(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも一端が開放された筒状の引張PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が挿入され前記引張PC鋼棒の緊張力が緊張保持部材で保持されるPC鋼棒ユニットの緊張力を検査するPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法であって、
前記PC鋼棒ユニットを外部からの振動が伝達されない状態で被設置部材に静置するユニット設置工程と、
前記PC鋼棒ユニットに振動を付与するユニット振動付与工程と、
前記PC鋼棒ユニットの振動に基づく振幅スペクトルを検出し前記PC鋼棒ユニットの固有振動数を測定する固有振動数測定工程と、
前記PC鋼棒ユニットのユニット長を測定するユニット長測定工程と、
前記PC鋼棒ユニットの固有振動数とユニット長から等価弾性波速度を求める等価弾性波速度演算工程と、
前記等価弾性波速度に基づいて前記PC鋼棒ユニットの緊張力を判定する緊張力判定工程と、
を備えたことを特徴とするPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法。
少なくとも一端が開放された筒状の引張PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が挿入され前記引張PC鋼棒の緊張力が緊張保持部材で保持されるPC鋼棒ユニットの緊張力を検査するPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置であって、
前記PC鋼棒ユニットを外部からの振動が伝達されない状態で静置するための被設置部材と、
前記PC鋼棒ユニットに振動を付与するユニット振動付与装置と、
前記PC鋼棒ユニットの振動に基づく振幅スペクトルを検出し前記PC鋼棒ユニットの固有振動数を測定する固有振動数測定装置と、
前記PC鋼棒ユニットのユニット長を測定するユニット長測定装置と、
前記PC鋼棒ユニットの固有振動数とユニット長から等価弾性波速度を求める等価弾性波速度演算部と、
前記等価弾性波速度に基づいて前記PC鋼棒ユニットの緊張力を判定する緊張力判定部と、
を備えたことを特徴とするPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で示される従来例では、PC鋼棒ユニットの緊張力が工場にて正確に導入されるので、施工現場での緊張力の導入や管理は不要であるが、施工現場において、PC鋼棒ユニットを設置する前に、緊張力を確認したいという要望がある。しかし、現在では、施工現場において、PC鋼棒ユニットに導入される緊張力を判定するための簡易な方法がない。
【0007】
そこで、PC鋼棒ユニットの緊張力を検査するために、中空PC鋼棒にひずみゲージを貼付する方法や、緊張力を開放し、その際の荷重を測定する方法が考えられる。
中空PC鋼棒にひずみゲージを貼付する方法はひずみゲージを貼付する以外に、緊張力導入、運搬、保管、設置までの期間を通じてひずみゲージを保護する必要があり、簡易な方法とは言えない。
緊張力を開放する方法では、緊張力を開放したPC鋼棒ユニットに施工現場で再度緊張力を正確に導入しなければならず、手間がかかる。特に、施工現場では、PC鋼棒ユニットに緊張力を導入する設備が整っているとは限らない。
【0008】
さらに、特許文献2の技術を利用してPC鋼棒ユニットの緊張力を検査する方法も考えられる。しかし、特許文献2では、1本のロッド部材を前提としており、そのままPC鋼棒ユニットに利用できるものではない。
つまり、PC鋼棒ユニットは、中空PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が設けられた二重構造であるため、外側に配置された中空PC鋼棒をハンマーで打撃すると、中空PC鋼棒の振動だけでなく、内部に配置される反力PC鋼棒の振動も合わせて測定されることになり、正確な緊張力の評価が行えない。
【0009】
本発明の目的は、PC鋼棒ユニットの緊張力の検査を簡易な方法で正確に行うことができるPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法、PC鋼棒ユニットの緊張力検査装置及びユニット振動付与装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法は、少なくとも一端が開放された筒状の引張PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が挿入され前記引張PC鋼棒の緊張力が緊張保持部材で保持されるPC鋼棒ユニットの緊張力を検査するPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法であって、前記PC鋼棒ユニットを外部からの振動が伝達されない状態で被設置部材に静置するユニット設置工程と、前記PC鋼棒ユニットに振動を付与するユニット振動付与工程と、前記PC鋼棒ユニットの振動に基づく振幅スペクトルを検出し前記PC鋼棒ユニットの固有振動数を測定する固有振動数測定工程と、前記PC鋼棒ユニットのユニット長を測定するユニット長測定工程と、前記PC鋼棒ユニットの固有振動数とユニット長から等価弾性波速度を求める等価弾性波速度演算工程と、前記等価弾性波速度に基づいて前記PC鋼棒ユニットの緊張力を判定する緊張力判定工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成のPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法では、ユニット設置工程によって、PC鋼棒ユニットを外部からの振動が伝達されない状態で被設置部材に静置し、その後、ユニット振動付与工程によって、PC鋼棒ユニットに振動を付与する。この状態では、PC鋼棒ユニットに付与されるのは、ユニット振動付与工程によるものであり、被設置部材からの振動は付与されない。
その後、固有振動数測定工程とユニット長測定工程とを実施する。固有振動数測定工程では、加速度センサー等を用いて、PC鋼棒ユニットに付与される振動に基づく固有振動数を測定し、ユニット長測定工程では、PC鋼棒ユニットのユニット長をメジャー等の適宜な測長装置を用いて測定する。さらに、固有振動数測定工程によって測定されたPC鋼棒ユニットの固有振動数と、ユニット長測定工程で測定されたPC鋼棒ユニットのユニット長とから等価弾性波速度を等価弾性波速度演算工程で演算する。緊張力判定工程では、演算結果の等価弾性波速度を、サンプル等を用いて予め求められた等価弾性波速度と対比して、緊張力が正しく導入されているか否かを判定する。さらに、緊張力判定工程では、ユニット長測定工程で実測されたPC鋼棒ユニットのユニット長を、サンプル等を用いて予め求められたユニット長と緊張力との関係のグラフと対比して、PC鋼棒ユニットに導入される緊張力が適正か否かを判定する。
そのため、本発明では、PC鋼棒ユニットが引張PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が挿入される二重構造であっても、PC鋼棒ユニットの表面に打撃を与えてかつユニット長を測定するという簡易な方法で、適正に緊張力を評価することができる。さらに、本発明では、PC鋼棒ユニットが製造された時点で緊張力検査のために歪みゲージ等の検査治具をPC鋼棒ユニットに取り付ける必要がなく、検査治具を取り付けたままPC鋼棒ユニットを保管、搬送する必要がないので、この点からも検査を簡易に実施することができる。
【0012】
本発明では、前記固有振動数測定工程で検出される振幅スペクトルに基づいて前記固有振動数の減衰状態を測定する減衰測定工程を備え、前記緊張力判定工程では、前記減衰測定工程で測定された減衰状態から緊張力の有無を判定する構成が好ましい。
【0013】
この構成では、PC鋼棒ユニットに緊張力が導入されていない場合と緊張力が導入されている場合とでは、固有振動数の減衰状態が相違するので、減衰状態を緊張力判定工程で判定することで、PC鋼棒ユニットへの緊張力の有無を簡易に判断することができる。
【0014】
本発明では、前記ユニット設置工程は、前記被設置部材が剛性の高い架台であり、前記架台に前記引張PC鋼棒の複数箇所を線状部材で吊す構成が好ましい。
【0015】
この構成では、被設置部材が剛性の高い架台で構成され、かつ、この架台に線状部材を用いてPC鋼棒ユニットを吊すので、PC鋼棒ユニットに外部からの振動が伝達されない環境を容易に作ることができる。そのため、精度の高い緊張力の検査を実現することができる。
【0016】
前記ユニット振動付与工程は、軸部の先端に半球状の打撃部が設けられたハンマーで前記PC鋼棒ユニットの端部表面を軸方向に沿って打撃する構成が好ましい。
【0017】
この構成では、ハンマーの半球状の打撃部でPC鋼棒ユニットの端部表面を打撃することで、PC鋼棒ユニットに正確な振動を付与することができる。そのため、精度の高い緊張力の検査を実施することができる。
【0018】
本発明では、前記固有振動数測定工程は、前記PC鋼棒ユニットを振動させた際の加速度の応答波形を測定する波形測定工程と、前記応答波形のフーリエスペクトルを求める工程と、前記フーリエスペクトルから前記固有振動数を求める工程とを備えた構成が好ましい。
【0019】
この構成では、PC鋼棒ユニットの固有振動数を正確に求めることができるので、精度の高い緊張力の検査を実施することができる。
【0020】
本発明では、前記
減衰測定工程は、前記固有振動数foの振幅から振幅の1/(2
1/2)の点の振動数帯域幅Δf=f
2−f
1を求め、前記振動数帯域幅Δfと固有振動数fo×2との比として減衰定数を求める構成が好ましい。
【0021】
この構成では、固有振動数foの振幅から振動数帯域幅Δfを求め、この振動数帯域幅Δfと固有振動数fo×2との比から減衰定数を求めるので、PC鋼棒ユニットの減衰状態を正確に判定することができる。
【0022】
本発明では、前記ユニット長をL、各次の固有振動数をfi、次数をnとすると、前記
等価弾性波速度演算工程は、各次の等価弾性波速度Viを(1)の式から求める
Vi=2×L×fi/n (1)
構成が好ましい。
【0023】
この構成では、(1)の式から求められる各次の等価弾性波速度Viを用いて、緊張力の検査精度を上げることができる。
【0024】
本発明では、前記緊張力判定工程は、前記
減衰測定工程で予め求められた減衰定数と緊張力との関係、並びに、前記
等価弾性波速度演算工程で予め求められた等価弾性波速度と緊張力との関係から前記PC鋼棒ユニットに導入される緊張力を判定する構成が好ましい。
【0025】
この構成では、固有振動数に基づく減衰定数並びに等価弾性波速度という客観的な数値に基づいて緊張力の判定を正確に実施することができる。
【0026】
本発明のPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置は、少なくとも一端が開放された筒状の引張PC鋼棒の内部に反力PC鋼棒が挿入され前記引張PC鋼棒の緊張力が緊張保持部材で保持されるPC鋼棒ユニットの緊張力を検査するPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置であって、前記PC鋼棒ユニットを外部からの振動が伝達されない状態で静置するための被設置部材と、前記PC鋼棒ユニットに振動を付与するユニット振動付与装置と、前記PC鋼棒ユニットの振動に基づく振幅スペクトルを検出し前記PC鋼棒ユニットの固有振動数を測定する固有振動数測定装置と、前記PC鋼棒ユニットのユニット長を測定するユニット長測定装置と、前記PC鋼棒ユニットの固有振動数とユニット長から等価弾性波速度を求める等価弾性波速度演算部と、前記等価弾性波速度演算部で求められた等価弾性波速度に基づいて前記PC鋼棒ユニットの緊張力を判定する緊張力判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成では、前述の効果を奏することができるPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置を提供することができる。
【0028】
本発明のユニット振動付与装置は、基台と、前記基台に軸部が回動自在に設けられ前記軸部の先端に半球状の打撃部が設けられたハンマーと、前記ハンマーの軸部の一部と前記基台との間に設けられ前記打撃部を前記PC鋼棒ユニットの端部表面に向けて付勢する第一付勢部材と、前記基台と前記軸部の一部とは異なる部位との間に設けられ前記打撃部を前記PC鋼棒ユニットの表面から離反する方向に付勢する第二付勢部材と、前記ハンマーを固定あるいは固定を解除するロック機構と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
この構成では、ロック機構によってハンマーの固定を開放すると、ハンマーが第一付勢部材によって回動して打撃部がPC鋼棒ユニットの端部表面に衝突する。すると、PC鋼棒ユニットに振動が付与され、この振動の信号を適宜処理することで、緊張力の検査が行われる。PC鋼棒ユニットの端部表面に打撃部が衝突したハンマーは、第二付勢部材によって打撃部がPC鋼棒ユニットから離反する方向に付勢される。そのため、ハンマーの打撃部でPC鋼棒ユニットを二度たたきすることがないので、検査を正確に行うことができる。
なお、特許文献2で示される従来例では、既設ロッド部材に打撃を与えるために、既設ロッド部材の露出部分をハンマーで打撃しているが、この構成では、作業員によっては既設ロッド部材に付与する打撃力に相違が生じ、正確な測定ができない。そのため、ハンマーを回動自在に支持し、ばね等の付勢部材の付勢力によってハンマーの先端を既設ロッド部材に衝突させることも考えられるが、これのみでは、既設ロッドに一度衝突したハンマーが付勢部材の付勢力によって再度既設ロッドに衝突するという二度たたきの現象が生じることがあり、測定の正確性を期することができない。さらに、既設ロッド部材は部位によって振動の節や腹があるが、露出する部分をハンマーで打撃するのではそこが振動の節であるのかが不明であり、大きな打撃力を付与できるとは限らない。以上の問題を解決するために、本発明のユニット振動付与装置は前述の構成を採用する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態で用いられるPC鋼棒ユニットが示されている。
図1において、PC鋼棒ユニット1は、一端が開放された筒状の引張PC鋼棒2と、この引張PC鋼棒2の内部に挿入される反力PC鋼棒3と、引張PC鋼棒2の一端部に設けられたエンドホルダー4と、引張PC鋼棒2の緊張力を保持するために引張PC鋼棒2の他端に設けられた緊張保持部材5とを備えた構造である。引張PC鋼棒2と反力PC鋼棒3との間の空間には防錆樹脂が注入されている。
【0032】
引張PC鋼棒2は、内径が所定の口径とされ、かつ、所定の肉厚さとされた中空パイプ形状である。引張PC鋼棒2の内径や厚さは、プレストレスの導入力や引張PC鋼棒2に求められる強度に応じて設定される。
引張PC鋼棒2の両端部には、それぞれ雄ねじ部2Aが形成されている。本実施形態の引張PC鋼棒2では、中央部分には、雄ねじ部が形成されていないが、引張PC鋼棒2の全長に渡って雄ねじ部を形成してもよい。
反力PC鋼棒3は、引張PC鋼棒2の貫通孔に挿通される中実のPC鋼棒であり、その直径は引張PC鋼棒2の口径に応じて設定される。
エンドホルダー4は、反力PC鋼棒の一端部を支持するとともに引張PC鋼棒2の一端側外周に螺合する袋ナット部材である。エンドホルダー4はアンカーナットの定着機能も兼ねている。
緊張保持部材5は、引張PC鋼棒2の他端部外周に螺合される異径スリーブ6と、この異径スリーブ6の内部に挿設されて反力PC鋼棒3の他端面に当接する押込ピース7と、異径スリーブ6の内周に形成された雌めじ部に螺合して押込ピース7を押圧するストッパ8とを備え、ストッパ8を異径スリーブ6から外すことにより、引張PC鋼棒2には収縮しようとする力が作用する。ストッパ8は、その軸方向に沿って孔部8Aが形成される。異径スリーブ6とエンドホルダー4との間にはアンカーナット9が引張PC鋼棒2の外周に螺合されている。
【0033】
以上の構成のPC鋼棒ユニット1において、緊張力を導入するには、エンドホルダー4が一端部に螺合された引張PC鋼棒2の内部に反力PC鋼棒3を挿入するとともに、引張PC鋼棒2と反力PC鋼棒3との間の空間に防錆樹脂を充填する。さらに、引張PC鋼棒2の他端部外周に異径スリーブ6を螺合し、この異径スリーブ6の内部に押込ピース7を挿入し、異径スリーブ6の他端側からストッパ8をねじ込む。この状態で、図示しない圧縮用ロッドをストッパ8の孔部8Aに挿入し、圧縮用ロッドの先端部を押込ピース7に当接させる。圧縮用ロッドの後端を図示しない油圧ジャッキで押し込み、押込ピース7を介して反力PC鋼棒3に圧縮力を付与する。この圧縮力によってエンドホルダー4を介して引張PC鋼棒2に緊張力(引張力)が導入される。そして、ストッパ8をさらにねじ込んで、反力PC鋼棒3が元の長さに戻らないようにする。
このように緊張力が導入されたPC鋼棒ユニット1は、図示しない安全装置を取り付けた後、出荷する。
【0034】
図2には本実施形態にかかるPC鋼棒ユニットの緊張力検査装置10が示されている。
図2において、緊張力検査装置10は、PC鋼棒ユニット1を外部からの振動が伝達されない状態で静置するための被設置部材11と、PC鋼棒ユニット1に振動を付与するユニット振動付与装置12と、PC鋼棒ユニット1の振動を検出する加速度センサー13と、この加速度センサー13からの信号を受信する公知の動歪測定器からなるデーターロガー14と、データーロガー14に接続されるパソコン15と、PC鋼棒ユニット1のユニット長を測定するユニット長測定装置16とを備えて構成されている。
加速度センサー13は、PC鋼棒ユニット1の両端部にそれぞれ取り付けられている。
ユニット長測定装置16はメジャー等の適宜な測長具であり、PC鋼棒ユニット1のうち引張PC鋼棒2の軸方向の長さLを測定するものである。引張PC鋼棒2の長さとして規定されるユニット長のデータは、キーボード、その他の入力手段によりパソコン15に入力される。測長器としてデジタルタイプのものを利用すれば、引張PC鋼棒2のユニット長のデータをパソコン15に自動で入力することができる。
【0035】
被設置部材11は、PC鋼棒ユニット1の長さ方向に沿って複数箇所、図では2箇所設置されており、それぞれ剛性の高い架台111と、この架台111にPC鋼棒ユニット1を吊す線状部材112とを備えている。
架台111は、頂部111Aと、頂部111Aに連結されPC鋼棒ユニット1を挟んで対向配置されたが脚部111Bとを備え、頂部111Aの下面から線状部材112が吊り下げられている。
線状部材112はPC鋼棒ユニット1の振動の節の部分に巻かれた細い金属製のワイヤーであり、一方の架台111に設けられた線状部材112は引張PC鋼棒2の一端縁からL/4の距離離れており、他方の架台111に設けられた線状部材112は引張PC鋼棒2の他端縁からL/4の距離離れている。2台の被設置部材11によって、PC鋼棒ユニット1は、その軸方向が水平面内となるように配置される。
【0036】
ユニット振動付与装置12は、三脚状の基台121と、基台121の上部に連結された打撃装置122とを備えている。
打撃装置122の具体的な構造が
図3に示されている。
図3において、打撃装置122は、フレーム123と、このフレーム123に設けられたリンク機構124と、フレーム123に軸部が回動自在に設けられたハンマー125と、ハンマー125とフレーム123との間に設けられた第一付勢部材1261と、ハンマー125とフレーム123との間に設けられた第二付勢部材1262と、ハンマー125を固定あるいは固定を解除するロック機構127とを備えている。
【0037】
フレーム123は複数の板材同士をボルトで連結することで形成されている。
リンク機構124は、フレーム123とハンマー125とを連結するものである。
ハンマー125は、基端が水平面内で回動自在にフレーム123に連結された軸部125Aと、この軸部125Aの先端に設けられた半球状の打撃部125Bとを有し、軸部125Aが回動すると打撃部125BがPC鋼棒ユニット1の端部表面を軸方向に沿って打撃する。
第一付勢部材1261は打撃部125BをPC鋼棒ユニット1の端部表面に向けて付勢するコイルばねである。
第二付勢部材1262は、打撃部125BをPC鋼棒ユニット1の端部表面から離反する方向に付勢するコイルばねである。
第一付勢部材1261の端部は連結ロッド1260の一端部に連結され第二付勢部材1262の端部は連結ロッド1260の他端部に連結されている。連結ロッド1260の端部はフレーム123に連結されている。
ここで、ハンマー125がロックされている場合の第一付勢部材1261のばね力をF1S、第二付勢部材1262のばね力をF2Sとし、ハンマー125がPC鋼棒ユニット1の端部に当接している場合の第一付勢部材1261のばね力をF1E、第二付勢部材1262のばね力をF2Eとすると、F2S<F1S、F2E>F1Eとなるように、第一付勢部材1261と第二付勢部材1262とのばね定数や長さを設定する。
ロック機構127は、ハンマー125の軸部125Aを固定あるいは固定を解除するもので、本実施形態では、リンク機構124の先端部に取り付けられた電磁石から構成されている。電磁石に通電することで、ハンマー125がロック機構127に固定され、電磁石への通電を解除することで、ハンマー125が第一付勢部材1261の付勢力によって回動される。
【0038】
パソコン15の概略構成が
図4に示されている。
図4において、パソコン15は、入力装置15Aと、処理装置15Bと、表示装置15Cとを備えている。
入力装置15Aは、パソコンに付属のキーボードやマウス等で、入力操作される図示しない各種操作ボタンや操作つまみなどを有している。キーボード等に代えてタッチパネルを用いてもよい。
表示装置15Cはパソコンに付属のディスプレイ装置であり、処理装置15Bから入力される画像情報等が図示しない表示領域に画面表示される。表示装置15Cとしては、例えば液晶パネルや有機EL(Electro Luminescence)パネル、PDP(Plasma Display Panel)、CRT(Cathode-Ray Tube)、FED(Field Emission Display)、電気泳動ディスプレイパネルなどが例示できる。
【0039】
処理装置15Bは、例えば、パソコン本体であり、CPU、メモリー、HDD等を備える。処理装置15Bは、加速度センサー13で検出されたPC鋼棒ユニット1の振動に基づいてPC鋼棒ユニット1の固有振動数を求める固有振動数算出部151と、この固有振動数算出部151から求められたPC鋼棒ユニット1の固有振動数とユニット長から等価弾性波速度を求める等価弾性波速度演算部152と、加速度センサー13で検出された振幅スペクトルに基づいて固有振動数の減衰定数を求める減衰測定部153と、PC鋼棒ユニット1のユニット長の変形量を演算するユニット長変形量演算部154と、記録部155と、記録部155で記録されたデータ、等価弾性波速度演算部152で求められた等価弾性波速度、減衰測定部153で求められた減衰定数、及びユニット長変形量演算部154で演算されたユニット長変形量に基づいてPC鋼棒ユニット1の緊張力を判定する緊張力判定部156と、緊張力判定部156で判定された結果を表示装置15Cに出力させる出力制御手段157とを備えている。
【0040】
加速度センサー13と固有振動数算出部151とから本実施形態の固有振動数測定装置が構成される。
固有振動数算出部151は、加速度センサー13からPC鋼棒ユニット1の振動と振幅との関係のデータを受信し、このデータを記録部155で一度記憶させる。さらに、固有振動数算出部151は、記録部155からデータを呼び出し、振動数と振幅との関係を示す振幅スペクトルを求め、この振幅スペクトルから複数次、例えば、1次、2次、3次、4次の固有振動数を求める。
【0041】
PC鋼棒ユニット1の固有振動数を算出するにあたり、PC鋼棒ユニット1を振動させた際の加速度の応答波形を測定し、応答波形のフーリエスペクトルを求め、フーリエスペクトルから固有振動数を次のようにして求める。
離散的な応答波形データから、時間関数を関数x(t)で再現することとすれば式(A)で示す関数のようになる。
【0043】
サンプリング周期をTsとすれば、m番目のデータ時刻はt=mTsである。
そこで、k次成分の振動数をf
k=(k/NTs)とおくと、式(B)の関数となる。
【数2】
【0044】
式(B)は三角関数の重ね合わせの原理を用いると、式(C)のようになる。
【数3】
【0045】
つまり、応答波形x(t)は、N/2個のコサイン波に分解され、また各値は振幅Xkと位相角φkから構成されている。これがフーリエ変換であり、ここで、xkはk次成分の振幅、φkは位相角を表わしている。このXkを振動数ごとに表わした図が振幅スペクトルであり、φkを振動数ごとに表わした図が位相スペクトルである。振幅スペクトルの振幅が最も大きい点と位相スペクトルが90°が固有振動数である。
【0046】
等価弾性波速度演算部152は、ユニット長をL、各次の固有振動数をfi、次数をnとすると、各次の等価弾性波速度Viを(1)の式から求める。
Vi=2×L×fi/n (1)
【0047】
減衰測定部153は、所定の次数における固有振動数foの振幅から振幅の1/(2
1/2)の点の振動数帯域幅Δf=f
2−f
1を求め、振動数帯域幅Δfと固有振動数fo×2との比として減衰定数hを求める。
図5は減衰定数hを求めるための概略を説明する図である。
図5において、加速度センサー13で検出された振幅スペクトルのうち所定の次数の固有振動数fo(例えば、卓越固有振動数である2次固有振動数)を特定し、この固有振動数foにおける振幅Aoを求め、この振幅Aoの1/(2
1/2)の点Apを求める。なお、点Apは振幅Aoの1/(2
1/2)に限定されるものではなく、適宜な値を設定することができる。
ここで、
図5(A)で示される振幅スペクトルの例では、振幅Aoの1/(2
1/2)の点Apにおける振動数は、固有振動数foより小さい実測値のf
1と大きい実測値のf
2とがあるため、振動数帯域幅Δfを、実測値である振動数f
2と振動数f
1との差として求める(Δf=f
2−f
1)。さらに、減衰定数hを、h=Δf/(2×fo)の式から求める。
振幅スペクトルによっては振幅Aoの1/(2
1/2)の点Apにおける振動数の実測値がない場合があるが、この場合には、振動数帯域幅Δfを、fo/10として設定する。
さらに、
図5(B)に示される通り、振幅Aoの1/(2
1/2)の点Apにおける振動数の実測値が一方にのみあり、他方にはない場合には、振動数帯域幅Δfを、2×(f
2−fo)として求める。
図5(C)で示される通り、振幅のピーク付近に振幅Aoと他の振幅Aqがある場合には、Ao/(2
1/2)となる振幅f
2を求め、振動数帯域幅Δfを、2×(f
2−fo)として求める。
ユニット長変形量演算部154は、ユニット長測定装置16で測定されたPC鋼棒ユニット1のユニット長Lの実測値と緊張力の導入前のユニット長既定値(設計値)との差である変形量ΔLを演算する。
【0048】
記録部155はデーターベース1551とメモリー1552とを備える。
データーベース1551は、予め、サンプルを用いた実験データが記録されている。
実験にあたり、標準導入力とユニット長Lが特定されたPC鋼棒ユニット1のサンプルAを用意し、このサンプルAに、標準導入力の最大値から0までの間で複数の緊張力を導入し、各々の緊張力での振幅スペクトルを求める。例えば、標準導入力が220kNであり、ユニット長Lの規定値(設計値)が4mであり、引張PC鋼棒の強度レベルが930/1080(N/mm
2)、外形×厚さが29mm×3.6mm、及び公称断面積が287.3mm
2であり、反力PC鋼棒mp径の呼び名が20mm、圧縮耐力が930N/mm
2、及び公称断面積が314.2mm
2であり、引張PC鋼棒及び反力PC鋼棒の単位質量が4.73Kg/mであるPC鋼棒ユニット1のサンプルを用意し、このサンプルにおいて、標準導入力そのままの値220kNを緊張力として導入した場合、150kNを緊張力として導入した場合、100kNを緊張力として導入した場合、50kNを緊張力とした導入した場合、緊張力を導入しない場合(緊張力が0kN)について、それぞれ、被設置部材11に設置し、ユニット振動付与装置12により振動を付与した。これらの振動は加速度センサー13及びデーターロガー14を介して固有振動数算出部151に入力される。220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNのそれぞれの緊張力のデータに基づいて固有振動数算出部151によって振幅スペクトルを求める。
サンプルAにおける振幅スペクトルを
図6に示す。
図6はユニット振動付与装置12に近い位置に設けられた加速度センサー13からの信号を利用した。
【0049】
図6において、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの緊張力における振幅は、1次のピークP1、2次のピークP2、3次のピークP3及び4次のピークP4を生じる。
1次のピークP1は、振幅が約16m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では583.8のHzであり、150kNの緊張力では583.5Hzであり、100kNの緊張力では583.5Hzであり、50kNの緊張力では583.2Hzであり、0kNの緊張力では582.9Hzである。これらの固有振動数でのピークは数値が近いため、
図6では、グラフが1つの太い線として示されている。
2次のピークP2は、振幅が約18m/s
2という他のピークより高いピークであり、固有振動数(卓越振動数)は、220kNの緊張力では1166.7Hzであり、150kNの緊張力では1166.4Hzであり、100kNの緊張力では1166.1Hzであり、50kNの緊張力では1165.8Hzであり、0kNの緊張力では1165.2Hzである。
3次のピークP3は、振幅が約10m/s
2であり、固有振動数は、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの全ての緊張力において、1751.1Hzである。
4次のピークP4は、振幅が約6m/s
2であり、固有振動数は、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの全ての緊張力において、2340.4Hzである。
【0050】
本実施形態では、実験の正確性を期するために、サンプルA以外にサンプルB,Cを用意し、これらのサンプルB,Cを標準導入力やユニット長L等の条件をサンプルAと同じにし、サンプルAと同様に、緊張力が220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNをそれぞれ導入し、実験を行った。これらのサンプルB,Cにおいて、サンプルAと同様に振幅スペクトルをそれぞれ求めた。サンプルBの結果を
図7に示し、サンプルCの結果を
図8に示す。
【0051】
図7において、サンプルBの220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの緊張力における振幅は、1次のピークP1、2次のピークP2、3次のピークP3及び4次のピークP4を生じる。
1次のピークP1は、振幅が約14.5m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では583.2Hzであり、150kNの緊張力では582.9Hzであり、100kNの緊張力では582.9Hzであり、50kNの緊張力では582.9Hzであり、0kNの緊張力では582.3Hzである。
2次のピークP2は、振幅が約16m/s
2という他のピークより高いピークであり、固有振動数は、220kNの緊張力では1167.9のHzであり、150kNの緊張力では1167.9Hzであり、100kNの緊張力では1167.6Hzであり、50kNの緊張力では1167.3Hzであり、0kNの緊張力では1165.8Hzである。
3次のピークP3は、振幅が約13m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では1754.8Hzであり、150kNの緊張力では1754.8Hzであり、100kNの緊張力では1754.5Hzであり、50kNの緊張力では1753.8Hzであり、0kNの緊張力では1750.8Hzである。
4次のピークP4は、振幅が約8m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では2345.3のHzであり、150kNの緊張力では2345.9Hzであり、100kNの緊張力では2345.3Hzであり、50kNの緊張力では2344.7Hzであり、0kNの緊張力では2336.4Hzである。
【0052】
図8において、サンプルCの220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの緊張力における振幅は、1次のピークP1、2次のピークP2、3次のピークP3及び4次のピークP4を生じる。
1次のピークP1は、振幅が約18m/s
2であり、固有振動数は、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの緊張力の全てで582.6Hzである。
2次のピークP2は、振幅が約18m/s
2であり、固有振動数は、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの緊張力の全てで1166.4Hzである。
3次のピークP3は、振幅が約13m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では1754.5のHzであり、150kNの緊張力では1754.2Hzであり、100kNの緊張力では1752.6Hzであり、50kNの緊張力では1751.1Hzであり、0kNの緊張力では1751.7Hzである。
4次のピークP4は、振幅が約5m/s
2であり、固有振動数は、220kNの緊張力では2345.6のHzであり、150kNの緊張力では2345.0Hzであり、100kNの緊張力では2341.3Hzであり、50kNの緊張力では2340.1Hzであり、0kNの緊張力では2340.7Hzである。
図6のサンプルA、
図7のサンプルB及び
図8のサンプルCにおいて、ピーク時の振幅の値が若干相違するものの、各ピークでの固有振動数は殆ど相違がないことがわかる。
本実施形態では、
図6のサンプルAのデータに基づいて、サンプルAの等価弾性波速度を等価弾性波速度演算部152によって演算し、その結果をデーターベース1551で記録する。
【0053】
図9はサンプルAにおける緊張力と等価弾性波速度との関係を示すグラフである。
図9において、符号Q1は1次のピークの緊張力と等価弾性波速度との関係を示し、符号Q2は2次のピークの緊張力と等価弾性波速度との関係を示し、符号Q3は3次のピークの緊張力と等価弾性波速度との関係を示し、符号Q4は4次のピークの緊張力と等価弾性波速度との関係を示す。
図9に示される通り、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNの各緊張力において、等価弾性波速度は4次の固有振動数の値が最も大きく、2次の固有振動数(卓越振動数)の値が最も小さい。例えば、220kNの緊張力において、4次の固有振動数での等価弾性波速度は4645m/sであり、3次の固有振動数での等価弾性波速度は4633m/sであり、1次の固有振動数での等価弾性波速度は4626m/sであり、2次の固有振動数での等価弾性波速度は4624m/sである。0kNの緊張力において、4次の固有振動数での等価弾性波速度は4616m/sであり、3次の固有振動数での等価弾性波速度は4608m/sであり、1次の固有振動数での等価弾性波速度は4600m/sであり、2次の固有振動数での等価弾性波速度は4598m/sである。
【0054】
本実施形態では、サンプルAにおける減衰定数hを減衰測定部153で求めておき、この測定結果をデーターベース1551に記録しておく。つまり、サンプルAにおいて、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNのそれぞれの緊張力を導入し、個々の緊張力での減衰定数hの演算結果をデーターベース1551で記録する。
図10にはサンプルAにおける緊張力と減衰定数hとの関係が示されている。なお、
図10では、2つの加速度センサー13からの得られた振動データに基づいてそれぞれ減衰定数を求めた。
一方の加速度センサー13からの振動データに基づいて演算された減衰定数のうち緊張力220kNの場合の減衰定数をRh1で示し、緊張力150kNの場合の減衰定数をRh2で示し、緊張力100kNの場合の減衰定数をRh3で示し、緊張力50kNの場合の減衰定数をRh4で示し、緊張力0kNの場合の減衰定数をRh5で示す。他方の加速度センサー13からの振動データに基づいて演算された減衰定数のうち緊張力220kNの場合の減衰定数をLh1で示し、緊張力150kNの場合の減衰定数をLh2で示し、緊張力100kNの場合の減衰定数をLh3で示し、緊張力50kNの場合の減衰定数をLh4で示し、緊張力0kNの場合の減衰定数をLh5で示す。
図10から、双方の加速度センサー13から得られたデータによる相違がないことがわかる。さらに、緊張力が導入されない0kNの場合の減衰定数Rh5(Lh5)が0.14程度であり、緊張力が導入された場合の減衰定数Rh1〜Rh4(Lh1〜Lh4)の0.50〜0.60より高い値であることがわかる。
【0055】
サンプルにおける所定の緊張力とユニット長Lの変形量ΔLとの関係をデーターベース1551に記録させる。
例えば、サンプルAにおいて、220kN、150kN、100kN、50kN及び0kNのそれぞれの緊張力を導入した後での実測値とユニット長の規定値との差を引張PC鋼棒のユニット長Lの変形量ΔLとしてユニット長変形量演算部154で演算し、その演算結果をデーターベース1551に記録させる。
なお、サンプルAの測定結果の正確性を期するために、サンプルB及びサンプルCにおいても同様に測定を行った
図11には、PC鋼棒ユニットへ付与する緊張力とユニット長の変形量との関係がサンプル毎に示されている。
【0056】
図11において、左側に示すグラフがサンプルAの結果であり、真ん中に示すグラフがサンプルBの結果であり、右側に示すグラフがサンプルCの結果である。
各サンプルにおいて、緊張力220kNを導入する前後での実測値の変化量を符号R1で示し、緊張力150kNを導入する前後での実測値の変化量を符号R2で示し、緊張力100kNを導入する前後での実測値の変化量を符号R3で示し、緊張力50kNを導入する前後での実測値の変化量を符号R4で示し、緊張力0kNでの実測値の変化量を符号
R5で示す。なお、R5は緊張力が導入されていないので、変形量は0である。
サンプルAの測定結果とサンプルB,Cの測定結果とでは概ね同様の傾向が示された。なお、緊張力220kNを導入する前後での計算上の変形量を符号S1で示し、緊張力150kNを導入する前後での計算上の変形量を符号S2で示し、緊張力100kNを導入する前後での計算上の変形量を符号S3で示し、緊張力50kNを導入する前後での計算上の変形量を符号S4で示し、緊張力0kNを導入する前後での計算上の変形量を符号S5で示す。計算上の変形量と実測値での変化量とを比較すると、両者には相関関係があることがわかる。そして、ユニット長の変形量は緊張力の増加に伴って一意的に上昇する傾向にあることがわかる。これらの傾向はサンプルA,B,Cにおいても同じであるため、本実施形態では、サンプルAにおける実測値をデーターベース1551に記録しておく。
【0057】
メモリー1552には、入力装置15Aで入力操作される設定事項が適宜読み出し可能に記憶されている。さらに、メモリー1552には、選択装置全体を動作制御するOS(Operating System)上に展開される各種プログラムなどが記憶されている。なお、メモリー1552としては、HD、DVD、光ディスクなどの記録媒体に読み出し可能に記憶するドライブやドライバなどを備えた構成としてもよい。
【0058】
緊張力判定部156は、実測データとデーターベース1551に予め記録されたデータとを対比してPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力を判定するものであり、減衰定数hからPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力を判定する減衰定数判定部1561と、ユニット長の変化量からPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力を判定するユニット長判定部1562と、等価弾性波速度からPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力を判定する等価弾性波速度判定部1563とを有する。
【0059】
減衰定数判定部1561は、減衰測定部153によって測定対象のPC鋼棒ユニット1の減衰定数hを求め、この減衰定数hをデーターベース1551で記録された減衰定数Rh1〜Rh5(Lh1〜Lh5)と比較する。この際、
図10に示される通り、データーベース1551で記録された減衰定数Rh1〜Rh5(Lh1〜Lh5)に閾値Xを予め設定し(例えば、0.05)、その値Xの倍の値2X(例えば、0.10)より高い値に減衰定数hがある場合には、導入された緊張力が0kNであると判定し、それ以外の場合には、緊張力が導入されている、と判定する。なお、閾値Xは入力装置15Aを通じて減衰定数判定部1561に適宜設定される。
【0060】
ユニット長判定部1562は、ユニット長変形量演算部154で演算された測定対象のPC鋼棒ユニット1におけるユニット長Lの変形量ΔLと、データーベース1551に予め記録されたサンプルのユニット長Lの変形量ΔLとから当該PC鋼棒ユニット1の緊張力を判定する。つまり、
図11において、ユニット長変形量演算部154で演算されたユニット長Lの変形量ΔLが符号R1に近い値Rxを示した場合には、測定対象のPC鋼棒ユニット1に緊張力220kNが導入されていると判定する。
【0061】
等価弾性波速度判定部1563は、等価弾性波速度演算部152で演算された測定対象のPC鋼棒ユニット1の1次、2次、3次及び4次の等価弾性波速度Viと、データーベース1551に予め記録されたサンプルの1次、2次、3次及び4次の等価弾性波速度Viとから当該PC鋼棒ユニット1の緊張力を判定する。つまり、
図9において、実測された各次の等価弾性波速度の値のうち所定のもの、例えば、最も大きな値Ymaxと各緊張力で導入される等価弾性波速度の値とを対比する。そのため、最も高い値をとる4次の固有振動数の値に対して閾値Vxを設定し、この閾値Vxの範囲に実測された実測された等価弾性波速度の最大値Ymaxが入るか否かで緊張力を判定する。例えば、閾値Vxを4639m/s〜4645m/sと設定し、実測された等価弾性波速度の最大値Ymaxが4644m/sであるとすると、この値は閾値Vxに入るため、測定対象であるPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力は220kNとなる。本実施形態では、測定の正確を期するために、実測された各次の等価弾性波速度の値のうち最大値Vmax以外のもの、例えば、最も小さな値Yminと記憶された等価弾性波速度Viの値とを対比してもよい。そのため、最も小さい値をとる2次の固有振動数の値に対して閾値Vxを設定し、この閾値Vxの範囲に実測された実測された等価弾性波速度の最小値Yminが入るか否かで緊張力を判定する。例えば、閾値Vxを4619m/s〜4624m/sと設定し、実測された等価弾性波速度の最小値Yminが4624m/sであるとすると、この値は閾値Vxに入るため、測定対象であるPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力は220kNであることが確認される。
以上の演算結果は、表示装置15Cに表示される。表示装置15Cでは、導入されている緊張力の数値を表示するものでもよく、規定の緊張力に対して導入されている緊張力が許容値を満たしているか否かを[OK]や[NG]で表示するものでもよい。
【0062】
次に、本実施形態にかかるPC鋼棒ユニットの緊張力検査方法を説明する。
[サンプルデーター記録工程]
サンプルを用意し、サンプル自体のユニット長L、その他の数値や、サンプルにおける減衰定数h、ユニット長Lの変形量ΔL、及び等価弾性波速度Viを求め、緊張力と関連づけてデーターベース1551に記録しておく。
[測定準備工程]
測定対象であるPC鋼棒ユニット1を外部からの振動が伝達されない状態で被設置部材11に静置する。つまり、PC鋼棒ユニット1を振動の節の位置、つまり、端部から1/4の長さの位置でそれぞれ吊す。
さらに、PC鋼棒ユニット1の端部側にユニット振動付与装置12を配置し、PC鋼棒ユニット1の所定位置に加速度センサー13を取り付ける。さらに、データーロガー14及びパソコン15をセットする。
【0063】
[振動付与工程]
ユニット振動付与装置12を作動してPC鋼棒ユニット1の端部に振動を付与する。そのため、ロック機構127でのハンマー125の固定を解除する。すると、ハンマー125が第一付勢部材1261の付勢力によって回動され、軸部125Aの先端に設けられた半球状の打撃部125BがPC鋼棒ユニット1の端部表面を軸方向に沿って打撃する。これにより、PC鋼棒ユニット1に振動が発生することになり、この振動を加速度センサー13で受信し、そのデータがデーターロガー14を介してパソコン15に送られる。
[測定工程]
まず、PC鋼棒ユニット1のユニット長Lを測定する。このユニット長Lの実測値をパソコン15に入力する。
パソコン15の固有振動数算出部151では、PC鋼棒ユニット1の振動の信号に基づいて振幅スペクトルを検出し、PC鋼棒ユニット1の1次、2次、3次及び4次の固有振動数を測定する。固有振動数を求めるため、PC鋼棒ユニット1を振動させた際の加速度の応答波形を測定し、この応答波形のフーリエスペクトルを求め、その後、フーリエスペクトルから固有振動数を求める。
【0064】
[演算工程]
ユニット長変形量演算部154によってPC鋼棒ユニット1のユニット長Lの変形量ΔLを演算する。さらに、等価弾性波演算部1563によって、PC鋼棒ユニット1の固有振動数とユニット長Lから各次の等価弾性波速度Viを求める。固有振動数を測定する工程で検出された振幅スペクトルに基づいて各次の固有振動数における減衰定数hを減衰測定部153によって求める。
[判定工程]
緊張力判定部156の減衰定数判定部1561では、減衰測定部153で測定された減衰定数hと緊張力との関係から導入された緊張力の有無を判定する。
緊張力判定部156のユニット長判定部1562では、ユニット長Lの変形量ΔLから導入される緊張力の大きさを判定する。
緊張力判定部156の等価弾性波速度判定部1563では、等価弾性波速度と緊張力との関係から、導入された緊張力の大きさを判定する。
以上の判定結果は出力制御手段157を通じて表示装置15Cで表示される。
【0065】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)PC鋼棒ユニット1を外部からの振動が伝達されない状態で被設置部材に静置し、PC鋼棒ユニット1に振動を付与し、PC鋼棒ユニット1の振動に基づく振幅スペクトルを検出するとともにPC鋼棒ユニット1の固有振動数を測定し、PC鋼棒ユニット1のユニット長Lを測定し、PC鋼棒ユニット1の固有振動数とユニット長Lから等価弾性波速度Viを求め、等価弾性波速度Viに基づいてPC鋼棒ユニット1の緊張力を判定したから、引張PC鋼棒2の内部に反力PC鋼棒3が挿入される二重構造のPC鋼棒ユニット1であっても、簡易な方法で、適正に緊張力を判定することができる。
【0066】
(2)固有振動数を測定する工程で検出される振幅スペクトルに基づいて、固有振動数の減衰状態を測定し、この減衰状態から緊張力の有無を判定するから、PC鋼棒ユニット1に緊張力が導入されていない場合を簡易に判断することができる。
【0067】
(3)PC鋼棒ユニット1の固有振動数を測定するために、PC鋼棒ユニット1を振動させた際の加速度の応答波形を測定し、この応答波形のフーリエスペクトルを求め、このフーリエスペクトルから固有振動数を求めることにしたので、PC鋼棒ユニット1の固有振動数を正確に求めることができる。
【0068】
(4)固有振動数foの振幅から振幅の1/(2
1/2)の点の振動数帯域幅Δf=f
2−f
1を求め、振動数帯域幅Δfと固有振動数fo×2との比として減衰定数を求めたので、PC鋼棒ユニット1の減衰状態を数値に基づいて正確に判定することができる。
【0069】
(5)ユニット長をL、各次の固有振動数をfi、次数をnとして、各次の等価弾性波速度Viを、Vi=2×L×fi/nの式から求めたので、正確に求められた各次の等価弾性波速度Viを用いて、緊張力の検査精度を上げることができる。
【0070】
(6)減衰状態を測定する工程で求められた減衰定数hと緊張力との関係、並びに、等価弾性波速度を測定する工程で求められた等価弾性波速度Viと緊張力との関係からPC鋼棒ユニット1に導入される緊張力を判定したので、固有振動数に基づく減衰定数h並びに等価弾性波速度Viという客観的な数値に基づいて緊張力の判定を正確に実施することができる。
【0071】
(7)PC鋼棒ユニット1のユニット長Lの変形量ΔLに基づいて、導入される緊張力を判定するので、簡易な方法で緊張力の検査を実施することができる。
【0072】
(8)軸部125Aの先端に半球状の打撃部125Bが設けられたハンマー125でPC鋼棒ユニット1の表面を打撃するので、PC鋼棒ユニット1に正確な振動を付与することができ、精度の高い緊張力の検査を実施することができる。
【0073】
(9)ユニット振動付与装置12は、基台121と、基台121の上部に連結された打撃装置122とを備え、打撃装置122は、フレーム123と、このフレーム123に設けられたリンク機構124と、フレーム123に軸部が回動自在に設けられたハンマー125と、ハンマー125とフレーム123との間に設けられた第一付勢部材1261と、ハンマー125とフレーム123との間に設けられた第二付勢部材1262と、ハンマー125を固定あるいは固定を解除するロック機構127とを備えて構成したから、ハンマー125の打撃部125BでPC鋼棒ユニット1を二度たたきすることがないので、検査を正確に行うことができる。
【0074】
(10)被設置部材11が剛性の高い架台であり、架台に引張PC鋼棒2の複数箇所を線状部材112で吊す構成としたから、PC鋼棒ユニット1に外部からの振動が伝達されない環境を容易に作ることができる。
【0075】
なお、本発明は、前述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含む。
例えば、前記実施形態では、ユニット振動付与装置12は前述のPC鋼棒ユニット1の緊張力を検出する方法に用いられる例として説明したが、本発明では、ユニット振動付与装置12は、特許文献2で示される従来例や他の検査方法にも適用することができる。
さらに、ユニット振動付与装置12の構成は前記実施形態の構造に限定されるものではなく、例えば、ロック機構127を電磁石から構成するものに限定されるものではなく、ハンマー125を係止するフックと、このフックを駆動する駆動機構とを有する構造であってもよい。さらに、ハンマー125を付勢する付勢手段は第一付勢部材1261にのみ限定するものでもよい。
また、本発明では、PC鋼棒ユニット1のユニット長Lの変形量ΔLに基づいて、導入される緊張力を判定する工程を省略するものでもよい。