(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のバッテリ容量検出装置では、満充電容量を検出するために、バッテリを満充電状態にすることが必須である等の問題があり、他の手段により満充電容量を検出する技術が要望されていた。
【0006】
本明細書では、従来技術とは異なる手段により、蓄電装置の満充電容量を検出することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示される、蓄電素子の電力で走行する鉄道車両用の蓄電装置は、前記蓄電素子と、前記蓄電素子の端子電圧を測定する電圧測定部と、前記蓄電素子のOCVとSOCとの相関関係に関する情報が記憶されるメモリと、外部電源からの電力により前記蓄電素子を充電する充電部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記電圧測定部の測定結果に基づき前記蓄電素子の第1OCVを特定し、前記相関関係において、当該第1OCVに対応する第1SOCを特定する第1SOC特定処理と、第1SOC特定処理の実行後に、前記充電部により、前記蓄電素子を一定電流で一定時間だけ充電する電気量変更処理と、前記電気量変更処理後に、前記電圧測定部の測定結果に基づき前記蓄電素子の第2OCVを特定し、前記相関関係において、当該第2OCVに対応する第2SOCを特定する第2SOC特定処理と、前記第1SOCと前記第2SOCとの差であるSOC変化量、および、前記電気量変更処理で充電した電気量に基づき、前記蓄電素子の満充電容量を検出する容量検出処理と、を実行する構成を有する。
【0008】
電気量変更処理の前後のSOC変化量と、蓄電素子の満充電容量とは相関関係がある。また、第1SOCと第2OCVは、第1OCVおよび第2OCV、および、OCVとSOCとの相関関係に関する情報に基づき特定することができる。そこで、この鉄道車両用の蓄電装置によれば、SOC変化量、および、電気量変更処理で充電した電気量に基づき、蓄電素子の満充電容量を検出することができる。しかも、電気量変更処理では電流が一定であるため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、積算誤差等により満充電容量の検出精度が低下することを抑制することができる。
【0009】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記鉄道車両は、架線に接続された架線区間と、架線に接続されていない非架線区間とを走行し、前記架線区間において前記制御部は、前記電気量変更処理では、前記充電部により、前記蓄電素子を、当該充電部に電気的に接続された前記架線から供給される電力により充電する構成でもよい。これにより、架線がある区間ではどこでも充電・各処理をすることができる。
【0010】
また、蓄電素子の電力で走行する鉄道車両用の蓄電装置は、前記蓄電素子と、前記蓄電素子の端子電圧を測定する電圧測定部と、前記蓄電素子のOCVとSOCとの相関関係に関する情報が記憶されるメモリと、前記蓄電素子の電力を外部に放電する放電部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記電圧測定部の測定結果に基づき前記蓄電素子の第1OCVを特定し、前記相関関係において、当該第1OCVに対応する第1SOCを特定する第1SOC特定処理と、第1SOC特定処理の実行後に、前記放電部により、前記蓄電素子を一定電流で一定時間だけ放電する電気量変更処理と、前記電気量変更処理後に、前記電圧測定部の測定結果に基づき前記蓄電素子の第2OCVを特定し、前記相関関係において、当該第2OCVに対応する第2SOCを特定する第2SOC特定処理と、前記第1SOCと前記第2SOCとの差であるSOC変化量、および、前記放電処理で放電した電気量に基づき、前記蓄電素子の満充電容量を検出する容量検出処理と、を実行する構成を有してもよい。
【0011】
電気量変更処理の前後のSOC変化量と、蓄電素子の満充電容量とは相関関係がある。また、第1SOCと第2OCVは、第1OCVおよび第2OCV、および、OCVとSOCとの相関関係に関する情報に基づき特定することができる。そこで、この鉄道車両用の蓄電装置によれば、SOC変化量、および、電気量変更処理で放電した電気量に基づき、蓄電素子の満充電容量を検出することができる。しかも、電気量変更処理では電流が一定であるため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、積算誤差等により満充電容量の検出精度が低下することを抑制することができる。
【0012】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記制御部は、前記電気量変更処理では、前記放電部により、前記蓄電素子から放電された電力を、当該放電部に電気的に接続された架線に供給してもよい。
【0013】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記制御部は、前記第2SOC特定処理では、前記電気量変更処理後、前記蓄電素子の端子電圧がOCVに収束する前の非収束期間だけ経過したときにおける前記電圧測定部の測定結果に基づき、前記第2OCVを特定してもよい。
【0014】
この鉄道車両用の蓄電装置によれば、電気量変更処理後、蓄電素子の端子電圧がOCVに収束する前の非収束期間だけ経過したときにおける電圧測定部の測定結果に基づき、第2OCVが特定される。電気量変更処理では電流が一定であるため、非収束期間経過時の端子電圧と収束期間経過後のOCVとはほぼ相関関係がある。このため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、第2OCVの特定精度のばらつきを抑制しつつ、非収束期間内において満充電容量を検出することができる。
【0015】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記メモリには、前記非収束期間経過時における前記蓄電素子の分極電圧値が記憶され、前記制御部は、前記第2SOC特定処理では、前記測定結果の端子電圧値、および、前記分圧電極値に基づき、前記第2OCVを特定してもよい。
【0016】
この鉄道車両用の蓄電装置によれば、非収束期間経過時における測定結果の端子電圧値、および、予め測定された分圧電極値に基づき、第2OCVが特定される。これにより、分圧電極値を考慮せずに第2OCVを特定する構成に比べて、第2OCVを精度よく検出することができる。
【0017】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記蓄電素子の温度を測定する温度測定部を備え、前記メモリには、前記温度と前記分極電圧値との対応関係を示す情報が記憶され、前記制御部は、前記第2SOC特定処理では、前記対応関係を示す情報を参照して、前記温度測定部の測定結果に対応する前記分極電圧値を導出してもよい。
【0018】
この鉄道車両用の蓄電装置によれば、蓄電素子の温度と分極電圧値との対応関係を示す情報を参照して、温度測定部の測定結果に対応する分極電圧値が導出され、この導出された分極電圧値を利用して第2OCVが特定される。これにより、蓄電素子の温度変化により分極電圧値が変動しても、その変動により、第2OCVの特定精度が低下することを抑制することができる。
【0019】
上記鉄道車両用の蓄電装置では、前記蓄電素子は、劣化によらず、前記OCVとSOCとの相関関係は不変であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本明細書によって開示される発明によれば、従来技術とは異なる手段により、蓄電装置の満充電容量を検出することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態1>
実施形態1の蓄電池駆動電車システム1について
図1〜
図5を参照しつつ説明する。
【0023】
(蓄電池駆動電車システムの構成)
図1に示すように、蓄電池駆動電車システム1は、非電化区間(非架線区間の一例)を蓄電池15の電力のみで走行可能な鉄道車両10と、蓄電池15を短時間で充電するための地上充電設備30を備えて構成されている。なお、鉄道車両10は、蓄電池の電力により走行可能であれば、例えば、液体式ディーゼル車、ディーゼル・蓄電ハイブリッド車、架線レス電気車、架線・地上蓄電ハイブリッド、架線・車上蓄電ハイブリッドなどのいずれでもよい。
【0024】
鉄道車両10は、モータ11,インバータ12,電力変換装置13、蓄電システム14、補助電源装置19を備える。モータ11は、図示しない車輪の車軸に動力を与えて鉄道車両10を走行させる誘導電動機であり、出力は例えば95kWである。インバータ12は、例えば、入力電圧が直流600VのVVVF方式(可変電圧可変周波数制御方式)のインバータを有し、モータ11を回転制御する。電力変換装置13は、充電部の一例であり、DCDCコンバータを有し、架線40の直流1500Vと蓄電池用の直流600Vを双方向に変換可能である。また、電力変換装置13は、パンタグラフ41を介して架線40に電気的に接続される。
【0025】
蓄電システム14は、鉄道車両用の蓄電装置の一例であり、蓄電池15と、電池管理装置16とを備えて構成されている。蓄電池15は、具体的には、リチウムイオン電池である。ここで、本実施形態で適用されるリチウムイオン電池としては、種々のものが対象となるが、例えば、正極活物質としてマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、複合ニッケル酸リチウム(ニッケルの一部をマンガン、コバルトなどの遷移金属で置換したもの)またはこれらの混合物、負極活物質として炭素材料を用いたものに適用できる。
【0026】
特に、各極活物質として単成分の活物質が用いられているリチウムイオン電池の場合に適用するのが好ましく、より好ましくは、正極活物質としてマンガン酸リチウム、負極活物質として非晶質系の炭素材料を用いたリチウムイオン電池の場合に適用するのが良い。その理由は、電池使用に伴うOCVとSOCとの相関関係の変化が少ないためである。勿論、OCVとSOCとの相関関係に変化が生じる電池でもよい。このような電池でも、検出精度が多少低下するが、満充電容量をおおよその範囲で検出することが可能であるからである。以下の説明では、蓄電池15を構成する電池セル15Aは、定格容量30Ah、正極にマンガン酸リチウムが用いられ、負極に非晶質系炭素材料が用いられたものであるとする。電池セル15Aは、蓄電素子の一例である。
【0027】
蓄電池15は、電池モジュール17が複数個直列に接続されて構成されている。各電池モジュール17は、複数の電池セル15Aが直列に接続された電池セル群17Aと、電池監視基板17B、温度センサ17Cとを有する。各電池セル群17Aは、電力変換装置13の一対の出力間に、ブレーカ18を介して直列に接続されている。各温度センサ17Cは、例えばサーミスタであって、それに対応する電池セル群17Aの周囲温度に応じた信号を出力する。各電池監視基板17Bは、それに対応する各セル単位の電圧(以下、単にセル電圧という)を測定し、その測定結果に応じた電圧測定信号、および、各温度センサ17Cから出力された信号を温度換算した温度測定信号を電池管理装置16に送信することが可能である。なお、電池監視基板17Bは、電圧測定部の一例であり、温度センサ17Cは、温度測定部の一例である。
【0028】
以下では、蓄電池15を構成する各電池セル15Aについて満充電容量を検出し、最小の満充電容量を、蓄電池15の満充電容量として劣化判定する構成を例に挙げて説明する。放電できる容量は、上記最小の満充電容量に制約されるからである。勿論、電池セル15A間の特性ばらつきがある程度小さい場合には、蓄電池15全体の電圧に基づき満充電容量を直接検出して劣化判定する構成や、各電池セル15Aの満充電容量の平均値等を、蓄電池15の満充電容量として劣化判定する構成でもよい。
【0029】
電池管理装置16は、制御部の一例であり、CPU16A(中央処理装置)およびメモリ16Bを有する。メモリ16Bには、例えばRAMやROMを有し、電池管理装置16の動作を制御するための各種のプログラム(劣化判定プログラムを含む)が記憶されており、CPU16Aは、メモリ16Bから読み出したプログラムに従って、後述する劣化判定処理を実行するなど、各部の制御を行う。また、CPU16Aは、電池監視基板17Bからの電圧測定信号に基づき、各セル電圧を合算して、蓄電池15全体の電圧を算出することができ、温度測定信号に基づき、各電池セル群17Aごとの温度を測定することができる。
【0030】
また、メモリ16Bには、蓄電池15の電池セル15Aの充電状態時におけるOCV−SOC関係データが記憶されている。このOCV−SOC関係データは、
図2に示すように、電池セル15Aについて、OCV(開放電圧 Open Circuit Voltage)と、SOC(残存容量 State Of Charge)との相関関係を示す情報であり、これは電池セル15Aに対する実験や仕様等により予め求めることができる。なお、OCV−SOC関係データは、OCVとSOCとの対応関係テーブルでもよいし、関数データでもよい。
【0031】
また、
図3には、蓄電池15を、一定電流で一定時間だけ充電した後、充電を停止し、蓄電池15の電池セル15Aを、電流が流れない開放状態(無負荷状態)で放置したときのセル電圧の変化、いわゆる電圧戻り特性が示されている。同図では、一定電流の値はIで示されており、鉄道車両10の走行停止時において100A以上であることが好ましく、本実施形態では例えば180Aである。本実施形態では、定電流充放電や電流測定のために定格電流300Aのホールセンサを使用しており、精度向上のためには、前記のように電流センサの定格電流値の30%以上の電流、好ましくは50%以上の電流を使用するのが良い。また、一定時間はT0で示されており、例えば180秒である。従って、充電される電気量(=I×T0)は、9Ahであり、電池セル15Aの定格容量の約3割の容量が好ましい。電池セル15Aのセル電圧は、充電が停止された時点で、蓄電池15の内部抵抗に応じた電圧分ΔVRだけ降下し、その後、開放電圧VEに収束していく。以下、充電停止時から、開放電圧VEへの収束時までの時間を収束期間TEという。この収束期間TEは、例えば5,6時間である。
【0032】
ここで、充電停止時から、非収束期間TM(<収束期間TE)経過したときのセル電圧VMと開放電圧VEとの差ΔVMは、その時点での電池セル15A蓄電池15の分極電圧値を示す。そこで、メモリ16Bには、予め測定された分極電圧値ΔVMが記憶されている。なお、この分極電圧値ΔVMは、電池セル15Aの温度によって異なるため、メモリ16Bには、例えば5度ずつ異なる複数の設定温度それぞれに分極電圧値ΔVMが対応付けられて記憶されている。なお、非収束期間TMは、例えば900秒である。
【0033】
地上充電設備30は、変圧器31、整流器32、電力変換装置33および蓄電池34を備える。変圧器31および整流器32は、図示しない配電線からの電力を、交流6600Vから直流1500Vに変換し、架線40および電力変換装置33に供給する。電力変換装置33は、DCDCコンバータを有し、架線40の直流1500Vと蓄電池用の直流600Vを双方向に変換可能である。蓄電池34は、電力変換装置33から供給される電力により充電される。
【0034】
以上の構成により、電化区間(架線区間の一例)では、鉄道車両10は、パンタグラフ41を介して架線40から供給される電力が、電力変換装置13により降圧されつつインバータ12に走行用電力として与えられる。また、蓄電池15のSOCが低い場合、架線40からの電力の一部が、蓄電池15の充電に利用される。また、ブレーキ時の回生電力は、蓄電池15の充電への利用が優先されるが、SOCが高い場合には、架線40への回生に利用される。
【0035】
一方、非電化区間では、鉄道車両10は、電力変換装置13を停止させ、これにより、蓄電池15からの電力のみが、インバータ12に走行用電力として与えられる。なお、ブレーキ時の回生電力は蓄電池15の充電以外に、補助電源装置19の充電にも利用される。
【0036】
蓄電池15を充電する場合、
図1に示すように、鉄道車両10は、例えば上記地上充電設備30が設置されている駅で停車し、パンタグラフ41を上げることで、架線40を介して地上充電設備30と電気的に接続され、蓄電池15に対して急速充電が行われる。
【0037】
(劣化判定処理)
図1に示すように、鉄道車両10が地上充電設備30に電気的に接続された状態で、電池管理装置16は、蓄電池15について、
図4に示す劣化判定処理を実行する。具体的には、CPU16Aは、電力変換装置13を制御して、蓄電池15を、SOCが初期値X0になるまで放電させる初期放電処理を実行する。具体的には、CPU16Aは、蓄電池15を放電させ(S1)、例えば蓄電池15を構成する複数の電池セル15Aのセル電圧のうち、最小のセル電圧値が、OCV−SOC関係データにおいて初期値X0に対応する開放電圧と同じ値になったかどうかを判断する(S2)。なお、初期値X0は、20%±10%の範囲内に設定するのが好ましい。また、この初期放電処理では、蓄電池15から放電された電力は、架線40または補助電源装置19に供給される。
【0038】
CPU16Aは、最小のセル電圧が、初期値X0に対応する開放電圧と同じでないと判断した場合(S2:NO)、放電を継続し、同じであると場合(S2:YES)、放電を中止する(S3)。そして、CPU16Aは、例えばブレーカ18を開状態にして蓄電池15を開放状態にし、所定の待機時間だけ放置する(S4)。待機時間は、収束期間TE以上とし、例えば5,6時間、好ましくは12時間以上である。これにより、初期放電前の蓄電池15の状態が、充電状態および放電状態のいずれであったかが不明の場合でも、蓄電池15を、平衡状態にして各電池セル15Aの開放電圧を正確に測定することが可能になる。
【0039】
CPU16Aは、各電池セル15Aについて第1SOC特定処理を実行する(S5)。具体的には、CPU16Aは、上記平衡状態になった蓄電池15の電池セル15Aのセル電圧を測定し、OCV−SOC関係データを参照して、当該セル電圧の測定値V1に対応する第1SOCの値X1を特定する(
図2参照)。次に、CPU16Aは、ブレーカ18を閉状態にして電力変換装置13を制御し、地上充電設備30からの電力により、前述した電流値Iで一定時間T0だけ定電流充電を実行する電気量変更処理を実行する(S6)。その後、CPU16Aは、ブレーカ18を開状態にし、蓄電池15を開放状態にして上記非収束期間TMだけ放置し(S7)、当該非収束期間TMだけ経過した時に蓄電池15の電池セル15Aのセル電圧および温度を測定する(S8)。
【0040】
CPU16Aは、各電池セル15Aについて、測定した温度に対応した分極電圧値ΔVMをメモリ16Bから抽出し、そのセル電圧の測定値Vと、当該分極電圧値ΔVMとから、OCVの値V2(V21、V22=V−ΔVM)を算出する(S9)。これにより、収束期間TEまで待たずに各電池セル15AのOCVを特定することができる。そして、CPU16Aは、各電池セル15Aについて、OCV−SOC関係データを参照して、当該セル電圧の値V2に対応する第2SOCの値X2(X21、X22)を特定する(S10
図2参照)。この処理は、第2SOC特定処理の一例である。
【0041】
ここで、
図2に示すように、新品の蓄電池15を、SOCがX1である状態から、上記電気量だけ充電すると、開放電圧はV21に達し、SOCはX21に達する。これに対し、劣化した蓄電池15を、SOCがX1である状態から、上記電気量だけ充電すると、開放電圧はV21を超えてV22に達し、SOCはX21を超えてX22に達する。要するに、第1SOCと第2SOCの差であるSOC変化量ΔX(=X2−X1)と、蓄電池15の満充電容量とは、相関関係があり、次の式で表すことができる。
【0042】
SOC変化量ΔX=(S6で充電された電気量(I×T0)/満充電容量)×100
但し、S6で充電された電気量は固定値。
【0043】
従って、SOC変化量ΔXを算出できれば、当該式から、満充電容量を特定することができる。そして、上述した蓄電池15の各電池セル15AのOCVとSOCとの相関関係は、蓄電池15の劣化度に関係無くほとんど変わらない。つまり、劣化度に関係なく、OCVからSOCを算出するのに、共通のOCV−SOC関係データを利用することができる。従って、S5、S10のように、各電池セル15Aについて、OCV−SOC関係データを利用して、当該電池セル15AのOCVから第1SOCの値X1と第2SOCの値X2を特定し、SOC変化量ΔXを算出することができる。
【0044】
CPU16Aは、各電池セル15Aについて、S5で特定した第1SOCの値X1、S10で特定した第2SOCの値X2、および、上記電気量に基づき、蓄電池15の満充電容量を検出する、容量検出処理を実行する(S11)。次に、CPU16Aは、検出した各電池セル15Aごとの満充電容量のうち、最小の満充電容量を、蓄電池15の満充電容量として劣化判定を行う(S12)。具体的には、CPU16Aは、新品時の満充電容量に対する、今回検出した満充電容量の相対量が閾値(例えば50%)未満である場合に、蓄電池15が交換すべき程度まで劣化していると判定する。なお、
図5に示すように、満充電容量の検出値および検出時期をメモリ16Bに記憶しておき、複数回分の上記相対量(容量比)および検出時期から近似線Lを導出し、その近似線Lの延長線と閾値との交点に基づき、交換時期までの残存期間ΔTを推定する構成でもよい。なお、複数回分の満充電容量の算出値および検出時期から近似線を導出する構成でもよい。CPU16Aは、劣化判定を行った後と、本劣化判定処理を終了する。
【0045】
(本実施形態の効果)
S6での電気量変更処理の前後のSOC変化量ΔXと、蓄電池15の電池セル15Aの満充電容量とは相関関係がある。また、第1SOCの値X1と第2OCVの値X2は、第1OCVおよび第2OCV、および、OCV−SOC関係データに基づき特定することができる。そこで、本実施形態によれば、SOC変化量ΔX、および、電気量変更処理で充電した電気量(=I×T0)に基づき、蓄電池15の各電池セル15Aの満充電容量を検出することができる。しかも、電気量変更処理では電流が一定であるため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、積算誤差等により満充電容量の検出精度が低下することを抑制することができる。
【0046】
また、電気量変更処理後、非収束期間TMだけ経過したときにおけるセル電圧の測定値に基づき、第2OCVの値X2が特定される。電気量変更処理では電流が一定であるため、非収束期間TM経過時のセル電圧VMと収束期間TE経過後のOCV(VE)とはほぼ相関関係がある。このため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、第2OCVの値X2の特定精度のばらつきを抑制しつつ、非収束期間TM内において満充電容量を検出することができる。
【0047】
更に、非収束期間TM経過時におけるセル電圧値VM、および、予め測定された分圧電極値ΔVMに基づき、第2OCVの値X2が特定される。これにより、分圧電極値ΔVMを考慮せずに第2OCVの値X2を特定する構成に比べて、第2OCVを精度よく検出することができる。
【0048】
また、蓄電池15の温度と分極電圧値との対応関係を示す情報を参照して、温度の測定値に対応する分極電圧値ΔVMが導出され、この導出された分極電圧値ΔVMを利用して第2OCVの値X2が特定される。これにより、蓄電池15の温度変化により分極電圧値ΔVMが変動しても、その変動により、第2OCVの特定精度が低下することを抑制することができる。
【0049】
<実施形態2>
図6は実施形態2を示す。前記実施形態1との相違は、劣化判定処理にあり、その他の点は前記実施形態1と同様である。従って、実施形態1と同一符号を付して重複する説明を省略し、異なるところのみを次に説明する。
【0050】
メモリ16Bには、蓄電池15の電池セル15Aの放電状態時におけるOCV−SOC関係データが記憶されている。また、メモリ16Bには、蓄電池15の電池セル15Aを、一定電流Iで一定時間T0だけ放電した後、放電を停止し、蓄電池15を開放状態で非収束期間TMだけ放置したときにおける分極電圧値ΔVMが記憶されている。
【0051】
図6に示すように、CPU16Aは、電力変換装置13を制御して、蓄電池15を、地上充電設備30からの電力により、SOCが初期値X0になるまで充電させる初期充電処理を実行する。具体的には、CPU16Aは、蓄電池15を充電させ(S21)、例えば蓄電池15を構成する複数の電池セル15Aのセル電圧のうち、最小のセル電圧値が、OCV−SOC関係データにおいて初期値X0に対応する開放電圧と同じ値になったかどうかを判断する(S22)。なお、初期値X0は、80%±10%の範囲内に設定するのが好ましい。
【0052】
CPU16Aは、最小のセル電圧が、初期値X0に対応する開放電圧と同じでないと判断した場合(S22:NO)、充電を継続し、同じであると場合(S22:YES)、充電を中止する(S23)。また、S26では、CPU16Aは、ブレーカ18を閉状態にして電力変換装置13を制御し、電流値Iで一定時間T0だけ定電流放電を実行する電気量変更処理を実行する。このとき、蓄電池15から放電された電力は、架線40または補助電源装置19に供給される。また、電力変換装置13は、放電部の一例である。S29では、CPU16Aは、各電池セル15Aについて、セル電圧の測定値Vと分極電圧値ΔVMとから、OCVの値V2(=V+ΔVM)を算出する。
【0053】
本実施形態によれば、SOC変化量、および、S26の電気量変更処理で放電した電気量に基づき、蓄電池15の各電池セル15Aの満充電容量を検出することができる。しかも、電気量変更処理では電流が一定であるため、電流が一定でなく電気量を積算する構成に比べて、積算誤差等により満充電容量の検出精度が低下することを抑制することができる。
【0054】
また、電気量変更処理では、蓄電池15から放電された電力が架線40に供給される。従って、蓄電池15からの放電電力を有効活用することができる。更に、蓄電池15の内部抵抗は温度が低いほど大きくなる。このため、電力変更処理(S6)で充電を行う上記実施形態1では、例えば10度以下の低温時において、セル電圧が極端に高くなって定電流制御ができなくなるおそれがある。これに対して、本実施形態であれば、電力変更処理(S26)で放電を行うため、上記実施形態1よりも低温状態下で劣化判定処理を実行することができる。
【0055】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
【0056】
上記実施形態では、制御部の一例として、CPU16Aによって劣化判定処理の各処理を実行する電池管理装置16を例に挙げた。しかし、制御部は、これに限らず、1または複数のCPUのみで各処理を実行する構成や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハード回路のみで各処理を実行する構成や、ハード回路及びCPUの両方で各処理を実行する構成でもよい。例えば上記劣化判定処理の一部または全部を、別々のCPUやハード回路で実行する構成でもよい。また、上記劣化判定処理の一部または全部を、人が行う構成でもよい。
【0057】
上記実施形態では、劣化判定プログラムの一例として、RAMやROMを有するメモリ16Bに記憶されたものを例に挙げた。しかし、劣化判定プログラムは、これに限らず、ハードディスク装置、フラッシュメモリ(登録商標)などの不揮発性メモリや、CD−Rなどの記憶媒体などに記憶されたものでもよい。
【0058】
上記実施形態では、蓄電素子の一例として、リチウムイオン電池を挙げた。しかし、蓄電素子は、これに限らず、他の二次電池でも、また、電気二重層コンデンサでもよい。また、OCVとSOCとの相関関係が新品時と劣化時とで異なる蓄電素子でもよい(特願2010−272365参照)。
【0059】
上記実施形態では、電圧測定部の一例として、蓄電池15に内蔵された電池監視基板17Bを例に挙げた。しかし、電圧測定部は、これに限らず、蓄電池15の外部に設けた電圧センサ等でもよい。また、温度測定部として、蓄電池15の外部に設置されたものでもよい。
【0060】
上記実施形態において、電池管理装置16は、例えば図示しない上位装置からの指示により、定電流充電時の電流値I、一定時間T0および非収束期間TMの少なくともいずれか1つを変更できる構成としてもよい。ただし、この構成の場合、予め、電流値I、一定時間T0および非収束期間TMの組み合わせごとに、分極電圧値ΔV2を算出し、メモリ16Bに記憶しておく必要がある。
【0061】
上記実施形態において、CPU16Aが、随時算出されるSOC変化量ΔXの変化に基づき蓄電池15の劣化度を判定する構成でもよい。また、CPU16Aが、新品時のSOC変化量ΔXに対する、SOC変化量ΔXの算出値の相対量(両者の差や比率)を算出し、当該相対量が、所定値以下になった場合に交換時期であると判定する構成でもよい。これらの構成では、満充電容量を検出せずに蓄電池15の劣化判定を行うことができる。
【0062】
上記実施形態では、劣化判定処理の実行前では、鉄道車両10は走行中であり、蓄電池15の状態(放電状態・充電状態)や充放電電流が逐次変動している可能性が高い。このため、第1OCV特定処理では、第2OCV特定処理とは異なり、非収束期間経過時における端子電圧と分極電圧値に基づきOCVを特定する処理を適用しなかった。しかし、劣化判定処理の実行前の蓄電池15の状態等の変動が所定範囲内であったり、当該状態等を特定可能であれば、第1OCV特定処理について、第2OCV特定処理と同様、非収束期間経過時における端子電圧と分極電圧値に基づきOCVを特定する処理を適用してもよい。
【0063】
上記実施形態では、第1OCV特定処理の実行前に、蓄電池15を、SOCが初期値X0になるまで放電または充電させる初期放電処理または初期充電処理を実行する構成であった。しかし、これに限らず、初期放電処理または初期充電処理を実行しない構成でもよい。但し、上記実施形態の構成であれば、電圧変換処理により過放電や過充電になることを抑制することができる。また、電圧変換処理の開始前に、SOCを、初期SOCに近い値に合わせることにより、初期放電処理または初期充電処理を実行しない構成に比べて、蓄電池15の劣化判定の精度を向上させることができる。