特許第5978266号(P5978266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5978266時間計測装置、時間計測方法、発光寿命計測装置、及び発光寿命計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978266
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】時間計測装置、時間計測方法、発光寿命計測装置、及び発光寿命計測方法
(51)【国際特許分類】
   G04F 10/06 20060101AFI20160817BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   G04F10/06
   G01N21/64 B
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-179391(P2014-179391)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53516(P2016-53516A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2016年1月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健
(72)【発明者】
【氏名】西沢 充哲
(72)【発明者】
【氏名】伊東 孝
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/013385(WO,A1)
【文献】 特公昭62−009846(JP,B2)
【文献】 特公昭63−003273(JP,B2)
【文献】 特表平04−503246(JP,A)
【文献】 特表2009−544973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04F 10/04 − 06
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出する時間算出部と、を備え、
前記時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択し、前記複数の遅延時間から選択される遅延時間を経時的に切り替えながら、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を遅延させる、時間計測装置。
【請求項2】
前記時間算出部は、前記デジタル信号が示す時間から、該デジタル信号に与えられた前記遅延時間を減算することにより、前記計測時間を算出する、請求項1記載の時間計測装置。
【請求項3】
前記デジタル変換部は、1つの前記第1の信号の入力に対して複数の前記第2の信号の入力を受け、各第2の信号の入力について、前記デジタル信号を生成する、請求項1又は2記載の時間計測装置。
【請求項4】
前記デジタル変換部は、前記第1の信号及び前記第2の信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、前記デジタル信号を生成する、請求項1又は2記載の時間計測装置。
【請求項5】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出する時間算出部と、を備え、
前記時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択し、
前記時間算出部は、前記デジタル信号が示す時間から、該デジタル信号に与えられた前記遅延時間を減算することにより、前記計測時間を算出する、時間計測装置。
【請求項6】
前記デジタル変換部は、1つの前記第1の信号の入力に対して複数の前記第2の信号の入力を受け、各第2の信号の入力について、前記デジタル信号を生成する、請求項5記載の時間計測装置。
【請求項7】
前記デジタル変換部は、前記第1の信号及び前記第2の信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、前記デジタル信号を生成する、請求項5記載の時間計測装置。
【請求項8】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出する時間算出部と、を備え、
前記時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択し、
前記デジタル変換部は、前記第1の信号及び前記第2の信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、前記デジタル信号を生成する、時間計測装置。
【請求項9】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測方法であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、
デジタル変換部によって、前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出するステップと、を備え、
前記遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択され、前記複数の遅延時間から選択される遅延時間を経時的に切り替えながら、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を遅延させる、時間計測方法。
【請求項10】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測方法であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、
デジタル変換部によって、前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出するステップと、を備え、
前記遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択され、
前記計測時間を算出するステップでは、前記デジタル信号が示す時間から、該デジタル信号に与えられた前記遅延時間を減算することにより、前記計測時間を算出する、時間計測方法。
【請求項11】
第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測方法であって、
前記第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、
前記第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、
デジタル変換部によって、前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出するステップと、を備え、
前記遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択され、
前記デジタル信号を生成するステップでは、前記第1の信号及び前記第2の信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、前記デジタル信号を生成する、時間計測方法。
【請求項12】
試料から発せられる発光の寿命を計測する発光寿命計測装置であって、
前記試料に照射される光を出力する光源と、
前記光の出力に対応する第1のトリガ信号を出力するトリガ信号発生部と、
前記試料からの発光を検出し、該検出信号を第2のトリガ信号として出力する検出器と、
前記第1のトリガ信号及び前記第2のトリガ信号の一方のトリガ信号が入力されてから他方のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置と、
前記計測時間に基づいて、前記発光の寿命を導出する導出部と、を備え、
前記時間計測装置は、
前記一方のトリガ信号が入力され、該一方のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、
前記他方のトリガ信号が入力され、該他方のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出する時間算出部と、を有し、
前記時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択する、発光寿命計測装置。
【請求項13】
前記トリガ信号発生部は、前記光源による前記光の出力を制御し、該制御信号を第1のトリガ信号として出力するパルスジェネレータである、請求項12記載の発光寿命計測装置。
【請求項14】
前記トリガ信号発生部は、前記光源からの前記光を検出し、該検出信号を前記第1のトリガ信号として出力する第2の検出器である、請求項12記載の発光寿命計測装置。
【請求項15】
前記第1のトリガ信号は前記第2の信号生成部に入力され、前記第2のトリガ信号は前記第1の信号生成部に入力される、請求項1214のいずれか一項記載の発光寿命計測装置。
【請求項16】
試料から発せられる発光の寿命を計測する発光寿命計測装置が行う発光寿命計測方法であって、
前記試料に照射される光を出力するステップと、
前記光の出力に対応する第1のトリガ信号を出力するステップと、
前記試料からの発光を検出し、該検出信号を第2のトリガ信号として出力するステップと、
前記第1のトリガ信号及び前記第2のトリガ信号の一方のトリガ信号が入力されてから他方のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出するステップと、
前記計測時間に基づいて、前記発光の寿命を導出するステップと、を備え、
前記算出するステップには、
前記一方のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、
前記他方のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、
デジタル変換部によって、前記第1の信号及び前記第2の信号の入力を受け、前記第1の信号が入力されてから前記第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方の前記デジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、
複数の前記デジタル信号に基づいて前記計測時間を算出するステップと、が含まれており、
前記遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択される、発光寿命計測方法。
【請求項17】
前記第1の信号を生成するステップでは、前記第1のトリガ信号に応じて前記第1の信号を生成し、
前記第2の信号を生成するステップでは、前記第2のトリガ信号に応じて前記第2の信号を生成する、請求項16記載の発光寿命計測方法。
【請求項18】
前記第1の信号を生成するステップでは、前記第2のトリガ信号に応じて前記第1の信号を生成し、
前記第2の信号を生成するステップでは、前記第1のトリガ信号に応じて前記第2の信号を生成する、請求項16記載の発光寿命計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間計測装置、時間計測方法、発光寿命計測装置、及び発光寿命計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に励起光を照射した際の発光の寿命を計測する発光寿命計測装置等においては、スタートパルス信号及びストップパルス信号の時間差に係る情報を出力する時間計測装置が用いられる。このような時間計測装置として、上述した時間差をデジタル信号として出力することにより時間を計測するTDC(Time-digital-converter)方式を利用した時間計測装置が知られている(例えば非特許文献1参照)。TDC方式は、時間差をアナログ信号として出力するTAC(Time-Analog-Converter)方式と比べると、計測レンジが長く低コストであるという点で有利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「Advanced Time-Correlated SinglePhoton Counting Techniques 」W.Becker (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TDC方式を利用した時間計測装置においては、スタートパルス信号が出力されてからストップパルス信号が出力されるまでの実時間に対応する量子化間隔のデジタル信号を出力する。しかしながら、量子化間隔を一定間隔とすることは難しく、実時間と量子化間隔とを完全に対応させることは困難である。量子化間隔がばらつく(微分非直線性の影響が大きくなる)ことにより、実時間と本来は対応していないデジタル信号を出力してしまう場合があり、この場合、時間計測の精度を十分に担保することができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、高精度に時間計測を行うことができる時間計測装置、時間計測方法、発光寿命計測装置、及び発光寿命計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る時間計測装置は、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置であって、第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、第1の信号及び第2の信号の入力を受け、第1の信号が入力されてから第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方のデジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、複数のデジタル信号に基づいて計測時間を算出する時間算出部と、を備え、時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択する。
【0007】
この時間計測装置では、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方の信号が遅延させられ、第1の信号及び第2の信号の入力の時間差から生成される複数のデジタル信号に基づいて、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間である計測時間が算出される。そして、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方の信号に与える遅延時間が、少なくとも2つの異なる遅延時間とされる。一般的に、デジタル変換に係る量子化間隔を一定間隔とすることは難しく、量子化間隔にばらつきがあるため、実時間と量子化間隔とを完全に対応させることは困難であり、これにより時間計測の精度が低下しやすい。この点、本発明では、複数の遅延時間に応じた複数のデジタル信号から計測時間を算出するので、量子化間隔にばらつきがある場合であっても、複数の遅延時間によって量子化間隔のばらつきが平滑化され、複数のデジタル信号全体から高精度に時間を算出することができる。以上より、本発明によれば、高精度に時間計測を行うことができる。
【0008】
また、時間遅延部は、複数の遅延時間から選択される遅延時間を経時的に切り替えながら、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方のデジタル変換部への入力を遅延させてもよい。これにより、時間が異なる複数の遅延時間を、順次、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方に与えることができ、複数の遅延時間に応じた複数のデジタル信号を効率的に生成することができる。すなわち、高精度な時間計測を効率的に行うことができる。
【0009】
また、時間算出部は、デジタル信号が示す時間から、該デジタル信号に与えられた遅延時間を減算することにより、計測時間を算出してもよい。これにより、遅延時間に応じた複数のデジタル信号により量子化間隔のばらつきを平滑化しながら、遅延時間を差し引いた実時間を適切に算出することができる。
【0010】
また、デジタル変換部は、1つの第1の信号の入力に対して複数の第2の信号の入力を受け、各第2の信号の入力について、デジタル信号を生成してもよい。これにより、1つの第1のトリガ信号に対して、複数の第2のトリガ信号が入力される場合でも対応することができる。
【0011】
また、デジタル変換部は、第1の信号及び第2の信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、デジタル信号を生成してもよい。
【0012】
本発明に係る時間計測方法は、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測方法であって、第1のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、第2のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、デジタル変換部によって、第1の信号及び第2の信号の入力を受け、第1の信号が入力されてから第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方のデジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、複数のデジタル信号に基づいて計測時間を算出するステップと、を備え、遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択される。
【0013】
本発明に係る発光寿命計測装置は、試料から発せられる発光の寿命を計測する発光寿命計測装置であって、試料に照射される光を出力する光源と、光の出力に対応する第1のトリガ信号を出力するトリガ信号発生部と、試料からの発光を検出し、該検出信号を第2のトリガ信号として出力する検出器と、第1のトリガ信号及び第2のトリガ信号の一方のトリガ信号が入力されてから他方のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置と、計測時間に基づいて、発光の寿命を導出する導出部と、を備え、時間計測装置は、一方のトリガ信号が入力され、該一方のトリガ信号に応じて第1の信号を生成する第1の信号生成部と、他方のトリガ信号が入力され、該他方のトリガ信号に応じて第2の信号を生成する第2の信号生成部と、第1の信号及び第2の信号の入力を受け、第1の信号が入力されてから第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するデジタル変換部と、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方のデジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させる時間遅延部と、複数のデジタル信号に基づいて計測時間を算出する時間算出部と、を有し、時間遅延部は、少なくとも2つの遅延時間を選択する。
【0014】
この発光寿命計測装置では、光源による光の照射に対応する第1のトリガ信号に応じた第1の信号及び試料からの発光の検出信号である第2のトリガ信号に応じた第2の信号の少なくとも一方の信号、又は、光源による光の照射に対応する第1のトリガ信号に応じた第2の信号及び試料からの発光の検出信号である第2のトリガ信号に応じた第1の信号の少なくとも一方の信号が遅延させられ、第1の信号及び第2の信号の時間差から生成される複数のデジタル信号に基づいて、第1のトリガ信号及び第2のトリガ信号の一方のトリガ信号が入力されてから他方のトリガ信号が入力されるまでの時間である計測時間が算出される。第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方に与えられる遅延時間が、少なくとも2つの異なる遅延時間とされる。そして計測時間に基づいて発光の寿命が導出される。複数の遅延時間に応じた複数のデジタル信号から計測時間を算出するので、量子化間隔にばらつきがある場合であっても、複数の遅延時間によって量子化間隔のばらつきが平滑化され、複数のデジタル信号全体から高精度に時間を算出することができる。このことで、試料から発せられる発光の寿命を高精度に導出することができる。
【0015】
また、トリガ信号発生部は、光源による光の出力を制御し、該制御信号を第1のトリガ信号として出力するパルスジェネレータであってもよいし、光源からの光を検出し、該検出信号を第1のトリガ信号として出力する第2の検出器であってもよい。発光寿命計測装置は様々な形態の装置が提案されているが、本発明は、いずれの形態にも対応可能である。
【0016】
また、第1のトリガ信号は、第2の信号生成部に入力され、第2のトリガ信号は、第1の信号生成部に入力されてもよい。例えば、蛍光寿命を計測する場合、励起光を照射しても蛍光が発生しない場合がある。この場合、励起光の出力に伴って第1の信号を出力すると時間計測ができない恐れがある。そこで、第1の信号を蛍光の検出に伴う信号とすることで、時間計測ができないことを防ぐことができる。
【0017】
本発明に係る発光寿命計測方法は、試料から発せられる発光の寿命を計測する発光寿命計測装置が行う発光寿命計測方法であって、試料に照射される光を出力するステップと、光の出力に対応する第1のトリガ信号を出力するステップと、試料からの発光を検出し、該検出信号を第2のトリガ信号として出力するステップと、第1のトリガ信号及び第2のトリガ信号の一方のトリガ信号が入力されてから他方のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出するステップと、計測時間に基づいて、発光の寿命を導出するステップと、を備え、算出するステップには、一方のトリガ信号に応じて第1の信号を生成するステップと、他方のトリガ信号に応じて第2の信号を生成するステップと、デジタル変換部によって、第1の信号及び第2の信号の入力を受け、第1の信号が入力されてから第2の信号が入力されるまでの時間に相当するデジタル信号を生成するステップと、第1の信号及び第2の信号の少なくとも一方のデジタル変換部への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された遅延時間で遅延させるステップと、複数のデジタル信号に基づいて計測時間を算出するステップと、が含まれており、遅延させるステップでは、少なくとも2つの遅延時間が選択される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高精度に時間計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る時間計測装置を示す図である。
図2】理想的な量子化間隔における計測結果の例を示す図である。
図3】遅延時間がない場合の計測結果の例を示す図である。
図4】遅延時間を1nsecとした場合の計測結果の例を示す図である。
図5】遅延時間を2nsecとした場合の計測結果の例を示す図である。
図6】各計測結果を足し合せた例を示す図である。
図7】微分非直線性の周期性を示すグラフである。
図8図1に示した時間計測装置の時間計測処理を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2実施形態に係る発光寿命計測装置を示す図である。
図10図9に示した発光寿命計測装置の発光寿命計測処理を示すフローチャートである。
図11】変形例に係る時間計測装置を示す図である。
図12】変形例に係る時間計測装置を示す図である。
図13】変形例に係る発光寿命計測装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る時間計測装置、時間計測方法、発光寿命計測装置、及び発光寿命計測方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る時間計測装置を示す図である。時間計測装置1は、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間を計測時間として算出する時間計測装置である。時間計測装置1は、異なるタイミングで入力される2つの信号(第1のトリガ信号及び第2のトリガ信号)から、当該2つの信号の入力タイミングの差を導出する、各種の装置及びシステムに適用することができ、例えば、試料から発せられる発光の寿命を計測する発光寿命計測装置等に適用することができる。発光寿命計測装置に適用した例の詳細については、第2実施形態に記載する。
【0022】
時間計測装置1は、スタートゲート11と、ストップゲート12と、遅延回路13(時間遅延部)と、TDC(Time-Digital-Convertor)回路14(デジタル変換部)と、制御部15(時間算出部)と、を備えている。
【0023】
スタートゲート11は、外部から第1のトリガ信号の入力を受け、該第1のトリガ信号に応じてスタート信号(第1の信号)を生成しTDC回路14に出力する。スタート信号は例えばパルス信号である。ストップゲート12は、外部から第2のトリガ信号の入力を受け、該第2のトリガ信号に応じてストップ信号(第2の信号)を生成し遅延回路13に出力する。ストップ信号は例えばパルス信号である。第1のトリガ信号及び第2のトリガ信号は、対になって連続的に時間計測装置1に入力される。よって、これらの信号を契機として出力されるスタート信号及びストップ信号についても、対になって連続的に出力される。なお、スタートゲート11が第1のトリガ信号を受けてからスタート信号を出力するまでに要する時間と、ストップゲート12が第2のトリガ信号を受けてからストップ信号を出力するまでに要する時間とは、略同一とされてもよく、既知の時間だけ時間差を持たせてもよい。
【0024】
遅延回路13は、ストップゲート12からストップ信号の入力を受け、当該ストップ信号のTDC回路14への入力を、予め設定された複数の遅延時間から選択された一の遅延時間だけ遅延させる。当該一の遅延時間は、スタート信号及びストップ信号の対である信号対毎に設定されている。遅延回路13は、複数の信号対のうち少なくとも2つの信号対に与える上記一の遅延時間を、互いに異なる遅延時間とする。より詳細には、遅延回路13は、複数の遅延時間(遅延量)を経時的に切り替えながら、ストップ信号を遅延させる。なお、複数の遅延時間には、遅延時間:0nsec(遅延時間なし)が含まれていてもよい。このような複数の遅延時間は、制御部15によって予め定められており、遅延時間の経時的な切り替えについても制御部15によって制御されている。なお、遅延時間は、例えば量子化間隔(詳細は後述)の単位のn倍(nは正の整数)に相当する時間となるように設定される。例えば、遅延回路13は、制御部15によって遅延時間が1nsecとされている場合には、ストップ信号の入力を受けてから1nsecだけ遅延させた後に当該ストップ信号を出力する。また、遅延回路13は、制御部15によって遅延時間が2nsecとされた場合には、当該制御部15の制御に応じて遅延時間を2nsecに切り替え、ストップ信号の入力を受けてから2nsecだけ遅延させた後に当該ストップ信号を出力する。なお、本実施形態では遅延回路13はストップ信号を遅延させるとして説明するが、遅延回路13は、スタート信号及びストップ信号の少なくとも一方の信号を遅延させるものであればよく、スタートゲート11からのスタート信号を受けて所定の遅延時間だけスタート信号を遅延させてもよいし、スタート信号及びストップ信号の双方を遅延させてもよい。
【0025】
TDC回路14は、スタート信号及びストップ信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、予め定められた所定の量子化間隔に基づき、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコード(デジタル信号)を出力するデジタル変換器である。TDC回路14は、遅延回路13により遅延させられたストップ信号の遅延時間を加味して、所定の量子化間隔に基づくデジタルコードを複数生成・出力する。TDC回路14としては、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型TDC回路や、TAC(Time-Analog-Converter)及びADC(Analog-Digital-Converter)を組み合わせた回路等がある。時間計測装置1は、TDC回路14を1つのみ含んでいる。以下、図2図6も参照しながら、TDC回路14によるデジタルコードの出力について説明する。図2は、理想的な量子化間隔における計測結果の例を示す図である。図3は、遅延時間がない場合の計測結果の例を示す図である。図4は、遅延時間を1nsecとした場合の計測結果の例を示す図である。図5は、遅延時間を2nsecとした場合の計測結果の例を示す図である。図6は、各計測結果を足し合せた例を示す図である。
【0026】
図2図6に示す例では、TDC回路14の量子化間隔が1nsecに設定されており、0〜1nsecに対してデジタルコード000が、1〜2nsecに対してデジタルコード001が、それぞれ設定されている。また、2〜3nsecに対してデジタルコード010が、3〜4nsecに対してデジタルコード011が、それぞれ設定されている。また、4〜5nsecに対してデジタルコード100が、5〜6nsecに対してデジタルコード101が、それぞれ設定されている。また、6〜7nsecに対してデジタルコード110が、7〜8nsecに対してデジタルコード111が、それぞれ設定されている。第1のトリガ信号に対して非同期な第2のトリガ信号を連続して入力すると、図2に示すように量子化間隔が一定(理想的な量子化間隔)である場合には、TDC回路14から出力されるデジタルコードのカウント数は、各時間、同程度となる。しかしながら、様々な要因(例えばTDC回路14がCMOS型である場合には内部遅延回路の精度の要因、TDC回路14がTAC及びADCの組合せ型である場合にはアナログ回路の精度の要因等)により、TDC回路14の量子化間隔には不均一性が生じてしまう(図3)。例えば図3では、デジタルコード001の量子化間隔と比べて、デジタルコード011の量子化間隔が大きい。このような場合、量子化間隔が均一である場合には同一であった各時間のデジタルコードのカウント数が、図3に示すように、量子化間隔が不均一となることによりばらつくこととなる。すなわち、量子化間隔が比較的大きいデジタルコード011のカウント数は、量子化間隔が比較的小さいデジタルコード001のカウント数よりも少なくなる。このことから明らかなように、TDC回路14の量子化間隔に不均一性(微分非直線性)が生じてしまうことによって、出力されるデジタルコードの精度が低下するおそれがある。
【0027】
この点、TDC回路14では、遅延時間が異なる複数のストップ信号に応じたデジタルコードを生成することにより、最終的に制御部15から出力される時間計測結果の精度を担保している。すなわち、TDC回路14は、例えば図4に示すように、1nsec遅延させられたストップ信号に基づいて、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコードを出力し、さらに、図5に示すように、2nsec遅延させられたストップ信号に基づいて、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコードを出力する。そして、制御部15によって、各遅延時間(遅延時間:0nsec、1nsec、2nsec)における同一時間のデジタルコード(図3図5)のカウント数が足し合わされることにより、量子化間隔のばらつきが平滑化された計測信号が出力可能となる。なお、同一時間のデジタルコードとは、例えば実時間が0〜1nsecであれば、遅延時間が0nsecのデジタルコード「000」(図3)、遅延時間が1nsecのデジタルコード「001」(図4)、及び、遅延時間が2nsecのデジタルコード「010」である。つまり、各々の遅延時間だけ、対応するデジタルコードがずれているため、遅延時間分だけずらした上で各デジタルコードのカウント数が足し合わされている。
【0028】
図6に示すように、遅延時間を考慮して足し合わされた各時間のデジタルコードのカウント数は、概ね一定となり、微分非直線性が改善されることが確認できる。なお、遅延時間を与えたことによって計測できなかった時間、具体的には、遅延時間が1nsec,2nsecである場合に計測できなかった実時間7〜8nsec、及び、遅延時間が2nsecである場合に計測できなかった実時間6〜7nsecについては、遅延時間の影響により正しいカウント数とはならない。
【0029】
上述した複数の遅延時間は、TDC回路14によるデジタルコードの生成における微分非直線性の周期性に応じて決定される。すなわち、遅延させられた各ストップ信号の間隔及び数をどの程度とするかについては、デジタルコードのカウント数のばらつきの周期性(微分非直線性の周期性)に応じて決定される。図7は、微分非直線性の周期性を示すグラフである。図7に示す例では、TDC回路14の量子化間隔が1psecに設定されており、各量子化間隔が一定(理想的な量子化間隔)であればデジタルコードのカウント数が各量子化間隔で一定となるように、第1のトリガ信号に対して非同期な第2のトリガ信号を連続して入力している。図7に示すように、実際には、量子化間隔の不均一性により、デジタルコードのカウント数にばらつきが生じており、ばらつきの間隔(周期)が900psec、ばらつきの幅が200psecとなっている。この場合、200psecのばらつきを900psecの周期内に均等に拡散させればよいので、例えば100psec毎に10回遅延を切り替えればよい。すなわち、制御部15によって、100psec間隔のストップ信号が10個、遅延回路13に設定されればよい。また、ばらつきには周期性があるので、1周期以上遅らせたストップ信号を出力するように設定してもよく、1000psec間隔のストップ信号を10個、遅延回路13に設定されていてもよい。
【0030】
図1に戻り、制御部15は、遅延時間の異なる複数のデジタルコードに基づいて計測時間を算出し、計測結果(計測信号)を出力する。制御部15は、上述したように、遅延時間分だけずらした上で、各デジタルコードのカウント数を足し合せている。すなわち、制御部15は、入力されたデジタルコードが示す時間から該デジタルコードに与えられた遅延時間を減算する。そして、当該入力されたデジタルコードを、上記減算後のデジタルコードに変換する。このようにして、制御部15は、遅延時間に応じた変換を行った後に、各デジタルコードのカウント数を足し合せている。また、制御部15は、遅延回路13の遅延時間の変更を制御している。
【0031】
次に、図8を参照して時間計測装置1の処理フローについて説明する。図8は、図1に示した時間計測装置の時間計測処理を示すフローチャートである。
【0032】
最初に、制御部15によって、ストップ信号を遅延させる複数の遅延時間が遅延回路13に設定される(ステップS1)。遅延させられる各ストップ信号の間隔及び数は、デジタルコードのカウント数のばらつきの周期性(微分非直線性の周期性)に応じて決定される。なお、最初の遅延時間としては、ストップ信号を遅延させないように、遅延時間:0nsecが設定される。ただし、必ずしも遅延時間:0nsecが設定されなくてもよい。
【0033】
続いて、スタートゲート11によって第1のトリガ信号に応じたスタート信号がTDC回路14に入力される(ステップS2)。その後、ストップゲート12によって第2のトリガ信号に応じたストップ信号が遅延回路13に入力され、遅延回路13によって設定された遅延時間だけ遅延させられた後に、ストップ信号がTDC回路14に入力される(ステップS3)。続いて、TDC回路14によって、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコードが出力される(ステップS4)。
【0034】
同じ遅延時間におけるS2〜S4の処理の繰り返し回数は予め設定されており、制御部15によって、当該繰り返し回数に達したか(一連の計測を終了するか)否かが判定される(ステップS5)。S5において繰り返し回数に達していないと判定された場合には、再度S2〜S4の処理が繰り返される。一方、S5において繰り返し回数に達していると判定された場合には、制御部15によって、遅延時間を変更するか否かが判定される(ステップS6)。
【0035】
S6において遅延時間を変更すると判定された場合には、制御部15によって遅延時間の変更が遅延回路13に指示される(ステップS7)。一方で、予め定めた遅延時間全てについて処理が完了し、S6において遅延時間を変更しないと判定された場合には、制御部15によって、遅延時間の異なる複数のデジタルコードに基づいて計測結果(計測信号)が算出され、出力される(ステップS8)。
【0036】
次に、本実施形態に係る時間計測装置1の作用・効果について説明する。
【0037】
この時間計測装置1では、スタート信号及びストップ信号からなる信号対のストップ信号が所定の遅延時間分だけ遅延させられ、複数の信号対におけるスタート信号及びストップ信号の時間差から生成される複数のデジタルコードに基づいて、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間である計測時間が算出される。そして、各信号対のうち少なくとも2つの信号対に与える遅延時間が、互いに異なる遅延時間とされる。一般的に、デジタル変換に係る量子化間隔を一定間隔とすることは難しく、量子化間隔にばらつきがあるため、実時間と量子化間隔とを完全に対応させることは困難であり、これにより時間計測の精度が低下しやすい。この点、時間計測装置1では、複数の遅延時間kに応じた複数のデジタルコードから計測時間を算出するので、量子化間隔にばらつきがある場合であっても、複数の遅延時間によって量子化間隔のばらつきが平滑化され、複数のデジタルコード全体から高精度に時間を算出することができる。
【0038】
また、遅延回路13は、複数の遅延時間から選択される一の遅延時間を経時的に切り替えながら、ストップ信号のTDC回路14への入力を遅延させているので、時間が異なる複数の遅延時間を、順次、ストップ信号に与えることができ、複数の遅延時間に応じた複数のデジタルコードを効率的に生成することができる。すなわち、高精度な時間計測を効率的に行うことができる。
【0039】
また、制御部15は、入力されたデジタルコードが示す時間から該デジタルコードに与えられた遅延時間を減算する。そして、制御部15は、当該入力されたデジタルコードを、上記減算後のデジタルコードに変換する。このようにして、制御部15は、遅延時間に応じた変換を行った後に、各デジタルコードのカウント数を足し合せている。これにより、遅延時間に応じた複数のデジタルコードにより量子化間隔のばらつきを平滑化しながら、遅延時間を差し引いた実時間を適切に算出することができる。
【0040】
また、複数の遅延時間は、TDC回路14によるデジタル信号の生成における微分非直線性の周期性に応じて決定される。微分非直線性には一定の周期性があるところ、微分非直線性の周期を考慮して、当該周期の全体に亘って量子化間隔のばらつきが拡散するように複数の遅延時間を決定することにより、量子化間隔のばらつきを効果的に平滑化することができる。
【0041】
[第2実施形態]
次に、図9を参照して、第2実施形態に係る発光寿命計測装置について説明する。図9は、本発明の第2実施形態に係る発光寿命計測装置を示す図である。発光寿命計測装置50は、第1実施形態に係る時間計測装置1を適用した応用例であり、試料Sから発せられる発光の寿命を計測する装置である。
【0042】
有機材料や蛍光プローブの蛍光スペクトルは、ピーク波長や蛍光強度等、試料の機能や特性を制御、評価する上で重要なパラメータである。しかしながら、蛍光スペクトルは時間的に積分された情報を取得するため、試料に複数の物質や反応系が含まれる場合には、それらが積分された情報しか得ることができない。このような場合には、試料の機能や特性を評価する手段として、試料がパルス光により光励起された後に基底状態に戻るまでの時間をサブナノ秒〜ミリ秒の時間領域で測定する発光寿命計測が効果的である。発光寿命計測装置では、パルスジェネレータからのパルス信号に基づいて出力されるスタート信号と、当該パルス信号に基づいて光源から出力された励起光を受けた試料が出力する発光(蛍光やりん光など)に係るストップ信号とに基づいて、発光の検出タイミングが導出される。そして、発光が複数回検出されることにより検出タイミングの頻度分布が得られ、当該頻度分布に基づき試料の発光寿命が推定される。
【0043】
図9に示すように、発光寿命計測装置50は、時間計測装置1と、パルスジェネレータ51(トリガ信号発生部)と、光源52と、検出器53と、コンピュータ54(導出部)と、表示装置55と、入力装置56と、を備えている。時間計測装置1は、第1実施形態と同様の構成、すなわち、スタートゲート11と、ストップゲート12と、遅延回路13(時間遅延部)と、TDC回路14(デジタル変換部)と、制御部15(時間算出部)と、を含んで構成されている。
【0044】
パルスジェネレータ51は、コンピュータ54からの指示に基づいて、光源52及びスタートゲート11にそれぞれ同一タイミングのパルス信号(第1のトリガ信号)を出力する。パルスジェネレータ51は、光源52による光の出力を制御し、該制御信号をパルス信号(第1のトリガ信号)として出力する。スタートゲート11は、当該パルス信号に基づいてスタート信号をTDC回路14に出力する。光源52及びスタートゲート11に対して同一タイミングのパルス信号が入力されるので、スタートゲート11から出力されるスタート信号は、光源52からの光(励起光)の照射に対応する信号である。
【0045】
光源52は、パルスジェネレータ51から出力された上記パルス信号に基づいて、試料Sに照射される励起光を出力する。光源52としては、LED(Light Emitting Diode)光源、レーザ光源、SLD(SuperLuminescent Diode)光源、ランプ系光源等を用いることができる。励起光の強度は、例えば、試料Sに励起光が照射されると1光子が発光される程度に設定される。励起光が照射された試料Sからは、励起光に応じた発光(蛍光やりん光など)が出力される。
【0046】
検出器53は、発光を検出し、ストップゲート12に検出信号(第2のトリガ信号)を出力する。検出器53としては、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等を用いることができる。ストップゲート12は、検出器53からの検出信号に基づいて、遅延回路13にストップ信号を出力する。遅延回路13、TDC回路14、及び制御部15の機能は、第1実施形態で説明したとおりである。すなわち、遅延回路13はストップ信号を所定の遅延時間分だけ遅延させてTDC回路14に出力する。また、TDC回路14は、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコードを出力する。そして、制御部15は、遅延時間の異なる複数のデジタルコードに基づいて時間を算出する。制御部15は、算出した時間である計測結果をコンピュータ54に出力する。
【0047】
コンピュータ54は、時間計測装置1(より詳細には制御部15)から出力される計測結果に基づき、発光寿命を導出(解析)する。具体的には、コンピュータ54は、計測結果に含まれるストップ信号のデジタルコード(発光の検出タイミング)から、発光の検出タイミングの頻度分布を導出し、当該頻度分布から試料Sの発光寿命を求める。なお、時間計測装置1の制御部15の機能を、コンピュータ54が担ってもよい。
【0048】
表示装置55は、コンピュータ54に電気的に接続されたディスプレイであり、上述した試料Sの発光寿命解析結果を表示する。入力装置56は、キーボード又はマウス等であり、発光寿命の解析条件や計測条件の入力・設定を行うことができる。
【0049】
次に、図10を参照して発光寿命計測装置50の処理フローについて説明する。図10は、図9に示した発光寿命計測装置の発光寿命計測処理を示すフローチャートである。
【0050】
最初に、制御部15によって、ストップ信号を遅延させる複数の遅延時間が遅延回路13に設定される(ステップS11)。続いて、パルスジェネレータ51によってパルス信号が光源52及びスタートゲート11に出力され(ステップS12)、当該パルス信号に基づき、スタートゲート11からはTDC回路14にスタート信号が出力され(ステップS13)、光源52からは試料Sに照射される励起光が出力される(ステップS14)。
【0051】
そして、試料Sから発生した発光(蛍光やりん光など)が検出器53に検出され(ステップS15)、検出器53から検出信号が出力される。続いて、当該検出信号に基づき、ストップゲート12からストップ信号が出力され、当該ストップ信号が遅延回路13に入力され、遅延回路13によって設定された遅延時間だけ遅延させられた後に、当該ストップ信号がTDC回路14に入力される(ステップS16)。続いて、TDC回路14によって、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコードが出力される(ステップS17)。
【0052】
同じ遅延時間におけるS12〜S17の処理の繰り返し回数は予め設定されており、制御部15によって、当該繰り返し回数に達したか(一連の計測を終了するか)否かが判定される(ステップS18)。S18において繰り返し回数に達していないと判定された場合には、再度S12〜S17の処理が繰り返される。一方、S18において繰り返し回数に達していると判定された場合には、制御部15によって、遅延時間を変更するか否かが判定される(ステップS19)。
【0053】
S19において遅延時間を変更すると判定された場合には、制御部15によって遅延時間の変更が遅延回路13に指示される(ステップS20)。一方で、予め定めた遅延時間全てについて処理が完了し、S19において遅延時間を変更しないと判定された場合には、制御部15によって、得られた複数のデジタルコードと対応する遅延時間とに基づいて計測結果が算出され、出力される(ステップS21)。そして、コンピュータ54によって、計測結果に基づき、試料の発光寿命が導出(解析)される(ステップS22)。
【0054】
このような発光寿命計測装置50では、光源52による光の照射の契機となる第1のトリガ信号に応じたスタート信号、及び、試料Sからの発光の検出信号である第2のトリガ信号に応じたストップ信号からなる信号対のうち、ストップ信号が所定の遅延時間分だけ遅延させられ、複数の信号対におけるスタート信号、及び、ストップ信号の時間差から生成される複数のデジタルコードに基づいて、第1のトリガ信号が入力されてから第2のトリガ信号が入力されるまでの時間である計測時間が算出される。また、各信号対のうち少なくとも2つの信号対に与える遅延時間が互いに異なる遅延時間とされる。そして、計測時間に基づいて発光の寿命が導出される。複数の遅延時間に応じた複数のデジタル信号から計測時間を算出するので、量子化間隔にばらつきがある場合であっても、複数の遅延時間によって量子化間隔のばらつきが平滑化され、複数のデジタルコード全体から高精度に時間を算出することができる。このことで、試料Sから発せられる発光の寿命を高精度に導出することができる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、時間計測装置1は、TDC回路14を1つのみ含んで構成されているとして説明したが、これに限定されない。すなわち、デジタル変換部は、複数のTDC回路(デジタル変換器)により構成されていてもよい。以下、デジタル変換部が複数のTDC回路により構成されている例について、図11及び12を参照して説明する。図11及び12は、変形例に係る時間計測装置を示す図である。
【0056】
図11に示す時間計測装置60には、スタートゲート11からのスタート信号、及び、ストップゲート12からのストップ信号の入力を受けるTDC回路64が複数設けられている。そして、スタートゲート11と各TDC回路64とは配線63aで電気的に接続されており、スタートゲート11とTDC回路64との距離に応じて、各配線63aの長さを異ならせている。また、ストップゲート12と各TDC回路64とは配線63bで電気的に接続されており、ストップゲート12とTDC回路64との距離に応じて、各配線63bの長さを異ならせている。このように、配線63a,63bの長さを各TDC回路64毎に異ならせることによって、各TDC回路64に入力される信号に時間差(遅延時間)を与えることができる。配線63a,63bの長さによってスタート信号及びストップ信号を遅延させることができるので、配線63a,63bは時間遅延部としての機能を有する。このように、複数のTDC回路64を含んだ構成とし、配線63a,63bの長さによって遅延時間を与え、各TDC回路64が異なる遅延時間に応じたデジタルコードを出力することにより、異なる遅延時間におけるデジタルコードの出力を同時に行うことができ、時間計測を迅速に行うことが可能となる。
【0057】
また、図12に示す時間計測装置80のように、図11に示す時間計測装置60の構成に加えて、スタート信号が入力されるTDC回路64を選択する選択部81、及び、ストップ信号が入力されるTDC回路64を選択する選択部82をさらに含んだ構成であってもよい。当該時間計測装置80においても、図11の時間計測装置60同様、配線63a,63bの長さに応じて遅延時間が決まる。
【0058】
また、図9に示す発光寿命計測装置50では、パルスジェネレータ51からスタートゲート11にパルス信号(第1のトリガ信号)を出力する構成としたが、これに限らず、図13に示す発光寿命計測装置90のように、光源52から出力される励起光を検出する検出器93(トリガ信号発生部、第2の検出器)を別途設け、検出器93からスタートゲート11にパルス信号(第1のトリガ信号)を出力する構成としてもよい。なお、検出器93としては、光電子増倍管又はアバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等を用いることができる。また、検出器53と検出器93を共用してもよい。
【0059】
また、図9に示す発光寿命計測装置50では、パルスジェネレータ51からスタートゲート11にパルス信号(第1のトリガ信号)を出力し、検出器53からストップゲート12にパルス信号を出力する構成としたが、検出器53からスタートゲート11にパルス信号を出力し、パルスジェネレータ51からストップゲート12にパルス信号を出力する構成としてもよい。もちろん、図13に示す発光寿命計測装置90においても同様に、検出器53からスタートゲート11にパルス信号を出力し、検出器93からストップゲート12にパルス信号を出力する構成としてもよい。この場合、検出器53から出力されるパルス信号(第1のトリガ信号)に伴い、スタートゲート11からスタート信号(第1の信号)が出力される。また、光源52による光の出力に伴うパルス信号(第2のトリガ信号)に伴い、ストップゲート12からストップ信号(第2の信号)が出力される。
【0060】
さらに、パルスジェネレータ51や検出器53,93からのパルス信号をスタートゲート11又はストップゲート12を介してスタート信号やストップ信号に変換する構成としていたが、パルスジェネレータ51や検出器53,93からのパルス信号をそのままスタート信号やストップ信号として利用し、遅延回路13やTDC回路14に入力させてもよい。
【0061】
また、TDC回路14は、スタート信号及びストップ信号の対である信号対の入力を複数受け、各信号対について、予め定められた量子化間隔に基づき、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間に相当するデジタルコード(デジタル信号)を出力するデジタル変換器と説明したが、TDC回路14は、1つのスタート信号に対して複数のストップ信号が入力される構成としてもよい。この場合、TDC回路14は、スタート信号が入力されてから各ストップ信号が入力されるまでのそれぞれの時間に相当する複数のデジタルコード(デジタル信号)を出力する。
【符号の説明】
【0062】
1,60,80…時間計測装置、11…スタートゲート、12…ストップゲート、13…遅延回路、14…TDC回路、15…制御部、50…発光寿命計測装置、51…パルスジェネレータ、52…光源、53…検出器、54…コンピュータ、S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13