(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
≪第1実施形態≫
<モータ駆動装置の構成>
図1は、本実施形態に係るモータ駆動装置の構成図である。
図1に示すモータ駆動装置100は、インバータ1と、電流検出手段2と、インバータ制御装置3と、を備えている。なお、以下の記載では、交流モータ5の角速度を、便宜的に「周波数」と記すことがあるものとする。
【0014】
(インバータ)
インバータ1は、直流電源4から入力される直流電圧V
DCを所定の三相交流電圧に変換し、交流モータ5に出力する電力変換器である。インバータ1は、複数のスイッチング素子S1〜S6を有し、後記するPWM信号発生手段38から入力されるPWM信号に従ってスイッチング素子S1〜S6のON/OFFを切り替えることで、直流電圧V
DCを三相交流電圧に変換する。
このように、インバータ1から三相交流電圧を印加することによって、交流モータ5に三相交流電流Iu,Iv,Iwを流入させ、回転磁界を発生させる。ちなみに、当該回転磁界によって回転する交流モータ5として、例えば、同期モータが挙げられる。
【0015】
インバータ1は、スイッチング素子S1,S2を備える第1レグと、スイッチング素子S3,S4を備える第2レグと、スイッチング素子S5,S6を備える第3レグと、が互いに並列接続されている。また、それぞれのスイッチング素子S1〜S6には、転流による破壊を防止するための還流ダイオードD1〜D6が逆並列に接続されている。
なお、スイッチング素子S1〜S6として、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。
【0016】
(電流検出手段)
電流検出手段2は、交流モータ5の電機子巻線に流入する電流Iu,Iv,Iwをそれぞれ検出し、後記する3相/2軸変換手段31に時々刻々と出力する。ちなみに、電流Iu,Iv,Iwのうち任意の2つを検出し、前記した2つの電流値から残りの電流値を推定してもよい。
【0017】
(インバータ制御装置)
インバータ制御装置3は、前記した電流検出手段2から入力される電流Iu,Iv,Iwに基づいてPWM信号を生成し、当該PWM信号をインバータ1に出力する装置である。これによって、交流モータ5の駆動が制御される。
インバータ制御装置3は、例えばマイコン(Microcomputer:図示せず)であり、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)に展開し、CPU(Central Processing Unit)が各種処理を実行するようになっている。
【0018】
以下では、インバータ制御装置3の構成を、交流モータ5の特性と関連付けながら順次説明する。
図2は、交流モータの電圧・電流の関係を示すベクトル図である。
図2に示すU軸は、交流モータ5が備えるU相コイルの磁束方向を示している。
図2に示すd軸は交流モータ5の磁束方向を示し、d軸と直交するようにq軸をとっている。ちなみに、位置センサレス制御を行う場合、実際にd軸及びq軸がどの位置にあるか(つまり、交流モータ5の磁束がどの向きにあるか)は検出されない。したがって、推定されるd軸としてのdc軸、及び、推定されるq軸としてのqc軸を制御軸とし、このdc軸及びqc軸上で電流制御や速度制御を行う。
つまり、制御軸(dc軸、qc軸)とは、位置センサレス制御において制御系が推定する仮想的な軸である。
【0019】
図2に示すようにdc軸とd軸との位相差を軸誤差Δθとし、dc軸とU軸との位相差をdc軸位相θdcとする。交流モータ5の回転に同期してd軸は電気周波数ωで回転し、dc軸は周波数推定値ω1で回転する。ちなみに、電気周波数ωは、交流モータ5の電気系(電圧・電流)の周波数を意味する。また,後記する機械周波数ωmは、交流モータ5の機械系(回転軸やベアリング)が回転する際の周波数を意味する。
モータ電圧V1は、交流モータ5に印加される電圧であり、d軸方向の成分をd軸電圧Vdとし、q軸方向の成分をq軸電圧Vqとする。また、モータ電圧V1に関して、dc軸方向の成分をdc軸電圧Vdcとし、qc軸方向の成分をqc軸電圧Vqcとする。
【0020】
モータ電流I1は交流モータ5に流れる電流であり、d軸方向の成分をd軸電流Idとし、q軸方向の成分をq軸電流Iqとする。そうすると、交流モータ5の動作は、以下に示す(数式1)の電圧方程式に従う。
なお、(数式1)において、R:交流モータ5の抵抗値、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Ke:誘導起電力定数、s:微分演算子、ω:交流モータ5の電気周波数である。なお、前記したR,Ld,Lq,Keは既知の値である。
【0022】
また、交流モータ5のモータトルクτmに関して、以下に示す(数式2)の関係が成り立つ。ちなみに、(数式2)においてPm:交流モータ5の極対数である。
【0024】
図1に示すように、インバータ制御装置3は、3相/2軸変換手段31と、軸誤差演算手段32と、PLL演算手段33と、2軸/3相変換手段34と、ベクトル抽出手段35と、電圧変動演算手段36と、電圧指令演算手段37と、PWM信号発生手段38と、を備えている。
【0025】
3相/2軸変換手段31は、電流検出手段2から入力される3相座標系の電流Iu,Iv,Iwと、PLL演算手段33によって推定されるdc軸位相θdcとに基づいて、制御系のdc軸電流Idc及びqc軸電流Iqcを算出する。そして、3相/2軸変換手段31は、算出したdc軸電流Idc、及びqc軸電流Iqcを軸誤差演算手段32に出力する。
軸誤差演算手段32は、以下に示す(数式3)を用いて軸誤差Δθを算出し、算出した軸誤差ΔθをPLL演算手段33に出力する。なお、(数式3)において、ω1:交流モータ5の周波数推定値である。
【0027】
PLL(Phase Locked Loop)演算手段33は、軸誤差演算手段32から入力される軸誤差Δθを軸誤差指令値Δθ*に一致させるように、以下に示す(数式4)を用いて交流モータ5の周波数推定値ω1を算出する。そして、PLL演算手段33は、算出した周波数推定値ω1を電圧変動演算手段36に出力する。なお、(数式4)においてωr*は周波数指令値であり、K
PLLはPLLゲインである。
【0029】
さらに、PLL演算手段33は、以下に示す(数式5)を用いて交流モータ5のdc軸位相θdcを算出し、3相/2軸変換手段31及び2軸/3相変換手段34に出力する。
【0031】
電圧変動演算手段36は、3相/2軸変換手段31から入力されるdc軸電流Idc及びqc軸電流Iqcと、PLL演算手段33から入力される周波数推定値ω1と、ベクトル抽出手段35から入力される電圧指令Vd**と、に基づいて、変動電圧ΔVd,ΔVqを算出する。なお、電圧変動演算手段36の詳細については、後記する。
【0032】
電圧指令演算手段37は、定常電圧指令(Vd*,Vq*)と、変動電圧(ΔVd,ΔVq)とに基づいて、電圧指令(Vd**,Vq**)を算出する。
ちなみに、前記したd軸定常電圧指令Vd*、及びq軸定常電圧指令Vq*は、負荷トルクτLが脈動しないと仮定した場合の電圧指令である。これらは、通常のベクトル制御理論に基づいて算出できる。
d軸変動電圧ΔVd、及びq軸変動電圧ΔVqは、負荷トルクτLが脈動する場合、これを打ち消すための変動分の電圧である。d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧Vqの算出方法については、後記する。
【0033】
電圧指令演算手段37は、算出した電圧指令(Vd**,Vq**)を、2軸/3相変換手段34及びベクトル抽出手段35に出力する。
ベクトル抽出手段35は、電圧指令演算手段37から入力されるd軸電圧指令Vd**及びq軸電圧指令Vq**のうち前者を抽出し、電圧変動演算手段36にフィードバックする。
【0034】
d軸電圧指令Vd**、及びq軸電圧指令Vq**は、前記した定常電圧指令(Vd*,Vq*)と変動電圧(ΔVd,ΔVq)との和であり、最終的な電圧指令である。d軸電圧指令Vd**、及びq軸電圧指令Vq**は、デッドタイム誤差やスイッチングの遅れなどを無視すれば、
図2に示すdc軸電圧Vdc、qc軸電圧Vqcと等しくなる。
【0035】
2軸/3相変換手段34は、電圧指令演算手段37から入力されるd軸電圧指令Vd**、及びq軸電圧指令Vq**と、PLL演算手段33から入力されるdc軸位相θdcとに基づいて、交流モータ5の3相電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する。
PWM(Pulse Width Modulation)信号発生手段38は、2軸/3相変換手段34から入力される3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいてPWM制御を行う際の指令信号(つまり、PWM信号)を生成し、スイッチング素子S1〜S6に出力する。
これによって、交流モータ5の位置センサレス制御及びトルク脈動抑制制御が実行される。
【0036】
<電圧変動演算手段の構成>
図3は、モータ駆動装置が備える電圧変動演算手段の構成図である。本実施形態に係るモータ駆動装置100の特徴は、電圧変動演算手段36を備えることによって、位置の推定精度に依存することなくトルク脈動を抑制する点にある。
電圧変動演算手段36は、第一電圧演算手段36aと、第二電圧演算手段36bと、位相差演算手段36cと、電気/機械周波数換算手段36dと、位相差指令演算手段36eと、振幅比演算手段36fと、振幅比指令演算手段36gと、電圧変動調整手段36jと、を有している。
【0037】
第一電圧演算手段36aは、以下に示す(数式6)を用いて第一電圧Vn1を算出する。ちなみに、周波数推定値ω1はPLL演算手段33(
図1参照)から入力され、qc軸電流Iqcは3相/2軸変換手段31から入力される。また、q軸インダクタンスLqは、既知の値である。
【0039】
第二電圧演算手段36bは、以下に示す(数式7)を用いて第二電圧Vn2を算出する。ちなみに、電圧指令Vd**は、前記したベクトル抽出手段35から入力される。
なお、(数式7)の変形において、前記した(数式6)の結果を用いるとともに、電圧指令Vd**が理想的にはdc軸電圧Vdcと等しいことを用いた。
【0041】
位相差演算手段36cは、前記(数式7)によって求めた第二電圧Vn2の機械周波数成分の位相と、交流モータ5のdc軸電流Idcの機械周波数成分の位相との差である位相差θaを算出する。当該位相差θaは、例えば、フーリエ解析によって求めることができる。なお、dc軸電流Idcは、3相/2軸変換手段31(
図1参照)から入力される。
【0042】
電気/機械周波数換算手段36dは、PLL演算手段33(
図1参照)から入力される周波数推定値ω1を極対数Pmで除算することによって、機械周波数ωmに換算する。前記したように、機械周波数ωmは、交流モータ5の機械系(回転軸やベアリング)が回転する際の周波数を意味している。
【0043】
位相差指令演算手段36eは、以下に示す(数式8)を用いて位相差指令θa*を算出する。なお、機械周波数ωmは、電気/機械周波数換算手段36dから入力される。また、d軸インダクタンスLd、及び交流モータ5の抵抗Rは、既知の値である。
【0045】
振幅比演算手段36fは、前記した第二電圧Vn2の機械周波数成分の振幅と、交流モータ5のdc軸電流Idcの機械周波数成分の振幅との比である振幅比Gaを算出する。
振幅比指令演算手段36gは、以下に示す(数式9)を用いて、振幅比指令Ga*を算出する。
【0047】
第一差分演算手段36hは、位相差演算手段36cから入力される位相差θaと、位相差指令演算手段36eから入力される位相差指令θa*との差分Δθaを算出し、電圧変動調整手段36jに出力する。
第二差分演算手段36iは、振幅比演算手段36fから入力される振幅比Gaと、振幅比指令演算手段36gから入力される振幅比指令Ga*との差分ΔGaを算出し、電圧変動調整手段36jに出力する。
【0048】
電圧変動調整手段36jは、第一差分演算手段36hから入力される差分Δθaと、第二差分演算手段36iから入力される差分ΔGaとに基づいて、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを算出する。
すなわち、電圧変動調整手段36jは、位相差θaと位相差指令θa*との差分Δθaをゼロ、かつ、振幅比Gaと振幅比指令Ga*との差分ΔGaをゼロとするように、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqの値を調整する。ちなみに、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqは、交流モータ5のトルク脈動を打ち消すために加算される値である。
【0049】
そして、電圧指令演算手段37が(
図1参照)、d軸定常電圧指令Vd*にd軸変動電圧ΔVdを加える(和をとる)ことによって、d軸電圧指令Vd**を算出する。同様に、電圧指令演算手段37が、q軸定常電圧指令Vq*にq軸変動電圧ΔVqを加える(和をとる)ことで、q軸電圧指令Vq**を算出する。
このようにして、モータ駆動装置100は、最終的な電圧指令(Vd**,Vq**)を所定時間ごとに逐次算出し、トルク変動抑制制御を実行する。
【0050】
ちなみに、前記した差分Δθaがゼロであり、かつ、差分ΔGaがゼロである場合、第二電圧Vn2は、以下に示す(数式10)によって一意に表わされる。
【数10】
【0051】
前記した(数式7)を(数式10)に代入して整理すると、以下に示す(数式11)が成り立つ。
【数11】
【0052】
トルク脈動抑制制御が実行される場合、交流モータ5の周波数成分のうち、トルク脈動周波数成分すなわち機械周波数成分が支配的となる。これは、摩擦などに起因して他の周波数成分も含まれるものの、交流モータ5のトルク変動を打ち消すようにトルク脈動抑制制御が実行されるためである。
したがって、s=jωmを(数式11)に代入すると、以下に示す(数式12)が得られる。
【0054】
当該(数式12)を、前記した(数式3)に代入すると、軸誤差Δθの分子はゼロになる(つまり、軸誤差Δθの値がゼロになる)。dc軸とd軸との位相差である軸誤差Δθをゼロとすることによって、トルク脈動抑制制御は達成される。
すなわち、差分Δθaをゼロとし、かつ、差分ΔGaをゼロとすることによって、高精度なトルク脈動の抑制を行うことができる。
【0055】
図4は、交流モータの機械周波数と位相差指令の相関図である。
図4に示す相関図の横軸は規格化した機械周波数ωm[pu]であり、縦軸は前記した位相差指令θa*[deg]である。以下では、物理量を規格化した場合の単位として、[pu]を用いる。
図4に示す実線は、前記した(数式8)から求めたものである。また、
図4に示す○印はそれぞれ、後記する
図7、
図8に示すシミュレーション結果に対応する箇所である。
【0056】
図4に示す相関図、及び前記した(数式8)から、位相差指令θa*は次のような性質を有することがわかる。
(1)位相差指令θa*は、機械周波数ωmと正の相関関係にある。つまり、機械周波数ωmの値が大きくなるに従って、位相差指令θa*の値(>0)も大きくなる。
(2)機械周波数ωmが高速になるにつれて、位相差指令θa*は90°に漸近する。
(3)機械周波数ωmが低速になるにつれて、位相差指令θa*は0°に漸近する。
(4)機械周波数ωmが0[pu]の場合、位相差指令θa*は0°になる。
【0057】
図5は、交流モータの機械周波数と振幅比指令の相関図である。
図5に示す相関図の横軸は規格化した機械周波数ωm[pu]であり、縦軸は前記した振幅比指令Ga*[pu]である。
図5に示す実線は、前記した(数式9)から求めた。また、
図5に示す○印はそれぞれ、後記する
図7、
図8に示すシミュレーション結果に対応する箇所である。
【0058】
図5に示す相関図、及び前記した(数式9)から、振幅比指令Ga*は次のような性質を有することがわかる。
(1)振幅比指令Ga*は、機械周波数ωmと正の相関関係にある。つまり、機械周波数ωmの値が大きくなるに従って、振幅比指令Ga*の値(>0)も大きくなる。
(2)機械周波数ωmが高速になるにつれて、振幅比指令Ga*の値は、機械周波数ωmとd軸インダクタンスLdとの積ωm・Ldで線形近似できる。
(3)機械周波数ωmが低速になるにつれて、振幅比指令Ga*の値は、交流モータ5の抵抗値Rに漸近する。
(4)機械周波数ωmが0[pu]の場合、振幅比指令Ga*の値は、交流モータ5の抵抗値Rになる。
【0059】
図4、
図5に示す各相関関係に基づいて、位相差指令θa*や振幅比指令Ga*をテーブル化又は線形近似するように電圧変動演算手段36(
図1参照)を設定することが好ましい。これによって、演算負荷を低減しつつ高精度な脈動抑制制御を実行できる。
【0060】
図6は、トルク脈動抑制制御時の波形図である。
図6に示すように、正弦波の負荷トルクτLを与えた状態において、時刻t1からトルク脈動抑制制御を開始した。
なお、制御系を安定化させるため、トルク脈動抑制制御を行う際のd軸変動電圧ΔVd(
図6(b)参照)、q軸変動電圧ΔVq(
図6(c)参照)の振幅を徐々に増加させた。
図6(a)に示すように、時刻t1以後、差分トルクΔτは打ち消され、徐々に減少した。
【0061】
そして、時刻t2において差分トルクΔτはゼロになり(
図6(a)参照)、d軸変動電圧ΔVd、q軸変動電圧ΔVqの振幅は一定となった(
図6(b)、
図6(c)参照)。なお、
図6における各変数の振幅・位相は一例であり、実際には、交流モータ5のモータ定数R,Ld,Lq,Ke,又は慣性Jに依存する。
【0062】
図6(f)は、
図6(d)に示すq軸電流Iqの時刻t3〜t4における部分拡大図であり、
図6(g)は、
図6(e)に示すq軸電流の微分値sIqの時刻t3〜t4における部分拡大図である。
図6に示すように、時刻t1以後、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqの影響を受けて、q軸電流Iqも変動する。このとき、q軸電流Iqより90°だけ位相が進んだq軸電流微分sIqが発生する(d軸側に関しても同様である)。
【0063】
このようにトルク脈動抑制制御を行うことによって、モータ電流は常に過渡状態となる。本実施形態によれば、モータ電流が前記したような過渡状態であるにもかかわらず、結果的に負荷トルクの変動を打ち消すようにd軸電圧指令Vd**(=Vd*+ΔVd)、q軸電圧指令Vq**(=Vq*+ΔVq)を生成できる。これは、前記した(数式10)〜(数式12)によって明らかである。
【0064】
<効果>
本実施形態において電圧変動演算手段36は、位相差θaが位相差指令θa*に一致し、振幅比Gaが振幅比指令Ga*に一致するようにd軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する。この演算過程において電流の微分値(sIdc、sIqc)は影響しない((数式8)、(数式9)を参照)。
したがって、位置推定誤差Δθ((数式3)を参照)に影響されることなく、高精度なトルク脈動制御を実行できる。また、前記したように電流の微分値を演算する必要がないため、電圧変動演算手段36の処理負荷を低減できる。
【0065】
図7は、本実施形態に係るモータ駆動装置を用いて交流モータを低速回転(機械周波数ωm1:
図4、
図5参照)させた場合の波形図である。なお、
図7(a)〜(d)の波形図は、横軸・縦軸ともに規格化している(後記する
図8、
図10、
図11、
図13、
図15、
図18、
図19も同様)。
第2電圧Vn2の機械周波数成分の位相と(
図7(c)参照)、dc軸電流の機械周波数成分の位相(
図7(d)参照)と、の差分θa1*を前記した(数式8)から演算し、トルク脈動抑制制御を実行した。
これによって、負荷トルクτLが変動した場合でも(
図7(a)参照)、これを打ち消すようにモータトルクτmを与えるため(同図参照)、トルク変動Δτが略ゼロの状態が維持された(
図7(b)参照)。なお、
図7(a)では、モータトルクτmと負荷トルクτLとが略一致した状態が継続している。
【0066】
図8は、本実施形態に係るモータ駆動装置を用いて交流モータを高速回転(機械周波数ωm2>ωm1:
図4、
図5参照)させた場合の波形図である。交流モータ5を高速に回転させた場合でも、前記した場合と同様にトルク変動Δτは略ゼロとなった(
図8(b)参照)。
ちなみに、
図7・
図8のシミュレーション結果と、
図4・
図5の特性とは一致しており、前記した(数式8)、(数式9)が正しいことが分かる。
【0067】
<比較例>
前記した特許文献2に記載の技術を比較例として説明する。当該比較例において交流モータ5の電流微分値をゼロとした場合、以下に示す(数式13)が得られる。(数式13)は、前記した(数式3)において電流微分値sIdc=0,sIqc=0としたものである。
ちなみに、電流微分値は、電流検出値をサンプリング時間で除すことにより求められ、また、不完全微分を用いても求められる。しかし、前者は検出ノイズに弱く、後者は遅れを生じるため、制御系を不安定化する可能性がある。ゆえに、これらを位置センサレス制御に適用しても、位置推定誤差を消去することは困難である。
【0069】
図17は、比較例(特許文献2)に係るモータ駆動装置が備える電圧変動演算手段の構成図である。
電圧変動演算手段36Kが有する差分トルク推定手段36xは、(数式13)を用いて算出される近似軸誤差Δθcを入力とし、以下に示す(数式14)を用いて差分トルクΔτを算出する。なお、(数式14)においてτm:モータトルク、τL:負荷トルクである。
【0071】
比較例に係る電圧変動調整手段36yは、以下に示す(数式15)を用いてd軸電圧変動ΔVd、q軸電圧変動ΔVqを算出する。なお、(数式15)において、J:交流モータの慣性、ωm:交流モータの機械周波数である。
【数15】
【0072】
電圧変動調整手段36yは、差分トルクΔτをゼロとするようにd軸変動電圧ΔVd、q軸変動電圧ΔVqを調整する。前記したように、トルク脈動抑制制御を実行するとq軸電流Iqが変動するため、q軸電流Iqよりも90°だけ位相が進んだq軸電流微分sIqが発生する(
図6(f)、
図6(g)参照)。
この結果、前記した(数式3)に対して、(数式13)は位置推定誤差を生じる。当該位置推定誤差は、(数式15)を通して差分トルクΔτの推定誤差を生じるため、比較例では、脈動抑制効果が弱まってしまう。
【0073】
図18は、比較例に係るモータ駆動装置を用いて交流モータを低速回転(機械周波数ωm1)させた場合の波形図である。
図18の区間A1に示すように、第2電圧Vn2(
図18(c)参照)と、dc軸電流Idc(
図18(d)参照)とが同期している。
図19は、比較例に係るモータ駆動装置を用いて交流モータを高速回転(機械周波数ωm2>ωm1)させた場合の波形図である。
図19についても、
図18と同様のことがいえる。
このように比較例では、第2電圧Vn2とdc軸電流Idcとの位相差θa(図示せず)が、機械周波数ωmに関わらずゼロになる。この理由は、以下のようにして説明できる。
【0074】
当該比較例に限らず、従来のトルク脈動抑制制御では、前記した(数式3)の電流微分の項(つまり、sIdc)を無視し、(数式13)の分子をゼロへ漸近させるようにトルク脈動抑制制御を行っていた。すなわち、以下に示す(数式16)に基づいて制御を行っていた。
【0076】
前記した(数式7)及び(数式16)から、以下に示す(数式17)が得られる。
【0078】
(数式17)に示す交流モータ5の抵抗値Rは、実数である。したがって、第2電圧Vn2とdc軸電流Idcとの位相差θaはゼロになる。
このように、比較例に係るトルク脈動抑制では、電流波形が常に過渡状態となるにも関わらず(つまり、電流微分sIdcがゼロでないにも関わらず)、これを無視した制御を行っていた。したがって、差分トルクΔτの推定誤差が残り、トルク脈動が十分に抑制されない可能性があった(
図18(b)、
図19(b)を参照)。
【0079】
これに対して本実施形態では、比較例で説明した近似軸誤差Δθcを用いず、dc軸電圧Vdcやqc軸電流Iqcを直接的に用いて位相差指令θa*及び振幅比指令Ga*を算出する((数式8)、(数式9)を参照)。そして、位相差θaが位相差指令θa*に一致し、振幅比Gaが振幅比指令Ga*に一致するようにd軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整することとした。
したがって、電流微分sIdcなどを算出する必要がなくなるとともに、位置推定精度に依存することなく高精度なトルク脈動抑制制御を行うことができる。さらに、微分演算を行う必要がなくなるため、ノイズの影響や応答遅れを回避しつつ、電圧変動演算手段36の処理負荷を低減できる。
【0080】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、第1実施形態で説明した第一電圧演算手段36a及び第二電圧演算手段36bに代えて第三電圧演算手段36kを備える点が異なる。また、第2実施形態は、第一差分演算手段36hに位相差指令として90°を入力し、第二差分演算手段36iに振幅比指令としてωm・Ldを入力する点が第1実施形態と異なる。したがって、当該異なる部分について説明し、第1実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0081】
図9は、本実施形態に係るモータ駆動装置が備える電圧変動演算手段の構成図である。
図9に示す第三電圧演算手段36kは、以下に示す(数式18)を用いて第三電圧Vn3を算出する。
【0083】
ここで、(数式18)の変形において、前記した(数式7)を用いた。位相差演算手段36cは、第三電圧Vn3の機械周波数成分の位相と、dc軸電流Idcの機械周波数成分の位相との位相差θaを算出する。
振幅比演算手段36fは、第三電圧Vn3の機械周波数成分の振幅と、dc軸電流Idcの機械周波数成分の振幅との振幅比Gaを算出する。
電圧変動調整手段36jは、位相差θaが90°、かつ、振幅比Gaが機械周波数ωmとd軸インダクタンスLdとの積ωm・Ldとなるまで、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する。
上記構成の動作原理を説明する。位相差θaが90°、かつ、振幅比Gaが積ωm・Ldとなるとき、第三電圧Vn3は、以下に示す(数式19)によって一意に表わされる。
【0085】
(数式18)及び(数式19)から、第1実施形態で説明した(数式11)が成り立つ。前記したとおり、(数式11)が成り立てば、トルク脈動抑制制御は達成される。
図10は、交流モータを低速回転(機械周波数ωm1)させた場合の波形図であり、
図11は、交流モータを高速回転(機械周波数ωm2>ωm1)させた場合の波形図である。
図10(c)と
図10(d)、
図11(c)と
図11(d)に示すように、第三電圧Vn3は、機械周波数ωmに関係なくdc軸電流よりも位相が90°進んでいることが分かる。
【0086】
<効果>
本実施形態によれば、位相差指令θa*を90°で固定化し、振幅比指令Ga*をωm・Ldで線形化できる。そして、(数式18)を用いて演算した第三電圧Vn3に基づいてd軸変動電圧ΔVd、q軸変動電圧ΔVqを算出する。ちなみに、当該算出は乗算及び減算で足りる。
【0087】
一方、前記した第1実施形態では、(数式8)の位相差指令θa*、(数式9)の振幅比指令Ga*を演算する際、逆正接関数および根号を含む演算を行う必要があった。
したがって、本実施形態は、第1実施形態と比較して演算負荷を低減しつつ、高精度なトルク脈動抑制制御を実行できる。
【0088】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、第2実施形態で説明した位相差演算手段36c及び振幅比演算手段36fに代えて、電圧変動演算手段36Bが差分電圧演算手段36pを備える点と、90度進み手段36m及び電流微分項電圧演算手段36nを備える点が異なる。また、第2実施形態では、電圧変動調整手段36jへの入力が差分Δθa,ΔGaであったのに対し、第3実施形態では電圧変動調整手段36jへの入力が差分電圧ΔVである点が異なる。したがって、当該異なる部分について説明し、第2実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0089】
図12は、本実施形態に係るモータ駆動装置が備える電圧変動演算手段の構成図である。
90度進み手段36mは、dc軸電流Idcの位相を90°進めた電流Idc'を出力する。信号Idc'は、以下に示す(数式20)で表わされる。
【0091】
電圧変動調整手段36jは、入力信号が第2実施形態と異なるが、その機能自体は第2実施形態の場合と同様である。電流微分項電圧演算手段36nは、以下に示す(数式21)の電流微分項電圧Vndを算出する。ここで、(数式21)の変形には、前記した(数式20)を用いた。
【0093】
電圧変動調整手段36jは、第三電圧Vn3と電流微分項電圧Vndとの差分電圧ΔVがゼロになるまでd軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する。差分電圧ΔVは、以下に示す(数式22)で表わされる。ここで、(数式22)の変形には、前記した(数式18)及び(数式21)を用いた。
【0095】
(数式22)で算出される差分電圧ΔVがゼロとなるとき、(数式11)が成り立つことは明らかである。前記したとおり、(数式11)が成り立てば、トルク脈動抑制制御は達成される。
図13は、交流モータを低速回転(機械周波数ωm1)させた場合の波形図である。
図13に示す時刻t1からトルク脈動抑制制御を開始した。
図13(b)に示すように、時間が経過するにつれて差分電圧ΔVがゼロに漸近し、トルク脈動が抑制されていることが分かる。
【0096】
<効果>
本実施形態では、差分電圧ΔVのみをゼロにするように調整すれば、高い脈動抑制効果を得られるという特長がある。これは、前記した(数式22)の差分電圧ΔVが、第1実施形態で説明した(数式3)の分子と等しい、すなわち軸誤差Δθと比例関係にあるからである。
図13においても差分電圧ΔV(
図13(c)参照)は、軸誤差Δθ(
図13(d)参照)と比例関係になっていることが分かる。両者がこのような比例関係にあるため、電圧変動調整手段36jは、
図17で説明した比較例の電圧変動調整手段36Kを、その構成を変更することなく適用できる。したがって、制御系の設計を簡略化・短縮化できる。
【0097】
≪第4実施形態≫
第4実施形態は、第1実施形態と比較して、電圧変動演算手段36Cがローパスフィルタ36qを備える点が異なる。また、第1実施形態では、電圧変動調整手段36jへの入力が差分Δθaであったのに対し、第4実施形態では電圧変動調整手段36jへの入力が差分電流ΔIである点が異なる。したがって、当該異なる部分について説明し、第1実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0098】
図14は、本実施形態に係るモータ駆動装置が備える電圧変動演算手段の構成図である。
ローパスフィルタ36qは、第2電圧Vn2を用いて、以下に示す(数式23)のフィルタ出力値I
LFを算出する。
【0100】
差分電流演算手段36rは、ローパスフィルタ36qからのフィルタ出力値I
LFと、交流モータ5のdc軸電流Idcとの差分を算出し、差分電流ΔIとして電圧変動調整手段36jに出力する。
なお、差分電流ΔIは、以下に示す(数式24)で表わされる。ここで、(数式24)の変形には、前記した(数式7)及び(数式23)を用いた。
【0102】
電圧変動調整手段36jは、差分電流算出手段から入力される差分電流ΔIの値がゼロになるまで、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する。すなわち電圧変動調整手段36jは、ローパスフィルタ36qの時定数(Ld/R)を交流モータ5の電気的時定数とするとき、前記したフィルタ出力値I
LFと交流モータ5のdc軸電流Idcとの位相差がゼロかつ振幅比が1となるように制御する。
【0103】
(数式24)に示す差分電流ΔIがゼロとなるとき、第1実施形態で説明した(数式11)が成り立つことは明らかである。前記したように、(数式11)が成り立てばトルク脈動抑制制御は達成される。
図15は、交流モータを低速回転(機械周波数ωm1)させた場合の波形図である。
図15に示す時刻t1からトルク脈動抑制制御を開始した。
図15(c)、
図15(d)に示すように、時刻t1から時間が経過するにつれて、フィルタ値I
LFとdc軸電流Idcとが同期することが分かる。特に時刻0.9以後においては、前記二者は、略完全に同期している。
【0104】
<効果>
本実施形態では、ローパスフィルタ36qによってフィルタリングされた電流を用いて差分電流ΔIを算出し、この差分電流ΔIのみを電圧変動調整手段36jに入力する。したがって、第1実施形態と比較して、電圧変動調整手段36jの演算負荷が小さくなる。なお、フィルタ時定数Ld/Rが小さくなるように設定することで、応答遅れを防止できる。
【0105】
≪第5実施形態≫
本実施形態では、前記各実施形態(例えば、第1実施形態)に係るモータ駆動装置100によって駆動される圧縮機61について説明する。なお、一例として、冷凍空調システム6の冷媒回路に圧縮機61を設置する場合について説明する。
図16は、本実施形態に係る圧縮機駆動装置を備えた冷凍空調システムの構成図である。
冷凍空調システム6は、圧縮機61と、室外熱交換器62と、膨張弁63と、室内熱交換器64と、が環状に配管で接続された構成となっている。
【0106】
圧縮機61は、配管a1を介して吸入した低温低圧の冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒とし、配管a2を介し室外機62に向けて吐出する。なお、当該圧縮機61には、前記したモータ駆動装置100によって駆動される交流モータ5が設置されている。
室外熱交換器62は、圧縮機61から流入する高温高圧の冷媒と、ファン(図示せず)から送られてくる外気とを熱交換するものである。室外熱交換器62を通流する冷媒は外気に放熱し、凝縮する。
【0107】
膨張弁63は、配管a3を介して室外機62から流入する中温高圧の冷媒を膨張させ、低温低圧の冷媒とする。室内熱交換器64は、配管a4を介して流入する低温低圧の冷媒と、送風ファン(図示せず)によって供給される室内空気とを熱交換するものである。室内熱交換器64を通流する冷媒は、室内空気から吸熱して蒸発し、配管a5を介して圧縮機61に還流する。一方、冷媒に放熱した室内空気は、送風ファンによって室内に送り出される。これによって、冷房運転を行うことができる。
ちなみに、圧縮機61の下流側に、冷媒の通流する向きを切り換える四方弁(図示せず)を設けてもよい。当該四方弁を切り換えることによって冷媒が通流する向きを変え、暖房運転を行うこともできる。
【0108】
<効果>
圧縮機61では、圧縮行程に同期して交流モータ5の負荷トルクτLが脈動する。前記した比較例では、位置推定誤差に起因して脈動抑制効果が弱まるという問題があった。
これに対して本実施形態では、位置推定値を用いることなく電圧・電流の位相差・振幅比に基づいて出力電圧の変動量を最適化する。したがって、位置推定誤差に対する感度(依存度)を低減し、脈動抑制効果を大幅に高めることができる。その結果、圧縮機61の振動や騒音を、従来と比較して大幅に低減できる。
【0109】
≪変形例≫
以上、本発明に係るモータ駆動装置100について各実施形態により説明したが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態では、(数式8)、(数式9)を用いて位相差指令θa*及び振幅比指令Ga*を演算する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、インバータ制御装置3の演算性能が不十分である場合、位相差指令θa*及び振幅比指令Ga*のうち、いずれか一方を用いても脈動抑制効果を得ることができる。前記した(数式8)の位相差指令θa*は逆正接関数、(数式9)の振幅比指令Ga*は根号を含むため、加算・減算と比較すると演算負荷が高い。
位相差指令θa*及び振幅比指令Ga*のうちいずれか一方を用いると、両方を用いる場合と比較して演算負荷を低減できる。
【0110】
また、第2実施形態では、第三電圧Vn3の位相とdc軸電流Idcの位相との位相差θaが90°、かつ、第三電圧Vn3の振幅とdc軸電流Idcの振幅との振幅比Gaが積ωm・Ldとなるまで、d軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する場合について説明したが、これに限らない。
すなわち、位相差θaが90°となるようにd軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する(つまり、振幅比Gaを算出しない)こととしてもよい。
また、振幅比Gaが機械周波数ωmとd軸インダクタンスLdとの積ωm・Ldとなるようにd軸変動電圧ΔVd及びq軸変動電圧ΔVqを調整する(つまり、位相差θaを算出しない)こととしてもよい。
この場合、第2実施形態よりも演算負荷を低減させつつ、トルク脈動抑制制御を実行できる。
【0111】
また、前記各実施形態では、圧縮機61のトルク脈動周波数と、機械周波数ωmとの比が1である場合について説明したが、これに限らない。すなわち、交流モータ5の駆動対象となる機器の構造を考慮して、トルク脈動周波数と機械周波数ωmとの比を適宜変更することが好ましい。
例えば、減速比kの変速機(図示せず)を備えた圧縮機61を駆動する場合、前記した(数式8)及び(数式9)のωmを、改めてωm/kで置き換えることが好ましい。
また、高次のトルク脈動周波数成分を抑制する場合も同様である。例えば、n次のトルク脈動周波数を抑制する場合には、(数式8)及び(数式9)のωmを改めてn・ωmで置き換えることが好ましい。
【0112】
また、前記各実施形態では、交流モータ5として同期モータを用いる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、交流モータ5として誘導モータを用いても、前記各実施形態と同様の方法で、高精度なトルク脈動抑制制御を実行できる。
【0113】
また、前記各実施形態では、交流モータ5を位置センサレスで制御する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、ホール素子などの位置センサを用いた場合にも適用できる。位置センサを用いる場合、前記した軸誤差演算手段32(
図1参照)は不要となり、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、d軸電流Id、q軸電流Iqを直接的に求めることができる。
これを第1実施形態に適用する場合、インバータ制御装置3は、電流検出手段2から入力される電流値に基づいて、交流モータ5の電気周波数と、q軸インダクタンスと、q軸電流との積を算出して第一電圧とし、前記第一電圧と交流モータ5のd軸電圧との和を算出して第二電圧とし、以下に示す(A)及び/又は(B)の制御を実行する。
(A)前記第二電圧の機械周波数成分の位相と、交流モータ5のd軸電流の機械周波数成分の位相との差である位相差が、交流モータ5の機械周波数と正の相関関係を有するように制御する。
(B)前記第二電圧の機械周波数成分の振幅と、交流モータ5のd軸電流の機械周波数成分の振幅との比である振幅比が、交流モータ5の機械周波数と正の相関関係を有するように制御する。
【0114】
このように位置センサを用いる場合は、第2実施形態〜第5実施形態にも適用できる。ちなみに、前記各実施形態では、推定される「d軸」として「dc軸」、推定される「q軸」として「qc軸」のように記載した。
【0115】
また、第5実施形態では、モータ駆動装置100によって駆動される交流モータ5を、冷凍空調システム6の圧縮機61に設置する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、交流モータ5を用いたあらゆる機器及びシステムに適用できる。