特許第5977997号(P5977997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977997
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】農業用マルチフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20160817BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160817BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20160817BHJP
   A01G 13/00 20060101ALI20160817BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160817BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08K3/22
   C08K3/26
   A01G13/00 Z
   !C08L101/16
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-111066(P2012-111066)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-237764(P2013-237764A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512125312
【氏名又は名称】株式会社抗菌研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】鹿志村 晃太
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 茂明
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−315724(JP,A)
【文献】 特開2002−339263(JP,A)
【文献】 特開2008−295976(JP,A)
【文献】 特開2008−101096(JP,A)
【文献】 特開2009−221337(JP,A)
【文献】 特開2005−192465(JP,A)
【文献】 特表2005−510422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物の種類に応じて農業用マルチフィルムを敷設してから前記農作物を収穫するまでの期間に合わせて前記農業用マルチフィルムを形状崩壊させることができ、かつ土壌を中性化することができる農業用マルチフィルムの製造方法であって、
ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペートから選ばれる生分解性を有する高分子化合物を準備する工程と、
酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末を準備するとともに、該粉末のうち少なくとも1種の粉末を焼成して前記酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末について、前記農作物の種類に応じた所望の形状崩壊期間とする配合量を、前記高分子化合物と当該酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末との配合比(質量比)が99:1〜50:50の範囲内で調整して準備する工程と、
準備された前記高分子化合物と準備された前記1種又は2種以上の粉末とを混練する工程とを有することを特徴とする農業用マルチフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記粉末が酸化カルシウムを90質量%未満含有する他の粉末を含む、請求項1に記載の農業用マルチフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多機能生分解性複合材料及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば農業用のマルチフィルム(Mulch Film)として利用することができ、地温調節、害虫防除、雑草防除、水分保持、環境保護、省力化等の多機能生分解性複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂の大量生産、大量消費及び大量廃棄が大きな社会問題になっている。廃棄された合成樹脂は、焼却処理や埋め立て処理され、地球温暖化や土壌汚染の原因になっている。そこで、このような問題に配慮した生分解性樹脂が開発され、実用化されつつあるが、生分解性樹脂に代表されるポリ乳酸は形状崩壊期間が3年〜5年と長いために、焼却処理される場合が多い。また、現在主流のポリエチレンフィルム等からなる非分解性マルチフィルムは、農作物の収穫時にフィルムを剥がす等の労力が必要であり、農業従事者の減少や高齢化が進行する我が国において、そうした問題の解消は急務な課題である。
【0003】
関連する先行技術として、特許文献1では、籾殻を主成分とする植物性原料の粉砕材と、バインダーを含む分解性物質とを混合した生分解性材料組成物が提案されている。また、特許文献2では、生態系、特に土壌や水質の安全性に配慮した生分解性を有する複合材料として、生分解性を有する有機高分子化合物と塩基性物質とを含有した材料が提案されている。この複合材料は、ポリ乳酸に属するレイシアを生分解性の有機高分子化合物として用い、水酸化アルミニウムを添加剤として用いた複合材料であり、その複合材料の分解過程で生じるカルボン酸による土壌等のpHの低下をその水酸化アルミニウムで中和して、土壌等のpHの低下を未然に抑制し、適正にpHを維持できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−229311号公報
【特許文献2】特開2004−182772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
農作物の収穫時や収穫後にマルチフィルムを剥がす等の労力を不要とするためには、収穫時にトラクター等を用いて収穫する時期や、手作業で収穫した後に耕運機で畑を耕す時期に合わせてマルチフィルムが形状崩壊すればよい。また、農作物の種類によっては、マルチフィルムを敷設してから農作物を収穫するまでの期間が短い種類のものや長い種類のものがある。したがって、農作物の収穫までの期間に合わせて形状崩壊するマルチフィルムを敷設することができれば、農作物の収穫時や収穫後にマルチフィルムを剥がす等の労力が不要になる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、生分解性フィルム等の生分解性成形品の形状崩壊を促進させることができ、形状崩壊速度を任意に可変することもできる多機能生分解性複合材料、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る多機能生分解性複合材料は、生分解性を有する高分子化合物と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末とを含有し、前記粉末の少なくとも1種が、前記酸化カルシウムを90質量%以上含有することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末のうち少なくとも1種の粉末が、酸化カルシウムを90質量%以上含有するので、生分解性複合材料に含まれる粉末が含有する90質量%以上の酸化カルシウムは水分に接触することにより発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、生分解性複合材料で作製したフィルム等の成形品内に物理的なクラックを生じさせ、より容易に形状崩壊を誘発する。また、この水酸化カルシウムの塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の加水分解を加速させることができる。その結果、分解期間の長いポリ乳酸等の生分解性の高分子化合物であっても素早く分解させることができ、例えばこの生分解性複合材料で作製したマルチフィルムは農作物の収穫時にマルチフィルムを引き剥がす等の労力が必要なくなり、大きな省力化に貢献できる。
【0009】
また、生分解性の高分子化合物のうち分解によってカルボン酸等の酸が生じる場合は、土壌中のpHが下がって酸性側に移行するが、この発明によれば、酸化カルシウムが土壌中の水分に接触して生じた水酸化カルシウムにより、そうしたpHを上げて中性に戻すことができる。また、そのような酸が生じない場合であっても、酸性雨等で酸性化した土壌の中性化を実現することができる。
【0010】
本発明に係る多機能生分解性複合材料において、さらに、唐辛子粉末、ニーム粉末、天然物由来粉末及び土壌改質剤から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
【0011】
この発明によれば、唐辛子粉末、ニーム粉末、天然物由来粉末及び土壌改質剤から選ばれる1種又は2種以上をさらに含有するので、多機能生分解性複合材料の機能性をさらに高めることができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る多機能生分解性複合材料の製造方法は、生分解性を有する高分子化合物を準備する工程と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末のうち少なくとも1種の粉末を焼成して前記酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末を準備する工程と、前記高分子化合物と前記1種又は2種以上の粉末とを混練する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末のうち少なくとも1種の粉末を焼成して前記酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末を準備し、そうした粉末を生分解性の高分子化合物と共に混練するので、得られた多機能生分解性複合材料は、酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末を含んでいる。その酸化カルシウムは水分に接触することにより発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、生分解性複合材料で作製したフィルム等の成形品内に物理的なクラックを生じさせ、より容易に形状崩壊を誘発する。上記同様の塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の加水分解を加速させることができる。
【0014】
本発明に係る多機能生分解性複合材料の製造方法において、前記酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の粉末とそれ以外の酸化カルシウム含有量の粉末との配合割合を変化させた複数の多機能生分解性複合材料を混練して、分解速度の異なる2種以上の多機能生分解性複合材料を製造する。
【0015】
この発明によれば、分解速度の異なる2種以上の多機能生分解性複合材料を任意に制御して製造できるので、農作物の種類によってはマルチフィルムを敷設してから農作物を収穫するまでの期間が短い種類のものや長い種類のものがあったとしても、農作物の収穫までの期間に合わせて生分解するマルチフィルムの原料として、この発明で製造された多機能生分解性複合材料を適用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る多機能生分解性複合材料及びその製造方法によれば、生分解性複合材料に含まれる粉末が含有する90質量%以上の酸化カルシウムは水分に接触することにより発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、生分解性複合材料で作製したフィルム等の成形品内に物理的なクラックを生じさせ、より容易に形状崩壊を誘発する。この水酸化カルシウムの塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の加水分解を加速させることができる。その結果、分解期間の長いポリ乳酸等の生分解性の高分子化合物であっても素早く分解させることができ、例えばこの生分解性複合材料で作製したマルチフィルムは農作物の収穫時にマルチフィルムを引き剥がす等の労力が必要なくなり、大きな省力化に貢献できる。
【0017】
また、生分解性の高分子化合物のうち分解によってカルボン酸等の酸が生じる場合は、土壌中のpHが下がって酸性側に移行するが、この発明によれば、酸化カルシウムが土壌中の水分に接触して生じた水酸化カルシウムにより、そうしたpHを上げて中性に戻すことができる。また、そのような酸が生じない場合であっても、酸性雨等で酸性化した土壌の中性化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る多機能生分解性複合材料の例を示し、(A)は単一の粉末を含有する生分解性複合材料であり、(B)は2種類の粉末を含有する生分解性複合材料である。
図2】実験例1〜3の生分解性複合材料の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、(B)は固有粘度減少率の経時変化を示すグラフである。
図3】実験例1〜3の生分解性複合材料の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)はpHの経時変化を示すグラフであり、(B)はTOCの経時変化を示すグラフである。
図4】実験例1〜3の生分解性複合材料の加水分解試験後(0日、30日、90日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
図5】比較実験例1〜3の生分解性高分子化合物の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、(B)は固有粘度減少率の経時変化を示すグラフである。
図6】比較実験例1〜3の生分解性高分子化合物の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)はpHの経時変化を示すグラフであり、(B)はTOCの経時変化を示すグラフである。
図7】実験例1〜3の生分解性複合材料の土壌埋設試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、(B)はpHの経時変化を示すグラフである。
図8】実験例1〜3と比較実験例4,6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(30日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
図9】実験例1〜3と比較実験例4〜6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(60日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
図10】実験例1〜3と比較実験例4,6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(90日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る多機能生分解性複合材料及びその製造方法について詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実験例に限定されるものではない。
【0020】
本発明に係る多機能生分解性複合材料1は、例えば図1に示すように、生分解性を有する高分子化合物11と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末12とを含有する。そして、その粉末12の少なくとも1種が、酸化カルシウムを90質量%以上含有する。
【0021】
以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0022】
[高分子化合物]
高分子化合物は、生分解性を有するものであれば特に限定されない。例えば、後述の実験例で用いたポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートの他、例えば特許文献1,2に記載の各種の生分解性ポリマー、具体的には、セルロース、デンプン、デキストラン、キチン等の多糖誘導体;コラーゲン、カゼイン、フィブリン、ゼラチン等のペプチド;ポリアミノ酸;ポリビニルアルコール;ナイロン4、ナイロン2−ナイロン6共重合体等のポリアミド;ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリコハク酸エステル、ポリシュウ酸エステル、ポリヒドロキシ酪酸、ポリジグリコール酸ブチレン、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等のポリエステル;等であってもよい。これらの生分解性の高分子化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上の複数を配合して用いてもよい。
【0023】
上記した各生分解性の高分子化合物は、それぞれ生分解性能が異なり、形状崩壊速度(成形した後の形状が崩れ始めるまでの経過時間。形状崩壊期間とも言う。)が異なる。例えば、ポリ乳酸は形状崩壊期間が3年〜5年であり、遅延型の生分解性高分子化合物として知られている。一方、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートは形状崩壊期間が1年程度であり、速効型の生分解性の高分子化合物として知られている。本発明では、それ自身の形状崩壊速度が異なる各種の生分解性の高分子化合物に、後述する粉末を任意に配合させることによって、その粉末が持つ塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の生分解期間を早めることができる。
【0024】
[粉末]
粉末12は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末である。そして、その粉末12の少なくとも1種が、酸化カルシウムを90質量%以上含有する。なお、「少なくとも」とは、酸化カルシウムの含有量が異なる種類の粉末が複数含まれていてもよいことを意味し、図1(A)に示すように、酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の同種の粉末12が含まれていてもよいし、図1(B)に示すように、酸化カルシウムの含有量が異なる2種以上の粉末12a,12bが含まれていてもよく、その場合には、その少なくとも1種(12a又は12b)が酸化カルシウムを90質量%以上含有するものであればよい。
【0025】
酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末12は、例えば土壌中の水分に接触することによりその酸化カルシウムが発熱を伴って水酸化カルシウムとなる。したがって、こうした粉末12が生分解性複合材料1に含まれていることにより、その生分解性複合材料1で作製されたマルチフィルム等の生分解性成形品は、水酸化カルシウムへの発熱反応を要因とした物理的なクラックが生じ、形状崩壊が誘発されることになる。また、発熱反応に伴って生じた水酸化カルシウムは、その塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物の加水分解を加速させることができる。その結果、分解期間の長いポリ乳酸等の生分解性の高分子化合物であっても素早く分解させることができる。
【0026】
酸化カルシウムの含有量が90質量%未満でも、水に接触して発熱反応が起きて上記同様のクラックが生じて形状崩壊を誘発するが、その効果の程度は90質量%以上のものに比べて不十分である。酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の粉末は、酸化カルシウムの含有量が90質量%未満の粉末よりも、土壌中の水分に接触した後の発熱が局部的に集中して起きやすい。そのため、酸化カルシウムの含有量が90質量%未満の粉末を多量に配合させて発熱が分散する場合よりも、酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の粉末の配合量を任意に調整した方が、発熱が集中して起こって物理的なクラック等が生じ、形状崩壊を容易に起こすことができる。
【0027】
粉末の粒子経は特に限定されないが、用いる用途に応じて適した粒子経のものが用いられる。例えば、生分解性複合材料1を農業用のマルチフィルム等のフィルム用途に用いる場合は、そのフィルムの厚さを考慮し、そのフィルムの機能を阻害しない小さい粒子経のものを用いることが好ましい。例えば、後述の実験例では、平均粒子経が11μmのものを用いているが、その例であれば、粉末の平均粒子経は5μm以上30μm以下のものを用いることができる。なお、フィルムの厚さが例えば20μm程度である場合は、実験例と同様の10μm程度(例えば、2μm以上12μm以下程度)が好ましい。
【0028】
こうした粉末の入手手段は特に限定されず、各種の方法で入手することができる。例えば、市販の酸化カルシウム粉末を入手し、その酸化カルシウム含有量が90質量%以上になるように調整して用いてもよいし、また、炭酸カルシウムを入手し、その炭酸カルシウムを焼成して酸化カルシウムの含有量が90質量%以上になるように調整して用いてもよいし、また、水酸化カルシウムを入手し、その水酸化カルシウムを脱水処理して酸化カルシウムの含有量が90質量%以上になるようにして用いてもよい。なお、炭酸カルシウムは、工業的に生産されたものでもよいし、天然物由来のものでもよい。天然物由来の炭酸カルシウムとしては、例えばホタテ貝等の貝殻を炭酸カルシウム原料として用いてもよい。
【0029】
酸化カルシウムは、炭酸カルシウムを600℃〜700℃、又はそれ以上の温度で焼成することにより脱炭酸して得ることができる。特に、焼成と再焼成等のように焼成を2段階以上の複数行うことにより、酸化カルシウムの含有量を容易に90質量%以上にすることができる。また、酸化カルシウムは、水酸化カルシウムを400℃以上の温度で加熱することにより脱水して得ることができる。
【0030】
[形状崩壊期間のコントロール]
生分解性の高分子化合物11と粉末12との配合比A([高分子化合物:粉末])は、質量割合で、99:1〜50:50の範囲内であることが好ましい。この範囲内で配合させることにより、生分解性複合材料で作製した生分解性成形品の形状崩壊を促進させることができる。なお、形状崩壊期間を早めるためには、粉末12の配合比Aを高めればよい。また、形状崩壊期間を遅くするためには、粉末12の配合比Aを下げればよい。このように、本発明に係る多機能生分解性複合材料は、そこに含まれる粉末12の配合比Aを調整することにより、作製した生分解性成形品の形状崩壊期間をコントロールすることができる。
【0031】
また、生分解性成形品の形状崩壊期間のコントロールとして、酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の粉末(例えば図1(B)の符号12a)と、それ以外の酸化カルシウム含有量の粉末(例えば図1(B)の符号12b)との配合比Bを変化させて、形状崩壊期間をコントロールすることもできる。具体的には、図1(B)に示すように、酸化カルシウムの含有量が90質量%以上の粉末12aと、酸化カルシウムの含有量が90質量%未満の粉末12bとを所定の配合比Bで配合することができる。こうして得た生分解性複合材料1は、酸化カルシウムの含有量が90質量%以上のものよりも形状崩壊期間を遅くすることができるので、形状崩壊期間の異なる複数種の生分解性複合材料を製造することができる。形状崩壊期間の異なる生分解性複合材料を用いて作製した例えばマルチフィルムは、収穫時期の異なる農作物に応じて任意に適用できるという格別の利点がある。すなわち、農作物の種類によってはマルチフィルムを敷設してから農作物を収穫するまでの期間が短い種類のものや長い種類のものがあるが、その場合であったとしても、それぞれの農作物の収穫までの期間に合わせて形状崩壊させることができる。
【0032】
[形状崩壊期間の異なる生分解性複合材料のラインナップ]
粉末の配合量を変化させることにより、形状崩壊期間の異なる生分解性複合材料1をラインナップすることができる。具体的には、図1(B)に示すように、90質量%以上の酸化カルシウム含有量の粉末12aと、それ以外の酸化カルシウム含有量の粉末12bとの配合比を変化させた複数の生分解性複合材料を準備することにより、形状崩壊期間の異なる2種以上の多機能生分解性複合材料を製造することができる。こうした生分解性複合材料のラインナップは、農作物の種類によってはマルチフィルムを敷設してから農作物を収穫するまでの期間が短い種類のものや長い種類のものがあったとしても、農作物の収穫までの期間に合わせて生分解するマルチフィルムの原料として、この発明で製造された多機能生分解性複合材料を適用できる。
【0033】
なお、含有量が90質量%未満の酸化カルシウムを用いなくても上記ラインナップは可能である。例えば、含有量が90質量%以上の単種の酸化カルシウムの配合量を任意の配合量で配合させることにより、形状崩壊期間の異なる2種以上の多機能生分解性複合材料を製造することができる。また、いずれも含有量が90質量%以上の酸化カルシウム粉末を用い、一方は含有量が少なめの例えば92質量%の単種の酸化カルシウムの粉末と、他方は含有量が多めの例えば98質量%の単種の酸化カルシウムの粉末とを任意の配合量で配合させることにより、形状崩壊期間の異なる2種以上の多機能生分解性複合材料を製造することもできる。
【0034】
[土壌の中性化]
本発明に係る多機能生分解性複合材料1は、土壌の中性化を行うことができる。生分解性複合材料1に含まれる生分解性の高分子化合物のうち、分解によってカルボン酸等の酸が生じる場合は、土壌中のpHが下がって酸性側に移行することがある。しかし、本発明では、生分解性複合材料1に含まれる酸化カルシウムが土壌中の水分に接触して生じた水酸化カルシウムが、低下したpHを上げて中性に戻すことができる。また、そのような酸が生じない場合であっても、酸性雨等で酸性化した土壌の中性化を実現することができる。
【0035】
[その他の添加剤]
多機能生分解性複合材料1には、任意に他の添加剤を含有させてもよい。添加剤として、例えば、唐辛子粉末、ニーム粉末、天然物由来粉末及び土壌改質剤等を挙げることができ、これらの添加剤を1種又は2種以上を含有させることができる。
【0036】
唐辛子は害虫の忌避成分であるカプサイシンを0.1〜1質量%含むので、唐辛子粉末を生分解性複合材料に添加することにより、その生分解性複合材料1で作製した例えばマルチフィルムに忌避効果を付与することができる。特に、マルチフィルムが形状崩壊した後の土壌に忌避効果を付与することができる。
【0037】
ニーム粉末も害虫の忌避成分であるアザジラクチンを含むので、ニーム粉末を生分解性複合材料に添加することにより、その生分解性複合材料1で作製した例えばマルチフィルムに忌避効果を付与することができる。特に、マルチフィルムが形状崩壊した後の土壌に忌避効果を付与することができる。なお、このニーム粉末に含まれるアザジラクチンは、昆虫に対する顕著な毒性を有する(LD50=15μg/g)が、哺乳類に対してはほぼ無害である(LD50=3,540μg/g)。
【0038】
また、成形型との離形性を増すための滑剤を添加してもよい。そうした滑剤としては、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。また、各種の可塑剤等を添加してもよい。
【0039】
これらの添加剤は、生分解性複合材料1の機能を損なわない範囲で、その種類及び効果に応じた量を添加することができ、多機能生分解性複合材料1の機能性をさらに高めることができる。
【0040】
[製造方法]
多機能生分解性複合材料1は、生分解性を有する高分子化合物11を準備し、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末のうち少なくとも1種の粉末を焼成して前記酸化カルシウムを90質量%以上含有する粉末12を準備し、それら高分子化合物11と1種又は2種以上の粉末12とを混練して製造できる。混練は、生分解性の高分子化合物11と粉末12とが十分に分散するまで行うことが好ましい。混練手段は特に限定されないが、本願では、後述する実験例で用いた加熱混練機を採用した。
【0041】
混練した生分解性複合材料1は、そのまま用いてもよいし、ペレット化して用いてもよい。例えばペレット化した生分解性複合材料1は、その後、所定の成形形状に成形されて生分解性成形品となる。例えば、農業用マルチフィルムを作製する場合には、生分解性複合材料1を例えばロール状のホットプレス機等で所定の厚さのフィルムに成形できる。また、本発明に係る多機能生分解性複合材料1を用いて、農業や園芸用の結束バンド、苗ポット、植生ネット、土壌シート等の農業用資材や土木用資材に成形する場合には、その成形品を作製するための型等を利用して成形できる。また、各種の包装や容器等の資材に成形する場合には、その成形品を作製するための型等を利用して成形できる。また、医療用の材料としても利用可能である。
【0042】
以上説明したように、本発明に係る多機能生分解性複合材料1によれば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムを含有する1種又は2種以上の粉末のうち少なくとも1種の粉末が、酸化カルシウムを90質量%以上含有するので、その酸化カルシウムは水分に接触することにより発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、生分解性複合材料で作製したフィルム等の成形品内に物理的なクラックを生じさせ、より容易に形状崩壊を誘発する。また、このような酸化カルシウムから水酸化カルシウムに変化する際の塩基性触媒効果により、生分解性の高分子化合物11の加水分解を加速させることができる。その結果、分解期間の長いポリ乳酸等の生分解性の高分子化合物11であっても素早く分解させることができ、例えばこの生分解性複合材料で作製したマルチフィルムは農作物の収穫時にマルチフィルムを引き剥がす等の労力が必要なくなり、大きな省力化に貢献できる。
【0043】
また、生分解性の高分子化合物のうち分解によってカルボン酸等の酸が生じる場合は、土壌中のpHが下がって酸性側に移行するが、この発明によれば、酸化カルシウムが土壌中の水分に接触して生じた水酸化カルシウムにより、そうしたpHを上げて中性に戻すことができる。また、そのような酸が生じない場合であっても、酸性雨等で酸性化した土壌の中性化を実現することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を以下の実験例により、さらに詳しく説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実験例の内容のみに限定されない。
【0045】
[実験例1]
生分解性の高分子化合物として、ポリ−L−乳酸(PLLA、商品名:テラマックTE−2000、ユニチカ株式会社製)を100質量部(30g)準備した。粉末として、酸化カルシウムの含有量が98.4質量%、水酸化カルシウムの含有量が0.7質量%、炭酸カルシウムの含有量が0.9質量%の粉末(平均粒子経11μm、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器、LA−920、堀場製作所株式会社製で平均粒子経を測定した。)を10質量部(3g)準備した。この粉末は、ホタテ貝殻由来の炭酸カルシウムを焼成(900℃)して上記組成としたものである。
【0046】
これらの原料を加熱混練機に投入して混練を行った。混練機として、井元製作所株式会社製のIMC−196A型の混練機を用い、ブレード外径70mm、ブレード長14mm、容量64mLのラボ用装置を用いた。この装置は、最大300回転/分まで調整可能で、室温から250℃まで調整可能である。
【0047】
得られた混練物をホットプレス法で、加水分解試験用試料と土壌埋設試験用試料を作製した。加水分解試験用試料は、幅6mm×長さ100mm×厚さ0.1mmの短冊状に成形加工し、土壌埋設試験用試料は、幅20mm×長さ20mm×厚さ0.1mmの矩形状に成形加工した。こうして実験例1の試験試料を作製した。
【0048】
[実験例2]
生分解性の高分子化合物として、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA、商品名:ビオノーレ、昭和電工株式会社製)を用いた他は、実験例1と同様にして、実験例2の試験試料を作製した。
【0049】
[実験例3]
生分解性の高分子化合物として、ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:GS Pla AD92W、三菱化学株式会社製)を用いた他は、実験例1と同様にして、実験例3の試験試料を作製した。
【0050】
[実験例4〜6]
粉末の配合量を15質量部にした他は、実験例1〜3と同様にして、実験例4〜6の試験試料をそれぞれ作製した。
【0051】
[比較実験例1〜3]
粉末を配合させない他は、実験例1〜3と同様にして、比較実験例1〜3の試験試料をそれぞれ作製した。
【0052】
[比較実験例4〜6]
粉末として、酸化カルシウムの含有量が2.4質量%、水酸化カルシウムの含有量が76.6質量%、炭酸カルシウムの含有量が21.0質量%の粉末(平均粒子経11μm、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器、LA−920、堀場製作所株式会社製で平均粒子経を測定した。)を用いた他は、実験例1と同様にして、比較実験例4〜6の試験試料をそれぞれ作製した。
【0053】
[加水分解試験と土壌埋設試験]
加水分解性をin vitro中にて調査するために、実験例1〜6及び比較実験例1〜6の試料をそれぞれイオン交換水15mL(実験例1〜6はpH6.7、比較実験例1〜3はpH7.3)に浸漬させ、恒温振とう水槽中にて40℃で加水分解試験を行った。試験期間は、10日、20日、30日、60日、90日経過時の分解性評価を行った。分解性評価は、フィルムの重量変化、フィルムの熱分析、フィルムの固有粘度測定、媒体のpH変化、媒体のTOC測定、を行った。
【0054】
土壌埋設試験は、肥沃な黒土を約20g入れたサンプル瓶に、実験例1〜3及び比較実験例1〜6の試料をそれぞれ入れて黒土中に埋設し、土壌水分計であるpFメータ(DIK−8343、大起理化工業株式会社製)を用い、pF値が1.7〜2.3の範囲になるよう湿らせ、屋内でかつ室温で管理しながら行った。上記pF値の範囲は、通常、農作物に適した水分量を示すものである。また、簡易型土壌水分測定器(DM−18、竹村電機製作所株式会社製)を用いて土壌の水分量を測定したところ、水分量は45質量%であった。試験期間は、10日、20日、30日、60日、90日経過時の分解性評価を行った。分解性評価は、フィルムの重量変化、フィルムの熱分析、フィルムの固有粘度測定、土壌のpH変化、を行った。
【0055】
熱分析は、熱重量測定(TG−DTA2000S型示差熱熱重量同時測定装置、ブルカー・AXS株式会社製)と、示差走査熱量測定(DSC3200S型示差走査熱量測定装置、ブルカー・AXS株式会社製)で行った。pHは、ガラス電極式水素イオン濃度計(GST−5421C、東亜電波工業株式会社製)とpHメータ(HM−30V、東亜電波工業株式会社製)を用いて測定した。TOC(Total Organic Carbon)測定は、TOC−V CPH/CPN(島津製作所株式会社製、680℃燃焼触媒酸化方式、NPOC(不揮発性有機炭素)法)で高純度空気下で行った。試験試料の表面形態は、走査型電子顕微鏡観察(JSM−5610LV型低真空走査電子顕微鏡、日本電子株式会社製)で観察した。
【0056】
固有粘度測定は、加熱混練によって得られた練合体100mgを20mLのクロロホルムに溶解させ、0.5g/dLの試料溶液を作り、吸引濾過によりクロロホルムに不溶な成分を取り除いた。この試料溶液を、U−121型ウベローデ粘度計(株式会社草野化学器機製作所製)に入れ、水温を25±0.01℃に保った水浴中で30分間放置した。その後、試料溶液が粘度計の毛細管内を落下していく時間を測定し、[(試験試料の落下時間)/(純溶媒の落下時間)−1]/[試料濃度]の式により固有粘度を求めた。測定は、落下時間の誤差が±0.5秒以内が3回以上続くまで行った。
【0057】
カルシウム粉末の組成は、熱重量分析のTG曲線を解析して行った。カルシウム粉末のTG曲線には、400℃付近と600℃付近で質量の現象が見られる。400℃付近では、水酸化カルシウムの脱水が起こっており、600℃付近では炭酸カルシウムの脱炭酸が起こっていることが確認された。したがって、400℃付近と600℃付近で2段階の質量減少が起こっている粉末は、脱水と脱炭酸が生じており、その減少量から水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの含有量を算出した。
【0058】
[結果]
(加水分解試験結果)
図2及び図3は実験例1〜3の生分解性複合材料の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、図2(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、図2(B)は固有粘度減少率の経時変化を示すグラフであり、図3(A)はpHの経時変化を示すグラフであり、図3(B)はTOCの経時変化を示すグラフである。一方、図5及び図6は比較実験例1〜3の生分解性高分子化合物の加水分解試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、図5(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、図5(B)は固有粘度減少率の経時変化を示すグラフであり、図6(A)はpHの経時変化を示すグラフであり、図6(B)はTOCの経時変化を示すグラフである。なお、図2図3図5及び図6の結果を表1にも示した。
【0059】
【表1】
【0060】
実験例1〜3の生分解性複合材料において、各生分解性の高分子化合物と粉末とを複合化させたフィルムの加水分解試験結果より、どのフィルムも初期より脆くなっており、特に実験例2,3のフィルムが顕著で回収が困難であった。重量損失率は、10日目ほどの劇的変化ではないが、少量ずつ減少している傾向であった。pHは全体的に低下しているが、比較実験例1〜3の生分解性高分子化合物の加水分解試験と比較するとその傾向は緩やかであった。固有粘度は60日目まで減少していき、特に実験例1が大幅に減少した。TOCは10日目に劇的に上昇してから、それ以降はほぼ変動無かった。
【0061】
図4は実験例1〜3の生分解性複合材料(a)(b)(c)の加水分解試験後(0日、30日、90日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。図4に示すように、実験例1〜3の加水分解試験前(0日)の表面は滑らかであったが、30日間の加水分解試験後の表面は粗くなっており、表面の劣化が確認でき、さらに、酸化カルシウムがあったと思われる空孔と、その周辺の亀裂が確認できた。90日目まで加水分解試験が進むと、空孔の広がりが顕著に見られた。酸化カルシウムは、塩基として化学的に作用するだけではなく、酸化カルシウムが水酸化カルシウムに変化して溶出することによりできた空孔が、試料の表面積を大きくしているので、物理的にもフィルムの分解を促進していると考えられる。
【0062】
図5(A)に示すように、比較実験例1〜3の試験試料の重量損失率は60日経過した後であっても最大2%程度であったが、図2(A)に示すように、実験例1〜3の重量損失率は僅か10日経過した後であっても20%以上であった。同様の傾向は、固有粘度測定結果からも理解でき、実験例1〜3の試験試料は、比較実験例1〜3の試験試料に比べて固有粘度が減少し、図3(B)に示すように媒体のTOCは大きく上昇した。
【0063】
次に、粉末の配合量を15質量部にした実験例4〜6の試験試料の加水分解試験の結果を表2に示した。実験例4〜6の生分解性複合材料において、各生分解性の高分子化合物と粉末とを複合化させたフィルムの加水分解試験結果は、粉末を10質量部配合したものと同様の傾向を示した。具体的には、どのフィルムも初期より脆くなっていた。また、10質量部の場合とは、各結果の数値が上昇しており、特にTOCの濃度が高い傾向が見られた。このように、粉末の含有量を増すことにより、酸化カルシウムの作用がより大きくなることが確認された。
【0064】
【表2】
【0065】
(土壌埋設試験結果)
図7は、実験例1〜3の生分解性複合材料の土壌埋設試験後の分解性評価結果を示すグラフであり、(A)は重量損失率の経時変化を示すグラフであり、(B)はpHの経時変化を示すグラフである。なお、図7の結果を表3に示した。また、図8は、実験例1〜3と比較実験例4,6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(30日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真であり、図9は、実験例1〜3と比較実験例4〜6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(60日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真であり、図10は、実験例1〜3と比較実験例4,6の生分解性複合材料の土壌埋設試験後(90日)のフィルム表面の電子顕微鏡写真である。
【0066】
【表3】
【0067】
特に図8図10の電子顕微鏡写真からは、時間の経過に伴うフィルムの形状崩壊性を確認することができた。写真の表面には、当初の酸化カルシウムが存在していた箇所であり、その酸化カルシウムが土壌中の水分と反応して発熱を伴って水酸化カルシウムとなり、土壌中に溶出したと思われる空孔(穴)が数多く観察され、また、微生物の着床及び増殖が観察された。
【符号の説明】
【0068】
1 多機能生分解性複合材料(生分解性フィルム)
11 生分解性高分子化合物
12,12a,12b 粉末
図8図10での実験例1の結果
図8図10での実験例2の結果
図8図10での実験例3の結果
a´ 図8図9での比較実験例4の結果
b´ 図8図10での比較実験例5の結果
c´ 図8図9での比較実験例6の結果


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10