特許第5978290号(P5978290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978290
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】高速非同期取得による機能切り替え
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20160817BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   G01N27/62 E
   H01J49/26
【請求項の数】36
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-505723(P2014-505723)
(86)(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公表番号】特表2014-512536(P2014-512536A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】GB2012050875
(87)【国際公開番号】WO2012143728
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年4月3日
(31)【優先権主張番号】1106689.1
(32)【優先日】2011年4月20日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/478,718
(32)【優先日】2011年4月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】グリーン、マーティン、レイモンド
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−142196(JP,A)
【文献】 特開平05−275053(JP,A)
【文献】 特開2009−258116(JP,A)
【文献】 特開2004−185886(JP,A)
【文献】 米国特許第05703360(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる工程と、
第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える工程であって、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の動作パラメータを切り替える、または変更することを含む工程と、
一連の質量スペクトルデータを取得する工程であって、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする工程と、
前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(i)前記第1のイオンに関連する質量スペクトルデータ、および/または(ii)前記第2のイオンに関連する質量スペクトルデータを作成する工程とを含む試料の分析方法。
【請求項2】
前記質量分析計を異なる状態またはモードに繰り返し切り替える工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードを実質的に瞬時に、および/または、用いられた場合には前記質量分析計を平衡状態にすることができる遅延期間のために中断することなく、前記質量分析計の状態またはモードを切り替えることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン集団の組成、および/または強度を変化させる、切り替える、変更する、または異ならせることを含む、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン源の極性を切り替えることを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンを断片化または反応させて、フラグメントイオンまたはプロダクトイオンを生成することを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、質量フィルタもしくはセパレータ、質量電荷比フィルタもしくはセパレータ、イオン移動度フィルタもしくはセパレータまたは微分イオン移動度フィルタもしくはセパレータの移送特性を切り替えることを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンまたは前駆イオンの異なる種を選択することを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、衝突誘起解離の異なる衝突エネルギーを選択することを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、異なるイオンが断片化されるか、もしくは反応する、および/またはイオンが異なる程度に断片化されるか、もしくは反応するように、前記質量分析計の異なるフラグメンテーション状態または反応状態を選択することを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
取得された前記一連の質量スペクトルデータは、実質的に連続している、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、一連の質量スペクトルデータを連続して取得することを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、質量スペクトルデータ取得期間を、平衡化遅延期間(equilibration delay time period)で互いに隔てられている複数の質量スペクトルデータ取得ウィンドウに分割することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含み、前記平衡化遅延期間の間は、(i)質量スペクトルデータは取得されない、および/または(ii)前記質量分析計を平衡状態することができる、および/または(iii)前記質量分析計の状態またはモードが切り替えられる、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替え直前、および/または切り替え中、および/または切り替え直後に、前記質量スペクトルデータの取得を中断することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記質量分析計を第1の状態またはモードと第2の状態またはモードとの間で繰り返し切り替える工程をさらに含み、
前記質量分析計は、時間T1の間は前記第1の状態またはモードであり、時間T2の間は前記第2の状態またはモードであり、
前記一連の質量スペクトルデータは、T1よりも長く、かつ、T2よりも長い期間に亘って連続して取得される、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
第1の期間t1〜t2の間に、前記第1のイオンが分析される第1の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記質量分析計の前記状態またはモードを、前記第1の期間のすぐ後に続く第2の期間t2〜t3の間に、前記第2のイオンが分析される第2の状態またはモードに切り替える工程と、
前記第2の期間のすぐ後に続く第3の期間t3〜t4の間に、前記第2の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記第1、第2および第3の期間t1〜t4の間に、質量スペクトルデータを連続して取得する工程とをさらに含む、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含む、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
直交加速式飛行時間質量分析器、四重極質量分析器、またはフーリエ変換質量分析器を用いて、前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1回の質量スペクトルデータ取得期間の間に、前記質量分析計の状態またはモードが複数回切り替えられる、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、質量スペクトルデータが取得期間中に周波数f2で取得されるとき、f2<f1が成り立つ、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記一連の質量スペクトルデータは、前記質量分析計の状態またはモードのいかなる切り替えとも実質的に無関係に取得される、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記一連の質量スペクトルデータは、質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記取得期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記一連の質量スペクトルデータは、質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、複数の採取期間(sample periods)を含み、
前記複数の採取期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記複数の採取期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、前記複数の採取期間の周波数がf3であるとき、f3>f1が成り立つ、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータにおける複数のイオンピークを検出し、前記一連の質量スペクトルデータと関連付けられる複数のイオンピーク時間および複数のイオンピーク強度を決定することを含む、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンまたは前記第2のイオンと関連があるかを決定することを含む、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンおよび前記第2のイオンの両方と関連があるのかを決定し、前記部分または前記採取期間を除外することを含む、請求項1〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第1のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、および/または前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第2のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの質量スペクトルを生成することを含む、請求項1〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータに現れる複数のイオンピークの再構成質量クロマトグラムを生成することを含む、請求項1〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションし、前記質量クロマトグラムのそれぞれと関連付けられる、デコンボリューションされたクロマトグラムの1つ以上のピークを決定する工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションする前記工程は、前記質量クロマトグラムにおける、クロマトグラムのピークの点広がり関数特性を決定する、または近似することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第1のイオンと関連があるかを決定する工程、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第2のイオンと関連があるかを決定する工程をさらに含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第1のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第2のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの、質量スペクトルを生成することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
質量分析計であって、
(i)第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる、
(ii)第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の動作パラメータを切り替える、または変更することにより、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える、
(iii)一連の質量スペクトルデータを取得し、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする、および、
(iv)前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(a)前記第1のイオンに関連する質量スペクトルデータ、および/または(b)前記第2のイオンに関連する質量スペクトルデータを作成する、ように構成および適合された制御システムを備える質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
本願は、2011年4月25日に出願された米国仮特許出願第61/478718号および2011年4月20日に出願された英国特許出願第1106689.1号の優先権および利益を主張する。上記出願の全ての内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、データ取得および質量スペクトルデータ処理の方法ならびに質量分析計に関する。
【背景技術】
【0003】
既存の質量分析計の技術水準においては、スペクトル取得期間の合間に、データの取得または記憶が行われない、付加的な短い時間間隔が割り当てられる。この時間間隔の間に、システムの状態またはモードが変更されることがあり、システムを平衡状態にすることができる。この平衡化には、電力供給量を整定する、質量分析計の内部のイオン集団を出射させる等が含まれる。
【0004】
動作モードの変更は、一般にインタスキャン期間(inter scan period)または時間間隔の開始と同期する。この手法は、第1の動作モードと関連のあるイオンを、第2の動作モードと関連のある質量スペクトルに出現させないようにするものである。このようなイオン集団の混合は、クロストークと呼ばれることが多い。しかし、同期化には複雑な機器の制御が必要であり、2つの動作モードの間にクロストークが発生しないようにするために、インタスキャン期間または時間間隔は、単にシステムのパラメータを1つのモードから別のモードに変更するのにかかる時間よりも長くなる場合がある。その結果、データの取得のためのデューティサイクルが低下する。
【0005】
特許文献1は、質量電荷比の値が異なる前駆イオンを導入する合間に、衝突ガスセルのイオンを排出させるのに要する休止時間(pause time)を低減する方法を開示している。同期された休止時間により、クロストークは、確実に最小限に抑えられる。
【0006】
1回の取得中に質量分析計のモードまたは状態が変更される取得例として、MS−MS実験中における異なる前駆イオンの切り替え、異なるCID衝突エネルギーの切り替え、正イオン動作から負イオン動作への切り替え等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6111250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
改良されたデータ取得の方法、改良された質量分析の方法および改良された質量分析計を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、
第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる工程と、
第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える工程と、
一連の質量スペクトルデータを取得する工程であって、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする工程と、
前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(i)前記第1のイオンに関連する質
量スペクトルデータ、および/または(ii)前記第2のイオンに関連する質量スペクトル
データを、作成する工程とを含む試料の分析方法が提供される。
【0010】
前記方法は、前記質量分析計を異なる状態またはモードに繰り返し切り替える工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードを実質的に瞬時に、および/または、用いられた場合には前記質量分析計を平衡状態にすることができる遅延期間のために中断することなく、前記質量分析計の状態またはモードを切り替えることを含んでもよい。
【0012】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン集団の組成、および/または強度を変化させる、切り替える、変更する、または異ならせることを含んでもよい。
【0013】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、イオン源の極性を切り替えることを含んでもよい。
【0014】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンを断片化または反応させて、フラグメントイオンまたはプロダクトイオンを生成することを含んでもよい。
【0015】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、質量フィルタもしくはセパレータ、質量電荷比フィルタもしくはセパレータ、イオン移動度フィルタもしくはセパレータまたは微分イオン移動度フィルタもしくはセパレータの移送特性を切り替えることを含んでもよい。
【0016】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、親イオンまたは前駆イオンの異なる種を選択することを含んでもよい。
【0017】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、衝突誘起解離の異なる衝突エネルギーを選択することを含んでもよい。
【0018】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、異なるイオンが断片化されるか、もしくは反応する、および/またはイオンが異なる程度に断片化されるか、もしくは反応するように、前記質量分析計の異なるフラグメンテーション状態または反応状態を選択することを含んでもよい。
【0019】
前記質量分析計の状態またはモードを切り替える前記工程は、前記質量分析計の動作パラメータを切り替える、または変更することを含んでもよい。
【0020】
取得された前記一連の質量スペクトルデータは、実質的に連続している。
【0021】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、一連の質量スペクトルデータを連続して取得することが好ましい。
【0022】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、質量スペクトルデータ取得期間を、平衡化遅延期間(equilibration delay time period)で互いに隔てられている複数の質量スペクトルデータ取得ウィンドウに分割することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含み、前記平衡化遅延期間の間は、(i)質量スペクトルデータは取得されない、および/または(ii)前記質量分析計を平衡状態にすることができる、および/または(iii)前記質量分析計の状態またはモードが切り替えられる、ことが好ましい。
【0023】
一連の質量スペクトルデータを取得する前記工程は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替え直前、および/または切り替え中、および/または切り替え直後に、前記質量スペクトルデータの取得を中断することなく、実質的に連続して質量スペクトルデータを取得することを含むことが好ましい。
【0024】
一実施形態によると、前記方法は、
前記質量分析計を第1の状態またはモードと第2の状態またはモードとの間で繰り返し切り替える工程をさらに含み、
前記質量分析計は、時間T1の間は前記第1の状態またはモードであり、時間T2の間は前記第2の状態またはモードであり、
前記一連の質量スペクトルデータは、T1よりも長く、かつ、T2よりも長い期間に亘って連続して取得される。
【0025】
一実施形態によると、前記方法は、
第1の期間t1〜t2の間に、前記第1のイオンが分析される第1の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記質量分析計の前記状態またはモードを、前記第1の期間のすぐ後に続く第2の期間t2〜t3の間に、前記第2のイオンが分析される第2の状態またはモードに切り替える工程と、
前記第2の期間のすぐ後に続く第3の期間t3〜t4の間に、前記第2の状態またはモードで前記質量分析計を動作させる工程と、
前記第1、第2および第3の期間t1〜t4の間に、質量スペクトルデータを連続して取得する工程とをさらに含む。
【0026】
一実施形態によると、前記方法は、前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含む。
【0027】
前記方法は、直交加速式飛行時間質量分析器、四重極質量分析器、またはフーリエ変換質量分析器を用いて、前記第1のイオン、および/または前記第2のイオンの質量分析を行う工程をさらに含むことが好ましい。
【0028】
一実施形態によると、1回の質量スペクトルデータ取得期間の間に、前記質量分析計の状態またはモードが複数回切り替えられる。
【0029】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、取得期間中に質量スペクトルデータが周波数f2で取得されるとき、f2<f1が成り立つことが好ましい。
【0030】
前記一連の質量スペクトルデータは、前記質量分析計の状態またはモードのいかなる切り替えとも実質的に無関係に取得されることが好ましい。
【0031】
一実施形態によると、
前記一連の質量スペクトルデータは、質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない。
【0032】
前記取得期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないことが好ましい。
【0033】
前記一連の質量スペクトルデータは、好ましくは質量スペクトルデータ取得期間中に取得され、
前記取得期間は、好ましくは複数の採取期間(sample periods)を含み、
前記複数の採取期間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しない。
【0034】
前記複数の採取期間の開始時間、および/または終了時間は、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期である、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないことが好ましい。
【0035】
前記質量分析計の状態またはモードが周波数f1で繰り返し切り替えられ、前記複数の採取期間の周波数がf3であるとき、f3>f1が成り立つことが好ましい。
【0036】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータにおける複数のイオンピークを検出し、前記一連の質量スペクトルデータと関連付けられる複数のイオンピーク時間および複数のイオンピーク強度を決定することを含むことが好ましい。
【0037】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンまたは前記第2のイオンと関連があるかを決定することを含むことが好ましい。
【0038】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのどの部分または採取期間が前記第1のイオンおよび前記第2のイオンの両方と関連があるのかを決定し、前記部分または前記採取期間を除外することを含むことが好ましい。
【0039】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第1のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、および/または前記一連の質量スペクトルデータのうち、前記第2のイオンと関連があるとされた部分または採取期間を組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの、質量スペクトルを生成することを含むことが好ましい。
【0040】
前記一連の質量スペクトルデータを後処理する前記工程は、前記一連の質量スペクトルデータに現れる複数のイオンピークの再構成質量クロマトグラムを生成することを含むことが好ましい。
【0041】
一実施形態によると、前記方法は、前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションし、前記質量クロマトグラムのそれぞれと関連付けられる、デコンボリューションされたクロマトグラムの1つ以上のピークを決定する工程をさらに含む。
【0042】
前記質量クロマトグラムのそれぞれをデコンボリューションする前記工程は、前記質量クロマトグラムにおける、クロマトグラムのピークの点広がり関数特性を決定する、または近似することを含むことが好ましい。
【0043】
前記方法は、前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第1のイオンと関連があるかを決定する工程、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうちのどれが前記第2のイオンと関連があるかを決定する工程をさらに含むことが好ましい。
【0044】
一実施形態によると、前記方法は、前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第1のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、および/または前記デコンボリューションされたクロマトグラムのピークのうち、前記第2のイオンと関連があるとされたピークを組み合わせることにより、(i)前記第1のイオン、および/または(ii)前記第2のイオンの、質量スペクトルを生成することをさらに含むことが好ましい。
【0045】
本発明の一態様によると、質量分析計であって、
(i)第1のイオンが分析される状態またはモードで質量分析計を動作させる、
(ii)第2のイオンが分析されるように、前記質量分析計の状態またはモードを切り替える、
(iii)一連の質量スペクトルデータを取得し、前記質量スペクトルデータの取得を、前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと実質的に非同期にする、および/または前記質量分析計の状態またはモードの切り替えと同期しないようにする、および
(iv)前記一連の質量スペクトルデータを後処理して、(a)前記第1のイオンに関連する質量スペクトルデータ、および/または(b)前記第2のイオンに関連する質量スペクトルデータを、作成するように構成および適合された制御システムを備える質量分析計が提供される。
【0046】
好ましい実施形態は、分析中に質量分析計の動作状態または動作モードが切り替えられる実験のために、データ収集のデューティサイクルを向上させることに関する。この向上は、スペクトル取得の時間間隔とは非同期に機器の状態またはモードを切り替えることだけでなく、取得されたデータの定性的かつ定量的な側面、および/または切り替えが起きて各モードからデータが分離した時間の情報を用いることによっても影響を受ける。
【0047】
好ましい実施形態によれば、質量分析計の動作モードを、より頻繁に、またはより高速に切り替えることができるため、デューティサイクルの向上につながる。
【0048】
好ましい方法は、同期を伴わないので、複雑な機器の制御は必要ない。さらに、従来の質量分析計よりも、速いスキャン速度におけるデューティサイクルの向上が可能である。
【0049】
好ましい実施形態によれば、データ取得のデューティサイクルが(比較的)低いという、従来の質量分析計に固有の問題が解決される。比較的低いデューティサイクルは、質量分析計の動作モードまたは状態を切り替える合間の、データが何も記録されない休止時間またはインタスキャン期間に起因する。この休止時間またはインタスキャン期間は、イオンの混合またはクロストークによって、質量分析計の2つ以上の状態に関連するイオンを含むスペクトルの生成を防止するために導入される。
【0050】
好ましい実施形態によると、上記インタスキャン期間は、除外されることが好ましく、不要であることが好ましい。これにより、質量分析計の制御・タイミング電子機器を著しく簡素化することができ、切り替え実験のデューティサイクルも向上することになる。
【0051】
類似の技術は、クロマトグラフカラムから溶出する別々の化学種からのイオンを識別するのに用いられる。この場合、イオン化の前に、クロマトグラフィーによって種を分離し、各イオンに特有の強度溶出分布(intensity elution profile)を用いて、互いに異なる化学種から生じたイオンのデコンボリューションを行う。しかし、この場合、質量分析計の状態がいつ変更されたかを判断するためにデータを用いようとする試みはなされていない。代わりに、質量分析計の異なる状態を用いて取得したデータを区別または分類するのに、通常は休止時間またはインタスキャン期間が用いられる。
【0052】
好ましい実施形態は、予め設定された休止時間またはインタスキャン期間を不要にすることにより、上記公知の技術を改良するものである。その結果、取得の開始および終了とシステムの動作パラメータが変更された時間とを同期させるように、複雑な機器の制御をする必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる、最初の四重極飛行時間質量分析計を示す。
図2図2は、本発明の一実施形態にかかる、2番目の四重極飛行時間質量分析計を示す。
図3図3は、本発明の一実施形態にかかる、3番目の四重極飛行時間質量分析計を示す。
図4図4は、3つの異なる前駆イオンについて、好ましい実施形態により得られたデータを示す図である。
図5図5は、取得中に四重極ロッドの設定質量を変更するのに用いられた基準信号のオシロスコープのトレースを示す。
図6図6は、図5に示された信号の部分拡大図であり、2つの設定質量の間の遷移を示す。
図7図7は、全イオン電流クロマトグラムを示す。
図8図8Aは、m/z221におけるロイシンエンケファリンの主なフラグメントの再構成質量クロマトグラムを示す。図8Bは、m/z195におけるレセルピンの主なフラグメントの再構成質量クロマトグラムを示す。
図9図9Aは、図8Aに示された領域1からの複数のスペクトルを組み合わせて得られた質量スペクトルを示す。図9Bは、図8Bに示された領域2からの複数のスペクトルを組み合わせて得られた質量スペクトルを示す。
図10図10は、図8A図8Bに示されたデータの一部分であり、2つの再構成クロマトグラムを重ね合わせた状態を示す。
図11図11Aは、図9Aに示されたスペクトルの、m/zが397付近の領域を示す。図11Bは、図9Bに示されたスペクトルの、m/zが397付近の領域を示す。
図12図12Aは、図11Aに示されたイオンのピーク検出後を示す。図12Bは、図11Bに示されたイオンのピーク検出後を示す。
図13図13Aは、図12Aに示されたイオンの再構成精密質量クロマトグラムを示す。図13Bは、図12Bに示されたイオンの再構成精密質量クロマトグラムを示す。
図14図14A図14Bは、5つの異なる質量電荷比を有するイオンのスキャン番号および強度の詳細を示す表である。
図15図15A図15Bは、2つの異なる前駆イオンに由来するプロダクトイオンを表す理論上の中心質量スペクトル(centroid mass spectra)を示す。
図16図16A図16Cは、それぞれm/z=50、m/z=200およびm/z=100におけるプロダクトイオンのピークの理論上の再構成質量クロマトグラムを示す。
図17図17は、図16Bの1で示されている、時間55で取得された質量スペクトルを示す。
図18図18は、従来技術によって測定された、図15A図15Bの2つのプロダクトイオンのスペクトルにおける、それぞれのプロダクトイオンのピークの合計強度を示す。
図19図19は、点広がり関数を示す。
図20図20Aは、図16Aに示されたm/z=50におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。図20Bは、図16Bに示されたm/z=200におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。図20Cは、図16Cに示されたm/z=100におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。
図21図21は、本発明の好ましい実施形態によって測定された、図15A図15Bの2つのプロダクトイオンのスペクトルにおける、それぞれのプロダクトイオンのピークの合計強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に、添付の図面を参照しながら、あくまでも例示として、本発明の種々の実施形態を説明する。
【0055】
本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の一実施形態において、その方法は、前駆イオンの高速切り替えに適用することができる。次に、当該イオンは、質量分析計の衝突セルにおいて断片化されて、一連のプロダクトイオンスペクトルを生成する。この動作モードは、好ましくは直交加速式飛行時間質量分析計を用いて実施されるが、好ましい実施形態の一例としてさらに詳細に述べる。
【0056】
好ましい実施形態は、質量分析計の動作モードが切り替えられることにより、異なるイオン集団の分析が行われるような、別の用途にも用いられると理解されるべきである。
【0057】
図1は、四重極飛行時間質量分析計の概略図を示す。イオンは、イオン源1において生成され、分析用四重極2に移送される。四重極質量フィルタ2は、RF周波数およびRF振幅を選択し、補助分解DC電圧(auxiliary resolving DC voltages)、および/または補助AC励起電圧(auxiliary AC excitation voltages)を印加することにより、質量電荷比の値の範囲が狭いイオンを移送するように設定されてもよい。第1の質量電荷比範囲または設定質量(set mass)M1を有するイオンは、四重極質量フィルタ2を通過して、例えば、ガスが充填された衝突セル3の衝突誘起解離によって断片化される。衝突セル3は、10-3〜10-2mbarの圧力で維持されてもよい。次に、プロダクトイオンおよび残りの前駆イオンは、飛行時間質量分析器4に移送されて、質量分析される。質量分析計を通過するイオンの進行は、斜線で示されている。
【0058】
飛行時間質量分析器4によって検出された信号は、データ記録装置5に伝送される。これは、例えば、時間・ディジタル変換器(「TDC」)またはアナログ・ディジタル変換器(「ADC」)を含んでもよい。多重飛行時間分離(multiple time of flight separations)によって得られたデータは、規定の期間に亘って合計して質量スペクトルを求めることが好ましい。この質量スペクトルは、TDC電子機器またはADC電子機器の内部に局所的に設けられた高速メモリに記憶されてもよい。質量スペクトルが完成すると、その質量スペクトルは、次の後処理のために、別のコンピュータ6に送られて、例えば、ハードディスクに記憶されてもよい。
【0059】
好ましい実施形態によると、複数の質量スペクトルの取得速度、または各質量スペクトルが取得される時間間隔は、イオンビームの組成が変化する速度と同程度か、またはそれよりも速いことが望ましい。速い取得速度を実現するために、取得アーキテクチャを構築することにより、1つ以上の質量スペクトルからのデータは、それに続く1つ以上の質量スペクトルが取得されて、TDC電子機器またはADC電子機器の内部の局所高速メモリに記憶されると同時に、TDCまたはADC5からコンピュータ6に伝送されるようにしてもよい。このようにして、好ましくは、高い繰返し率で、スペクトル間のデータ損失がほとんど無い連続的かつ継続的な一連の質量スペクトルを生成できる。
【0060】
上記一連の質量スペクトルが生成されているとき、四重極質量フィルタ2によって移送されるように設定された質量範囲は、設定質量M1から第2の設定質量M2に速やかに切り替えられることが好ましい。
【0061】
このとき、質量範囲M1のイオンは、依然として、四重極2の下流に位置する質量分析計の領域内に存在する。
【0062】
図2は、図1と同じ概略図であるが、四重極の設定質量が速やかに切り替えられた直後を示す。設定質量M1からのイオンは、斜線で示されている。設定質量M2からのイオンは、点線で示されている。
【0063】
設定質量M1からのイオン集団は、質量分析計を通って完全に移動するのに時間がかかる。特に、ガスが充填された衝突セル領域3を通過するのにかかる時間は、この領域におけるガスとの衝突によってイオンの移動時間が著しく遅くなるため、約数十msになることがある。静電DCポテンシャルもしくは過渡DCポテンシャルまたはRF擬ポテンシャルを用いて、この領域のイオンを進ませることにより、移動時間を10ms未満に短縮することができる。
【0064】
図2に示された時間において、設定質量M1からのイオンは、引き続き質量分析され、記録されている。
【0065】
設定質量M1のイオンに加えて、設定質量M2のイオンも、同時に質量分析計を通って移動している。また、M1およびM2で設定された以外の質量のイオンも存在することがある。これらのイオンは、四重極2のRF電圧およびDC電圧がM1の移送からM2の移送に変わる間に、四重極2を通過してしまっている。
【0066】
四重極質量フィルタの技術水準においては、四重極の設定質量は、毎秒約10000〜20000AMUの速度で切り替えられる。
【0067】
図3は、図2と同じ概略図であるが、図2よりも少し後の状態を示す。設定質量M1のイオンおよび設定質量M2のイオンは、衝突セル領域3を通って移動している。これらのイオンが衝突セル3を通過するときに、衝突セル3の内部で拡散するため、2つの集団は混合するか、または重複する。
【0068】
従来の質量分析計において、このような混合または重複は、最終データのクロストークの主な原因とされており、この種の実験に、休止時間またはインタスキャン遅延期間が決まって用いられる主な理由でもある。イオンは、通常、この領域を通過するのに比較的多くの時間を要するが、それは、バックグラウンドガス分子との衝突によってイオンの運動エネルギーが低下するからである。一方、イオンは、比較的短時間で、衝突ガスセル3の下流に位置する、一般に圧力がより低い領域を通過する。これらの下流領域を通過する飛行時間は、衝突セル3を出射するイオン種の質量電荷比によって決まるので、衝突ガスセル3の下流で重複または混合が発生する可能性がある。
【0069】
四重極質量フィルタ2を、移送されるいくつかの異なる前駆イオンの間で立て続けに切り替えると、それぞれの前駆イオンからのプロダクトイオンは、質量分析器4に向かって移動するのと同時に、衝突ガスセル3の内部に存在することがある。
【0070】
図4は、四重極質量フィルタ2を質量電荷比の値が互いに異なる3つの前駆イオンの間で切り替えた場合の、好ましい方法によって作成されたデータを示す図である。好ましい実施形態によると、各前駆イオンのMS−MSスペクトルは、四重極質量フィルタ2がいつ切り替えられたかについての正確な事前知識を必要とすることなく、後処理によって導き出すことができる。
【0071】
P1と表示された線は、四重極質量フィルタ2によって選択された第1の前駆イオンM1から生じた、質量電荷比の値がP1である特定のプロダクトイオンを分離する狭い質量電荷比領域の再構成質量クロマトグラムを示している。この例において、プロダクトイオンP1は、第1の前駆イオンM1のプロダクトイオンスペクトルに特有のものである。P2およびP3と表示された線は、それぞれM1とは異なる質量電荷比の値を有する前駆イオンM2および前駆イオンM3から生じたプロダクトイオンの再構成質量クロマトグラムを示している。
【0072】
図4において、各データの×印が付けられた点は、全飛行時間質量スペクトルを示している。時間T1において、四重極2の設定質量は、M1の移送からM2の移送に切り替えられる。切替時間T1と、個々のスペクトルの取得の開始時間および終了時間とは非同期である。データ記録装置5に記録される、前駆イオンM1から生じたプロダクトイオンP1の強度の減少は、イオンが衝突ガスセル3を通って質量分析器4に移動し続けるため、しばらくしてから起こる。前駆イオンM2から生じたプロダクトイオンP2の強度の増加も、四重極2の切り替え後しばらくしてから始まる。T3で記録された質量スペクトルは、前駆イオンM1および前駆イオンM2から生じたプロダクトイオンを含んでおり、M1およびM2の最終プロダクトイオンスペクトルから除外することができる。
【0073】
一例として、M1=200およびM2=300とし、P1=100およびP2=150とし、スペクトル取得時間を2ms(500スペクトル/秒)とし、各前駆イオンの質量電荷比の値における四重極設定質量ドウェル時間(quadrupole set mass dwell time)を50msとした場合を検討する。時間T3において、1つの2msスペクトルは、M1およびM2のどちらにも由来するプロダクトイオンを含むと考えられる。この遷移点を突き止めるのに±1スペクトルの不確定性が与えられたとすると、1秒あたり50の前駆イオンが分析されるとともに、各遷移点におけるクロストークにより、4ms領域分のデータが除外される。
【0074】
好ましい方法の有用性は、まず、切替速度に比べて十分な取得速度に依拠し、次に、各イオン集団に属する信号を識別するのに用いられる後処理方法の有効性に依拠する。
【0075】
最適な後処理方法は、質量分析計の特徴およびデータの特徴に依拠する。飛行時間質量分析計を用いた例において、統計的またはベイズの手法によって、個々の質量クロマトグラムと、同様の時間強度分布を有するイオン群とを互いに関連させてもよい。例えば、精密質量測定能力の知識、質量分解能、および同位体比の情報すらも後処理方法の一部として用いることができる。また、多くのピーク検出、および/またはデコンボリューションアルゴリズムも、このデータの後処理に適用できることが知られている。
【0076】
加えて、質量分析計の状態が変更された時間、その変更と検出器における信号応答との間の遅延、質量分析計が各状態に留まる継続時間、ならびに切り替え前、および/または切り替え中の信号の強度分布に関する事前知識もある。高速電子機器を用いることにより、個々のスペクトル内に、変更が生じたことを示すフラグまたはマーカーを付加することができる。さらに、他の事前知識とともに、このマーカーを用いれば、データの検出またはデコンボリューションの精度を向上させることができる。
【0077】
種々のさらなる実施形態が検討される。スペクトル取得時間(採取期間(sample periods))は、同じ長さでなくてもよい。例えば、それぞれの切り替えが起こる時間がほとんど分かっているならば、イオンの混合が発生しないと想定される期間に亘って、より低いスペクトル率(spectral rate)でデータを取得する方が効率的な場合もある。速い取得速度は、混合またはクロストークが発生する可能性がある期間を検出またはデコンボリューションできるようにするためだけに必要とされる。
【0078】
上記好ましい方法は、動作パラメータの速い切り替えが行われる別の用途に用いることもできる。完全な質量スペクトル情報の取得を伴う分析は、質量スペクトル内の特有の情報が遷移領域を突き止めるのに役立つため、特に好適である。
【0079】
好ましい実施形態の態様を説明するために、ロイシンエンケファリン[M+M]+=556.3およびレセルピン[M+H]+=609.3の混合物を、エレクトロスプレー正イオン化モードで、IMS対応四重極直交加速式飛行時間質量分析計に注入した。
【0080】
ロイシンエンケファリンの分子イオンの移送とレセルピンの分子イオンの移送との間に、3Da前駆分離ウィンドウ(3 Da precursor isolation window)を用いる分解モードにおいて、四重極ロッド質量分析器の設定質量を変更するのに信号発生器が用いられた。前駆イオンまたは親イオンは、四重極質量分析器から出射すると、衝突誘起解離(CID)イオンガイドにおいて、固定衝突エネルギー23eVで断片化された。進行DC電圧または過渡DC電圧が上記イオンガイドの電極に印加されたことにより、イオンは、CIDイオンガイドおよびIMSイオンガイドの緩衝ガスが充填された領域を絶えず通過した。質量スペクトルデータは、毎秒1000スペクトル(1スペクトルあたり1ms)で、個々のスペクトルの間に認められるほどの遅延もなく、連続的かつ四重極の切り替えとは非同期に取得された。
【0081】
図5は、データ取得中に四重極ロッドの設定質量を変更するのに用いられた基準信号のオシロスコープのトレースを示す。四重極は、50%のデューティサイクルで、設定質量ごとのドウェル時間(dwell time)を20msとして、2つの前駆イオンの間で切り替えられた。
【0082】
図6は、図5に示された信号の部分拡大図であり、2つの設定質量の間の遷移を示す。基準信号は、2つの値の間を約20nsで移行した。
【0083】
図7は、得られた全イオン電流(TIC)クロマトグラムを示す。各スキャンは、1msのデータ取得からのデータを含む。
【0084】
図8Aは、質量電荷比が221であるロイシンエンケファリンの主なフラグメントの再構成質量クロマトグラムを示す。図8Bは、質量電荷比が195であるレセルピンの主なフラグメントの再構成質量クロマトグラムを示す。
【0085】
遷移ごとのクロマトグラムの立ち上がり区間は、約1msである。このことは、遷移間の四重極の設定質量の整定が非常に迅速であることを示している。図示されたトレースの間には、残留クロストークがほとんど見られない。各イオンは、四重極の設定質量のドウェル時間である20msしか存在しない。
【0086】
図9A図9Bは、それぞれ図8Aの領域1および図8Bの領域2からの複数のスペクトルを手動で組み合わせて得られた質量スペクトルを示す。この衝突エネルギーでは、質量電荷比が556であるロイシンエンケファリンの分子イオンは、完全に断片化されているため、図9Aに示された質量スペクトルには存在しない。
【0087】
図10は、図8に示されたデータの一部分であり、2つの再構成クロマトグラムを重ね合わせた状態を示す。領域a、b、c、d、e、およびfは、データのうち、2つの前駆イオンから生じたプロダクトイオンが混合し得る部分を示している。このような場合のほとんどは、単一の1msスペクトルしか2つの前駆イオンの混合データを含んでいない。場合によっては、混合イオンを含むスペクトルが得られないこともある。これは、イオンガイドまたは質量分析計の他の領域において、2つのイオン集団の混合が実際にはほとんど発生しておらず、しかもイオンの集団が1ms以内に変わっていることを示唆している。
【0088】
この例では、2つの前駆イオンのみ、それらの間で四重極質量分析器を繰り返し切り替えることによってモニターされている。一般的な分析方法の場合、この条件下では、毎秒50までの特有の前駆イオンをモニターすることができる。好ましい実施形態によれば、四重極の切り替えがデータの取得と同期しないため、データを後処理することにより、それぞれの前駆イオンに対応するデータを含む領域を識別し、前駆イオンまたは親イオンごとに、実質的に混合またはクロストークがないプロダクトイオンの質量スペクトルを生成することが好ましい。四重極の設定質量が切り替えられる順序が分かっていれば、プロダクトイオンの質量スペクトルと関連のある前駆イオンまたは親イオンとを、より簡単に対応させることが可能になる。
【0089】
どのプロダクトイオンがどの前駆イオンに対応するのかを判断するために、データを問い合わせるのに用いられるいくつかの方法がある。
【0090】
例えば、ピーク検出アルゴリズムを用いて上記例に示されたデータを処理し、精密質量測定およびスキャン時間のリストを作成してもよい。少なくとも2つの異なる前駆イオンから生じたプロダクトイオンを含むことが分かっているデータの部分を組み合わせて、1つの質量スペクトルを形成してもよい。上記例では、40msウィンドウ(すなわち、四重極のドウェル時間の2倍)を合計することができる。この部分は、少なくとも2つの異なる前駆イオンに由来するプロダクトイオンを含むことになる。
【0091】
次に、組み合わせスペクトルにおけるプロダクトイオンのそれぞれについて、好ましくは所定の強度閾値を超えるイオンについて、再構成質量クロマトグラムが構築されてもよい。上記クロマトグラムの生成に用いられる質量電荷比ウィンドウは、好ましくは期待される測定精度を反映するように設定される。この結果、精密質量クロマトグラムが作成され、高い特異性が得られる。
【0092】
図11A図11Bは、それぞれ図9A図9Bに示されたスペクトルの、質量電荷比の値が397付近の領域を示す。ロイシンエンケファリン(図11A)およびレセルピン(図11B)は、どちらも整数質量(nominal mass)が397のフラグメントイオンを含む。しかし、これらの2つのイオンには25.3mdaの質量差があり、元素組成が異なることを示している。
【0093】
図12A図12Bは、それぞれ図11A図11Bに示されたものと同じ2つのイオンのピーク検出後を示す。
【0094】
図13A図13Bは、それぞれ図12A図12Bに示された2つのイオンについて、25mdaウィンドウを用いて生成された再構成精密質量クロマトグラムを示す。
【0095】
上記クロマトグラム、および組み合わせスペクトル内のその他のプロダクトイオンごとの同様のクロマトグラムから、クロマトグラムのそれぞれについて、検出されたピークを含むスキャン(スペクトル)のリストを作成してもよい。固定または可変の強度閾値を用いて、ノイズまたはスプリアスイオン(spurious ion)事象を取り除くことができる。
【0096】
ピーク強度、質量電荷比の値およびスキャン番号(スペクトル番号)を含むことがあるこれらのリストを照合して、同じスペクトルまたは隣接するスペクトル群に現れるそれらのピークを分類するようにしてもよい。照合されると、ピークが組み合わされて、スペクトル群ごとに1つの質量スペクトルを生成することができる。
【0097】
このプロセスは、データの次の(例えば40ms)部分についても繰り返され、それに続く質量電荷比の値およびスキャン番号のリストが同じ方法で照合されてもよい。
【0098】
図14A図14Bは、上記方法を示す。表は、2つの前駆イオンに由来するデータを含む、スキャン番号3515〜3554の組み合わせスペクトルからの、5つの質量電荷比の値についてのスキャン番号および強度のリストを示している。スキャン3518〜3536を調べることにより、質量電荷比が397.17および221.14のピークは、同じ前駆イオンから立ち上がることが明らかである。なぜなら、これらのスペクトルは、どちらのイオンについても、強度が100よりも大きいピークを含んでいるからである。
【0099】
同様に、スキャン3538〜3554を調べることにより、質量電荷比の値が397.19、195.13および174.16のピークは、いずれも第2の前駆イオンから立ち上がることが明らかである。
【0100】
スキャン3517および3537は、曖昧さのレベルを示しており、イオンの混合がある可能性を示唆している。この曖昧さに対処する1つの方法としては、単に最終データからこれらのスキャン/スペクトルを除外することが挙げられる。
【0101】
本例では、各前駆イオンに特有のフラグメントイオンは、20msスペクトル群のそれぞれにおいて、どのスペクトルにも存在していることが明らかである。しかし、低強度のフラグメントイオンは、20msの各期間に亘って強度が変わるか、または統計的変動によって消失することすらあり得る。この変動に対処する1つの方法としては、フラグメントイオンの最も強いピークを用いて対象となる領域を決定し、次に、これらの領域を用いて強度に関わらず全ての他のピークを照合することが挙げられる。
【0102】
別の実施形態によると、適切なクラスター化アルゴリズム(例えば、K平均法または柔軟なK平均法(soft K-means))を生成されたクロマトグラムに適用することにより、前駆イオン群に、組み合わせスペクトルにおいて検出されたフラグメントイオンのピークが割り当てられてもよい。
【0103】
別の実施形態によると、強度データは、例えば可動平均化フィルタ(moving average filter)を用いて平準化される。しかし、これは、混合またはクロストークが発生し得るより大きなデータ領域をもたらし、ゆえに実験の最終的なデューティサイクルを低下させる可能性がある。
【0104】
別の実施形態によると、デコンボリューション技術をデータに適用してもよい。本実施形態によれば、生成される再構成イオンクロマトグラムの予想形状に対して、点広がり関数が近似される。その後、各質量クロマトグラムがデコンボリューションされることにより、時間測定のリストが作成される。デコンボリューションには、最大エントロピー法、最尤法および完全な確率的(またはベイズの)方法等の適切な技術を用いることができる。次に、得られた時間測定は、前駆イオン群に分類またはクラスター化されてもよい。
【0105】
別の実施形態によると、図12A図12Bにおけるような、問い合わせ前にデータを質量−強度対(mass intensity pairs)に減らすのではなく、2次元ピーク検出アルゴリズムを用いて元の連続データが処理される。強度は、質量電荷比およびスキャン番号の2次元格子を用いて測定される。予想される時間(スキャン番号)および質量電荷比の分布に適合する好適なフィルタを用いることにより、それぞれのデータブロック(スペクトル群)の位置を見つけ出すことができる。次に、同じ時間位置のフラグメントイオンのピークをまとめて、最終的なMS−MSスペクトルを生成する。
【0106】
同様に、2次元データは、2次元点広がり関数(好ましくは質量電荷比および時間の関数)を用いて完全デコンボリューションされてもよい。この場合も、多種多様なデコンボリューション方法を利用できる。
【0107】
他のデータ後処理方法も検討される。
【0108】
好ましい方法をさらに説明するために、以下に簡単なモデルシステムについて述べる。
【0109】
図15A図15Bは、2つの異なる前駆イオンに由来するプロダクトイオンを表す理論上の中心質量スペクトル(centroid mass spectra)を示す。どちらのスペクトルも、m/z=200において共通のプロダクトイオンのピークを有するが、図15Bのピーク強度は、図15Aのピーク強度の2倍であることが分かる。上記例に記載された実験、すなわち、データ取得またはスペクトルの時間間隔とは非同期に、2つの前駆イオンの間で四重極の設定質量が繰り返し切り替えられることにより、図15A図15Bに示されているプロダクトイオンのスペクトルを生成することができる。
【0110】
図16A図16Cは、m/z=50(図16A)、m/z=200(図16B)およびm/z=100(図16C)におけるプロダクトイオンのピークの理論上の再構成質量クロマトグラムを示す。イオンの統計的な強度変動をエミュレートするために、ポアソンノイズが信号に付加されている。
【0111】
m/z=50およびm/z=100におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムは、それぞれ異なる時間に中心が置かれたクロマトグラフの単一のピークとなることから、図15Aおよび図15Bのプロダクトイオンのスペクトルを生成した前駆イオンに属することが明確に、はっきりと判断できる。
【0112】
しかし、m/z=200におけるプロダクトイオンのピークのクロマトグラムは、図15A図15Bのプロダクトイオンのスペクトルを生成した両方の前駆イオンに対応する時間に、クロマトグラフの2つのピークを示している。
【0113】
図17は、図16Bの1で示されている、時間55で取得された質量スペクトルを示す。この時間において、両方の前駆イオンから生じたプロダクトイオンを含む混合スペクトルが取得される。
【0114】
上記のように、従来技術によると、2つのプロダクトイオンのスペクトルのあらゆる混合を確実に回避するために、休止時間またはインタスキャン遅延時間が用いられていた。本例では、時間53〜61(図16Bの2で示されている)のスペクトルに対応する期間が一般に用いられる。当該期間の間に、データは取得されず、検出器に到達するプロダクトイオン(m/z=50、m/z=100またはm/z=200におけるピークのいずれかに対応する)は失われる。
【0115】
図18は、従来技術によって測定された2つのプロダクトイオンのスペクトル(図15A図15Bのスペクトルに対応する)における、それぞれのプロダクトイオンのピークの合計強度を示す。図16Bの2で示されている期間の間に到達するイオンは、2つのプロダクトイオンのスペクトルにクロストークを発生させないようにするために、強度から除外されている。各プロダクトイオンのピークからの信号の約30%が失われる。この数値は、本例で用いられた設定質量の前後に、四重極の設定質量の遷移がさらに行われた場合、60%に近づくだろう。なぜなら、図16A図16Cに示された各クロマトグラムの立ち上がり区間および立ち下がり区間の両方に対応するインタスキャン期間は、クロストークを制限するために用いる必要があるからである。
【0116】
これに対して、本発明の好ましい実施形態によると、インタスキャン期間は用いられず(四重極の切り替えは、データの取得と同期しない)、得られたデータは後処理される。一実施形態によれば、データは、デコンボリューションを用いて後処理される。この実施形態をさらに説明するために、図19に示された形式の点広がり関数を用いる非負最小二乗法(Lawson, C. L. & Hanson, B. J. (1974), Solving Least Squares Problems, Prentice-Hall)を用いて、上記例において用いられたデータをデコンボリューションした。
【0117】
図20Aは、図16Aに示されたm/z=50におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。図20Bは、図16Bに示されたm/z=200におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。図20Cは、図16Cに示されたm/z=100におけるプロダクトイオンのピークの再構成質量クロマトグラムに適用された非負最小二乗デコンボリューションの出力を示す。
【0118】
図20A図20Cにおける各クロマトグラフのピークの幅は、ポアソンノイズの導入による、その時間位置の不確定性を表している。
【0119】
図20Bに示されたデコンボリューション後のクロマトグラムは、m/z=200におけるピークについて、各前駆イオンに対応する信号を分離するデコンボリューション法の能力を示している。
【0120】
各プロダクトイオンのピークと関連のある強度、および各プロダクトイオンがどの前駆イオンと関係があるのかについての情報は、単一ピーク検出アルゴリズムを用いること、および規定された時間ウィンドウ内のクロマトグラフのピークの強度を合計することにより、決定することができる。
【0121】
図21に、好ましい方法およびデコンボリューション手順の例を用いて得られたプロダクトイオンのそれぞれのピークの強度を示す。ピーク強度は、約1%以内で正確に示されている。この小さな差異は、主として理論モデルに付加されたポアソン統計によるものである。
【0122】
好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明したが、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく形態および内容ともに種々の変更を加え得ることが当業者には理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図21