(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサンを含む懸濁液においてタンパク質の凝集を評価するための方法、およびタンパク質溶液を含有する、オルガノポリシロキサンでコーティングされた医療用品
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)溶液を受けるためのチャンバーを含む容器であって、前記チャンバーの内表面は、1,000cStから100,000cStの範囲の粘性を有するオルガノポリシロキサンを含む組成物から調製されたコーティングをその上に有する、容器と、
(b)(i)モノクローナル抗体、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン、インターフェロン、および/または関節リウマチ治療薬からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質性物質と、
(ii)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、
(iii)少なくとも1つの糖と
を含む溶液と
を含むことを特徴とする医療用品。
チャンバーはシリンジバレル、薬剤カートリッジ容器、無針注射器容器、液体分注装置容器、および液体計量装置容器からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医療用品。
チャンバーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ(2−メチル−1−ペンテン)、および環状ポリオレフィンからなる群から選択されるオレフィンポリマーから調製されることを特徴とする請求項1に記載の医療用品。
(a)溶液を受けるためのチャンバーを含む容器であって、前記チャンバーの内表面は、1,000cStから100,000cStの範囲の粘性を有するオルガノポリシロキサンを含む組成物から調製されたコーティングをその上に有する、容器と、
(b)(i)モノクローナル抗体、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン、インターフェロン、および/または関節リウマチ治療薬からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質性物質と、
(ii)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、
(iii)少なくとも1つの糖と、
(iv)少なくとも1つの塩と
を含む溶液と
を含むことを特徴とする医療用品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
操作例、または別に規定がある場合以外、本明細書および特許請求の範囲に用いられた成分量、反応条件などを表す全ての数は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、反対の規定がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に示された数値パラメーターは、本発明によって獲得しようとする所望の性質に依存して変動し得る近似値である。少なくとも、かつ均等論の適用を特許請求の範囲に限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメーターは、報告された有効数字の数を考慮に入れ、かつ通常の丸め技術を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0017】
広範にわたる本発明に示された数値範囲およびパラメーターは近似値であることにかかわらず、特定の例に示された数値はできる限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は本質的に、それらの個々の試験測定値に見出される標準偏差に必然的に起因するある程度の誤差を含む。さらに、変動範囲の数値域が本明細書に示されている場合、列挙された値を含めたこれらの値の任意の組合せを用いてもよいことが企図される。
【0018】
また、本明細書に列挙された任意の数値域が、それに包含される全ての部分的範囲を含むことを意図されることは理解されるべきである。例えば、「1から10」の範囲は、1の列挙された最小値と10の列挙された最大値を含む、それらの値の間の全ての部分的範囲を含む、すなわち、1以上の最小値および10以下の最大値を有することを意図される。
【0019】
いかなる理論によっても縛られるつもりはないが、タンパク質粒子形成は、外来材料のナノ粒子およびマイクロ粒子の表面上でのタンパク質凝集物の不均一な核形成から生じることができる。これらの微粒子混入物として、バイアル充填ポンプから脱落した金属またはシリコーン、ガラスシリンジの製造中に生成されたタングステンマイクロ粒子、および高温発熱物質除去手順(high-temperature depyrogenation process)の結果として脱落したガラスナノ粒子を挙げることができる。いくつかの非限定的な実施形態において、本発明の方法は、表面がシリコーンオイル(単数または複数)またはオルガノポリシロキサン(単数または複数)でコーティングされているプレフィルドシリンジの調製に関して有用であり得る。シリコーンオイルは、製品を注射する時、シリンジのバレル中を通るストッパーの滑らかで自由な運動を保証するのに望ましい。シリコーンオイルの微液滴によって核形成され得るシリコーンオイル処理されたプレフィルドシリンジにおけるタンパク質粒子の形成がまた、心配の種であり得る。そのような粒子−およびその粒子から生じ得るタンパク質凝集物−は、どこにでもあるが、事実上、その問題およびその問題を司る機構の系統的特徴付けは、どの文献にも扱われていない。そのような洞察がなければ、産業界は、タンパク質凝集事象、ならびにその結果として生じる、製品の損失、費用の増加、および患者への安全性リスクに悩まされ続けるであろう。
【0020】
均一なタンパク質凝集は、天然状態アンサンブルを、構造的に拡大した立体構造から構造的に最もコンパクトな種へシフトさせる熱力学的安定剤(例えば、スクロース)を用いることによって阻害することができる。スクロースなどの安定剤は、それらがタンパク質分子の表面から優先的に排除されるため、タンパク質の熱力学的安定性を増加させる。優先的排除と同時に起こるのは、タンパク質の化学ポテンシャルの増加である。これらの2つの効果の大きさは、溶媒に曝されたタンパク質の表面積に正比例し、曝された残基の側鎖の化学的性質には依存しない。優先的に排除された溶質は、天然状態アンサンブル内での最もコンパクトな天然状態と完全に折り畳まれていない状態または構造的に拡大した種との間の自由エネルギー障壁を増加させ、これは、後者がより大きな表面積を有し、それゆえに、化学ポテンシャルの増加がより大きいからである。したがって、スクロースは、平衡を、構造的に拡大した凝集能力の高い種からシフトさせる。
【0021】
タンパク質分子集団内の種分布の熱力学的調節に加えて、溶液中のタンパク質−タンパク質相互作用のエネルギー特性は、タンパク質凝集の動態の重要な決定因子である。タンパク質の部分的アンフォールディングは、凝集を引き起こすにはそれだけでは十分ではない。それらはまた、2つ以上のタンパク質分子が凝集するアセンブリー反応に従わなければならない。このプロセスの動態は、タンパク質−タンパク質分子間エネルギーによって調節され、そのエネルギーは、溶液条件を変えることによって変化させることができる。そのような「コロイド」安定性は、第2の浸透圧ビリアル係数、B22に関連し得る。このパラメーターは、タンパク質分子間の電荷−電荷相互作用によって大きく影響される。それゆえに、溶液のpHおよびイオン強度の変化は、タンパク質−タンパク質相互作用を変化させる。
【0022】
オルガノポリシロキサンの粒子の表面上に付着したタンパク質性物質の表面積は、粒子体積
2/3に等しい表面積を有する完全液滴の理論的モデルを用いて推定することができる。(非特許文献1参照)。光学的バックグラウンドの存在下で蛍光標識オルガノポリシロキサンの表面上に会合した蛍光標識タンパク質の検出の確認は、相関した測定値の勾配によって推測され、その勾配は、完全球形での体積の関数としての表面積について10の2/3乗(10
2/3)の理論値に近い。
【0023】
いくつかの非限定的な実施形態において、本発明は、オルガノポリシロキサンを含む懸濁液においてタンパク質性物質の凝集を評価するための方法であって、(a)蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の水性懸濁液(または乳濁液)を供給するステップと、(b)蛍光活性化粒子選別を用いて、蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対粒子蛍光強度を測定するステップと、(c)蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度を蛍光標識タンパク質性物質の相対強度と比較するステップとを含む方法を提供する。
【0024】
本明細書に用いられる場合、「タンパク質性物質」は、少なくとも1つのタンパク質を含む材料を意味する。本明細書に用いられる場合、「タンパク質」は、線状鎖に配置され、かつ隣接アミノ酸残基のカルボキシル基とアミノ基の間のペプチド結合によって結合したアミノ酸を含む大きな有機化合物であり、例えば、線維性タンパク質、球状タンパク質、およびタンパク質複合体である。本発明に用いるのに適したタンパク質性物質の非限定的な例として、モノクローナル抗体(mAbまたはmoAb)、全て単一の親細胞のクローンである1つの型の免疫細胞によって産生されているため同一である単一特異性抗体が挙げられる。適切なモノクローナル抗体の非限定的な例には、インフリキシマブ、バシリキシマブ、アブシキシマブ、ダクリズマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、リツキシマブ、パリビズマブ、トラスツズマブ、およびエタネルセプトが挙げられる。適切なタンパク質性物質の他の非限定的な例には、顆粒球コロニー刺激因子(例えば、Neupogen(商標))、エリスロポエチン(例えば、Recormon(商標)およびEprex(商標))、インターフェロン(例えば、Avonex(商標)およびRebif(商標))、および関節リウマチ治療薬(例えば、Enbrel(商標)、Humira(商標)、およびOrencia(商標))が挙げられる。下記で詳細に論じられているように、タンパク質性物質は標識され、または紫外線光もしくは赤外線光への曝露によって蛍光を発する能力がある蛍光部分をそれらに付着している。
【0025】
いくつかの非限定的な実施形態において、タンパク質性物質は、水性溶液の全容量に基づいて約20μg/mLから約600μg/mL、または約100μg/mLから約300μg/mLの濃度で溶液中に存在する。
【0026】
オルガノポリシロキサンは、例えば、シリンジバレルなどの医療用品の表面をコーティングするために用いることができるような任意のオルガノポリシロキサンまたはシリコーンオイルであり得る。いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、任意の硬化段階の前において、約100センチストーク(cSt)から約1,000,000センチストークまで、または約1,000cStから約100,000cSt、または約1,000cStから約15,000cStもしくは約12,500cStの範囲の粘性を有する。
【0027】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、例えば、以下の構造式(I)によって表されているように、アルキル置換オルガノポリシロキサンを含む:
【0029】
式中、Rはアルキルであり、Zは約30から約4,500である。いくつかの非限定的な実施形態において、式(I)のオルガノポリシロキサンは、以下の構造式(II)によって表すことができる:
【0031】
式中、Zは上記の通りであり得、または例えば、約300から約2,000、約300から約1,800、もしくは約300から約1,350であり得る。いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、約100cStから約1,000,000cStまでの範囲の粘性を有するDOW CORNING(登録商標)360ポリジメチルシロキサンまたはNUSILポリジメチルシロキサンなどのポリジメチルシロキサンである。
【0032】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、アルケニル基などの1つまたは複数の硬化性または反応性官能基を含む。各アルケニル基は、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、およびデセニルからなる群より独立して選択することができる。オルガノポリシロキサンが上記の型のアルケニル基のいずれかの1つまたは複数およびそれらの混合物を含み得ることを当業者は理解しているであろう。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのアルケニル基はビニルである。より高いアルケニルまたはビニルの含有量は、より効率的な架橋を提供する。
【0033】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、以下の構造式(III)または(IV)によって表すことができる:
【0035】
式中、Rはアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、シクロアルキル、シラシクロペンチル、アラルキル、およびそれらの混合物であり、Xは約60から約1,000、好ましくは約200から約320であり、yは約3から約25である。これらのポリマーのコポリマーおよび混合物もまた企図される。
【0036】
有用なビニル官能性オルガノポリシロキサンの非限定的な例として、ビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;トリメチルシロキシ末端ビニルメチル、ジメチルポリシロキサンコポリマー;ビニルジメチルシロキシ末端ビニルメチル、ジメチルポリシロキサンコポリマー;ジビニルメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;ビニル、n−ブチルメチル末端ポリジメチルシロキサン;およびビニルフェニルメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0037】
いくつかの実施形態において、式II、III、および/またはIVのものから選択されたシロキサンポリマーの混合物を用いることができる。例えば、混合物は、2つの異なる分子量のビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンポリマーを含むことができ、それらのポリマーの一方が約1,000から約25,000、好ましくは約16,000の平均分子量をもち、他方のポリマーが約30,000から約71,000、好ましくは約38,000の平均分子量をもつ。一般的に、低い方の分子量のシロキサンが、この混合物の約60重量%などの約20重量%から約80重量%の量で存在し得、高い方の分子量のシロキサンは、この混合物の約40重量%などの約80重量%から約20重量%の量で存在し得る。
【0038】
適切なビニル官能性オルガノポリシロキサンの別の非限定的な例は、Morrisville,PAのGelest, Inc.から市販されているVDT−731ビニルメチルシロキサンコポリマーなどのトリメチルシロキシ末端の(7.0〜8.0%ビニルメチルシロキサン)−ジメチルシロキサンコポリマーである。
【0039】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、少なくとも2つの極性基を含み得る。各極性基は、アクリレート、メタクリレート、アミノ、イミノ、ヒドロキシ、エポキシ、エステル、アルキルオキシ、イソシアネート、フェノール、ポリウレタンオリゴマー、ポリアミドオリゴマー、ポリエステルオリゴマー、ポリエーテルオリゴマー、ポリオール、およびカルボキシプロピル基からなる群より独立して選択することができる。当業者は、オルガノポリシロキサンが上記の極性基のいずれかの1つまたは複数、およびそれらの混合物を含み得ることを理解しているであろう。いくつかの非限定的な実施形態において、極性基は、アクリレート基、例えば、アクリロキシプロピル基である。他の実施形態において、極性基は、メタクリロキシプロピル基などのメタクリレート基である。極性基を有するオルガノポリシロキサンは、メチル基、エチル基、またはフェニル基などの1つまたは複数のアルキル基および/またはアリール基をさらに含むことができる。
【0040】
そのようなオルガノポリシロキサンの非限定的な例として、Morrisville,PAのGelest, Inc.から入手できるUMS−182アクリレート官能性シロキサンおよびRhodia−Siliconesから入手できるSILCOLEASE(登録商標)PC970アクリル化シリコーンポリマーなどの[15〜20%(アクリロキシプロピル)メチルシロキサン]−ジメチルシロキサンコポリマーが挙げられる。
【0041】
いくつかの非限定的な実施形態において、そのようなオルガノポリシロキサンは、以下の式(V)によって表すことができる:
【0043】
式中、R
1は、アクリレート基、メタクリレート基、アミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、エステル基、アルキルオキシ基、イソシアネート基、フェノール基、ポリウレタンオリゴマー基、ポリアミドオリゴマー基、ポリエステルオリゴマー基、ポリエーテルオリゴマー基、ポリオール基、カルボキシプロピル基、およびフルオロ基からなる群から選択され、R
2はアルキルであり、nは2から4までの範囲であり、xは約100cStから1,000,000cStの粘性を潤滑剤に与えるのに十分な整数である。
【0044】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、−F、またはトリフルオロメチル基などのフルオロアルキル基などの1つまたは複数のフルオロ基をさらに含むことができる。他の有用なオルガノポリシロキサンには、ポリフルオロアルキルメチルシロキサンおよびフルオロアルキル、ジメチルシロキサンコポリマーが挙げられる。
【0045】
いくつかの非限定的な実施形態において、組成物は、1つまたは複数の環状シロキサン(単数または複数)、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよび/またはデカメチルシクロペンタシロキサンをさらに含むことができる。
【0046】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、以下の構造式(VI)によって表すことができる:
【0048】
式中、Rはハロアルキル、アリール(フェニルなど)、ハロアリール、シクロアルキル、シラシクロペンチル、アラルキル、およびそれらの混合物であり、Zは約20から約1,800である。
【0049】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、少なくとも2つのペンダント(側鎖(pendant))水素基を含む。少なくとも2つのペンダント水素基を含む適切なオルガノポリシロキサンの非限定的な例として、ポリマーバックボーンに沿ったペンダント水素基または末端水素基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、以下の構造式(VII)によって表すことができる:
【0051】
式中、pは約8から約125、例えば、約30である。他の非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、以下の構造式(VIII)によって表すことができる:
HMe
2SiO(Me
2SiO)
pSiMe
2H (VIII)
式中、pは約140から約170、例えば、約150から約160である。2つの異なる分子量の材料を含むこれらのポリマーの混合物を用いることができる。例えば、約400から約7,500、例えば、約1900の平均分子量をもつトリメチルシロキシ末端ポリメチルヒドロシロキサンの混合物の約2重量%から約5重量%が、約400から約37,000、好ましくは約12,000の平均分子量をもつジメチルヒドロシロキシ末端ポリジメチルシロキサンの約98%から約95%と混合して用いることができる。少なくとも2つのペンダント水素基を含む有用なオルガノポリシロキサンの非限定的な例として、ジメチルヒドロ末端ポリジメチルシロキサン;メチルヒドロ、ジメチルポリシロキサンコポリマー;ジメチルヒドロシロキシ末端メチルオクチルジメチルポリシロキサンコポリマー;およびメチルヒドロ、フェニルメチルシロキサンコポリマーが挙げられる。
【0052】
いくつかの非限定的な実施形態において、組成物は、ヒドロキシ官能性シロキサン、例えば、少なくとも2つのヒドロキシル基を含むヒドロキシ官能性シロキサンを含み、例えば、以下などである:
【0054】
式中、R
2はアルキルであり、nは0から4までの範囲であり、xは約100cStから1,000,000cStの粘性を潤滑剤に与えるのに十分な整数である。いくつかの非限定的な実施形態において、官能性の結果として水分硬化特性を有する水分硬化型シロキサンとして、アルコキシ;アリールオキシ;オキシム;エポキシ;−OOCR;N,N−ジアルキルアミノ;N,N−ジアルキルアミノキシ;N−アルキルアミド;−O−NH−C(O)−R;−O−C(=NCH
3)−NH−CH
3;および−O−C(CH
3)=CH
2(式中、RはHまたはヒドロカルビルである)などの官能基を有するシロキサンが挙げられる。本明細書に用いられる場合、「水分硬化型(moisture-curable)」とは、シロキサンが、大気水分の存在下の周囲条件で硬化性であることを意味する。
【0055】
上記で論じられたオルガノポリシロキサンのいずれかの混合物を本発明に用いることができる。
【0056】
いくつかの非限定的な実施形態において、オルガノポリシロキサンは、溶液の約0.001重量パーセントから約1重量パーセントを含む。
【0057】
タンパク質性物質およびオルガノポリシロキサンをそれぞれ、異なる、実質的に重複しない波長の光で蛍光を発する蛍光部分で標識する。また、複数の型のタンパク質性物質および/または複数の型のオルガノポリシロキサンが存在する場合には、各異なる型のタンパク質性物質および/または各異なる型のオルガノポリシロキサンを、異なる、実質的に重複しない波長の光で蛍光を発する蛍光部分で標識することができる。
【0058】
本明細書に用いられる場合、「異なる型」のタンパク質性物質とは、化学的に異なるタンパク質性物質を意味し、例えば、第1のタンパク質性物質は、第2の型のタンパク質性物質と異なる、少なくとも1つの原子または原子配置を有する。同様に、本明細書に用いられる場合、「異なる型」のオルガノポリシロキサンとは、化学的に異なるオルガノポリシロキサンを意味し、例えば、第1のオルガノポリシロキサンは、第2の型のオルガノポリシロキサンと異なる、少なくとも1つの原子または原子配置を有する。
【0059】
タンパク質性物質(単数または複数)およびオルガノポリシロキサン(単数または複数)を標識するのに用いられる個々の蛍光部分は、他の蛍光部分を測定するために用いられる検出器で現れる1つの蛍光部分のスペクトル放射から生じ得る光学的なバックグラウンドの寄与を最小限にするような励起および/または発光特性について選択される。
【0060】
第1の蛍光部分および第2の蛍光部分がそれぞれ、レーザーによって放射される同じ波長の光に曝された場合、第1の波長範囲内の光を放射する第1の蛍光部分でオルガノポリシロキサンは標識され、第2の波長範囲内の光を放射する第2の蛍光部分でタンパク質性物質は標識され、第1の波長範囲は、第2の波長範囲との重複を実質的に含まない。
【0061】
本明細書に用いられる場合、「実質的に重複しない」とは、それぞれの蛍光色素は、それらの発光スペクトルが、同じレーザーによって励起された場合、極小の、または有意ではない重複を有するように選択されることを意味する。いくつかの非限定的な実施形態において、「実質的に重複しない」とは、第1の波長範囲が、第1の波長範囲と第2の波長範囲を合わせた合計標準化波長範囲に基づいて、第2の波長範囲との重複が5%未満、または2%未満、または1%未満であることを意味し得る。例えば、405nmの紫色レーザーに曝された場合、450nmから650nmの範囲にわたる検出不可能なレベルの光を放射するナイルレッド蛍光部分でオルガノポリシロキサンを標識することができ、340nmから450nmの範囲にわたる光を放射するPacific Blue色素でタンパク質性物質を標識することができる。
【0062】
このアプローチは、異なる蛍光部分で標識された他の材料からの光学バックグラウンドの寄与を最小限にすることによって少量の第1の蛍光標識材料についての検出感度を最大限にする。例えば、少量の標識タンパク質についての検出感度は、蛍光標識オルガノポリシロキサンからの光学バックグラウンドの寄与を最小限にすることによって増強することができる。これは、周囲の緩衝液中に残存する油滴と会合していないいくらかの遊離標識タンパク質がある場合には、検出感度にとって望ましいことであり得る。
【0063】
タンパク質性物質(単数または複数)およびオルガノポリシロキサン(単数または複数)の標識については、今、単一の型のタンパク質性物質および単一の型のオルガノポリシロキサンに関して論じるつもりであるが、当業者は、実質的に異なる波長で蛍光を発する部分を用いるという同じ概念を複数のタンパク質性物質(単数または複数)および複数のオルガノポリシロキサン(単数または複数)について用いることができることを認識しているであろう。いくつかの非限定的な実施形態において、タンパク質に結合した蛍光部分は、上記で論じられているように、発光バンドが、オルガノポリシロキサンを標識するために選択された他の蛍光部分または色素の発光バンドと実質的に重複しない限り、紫色(405nm)、青色(488nm)、または赤色(635nm)のレーザーで励起する部分から選択することができる。
【0064】
例えば、
図11に示されているように、ナイルレッドは、オルガノポリシロキサンを標識するのに用いてもよく、広範囲(最大値559nm付近を有する450nmから650nmまで)または575nmから750nmまでにわたって励起または発光し、青色かまたは緑色のレーザーのいずれかと用いることができる。ナイルレッドを用いて油を標識する場合には、スペクトルの異なる領域で励起および発光する、タンパク質の標識を選択すること、ならびに最適な感度を得るために空間的に分離されたレーザーを有するフローサイトメーターシステムを用いて測定を行うことが望ましい。オルガノポリシロキサンがナイルレッドで標識された場合、タンパク質性物質を標識するために用いるのに適した蛍光部分の非限定的な例として、403nm付近で最大値を有する340nmから450nmまでの特定の範囲で励起し、紫色レーザーと用いてもよい6,8−ジフルオロ−7−ヒドロキシクマリンフルオロフォアに基づいたPacific Blue(商標)色素(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA);特定の範囲(403nm付近で最大値を有する340nmから450nmまで)で励起し、紫色レーザーと用いてもよいBD Horizon(商標)V450(Becton Dickinson);435nm付近で最大値を有する350nmから495nmまでの特定の範囲で励起し、紫色レーザーと用いてもよいシアン蛍光タンパク質(CFP);特定の範囲(458nm付近で最大値を有する360nmから500nmまで)で励起し、紫色レーザーと用いてもよいアネモニア・マジャノ(Anemonia Majano)由来のAmCyan 108kDaタンパク質(Becton Dickinson);<300nmから520nmまでの特定の範囲で励起し、紫色レーザーと用いてもよいQDot(登録商標)525(Invitrogen Corporation)、および<300nmから540nmまでの特定の範囲で励起し、紫色レーザーと用いてもよいQDot(登録商標)545(Invitrogen Corporation)が挙げられる。あるいは、ナイルレッドは、タンパク質性物質を標識するのに用いることができ、すぐ上で論じられた他の色素の1つを、オルガノポリシロキサンを標識するのに用いることができる。
【0065】
あるいは、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン(DPH)、ジオクタデシル−インドカルボシアニン(DiL)、過塩素酸3,3’−ジオクタデシルオキサカルボシアニン(DiO)、DiIC18(5)(DiD)、ヨウ化1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニン(DiR)、または任意の他の親油性色素などの様々な親油性色素を用いて、当業者によく知られた様々な手段によってオルガノポリシロキサンを標識し、蛍光標識タンパク質を検出するためにスペクトルの他の領域を用いる、必要とされる任意の同時高感度測定に与える影響を最小限にする様々なレーザーおよび蛍光スペクトルの領域を特に用いることができる。例えば、DiDを用いてオルガノポリシロキサンを標識した場合(赤色レーザー励起および670nm付近での発光)、それより下の励起および発光範囲の全部が、1つまたは複数の蛍光標識タンパク質を検出するために用いることができ、用いられるべきそれらの発光スペクトルにおいて実質的な重複なしに、UV、紫色、青色、または緑色レーザーで励起される蛍光色素を用いてタンパク質性物質を標識することを可能にする。
【0066】
いくつかの実施形態において、蛍光部分は、赤色ダイオードレーザー(635nm)を用いて、FITCフルオレセインイソチオシアネート、Alexa Fluor 488、DyLight 488、GFP緑色蛍光タンパク質、CFDA−SEカルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル、PIホスホイノシチドなどの緑色領域(525〜585nm)(通常、FL1と分類される);PE R−フィコエリトリンなどのオレンジ色領域(通常FL2);PerCPペリジニンクロロフィルタンパク質、PE−Cy5 R−フィコエリトリンシアニン5、PE−Alexa Fluor 700、PE−Cy5.5 R_フィコエリトリンシアニン5.5などの赤色領域(通常FL3);PE−Alexa Fluor 750、PE−Cy7などの赤外領域(通常FL4)で蛍光を発する部分から選択することができる。
【0067】
スキャンされる粒子について、紫色レーザー(405nm)、青色レーザー(488nm)、緑色レーザー(532nm)、黄色レーザー(561nm)、および赤色レーザー(635nm)励起蛍光色素からの前方光散乱(FSC、狭角光散乱)および側方光散乱蛍光(SSC、90°光散乱)を用いることができる。いくつかの非限定的な実施形態において、タンパク質性物質は、きちんと解説されたプロトコール(MP 00143、Amine−Reactive Probes、Invitrogen Corporation)に従って、Alexa Fluor(登録商標)488色素(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)で化学的に標識することができる。他の非限定的な実施形態において、タンパク質性物質は、Invitrogenから入手できる適切な市販キットを用いることによるなどの当業者によく知られた方法に従ってPacific Blue(商標)色素で化学的に標識することができる。オルガノポリシロキサンを標識するために、ナイルレッド色素をオルガノポリシロキサン中に5mg/mLで溶解することができる。ナイルレッド、9−ジエチルアミノ−5−ベンゾフェノキサジン−5−オンは、蛍光が水中で完全に消光される極めて疎水性の高い色素である。
【0068】
Pacific Blue(商標)色素は、404nmで励起最大値および455nmの発光最大値を有し、ナイルレッド色素は、559nmで励起最大値および637nmの発光最大値を有する。ナイルレッドは本質的に、紫色レーザー波長で励起せず、そのことが、タンパク質粒子を測定するために用いられる検出器においてオルガノポリシロキサンからの光学バックグラウンドを最小限にする。逆に、粒子が青色レーザーを横断する場合、Pacific Blue(商標)色素は励起せず、ナイルレッド検出器へのシグナルの漏れ込みを最小限にする。化学的に標識されたmAbおよび染色されたオルガノポリシロキサンを含む懸濁液は、BD FACScan(商標)フローサイトメーターアナライザー、またはマルチレーザーBD FACSCanto(商標)フローサイトメーターアナライザー、またはBD(商標)LSR IIフローサイトメーター(Becton,Dickinson and Company、Franklin Lakes、NJ)でスキャンすることができる。
【0069】
フローサイトメトリーは、流体の流れに浮遊した微視的粒子をカウントし、調べ、かつ選別するための分析プロセスである。それは、光学的および/または電子的検出装置の中を流動する単一粒子の物理的および/または化学的特性の同時多重パラメーター分析を可能にする。フローサイトメーターにおいて、1つまたは複数のビームの単色光(通常、レーザー光)を、試料を含む流体の流体力学的に集束した流れに焦点を合わせる。複数の検出器は、流れが光線の中を通過する地点に整列している;即ち、主要な光線に沿って(前方散乱またはFSC)1個およびそれと垂直(側方散乱またはSSC)に数個、ならびに1個または複数の蛍光検出器である。強く集束されたビームの中を通過する各浮遊粒子は、ミー理論に従って様々な方向に光を散乱させ、粒子に付着した蛍光標識は、励起されて、光源より低い周波数で光を放射することができる。この散乱光と蛍光の組合せは、検出器によって検出される。各検出器で輝度のゆらぎ(各蛍光発光ピークについてのゆらぎ)を分析することによって、各個々の粒子の物理的および化学的構造についての様々なタイプの情報を引き出すことが可能である。FSCは一般的に、粒子サイズおよび屈折特性とよく相関し、SSCは、粒子のサイズおよび内部複雑さ(すなわち、細胞核の形、粒子の量および型、または粒子粗さ)に依存する。一部のフローサイトメーターは、各粒子の蛍光、散乱光、および透過光の画像を形成する。
【0070】
フローサイトメーターは、毎秒、数千個の粒子を分析する能力があり、BD FACSAria(商標)IIおよびBD(商標)InfluxソーティングプラットフォームなどのマルチレーザーFACSセルソーターは、特定された性質を有する粒子を能動的に分離および単離することができる。フローサイトメーターは、細胞がセンシングのために光線の中を一列で通過するように細胞を運び、整列させるフローセル液体流(溶液);水銀またはキセノンランプなどの1つまたは複数の光源、高出力水冷式レーザー(アルゴン、クリプトン、色素レーザー)、低出力空冷式レーザー(アルゴン(488nm)、赤色−HeNe(633nm)、緑色−HeNe、HeCd(UV))、またはダイオードレーザー(青色、緑色、赤色、紫色);FSCシグナルおよびSSCシグナル、ならびに蛍光シグナルを発生する多重検出器、アナログデジタル変換(ADC)システム、線形または対数増幅システム、およびシグナルの分析のためのコンピューターを含む。フローサイトメーターによって生じたデータは、1パラメーターヒストグラムとして、2次元ドットプロット(散布図、密度プロット、または等高線図)として、またはさらに3次元等角ディスプレイとしてプロットすることができる。対象とする集団を限定するように対象とするグラフ領域を描くことができ、通常、階層的ゲートツリーの形をとる含意ブールAND論理によって組み合せられ、ここで、ゲートという用語は、対象とする粒子が属する、対象とする1つまたは複数の組み合せられた領域を指す。プロットは、データが最大4桁または5桁までの大きなダイナミックレンジを有する場合はいつでも、対数スケールで作成されることが多い。異なる蛍光色素の発光スペクトルは重複するため、検出器からのシグナルは電気的および計算的に補正することができる。しかしながら、このプロセスは、集団の中央値を再編成する一方で、最初の測定値からの光子統計由来の効果は残ったままであり、結果として、有意に再編成された集団(すなわち、他の蛍光シグナルからのバックグラウンドの寄与が有意であった場合)の間での「拡散(spread)」を生じる。典型的には、フローサイトメーターを用いて得られたデータは、BD FACSDiva Softwareなどのソフトウェアを用いて、取得後、再分析される。
【0071】
蛍光活性化細胞選別または粒子選別は、フローサイトメトリーの特殊な型である。それは、各細胞の特定の光散乱および蛍光特性に基づいて、1度に1細胞、不均一な粒子混合物を2つ以上の容器へ選別するための方法を提供する。それは、個々の細胞からの蛍光シグナルを記録し、特に対象とする細胞を物理的に分離する。頭字語FACSは、Becton Dickinsonによって商標登録され、所有されている。
【0072】
粒子浮遊物は、狭く急速に流動する液流の中央で運ばれる。フローは、平均して(ポアソン分布)、粒子間に、それらの直径に対して大きな分離があるように計画される。振動機構は、粒子流を個々の液滴に分裂させる。そのシステムは、複数の粒子が液滴中に存在する確率が低いように調整される。流れが液滴に分裂する直前、フローは、1つまたは複数のレーザー横断点を通過し、そこで各粒子の対象とする蛍光特性が測定される。粒子が収集されることになっている場合には、1個または複数の液滴が形成し、流れから離脱する時間中、フローセルに電荷が加えられる。その後、これらの荷電液滴は、液滴に加えられた電荷に基づいて液滴を標的容器へと方向転換させる静電偏光システムを通り抜ける。
【0073】
蛍光活性化粒子スキャニング装置またはFACS(商標)フローサイトメーターなどの機器を用いることによって、蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対粒子蛍光強度は、蛍光活性化粒子選別(fluorescence-activated particle sorting)を用いて決定することができる。蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度は、蛍光標識タンパク質性物質の相対強度と比較することができ、オルガノポリシロキサンで凝集した、または塊になったタンパク質性物質の量を決定することができる。オルガノポリシロキサンでのタンパク質性物質の「凝集」は、タンパク質性物質のオルガノポリシロキサンへの吸着、加えて、オルガノポリシロキサンによって核形成されたタンパク質性物質の凝集を含み、オルガノポリシロキサンとタンパク質性物質との間のいかなる不可逆性会合も含む。
【0074】
各溶液は、蛍光活性化粒子スキャニングによって分析され、粒子組成を決定することができる。蛍光活性化粒子スキャニングを用いて、粒子サイズ、形態、および相対粒子蛍光を分析することができる。他の有用な分析として、懸濁液濁度、シリコーンオイル液滴数濃度、およびシリコーンオイル液滴サイズ分布の決定が挙げられる。光学密度は、PerkinElmer Lambda 35分光光度計(Wellesley,MA)を用いて決定することができる。液滴集塊物を解膠するための短時間の穏やかな撹拌後、シリコーンオイル懸濁液の光学密度は、時間および製剤条件の関数として660nmで測定することができる。水性濾液において、280nmでのタンパク質性物質吸光度を測定して、mAb濃度を決定することができる。あるいは、タンパク質性物質濃度をクーマシー色素結合アッセイ(Coomassie Plus(商標)Better Bradford Assay Kit、Pierce Biotechnology、Rockford、IL)で測定することができる。
【0075】
シリコーンオイル液滴サイズ分布は、Coulter LS230レーザー回折粒子サイズアナライザー(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を用いて測定することができる。相対サイズ分布は、均質化後すぐに、および懸濁液調製から2週間目までの間、時間の関数として、懸濁液について測定することができる。シリコーンオイル液滴相対サイズ分布および数濃度から、シリコーンオイル総表面積を推定することができる。
【0076】
いくつかの非限定的な実施形態において、蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対粒子蛍光強度は、ドナー蛍光部分がそのオイルに付着しており、アクセプター蛍光部分がそのタンパク質に付着しているFRET(蛍光(fluorescence)共鳴エネルギー移動またはForster共鳴エネルギー移動)を用いて決定することができる。FRETテクノロジーを用いることによって、アクセプターからの発光は、アクセプターがオイル表面と極めて近くで接触しているのではない限り生じず、そのことから、より正確な測定を可能にすることができる。励起状態でのドナー発色団は、非放射性長距離的双極子−双極子結合機構により、エネルギーを極めて近接する(典型的には、<10nm)アクセプター発色団へ移動することができる。2つの分子間での複合体形成をモニターするために、それらの一方がドナーで標識され、他方がアクセプターで標識され、これらのフルオロフォア標識分子が混合される。分子が解離している場合、ドナー発光が、ドナー励起で検出される。他方、ドナーとアクセプターが、その2つの分子の相互作用によって近接している(1〜10nm)場合、ドナーからアクセプターへの分子間FRETのために、アクセプター発光が主に観察される。
【0077】
いくつかの非限定的な実施形態において、水性懸濁液は、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む。非イオン性界面活性剤は、シリコーンオイル癒着速度を低下させることができる。したがって、浮遊した油滴は、非イオン性界面活性剤が存在する場合、より長く溶液中に留まる。
【0078】
適切な非イオン性界面活性剤の非限定的な例として、アセチレングリコール、アルカノールアミド、アルカノールアミン、アルキルフェノール、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪エステル、グリセロールエステル、モノドデシルエーテル、フェノール誘導体、ポロキサマー、ポロキサミン、ポリオキシエチレンアクリルエーテル、ポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル、ソルビトール、ソルビタン誘導体、およびそれらの混合物が挙げられる。いくつかの非限定的な実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択されるソルビタン誘導体である。いくつかの非限定的な実施形態において、非イオン性界面活性剤は、Polysorbate 20としても知られている、Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。他の有用なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルには、Polysorbate 21、Polysorbate 40、Polysorbate 60、Polysorbate 61、Polysorbate 65、Polysorbate 80、Polysorbate 81、Polysorbate 85、またはPolysorbate 120が挙げられる。
【0079】
溶液中の非イオン性界面活性剤の量は、水性溶液の全重量に基づいて約0.001重量パーセントから約0.5重量パーセントまでの範囲であり得る。
【0080】
いくつかの非限定的な実施形態において、水性懸濁液は、少なくとも1つの糖をさらに含む。糖は、オルガノポリシロキサンの癒着の速度を増強することができ、その結果、タンパク質性物質を引き付けるのに利用可能であるオルガノポリシロキサンの表面積がより少なくなる。適切な糖として、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、およびそれらの混合物が挙げられる。適切な糖の非限定的な例には、スクロース、ラクトース、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、トレハロース、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0081】
溶液中の糖の量は、水溶液の全重量に基づいて約0.005重量パーセントから約10重量パーセントまでの範囲であり得る。
【0082】
糖および非イオン性界面活性剤の存在の組合せは、タンパク質性物質の凝集をさらに低下させることができる。いくつかの非限定的な実施形態において、溶液は、上記のような量または濃度で、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびスクロースなどの少なくとも1つの糖および少なくとも1つの非イオン性界面活性剤を含むことができる。
【0083】
いくつかの非限定的な実施形態において、この方法は、蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の複数の水性懸濁液を供給するステップであって、各水性懸濁液は、非イオン性界面活性剤および糖からなる群から選択される少なくとも1つの凝集阻害剤をさらに含み、少なくとも1つの凝集阻害剤の濃度は各水性懸濁液において異なる、ステップと、蛍光活性化粒子選別を用いて、各水性懸濁液において蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対粒子蛍光強度を測定するステップと、各水性懸濁液について蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度を蛍光標識タンパク質性物質の相対強度と比較するステップとをさらに含む。
【0084】
いくつかの非限定的な実施形態において、この方法は、蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の複数の水性懸濁液を供給するステップであって、各水性懸濁液は、非イオン性界面活性剤および糖からなる群から選択される少なくとも1つの凝集阻害剤をさらに含み、少なくとも1つの凝集阻害剤が各水性懸濁液において異なる、ステップと、蛍光活性化粒子選別を用いて、各水性懸濁液において蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対的粒子蛍光強度を測定するステップと、各水性懸濁液について蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度を蛍光標識タンパク質性物質の相対強度と比較するステップとをさらに含む。各溶液中の凝集阻害剤は、化学的に異なるか、または異なる型であり、例えば、異なる糖および/または異なる非イオン性界面活性剤である。
【0085】
図10によって、本発明によるオルガノポリシロキサン溶液の試料を調製および分析する方法についてのフローチャートが示されている。溶液は、上記、および下記の実施例Aで詳細に論じられているように、調製および分析することができる。
【0086】
いくつかの非限定的な実施形態において、この方法は、各水性懸濁液について蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度の蛍光標識タンパク質性物質の相対強度との比較に基づいて、タンパク質性物質を含む懸濁液に用いる少なくとも1つの凝集阻害剤を選択するステップをさらに含む。
【0087】
いくつかの非限定的な実施形態において、本発明は、オルガノポリシロキサンを含む懸濁液においてタンパク質性物質の凝集を阻害するための方法であって、(a)蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の複数の水性懸濁液を供給するステップであって、各水性懸濁液は、非イオン性界面活性剤および糖からなる群から選択される少なくとも1つの凝集阻害剤をさらに含み、(i)少なくとも1つの凝集阻害剤が各水性懸濁液において異なるか、または(ii)凝集阻害剤の量が各水性懸濁液において異なる、ステップと、(b)蛍光活性化粒子選別を用いて、各水性懸濁液において蛍光標識オルガノポリシロキサンおよび蛍光標識タンパク質性物質の相対的粒子蛍光強度を測定するステップと、(c)各水性懸濁液について蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度を蛍光標識タンパク質性物質の相対強度と比較するステップと、(d)各水性懸濁液についての蛍光標識オルガノポリシロキサンの相対強度の蛍光標識タンパク質性物質の相対強度との比較に基づいて、タンパク質性物質を含む懸濁液に用いる少なくとも1つの凝集阻害剤を選択するステップとを含む方法を提供する。
【0088】
上記方法の1つまたは複数により、タンパク質性物質を含む溶液と接触する表面にオルガノポリシロキサンコーティングを用いる医療用品に用いる、糖および非イオン性界面活性剤の適切な組合せ(およびそれらの適切な濃度)を決定することができる。
【0089】
いくつかの非限定的な実施形態において、本発明は、(a)溶液を受けるためのチャンバーを含む容器であって、チャンバーの内表面は、オルガノポリシロキサンを含む組成物から調製されたコーティングをその上に有する、容器と、(b)(i)少なくとも1つのタンパク質性物質と、(ii)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、(iii)少なくとも1つの糖を含む溶液とを含む医療用品を提供する。
【0090】
本明細書に用いられる場合、「医療用品」は、医学的処置に有用であり得る物品または装置を意味する。医療用品の非限定的な例として、シリンジ組立品、薬剤カートリッジ、無針注射器、液体分注装置、および液体計量装置が挙げられる。いくつかの実施形態において、医療用品は、(例えば、タンパク質性物質を含む溶液を受けるための)シリンジチャンバーまたはバレル、および密封部材を含むシリンジ組立品である。
【0091】
チャンバーは、ガラス、金属、セラミック、プラスチック、ゴム、またはそれらの組合せから形成することができる。いくつかの非限定的な実施形態において、チャンバーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ(2−メチル−1−ペンテン)、および/または環状ポリオレフィンなどの1つまたは複数のオレフィンポリマーから調製される。例えば、ポリオレフィンは、脂肪族モノオレフィンのホモポリマーまたはコポリマーであり得、脂肪族モノオレフィンは、好ましくは、ポリプロピレンなどの約2個から6個の炭素原子を有する。いくつかの非限定的な実施形態において、ポリオレフィンは、基本的には線状であり得るが、任意で、例えば、従来の低密度ポリエチレンに見出されるような側鎖を含んでもよい。いくつかの非限定的な実施形態において、ポリオレフィンは少なくとも50%アイソタクチックである。他の実施形態において、ポリオレフィンは、構造において、少なくとも約90%アイソタクチックである。いくつかの非限定的な実施形態において、シンジオタクチックポリマーを用いることができる。いくつかの実施形態において、環状ポリオレフィンを用いることができる。適切な環状ポリオレフィンの非限定的な例として、特許文献1〜4(それぞれ、日本ゼオン)、特許文献5〜9(それぞれ、日本ゼオン株式会社)、特許文献10および11(Ticona)、特許文献12(三井化学)、特許文献13〜16(Hoechst)、特許文献17および18(三井石油化学およびHoechst)に開示されているような、ならびに非特許文献2に記載されているようなノルボルネンポリマーが挙げられる(前述の参考文献のそれぞれは、本明細書に参照により組み込まれている)。適切な環状ポリオレフィンの非限定的な例として、三井石油化学から入手できるApel(商標)環状ポリオレフィン、Ticona Engineering Polymersから入手できるTopas(商標)環状ポリオレフィン、日本ゼオン株式会社から入手できるZeonor(商標)またはZeonex(商標)環状ポリオレフィン、およびPromerus LLCから入手できる環状ポリオレフィンが挙げられる。
【0092】
ポリオレフィンは、適当なモノマーとの共重合によって組成物に組み込まれる追加のポリマーを少量、一般的には約0.1パーセントから10パーセントまで、含むことができる。そのようなコポリマーは、最終組成物の他の特性を増強するために組成物に加えてもよく、例えば、ポリアクリレート、ポリスチレンなどであってもよい。
【0093】
いくつかの非限定的な実施形態において、チャンバーは、容器に放射線安定性を与えるために放射線安定化添加剤を含むポリオレフィン組成物で構築されてもよく、例えば、Becton,Dickinson and Companyに譲渡された特許文献19および20に開示されたものなどの容器の放射線安定性に寄与する流動化添加剤などであり、それらの特許文献は参照により本明細書に組み込まれている。
【0094】
チャンバーと接触する医療用品の他の構成要素は密封部材である。密封部材は、任意のエラストマー材料またはプラスチック材料から形成することができる。エラストマーは、医療装置および医薬包装における多くの重要で不可欠な適用に用いられる。材料の類として、柔軟性、弾性、伸展性、および密封性などのそれらの独特な特性は、カテーテル、シリンジチップ、薬剤バイアル品、チューブ、グローブ、およびホースなどの製品に特によく適することが証明されている。以下の3つの主要な合成熱硬化性エラストマーは、典型的には、医学的適用に用いられる:これはポリイソプレンゴム、シリコーンゴム、およびブチルゴムである。その3つのゴムのうち、ブチルゴムは、その高い清浄度、ならびにそのゴムが酸素感受性および水感受性薬剤を保護するのを可能にする透過抵抗性によって、物品についての最も一般的な選択肢となっている。
【0095】
本発明の方法に有用な適切なブチルゴムとして、イソブチレン(約97〜98%)とイソプレン(約2〜3%)のコポリマーが挙げられる。ブチルゴムは、塩素または臭素でハロゲン化することができる。適切なブチルゴムの加硫物は、良い耐摩耗性、気体に対する優れた不透過性、高い誘電率、優れた耐老化性および耐日光性、ならびに優秀な緩衝性質および制振性質を、それらから形成された物品に与えることができる。適切なゴムストッパーの非限定的な例として、West Pharmaceuticals、American Gasket Rubber、StelmiおよびHelvoet Rubber & Plastic Technologies BVから入手できるものが挙げられる。
【0096】
他の有用なエラストマーコポリマーとして、非限定的に、熱可塑性エラストマー、熱可塑性加硫ゴム、スチレン−ブタジエン(SBRまたはSBS)コポリマー、スチレンブロックコポリマーにおけるスチレンの含有量が約10%から約70%まで、好ましくは約20%から約50%までの範囲であるスチレン−イソプレン(SIS)ブロックポリマーまたはスチレン−イソプレン/ブタジエン(SIBS)ブロックポリマーなどのスチレンコポリマーが挙げられる。適切なスチレン−ブタジエンストッパーの非限定的な例は、Firestone Polymers、Dow、Reichhold、Kokoku Rubber Inc.、およびChemix Ltd.から入手できる。他の適切な熱可塑性エラストマーは、例えば、GLS、Tecknor Apex、AES、三菱、およびSolvay Engineered Polymersから入手できる。エラストマー組成物は、非限定的に、抗酸化剤および/または無機補強剤を含み、エラストマー組成物の安定性を保つことができる。
【0097】
いくつかの実施形態において、密封部材は、例えば、ストッパー、O−リング、プランジャーチップ、またはピストンであり得る。シリンジプランジャーチップまたはピストンは、典型的には、シリンジのプランジャーと内部囲いとの間に密封性を与えるゴムの能力を理由に、ゴムなどの圧縮可能な弾性材料で作製される。シリンジプランジャーは、患者のケアおよび治療に用いられる他の器具のように、シリンジのプランジャーとバレルとの間に密封性を与える能力などの高い性能基準を満たさなければならない。
【0098】
オルガノポリシロキサンコーティングは、チャンバーおよび/または密封部材の滑り表面(単数または複数)の少なくとも一部に施される。いくつかの実施形態において、チャンバーは、下記のコーティング剤でコーティングされ、密封部材は、コーティングされないか、またはポリジメチルシロキサンコーティング剤でコーティングされる。他の実施形態において、密封部材は、下記のコーティング剤でコーティングされ、チャンバーは、コーティングされないか、またはポリジメチルシロキサンコーティング剤でコーティングされる。他の実施形態において、チャンバーおよび密封部材の両方が、下記のようなコーティング剤でコーティングされる。
【0099】
チャンバーおよび/または密封部材は、1つまたは複数のオルガノポリシロキサンを含む組成物から調製されたコーティング剤でコーティングされる。チャンバーの内表面または密封部材の外表面へのコーティング剤の塗布は、例えば、浸し塗り、ブラッシング、吹き付けなどの任意の適切な方法によって達成してもよい。組成物は、何も混合せずに塗布してもよく、または溶媒中として塗布してもよく、その溶媒は、毒物学が重要視されない場合、低分子量シリコーン、無毒性塩素化またはフッ素化炭化水素、例えば、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、フレオン、またはアルカン、トルエン、石油エーテルなどの通常の炭化水素溶媒などである。溶媒は、蒸発によって実質的に除去される。コーティングは、任意の都合良い厚さであってもよく、実際には、厚さは、塗布される量、潤滑剤の粘性、および塗布温度などのような因子によって決定される。経済的な理由で、コーティングは、より厚いコーティングによって有意な利点が得られるわけではないため、好ましくは、実用的であるくらいの薄さで塗布される。コーティングの正確な厚さが、重要であるとは思われず、非常に薄いコーティング、すなわち、1ミクロンまたは2ミクロンが、効果的な潤滑性を示す。操作性に必要なわけではないが、コーティングの厚さは、全体を通して実質的に均一であることが望ましい。コーティングについては、塗布後、部分的もしくは完全に架橋し、または部分的に架橋して基質に付着させ、その後、しばらく経って、完全に架橋することができる。
【0100】
コーティングされたチャンバーおよび/またはコーティングされた密封部材は、酸化処理、例えば、プラズマ処理に供することができる。プラズマ処理は、任意の一般的な真空または大気プラズマ発生装置内で実施してもよい。例えば、グロー放電またはコロナ放電によって発生するプラズマのような、任意の適切な電離プラズマを用いてもよい。プラズマを、様々なガスまたはそれらの混合物から発生させてもよい。よく用いられるガスとして、空気、水素、ヘリウム、アンモニア、窒素、酸素、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンが挙げられる。任意の気体圧力を用いてもよく、例えば、大気圧、または約0.1mmHgから約1.0mmHgなどの5mmHg以下である。大気酸化方法などのいくつかの実施形態において、電離プラズマは、チャンバーの小さな出入口から、または後で密封部材によって密封される開口部を通して、直接導入される。コーティングされた密封部材の外表面は、現行のコロナ処理またはプラズマ処理方法と同様に直接処理することができる。他の実施形態において、真空に基づいた装置など、プラズマを、コーティングされた密封部材またはコーティングされたチャンバーの周囲で励起し、チャンバーおよび密封部材機構へと拡散するのを可能にすることができる。あるいは、プラズマを、電極位置を適切に調節することによって、開口したチャンバーの内部内で励起してもよい。酸化処理後、処理されたチャンバーおよび/または処理された密封部材は、熱処理または同位元素での照射(γ線照射など)、電子ビーム、または紫外線照射に供することができる。あるいは、処理されたチャンバーおよび/または処理された密封部材は、オーブンまたはラジオ周波数(RF)によって熱処理することができる。オーブン架橋の場合、温度は、約120℃から約140℃までの範囲であり得、オーブン中の滞留時間は、正確な配合に依存して、一般的に、約30秒間から約40秒間である。RF技術が用いられる場合、コイルは、約150℃から約200℃の基質表面温度を得るのに十分な熱を伝えるべきである。これらの温度において、硬化のためにたった約2秒間から約4秒間だけが必要とされる。
【0101】
いくつかの実施形態において、コーティング剤は、同位元素での照射、電子ビーム、または紫外線照射によって少なくとも部分的に架橋される。この技術は、その上、医学的適用において有用である、滅菌するという利点をもつ。電離放射線の形をとる放射線滅菌は、一般に、病院おいて、カテーテル、手術用品、および重要なケア用道具などの医療装置に用いられる。γ線照射は、生物学的組織を酸化することによって殺菌効果を発揮し、したがって、簡単、迅速、かつ効果的な滅菌方法を提供する。コバルト−60(
60Co)同位元素源かまたは機械発生加速電子源のいずれかからのγ線を用いることができる。滅菌されるべき材料を規定の時間、露出した
60Co源の周囲に移動させた場合、十分な曝露が達成される。医療用品を滅菌するための最も一般的に用いられる線量は、約5kGyから約100kGy、例えば、5〜50kGyである。
【0102】
いくつかの実施形態において、約0.3ミクロンから10ミクロン、好ましくは約0.8ミクロンから4.0ミクロンの厚さの粘着防止剤層を、上記の架橋されたオルガノポリシロキサンコーティングの上に塗布してもよい。粘着防止剤は、粘性約100cStから1,000,000cSt;100cStから60,000cSt;または好ましくは約1,000cStから12,500cStの通常のシリコーンオイル(オルガノポリシロキサン)であり得る。粘着防止層は、上記の通常の方法のいずれかによって加えてもよい。粘着防止剤を塗布するための好ましい方法は、クロロホルム、ジクロロメタン、好ましくはFREON(商標)TFなどのクロロフルオロカーボンなどの溶媒中の約4重量%の粘着防止剤をシリンジバレルに吹き付けるか、またはその溶液に浸漬することによる。粘着防止剤を、任意で、酸化処理および/または放射線照射によって軽度に架橋してもよい。
【0103】
チャンバーおよび密封部材の両方がオルガノポリシロキサンでコーティングされているいくつかの実施形態において、チャンバーをコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は、密封部材をコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性より大きくてもよい。例えば、チャンバーをコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は12,500cStであり得、一方、密封部材をコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は1,000cStであり得る。他の実施形態において、チャンバーをコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は、密封部材をコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性と等しい、またはそれ未満であり得る。例えば、チャンバーをコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は12,500cStであり得、一方、密封部材をコーティングするオルガノポリシロキサンの粘性は10,000cStであり得る。
【0104】
いくつかの実施形態において、コーティングされた物品は、滅菌処理に供される。細菌、酵母、カビ、およびウイルスなどの生きている生物体を除去するために医療装置を滅菌するのに、多くの滅菌技術が今日、利用できる。医療装置用の一般的に用いられる滅菌技術として、加圧滅菌、酸化エチレン(EtO)、またはγ線照射が挙げられ、加えて、より最近では、低温ガスプラズマおよび気相滅菌剤を含むシステムが導入されている。
【0105】
医療用品のチャンバーは、(i)少なくとも1つのタンパク質性物質と、(ii)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、(iii)少なくとも1つの糖とを含む溶液で少なくとも部分的に満たされている。溶液の成分および量は上で詳細に記載されている。一般的に、溶液については、チャンバーを満たす前に、例えば、0.22μmのフィルターを通す濾過によって、濾過し、当業者によく知られた無菌状態下で滅菌チャンバーへ分注することができる。
【0106】
以下の実施例において本発明をより具体的に記載するが、その実施例は、それらにおける多数の改変および変形が当業者にとって明らかであるように、例示的なものにすぎないことを意図する。
【実施例】
【0107】
実施例A
この実施例は、スクロースおよび非イオン性界面活性剤(Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤)の、Herceptin(登録商標)トラスツズマブモノクローナル抗体(mAb)の凝集への効果およびシリコーンオイル液滴特性への効果を研究する。この調査において、mAbのシリコーンオイルへの吸着とシリコーンオイルによって核形成されたmAb凝集とを区別しようとする試みはなかった。そうしないで、シリコーンオイルとmAbとの間の任意の不可逆性会合を単に「凝集」と呼ぶ。
【0108】
表1に詳細に示されているように、4つの製剤をこの研究で分析した。各製剤を、蛍光活性化粒子スキャニングによって分析し、粒子組成を決定した。これらの製剤の一部については、より完全な分析を行った。懸濁液濁度、シリコーンオイル液滴数濃度、およびシリコーンオイル液滴サイズ分布を測定した。濾過後、Herceptin(登録商標)トラスツズマブ濃度を水性濾液において測定した。
【0109】
組換えヒト化モノクローナル抗体(rhmAb)Herceptin(トラスツズマブ、Genentech,Inc.)の溶液を、大規模な透析(Pierce Slide−A−Lyzer,3500 MWCO)によって10mMの酢酸ナトリウム、pH5.0へと交換した。スクロースおよび/またはポリソルベート20(Tween 20)の別々の溶液の適当な容量を、精製されたHerceptin(登録商標)溶液と1mg/mLの最終mAb濃度まで混合した。製剤添加剤(スクロース、NaCl、および界面活性剤)の濃度を、適当な結果のセクションに記載されているように、系統的に変化させた。全ての化学物質は、試薬グレードまたはそれ以上であった。
【0110】
【表1】
【0111】
水性緩衝液(10mMの酢酸ナトリウム、pH5.0)中の医療グレードのシリコーンオイル(約0.5%v/v)の懸濁液を、高圧均質化によって作製した。ポリジメチルシロキサン医療用液体(Dow Corning 360、1000cSt)を水性緩衝液に加え、高圧ホモジナイザー(Avestin, Inc.から市販されているEmulsiflex C5 ホモジナイザー)に一度、通過させた。均質化後すぐに、製剤添加剤を含むmAb溶液を、緩衝液中のシリコーンオイルの懸濁液と混合することによって、分析のための最終懸濁液を作製した。
【0112】
様々なインキュベーション期間後、懸濁液を濾過(Whatman Anotop 10、0.02μmのシリンジフィルター)し、水相と油相を分離した。濾過直前に、濾過膜近くの油滴が沈殿するのを可能にするために、懸濁液を約2分間、保持した。相分離の程度を試験するための対照として、シリコーンオイルをナイルレッド色素で標識した後に、含水硝酸エステル(aqueous nitrate)の蛍光を測定した。628nmにおけるほんのわずかな蛍光測定値によって、十分な分離が実証された。
【0113】
2つの試料型の光学密度を、PerkinElmer Lambda 35分光光度計(Wellesley、MA)で測定した。液滴集塊物を解膠するための短時間の穏やかな撹拌後、均一なシリコーンオイル懸濁液光学密度を、時間および製剤条件の関数として660nmで測定した。水性濾液において、280nmでのmAb吸光度を測定して、mAb濃度を決定した。あるいは、mAb濃度をクーマシー色素結合アッセイ(Coomassie Plus(商標)Better Brandford Assay Kit、Pierce Biotechnology、Rockford、IL)で測定した。
【0114】
シリコーンオイル液滴のサイズ分布を、Coulter LS230レーザー回折粒子サイズアナライザー(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を用いて測定した。相対サイズ分布を、均質化後すぐに、および懸濁液調製から2週間目までの間、時間の関数として、懸濁液について測定した。シリコーンオイル液滴の相対サイズ分布および数濃度から、シリコーンオイル総表面積を推定した。
【0115】
蛍光活性化粒子スキャニングは、粒子サイズ、形態、および相対粒子蛍光を分析するために用いることができる。閾値サイズ(>1μm直径)の粒子のみがその技術によって分析される。スキャンされる粒子について、前方光散乱(FSC、1800光散乱)、側方光散乱(SSC、90°光散乱)、緑色蛍光強度(FL1、525〜585nm)、および赤色蛍光強度(FL2、585〜600nm)を測定した。Herceptin(登録商標)トラスツズマブ分子を、きちんと解説されたプロトコール(MP 00143、Amine−Reactive Probes、Invitrogen Corporation)に従ってAlexa Fluor(登録商標)488色素(Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)で化学的に標識した。シリコーンオイルを標識するために、ナイルレッド色素をシリコーンオイル中に5mg/mLで溶解した。ナイルレッド、9−ジエチルアミノ−5−ベンゾフェノキサジン−5−オンは、蛍光が水中で完全に消光される極めて疎水性の高い色素である。Alexa Fluor(登録商標)488色素は、519nmの発光最大値を有し、ナイルレッド色素は628nmの発光最大値を有する。化学的に標識されたmAbおよび染色されたシリコーンオイルを含む懸濁液を、BD FACScan(商標)フローサイトメーターアナライザー(Becton,Dickinson and Company、Franklin Lakes、NJ)でスキャンした。
【0116】
Herceptin(登録商標)トラスツズマブが懸濁液中、シリコーンオイル液滴と相互作用する程度は、製剤環境およびインキュベーション時間に依存する。
図1Aおよび1Bは、mAbのシリコーンオイルとの会合を示す。シンボルは、最初のmAb濃度と濾液中のmAb濃度との間の差によって測定された3連の算術的平均である。誤差バーは、±1標準偏差を表す。全シリーズにおいて、mAb濃度は1mg/mLである。両方のパネルにおいて、正方形は、0.5Mのスクロース、mAb、およびシリコーンオイルを含む製剤を示す。
図1Aにおいて、三角形は、mAbおよびオイルのみを含む製剤を示す。
図1Bにおいて、三角形は、0.5Mのスクロース、0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤、mAb、およびオイルを含む製剤を示す。
【0117】
懸濁、インキュベーション、および濾過後、スクロースを含む製剤は、十分長いインキュベーション時間において、水性濾液中、スクロースを含まないものより高い濃度のmAbを含んだ。したがって、
図1Aに示されているように、スクロースの存在は、長時間におけるmAb凝集を低減する。
図1Bは、パネルAに示されたスクロースを含む製剤を、スクロースおよび非イオン性界面活性剤を含む製剤と比較している。非イオン性界面活性剤の添加は、mAbのシリコーンオイルとの会合をさらに低減した。
【0118】
標識mAbおよび標識シリコーンオイルを含む粒子の蛍光強度を測定することによって、製剤添加剤のmAb凝集への効果をより良く理解することができる。
図2A〜2Dは、2つの波長バンドの蛍光強度散布図を示す。
図2A〜2Dにおいて、FL1強度は、Alexafluor 488標識mAb濃度に正比例する。FL2蛍光強度は、ナイルレッド標識シリコーンオイル体積に正比例する。FL1およびFL2強度は、おおよそ粒子サイズに対応しており、10倍より大きいサイズ範囲にわたっている。実験設定を、mAbおよびシリコーンオイルの相対強度が
図2Aにおいて等価であるように最適化した。これらの設定を全ての他の製剤について保持した(
図2B〜2D)。したがって、パネル内の傾向およびパネル間の比較は有意義である;絶対強度値は意味がない。軸単位は任意であった。ヒストグラムは粒子強度分布を表す。ヒストグラムスケールは0から0.5までの範囲である。
図2A〜2Dは、スクロースおよび界面活性剤の様々な組合せを含む1mg/mLのmAbおよびシリコーンオイルの製剤を示す:A スクロースも界面活性剤も含まない;B 0.5Mのスクロース;C 0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤;ならびにD 0.5Mのスクロースおよび0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤。
【0119】
図2A〜2Dのそれぞれは、表1における同じ文字をもつ製剤と対応している。したがって、左側の2つのパネル(
図2Aおよび2C)は、スクロースを含まない製剤を表す。右側の2つのパネル(
図2Bおよび2D)は、スクロースを含む製剤を表す。上から下へと、パネルは、界面活性剤なし(
図2Aおよび2B)および非イオン性界面活性剤有り(
図2Cおよび2D)を表す。
【0120】
図2Aは、mAbおよびシリコーンオイルだけを含む製剤についての粒子強度を示す。散布図は、サイズの10倍までの範囲(約1〜10μm)にわたって線形であり、mAb濃度のシリコーンオイル体積に対する比は異なるサイズの粒子について一定であることを示す。Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の添加(
図2C)は、FL1強度にもFL2強度にも有意には影響しない。スクロースを製剤に導入した場合(右パネル)、蛍光強度の範囲は一般的に圧縮される。さらに、スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の存在の組合せは、mAb凝集を大きく低下させる:粒子の半分より多くは無視できるほどのFL1強度を記録する(
図2D)。
図2Bにおいて、複数のデータ傾向は、2つ以上の別個の粒子集団を示唆する。
【0121】
散布図における線形からの逸脱は、油滴のサイズが増加するにつれて、粒子成長が線形ではない領域が存在することを示す。代わりに、本質的に同じサイズの粒子について表面粗さの違いが存在するように思われる。いかなる理論によっても縛られるつもりはないが、非線形の非球形粒子成長の1つの説得力のある説明は、粒子が、即時の癒着なしに、より小さな液滴の付加によって成長することである。この「クリーミング(creaming)」効果は、多液滴の集塊物である粒子を生じる。蛍光スキャニングは、粒子が塊になるにつれての抗体/オイルの粒子への寄与の測定を可能にする。
【0122】
(赤色強度および緑色強度の増加に対応する)粒子のサイズが成長する時、抗体のオイルに対する比は一般的に一定のままである。これは、より小さな油滴が結合して、より大きな多液滴粒子を形成するという仮説を支持する。液滴が塊になってより大きな粒子を形成した時、小さなシリコーンオイル液滴の表面に吸収された抗体分子は、シリコーンオイルと会合したままであるように思われる。
【0123】
図3A〜3Dは、同じ4つの製剤A〜D(表1参照)についてスクロースおよび界面活性剤の様々な組合せを含む水性mAb製剤(1mg/mL)におけるシリコーンオイル液滴の側方光散乱(90°光散乱)対前方光散乱(180°光散乱)の散布図である。前方光散乱強度は、主に粒子サイズによって影響され、側方光散乱強度は、粒子サイズおよび表面粗さによって影響を及ぼされる。軸単位は任意である。ヒストグラムは粒子分布を表す。ヒストグラムスケールは0から0.5までの範囲である。
図3A〜3Dは、スクロースおよび界面活性剤の様々な組合せを含む1mg/mLのmAbおよびシリコーンオイルの製剤を示す:A スクロースも界面活性剤も含まない、B 0.5Mのスクロース、C 0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤、ならびにD 0.5Mのスクロースおよび0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤。
図3Bおよび3Dに示されているように、スクロースの添加は、平均粒子サイズ(x軸)および表面粗さ(y軸)を大きく低下させる。
【0124】
シリコーンオイル癒着の相対速度は、
図4Aおよび4Bにプロットされている。
図4Aおよび4Bは、浮遊シリコーンオイルを含むmAb製剤における光オブスキュレーションの時間依存性を示す。各製剤の試料を、懸濁液を解膠および脱クリーミングするための短時間の回旋後、分析した。各製剤の最初の時点を、同じ値に対して標準化した。シンボルは、3連の算術的平均であり、誤差バーは、±1標準偏差を表す。
図4Aおよび4Bのそれぞれにおいて、mAb濃度は1mg/mLである。
図4Aおよび4Bにおいて、正方形は、0.5Mのスクロース、mAb、およびシリコーンオイルを含む製剤を示す。
図4Aにおいて、三角形は、mAbおよびオイルのみを含む製剤を示す。
図4Aは、スクロースを含む場合とスクロースを含まない場合の、mAbおよびシリコーンオイルの製剤を比較する。
図4Aに示されているように、スクロースは、シリコーンオイル癒着の速度を増強した。
図4Bにおいて、三角形は、0.5Mのスクロース、0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤、mAb、およびオイルを含む製剤を示す。
図4Bは、スクロースを含む製剤を、スクロースおよび非イオン性界面活性剤を含む製剤と比較する。
図4Bに示されているように、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤は、シリコーンオイル癒着速度を低下させた。したがって、浮遊している油滴は、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤が存在する場合はより長く、スクロースが存在する場合はより短く、溶液中に留まる。
【0125】
各製剤におけるシリコーンオイル表面積を各時点で推定した後、表面積標準化mAb凝集を計算することができる(
図5A〜5B)。
図5A〜5Bのそれぞれは、
図1における同じパネルに対応し、シリコーンオイル表面積を考慮するように改変されている。シンボルは、最初のmAb濃度と濾液中のmAb濃度の間の差によって測定された3連の算術的平均である。差を、製剤特異的および時間特異的シリコーンオイル表面積で割る。誤差バーは、±1標準偏差を表す。
図5Aおよび5Bのそれぞれにおいて、mAb濃度は1mg/mLである。全パネルにおいて、点線は、単層被覆の推定値を表し、正方形は、0.5Mのスクロース、mAb、およびシリコーンオイルを含む製剤を示す。
図5Aにおいて、三角形は、mAbおよびオイルのみを含む製剤を示す。
図5Bにおいて、三角形は、0.5Mのスクロース、0.005%Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤、mAb、およびオイルを含む製剤を示す。シリコーンオイル表面積によって標準化すると、mAb凝集は、
図5Aに示されているように、スクロースの存在下で十分長い時間において、実際に増加する。スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含む製剤において、mAb/オイル会合レベルは、低く、かつ相対的に一定のままである(
図5B)。
【0126】
上記の図において示されているように、製剤添加剤は、シリコーンオイル液滴癒着、mAbのシリコーンオイルへの曝露のレベル、およびmAb凝集に影響を及ぼすことができる。さらに、2つ以上の製剤添加剤の併用効果は、それぞれの別々の効果より顕著であることがある。具体的には、スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の両方を含む製剤は、mAbのシリコーンオイルとの会合を効果的に低下させ、スクロースの製剤への添加は、シリコーンオイル液滴特性を著しく変化させる。
【0127】
いかなる理論によっても縛られるつもりはないが、スクロースがmAbのシリコーンオイルとの会合を低下させる機構は、癒着の推進であると考えられる。上記の実施例において、スクロースは、
図4Aに示されているように、シリコーンオイル癒着の速度を増加させる。液滴が癒着するにつれて、シリコーンオイルの総表面積は減少する。スクロースを含む製剤において、利用可能である表面積が減少しているため、mAb凝集速度は、十分長い時間では下降する(
図1A)。興味深いことに、スクロースは、シリコーンオイル表面単位あたりのmAb/シリコーンオイル会合の程度を増加させる(
図5A)。たとえそうであっても、全体的な凝集速度は、癒着の増強により改善する。したがって、スクロースの治療用mAb製剤への添加は、mAb安定化にとって有益であるだけでなく、mAbのシリコーンオイル表面への曝露を低下させるためにも有益である可能性がある。
【0128】
スクロースを含む製剤へのTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の添加は、mAb/オイル会合レベルをさらに低下させることができる。この効果は、特に、短時間で明らかである(
図4B)。興味深いことに、mAb/オイル会合を阻害することにおけるTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の効果は、
図2Cおよび2Dに示されているように、スクロースの共存によって増強される。スクロースの非存在下において、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含む製剤についての蛍光強度散布図(
図2C)は、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含まない製剤についてのもの(
図2A)と有意には異ならない。しかしながら、糖および非イオン性界面活性剤が両方とも製剤に存在する場合(
図2D)、mAb/オイル会合の低下は増強される。
【0129】
スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤が一緒にmAb凝集を防ぐ機構は、スクロース単独の機構と異なる。
図4Bに証明されているように、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤のスクロースを含む製剤への添加は、オイル癒着速度を遅くする。液滴サイズおよび数濃度測定値から、浮遊シリコーンオイル表面積は、均質化から2週間目まで比較的一定のままである。スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含む製剤は、mAb凝集を阻害し、スクロースを含むが、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含まない2番目に最も良い製剤に対してほとんど1/2の凝集低下を示す(
図5B)。
【0130】
mAbを含まないシリコーンオイル懸濁液の光散乱ドットプロットは、
図3および4に示されたものとほとんど同一であるように思われるため、散布図プロファイルは、主に、シリコーンオイル液滴特性についての情報、すなわち、フロキュレーションおよび癒着を明らかにしている。シリコーンオイル癒着速度およびクリーミング速度のスクロース推進性増加は、これらのドットプロットに影響を及ぼす。スクロースを含む製剤において、液滴は、スクロースを含まない製剤においてより、小さく、表面複雑さが低く、サイズ範囲が狭い。
【0131】
図3におけるスクロースを含まない製剤において、制約されたデータ傾向は興味深い。仮定的には、垂直光散乱が最適に較正されるという条件で、様々なサイズの完全に滑らかな球形粒子が線形トレンドを生じるであろう。線形からの変化は、球形からの形状偏差を示す。いかなる理論によっても縛られるつもりはないが、この研究で観察された偏差は、即時の癒着なしの液滴フロキュレーションに起因すると考えられる。したがって、より小さな球形液滴で構成される大きな粒子は、球形粒子に関しては存在しない表面複雑さを示す。
図6は、前方および側方光散乱に基づいた、シリコーンオイル液滴の仮定的表示および集塊物分布である。線形トレンド(点線)は、様々な直径の球形液滴から生じると考えられる。散布図プロファイルにおける線形からの逸脱は、即時の癒着なしの液滴集塊によって説明することができる。
【0132】
液滴の持続性集塊物(すなわち、迅速には癒着しないフロック)の存在は、この調査において観察された他の現象を説明できる。(解膠を誘導する可能性が高い)層流光オブスキュレーションにより測定された粒子サイズ分布は、蛍光活性化粒子スキャニングによる測定値より狭い液滴サイズ範囲を一貫して明らかにした。加えて、スクロースを含まない多くの製剤において、mAb濃度のシリコーンオイル体積に対する比は、粒子サイズの幅広い範囲に対して、比較的一定であった。遅い癒着のために、吸着されたmAbは必ずしも、フロキュレーションによってシリコーンオイル表面から追い出されるわけではない。そういうわけで、mAb濃度は、表面積の代わりにシリコーンオイル集塊物体積と線形に増加することができる。
【0133】
FL1対FL2散布図における分割されたトレンドは、粒子の別々の集団の存在によって説明することができる。これらのトレンドは、スクロースを含む製剤において生じる(
図2B)。製剤条件に依存して、以下のいくつかの粒子集団の組合せが存在し得る:シリコーンオイルを含まないmAb凝集物、シリコーンオイル核を含むmAb凝集物、およびmAbが液滴表面に吸着しているシリコーンオイル液滴集塊物。mAb凝集物の疎水性ポケットがシリコーンオイルからナイルレッドを剥奪する可能性がある。あるいは、シリコーンオイル液滴は、mAb凝集のための核としての役割を果たすことができる。
【0134】
スクロースおよびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含む治療用mAb製剤は、シリコーンオイルの存在下におけるmAb凝集を著しく低下させる。程度がより小さくなって、スクロースのみを含む製剤は、おそらくシリコーンオイル癒着速度の増加が原因で、mAb凝集を低下させる。シリコーンオイルの混入はタンパク質凝集を引き起こすことが示されているため、タンパク質凝集を低下させる製剤ストラテジーの成功は、シリコーンオイルに曝される製品にとって重要であり得る。スクロースの治療用タンパク質製剤への添加は、タンパク質のシリコーンオイル表面への曝露を低減することができる。上記実施例に示されているように、スクロースおよび非イオン性界面活性剤を含む製剤は、シリコーンオイルが引き起こすタンパク質凝集を阻害することができる。
【0135】
実施例B
懸濁液におけるオイル負荷に対するオイル粘性の効果
医療グレードのシリコーンオイルを、表2に示されているように、非イオン性界面活性剤を含む水溶液、および含まない水溶液に加えた。各試料におけるシリコーンオイルの濃度および粘性は下記の表2に示されている。
図7は、600nmでの光学密度の測定によって間接的に、オイル負荷(oil loading)に対するオイル粘性の影響を示す。600nmでの光学密度(OD
600)は、浮遊オイル濃度の間接的測定である。
図7および表2に示されているように、より低いオイル粘性はより高い最初のOD
600を反映し、そのより高いOD
600がより高いオイル負荷を許容する。
図8および9に示されているように、試験された試料について異なる粘性(1,000cSt対12,500cSt)のポリジメチルシロキサンの浮遊油滴の癒着挙動における質的違いはなかった。
【0136】
【表2】
【0137】
実施例C
シリコーンオイルを、上記の実施例Aに記載されているように、5mg/mlでシリコーンオイルにナイルレッド色素を溶解することによって標識した。本研究に用いられるモノクローナル抗体は、標準の市販されているPacific Blue(登録商標)マウス抗ヒトCD4 mAb(クローンRPA−T4、Becton,Dickinson and Company)であった。Pacific Blue(登録商標)色素は、455nmの発光最大値を有する。ナイルレッドは628nmの発光最大値を有するが、有意なナイルレッド発光シグナルは、R−フィコエリトリン(PE)に通常用いられる検出器において生じ、その発光検出器が、この実施例Cについてのナイルレッド標識試料に用いられた。Pacific Blue(登録商標)標識mAbおよびナイルレッド標識シリコーンオイルを含む懸濁液を、上記の実施例Aに記載されているように、調製し、Pacific Blue(登録商標)検出(450/50BPフィルター)のために紫色レーザー励起(405nm)およびナイルレッド検出(585/42BPフィルター)のために青色レーザー励起(488nm)を用いてBD(商標)LSR II フローサイトメーターアナライザー(Becton,Dickinson and Company)で分析した。各粒子について総蛍光が測定されることを保証するために、全ての蛍光測定を、パルス領域を用いて行った。広いダイナミックレンジ(4桁)に対して蛍光分布を適切に示し、さらにゼロ値および負の値が正確にディスプレイされるのを可能にするために、BD Divaソフトウェア内からの双指数関数(biexponential)変換(Logicle、DR Parks、WA Moore、Stanford University)を用いた。
【0138】
懸濁液において標識CD3抗体がシリコーンオイル液滴と相互作用する程度は、製剤環境およびインキュベーション時間に依存する。
図12A〜12Dは、mAbの、非標識シリコーンオイルとの会合およびナイルレッドで標識されたシリコーンオイルとの会合の両方を示す。mAbを含む全ての試料において、mAb濃度は2μg/mlであった。
【0139】
今、
図13Aおよび13Bを参照すれば、ナイルレッドシグナルの関数としての標識mAbからのPacific Blue(登録商標)シグナルの傾き(
図13B)は、体積の関数としての表面積についての理想の理論値の傾き(
図13A)と非常に近かった。理論的には、完全な球形について、表面積の体積に対する傾きは、10の2/3乗(10
0.667)であり、観察された傾きは10
0.603であり、mAbが、オイル粒子の内部の中に捕獲されるか、または分布しているということに対立するものとして、油滴またはオイル粒子の外部上に存在するという予想と一致した。mAbがナイルレッド標識油滴と線形様式で分布しているならば、傾きは、対数プロット上かまたは双指数関数ディスプレイの対数部分上のいずれかで、約1.0であるはずである。
【0140】
mAb粒子およびシリコーンオイル粒子とmAb粒子の集塊物からのシリコーンオイル粒子の分離への非イオン性界面活性剤の効果は、
図14Aおよび
図14Bに示されている。
図14Aは、本発明によるナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイルおよびPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図14Bは、本発明によるナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および0.03%Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。デジタルベースライン補正後、相対蛍光値は、本質的にスコアを意味し、シグナル強度を示し、検出可能なシグナルをもたない集団は、それらの値のうちの半分が負で、それらの値のうちの半分が正のため、ゼロ近くに中心がある傾向を有する。双指数関数変換は、最も薄暗い集団の分散に基づいてゼロ値および負の値をスケールの下端にディスプレイすること、対数への円滑な移行、ならびに標準対数スケールに等価のディスプレイレンジの大部分を可能にする分散標準化変換である。
図14Bに示されているように、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤は、mAb/オイル会合を阻害するのに効果的である。
【0141】
mAb粒子およびシリコーンオイル粒子とmAb粒子の集塊物からのシリコーンオイル粒子の分離への非イオン性界面活性剤の効果は、
図15Aおよび
図15Bに示されている。
図15Aは、本発明によるナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイルおよびPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図15Bは、本発明による、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および標識タンパク質を油滴に曝した後に加えられた0.03%Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図15Bに示されているように、Tween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤は、mAb/オイル会合を阻害するのに効果的である。
【0142】
mAb粒子およびシリコーンオイル粒子とmAb粒子の集塊物からのシリコーンオイル粒子の分離への非イオン性界面活性剤、塩、および糖の効果は、
図16A〜16Dに示されている。
図16Aは、本発明によるナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイルおよびPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図16Bは、本発明による、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および150mMのNaClの試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図16A(塩を含まない製剤)および16B(塩を含む製剤)の比較によって示されるように、NaCl塩の存在は、mAb/オイル会合を阻害するようには見えなかった。
【0143】
図16Cは、本発明による、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および0.5Mのスクロースの試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図16A(スクロースを含まない製剤)および16C(スクロースを含む製剤)の比較によって示されるように、スクロースの存在は、mAb/オイル会合を阻害するようには見えなかった。
【0144】
図16Dは、本発明による、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、0.5Mのスクロース、150mMの塩、および0.03%Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図16A(塩もスクロースも非イオン性界面活性剤も含まない製剤)および16D(塩、スクロース、およびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤を含む製剤)の比較によって示されるように、塩、スクロース、およびTween 20(登録商標)非イオン性界面活性剤の存在は、mAb/オイル会合を阻害した。
【0145】
蛍光活性化粒子スキャニングにおいて、電子パルスウィンドウは、シグナルが、特定された時間枠内で処理されるのを可能にするタイミングウィンドウ(ウィンドウゲート)である。通常、これは、パルスの完全積分を確実にするように、データ収集中、保存的な一定値(特定の器械についての製造会社の使用説明書によれば、最小限必要とされる値より数マイクロ秒長いことが多い)に設定される。(ウィンドウ拡張を調整することによって)精密較正システム上でシグナルを完全に積分するのに必要とされる時間だけにまで時間を減少させることの効果を、非イオン性界面活性剤を含む試料および含まない試料について10μs対2μsで評価した。
図17Aは、本発明による、10μsのウィンドウ拡張で測定された、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイルおよびPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図17Bは、本発明による、10μsのウィンドウ拡張で測定された、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および0.03%Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図17Cは、本発明による、2μsのウィンドウ拡張で測定された、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイルおよびPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図17Dは、本発明による、2μsのウィンドウ拡張で測定された、ナイルレッド色素で標識されたシリコーンオイル、Pacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体、および0.03%Tween 20(登録商標)ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤の試料についての、ナイルレッド標識シリコーンオイルの相対蛍光強度(x軸)に対するPacific Blue(商標)色素で標識されたCD3抗体の相対蛍光強度(y軸)のプロットである。
図17Aと17C、および
図17Bと17Dのそれぞれの比較によって示されるように、ウィンドウ拡張を10μsから2μsへ減少させることは、両方の色素範囲における集団変動係数(CV)を低下させる。
【0146】
本発明の特定の実施形態の特定の詳細に関して本発明を記載してきた。添付された特許請求の範囲に含まれる場合を除いて、そのような詳細が本発明の範囲への限定としてみなされることを意図するものではない。