特許第5978100号(P5978100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978100
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】産業用拭き取りシート
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20160817BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   A47L13/16 C
   D21H27/30 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-241001(P2012-241001)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-90737(P2014-90737A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】安藤 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】安彦 毅哉
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−253284(JP,A)
【文献】 特開平03−143418(JP,A)
【文献】 特開2010−233970(JP,A)
【文献】 特開平07−126975(JP,A)
【文献】 特開2002−069826(JP,A)
【文献】 特開2005−143523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/00−13/62
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙シートの積層数が4以上8以下である積層体を含み、
前記積層体の表面層の少なくとも一方の紙シートは、坪量が14.0gsm〜19.0gsmであり、
前記紙シートの開口率が2.1パーセント〜7.5パーセントであり、
前記積層体の吸水量が、300g/m〜760g/mであ
ことを特徴とする産業用拭き取りシート。
【請求項2】
前記紙シートは、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂またはポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(PAE)から選ばれる一種以上の紙力増強剤を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の産業用拭き取りシート。
【請求項3】
前記坪量が14.0gsm〜19.0gsmの紙シートに添加される紙力増強剤の割合が、1kg/t〜20kg/tである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の産業用拭き取りシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用拭き取りシートに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用拭き取りシートとして、複数の紙シートとしての基材紙が、積層されたものが使用されている。例えば、表面層の破断強度を大きくするために、表面層の坪量を大きくした産業用拭き取りシートとしての産業用ワイプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面層の坪量を大きくすると、汚れの拭き取り性と吸収力が十分でない。したがって、多量の汚れを拭き取る際に、吸収力を補うために多数の産業用拭き取りシートを使用しなければならず、作業性が低下して作業コストの増加を招き、環境への負荷も大きい。また、水と比較して粘度の高い液体を拭き取る際は、粘度の高い液体の拭き取り性が要求される。
【0005】
そこで、本発明の目的は、汚れの拭き取り性と吸収力の優れた薄化した紙シートを積層した産業用拭き取りシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の産業用拭き取りシートは、紙シートの積層数が4以上である積層体を含み、前記積層体の表面層の少なくとも一方の紙シートは、坪量が10.0gsm〜25.0gsmであり、前記紙シートの開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントであることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、積層体の少なくとも一方の表面層を、坪量が10.0gsm〜25.0gsmで、開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントの紙シートとすることで、汚れが表面層を通り抜けやすく、汚れが中間層に向かって浸透し、表面層による汚れの拭き取り性が向上する。また、紙シートの積層数を4以上とすることで、汚れの吸収力が向上する。
【0008】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記積層体は、前記表面層と連続して積層されている中間層としての1または複数の紙シートを含み、前記中間層の紙シートは、坪量が10.0gsm〜25.0gsmであり、前記紙シートの開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントであることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、表面層と連続して1または複数の坪量が10.0gsm〜25.0gsmで、開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントの紙シートが積層されているので、表面層を通り抜けた汚れが、表面層に連続して積層された1または複数の紙シートをさらに通り抜ける。したがって、汚れの吸収力がより向上する。
【0010】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記紙シートは、前記坪量が10.0gsm〜19.0gsmで、前記開口率が2.0パーセント〜26.5パーセントであることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、表面層による汚れの拭き取り性がより向上する。また、産業用拭き取りシートの汚れの吸収力が向上する。
【0012】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記紙シートは、前記坪量が14.0gsm〜19.0gsmで、前記開口率が2.0パーセント〜8.0パーセントであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、表面層による汚れの拭き取り性がさらに向上する。また、産業用拭き取りシートの汚れの吸収力がさらに向上する。
【0014】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートは、開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントであることを特徴とする。
ここで、開口率とは、紙シートの片面の一定面積において、貫通孔の開口面積を一定面積で除した値をいう。
【0015】
この構成によれば、表面層を構成する坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートが0.7パーセント以上の開口率を有するので、汚れが表面層を通り抜けやすい。一方、紙シートが26.5パーセント以下の開口率を有するので、坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートの強度が保たれ、汚れの拭き取りの際の紙シートの破れが減少し、汚れの拭き取り性が向上する。
【0016】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートは、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂またはポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(PAE)から選ばれる一種以上の紙力増強剤を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、前記坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートの強度がより向上し、汚れのふき取りの際の紙シートの破れが減少し、汚れの拭き取り性がより向上する。
【0018】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートに添加される紙力増強剤の割合が、1kg/t〜20kg/tであることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、前記坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートの強度がより向上し、汚れのふき取りの際の紙シートの破れが減少し、汚れの拭き取り性がより向上する。
【0020】
上記産業用拭き取りシートにおいて、前記積層体の吸水量が、300g/m〜760g/mであることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、積層体の吸水量が、300g/m〜760g/mであるので、多量の水や油を拭き取ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、汚れの拭き取り性と吸収力の優れた薄化した紙シートを積層した産業用拭き取りシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態における産業用拭き取りシートの概略斜視図。
図2】産業用拭き取りシートの概略断面図。
図3】実施例と比較例の表面層に使用した紙シートの開口を観察した図。
図4】実施例と比較例の表面層に使用した紙シートの坪量と開口率の関係を示す図。
図5】実施例と比較例の吸水性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
また、以下の各図においては、各紙シートを認識可能な程度の大きさにするため、各紙シートの尺度は実際と異なっている。
【0025】
図1に実施形態における産業用拭き取りシート10の概略斜視図を、図2に概略断面図を示した。
図1および図2において、産業用拭き取りシート10は積層数n(nは4以上)で紙シートが積層された積層体11からなる。積層数nの上限は特に限定されないが、産業用拭き取りシート10が厚くなることによる使用者が直接手に触れた際のハンドリングの行いにくさや使用感の低下、製造工程での加工適性(折り畳み性等)や収納箱への包装時のトラブル、収納箱からの取り出し性の容易さで決めることができる。例えば、積層数nは8以下が好ましい。
【0026】
積層体11は、表面層1および中間層2からなる。
積層体11の表面層1のうちいずれか一方、または両方が、坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートからなる。
中間層2を構成する紙シートは特に限定されないが、坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートからなる表面層1と連続して、坪量が10.0gsm〜25.0gsmの1または複数の紙シートが積層されているのが好ましい。
例えば、表面層1と連続して接して8枚の坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートが積層されているのが好ましい。
【0027】
積層体11には、エンボスを施すのが好ましい。より好ましくは、ピン状エンボスを施す。
【0028】
以下に、実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例3を用いて実施形態をより詳しく説明する。
ここでの実施例および比較例の産業用拭き取りシートは、表面層も含め、同じ坪量の紙シートを複数枚積層した積層体である。各実施例および各比較例では、紙シート一枚当たりの坪量が異なるが、産業用拭き取りシートとしての総坪量は、80gsm〜110gsmとした。
表1に、実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例3の紙シート一枚当たりの坪量と積層数nと産業用拭き取りシートとしての総坪量と拭き取り性と吸水量とを示した。また、紙シートの強度と抄造方法と強度評価を合わせて示した。
【0029】
【表1】
拭き取り性の評価は、流動パラフィンを産業用拭き取りシートで拭き取り、拭き取り残った流動パラフィンを目視で観察し、以下の4段階で評価した。拭き取りは、摩擦子の先端に、産業用拭き取りシートをつけ、試験機上に固定した0.1mmの厚さのOHPフィルムに流動パラフィンを垂らし、一定の荷重をかけて往復1回摩擦し、残った流動パラフィンを目視で観察して評価した。
◎:きわめてよく拭き取れる
○:よく拭き取れる
△:あまり拭き取れない
×:拭き残しが目立つ
【0030】
表1において、産業用拭き取りシートとして実施例1〜実施例7と比較例2および比較例3を比較した場合、一枚当たりの坪量が10.0gsm〜25.0gsmで積層数nが4以上の産業用拭き取りシートの拭き取り性が良好なことが分かった。より好ましくは、一枚当たりの坪量が10.0gsm〜19.0gsmで積層数nが4以上であることが分かった。
【0031】
また、強度評価では、7.0(N/5cm)以上の強度が良好で、(10.0N/5cm)以上がさらに良好なことが分かった。
なお、坪量9.0の比較例1では、製造上の安定性を欠くために強度が不安定になり、強度評価ができない場合もあった。
さらに、実施例1〜実施例7における吸水量は、300g/m〜760g/mであった。
【0032】
表2に、実施例1〜実施例7、比較例2の表面層1に用いた紙シートの開口率を示した。
【0033】
【表2】
図3は、実施例1〜実施例7、比較例2の表面層1に用いた紙シートの開口の様子を観察した図である。また、図4は、実施例1〜実施例7および比較例2に用いた所定の紙シートの坪量と開口率との関係を示した図である。
観察は、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて行った。具体的には、アルミニウム板に紙シートを乗せ、紙シートのアルミニウム板とは反対側からEDX(Energy Dispersive X-rayspectrometry)を用いてアルミニウムのマッピングを行い、開口を観察した。開口率は、マッピングされたアルミニウムの面積を観察された面積で除した値とした。
【0034】
図3において、比較例2では、アルミニウムがほとんど観察されないのに対し、実施形態では坪量が低くなるにつれて、アルミニウムがマッピングされる面積が大きくなるのがわかった。また、図4において、表面層に使用した紙シート一枚当たりの坪量と開口率とは、滑らかな曲線を描く関係にあり、坪量が25.0gsmから開孔が生じ始めるのがわかった。坪量が25.0gsmの開口率は、0.7パーセントである。
【0035】
一方、表1において、比較例1の一枚当たりの坪量が9gsmの紙シートの強度では、表面層1に用いた場合、汚れを拭き取ったときに紙シートが破れる傾向にあった。したがって、表面層1に用いる紙シートの秤量は、10.0gsm以上が好ましく、開口率は26.5パーセント以下が好ましい。
【0036】
紙シートの破れを防止するために、紙力増強剤を添加するのが効果的である。実施例の紙シートを表面層1に使用した場合、汚れを拭き取ったときに紙シートが破れる可能性があるが、紙力増強剤の種類と量を調節することで、紙シートの破れを低減できる。
【0037】
紙力増強剤としては、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアクミドアミド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(PAE)などが挙げられる。
表3に紙力増強剤の種類、添加の割合を調整して強度を向上させた実施例8(実施例3に相当)、実施例9(実施例4に相当)および比較例4(実施例2に相当)について示した。また、拭き取り性、吸水量も合わせて示した。
【0038】
【表3】
表3の結果から、一枚当たりの坪量が14.0gsm以上であれば、紙力増強剤の種類、添加の割合を調整して強度を十分に向上できることがわかった。ここで、紙力増強剤の割合が、1kg/t〜20kg/tの範囲で調整するのが好ましい。
表1および表3の結果から、紙力増強剤の調整により、一枚当たりの坪量が14.0gsm〜19.0gsmであれば、積層数nが4以上の産業用拭き取りシートの強度および拭き取り性がより良好なことが分かった。また、強度は7.0(N/5cm)以上であれば、拭き取り時の破れが少なくなり、10.0(N/5cm)以上であればより拭き取り時の破れが少なくなる。
【0039】
以上の結果より、産業用拭き取りシートの積層に同じ紙シートを用い、同じ坪量として比較した場合、紙シートの積層数が4以上である積層体を含み、積層体の表面層の少なくとも一方の紙シートは、坪量が10.0gsm〜25.0gsmであるのが好ましいことが分かった。より好ましくは、坪量が10.0gsm〜19.0gsmであることが分かった。また、強度を考慮すると、坪量が14.0gsm〜19.0gsmがさらに好ましいことが分かった。
【0040】
また、表1と図4の結果から、表面層1に使用する紙シートの開口率が0.7パーセント〜26.5パーセントであるのが好ましいことが分かった。より好ましくは、開口率が2.0パーセント〜26.5パーセントであることが分かった。さらに好ましくは開口率が2.0パーセント〜8.0パーセントであることが分かった。
【0041】
次に、種々の坪量の紙シートを組み合わせて積層数8で積層した実施例10〜実施例15、比較例5および比較例6の拭き取り性を評価した結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
表4において、表面層1と連続して坪量が10.0gsm〜25.0gsmの紙シートを積層すると拭き取り性が向上することが分かった。
【0043】
図5は、実施例と比較例の吸水性を示す図である。
図5において、実施例において、吸水量は300g/m〜760g/mであることがわかった。
【0044】
上記実施形態および実施例によれば、以下の効果がある。
(1)産業用拭き取りシート10一枚当たりの拭き取り、吸水量が増えたので、産業用拭き取りシート10の使用枚数が削減でき、廃棄物の量も低減できる。
(2)ドレープ性がよくなり、その結果、凹凸のある対象物の汚れを効率よく拭き取れる。
(3)低坪量にしたことで、パルプの使用量を低減でき、低価格の産業用拭き取りシート10を提供できる。
(4)産業用拭き取りシート10一枚当たりの拭き取り性が向上し、吸水量が増えたので、産業用拭き取りシート10の収納をコンパクト化でき、産業用拭き取りシート10を収納した製品の積載効率を向上できる。
(5)エンボスを施すことによって、積層体11がシートとして保持される。また、表面層と中間層との間に空間が形成され、汚れのふき取り性がより向上する。
【0045】
本発明は上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他の形態として実施することができる。
例えば、産業用拭き取りシートは、実施形態および実施例に示した積層体からなるものに限らず、所定のシートからなる表面層とは反対側に積層体を支持する基材を有していてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…表面層、2…中間層、10…産業用拭き取りシート、11…積層体。
図1
図2
図4
図5
図3