(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978180
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】ミリ波帯フィルタおよびその電磁波漏出防止方法
(51)【国際特許分類】
H01P 1/207 20060101AFI20160817BHJP
H01P 1/04 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
H01P1/207 Z
H01P1/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-175204(P2013-175204)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-46658(P2015-46658A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年7月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】下田平 寛
【審査官】
岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−138401(JP,A)
【文献】
河村尚志(外1名),「ミリ波帯チューナブルフィルタの提案」,電気学会研究会資料,2012年 2月21日,計測研究会 IM-12-001〜008,pp.17-21,IM-12-004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波路が、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側の外径より僅かに大きい内径を有し、該第1導波管の一端側を内部に受け入れた状態で、前記第1導波管に対して導波方向に相対移動可能な状態で連結された第2導波管(22)とを含んで形成され、
前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B)の一方(30A)が前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定され、他方(30B)が前記第2導波管の内部に前記一方の電波ハーフミラーと対向する状態で固定され、
前記導波路の一端側から入射された電磁波のうち、前記一対の電波ハーフミラーの間に形成される長さ可変の共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に前記導波路の他端側から出力するミリ波帯フィルタであって、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記一方の電波ハーフミラーの外周部に、内方に向かって所定深さに形成され、前記第1導波管の外周壁と該外周壁に対向する前記第2導波管の内周壁との隙間からの電磁波漏出を抑圧する溝(50)を設けたことを特徴するミリ波帯フィルタ。
【請求項2】
前記一対の電波ハーフミラーは、
電磁波を反射する金属材で所定厚に形成され、前記第1導波管および第2の導波管の内径に応じた外形の基板(30a)と、
前記基板の中央を該基板の長辺方向に沿って通過するように延び、該基板の一面側から反対面側に貫通する電磁波透過用のスリット(30b)とを備えており、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記一方の電波ハーフミラーに設けられた前記溝は、前記基板の長辺側外周部から前記スリット方向に前記所定深さで形成されていることを特徴とする請求項1記載のミリ波帯フィルタ。
【請求項3】
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波路が、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側の外径より僅かに大きい内径を有し、該第1導波管の一端側を内部に受け入れた状態で、前記第1導波管に対して導波方向に相対移動可能な状態で連結された第2導波管(22)とを含んで形成され、
前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B)の一方(30A)が前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定され、他方(30B)が前記第2導波管の内部に前記一方の電波ハーフミラーと対向する状態で固定され、
前記導波路の一端側から入射された電磁波のうち、前記一対の電波ハーフミラーの間に形成される長さ可変の共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に前記導波路の他端側から出力するミリ波帯フィルタの電磁波漏出防止方法であって、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記電波ハーフミラーの一方の外周部に、内方に向かって所定深さに形成した溝(50)により、前記第1導波管の外周壁と該外周壁に対向する前記第2導波管の内周壁との隙間からの電磁波漏出を抑圧することを特徴するミリ波帯フィルタの電磁波漏出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯に用いるフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタスネットワーク社会を迎え、電波利用ニーズが高まる中、家庭内のワイヤレスブロードバンド化を実現するWPAN(ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク)や安全・安心な運転をサポートするミリ波レーダー等のミリ波帯無線システムが利用され始めている。また、100GHz超無線システム実現への取組も積極的に行われてきている。
【0003】
その一方で、60〜70GHz帯の無線システムの2次高調波評価や100GHz超の周波数帯における無線信号の評価については、周波数が高くなるにつれ測定器の雑音レベル及びミキサの変換損失が増加するとともに周波数精度が低下するため、100GHzを超える無線信号の高感度、高精度測定技術が確立されていない状況となっている。しかも、これまでの測定技術では局部発振の高調波を測定結果から分離することができず、不要発射等の厳密な測定が困難となっている。
【0004】
これらの技術課題を克服し、100GHz超帯域無線信号の高感度・高精度測定を実現するためには、イメージ応答及び高次高調波応答を抑制するためのミリ波帯の狭帯域なフィルタ技術の開発が必要であり、特に、可変周波数型(チューナブル)に適応可能なものが望ましい。
【0005】
これまで、ミリ波帯で周波数可変型として用いられるフィルタとしては、(a)YIG共振器を用いたもの、(b)バラクタダイオードを共振器に付加したもの、(c)ファブリペロー共振器が知られている。
【0006】
(a)のYIG共振器を用いたものでは現状で80GHz程度まで使用できるものが知られ、(b)のバラクタダイオードを共振器に付加したものでは40GHz程度まで使用できるものが知られているが、100GHzを超える周波数では製造が困難である。
【0007】
これに対し、(c)のファブリペロー共振器は光の分野でよく用いられており、これをミリ波に用いる技術が非特許文献1に開示されている。この非特許文献1には、ミリ波を反射させる一対の球面反射鏡を、その曲率半径に等しい間隔で対向させて高いQを実現した共焦点型のファブリペロー共振器が示されている。
【0008】
しかしながら、上記共焦点型のファブリペロー共振器では、通過帯域をチューニングするために鏡面間の距離を動かした場合、原理的に焦点がずれるためQの大幅な低下が予想される。したがって周波数毎に曲率の違う反射鏡対を選択的に用いなければならない。
【0009】
一方、光の分野でよく用いられるファブリペロー共振器としては平面型ハーフミラーを対向配置した構造のものがあり、この構造であれば、原理的に鏡面間の距離を変化させてもQの低下は生じないが、この平面型ファブリペロー共振器を利用したフィルタをミリ波帯で実現するためには、さらに解決すべき次のような課題があった。
【0010】
(A)ハーフミラーに平面波を平行に入射する必要がある。フィルタへの入力が導波管の場合、その径をホーンアンテナのように大きくし平面波を実現することが考えられるがサイズが大きくなる。その場合でも完全平面波の実現は困難であり特性が劣化する。
(B)ハーフミラーは平面波の一定量を平面波のままで透過させる機能をもつ必要がある。このためハーフミラーの構造が制限され、設計の自由度が低い。
(C)開放型であるため、空間に放射することによる損失が大きい。
【0011】
これらの問題を解決するための技術として、本出願人は、ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路の内部に一対の電波ハーフミラーを互いに間隔を開けて対向配置して、導波路の一端側から入射された電磁波のうち、一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に他端側から出力させる構造のミリ波帯フィルタを提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−138401
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】手代木 扶、米山 務 著「新ミリ波技術」オーム社,1993年,p71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1のミリ波帯フィルタは、進行方向に直交する平面にのみ電界が存在するTE波をTE10モード(単一モード)で伝送する導波路内部に、平面型で互いに対向する一対の電波ハーフミラーで形成された共振器を設けた構造であるから、平面波を入射するための特別な工夫が必要なくなり、また電波ハーフミラーも平面波を透過させる必要がなく任意の形状をとることができる。
【0015】
また、フィルタ全体として密閉型となり、外部空間への放射による損失が原理上なく、ミリ波帯において、極めて高い選択特性を実現できる。
【0016】
また、一対の電波ハーフミラーの間隔を可変することで、共振器の共振周波数を自由に可変することができ、少ない損失で共振周波数可変のフィルタを実現できる。
【0017】
その共振周波数可変のための構造例を
図6に示す。ここで、
図6の(a)は、従来のミリ波帯フィルタの側面図(電界面からみた図)、
図6の(b)は、従来のミリ波帯フィルタの平面図(磁界面からみた図)である。
【0018】
この
図6に示すフィルタの構造は、四角筒状の第1導波管1と、一端側の内径が第1導波管1の一端側を受け入れる大きさに形成され、他端側の内径が第1導波管1とほぼ同一に形成された四角筒状で異径の第2導波管2とを連結し、第1導波管1の一端側開口を塞ぐように一方の電波ハーフミラー3Aを固定し、第2導波管2内の内径が変わる境界部に他方の電波ハーフミラー3Bを固定して、第2導波管2に対して第1導波管1を導波方向(長手方向)に相対的に摺動させて、電波ハーフミラー3A、3Bの間隔Lを可変する構造を採用することで、容易に共振周波数を変更することができる。なお、以下の説明では、四角筒状の導波管の内部の縦横寸法を内径と呼び、外周の縦横寸法を外径と呼ぶ。
【0019】
このような導波管の摺動構造では、第1導波管1の外周壁1aと第2導波管2の内周壁2aとの間に隙間Gを設ける必要があるが、その隙間Gから電磁波が漏出すると、共振器としての損失が大きくなり、フィルタの特性が劣化する。
【0020】
このため、前記特許文献1では、
図6に示しているように、第1導波管1の一端側の外周壁1aに対向する第2導波管2の内周壁2aに、電磁波漏出阻止用の所定深さの溝(チョーク)4を周回形成している。この溝4の深さは、漏れを阻止したい電磁波の管内波長の1/4程度(例えば漏出阻止周波数を110GHzとすれば、0.9mm程度)に設定されており、電波ハーフミラー3A、3Bの間に形成される共振回路空間から、隙間Gを通って溝4の入り口に達した電磁波を、溝4を深さ方向に往復してその入り口に逆位相で戻った電磁波により相殺させて、溝4より先への漏出を抑圧している。
【0021】
しかしながら、種々の実験、測定を行なった結果、第2導波管2の内周壁2aに周回形成した溝4と、第1導波管1の先端に固定された電波ハーフミラー3Aの表面側外縁部との間で生じる反射により不要共振が起こり、この不要共振によって溝4によるチョーク効果(電磁波漏出防止効果)が低下し、電磁波漏出による損失が増加することが判明した。
【0022】
この不要共振の影響を考慮したフィルタ特性についてのシミュレーション結果を説明する。シミュレーションは、
図7の(a)、(b)に示す寸法で行なった。
【0023】
即ち、第1導波管1の内径a×b=1.016mm×2.032mm、外径A×B=1.976mm×2.992mm、外周壁1aの厚さc=0.48mm、第2導波管2の一端側内径a′×b′=2.016mm×3.032mm、他端側内径a″×b″=1.016mm×2.032mm、その境界部から溝4までの距離p=2.0mm、溝4の幅w=0.2mm、深さd=0.9mm、第1導波管1の外周壁1aと第2導波管2の一端側内周壁2aとの隙間G=0.02mmとした。
【0024】
また、電波ハーフミラー3A、3Bは、電磁波を反射させる金属製で所定厚の長方形の基板3aと、その基板3aの中央を長辺に沿って通過するように延び、一面側から反対面側に貫通する横長の電磁波通過用のスリット3bとで形成されており、基板3aの外形A×B=1.976mm×2.922mm、厚さt=0.5mm、スリット3bの幅u=2.032mm、高さs=0.07mmとしている。
【0025】
上記条件で、第1導波管1を第2導波管2に対して移動させたときのフィルタの通過特性のシミュレーション結果を
図8に示す。なおシミュレーションでは簡単のため材質を完全導体とし、導体損が存在しないモデルとしている。
【0026】
この
図8は、ミラー間隔Lを0.05mmステップで1.1mm〜1.55mmまで変化させたときのそれぞれの通過特性F1〜F10を示すものであり、フィルタの通過中心周波数が高くなるにつれて、損失が徐々に増加していることがわかる。
【0027】
これは、フィルタの通過中心周波数が最も低い場合(ミラー間隔L=1.55mm)、第1導波管1の先端に固定された電波ハーフミラー3Aの表面側外縁部から溝4までの距離(以下、不要共振長という)xは、p−L=0.45mmとなり、共振周波数がフィルタの使用帯域(110〜140GHz)より十分高く、その影響は少ないが、フィルタの通過中心周波数が最も高い場合(ミラー間隔L=1.1mm)、不要共振長xは、p−L=0.9mmとなり、共振周波数がフィルタの使用帯域に近くなり、不要共振の影響を受けて電磁波漏出阻止効果が低下し、挿入損失が増加していると認められる。
【0028】
この問題を解決する方法として、溝4の形成位置を電波ハーフミラー3Aから遠ざけて、ミラー間隔Lに対して不要共振長xを十分大きくし、共振周波数をフィルタの使用帯域より小さくすることが考えられるが、不要共振は、電磁波の半波長の整数倍で起きるのでこの影響を抑圧することはできない。また、溝4の形成位置を電波ハーフミラー3Aから遠ざけるためには、第2導波管2を長くする必要があり、フィルタ全体が大型化してしまう。
【0029】
また、逆に、溝4の形成位置を電波ハーフミラー3Aにできる限り近づけて不要共振長xを短くすることも考えられる。例えばp=1.55mmとすれば、ミラー間隔L=1.55mmのときx=0mm、ミラー間隔L=1.1mmのときx=0.45mmとすることができるが、ミラー間に形成される共振器空間と溝4が近づき過ぎて、フィルタ自体の特性が劣化する恐れがある。
【0030】
本発明は、この課題を解決して、フィルタの共振周波数可変のために必要な導波管同士の隙間から電磁波が漏出することを、導波管の相対位置に関わらず効果的に抑制できるミリ波帯フィルタおよびその電磁波漏出防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のミリ波帯フィルタは、
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波路が、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側の外径より僅かに大きい内径を有し、該第1導波管の一端側を内部に受け入れた状態で、前記第1導波管に対して導波方向に相対移動可能な状態で連結された第2導波管(22)とを含んで形成され、
前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B)の一方(30A)が前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定され、他方(30B)が前記第2導波管の内部に前記一方の電波ハーフミラーと対向する状態で固定され、
前記導波路の一端側から入射された電磁波のうち、前記一対の電波ハーフミラーの間に形成される長さ可変の共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に前記導波路の他端側から出力するミリ波帯フィルタであって、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記一方の電波ハーフミラーの外周部に、内方に向かって所定深さに形成され、前記第1導波管の外周壁と該外周壁に対向する前記第2導波管の内周壁との隙間からの電磁波漏出を抑圧する溝(50)を設けたことを特徴する。
【0032】
また、本発明の請求項2のミリ波帯フィルタは、請求項1記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記一対の電波ハーフミラーは、
電磁波を反射する金属材で所定厚に形成され、前記第1導波管および第2の導波管の内径に応じた外形の基板(30a)と、
前記基板の中央を該基板の長辺方向に沿って通過するように延び、該基板の一面側から反対面側に貫通する電磁波透過用のスリット(30b)とを備えており、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記一方の電波ハーフミラーに設けられた前記溝は、前記基板の長辺側外周部から前記スリット方向に前記所定深さで形成されていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項3のミリ波帯フィルタの電磁波漏出防止方法は、
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波路が、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側の外径より僅かに大きい内径を有し、該第1導波管の一端側を内部に受け入れた状態で、前記第1導波管に対して導波方向に相対移動可能な状態で連結された第2導波管(22)とを含んで形成され、
前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B)の一方(30A)が前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定され、他方(30B)が前記第2導波管の内部に前記一方の電波ハーフミラーと対向する状態で固定され、
前記導波路の一端側から入射された電磁波のうち、前記一対の電波ハーフミラーの間に形成される長さ可変の共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に前記導波路の他端側から出力するミリ波帯フィルタの電磁波漏出防止方法であって、
前記第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定された前記電波ハーフミラーの一方の外周部に、内方に向かって所定深さに形成した溝(50)により、前記第1導波管の外周壁と該外周壁に対向する前記第2導波管の内周壁との隙間からの電磁波漏出を抑圧することを特徴する。
【発明の効果】
【0034】
このように、本発明では、ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路が、第1導波管と、その第1導波管の一端側の外径より僅かに大きい内径を有し、第1導波管の一端側を内部に受け入れた状態で、第1導波管に対して導波方向に相対移動可能な状態で連結された第2導波管とにより形成され、電波ハーフミラーの一方が、第1導波管の一端側開口を塞ぐように固定され、他方が第2導波管の内部に固定されたミリ波帯フィルタにおいて、第1導波管の一端側に固定された電波ハーフミラーの外周部に、第1導波管の外周壁と第2導波管の内周壁との隙間からの電磁波漏出を抑圧するための溝を内方に向かって所定深さに形成している。
【0035】
このため、溝から第1導波管の一端側に固定された電波ハーフミラーの外縁までの距離(不要共振長)を極めて小さくすることができ、しかも、その距離は第1導波管が第2導波管に対して相対移動しても変化しないため、前記した不要共振の周波数をフィルタの共振周波数の可変領域より十分高い領域に移動させることができ、その不要共振による溝のチョーク効果への影響がなくなり、広い周波数帯で電磁波の漏れによる損失が少ない広帯域な特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明のミリ波帯フィルタの実施形態の構造図
【
図3】実施形態のミリ波帯フィルタの各部の寸法例を示す図
【
図4】
図3の寸法例におけるミリ波帯フィルタの通過特性図
【
図7】従来のミリ波帯フィルタの各部の寸法例を示す図
【
図8】
図7の寸法例におけるミリ波帯フィルタの通過特性図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態のミリ波帯フィルタ20の構造を示す図である。ここで、
図1の(a)は、ミリ波帯フィルタ20の側面図(電界面からみた図)、
図1の(b)は、ミリ波帯フィルタ20の平面図(磁界面からみた図)である。また、
図2は、一方の電波ハーフミラー30Aの構造を示す拡大図である。
【0038】
これらの図に示されているように、このミリ波帯フィルタ20は、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードで一端から他端へ伝搬させるための導波路が、第1導波管21と第2導波管22の連結構造で実現されている。
【0039】
第1導波管21は、内径が一端から他端まで一定の四角筒状の導波管(例えばWR−08)であり、その一端側を第2導波管22の一端側に進入させている。
【0040】
第2導波管22は、一端側と他端側で内径が異なる異径の四角筒状の導波管であり、一端側(図では左側)の内径が、第1導波管21の外径より僅かに大きく形成され、他端側(図では右側)の内径が、第1導波管21の内径と等しく設定されていて、内径の大きい一端側内部に、第1導波管21の一端側を同心に受け入れた状態で、第1導波管21に対して導波方向(長手方向)に相対的に移動可能な状態で連結されている。
【0041】
第1導波管21の外周壁21aと第2導波管22の一端側の内周壁22aの間には、相対移動に必要な隙間Gが設けられている。
【0042】
第1導波管21の一端側には、前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー30A、30Bのうちの一方の電波ハーフミラー30Aが、第1導波管21の一端側開口を塞ぐように固定され、第2導波管22の内部でその内径が変化する境界部には、他方の電波ハーフミラー30Bが、一方の電波ハーフミラー30Aと平行に対向する状態で固定されている。
【0043】
この構造によって、例えば第1導波管21に入射された電磁波のうち、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間に形成される共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に第2導波管22側から出力するミリ波帯フィルタ20となり、間隔可変手段40より、一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間隔(以下ミラー間隔と記す)Lが変化する方向に、第1導波管21を第2導波管22に対して相対移動させることで、フィルタの通過中心周波数を可変することができる。
【0044】
一対の電波ハーフミラー30A、30Bは、電磁波を反射させる所定厚の金属製で、第1導波管21の外径に等しい大きさの長方形の基板30aと、その基板30aの中央を基板30aの長辺に沿って通過するように延び、一面側から反対面側に貫通する横長の電磁波通過用のスリット30bとを有している。このスリット30bの長さは、第1導波管21の内径の横幅に等しい。
【0045】
そして、このミリ波帯フィルタ20では、第1導波管21の外周壁21aとそれに対向する第2導波管22の内周壁22aの間の隙間Gからの電磁波漏出を防ぐための溝50、50が、第1導波管21の一端側先端に設けられた電波ハーフミラー30Aの長辺側(
図1の(a)、
図2では上下の長辺)外周部から内方(中央)のスリット30bに向かって所定深さで形成されている。スリット30bを挟んで上下一対設けられた溝50、50の長さは電波ハーフミラー30Aの上下の長辺に等しい。
【0046】
このように、内側の第1導波管21の先端部にその開口を塞ぐように設けられた電波ハーフミラー30Aの外周部に電磁波漏出防止用の溝50、50を設けたことにより、各溝50から電波ハーフミラー30Aの表面側外縁部までの距離、即ち前記した不要共振長xを極めて小さくすることができ、しかも、その不要共振長xは第1導波管21が第2導波管22に対して相対移動しても変化しない。
【0047】
したがって、前記した不要共振の周波数をフィルタの共振周波数の可変領域より十分高い領域に移動させて、その不要共振による溝50のチョーク効果への影響をなくすことができ、広い周波数帯で損失が少ない広帯域な特性を得ることができる。
【0048】
なお、電磁波漏出防止用の溝50を電波ハーフミラー30Aの外周部でなく、第1導波管21の外周壁21aに設けることも考えられるが、その場合、不要共振長xが電波ハーフミラー30Aの厚さ以上必要となり、しかも第1導波管21の外周壁21aの肉厚を漏出阻止波長の1/4より十分大きくしなければならず、これによって第1導波管21の外径が大きくなり、それに合わせて外側の第2導波管22の内径が大きくなってしまう。
【0049】
これに対し、上記実施形態のように、第1導波管21の開口を塞ぐ大きさの外形を有する電波ハーフミラー30Aには、その外周部から内方に向けて電磁波漏出防止に必要な深さの溝50を設けることができ、第1導波管21の外径を大きくすることなく、不要共振長xを最短化できる。
【0050】
また、第2導波管22の内周に溝を設ける必要がないので、外側の第2導波管22として肉厚の小さい細いものを使用でき、フィルタ全体として小型化できる。
【0051】
次に、上記実施形態のミリ波帯フィルタ20で、第1導波管21を第2導波管22に対して相対移動させたときのフィルタの通過特性のシミュレーション結果について説明する。
【0052】
このシミュレーションは、
図3の(a)、(b)に示す寸法例で行なった。
即ち、第1導波管21の内径a×b=1.016mm×2.032mm、外径A×B=1.976mm×2.992mm、外周壁21aの厚さc=0.48mm、第2導波管22の一端側内径a′×b′=2.016mm×3.032mm、他端側内径a″×b″=1.016mm×2.032mm、第1導波管21の外周壁21aと第2導波管22の一端側内周壁22aとの隙間G=0.02mmとした。
【0053】
また、電波ハーフミラー30A、30Bについては、基板30aの外形A×B=1.976mm×2.992mm、厚さt=0.5mm、スリット30bの幅u=2.032mm、高さs=0.07mmである。
【0054】
上記条件は前記した従来構造のミリ波帯フィルタと同一であり、電波ハーフミラー30Aの外周部に設けた溝50、50については、長さB=2.992mm、幅w=0.2mm、深さd=0.9mmとしている。また、電波ハーフミラー30Aの表面側の上縁部、下縁部から溝50、50までの距離(不要共振長)xは0.15mmとなっている。
【0055】
上記条件で、第1導波管21を第2導波管22に対して移動させたときのフィルタの通過特性のシミュレーション結果を
図4に示す。なおシミュレーションでは簡単のため材質を完全導体とし、導体損が存在しないモデルとしている。
【0056】
この
図4は、前記同様、ミラー間隔Lを0.05mmステップで1.1mm〜1.55mmまで変化させたときのそれぞれの通過特性F1〜F10を示すものであり、フィルタの通過中心周波数111GHz〜146GHzの広い範囲で、挿入損失がほぼ一定となっており、前記
図8と比較して明らかなように、フィルタの共振周波数が高域になっても、挿入損失の増加がほとんど現れていない。
【0057】
図3と
図7の構造の差は、電磁波漏出用の溝の位置の違いだけであるから、
図8の特性に対する
図4の特性改善は、電磁波漏出用の溝を第1導波管21の先端に設けられた電波ハーフミラー30Aの外周部に設けたことによる効果であることがわかる。
【0058】
実施形態では、電磁波漏出防止用の溝50、50を電波ハーフミラー30Aの2つの対向する長辺側からスリット30bを挟むように所定深さdで設けており、従来のような周回構造としていないが、上記シミュレーション結果から周回的に溝を設けなくても長辺側外周に設けるだけで十分高い電磁波漏出防止効果が得られていることが判明した。
【0059】
なお、上記説明では示していないが、第1導波管21、第2導波管22を支持する構造は必要である。例えば、第1導波管21を第2導波管22に対して移動させる構造の場合、第2導波管22をベース部に固定保持し、第1導波管21を第2導波管22に対して同心状態で導波方向(長手方向)に移動できるようにガイド部でガイドする構造となるが、この具体的な構造は任意である。
【0060】
また、間隔可変手段40についても、ミラー間隔Lを可変できるように第1導波管21を第2導波管22に対して相対的に移動できるものであれば、手動や電動のいずれでもよく、その構成は任意である。一つの例を挙げれば、外部からの制御が可能なステッピングモータを駆動源とし、その回転運動を直進運動に変換する機構、例えば、ネジとそのネジに螺合するネジ穴を有する部材とを用いた機構やラック・アンド・ピニオン等を介して第1導波管21を第2導波管22に対して相対的に移動させる構成が実用的である。
【0061】
上記実施形態は、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば110〜140GHz)の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路を、第1導波管21と、その第1導波管21の一端側を内部に受け入れる第2導波管22との連結構造で形成していたが、この構造では、共振周波数を可変するためにどちらか一方の導波管を他方に対して移動させることになり、移動する導波管に対して他回路を接続する不便さが生じる。
【0062】
これを解決するために、例えば
図5に示すように、第1導波管21の他端側を内部に受け入れる第3導波管23を設けることが有効である。
【0063】
第3導波管23は、例えば第2導波管22と同様に一端側と他端側の内径が異なる異径型の導波管を逆向きに用いる。ただし、内径が変化する境界部での反射が起きにくいように、一端側の内周壁23aから他端側の内周壁23bの間に内径が連続的に変化するテーパー壁23cを設けている。
【0064】
このように、第1導波管21の両側に、第2導波管22と第3導波管23をそれぞれ連結し、固定された第2導波管22、第3導波管23に対して第1導波管21を間隔可変手段40により導波方向(導波管長さ方向)に移動させる構造とすれば、外部回路を、固定側の第2導波管22と第3導波管23に接続すればよくなる。しかも、上記のように第2導波管22と第3導波管23の末端の小径側の内径を、110〜140GHzをTE10モードで伝搬させる標準口径のものを使用することができ、電磁波の入出力回路に対する接続に汎用の導波管がそのまま使用でき、フィルタを含めた回路構築が極めて容易となる。
【0065】
なお、前記
図1、
図5に示した実施形態では、第2導波管22として一端側と他端側の内径が異なる異径構造のものを用いていたが、第1導波管21と同様に全長にわたって内径が(a′×b′)で一定の構造のものを用いてもよい。この場合、電波ハーフミラー30Bの外形を前記隙間Gの分だけ電波ハーフミラー30Aより大きくすればよい。また、
図5の構造の場合、第3導波管23についても第1導波管21と同様に全長にわたって内径が(a′×b′)で一定の構造のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
20……ミリ波帯フィルタ、21〜23……導波管、30A、30B……電波ハーフミラー、40……間隔可変手段、50……溝