特許第5978022号(P5978022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 吉佳エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5978022-落石防護柵 図000002
  • 特許5978022-落石防護柵 図000003
  • 特許5978022-落石防護柵 図000004
  • 特許5978022-落石防護柵 図000005
  • 特許5978022-落石防護柵 図000006
  • 特許5978022-落石防護柵 図000007
  • 特許5978022-落石防護柵 図000008
  • 特許5978022-落石防護柵 図000009
  • 特許5978022-落石防護柵 図000010
  • 特許5978022-落石防護柵 図000011
  • 特許5978022-落石防護柵 図000012
  • 特許5978022-落石防護柵 図000013
  • 特許5978022-落石防護柵 図000014
  • 特許5978022-落石防護柵 図000015
  • 特許5978022-落石防護柵 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978022
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】落石防護柵
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   E01F7/04
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-138728(P2012-138728)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-1584(P2014-1584A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−097274(JP,A)
【文献】 特開2011−032829(JP,A)
【文献】 特開2009−144472(JP,A)
【文献】 特開2007−023566(JP,A)
【文献】 特開2003−105721(JP,A)
【文献】 特開平11−286940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/00〜 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に所要の長さ範囲に亘って所定の間隔をおいて地盤に固定された複数の支柱からなる支柱列と、
前記複数の支柱によって支持されることにより張設され、複数のリング状部材を互いに連結することにより構成されたリング式ネットと、
を有する落石防護柵であって、
前記複数の支柱のうち少なくとも2つの支柱の間に、該少なくとも2つの支柱の一端の支柱から他端の支柱にかけて前記リング式ネットの上辺と下辺の間の高さ位置で張架された補助ロープと、
落石による負荷が加えられたときに前記補助ロープの所定範囲の伸びを許容する緩衝手段と、
を有し、
前記リング式ネットは、前記複数の支柱のうち両端の2本の支柱間では、該両端の2本の支柱間の間に配置された支柱よりも谷側に設けられ、
前記補助ロープは、前記リング式ネットの谷側に設けられ、
前記リング状部材を構成する線材は、引張強度が500〜2000N/mmの鋼線であることを特徴とする落石防護柵。
【請求項2】
前記補助ロープは、引張強度が500〜2000N/mmのワイヤーであることを特徴とする請求項1に記載の落石防護柵
【請求項3】
前記補助ロープは、前記リング式ネットのリング状部材と連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の落石防護柵。
【請求項4】
前記補助ロープは、前記支柱列の横方向全域に亘って設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の落石防護柵。
【請求項5】
前記補助ロープは、前記複数の支柱のうち隣り合う2本の支柱間に、その一方の支柱から他方の支柱にかけて張架されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の落石防護柵。
【請求項6】
前記補助ロープは、前記複数の支柱のうち両端の2本の支柱間に、その一方の支柱から他方の支柱にかけて張架されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の落石防護柵。
【請求項7】
前記補助ロープ及び前記緩衝手段が、前記リング式ネットに落石による負荷が加えられたときの最大変位を許容できる構成とされていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の落石防護柵。
【請求項8】
前記補助ロープは、所定高さ位置で略水平方向に張架されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の落石防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石を捕捉するために山の斜面に設置される落石防護柵に関し、特にリング式ネットを用いた落石防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から山の斜面における落石による災害は頻発している。斜面の近隣に居住する住民は常に災害と直面した状況にあり、斜面における落石に対する防護対策を講じることが極めて重要となっている。
【0003】
落石に対する防護対策としては、例えば特許文献1に記載の落石防護柵が知られている。この落石防護柵は、所定間隔で設置された支柱によって網状体が張設された防護柵であり、網状体として使用される高性能のリング式ネットにより斜面を落下する落石を捕捉するものである。
【0004】
リング式ネットは通常、1個のリング状部材がそれぞれ周囲のリング状部材と交差して連結された状態にあり、所定の広がりを持つように網状に形成されている。また、通常、1個のリング状部材は直径15cm〜50cm程度の大きさを有し、鋼線材にて形成されている。素線径が直径3mmから4mmの線材を複数回巻回して形成され、引張強度が500〜2000N/mm2となっている。
【0005】
このようなリング式ネットは、落石における大きなエネルギーの吸収に極めて優れている。すなわち、落石がリング式ネットに接触すると、まず互いに連結されたリング状部材同士の交点に荷重が掛かった後、リング状部材がリング状から四角形や六角形等の多角形へ塑性変形し、次いで、図15の側面図に示しているように、リング式ネット30の落石200衝突部分が落石を受け止める側とは反対方向に膨出変形することにより、落石の衝突エネルギーが吸収され、落石が捕捉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−88704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、リング式ネットを用いた落石防護柵では、一度落石を捕捉するとリング状部材31(図15参照)が変形することから、変形したリング状部材は新たなリング状部材に交換する必要がある。しかしながら、急斜面に設置されることが多い落石防護柵において、リング状部材を交換する作業は危険を伴うだけでなく、変形した各リング状部材を一つずつ交換する作業は長時間を要するため、上記リング式ネットを用いた落石防護柵はメンテナンスの点から十分とはいえない。
【0008】
また、リング式ネットは、落石を捕捉したときの膨出変形を考慮して山の傾斜方向に広い領域をとって設置する必要があり、設置場所が限られることから、落石捕捉時の変形を可能な限り小さくすることが望まれている。一方で、落石防護柵には依然として耐衝撃力の更なる向上が求められている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リング式ネットの機能を損なうことなく、メンテナンス性が高く、落石捕捉時の変形量が小さく、耐衝撃力が向上した落石防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため請求項1に記載の落石防護柵は、
斜面に所要の長さ範囲に亘って所定の間隔をおいて地盤に固定された複数の支柱からなる支柱列と、
前記複数の支柱によって支持されることにより張設され、複数のリング状部材を互いに連結することにより構成されたリング式ネットと、
を有する落石防護柵であって、
前記複数の支柱のうち少なくとも2つの支柱の間に、該少なくとも2つの支柱の一端の支柱から他端の支柱にかけて前記リング式ネットの上辺と下辺の間の高さ位置で張架された補助ロープと、
落石による負荷が加えられたときに前記補助ロープの所定範囲の伸びを許容する緩衝手段と、
を有し、
前記リング式ネットは、前記複数の支柱のうち両端の2本の支柱間では、該両端の2本の支柱間の間に配置された支柱よりも谷側に設けられ、
前記補助ロープは、前記リング式ネットの谷側に設けられ、
前記リング状部材を構成する線材は、引張強度が500〜2000N/mmの鋼線であることを特徴とする。
【0011】
上述したように、リング式ネットは段階的なプロセスを経て初めて十分な抵抗力を発揮する。すなわち、リング式ネットの抵抗力は、落石衝突直後から一定程度変形するまではほぼない状態にあり、その後変位が増加するにつれて次第に大きくなり、更に落石停止直前に最大となる特徴を有しており、積算抵抗力が落石を停止させるのに足りる量に達した時に落石が停止する。そのため、リング式ネットは、その特徴を発揮するには、落石が衝突してから一定の時間を要するものである。
【0012】
上記請求項1の構成によれば、落石が落石防護柵に接触すると、落石衝突直後においては、主に補助ロープにより落石の衝突エネルギーが吸収される作用が生じる。次いで、リング式ネットの変位が増加するにつれて、補助ロープとリング式ネット双方により衝突エネルギーが吸収される。
【0013】
これにより、落石防護柵全体の抵抗力は、落石衝突直後から直ちに増え、その後落石停止まで上昇していくので、従来よりも早い段階で積算抵抗力が落石を捕捉するのに足りる量に達する。
【0014】
したがって、落石を捕捉したとしても、リング状部材の変形はリング式ネット単体の場
合よりも小さな程度で収まることから、その結果、リング式ネットとしての性能がその後
別の落石を捕捉するのに十分である場合には、リング状部材自体の交換は必要とならず、
補助ロープの交換だけで済むため、落石防護柵のメンテナンス性が向上する。また、変形
量が少なくなれば山の傾斜方向に場所を取らず設置できるので、設置可能領域が狭い場所
においても落石防護柵を設置することが可能である。他方で、落石の衝突エネルギーの一
部は補助ロープによって吸収されることから、その分本発明の落石防護柵はリング式ネッ
ト単体よりも耐衝撃性が向上したものとなる。そして、仮に補助ロープをリング式ネットの山側に設置した場合、補助ロープのない箇所を落石がすり抜けてそのままリング式ネットに直接衝突するのを避けるために多数の補助ロープを設置する必要が生じるが、上記構成によれば、落石がリング式ネットに衝突すると必ず補助ロープにも負荷が加えられ、その作用が発揮されるので、落石を受け止める側に設置する場合と比較して設置する補助ロープの本数を減らすことができ、更なるメンテナンス性の向上が図られる。
【0015】
請求項2に記載の落石防護柵は、補助ロープが、引張強度が500〜2000N/mmのワイヤーであることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の落石防護柵は、前記補助ロープは、前記リング式ネットのリング状部材と連結されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、落石の衝突の衝撃で補助ロープの位置がずれることを防止できるので、補助ロープは張架された所定の位置で落石に対する抵抗力を確実に付与することができる。
【0019】
請求項4に記載の落石防護柵は、前記補助ロープは、前記支柱列の横方向全域に亘って設けられていることを特徴とする。この構成によれば、落石防護柵のどの部分に落石が衝突したとしても、横方向全域に存在する補助ロープによってその抵抗力が付与される。
【0020】
請求項5に記載の落石防護柵は、前記補助ロープは、前記複数の支柱のうち隣り合う2本の支柱間に、その一方の支柱から他方の支柱にかけて張架されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、落石捕捉の際、落石防護柵全体のうち隣り合う2本の支柱間の落石捕捉部分に集中して負荷がかかり、その負荷をその支柱間に張架された補助ロープの抵抗力によって減じることができることから、リング式ネットのリング状部材の変形を更に抑えることが可能である。また、落石補足後、その捕捉した支柱間に張架された補助ロープのみを交換すればよく、メンテナンス性の更なる向上が図られる。
【0022】
請求項6に記載の落石防護柵は、前記補助ロープは、前記複数の支柱のうち両端の2本の支柱間に、その一方の支柱から他方の支柱にかけて張架されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、支柱列の端から端にかけて最低一本のロープを横架することのみで本発明の落石防護柵を構築することができるので、その施工が簡易なものとなり、費用も最小限に抑えられる。
【0024】
請求項7に記載の落石防護柵は、前記補助ロープ及び前記緩衝手段が、前記リング式ネットに落石による負荷が加えられたときの最大変位を許容できる構成とされていることを特徴とする。この構成によれば、落石を捕捉する過程で補助ロープが破断せずに落石停止まで継続して抵抗力が付与することができ、リング状部材の変形防止効果をより一層確実に得ることができる。
【0025】
請求項8に記載の落石防護柵は、前記補助ロープは、所定高さ位置で略水平方向に張架されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、落石衝突時にその負荷が偏りなく補助ロープに加えられるので的確な抵抗力をもって落石の衝突エネルギーを吸収することができる。また、略水平方向であれば厳密な設計等を要しないので簡易な作業で補助ロープを設置し、落石防護柵を構築することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の落石防護柵によれば、落石捕捉時にリング状部材の変形はリング式ネット単体の場合よりも小さな程度で収まることから、その結果、リング式ネットとしての性能がその後別の落石を捕捉するのに十分である場合には、リング状部材自体の交換は必要とならず、補助ロープの交換だけで済むため、リング式ネットの機能を損なうことなくメンテナンス性の高い落石防護柵を提供することができる。また、本発明の落石防護柵は、設置可能領域が狭い場合であっても設置可能であり、耐衝撃性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の落石防護柵の実施の形態の一例を示す全体図である。
図2】落石防護柵の落石捕捉時における変位と積算抵抗力の関係を示すグラフである。
図3】緩衝手段の一例を示す説明図である。
図4】緩衝手段の他の例を示す説明図である。
図5図4に示した緩衝手段を用いた落石防護柵を示す全体図である。
図6】補助ロープをリング状部材と連結させた例を示す説明図である。
図7】補助ロープの設置例を示す平面図である。
図8】リング式ネットの例を示す説明図である。
図9】リング式ネットに用いられる連結具の一例を示す説明図である。
図10】リング状部材の説明図である。
図11】本発明の落石防護柵の実施の形態の他の例を示す説明図である。
図12】本発明の落石防護柵の実施の形態の他の例を示す説明図である。
図13】落石防護柵の捕捉挙動を示す説明図である。
図14】リング式ネット単体での落石捕捉挙動を示す説明図である。
図15】従来の落石防護柵による落石捕捉時のリング式ネットの共同を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は実施の形態の一例に係る落石防護柵を示す全体図である。図示のように、複数設置される支柱12−1〜12−nは、斜面のほぼ等しい高さ位置に所要の長さ範囲に亘って所定間隔をおいて地盤に固定されており、1つの支柱列を構成している。支柱12−1〜nは、斜面に固設された土台14にヒンジ16を介して取り付けられており、ヒンジ16によって支柱12は少なくとも谷側(山側とは反対側)へ傾動することにより傾斜可能な状態とされている。一般に支柱12−1〜nの高さは約2m〜5mで、設置間隔は約5m〜10mであり、それらサイズや支柱列の長さは斜面の規模や状況によって適宜選択される。
【0030】
支柱列には、上部サポートロープ18及び下部サポートロープ20が横架されており、この上部サポートロープ18と下部サポートロープ20を介してリング式ネット30が複数の支柱12−1〜nによって支持されることにより張設されている。
【0031】
上側サポートロープ18は、アンカー40−1から両端の支柱12−1、12−nの上部を経て、アンカー40−2まで張架されている。また、下側サポートロープ20は、アンカー42−1から、各支柱12−1〜nの下部を経て、アンカー42−2まで張架されている。また、一端が支柱12−2、12−3の上部に接続され、他端が上部サポートロープ18に接続された支持ロープ28により、上側サポートロープ18が下方に垂れ下がらずに所定の高さで維持されている。アンカー40−1、40−2、42−1、42−2は一般的に使用される地盤に固設されるアンカーである。
【0032】
支柱列の複数の支柱12−1〜12−nのうち、両端の支柱を除く内側の支柱12−2、12−3の上部から、山肌の地盤に固設されたアンカー44には保持ロープ26が張架されている。保持ロープ26は各支柱12−2、12−3につき2本ずつ設けられており、支柱12−2、12−3を安定的に立設し、その傾動動作を調整する役割を有する。
【0033】
上側サポートロープ18、下側サポートロープ20、保持ロープ26、支持ロープ28には緩衝手段80が設けられてあり、これにより落石衝突時の突発的な衝撃力が吸収され、各ロープの破断が防止される。緩衝手段80の具体的構成は後に説明する図3の符号50で示した緩衝手段と同様である。
【0034】
リング式ネット30は、複数のリング状部材31を隣り合う複数のリング状部材31と互いに連結することにより構成された網状体であり、全体として略矩形状の形状として張設されている。
【0035】
本発明において特徴的な構成は、複数の支柱12−1〜nのうち少なくとも2つの支柱の間に、その一端の支柱12−1から他端の支柱12−nにかけてリング式ネット30の上辺30aと下辺30bの間の高さ位置で張架された補助ロープ32と、落石による負荷が加えられたときに補助ロープ32の所定範囲の伸びを許容する緩衝手段50とを有することである。図示のように、本実施の形態では、支柱列の複数の支柱12−1〜nのうち両端の2本の支柱12−1、12−n間に3本の補助ロープ32がその一方の支柱12−1から他方の支柱12−nにかけて横架されている。
【0036】
上述したように、リング式ネット30自体は段階的なプロセスを経て初めて十分な抵抗力を発揮する。すなわち、図2(a)に示されているように、リング式ネット30単体の抵抗力は、落石衝突直後から一定程度変形するまではほぼない状態にあり、その後変位が増加するにつれて次第に高くなり、更に落石停止直前に最大となる特徴を有している。そして、積算抵抗力が落石を停止させるのに足りる量に達した時に落石が停止する。
【0037】
上記特徴的構成によれば、図2(b)に示されているように、落石衝突直後においては、主に補助ロープ32により落石の衝突エネルギーが吸収される作用が生じる(図2(b)においてAで示した部分がリング式ネットによる抵抗力、Bで示した部分が補助ロープによる抵抗力である)。次いで、リング式ネット30の変位が増加するにつれて、補助ロープ32とリング式ネット32双方により衝撃エネルギーが吸収される。
【0038】
これにより、落石防護柵10全体の抵抗力は、落石衝突直後から直ちに増え、その後落石停止まで上昇していくので、従来よりも早い段階で積算抵抗力が落石を捕捉するのに足りる量に達する。
【0039】
図2(c)は落石捕捉過程におけるリング式ネットと補助ロープの抵抗力の大小の関係を示しており、落石が衝突してから交点XまではBに示す補助ロープがメインとして落石の衝撃力を吸収し、交点Xの後以降落石停止まではAで示したリング式ネットをメインとして落石の衝撃力が吸収される。
【0040】
以上のように、本発明の落石防護柵は落石を捕捉したとしても、リング状部材の変形はリング式ネット単体の場合よりも小さな程度で収まり、その結果、リング式ネットとしての性能がその後別の落石を捕捉するのに十分である場合には、リング状部材自体の交換は必要とならず、補助ロープ32の交換だけで済むため、メンテナンス性に優れたものとなっている。また、変形量が少なくなれば山の傾斜方向に場所を取らず設置できるので、設置可能領域が狭い場所においても落石防護柵を設置することが可能である。他方で、落石の衝突エネルギーの一部は補助ロープによって吸収されることから、その分本発明の落石防護柵はリング式ネット単体よりも耐衝撃性が向上している。
【0041】
図1に示す例では、補助ロープ32は上下に3本設置されており、それぞれ支柱12−1、12−nの側部に設けられた固定部材36により一定の張力をもって架け渡されている。補助ロープ32には両端部近傍にそれぞれ緩衝手段50が設けられている。
【0042】
この緩衝手段50は、その詳細図である図3に示すように、補助ロープ32が二本挿通可能な孔部52aを有する金属製の緊締部材52に、補助ロープ32を先ず挿通させ、その補助ロープ32を環状にひと巻きした後、再度同じ方向から孔部52aに補助ロープ32を挿通させ、緊締部材52bをかしめることにより、挿通させた補助ロープ32に固着させた構成を有する。よって、孔部52a中において、補助ロープ32は相互に摩擦接触する構成となっている。
【0043】
そして、落石による衝撃エネルギーが補助ロープ32に伝達すると、孔部52a内において補助ロープ32相互間及び補助ロープ32と緊締部材52間に生じる摩擦によって落石のエネルギーが吸収される。この動作により、緩衝手段50の環状部分が縮径し、縮径した分の補助ロープ32が落石防護柵10の中央方向(図1参照)にずれ込むことにより、落石に対する抵抗力が上昇する。補助ロープ32の環状部分の大きさは所望とする緩衝作用を得るために適宜変更可能であり、大きな緩衝作用を必要とする場合には環状部分を大きくすればよい。
【0044】
緩衝手段は図3に示す例だけでなくあらゆるものを使用することができる。図4は、緩衝手段の他の例を示す斜視図である。この緩衝手段54は、2枚の板状部材55、56を有し、補助ロープ32と、支柱(図5参照)と連結される連結ロープ57が2枚の板状部材55、56で挟持されており、2枚の板状部材55、56は締結部材58で強固に重ね合わされた状態とされている。2枚の板状部材のうち一方の板状部材55は平板状の板状部材とされており、他方の板状部材56は、平板状の板状部材55と重ね合わせた時に補助ロープ32と連結ロープ57が挿通される断面円弧状の挿通用部56aが形成されている。符号59で示した部材は、緩衝手段54の取り付け時に緩衝手段54が連結ロープ57から抜け落ちないように連結ロープ57の端部に設けられる留め具である。
【0045】
補助ロープ32は通常の状態では緩衝手段54に強く固定されている状態であり、落石による負荷が加えられると補助ロープ32は板状部材55、56との摩擦力によって補助ロープ32が抜ける方向にずれ移動することにより、落石の衝撃力が緩衝されるとともに抵抗力が上昇する。
【0046】
図4に示した緩衝手段54を使用した本発明の落石防護柵の例を図5に示している。図示のように、両端の支柱12−1、12−nにはそれぞれ3つの緩衝手段54が連結ロープ57(図4参照)によって備え付けられており、補助ロープ32の支柱12−1、12−n近傍の位置にその緩衝手段54が取り付けられている。補助ロープ32の側部は、支柱12−1、12−nからそれぞれ支柱12−1、12−n間に対して外方に所定長さ延出した延出部32a、32bを有しており、その両端は自由端とされている。落石が接触して負荷が加えられると、補助ロープ32の延出部32a、32bが緩衝手段54を介して支柱12−1、12−n間側にずれ込むことによってその衝突エネルギーが緩衝される。
【0047】
図1及び図5に示した補助ロープ32及び緩衝手段50、54は、リング式ネット30に落石による負荷が加えられたときの最大変位を許容できる構成とされていることが好ましい。これは、リング式ネット30の性能、高さ及び設置範囲を考慮して、上記した緩衝手段50の環状部分の大きさや緩衝手段54の固定程度、補助ロープ32の延出部32a、32bの長さ等を調整することにより設定される。具体的には、リング式ネット30が最大に変形した状態の膨出形状の外縁長さよりも、補助ロープ32が最大に伸びた状態の長さの方が長くなるように構成する。これにより、落石を捕捉する過程で補助ロープ32が破断せずに落石停止まで継続して抵抗力が付与することができ、リング状部材31の変形防止効果をより一層確実に得ることができる。
【0048】
図1に示されているように、補助ロープ32は、所定高さ位置で略水平方向に張架されている。これにより、落石衝突時にその負荷が偏りなく補助ロープに加えられるので的確な抵抗力をもって落石を捕捉することができる。補助ロープ32としては剛性を有するワイヤー等を使用することができ、例えば引張強度が500〜2000N/mm2であり、径は1〜4cmのものが好適に用いられる。
【0049】
補助ロープ32はシャックルやワイヤークリップ等の連結部材によってリング式ネット30のリング状部材31と連結(好ましくは動的に連結)されていてもよい。連結部材によって連結された例を図6に示している。本図では、補助ロープ32とリング状部材31が交差する箇所全てに連結部材70で連結した例を示しているが、連結箇所数は制限されず、補助ロープ32の張架位置が維持できる程度あればよい。
【0050】
補助ロープ32とリング状部材31を連結することにより、リング式ネット30の張設範囲が長い場合であっても、補助ロープ32が下方に垂れ下がらずに、一定の張力をもたせて架け渡すことができる。また、落石衝突時に補助ロープの位置が移動することが防止され、落石捕捉時に的確な抵抗力を付与することができる。
【0051】
補助ロープ32は、図1に示した略水平方向だけでなく、図7(B)の正面図に示されているように、横方向で高さ位置を変えて張架してもよい。この例では、2本のロープが相反する角度で傾斜して張架され、中途位置において交差している。また、図7(C)に示されているように、補助ロープはジグザグ状として張架されていてもよい。この例では、3本の補助ロープが使用されており、そのうち2本が水平方向に張架され、残りの一本が水平方向の2本のロープの間でジグザグ状に架け渡されている。ジグザグ状の山部と谷部において、リング式ネット30のリング状部材31と連結される。連結はシャックル等で行うことができる。なお、図7(A)は図1の落石防護柵10の正面図である。
【0052】
図1では、補助ロープ32を上下に3本張架した例を示しているが、必要に応じて(リング式ネットの高さやリング状部材の大きさに応じて)適宜増減することができ、具体的には例えば1〜10本である。間隔は特に制限されないが、例えば30cm〜1mでよい。
【0053】
また、図1に示した実施の形態では補助ロープ32はリング式ネット30の谷側に設けられているが、リング式ネット30の山側に設けられていてもよい。しかしながら、山側に設ける場合には、落下してくる落石が隣り合う補助ロープ32の間をすり抜けてリング式ネット30に直接接触し、補助ロープを含めた落石捕捉効果を得られない恐れがあるため、間隔をより密にして多数の補助ロープを設ける必要がある。一方、谷側に補助ロープを設ければ、このようなすり抜けは起こり得ず、落石はまずリング式ネットに接触した後、間接的に補助ロープ32に負荷が加えられることになる。そのため、谷側に補助ロープ32を設置する場合は補助ロープを密に設置する必要がなく、少ない部材で本発明の落石防護柵を構成できる。
【0054】
次にリング式ネットの詳細について説明する。リング式ネットは複数のリング状部材が互いに直接的又は間接的に連結されて構成されるものである。
【0055】
図8(A)は、リング式ネットの一例を示す説明図である。このリング式ネット30−1は多数のリング状部材31を、それぞれ隣り合うリング状部材が内周側で接触して係合するよう、相互に直接的に連結することによって構成されている。
【0056】
図8(B)は、リング式ネットの他の例を示す説明図である。このリング式ネット30−2では、縦方向に連なっていて相互に直接的な連結状態にないリング状部材31によって形成されている縦リング状部材列46a,46c,46e,46g,46i中の2つの隣り合うリング状部材31が連結具60によって互いに連結されている。
【0057】
図8(C)は、リング式ネットの他の例を示す説明図である。このリング式ネット30−3では、縦リング状部材列46a,46c,46e,46g,46iでは1つ置きの2つのリング状部材31が連結具60によって互いに連結され、縦リング状部材列46b,46d,46f,46hでは隣り合う2つのリング状部材31が連結具60によって互いに連結されている。
【0058】
図9は上記連結具60の一例を示している。この連結具は、ブレーキリング61と、このブレーキリングの両端部に連接した直線部62−1、62−2と、ブレーキリング端部から直線部へ移行する部分で互いに交差している両端部を掴んでいるクリップ63とを有している。直線部62−1、62−2の先端はそれぞれループ64、65及びシャックル66を介してリング状部材31と連結されている。
【0059】
落石が衝突したリング部材31が互いに反対方向へ引っ張られる方向の作用が加えられたとき、ブレーキリング61の縮径が生じることによって衝突エネルギーが吸収されながらリング状部材31が互いに離間する。ブレーキリング61としては上述した緩衝手段50と同じ構成物を使用することができる。
【0060】
例示したリング式ネット30−1、30−2、30−3において、各リング状部材31は、図10に示しているように、鋼線である線材を複数(5〜12回)巻回し、周方向の数ヶ所を締結手段31aによって締め付けて形成されている。締結手段31aは、例えば側面形状がC字状の略筒状の金具であって、粗の開放部を通して線材側に嵌めた後に、締め付け工具によって固定される。線材の巻数を加減することにより、或いは線材の太さを選定することにより、リング状部材31の強度やエネルギー吸収力を調整することが可能である。リング状部材31は、種々の材料で製作することが可能であり、例えば、スチールの他、炭素繊維やアラミド繊維などの鋼線材を用いることができる。巻回した複数本の素線の束を円周のうちの数箇所クリップにより強固に結束して製作されたものを使用することができる。例えば、1個のリング状部材31は直径15cm〜50cm程度の大きさを有し、素線径は直径3mmから4mmであり、引張強度が500〜2000N/mm2である。
【0061】
図11は、本発明の落石防護柵の他の実施の形態を示す斜視図である。本実施の形態において、補助ロープ及び緩衝手段以外の構成(支柱12、リング式ネット30、上側サポートロープ18、下側サポートロープ20保持ロープ26、支持ロープ28の構成)は図1の実施の形態と同様である。
【0062】
本実施の形態において特徴的なことは、複数の支柱12−1〜12−nのうち隣り合う2本の支柱間に補助ロープ62−1〜62−3がその一方の支柱から他方の支柱かけて張架されていることである。本例では、隣り合う2本の支柱間毎に補助ロープが張架されており、具体的には、支柱12−1と支柱12−2の間、支柱12−2と支柱12−3の間、支柱12−3と支柱12−nの間にそれぞれ、補助ロープ62−1、62−2、62−3が張架されている。それぞれの支柱12−1〜nの側面には固定部材36が3個ずつ設けられており、この固定部材36によって各補助ロープ62−1、62−2、62−3が水平方向に張架されている。各補助ロープ62−1〜62−3はその両端近傍にそれぞれ図3で示した緩衝手段50が設けられている。
【0063】
このような構成とすることにより、落石捕捉の際、リング式ネット30全体のうち隣り合う2本の支柱間の落石捕捉部分に集中して負荷がかかり、その負荷をその支柱間に張架された補助ロープの抵抗力によって減じることができることから、リング式ネット30のリング状部材31の変形を更に抑えることが可能である。また、落石補足後、その支柱間に張架された補助ロープのみ(62−1、62−2又は62−3)を交換すればよく、メンテナンス性の更なる向上が図られる。
【0064】
図12は、本発明の落石防護柵の他の実施の形態を示す全体図である。本実施の形態では、3本設けられている補助ロープ32は、両端の支柱12−1及び12−nの間を横架するように支柱12−1、12−nの側部(側面)に設けられた係止部72を介して一定の張力をもって架け渡されている。補助ロープ32は、2つの支柱12−1、12−n間側に対して外方に延出する延出部32a、32bをそれぞれ有し、その両端は山の斜面の地盤に固設されたアンカー42−1、42−2に連結されて固定端とされている。そして、補助ロープ32には緩衝手段50が設けられてあり、この緩衝手段50により落石の衝撃力が緩衝されるとともに抵抗力が上昇するようになっている。
【0065】
次に、図13を参照して本発明の落石防護柵による落石捕捉時の挙動を説明する。図1に示した落石防護柵10が落石を捕捉する直前の状態を上から見た図を(A)に示しており、落石を捕捉する過程を(B)及び(C)に示している。説明の都合上、リング式ネット30、補助ロープ32、支柱12−1〜12−n、支持ロープ28及び固定部材36以外の部材は図示していない。リング式ネット30は最も変形した部分のみを破線で示している。
【0066】
図13(B)では落石が接触してから主に補助ロープ32による衝撃力の吸収が行われる様子を示している。その後の状態を示す図13(C)では、主にリング式ネット30により衝撃力の吸収が行われ、落石が停止する様子を示している。図13(B)の状態においては、リング式ネット30は、落石の衝撃力を吸収するというよりむしろ、各補助ロープ32の隙間を落石がすり抜けないようにその位置で保持する役割の方が大きい。
【0067】
リング式ネット30単体で落石を補足した状態を上から見た図14の場合と比較して、補助ロープ32を備えている図13(C)の場合はリング式ネットの変形は小さいことが示されている。なお、本図においては図1で示した緩衝手段50は図示していないが、図13(A)から(C)にかけて補助ロープ32の抵抗力が上昇するに従い緩衝手段50の環状部分が漸次縮径する。
【0068】
そして、リング式ネット30及び補助ロープによる捕捉とともに、図1に示した支柱12−1〜nの傾動動作も行われる。すなわち、落石がリング式ネット30及び補助ロープ32に接触することにより、支柱12−1〜nが傾斜する力が作用すると、その力は保持ロープ26に伝達される。保持ロープ26に伝達した力が緩衝手段80によって緩衝されることにより、傾動可能な支柱12−1〜nが谷側に傾斜する。その後、緩衝手段80の緩衝作用の限度に達すると保持ロープ26の張力によって支柱12−1〜nは一定の傾斜状態で維持されて、落石はリング式ネット30及び補助ロープ32によって捕捉される。
【0069】
上記した実施の形態では、補助ロープは支柱列の横方向全域に亘って設けられており、複数の支柱12−1〜nによって張設されたリング式ネット30の全域に補助ロープ32が架け渡されている構成とされている。これにより、落石防護柵のどの部分に落石が衝突したとしても、横方向全域に存在する補助ロープによってその抵抗力が付与される。一方で、落石防護柵全体のうち、落石が通過する可能性が高い箇所を予測してその領域のみに部分的に補助ロープを設置する構成としてもよい。
【0070】
本発明の落石防護柵は、上記説明した実施の形態に限定されることはなく、種々の変更が可能である。例えば、図1に示した両端の支柱12−1、12−n間に張架されるタイプの補助ロープと、図11に示した隣り合う2つの支柱間毎に張架されるタイプの補助ロープとを組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 落石防護柵
12 支柱
14 土台
16 ヒンジ
18 上側サポートロープ
20 下側サポートロープ
22、24 板状部材
26 保持ロープ
28 支持ロープ
30 リング式ネット
31 リング状部材
32 補助ロープ
36 固定部材
40−1、40−2 アンカー
42−1、42−2 アンカー
44 アンカー
50 緩衝手段
52a 緊締部材
54 緩衝手段
55、56 板状部材
57 連結ロープ
58 締結部材
59 止め具
60 連結具
62−1、62−2、62−3 補助ロープ
70 連結部材
72 係止部
80 緩衝手段
110、210、310 落石防護柵
200 落石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15