【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、
第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる工程と、
第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える工程と、
一連の質量スペクトルデータを取得する工程であって、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする工程と、
前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(i)前記第1のイオンに関連する質
量スペクトルデータ、および/または(ii)前記第2のイオンに関連する質量スペクトル
データを、作成する工程とを含む試料の分析方法が提供される。
【0010】
前記方法は、前記質量分析計を異なる状態またはモードに繰り返し切り替える工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードを実質的に瞬時に、および/または、用いられた場合には前記質量分析計を平衡状態にすることができる遅延期間のために中断することなく、前記質量分析計の状態またはモードを切り替えることを含んでもよい。
【0012】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン集団の組成、および/または強度を変化させる、切り替える、変更する、または異ならせることを含んでもよい。
【0013】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン源の極性を切り替えることを含んでもよい。
【0014】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンを断片化または反応させて、フラグメントイオンまたはプロダクトイオンを生成することを含んでもよい。
【0015】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、質量フィルタもしくはセパレータ、質量電荷比フィルタもしくはセパレータ、イオン移動度フィルタもしくはセパレータまたは微分イオン移動度フィルタもしくはセパレータの移送特性を切り替えることを含んでもよい。
【0016】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンまたは前駆イオンの異なる種を選択することを含んでもよい。
【0017】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、衝突誘起解離の異なる衝突エネルギーを選択することを含んでもよい。
【0018】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、異なるイオンが断片化されるか、もしくは反応する、および/またはイオンが異なる程度に断片化されるか、もしくは反応するように、前記質量分析計の異なるフラグメンテーション状態または反応状態を選択することを含んでもよい。
【0019】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の動作パラメータを切り替える、または変更することを含んでもよい。
【0020】
取得された前記一連の質量スペクトルデータは、実質的に連続している。
【0021】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、一連の質量スペクトルデータを連続して取得することが好ましい。
【0022】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、質量スペクトルデータ取得期間を、平衡化遅延期間(equilibration delay time period)で互いに隔てられている複数の質量スペクトルデータ取得ウィンドウに分割することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含み、前記平衡化遅延期間の間は、(i)質量スペクトルデータは取得されない、および/または(ii)前記質量分析計を平衡状態にすることができる、および/または(iii)前記質量分析計の状態またはモードが切り替えられる、ことが好ましい。
【0023】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替え直前、および/または切り替え中、および/または切り替え直後に、前記質量スペクトルデータの取得を中断することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含むことが好ましい。
【0024】
一実施形態によると、前記方法は、
前記質量分析計を第1の状態またはモードと第2の状態またはモードとの間で繰り返し切り替える工程をさらに含み、
前記質量分析計は、時間T1の間は前記第1の状態またはモードであり、時間T2の間は前記第2の状態またはモードであり、
前記一連の質量スペクトルデータは、T1よりも長く、かつ、T2よりも長い期間に亘って連続して取得される。
【0025】
一実施形態によると、前記方法は、
第1の期間t1〜t2の間に、前記第1のイオンが分析される第1の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記質量分析計の前記状態またはモードを、前記第1の期間のすぐ後に続く第2の期間t2〜t3の間に、前記第2のイオンが分析される第2の状態またはモードに切り替える工程と、
前記第2の期間のすぐ後に続く第3の期間t3〜t4の間に、前記第2の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記第1、第2および第3の期間t1〜t4の間に、質量スペクトルデータを連続して取得する工程とをさらに含む。
【0026】
一実施形態によると、前記方法は、前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含む。
【0027】
前記方法は、直交加速式飛行時間質量分析器、四重極質量分析器、またはフーリエ変換質量分析器を用いて、前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含むことが好ましい。
【0028】
一実施形態によると、1回の質量スペクトルデータ取得期間の間に、前記質量分析計の状態またはモードが複数回切り替えられる。
【0029】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、取得期間中に質量スペクトルデータが周波数f2で取得されるとき、f2<f1が成り立つことが好ましい。
【0030】
前記一連の質量スペクトルデータは、前記質量分析計の状態またはモードのいかなる切り替えとも実質的に無関係に取得されることが好ましい。
【0031】
一実施形態によると、
前記一連の質量スペクトルデータは、質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない。
【0032】
前記取得期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないことが好ましい。
【0033】
前記一連の質量スペクトルデータは、好ましくは質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、好ましくは複数の採取期間(sample periods)を含み、
前記複数の採取期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない。
【0034】
前記複数の採取期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないことが好ましい。
【0035】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、前記複数の採取期間の周波数がf3であるとき、f3>f1が成り立つことが好ましい。
【0036】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータにおける複数のイオンピークを検出し、前記一連の質量スペクトルデータと関連付けられる複数のイオンピーク時間および複数のイオンピーク強度を決定することを含むことが好ましい。
【0037】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンまたは前記第2のイオンと関連があるかを決定することを含むことが好ましい。
【0038】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンおよび前記第2のイオンの両方と関連があるのかを決定し、前記部分または前記採取期間を除外することを含むことが好ましい。
【0039】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第1のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、および/または前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第2のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの、質量スペクトルを生成することを含むことが好ましい。
【0040】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータに現れる複数のイオンピークの再構成質量クロマトグラムを生成することを含むことが好ましい。
【0041】
一実施形態によると、前記方法は、前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションし、前記質量クロマトグラムのそれぞれと関連付けられる、デコンボリューションされたクロマトグラムの1つ以上のピークを決定する工程をさらに含む。
【0042】
前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションする前記工程は、前記質量クロマトグラムにおける、クロマトグラムのピークの点広がり関数特性を決定する、または近似することを含むことが好ましい。
【0043】
前記方法は、前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第1のイオンと関連があるかを決定する工程、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第2のイオンと関連があるかを決定する工程をさらに含むことが好ましい。
【0044】
一実施形態によると、前記方法は、前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第1のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第2のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの、質量スペクトルを生成することをさらに含むことが好ましい。
【0045】
本発明の一態様によると、質量分析計であって、
(i)第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる、
(ii)第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える、
(iii)一連の質量スペクトルデータを取得し、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする、および
(iv)前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(a)前記第1のイオンに関連する質量スペクトルデータ、および/または(b)前記第2のイオンに関連する質量スペクトルデータを、作成するように構成および適合された制御システムを備える質量分析計が提供される。
【0046】
好ましい実施形態は、分析中に質量分析計の動作状態または動作モードが切り替えられる実験のために、データ収集のデューティサイクルを向上させることに関する。この向上は、スペクトル取得の時間間隔とは非同期に機器の状態またはモードを切り替えることだけでなく、取得されたデータの定性的かつ定量的な側面、および/または切り替えが起きて各モードからデータが分離した時間の情報を用いることによっても影響を受ける。
【0047】
好ましい実施形態によれば、質量分析計の動作モードを、より頻繁に、またはより高速に切り替えることができるため、デューティサイクルの向上につながる。
【0048】
好ましい方法は、同期を伴わないので、複雑な機器の制御は必要ない。さらに、従来の質量分析計よりも、速いスキャン速度におけるデューティサイクルの向上が可能である。
【0049】
好ましい実施形態によれば、データ取得のデューティサイクルが(比較的)低いという、従来の質量分析計に固有の問題が解決される。比較的低いデューティサイクルは、質量分析計の動作モードまたは状態を切り替える合間の、データが何も記録されない休止時間またはインタスキャン期間に起因する。この休止時間またはインタスキャン期間は、イオンの混合またはクロストークによって、質量分析計の2つ以上の状態に関連するイオンを含むスペクトルの生成を防止するために導入される。
【0050】
好ましい実施形態によると、上記インタスキャン期間は、除外されることが好ましく、不要であることが好ましい。これにより、質量分析計の制御・タイミング電子機器を著しく簡素化することができ、切り替え実験のデューティサイクルも向上することになる。
【0051】
類似の技術は、クロマトグラフカラムから溶出する別々の化学種からのイオンを識別するのに用いられる。この場合、イオン化の前に、クロマトグラフィーによって種を分離し、各イオンに特有の強度溶出分布(intensity elution profile)を用いて、互いに異なる化学種から生じたイオンのデコンボリューションを行う。しかし、この場合、質量分析計の状態がいつ変更されたかを判断するためにデータを用いようとする試みはなされていない。代わりに、質量分析計の異なる状態を用いて取得したデータを区別または分類するのに、通常は休止時間またはインタスキャン期間が用いられる。
【0052】
好ましい実施形態は、予め設定された休止時間またはインタスキャン期間を不要にすることにより、上記公知の技術を改良するものである。その結果、取得の開始および終了とシステムの動作パラメータが変更された時間とを同期させるように、複雑な機器の制御をする必要がなくなる。