビン21の径方向の厚さよりも大きい。磁気回路10は、当該所定間隔により規定されるプレート11の内周面とセンターポール部12bの外周面との間隙に、磁気ギャップGを形成する。磁気ギャップGは、中心軸が軸方向の略円筒形状を有し、ボイスコイル20及びボイスコイルボビン21を収容する。
【0018】
磁石13は、磁気回路10内、特に、磁気ギャップGに磁束を供給する。
磁石13は、フェライト系磁石、サマリウムコバルト系磁石、又はネオジム系磁石等の永久磁石を用いて、中心軸が軸方向の略円環形状に形成されている。略円環形状に形成された磁石13の外径は、プレート11及び底板部12aの外径と同程度か大きい。磁石13の内径は、プレート11の内径と同程度か大きい。磁石13の内周面は、磁気ギャップG内に配置されたボイスコイル20と接触しない。磁石13の厚さは、略均一である。磁石13は、プレート11と底板部12aとの間に、それぞれの中心軸を重ねて挟持されている。
【0019】
磁石13の上面及び下面は、一対の磁極を有する。磁石13の磁化方向は、軸方向に略平行である。一方の磁極(例えば、S極)を有する磁石13の上面は、プレート11の下面と磁気的に接合している。他方の磁極(例えば、N極)を有する磁石13の下面は、ヨーク12を構成する底板部12aの上面と磁気的に接合している。
【0020】
磁石13の下面がN極であれば、磁石13の下面から流出した磁束は、底板部12a及びセンターポール部12bを通過して磁気ギャップGへ流出する。磁気ギャップGへ流出した磁束は、プレート11を通過して磁石13の上面へ流入する。
このようにして、磁気回路10は、磁気ギャップG内へ磁束を供給する。
【0021】
ボイスコイル20は、振動板50の振動の駆動源である。
ボイスコイル20は、中心軸が軸方向の略円筒形状を有するボイスコイルボビン21の外周に巻回されている。ボイスコイル20の中心軸は、軸方向であり、ボイスコイルボビン21の中心軸と略同一である。ボイスコイル20が巻回される場所は、ボイスコイルボビン21の下方側(音放射方向とは反対方向側)の端部である。ボイスコイル20の巻幅中央の高さ(巻幅中央の軸方向の位置)は、プレート11の厚さ中央の高さ(厚さ中央の軸方向の位置)と、略同一の位置である。
ボイスコイル20の巻回方向は、略円筒形状に形成されたボイスコイルボビン21の中心軸が延出する方向(軸方向)と略直交する。
ボイスコイルボビン21の上方側(音放射方向側)の端部外周面には、振動板50及びダンパー40が接続されている。
【0022】
略円筒形状に形成されたボイスコイルボビン21の径方向内側には、センターポール部12bが配置される。ボイスコイルボビン21の内周面と、センターポール部12bの外周面とは、一定の間隔をおいて略平行に対向する。ボイスコイル20の径方向外側には、プレート11及び磁石13が配置される。ボイスコイル20の外周面と、プレート11及び磁石13の内周面とは、一定の間隔をおいて略平行に対向する。ボイスコイル20及びボイスコイルボビン21の中心軸と、センターポール部12b、プレート11、及び磁石13の中心軸とは、略同一の位置である。
すなわち、ボイスコイル20が巻回されたボイスコイルボビン21は、磁気ギャップG内に軸方向で振動自在に収容されている。ボイスコイルボビン21の振動方向は、磁気ギャップGに供給される磁束の方向、及び、ボイスコイル20に供給される音声電流の方向と、略直交する。
【0023】
ボイスコイル20は、図示しないスピーカーアンプとリード線を介して接続されている。ボイスコイル20には、当該スピーカーアンプから音声電流が供給される。ボイスコイル20は、音声電流が供給されると、磁気ギャップGの磁束と当該電流との相互作用によって電磁力を受ける。電磁力を受けたボイスコイル20は、当該電磁力を駆動力として、磁気ギャップG内で軸方向に振動する。軸方向に振動するボイスコイル20は、ボイスコイルボビンに21に接続された振動板50を、軸方向に振動させる。
このようにして、ボイスコイル20は、供給された音声電流を機械的振動に変換して、振動板50に軸方向の駆動力を与える。
【0024】
フレーム30は、スピーカー装置1の骨格であり、磁気回路10、ダンパー40、及び振動板50を支持する。
フレーム30は、中心軸が軸方向の略円錐台形形状に形成されており、内部が中空である。略円錐台形形状に形成されたフレーム30の下底部31及び上底部32は、互いに略平行であり、軸方向にそれぞれ略直交する。フレーム30の側壁部33は、下底部31の外周を基端とし、先端が、断面視で上底部32に向かって逆テーパー状に延出した形状となっている。下底部31、上底部32、及び側壁部33は、略均一な厚さであり、金属材料や樹脂材料を用いて一体成形されている。
【0025】
フレーム30の下底部31は、略中央に、略円板形状の貫通孔31aを有する。貫通孔31aの外径は、プレート11の内径と略同一である。貫通孔31a内には、ボイスコイルボビン21が配置される。下底部31の下面は、プレート11の上面と接合されている。この接合により、フレーム30は、磁気回路10を支持する。
【0026】
フレーム30の側壁部33は、ボイスコイルボビン21の上方側(音放射方向側)の端部と同程度の高さ位置に、段部33aを有する。段部33aは、軸方向を法線とする平坦面を形成している。段部33aの当該平坦面には、ダンパー40が接合されている。
この接合により、フレーム30は、ダンパー40を支持する。
【0027】
フレーム30の側壁部33は、先端が上方に開口している。側壁部33の開口した先端の外周には、断面視で径方向外側に向かって延出された略円環形状の上底部32が形成されている。上底部32の上面は、振動板50の後述するエッジ部52と接合されている。この接合により、フレーム30は、振動板50を支持する。
【0028】
ダンパー40は、ボイスコイルボビン21をフレーム30へ固定する。ダンパー40は、ボイスコイル20の径方向の振動を規制すると共に、軸方向の振動中心を保持する。
ダンパー40は、中心軸が軸方向の略円環形状に形成されている。略円環形状に形成されたダンパー40の内周縁部は、ボイスコイルボビン21の上方側(音放射方向側)の端部外周面に接合されている。ダンパー40の外周縁部は、フレーム30を構成する側壁部33の段部33aに接合されている。
これらの接合により、ダンパー40は、ボイスコイルボビン21をフレーム30へ固定する。このとき、ダンパー40は、コルゲージョンを有しているため、ボイスコイルボビン21をフレーム30へ弾性的に固定し、ボイスコイルボビン21に巻回されたボイスコイル20の振動を規制・制御する。
【0029】
振動板50は、軸方向に機械的に振動して音を放射する。振動板50は、ボイスコイルボビン21に接続されている。振動板50は、ボイスコイルボビン21に巻回されたボイスコイル20の軸方向の振動に連動する。
振動板50は、金属材料、樹脂材料、繊維材料、又はこれらの混合材料等を用いて、中心軸が軸方向の略円錐台形形状に形成されている。
振動板50は、振動部51と、エッジ部52とを有する。振動部51及びエッジ部52は、一体成形されている。
【0030】
振動部51は、振動板50の本体部分であり、軸方向に振動自在である。振動板50は、振動部51の振動によって発生した音波を上方に放射する。
振動部51は、断面視で上方に向かって逆テーパー状に延出した形状を有し、振動板50の中央に形成されている。図1の振動部51は、断面視が上方に向かって逆テーパー状に延出した形状を有するが、略放物線形状や略多段曲線形状等でもよい。
【0031】
振動部51の内周側は、略中央に、平面視が略円形形状の開口部51aを有する。開口部51aの外径は、ボイスコイルボビン21の外径と略同一である。開口部51a内には、ボイスコイルボビン21が配置される。振動部51の内周縁部は、ボイスコイルボビン21の上方側(音放射方向側)の端部外周面に接合されている。
この接合により、振動板50板は、ボイスコイルボビン21に巻回されたボイスコイル20の軸方向の振動に連動する。振動部51の内周縁部がボイスコイルボビン21に接合される箇所は、ダンパー40がボイスコイルボビン21に接合される箇所よりも上方に位置する。
【0032】
エッジ部52は、振動板50をフレーム30へ固定する。エッジ部52は、ダンパー40と共に振動板50の振動を規制・制御する。エッジ部52は、振動板50の背面側(音放射方向とは反対側)の音を遮断する。
エッジ部52は、断面視が上方に凸の湾曲形状を有する湾曲部52aと、断面視が略直線状の平坦部52bとを有する。湾曲部52aは、振動部51の外周に沿って形成されている。平坦部52bは、湾曲部52aの外周に沿って形成されている。平坦部52bの仮面は、フレーム30の上底部32の上面に接合されている。
この接合により、エッジ部52は、振動板50をフレーム30へ固定する。このとき、エッジ部52は、湾曲部52aを有することにより、振動板50をフレーム30に弾性的に固定し、振動板50の振動を規制・制御する。
【0033】
センターキャップ100は、塵や埃等のスピーカー装置内部への侵入を防ぐと共に、高音域の周波数特性を改善する。
センターキャップ100は、振動板50を構成する振動部51の開口部51aを上方から覆うように、振動部51の上面に設置されている。
センターキャップ100は、中心軸が軸方向の略円盤形状に形成されている。本実施形態では、センターキャップ100の形状が、中心軸が軸方向で上方に凸のドーム形状に形成されている例を示す。センターキャップ100の音放射方向は、軸方向の上方である。センターキャップ100の上面は、音放射方向側に位置する面であり、この面を、本実施形態では音放射面101とする。センターキャップ100の下面は、音放射方向側に位置する面とは反対側に位置する面であり、この面を、本実施形態では裏面102とする。
【0034】
図1のセンターキャップ100は、断面視が上方に凸の略放物線形状を有するが、断面視が略半円形形状、略半楕円形形状、略三角形形状、略多段円弧形状等でもよい。図1のセンターキャップ100は、平面視が略円形形状を有するが、センターキャップ100が設置される振動部51の上面の形状に即して変形させてもよい。
センターキャップ100は、金属材料、樹脂材料、繊維材料、又はこれらの混合材料等を用いて形成されている。センターキャップ100の材料は、振動板50と同じ材料でもよいし、振動板50よりも内部損失の大きい材料でもよい。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係るセンターキャップ100の概略図である。図2(a)は、センターキャップ100の音放射面101側から視た斜視図である。図2(b)は、センターキャップ100の裏面102側から視た斜視図である。図2(c)は、センターキャップ100の裏面102側から視た平面図である。図2(d)は、図2(b)のセンターキャップ100を、その中心軸で破断した縦断面構造の概略を示す図である。
【0036】
センターキャップ100の音放射面101は、図2(a)に示すように、音放射方向(上方)に凸で中心軸が軸方向のドーム形状に形成されている。音放射面101の平面形状は、略円形形状を有し、断面形状は、略放物線形状を有する。センターキャップ100の裏面102は、音放射面101と同様の形状である。
【0037】
センターキャップ100の裏面102には、図2(b)に示すように、接着剤110が固着されている。
接着剤110は、例えば、シリコーンゴムやブチルゴムのゴム系の接着剤である。好適には、接着剤110は、ブチルゴム接着剤である。
接着剤110の形状は、略円環形状に形成されており、閉ループ状である。略円環形状を有する接着剤110は、その中心軸が軸方向と略同一である。すなわち、接着剤110の中心軸は、センターキャップ100及びボイスコイルボビン21の中心軸と略同一である。
接着剤110の平面形状は、図2(c)に示すように、平面視が略円形形状のセンターキャップ100と略同心円となる。すなわち、接着剤110の平面形状の図心と、センターキャップ100の平面形状の図心とは、略同一の位置にある。
接着剤110の外形の大きさは、高音域特性が改善する大きさに適宜設計すればよい。例えば、接着剤110の直径を、センターキャップ100の外径の略半分とすればよい。
接着剤110の厚さも、高音域特性が改善する大きさに適宜設計すればよい。例えば、図2(d)に示すように、接着剤110の最大厚さt2を、センターキャップ100の最小厚さt1よりも大きくすればよい。言い換えると、センターキャップ100の音放射方向での最小厚さt1を、裏面102に固着された接着剤110の音放射方向での最大厚さt2よりも小さくすればよい。好適な数値例として、t1=0.3mm、t2=1.0mmとする例を挙げることができる。
【0038】
接着剤110は、センターキャップ100と、スピーカー装置1を構成する他の部材とを接合するために用いる接着剤とは別体の接着剤である。接着剤110は、センターキャップ100の裏面102のみに接している。
【0039】
例えば、センターキャップ100を振動板50の振動部51に設置するために用いる接着剤は、センターキャップ100又は振動部51に塗布された後、この両者に接した状態で硬化される。結果として、この接着剤は、センターキャップ100及び振動部51の両者に接している。
同様に、センターキャップ100の裏面102に、ボイスコイルボビン21の上方側の端部上面を接合する場合に用いる接着剤は、裏面102又はボイスコイルボビン21に塗布された後、この両者に接した状態で硬化される。結果として、この接着剤は、裏面102及びボイスコイルボビン21の両者に接している。
これに対し、接着剤110は、センターキャップ100の裏面102に布置された後、他の部材とは接しないでそのまま硬化される。接着剤110は、センターキャップ100の裏面102のみに接した接着剤となる。
【0040】
接着剤110が固着されたセンターキャップ100を有するスピーカー装置1は、以下のような出力特性を示す。スピーカー装置1は、いわゆるフルレンジの周波数帯域を再生可能なスピーカー装置である。
図3は、本発明の一実施形態に係るスピーカー装置1における再生音の出力特性を示す図である。
図3の縦軸は、スピーカー装置1の出力音圧レベルを示し、図3の横軸は、対数目盛りで表した周波数を示す。
図3の曲線は、スピーカー装置1の出力音圧周波数特性を示す。
【0041】
図3では、接着剤110の固着条件毎で、異なる特性を示している。接着剤110の固着条件は、表1に示す条件A〜Dの通りである。接着剤110の固着条件以外の条件は全て同一である。
図3の曲線において、実線は条件A、一点鎖線は条件B、二点鎖線は条件C、破線は条件Dでの結果をそれぞれ示している。
なお、条件Aにおける接着剤110の形状は、図2(b)に示す形状である。条件B及び条件Cにおける接着剤110の形状は、図5(a)に示す形状である。
【0042】
【表1】
【0043】
低音域の20Hz付近から中音域の2kHz付近までの周波数帯域において、出力音圧レベルは、立ち上り後、略平坦な推移を示している。この周波数帯域では、条件A〜D毎で同様の推移を示している。
中音域の2kHz付近から6kHz付近までの周波数帯域において、出力音圧レベルは、ピークディップを繰り返す推移を示している。この周波数帯域では、条件A〜D毎でピークディップの振幅に違いはあるものの、同様の推移を示している。
中音域の6kHz付近から高音域の20kHz付近までの周波数帯域において、出力音圧レベルは、大きな振幅のピークディップを繰り返す推移を示している。この周波数帯域では、条件A〜D毎で、異なる推移を示している。
【0044】
図4は、本発明の一実施形態に係るスピーカー装置1における再生音の高音域での出力特性を示す図である。
図4のグラフは、図3に示したグラフのうち、中音域の6kHzから高音域の20kHzの周波数帯域の部分を拡大したグラフである。
中音域の6kHz付近から高音域の20kHz付近までの周波数帯域において、条件A〜D毎で、次のような推移を示すことが分かる。
【0045】
接着剤110を固着させた場合(条件A〜C)と、固着させない場合(条件D)とを比較する。
条件A〜Cの高域共振周波数における共振ピークa〜cの高さは、条件Dの高域共振周波数における共振ピークdの高さよりも低くなっている。
条件A〜Cの共振ピークa〜cの半値幅は、条件Dの共振ピークdの半値幅よりも大きくなっている。
すなわち、接着剤110をセンターキャップ100の裏面102へ固着させることによって、高域共振周波数での共振ピークを抑制すると共に、高音域の周波数帯域を広げることができる。
このような推移は、接着剤110が振動板50よりも内部損失が大きく、接着剤110を固着させたセンターキャップ100の方が、より高い振動吸収作用を得られることに起因する。
【0046】
接着剤110の材料がブチルゴムの場合(条件B)と、シリコーンゴムの場合(条件C)とを比較する。
条件Bの共振ピークbの高さは、条件Cの共振ピークcの高さよりも低くなっている。 条件Bの共振ピークbの半値幅は、条件Cの共振ピークcの半値幅よりも大きくなっている。
すなわち、接着剤110の材料に関して、シリコーンゴムよりもブチルゴムの方が、共振ピークを一層抑制することができると共に、高音域の周波数帯域を一層広げることができる。
このような推移は、ブチルゴムはシリコーンゴムよりも内部損失が大きく、接着剤110としてブチルゴムを固着させたセンターキャップ100の方が、より高い振動吸収作用を得られることに起因する。
【0047】
接着剤110の固着形状が略円環形状(条件A)の場合と、略円板形状の場合(条件B、C)及び固着させない場合(条件D)とを比較する。
条件Aの共振ピークaは、2つのピークを有するのに対し、条件Bの共振ピークbは、1つのピークを有する。条件Cの共振ピークc及び条件Dの共振ピークdも、1つのピークを有する。
条件Aの共振ピークaの高さは、条件Bの共振ピークbの高さよりも低くなっている。 条件Aの共振ピークaの半値幅は、条件Bの共振ピークbの半値幅よりも大きい。
すなわち、接着剤110の固着形状に関して、略円板形状よりも略円環形状よりの方が、共振ピークをより一層抑制することができると共に、高音域の周波数帯域をより一層広げることができる。
このような推移は、接着剤110の固着形状が略円環形状の場合、接着剤110の固着領域よりも径方向内側と径方向外側とで、センターキャップ100の固有周波数が異なり、共振ピークが2つに分散されたことに起因する。共振ピークが2つに分散されたことによって、個々のピークの高さは低くなり、半値幅も大きくなったと考えられる。
【0048】
条件A〜Dにおける聴感評価では、次のような評価結果であった。すなわち、条件Dでは、高音域での歪み感や雑味が見受けられたのに対し、条件A〜Cでは、高音域での歪み感や雑味が無く、改善された。更に、条件A、Bでは、高音域での抜けが良く、条件Cよりも更に改善された。特に、条件Aでは、高音域での華やかさも加わり、条件Bよりも更に改善された。
【0049】
本実施形態では、センターキャップ100による高音域特性の改善に際して、裏面102にのみ接する接着剤110をセンターキャップ100に固着させた。センターキャップ100と振動板50との接合には、接着剤を用いることが一般的である。このときの接着剤の塗布工程は、センターキャップの裏面102を上方に向けて、振動板50との接合面に接着剤を塗布する工程である。この塗布工程は、通常のスピーカー装置の組立工程の一つである。このため、接着剤110を裏面102へ固着させる工程は、振動板50との接合に用いる接着剤の塗布工程の一環として行うことができ、新規な部材及び工程の導入や煩雑な作業を必要としない。よって、本実施形態では、高音域特性を改善可能で、且つ、作業性に優れたセンターキャップ100を提供することができる。
【0050】
また、接着剤110は、安価であり、その固着形状も容易に変更可能である。このため、センターキャップ100の形状や寸法が様々に変更されたとしても、接着剤110の固着形状を変更しさえすれば足りる。よって、本実施形態では、高音域特性を改善可能で、且つ、安価で汎用性に優れたセンターキャップ100を提供することができる。
したがって、本実施形態では、作業性及び汎用性を確保しながらも、コスト増加を抑制し、且つ、高音域特性を改善可能なセンターキャップ100を提供することができる。また、このようなセンターキャップ100を搭載したスピーカー装置1を提供することができる。
【0051】
また、本実施形態では、センターキャップ100の形状を、略円盤形状に形成し、接着剤110の固着形状を、図2(a)に示す略円環形状や、図5(a)に示す略円板形状に形成した。そして、接着剤110の中心軸と、センターキャップ100及びボイスコイルボビン21の中心軸とを略同一とした。このため、本実施形態では、センターキャップ100の振動変位が、径方向で偏在しない。よって、本実施形態では、接着剤110による、高音域の共振ピークの抑制及び周波数帯域の拡大という効果を、センターキャップ100の全体に亘って偏りなく得ることができる。また、センターキャップ100の振動変位が径方向で偏在することによって発生する共振を抑止することができる。
【0052】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変形又は変更が可能である。
【0053】
本実施形態では、接着剤110の固着形状として、図2(a)に示す略円環形状や、図5(a)に示す略円板形状を例示した。接着剤110の固着形状の他の例としては、図5(b)に示す略楕円環形状や、図5(c)に示す略多角環形状が考えられる。また、接着剤110の固着形状として、図5(d)に示すように、閉ループ状の接着剤110を、2箇所以上に固着させてもよい。いずれの場合であっても、接着剤110の中心軸は、センターキャップ100及びボイスコイルボビン21の中心軸と略同一である。言い換えると、接着剤110の平面形状の図心と、センターキャップ100及びボイスコイルボビン21の平面形状の図心とは、略同一の位置にある。
【符号の説明】
【0054】
1 スピーカー装置
10 磁気回路
11 プレート
12 ヨーク
13 磁石
20 ボイスコイル
21 ボイスコイルボビン
30 フレーム
40 ダンパー
50 振動板
100 センターキャップ
101 音放射面
102 裏面
110 接着剤
図1
図3
図4
図2
図5