(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
天然血管による応答と実質的に同様の応力および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場であって、前記足場は、(a)外側表面、および内側管腔表面を備える第1の弾性管状エレメントと;(b)外側表面、および前記第1の弾性管状エレメントの前記外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の引っ張り波形管状エレメントとを備え、応力および歪に対する前記組織工学足場の機械的応答がJ字型応力/歪曲線を特徴とし、前記足場は、前記第1の弾性管状エレメントと前記第2の引っ張り波形管状エレメントとの間の界面でゾーングラデーションを含む、組織工学足場。
天然血管による応答と実質的に同様の応力および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場であって、前記足場は、(a)外側表面、および内側管腔表面を備える第1の弾性管状エレメントと;(b)外側表面、および前記第1の弾性管状エレメントの前記外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の引っ張り波形管状エレメントとを備え、ここで、前記組織工学足場は、J字型応力/歪曲線を特徴とし、前記足場は、前記第1の弾性管状エレメントと前記第2の引っ張り波形管状エレメントとの間の界面でゾーングラデーションを含み、前記組織工学足場は、
(i)0.1MPa〜0.5MPaの円周方向管弾性率1
(ii)3.0MPa〜6.0MPaの円周方向管弾性率2;および
(iii)0.57から1.12の円周方向弾性率移行部
のうちの少なくとも1つを有する組織工学足場。
前記弾性エレメントが、第1の弾性率を有する弾性成分を含み、前記引っ張りエレメントが、前記第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む、請求項1または2に記載の組織工学足場。
前記合成弾性成分が、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される、請求項7または8に記載の組織工学足場。
前記ゾーングラデーションは、前記第1の弾性管状エレメントからの材料、および前記第2の引っ張り波形管状エレメントからの材料を含む不均質性の移行ゾーンを含む、請求項1または2に記載の組織工学足場。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然血管の生体力学的特性は、広範に特徴づけられている。応力および歪に対するその応答は、重要な特徴であることが明らかになった(Roachら(1957年) Can. J. Biochem. Physiol. 35巻:681〜690頁;Gosline & Shadwick (1998年) American Scientist. 86巻:535〜541頁)。「J字型」曲線として公知である応力−歪曲線を示す材料は、血管足場などの組織工学足場において使用するのに適する場合がある候補であり、天然血管の応力および歪に対する機械的応答に類似する機械的応答が望ましい。エラスチン、コラーゲン、および合成のポリマーのブレンドから作製される、様々な加工された足場の機械的特性が報告されている(Leeら(2007年)J. Biomed. Mater. Res. A.、12月15日;83巻(4号):999〜1008頁;Smithら(2008年)Acta Biomater. Jan;4巻(1号):58〜66頁;Lelkesら 米国公開出願第2006/0263417号)。しかし、J字型曲線挙動を繰り返すことができる組織工学足場、およびそのような足場を作製するための方法の必要性が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、天然血管において観察される、同じ型の応力および歪に対する応答、すなわちJ字型応力/歪曲線を示す組織工学足場、ならびにこれを使用する方法、および作製する方法を提供する。
【0007】
本発明は、組織工学足場、およびこれを作製する方法に関する。
【0008】
一態様では、本発明は、2つ以上の異なる管状エレメントを含む組織工学足場を作製する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を有する第1の管状エレメントを提供するステップと;(b)第1の管状エレメントを第2の直径に拡張するステップと;(c)引っ張りエレメント、外側表面、およびステップ(b)の拡張された管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を有する第2の管状エレメントを提供するステップと;(d)ステップ(b)の拡張された第1の管状エレメントの外側表面を、第2の管状エレメントの内側管腔表面と結合するステップと;(e)第1の管状エレメントの第2の直径を、ステップ(a)の第1の直径に減少させるステップとを含む。
【0009】
一実施形態では、ステップ(a)の第1の管状エレメントおよび/またはステップ(c)の第2の管状エレメントは、エレクトロスピニングによって形成される。別の実施形態では、ステップ(a)の第1の管状エレメントは、表面上に材料をエレクトロスピニングすることによって形成される。他の実施形態では、ステップ(c)の第2の管状エレメントは、拡張された第1の管状エレメントの外側表面上に材料をエレクトロスピニングすることによって、または拡張された第1の管状エレメントの外側表面上に予め形成された第2の管状エレメントを配置することによって形成される。さらに別の実施形態では、ステップ(a)の第1の管状エレメントは、エレクトロスピニングによって形成され、ステップ(c)の第2の管状エレメントは、拡張された第1の管状エレメントの外側表面上に予め形成された第2の管状エレメントを配置することによって提供される。
【0010】
他の一実施形態では、(d)の結合するステップは、第2の管状エレメントの内側表面を、拡張された第1の管状エレメントの外部表面に接着させるステップを含む。別の実施形態では、結合するステップ(d)は、第2の管状エレメントが拡張された第1の管状エレメントの外側表面上にエレクトロスピニングされた後、または拡張された第1の管状エレメントの外側表面上に、予め形成された第2の管状エレメントを配置した後に実施され、第2の管状エレメントの外側表面上に材料の追加の層を塗布することによって、第1の管状エレメントと材料の追加の層との間に第2の管状エレメントを接着サンドイッチさせるステップを含む。別の実施形態では、追加の層は、第1の管状層を形成するのに使用された同じ種類の材料であり、またはこの材料を含有する。
【0011】
別の実施形態では、上記ステップ(c)の第2の管状エレメントの外側層または表面は波形をつけられている(corrugated)。一実施形態では、波形をつけられた第2の管状エレメントは、繊維方向が円周方向に配向している繊維ネットワークを有する。他の実施形態では、第3、第4、第5などの管状エレメントの外側層または表面は、波形をつけられており、かつ/または繊維方向が円周方向に配向している繊維ネットワークを有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、(a)の提供するステップおよび/または(c)の提供するステップは、マンドレル上に材料をエレクトロスピニングするステップを含む。別の実施形態では、(c)の提供するステップは、ステップ(b)の拡張された第1の管状エレメント上に、予め形成された第2の管状エレメントを配置するステップを含む。他の一実施形態では、(a)の提供するステップは、第1の管状エレメントを形成するために、マンドレル上に材料をエレクトロスピニングするステップを含み、(c)の提供するステップは、ステップ(b)の拡張された第1の管状エレメント上に予め形成された第2の管状エレメントを配置するステップを含む。
【0013】
他の実施形態では、追加の管状エレメントの形成は、マンドレル上へのエレクトロスピニング、または既存の管状エレメント層上への追加の予め形成された管状エレメントの配置を含む。
【0014】
他の実施形態では、ステップ(a)および(c)は注型技法を含む。他の一実施形態では、ステップ(a)は、第1の直径に対応する型の使用を伴い、ステップ(c)は、第2の直径に対応する型の使用を伴う。他の実施形態では、追加の管状エレメントの形成は、ステップ(c)の第2の直径より大きい、または小さい直径に対応する型の使用;および/またはステップ(a)の第1の直径より大きい、または小さい直径に対応する型の使用などによる注型を含む。
【0015】
すべての実施形態では、本発明の方法は、第2の管状エレメント構造内に引っ張りエレメントの連続体(continuum)または硬化物質(stiffening)の連続体を提供するステップを含むことができる。一実施形態では、連続体は、第2の管状エレメント材料内の繊維の様々な形態に起因する。
【0016】
すべての実施形態では、管状エレメントを提供するステップは、以下のもの、すなわち、注型、予め形成された管状エレメントの使用、およびエレクトロスピニング技法のうちの1つまたは複数の使用を企図する。
【0017】
すべての実施形態では、本発明の方法は、第1および第2の管状エレメント上への追加の管状エレメント、例えば、第3の管状エレメント、第4の管状エレメント、第5の管状エレメントなどの提供を企図する。すべての実施形態では、各追加の管状エレメントは、1つまたは複数の弾性エレメントおよび/または1つまたは複数の引っ張りエレメントを含むことができる。当業者は、それだけに限らないが、本明細書に記載されたものを含めた、追加の管状エレメントを提供するための様々な技法を理解するであろう。
【0018】
本発明の別の実施形態では、弾性エレメントは、第1の弾性率を有する弾性成分を含み、引っ張りエレメントは、第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む。好適な実施形態では、第2の弾性率は、第1の弾性率より少なくとも1桁大きい。
【0019】
いくつかの実施形態では、弾性エレメントは、天然弾性成分、合成弾性成分、または天然弾性成分と合成弾性成分を含む。一実施形態では、天然弾性成分はエラスチンである。他の実施形態では、天然弾性成分は、エラスチン、レシリン、アブダクチン、および絹からなる群から選択される。別の実施形態では、合成弾性成分は、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(polydiaxanone)(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択することができる。
【0020】
他の実施形態では、引っ張りエレメントは、天然引っ張り成分、合成引っ張り成分、または天然引っ張り成分と合成引っ張り成分を含む。一実施形態では、天然引っ張り成分はコラーゲンである。他の実施形態では、天然引っ張り成分は、コラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンからなる群から選択される。別の実施形態では、合成引っ張り成分は、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。
【0021】
別の態様では、本発明は、天然血管の特性を模倣する特性、またはこれに実質的に同様の特性を有する、本明細書に記載される方法によって作製される組織工学足場を提供する。一実施形態では、本発明は、天然血管による応答と実質的に同様の、応答および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場であって、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を有する第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を有する第2の管状エレメントとを有し、組織工学足場の応力および歪に対する機械的応答は、J字型応力/歪曲線を特徴とする組織工学足場を提供する。
【0022】
すべての実施形態では、本発明の足場は、第1および第2の管状エレメントを伴った、1つまたは複数の追加の管状エレメントを企図する。いくつかの実施形態では、追加の管状エレメント(複数も)は、第2の管状エレメントの外側表面上に形成される。
【0023】
別の実施形態では、天然血管による応答と実質的に同様の、応力および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場は、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を有する第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を有する第2の管状エレメントとを有し、この組織工学足場は、(i)約0.1MPa〜約0.5MPaの円周方向管弾性率1、(ii)約3.0MPa〜約6.0MPaの円周方向管弾性率2;および(iii)約0.57から約1.12の円周方向弾性率の移行部を有する。
【0024】
他の実施形態では、組織工学足場の応力および歪に対する機械的応答は、J字型応力/歪曲線を特徴とする。
【0025】
いくつかの実施形態では、組織工学足場の応力および歪に対する機械的な応答は、第1の管状エレメントの弾性エレメントと、第2の管状エレメントの引っ張りエレメントとの相乗作用に起因する。さらに別の実施形態では、弾性エレメントは組織工学足場に弾性を付与し、引っ張りエレメントは組織工学足場に相乗的に剛性を付与する。
【0026】
別の実施形態では、組織工学足場の第2の管状エレメントは波形をつけられている。一実施形態では、波形をつけられた第2の管状エレメントは、繊維方向が円周方向に配向している繊維ネットワークを有する。他の一実施形態では、波形の軸は、足場の軸方向に平行につけられている。いくつかの実施形態では、本発明の足場は、1つまたは複数の追加の管状エレメント、例えば、第3、第4、第5などの管状エレメントなどを企図し、第3、第4、第5などの管状エレメントの外側層または表面は、波形をつけられており、かつ/または繊維方向が円周方向に配向している繊維ネットワークを有する。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態は、弾性エレメントが第1の弾性率を有する弾性成分を含有し、引っ張りエレメントが第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含有する組織工学足場を提供する。好適な実施形態では、第2の弾性率は、第1の弾性率より少なくとも1桁大きい。
【0028】
さらに別の実施形態では、本発明は、弾性エレメントが天然弾性成分、合成弾性成分、または天然弾性成分と合成弾性成分を有する組織工学足場を提供する。一実施形態では、天然弾性成分はエラスチンである。他の実施形態では、天然弾性成分は、エラスチン、レシリン、アブダクチン、および絹からなる群から選択される。他の実施形態では、合成弾性成分は、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、本発明の足場は、(i)2つ以上の異なる種類の天然弾性成分;および/または(ii)2つ以上の異なる種類の合成弾性成分を含む。
【0029】
他の実施形態では、本発明は、引っ張りエレメントが天然引っ張り成分、合成引っ張り成分、または天然引っ張り成分と合成引っ張り成分を有する組織工学足場を提供する。一実施形態では、天然引っ張り成分はコラーゲンである。他の実施形態では、天然引っ張り成分は、コラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンからなる群から選択される。別の実施形態では、合成引っ張り成分は、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、足場の引っ張りエレメントは、(i)2つ以上の異なる種類の天然引っ張り成分;および/または(ii)2つ以上の異なる種類の合成引っ張り成分を含む。
【0030】
別の実施形態では、本発明の組織工学足場は、以下のうちの少なくとも1つを有する:(i)孔径が、第2の管状エレメントの外側表面での約100ミクロンから、第1の管状エレメントの内側表面での約5〜約15ミクロンに徐々に減少する孔勾配;(ii)約0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;(iii)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;(iv)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;および(v)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率。一実施形態では、孔勾配は、TE足場についての細胞播種の能力の増強に寄与する。別の実施形態では、軸方向靭性および/または円周方向靭性は、足場を破損または断裂に対して耐性にすることに寄与する。他の一実施形態では、TE足場の粘弾性は、タンジェントδおよび/または貯蔵弾性率の値によって特徴づけられる。
【0031】
すべての実施形態では、本発明のTE足場は、第1および第2の管状エレメントに加えて管状エレメントを含むことができる。当業者は、それだけに限らないが、本明細書に記載されたものを含めて、追加の管状エレメント中に含まれ得る様々な成分を理解するであろう。
【0032】
追加の実施形態では、本発明は、組織工学による足場を作製する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を備える第1の管状エレメントを提供するステップと;(b)第1の管状エレメントを第2の直径に拡張するステップと;(c)引っ張りエレメント、外側表面、およびステップ(b)の第1の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第2の管状エレメントを提供するステップと;(d)提供するステップ(a)を完了した後、提供するステップ(c)を完了するステップと;(e)ステップ(b)の拡張された管状エレメントとステップ(c)の第2の管状エレメントを結合するステップと;(e)第1の管状エレメントの第2の直径を、ステップ(a)の第1の直径に減少させるステップとを含む。別の実施形態では、組織工学足場は、第1の管状エレメントと第2の管状エレメントの界面でゾーングラデーションを備える。別の実施形態では、ゾーングラデーションは、第1の管状エレメントの弾性エレメントおよび第2の管状エレメントの引っ張りエレメントを備える不均質性の移行ゾーンを備える。
【0033】
他の一実施形態では、組織工学による足場を作製する方法は、(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を備える第1の管状エレメントを提供するステップと;(b)第1の管状エレメントを連続的な速度で第2の直径に拡張するステップと;(c)拡張するステップ(b)の間に、引っ張りエレメント、外側表面、およびステップ(b)の第1の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第2の管状エレメントを提供するステップと;(e)ステップ(b)の拡張された管状エレメントとステップ(c)の第2の管状エレメントを結合するステップと;(e)第1の管状エレメントの第2の直径を、ステップ(a)の第1の直径に減少させるステップとを含む。別の実施形態では、第2の管状エレメントは、引っ張りエレメントの連続体、または硬化物質の連続体を含む。他の一実施形態では、引っ張りエレメントの連続体は、様々な歪値で噛み合う(engage)。別の実施形態では、結合するステップ(d)は、第2の管状エレメントの繊維を第1の管状エレメントに結合させ、それによって連続体を提供するステップを含む。一実施形態では、提供するステップ(c)の前に、第2の管状エレメントの繊維は連結される。別の実施形態では、繊維は、よじれの程度に応じて、歪に対して様々な間隔で噛み合う。一実施形態では、よじれの量がより多い繊維の前に、よじれの量が少なくない繊維がまっすぐになり、噛み合う。別の実施形態では、繊維の噛み合いは、応力/歪曲線の段階的な丸め(rounding)に導き、それによって天然血管と同様の機械的特性をもたらす。
【0034】
別の実施形態では、この方法は、(f)外側表面、および第2の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第3の管状エレメントを提供するステップをさらに含む。別の実施形態では、この方法は、(g)外側表面、および第3の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第4の管状エレメントを提供するステップをさらに含む。他の一実施形態では、この方法は、(h)外側表面、および第4の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第5の管状エレメントを提供するステップをさらに含む。一実施形態では、この方法は、外側表面、および内側管腔表面を備える1つまたは複数の追加の管状エレメントであって、各追加の管状エレメントの内側管腔表面が、最外側の管状エレメントに接触している追加の管状エレメントを提供するステップをさらに含む。一実施形態では、追加の管状エレメント(複数も)は弾性エレメントを備える。一実施形態では、追加の管状エレメント(複数も)は引っ張りエレメントを備える。別の実施形態では、結合するステップ(e)は、弾性エレメント、外側表面、および第2の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える追加の管状エレメントを提供するステップを含む。他の一実施形態では、
他の実施形態では、本発明は組織工学足場を提供する。一実施形態では、組織工学足場は、天然血管による応答と実質的に同様の応力および歪に対する機械的応答を有し、この足場は、(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面を備える第1の管状エレメント;および(b)引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメントを備え、組織工学足場は、(i)約0.1MPa〜約0.5MPaの円周方向管弾性率1、(ii)約3.0MPa〜約6.0MPaの円周方向管弾性率2;および(iii)約0.57MPaから約1.12MPaの円周方向弾性率の移行部;(iv)孔径が、第2の管状エレメントの外側表面での約100ミクロンから、第1の管状エレメントの内側表面での約5〜約15ミクロンに徐々に減少する孔勾配;(v)0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;(vi)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;(vii)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;および(viii)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率、またはこれらの任意の組合せのうちの少なくとも1つを含む。別の実施形態では、組織工学足場の応力および歪に対する機械的応答は、J字型応力/歪曲線を特徴とする。一実施形態では、組織工学足場は細胞にアクセス可能である。別の実施形態では、組織工学足場は破損に耐性である。さらに別の実施形態では、組織工学足場は粘弾性である。
【0035】
他の一実施形態では、本発明は、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を備える第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える、波形をつけられた第2の管状エレメントとを備える組織工学足場を提供する。
【0036】
なおさらなる実施形態では、本発明は組織工学による血管(TEBV)を提供する。一実施形態では、TEBVは、(a)(i)弾性エレメント、(ii)外側表面、(iii)内側管腔表面を備える第1の管状エレメント;(b)(i)引っ張りエレメント(ii)外側表面、(iii)第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメント、および(c)第1の細胞集団を備え、TEBVの応力および歪に対する機械的応答は、J字型応力/歪曲線を特徴とする。別の実施形態では、TEBVは、(a)(i)弾性エレメント、(ii)外側表面、(iii)内側管腔表面を備える第1の管状エレメント;(b)(i)引っ張りエレメント、(ii)外側表面、(iii)第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメント、および(c)第1の細胞集団を備え、TEBVは、(i)約0.1MPa〜約0.5MPaの円周方向管弾性率1(ii)約3.0MPa〜約6.0MPaの円周方向管弾性率2;および(iii)約0.57MPaから約1.12MPaの円周方向弾性率の移行部;(iv)孔径が、第2の管状エレメントの外側表面での約100ミクロンから、第1の管状エレメントの内側表面での約5〜約15ミクロンに徐々に減少する孔勾配;(v)約0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;(vi)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;(vii)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;および(viii)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率のうちの少なくとも1つを含む。別の実施形態では、TEBVは、J字型応力/歪曲線を特徴とする。一実施形態では、TEBVの応力および歪に対する機械的応答は、第1の管状エレメントの弾性エレメントと第2の管状エレメントの引っ張りエレメントとの相乗作用に起因する。別の実施形態では、弾性エレメントはTEBVに弾性を付与し、引っ張りエレメントはTEBVに相乗的に剛性を付与する。他の実施形態では、第2の管状エレメントは波形をつけられている。別の実施形態では、波形をつけられた第2の管状層は、繊維ネットワークを含み、繊維の方向が円周方向に配向している。別の実施形態では、弾性エレメントは、第1の弾性率を有する弾性成分を含み、引っ張りエレメントは、第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む。他の実施形態では、第2の弾性率は、第1の弾性率より少なくとも1桁大きい。別の実施形態では、弾性エレメントは天然弾性成分を含む。他の実施形態では、弾性エレメントは合成弾性成分を含む。別の実施形態では、弾性エレメントは天然弾性成分および合成弾性成分を含む。一実施形態では、天然弾性成分は、エラスチン、レシリン、アブダクチン、および絹からなる群から選択される。別の実施形態では、合成弾性成分は、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。一実施形態では、引っ張りエレメントは天然引っ張り成分を含む。一実施形態では、引っ張りエレメントは合成引っ張り成分を含む。一実施形態では、引っ張りエレメントは天然引っ張り成分および合成引っ張り成分を含む。一実施形態では、天然引っ張り成分はコラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンからなる群から選択される。一実施形態では、合成引っ張り成分は、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。一実施形態では、第1の細胞集団は、第2の管状エレメント内および/または第2の管状エレメントの外側表面上にある。一実施形態では、第1の細胞集団は平滑筋集団である。一実施形態では、管状足場は第2の細胞集団をさらに含む。別の実施形態では、第2の細胞集団は、第1の管状エレメントの内側管腔表面上および/またはこの表面内にある。一実施形態では、第2の細胞集団は内皮細胞集団である。
【0037】
別の実施形態では、本発明は、(a)(i)弾性エレメント、(ii)外側表面、(iii)内側管腔表面を備える第1の管状エレメント;(b)(i)引っ張りエレメント、(ii)外側表面、(iii)第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える、波形をつけられた第2の管状エレメント、および(c)第1の細胞集団を備えるTEBVを提供する。
【0038】
なおさらなる実施形態では、本発明は、組織工学による血管(TEBV)を作製する方法であって、(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を備える第1の管状エレメントを提供するステップと;(b)第1の管状エレメントを第2の直径に拡張するステップと;(c)第2の管状エレメントであって、引っ張りエレメント、外側表面、第2の管状エレメントの外側表面上および/または第2の管状エレメント内の第1の細胞集団、ステップ(b)の第1の管状エレメントの外側表面上の内側管腔表面を備える第2の管状エレメントを提供するステップと;(d)ステップ(b)の拡張された管状エレメントとステップ(c)の第2の管状エレメントを結合するステップと;(e)TEBVを提供するために、第1の管状エレメントの第2の直径を、ステップ(a)の第1の直径に減少させるステップと;(f)TEBVを培養するステップとを含む方法を提供する。一実施形態では、ステップ(c)の第2の管状エレメントは波形をつけられている。一実施形態では、波形をつけられた第2の管状エレメントは、繊維ネットワークを含み、繊維の方向が円周方向に配向している。一実施形態では、(a)の提供するステップは、マンドレル上に弾性成分をエレクトロスピニングするステップを含み、(c)の提供するステップは、(i)マンドレル上に引っ張り成分をエレクトロスピニングするステップと、(ii)マンドレル上に第1の細胞集団をエレクトロスプレーするステップとを含む。一実施形態では、(i)のエレクトロスピニングするステップ、および(ii)のエレクトロスプレーするステップは、同時に実施される。一実施形態では、この方法は、ステップ(a)の内側管腔表面に第2の細胞集団を播種するステップ(f)をさらに含む。一実施形態では、第2の細胞集団は内皮細胞集団である。一実施形態では、弾性エレメントは、第1の弾性率を有する弾性成分を含み、引っ張りエレメントは、第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む。一実施形態では、第2の弾性率は、第1の弾性率より少なくとも1桁大きい。一実施形態では、弾性エレメントは天然弾性成分を含む。一実施形態では、弾性エレメントは合成弾性成分を含む。一実施形態では、弾性エレメントは天然弾性成分および合成弾性成分を含む。一実施形態では、天然弾性成分はエラスチンである。一実施形態では、合成弾性成分は、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。一実施形態では、引っ張りエレメントは天然引っ張り成分を含む。一実施形態では、引っ張りエレメントは合成引っ張り成分を含む。一実施形態では、引っ張りエレメントは、天然引っ張り成分および合成引っ張り成分を含む。一実施形態では、天然引っ張り成分はコラーゲンである。一実施形態では、合成引っ張り成分は、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される。一実施形態では、この方法は、ステップ(f)の前またはステップ(f)の後に、ステップ(e)のTEBVを少なくとも1つの追加の細胞集団と接触させるステップをさらに含む。一実施形態では、培養するステップ(f)は、バイオリアクター内で拍動性流および/または定常流によってコンディショニングするステップを含む。
【0039】
なおさらなる実施形態では、本発明は、本明細書に開示される方法、または任意の他の適当な方法によって作製される組織工学足場(TE足場)または組織工学による血管(TEBV)であって、第1の管状エレメントと第2の管状エレメントの界面でゾーングラデーションを有するTE足場またはTEBVを対象とする。他の実施形態では、ゾーングラデーションは、第1の管状エレメントの弾性エレメントからの材料、および第2の管状エレメントの引っ張りエレメントからの材料を含む、不均質性の移行ゾーンを備える。
【0040】
ある特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される方法、または任意の他の適当な方法によって作製される組織工学足場(TE足場)または組織工学による血管(TEBV)であって、TE足場またはTEBVの第2の管状エレメントは、引っ張りエレメントの連続体または硬化物質の連続体を有するTE足場またはTEBVを対象とする。他の実施形態では、引っ張りエレメントの連続体は、様々な歪値で噛み合う。一実施形態では、連続体は、第2の管状エレメント材料の個々の繊維の様々な形態に起因する。
【0041】
いくつかの実施形態では、組織工学足場(TE足場)または組織工学による血管(TEBV)は、第1の管状エレメントと第2の管状エレメントの界面でゾーングラデーションを有し、第2の管状エレメントは引っ張りエレメントの連続体を有する。他の実施形態では、ゾーングラデーションは、第1の管状エレメントの弾性エレメントからの材料、および第2の管状エレメントの引っ張りエレメントからの材料を含む、不均質性の移行ゾーンを備え、かつ/または引っ張りエレメントの連続体は、様々な歪値で噛み合う。
したがって、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
組織工学(TE)足場を作製する方法であって、
(a)弾性エレメント、外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を備える第1の管状エレメントを提供するステップと;
(b)上記第1の管状エレメントを第2の直径に拡張するステップと;
(c)引っ張りエレメント、外側表面、およびステップ(b)の上記拡張された第1の管状エレメントの表面上の内側管腔表面を備える第2の管状エレメントを提供するステップと;
(d)ステップ(b)の上記拡張された第1の管状エレメントおよび上記第2の管状エレメントを結合するステップと;
(e)TE足場を形成するために、上記第1の管状エレメントの上記第2の直径を、ステップ(a)の上記第1の直径に減少させるステップと
を含む、方法。
(項目2)
上記第2の管状エレメントが波形をつけられている、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記波形をつけられた第2の管状エレメントが、繊維ネットワークを含み、上記繊維の方向が円周方向に配向している、項目2に記載の方法。
(項目4)
(a)の上記提供するステップが、マンドレル上にエレクトロスピニングするステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
(c)の上記提供するステップが、マンドレル上にエレクトロスピニングするステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
(c)の上記提供するステップが、ステップ(b)の上記拡張された第1の管状エレメント上に予め形成された第2の管状エレメントを配置するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記弾性エレメントが、第1の弾性率を有する弾性成分を含み、上記引っ張りエレメントが、上記第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記第2の弾性率が上記第1の弾性率より少なくとも1桁大きい、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記弾性エレメントが天然弾性成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
上記弾性エレメントが合成弾性成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
上記弾性エレメントが天然弾性成分および合成弾性成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
上記天然弾性成分が、エラスチン、レシリン、アブダクチン、および絹からなる群から選択される、項目9または11に記載の方法。
(項目13)
上記合成弾性成分が、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される、項目10または11に記載の方法。
(項目14)
上記引っ張りエレメントが天然引っ張り成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
上記引っ張りエレメントが合成引っ張り成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
上記引っ張りエレメントが天然引っ張り成分および合成引っ張り成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目17)
上記天然引っ張り成分がコラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンである、項目14または16に記載の方法。
(項目18)
上記合成引っ張り成分が、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される、項目15または16に記載の方法。
(項目19)
天然血管による応答と実質的に同様の応力および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場であって、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を備える第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および上記第1の管状エレメントの上記外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメントとを備え、応力および歪に対する上記組織工学足場の機械的応答がJ字型応力/歪曲線を特徴とする組織工学足場。
(項目20)
天然血管による応答と実質的に同様の応力および歪に対する機械的応答を有する組織工学足場であって、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を備える第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および上記第1の管状エレメントの上記外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメントとを備え、
(i)約0.1MPa〜約0.5MPaの円周方向管弾性率1
(ii)約3.0MPa〜約6.0MPaの円周方向管弾性率2;および
(iii)約0.57から約1.12の円周方向弾性率移行部
のうちの少なくとも1つを有する組織工学足場。
(項目21)
J字型応力/歪曲線を特徴とする、項目20に記載の組織工学足場。
(項目22)
上記第2の管状エレメントが波形をつけられている、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目23)
上記波形をつけられた第2の管状エレメントが、繊維ネットワークを含み、上記繊維の方向が円周方向に配向している、項目22に記載の組織工学足場。
(項目24)
上記弾性エレメントが第1の弾性率を有する弾性成分を含み、上記引っ張りエレメントが上記第1の弾性率より大きい第2の弾性率を有する引っ張り成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目25)
上記第2の弾性率が上記第1の弾性率より少なくとも1桁大きい、項目24に記載の組織工学足場。
(項目26)
上記弾性エレメントが天然弾性成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目27)
上記弾性エレメントが合成弾性成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目28)
上記弾性エレメントが天然弾性成分および合成弾性成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目29)
上記天然弾性成分が、エラスチン、レシリン、アブダクチン、および絹からなる群から選択される、項目26または28に記載の組織工学足場。
(項目30)
上記合成弾性成分が、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される、項目27または28に記載の組織工学足場。
(項目31)
上記引っ張りエレメントが天然引っ張り成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目32)
上記引っ張りエレメントが合成引っ張り成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目33)
上記引っ張りエレメントが天然引っ張り成分および合成引っ張り成分を含む、項目19または20に記載の組織工学足場。
(項目34)
上記天然引っ張り成分が、コラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンからなる群から選択される、項目31または33に記載の組織工学足場。
(項目35)
上記合成引っ張り成分が、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ−乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)からなる群から選択される、項目32または33に記載の組織工学足場。
(項目36)
以下、すなわち
(i)孔径が、上記第2の管状エレメントの上記外側表面での約100ミクロンから、上記第1の管状エレメントの上記内側表面での約5〜約15ミクロンに徐々に減少する孔勾配;
(ii)約0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;
(iii)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;
(iv)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;および
(v)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率
のうちの少なくとも1つを有する、項目19または20に記載の組織工学足場。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、組織工学(TE)足場、およびこれを作製する方法に関する。特に、本発明は、天然血管の特性と実質的に同様の特性を有するTE足場を提供する。例えば、本発明のTE足場は、天然血管の応答と実質的に同様である、応力および歪に対する機械的応答、すなわちJ字型応力/歪曲線を示す。
【0044】
1.定義
他に定義されない限り、本明細書で使用される技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0045】
当業者は、本明細書に記載されるものと同様または等価な多くの方法および材料を認識し、これらは、本発明の実践において使用することができる。実際に、本発明は、記載される方法および材料に限定されることは決してない。本発明の目的のために、以下の用語を以下に定義する。
【0046】
他の関連情報は、組織工学の分野における教科書、例えば、Palsson, Bernhard O.、Tissue Engineering、Prentice Hall、2004年、およびPrinciples of Tissue Engineering、3版(R Lanza、R Langer、& J Vacanti編)、2007年などから入手可能である。
【0047】
用語「組織工学足場」または「TE足場」は、本明細書で使用する場合、積層されており、または多層状であり、かつ天然血管と実質的に同様の様式で応力および歪に応答する能力を特徴とする管状構造を指す。例えば、足場の応力および歪に対する機械的応答は、好ましくはJ字型応力/歪曲線を特徴とする。本発明の足場の特性は、この足場を、血管足場のためのフレームワークとして使用するのに適当にする。
【0048】
用語「組織工学による血管」または「TEBV」または「血管足場」は、本明細書で使用する場合、さらに操作されることによって、必要のある哺乳動物対象に移植するのに適当になった、上記に定義し、本明細書に記載される組織工学足場を指す。例えば、TEBVは、組織工学足場を操作して、本明細書に記載される方法、または任意の他の適当な方法により1つまたは複数の細胞集団を添加することによって形成することができる。当業者は、本発明は、限定することなく、頸動脈、鎖骨下動脈、腹腔動脈、腸間膜動脈、腎動脈、腸骨動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、鎖骨下静脈、頸静脈、腎静脈、腸骨静脈、大静脈を含めた多くの種類の血管に関係することを理解するであろう。さらに、本発明のTEBVは、動静脈シャント(AVシャント)、または位置間(inter−positional)血管移植片とすることもできる。
【0049】
用語「弾性エレメント」は、完全に回復可能で繰り返し可能である大規模の変形を伴う応力に応答するその能力を特徴とする材料を指す。弾性エレメントは、天然成分、合成成分、または天然成分と合成成分の混合物を含むことができる。
【0050】
用語「引っ張りエレメント」は、応力をかけられたときに伸長する能力が非常に小さいことを特徴とする材料を指す。引っ張りエレメントは、天然成分、合成成分、または天然成分と合成成分の混合物を含むことができる。
【0051】
用語「合成成分」は、本明細書で使用する場合、通常自然において存在しない成分を指す。一般に、合成成分は、天然血管において通常存在しないが、それにもかかわらず、力学および細胞挙動に対して天然血管のような特性を示す可能性を有する。合成成分は、本明細書に記載されるように、組織工学足場および/またはTEBVの一部とすることができ、これは、天然成分(以下に定義するような)を場合により含むことができる。合成成分は、本質的に弾性であっても伸張性であってもよい。
【0052】
用語「天然成分」は、本明細書で使用する場合、自然において存在し、またはその調製の様式にかかわらず、自然において存在する物質に由来する物質を指す。したがって例えば、「天然成分」は、その天然源から単離および精製した、または組換え手段および/もしくは合成手段によって生成された天然ポリペプチドとすることができる。天然成分は、天然血管中に存在する場合があり、したがって機械的および細胞挙動に対して天然血管のような特性を示す可能性を有する。ある特定の実施形態では、天然成分は、本質的に弾性であっても伸張性であってもよい。
【0053】
用語「波形をつけられた」は、本明細書で使用する場合、表面の1つまたは複数上の波形、うねり、および/またはよじれを特徴とする、引っ張り成分を含有する構造を指す。この構造は一般に、薄層(thin layer)、または繊維方向が円周方向に一般に配向している繊維ネットワークで構成されたラミナの形態である。さらに、波形の軸は、構造、例えば、管状組織工学足場の軸方向に平行であるように構成される。
【0054】
用語「機械的応答」または「生体力学的応答」は、本明細書で使用する場合、応力および歪にかけられたとき、天然血管、血管足場、または組織工学足場によって示される挙動を指す。応力および歪に曝されたときの挙動は、好ましくは以下のうちの1つまたは複数を特徴とする:(i)J字型応力/歪曲線;(ii)粘弾性;および(iii)断裂または破損に対する耐性。
【0055】
用語「天然血管と実質的に同様の」は、本明細書で使用する場合、天然血管の機械的特性を細密に模倣し、またはこれに類似する機械的特性を有する足場を指す。当業者は、この実質的な類似性を実証するために、いくつかのパラメータを特徴づけ、測定することができることを理解するであろう。J字型応力/歪曲線を含めた、天然血管と実質的に同様である機械的挙動を有する本発明の組織工学足場を提供するための重要なパラメータは、足場の円周方向管弾性率1、円周方向管弾性率2、および円周方向管弾性率の移行部である。好適な実施形態では、他のパラメータは、応力および歪に対する足場の所望の機械的挙動もしくは応答ならびに/または血管移植片として機能を果たすその能力に寄与し、限定することなく、コンプライアンス、ヤング率または弾性率、破裂圧力、壁厚、多孔度、孔径、孔勾配、繊維直径、破断歪(軸方向および/または円周方向の)、破断応力(軸方向および/または円周方向)、靭性(軸方向および/または円周方向の)、軸方向管弾性率1および2、軸方向管弾性率の移行部、ならびに特定のタンジェントδ(tan δ)および貯蔵弾性率値によって実証されるものなどの粘弾性特性を含む。
【0056】
用語「J字型曲線」は、本明細書で使用する場合、応力(材料の単位面積当たりの力または圧力)がy軸上にプロットされ、歪(元の長さに対する長さの変化または変位)がx軸上にプロットされる曲線の形状を指す。J字型曲線は、
図1に表したように、コラーゲンとエラスチンの相乗的相互作用から生じる、天然動脈に固有な、応力および歪に対する機械的応答である。
【0057】
用語「コンプライアンス」は、本明細書で使用する場合、圧力(x軸)/体積(y軸)曲線上の式C=Δ(δ)V/Δ(δ)P(傾き)によって定義される。これは、材料における「軟度」の尺度であり、「スチフネス」の逆数である。一般に、Cは、mL/mmHgであり、Vは体積(mL)であり、Pは圧力(mmHg)である。
【0058】
用語「ヤング率」または「弾性率」は、本明細書で使用する場合、スチフネスに関するパラメータとして定義される。これは、応力(y軸)/歪(x軸)曲線の傾きから導出される。非線形の「J」字型曲線の場合、弾性率は、第1の傾きが最初の擬似直線セグメント(弾性率1)から導出され、第2の傾きが後の擬似直線セグメント(弾性率2)から導出される、2つの別々の交差する傾きとしてモデル化することができる。
図2は、この概念を例示する。
【0059】
用語「弾性率(elastic modulus)1から弾性率2の移行部」、または「弾性率(modulus)1から弾性率2の移行部」、または「弾性率(elastic modulus)の移行部」は、本明細書で使用する場合、弾性率1の傾きが、弾性率2の傾きに移行または変化する範囲を指す。このパラメータについての表現の単位は、傾きが発生する歪値である。これは
図2中に例示されており、ここで弾性率(傾き)1および弾性率(傾き)2によって表される直線が交差する。天然血管における応答を示す曲線では、移行部は、弾性率(傾き)1から弾性率(傾き)2への変化を示す曲線のセグメントによって例示される。
【0060】
用語「コンプライアンスミスマッチ」は、本明細書で使用する場合、異なる程度の軟度/スチフネス(すなわち、コンプライアンス/ヤング率または弾性率)を有する2種の材料の結合を指す。
【0061】
用語「多孔度」は、本明細書で使用する場合、足場の全体積に対する足場の孔体積の比として定義され、パーセント多孔度として表すことができる。あるいは、多孔度は、足場の総面積に対する足場中の孔面積のパーセント比とすることができる。
【0062】
用語「破裂圧力」は、本明細書で使用する場合、足場の少なくとも部分的な崩壊が起こる前に足場が耐え得る、管状足場の内側と外側の圧力の差として定義される。
【0063】
用語「壁厚」は、本明細書で使用する場合、管状足場の外側表面からその内側管腔表面までの深さまたは範囲として定義される。
【0064】
用語「孔径」は、本明細書で使用する場合、本発明の足場内の孔の平均直径として定義される。
【0065】
用語「孔勾配」は、本明細書で使用する場合、一表面から別の表面までの孔径サイズの線形変化として定義される。孔径サイズは、管状エレメントの層内で徐々に減少する。例えば、サイズは、管状エレメントの外膜表面または外側表面などの一表面から、管状エレメントの管腔表面または内側表面などの別の表面にわたって減少する場合がある。
【0066】
用語「繊維直径」は、本明細書で使用する場合、本発明の足場の繊維の平均直径として定義される。
【0067】
用語「破断歪」は、本明細書で使用する場合、材料が破損する時点での歪として定義される。
【0068】
用語「破断応力」は、本明細書で使用する場合、材料が破損する時点での応力として定義される。
【0069】
用語「靭性」は、本明細書で使用する場合、材料を破損させるのに必要なエネルギー、破損までの計算された応力/歪曲線下面積として定義される。
【0070】
用語「タンジェントδ」は、本明細書で使用する場合、管状足場中で貯蔵され、失われるエネルギーの相対量の指標として定義され、分子緩和を特徴づけ、流体力学的な変形を特定するのに一般に使用される。
【0071】
用語「貯蔵弾性率」は、本明細書で使用する場合、材料の、機械的エネルギーを貯蔵する能力として定義され、分子緩和を特徴づけるのに一般に使用される。
【0072】
用語「よじれ半径」は、本明細書で使用する場合、曲げられた管状構造内でよじれが形成する半径として定義される。
【0073】
用語「ゾーングラデーション」は、本明細書で使用する場合、2つの異なる層を有する積層構造における段階的な勾配として定義され、各層は異なる種類の材料を含有し、勾配は層同士間に存在し、異なる材料のどちらをとるかといえば不均質性のゾーンである。例えば、不均質性のゾーンは、弾性エレメントからの材料および引っ張りエレメントからの材料を含有することができる。
【0074】
用語「平滑筋細胞」は、本明細書で使用する場合、空洞臓器(例えば、膀胱、腹腔、子宮、胃腸管、脈管構造など)の壁内に見出される非横紋筋を構成し、かつ収縮し、弛緩する能力を特徴とする細胞を指す。血管平滑筋細胞は、環状に配列された弾性繊維および結合組織を含有する中膜(血管の最も厚い層)全体にわたって見出される。以下に記載するように、平滑筋細胞集団は、様々な供給源から単離することができる。
【0075】
用語「内皮細胞」は、本明細書で使用する場合、内側管腔表面、または足場内で、本発明の足場に播種するのに適した細胞を指す。内皮細胞は、天然血管の内側表面または管腔表面を覆い、それだけに限らないが、血栓症の予防、ならびに組織内殖および望まれない細胞外基質産生の予防を含めた複数の機能を果たす。以下に記載するように、本発明の足場上に播種するための内皮細胞集団は、限定することなく、血管実質(vascular
parenchyma)、循環内皮細胞、および骨髄前駆細胞などの内皮細胞前駆体、末梢血幹細胞および胚性幹細胞を含めた、様々な供給源から単離することができる。
【0076】
用語「細胞集団」は、本明細書で使用する場合、適当な組織源、通常哺乳動物から直接単離し、引き続いてインビトロで培養することによって得られる多数の細胞を指す。当業者は、本発明を用いて使用するための細胞集団を単離および培養するための様々な方法、および本発明で使用するのに適した細胞集団中の様々な数の細胞を理解するであろう。
【0077】
用語「哺乳動物」は、本明細書で使用する場合、哺乳動物として分類される任意の動物を指し、限定することなく、ヒト、非ヒト霊長類、家畜(domestic animal)および家畜(farm animal)、ならびに動物園動物、競技動物または、ペット動物、例えば、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、およびフェレットなどを含む。本発明の好適な実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0078】
用語「非ヒト動物」は、本明細書で使用する場合、それだけに限らないが、例えば、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)、ならびに非げっ歯類動物、例えば、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ウマ、およびロバなどの哺乳動物が含まれる。これには、トリ(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなど)も含まれる。用語「非霊長類動物」は、本明細書で使用する場合、霊長類以外の哺乳動物を指し、それだけに限らないが、上記に具体的に列挙した哺乳動物を含む。
【0079】
「心血管疾患」または「心血管障害」は、心臓または血管(動脈および静脈)の機能の異常性を特徴とし、心血管系に影響する哺乳動物における障害または状態、特にアテローム性動脈硬化症に関係する疾患を指すのに、広い、一般的な意味において本明細書で使用される。そのような疾患または障害は、バイパス血管移植片として本明細書に記載されるTEBVを使用する治療に特に適している。そのような移植片は、限定することなく、冠動脈バイパス移植片(CABG)、末梢バイパス移植片、または動静脈シャントが含まれる。心血管障害の例は、限定することなく、心筋虚血、心臓発作、発作、壁内もしくは非壁内心筋梗塞、急性心筋梗塞、末梢血管疾患、冠動脈疾患、冠動脈性心疾患、不整脈、突然心臓死、脳卒中などの脳血管障害、うっ血性心不全、生命を危うくする律動異常、心筋症、一過性脳虚血発作、急性虚血性症候群、または狭心症(angina pectoralis)、急性冠動脈ステント失敗(coronary stent failure)、またはこれらの組合せによって生じる状態が含まれる。そのような障害の他の例には、限定することなく、血栓状態、例えば肺塞栓症、冠動脈の急性血栓症、心筋梗塞、脳動脈(脳卒中)または他の器官の急性血栓症などが含まれる。
【0080】
2.J字型曲線応力/歪応答
図1はJ字型曲線を表し、これは、2つの主要な構造的なタンパク質、すなわちコラーゲンおよびエラスチンの相乗的相互作用から生じる、天然動脈に固有の応力および歪に対する機械的応答である(Roachら(1957年) Can. J. Biochem. Physiol. 35巻:681〜690頁)。天然血管の力学は非線形であり、コラーゲンおよびエラスチンの相乗的相互作用から生じる力(応力)/変位(歪)の図で「J」字型曲線を特徴とする(
図2)。動脈中にコラーゲンとエラスチンの両方が存在することにより、動脈に大きい非線形挙動が与えられる。天然動脈が、残りの主要な構造タンパク質としてコラーゲンを残してそのエラスチンを抽出される場合、機械的な応答ははるかに滑らかでなくなる。反対に、天然動脈が処理されてコラーゲンが除去される場合、支配的な構造タンパク質はエラスチンであり、力学は線形の弾性特徴を反映する。天然動脈の「J」字型曲線は、動脈中に存在する主要な構造タンパク質である、コラーゲンおよびエラスチンの両方の合わせた効果から生じる非線形挙動である(Gosline & Shadwick (1998年) American Scientist. 86巻:535〜541頁)。
【0081】
この生物学的複合体において、コラーゲンは、高スチフネス、低弾性成分として挙動する一方で、エラスチンは高弾性、低スチフネスエレメントとして挙動する。コラーゲンは、応力がかけられたとき伸長する能力が非常に小さい引っ張りエレメントであり、したがって、腱および靭帯などの組織における役割に特に適している。しかしエラスチンは、完全に回復可能であり、繰り返し可能である大規模の変形を伴った、応力に対して応答する能力を特徴とする。エラスチンのこれらの特徴により、何らかの跳ね返りまたは復元力を必要とする組織、例えば、皮膚、動脈、および肺などが適したものになる。
【0082】
血管移植片における開存性の喪失に関連する1つの重要な失敗の様式は、縫合線での組織内植を特徴とする内膜過形成(IH)である。IHは、非常に異なる機械的特性の2つの血管セグメント間で生じる界面のコンプライアンスミスマッチによって生じることが公知である(O’Donnellら(1984年) J. Vasc. Surg. 1巻:136〜148頁;Sayersら(1998年) Br. J. Surg. 85巻:934〜938頁;Stephenら(1977年) Surgery. 81巻:314〜318頁;Teebken ら(2002年) Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg. 23巻(6号):475〜85頁;Kannanら(2005年) J. Biomed. Mater. Res Part B − Appl Biomater 74B巻(1号):570〜81頁;Walpothら(2005年) Expert Rev. Med. Dev. 2巻(6号):647〜51頁))。この界面ゾーンは、段階を病的過程および移植片の最終的な閉塞(開存性の喪失)にする不自然な流体力学状態を発生させる。
【0083】
コンプライアンスマッチングは重要であると認識されているが、天然動脈の非線形挙動を考慮すると、ただ1つの傾き(機械的応答曲線の一部)を指定して有意なマッチが起こり得ることはありそうにない。コンプライアンス(およびスチフネス)を求めるための一般的な傾向は、各グラフからの最初の擬似線形セグメントのみの考察を通じてであるように思われる(Sandersら 米国公開特許出願第2003/0211130号(
図16);Leeら(2007年) J Biomed Mater Res A. [印刷前の電子出版PMID:17584890];Smithら(2007年) Acta Biomater. [印刷前の電子出版、PMID:17897890])。しかし、この最初の擬似線形セグメント後に起こる事を無視することによって、重要な情報が失われる。
図1に示すように、「J」字型曲線は非線形であり、したがって、交差する2つの別々の傾きとしてモデル化することができる。
図2は、2つの異なる弾性率(スチフネス)に関係する2つの線形領域を近似的に区別することによって、1つの「J」字型曲線を示してこの概念を例示する。同じ手法は、コンプライアンスについて圧力/体積グラフ上で使用することができる。したがって、コンプライアンスが関係する場合、本発明は、応力/歪グラフ上の最初の擬似線形セグメントの間に取られる測定だけでなく、この最初のセグメント後に取られる測定も考慮する。
【0084】
曲線の「J」字型は、天然血管の構築において使用される材料の特定の選択から生じる偶然の機械的挙動を単に表すのではない。むしろ、形状自体は、動脈瘤の形成に対する特定の耐性を表す(Shadwick(1998年) American Scientist. 86巻:535〜541頁)。さらに、天然血管の機械的挙動を模倣することにより、巨視的な利点、すなわち、コンプライアンスミスマッチの調節がもたらされる。他の研究者らは、多くの様々な種類の細胞は、これらが播種される微視的な機械的環境に敏感であることを示した。これには、細胞が播種される基質の機械的特性、ならびに圧縮などの、組織に影響する因子を介して細胞に付与される応力(例えば、膝関節中の軟骨)、周期性の歪(例えば、拍動性の流れを受けている血管)などが含まれる(Georgesら(2006年) Biophys. J. 90巻(8号):3012〜18頁;Englerら(2004年) J. Cell Biol. 13;166巻(6号):877〜87頁;Rehfeldtら(2007年) Adv. Drug. Deliv. Rev. 11月10日;59巻(13号):1329〜39頁;Peytonら(2007年) Cell Biochem. Biophys. 47巻(2号):300〜20頁)。例えば、血管平滑筋細胞は、血管組織におけるある特定の歪の型に敏感である(Richardら(2007年) J. Biol. Chem. 282巻(32号):23081〜8頁)。さらに、腱、骨、および実質的に体のあらゆる組織中の細胞は、これらが存在する微視的な機械的環境に精巧に調整されており、これは、天然組織の挙動を細密に模倣するさらに別の説得力のある理由を提供する。予期された機械的な特性からの逸脱は、細胞を異なる発生経路、または最終的に、ネクローシスまたはアポトーシスを伴う致死経路に送ることができる。
【0085】
3.組織工学(TE)足場
天然血管は多層構造または積層構造を有する。例えば、動脈は3つの層、すなわち、管腔表面を裏打ちする大血管性内皮細胞を含む、内膜と呼ばれる最内側層、複数のシートの平滑筋細胞を含む、中膜と呼ばれる中央層、ならびに疎性結合組織、より小さい血管、および神経を含有する、外膜と呼ばれる外側層を有する。内膜と中膜は、基底膜によって分離されている。
【0086】
天然血管における特殊化された構成的な特徴(うねり、波形、よじれ)は、異なる歪で異なる程度に機械的に噛み合っているコラーゲンおよびエラスチンラミナの並列の配置を促進する。天然動脈は、円周方向に同心円状に配列された弾性ラミナを有する。そのようなラミナは波形をつけられている。理論では、弾性ラミナの波形は、周囲のコラーゲン層を同調(entrain)させ、これらに同様の形状を付与することができるが、これは一般に観察されない。さらに、組織構造は、弾性ラミナが一般に、集中したグリコサミノグリカン(GAG)によって囲まれていることを示す。例えば、Dahlらによる2007年の報告では、組織工学による血管と天然動脈の比較が報告され、この中で波形をつけられたエラスチンラミナは、代表的なMovat染色およびVerheoff−Van Gieson染色を使用して、それぞれ明らかに視覚化された(Annals of Biomedical Engineering 2007年3月;35巻(3号):348〜55頁)。したがって、天然動脈における一般的な知見は、弾性ラミナ中の波形であるが、周囲のコラーゲン層には波形がまったくない。これに対する例外は、ナガスクジラにおいて記録を残された普通でない構造であり、この場合新規の結合組織デザインが存在し、偶然引っ張りエレメントになるコラーゲン性成分は、高度に波形をつけられている(Gosline 1998年 上記を参照)。
【0087】
本明細書に記載されるように、本発明は組織工学足場、およびこれを作製する方法に関し、これは、天然動脈において一般に見られるのと逆の手法をとり、すなわち足場の引っ張り層は波形を有するが、弾性層は波形を有さない。この手法は、弾性層中に波形を付与するより、引っ張り層内に波形を付与する方が容易であるため有利である。
【0088】
本発明の組織工学足場は、多層構造または積層構造を有する。一実施形態では、足場は、(a)弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を含有する第1の管状エレメントと;(b)引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を含有する第2の管状エレメントとを含む。
【0089】
別の実施形態では、第2の管状エレメントは波形をつけられている。本明細書に記載される組織工学足場に存在する波形は、
図15A〜Bによって例示され、足場の外側表面上にその外見を示している。
【0090】
他の実施形態では、波形をつけられた第2の管状エレメントは、繊維方向が円周方向に配向している繊維ネットワークを有する。
図16A〜Bは、円周方向に均一な性質の波形の断面図を示す。
【0091】
追加の管状エレメントを第1および第2の管状エレメント上に加えることができる。
【0092】
第1の管状エレメントの内側管腔表面、および第2の管状エレメントの外側表面はともに、例えば、TEBVの形成などにおいてさらに操作するためにアクセス可能である。以下に記載するように、本発明の組織工学足場は、足場中に1つまたは複数の細胞集団を組み込むことによって、組織工学による血管(TEBV)を作製するのに使用することができる。足場の積層構築物は、平滑筋細胞、内皮細胞、および線維芽細胞などの細胞集団の期待される分配を促進する場合がある、より自然な血管形態を提供する。
【0093】
本明細書に記載される足場の弾性エレメントは、完全に回復可能であり、繰り返し可能である大規模の変形を伴った、応力に対して応答する能力を足場に付与する。弾性エレメントは、天然成分、合成成分、1つを超える天然成分の混合物、1つを超える合成成分の混合物、天然成分と合成成分の混合物、またはこれらの任意の組合せであってもよい弾性成分を有する。一般に、有機成分または天然成分は、通常、天然組織構造中に存在し、または天然組織構造から得ることができ、またはタンパク質および/またはそのアミノ酸配列をコードする公知の核酸配列に基づいて組換えまたは合成で生成することができるタンパク質である。例えば、エラスチンは動脈中に天然に存在し、本発明の血管足場において天然成分として利用することができる。天然成分は、本明細書に記載されるように、合成成分も含むか、また含まないTE足場および/またはTEBVの一部とすることができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、第1の管状エレメントの弾性エレメントは、限定することなく、エラスチン、グルテン、グリアジン、アブダクチン、クモの糸(spider silk)、およびレシリンまたはプロレシリンを含めた弾性タンパク質などの有機成分または天然成分を含む(Elvinら(2005年) Nature. 10月12日:437巻(7061号):999〜1002頁)。当業者は、本発明の足場に使用するのに適することができる他の天然弾性タンパク質を理解するであろう。
【0095】
天然材料の使用は、無傷の血管足場が、組織工学による血管を構築する目的のためにさらなる操作にかけられる場合、利点をもたらす。例えば、特定の細胞集団が足場上に培養または播種される場合、足場内に存在する天然エラスチンタンパク質は、足場との適切な細胞相互作用を促進する。
【0096】
他の実施形態では、弾性エレメントは合成成分を含む。合成弾性成分の例には、限定することなく、ラテックス、ポリウレタン(PU)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−L−ラクチド酸(PLLA)、ポリジアキサノン(PDO)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLCL)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)が含まれる。
【0097】
一実施形態では、本発明は、弾性エレメントが天然弾性成分および合成弾性成分を含む、第1の管状エレメントを企図する。
【0098】
本明細書に記載される足場の引っ張りエレメントは、足場が応力に応答した伸長に抵抗することを可能にする剛性または張力を足場に付与する。引っ張りエレメントは、天然成分、合成成分、1つを超える天然成分の混合物、1つを超える合成成分の混合物、天然成分と合成成分の混合物、またはこれらの任意の組合せであってもよい引っ張り成分を有する。
【0099】
別の実施形態では、第2の管状エレメントの引っ張りエレメントは、限定することなく、コラーゲン、セルロース、絹、およびケラチンを含めた繊維タンパク質などの有機成分または天然成分を含む。当業者は、本発明の足場に使用するのに適することができる他の天然繊維タンパク質を理解するであろう。他の実施形態では、引っ張りエレメントは合成成分である。合成引っ張り成分の例には、限定することなく、ナイロン、Dacron(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート(PET))、Goretex(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、およびポリ(エーテルウレタン尿素)(PEUU)が含まれる。一実施形態では、本発明は、引っ張りエレメントが天然引っ張り成分および合成引っ張り成分を含む、第2の管状エレメントを企図する。
【0100】
足場の弾性エレメントおよび引っ張りエレメントは、天然成分と合成成分の異なる組合せを含有することができる。例えば、足場は天然弾性成分および/または天然引っ張り成分、ならびに合成弾性成分および/または合成引っ張り成分を含有することができる。
【0101】
本発明の一態様では、TE足場は、上述したような、第1の管状エレメント上に第2の管状エレメントを有する2層構造に限定されない。いくつかの実施形態では、足場は追加の管状エレメント、例えば、第2の管状エレメント上の第3の管状エレメント、第3の管状エレメント上の第4の管状エレメント、第4の管状エレメント上の第5の管状エレメントなどを含む。さらに、本明細書に記載されるように、追加の管状エレメントは、弾性エレメント(複数も)(例えば、天然および/または合成)、または引っ張りエレメント(複数も)(例えば、天然および/または合成)を含有することができる。追加の管状エレメントは、本明細書に記載される技法によって結合することができる。
【0102】
一態様では、弾性エレメント中に含まれる弾性成分、および引っ張りエレメント中に含まれる引っ張り成分は、それぞれ異なる弾性率を有する。一実施形態では、弾性エレメントの弾性成分の弾性率は第1の弾性率を有し、引っ張りエレメントの引っ張り成分は第2の弾性率を有する。好適な実施形態では、第2の弾性率は第1の弾性率より少なくとも約1桁大きい。一実施形態では、第2の弾性率は、第1の弾性率(module)より約1桁、約2桁、約3桁、約4桁、またはそれ以上の桁大きい。例えば、実施例1は、弾性成分ラテックスの0.3MPa〜0.5MPaの弾性率と比較した場合、引っ張り成分PDOおよびVicrylが、それぞれ3GPaおよび9〜18GPaの弾性率を有することを示す(
図10および11も参照)。
【0103】
別の態様では、本発明のTE足場は、天然血管において見出される特性と実質的に同様の構造的および機能的特性を示す。天然血管では、2つの主要なタンパク質成分であるコラーゲンおよびエラスチンの相乗的相互作用は、J字型応力/歪曲線を特徴とする応力および歪に対する機械的応答を生ずる(Roachら(1957年)Can. J. Biochem. Physiol. 35巻:681〜690頁)。当業者は、限定することなく、応力および歪に対する応答、コンプライアンス、ヤング率、多孔度、強度などを含めた、本発明の足場が天然血管を模倣し、またはこれに細密に類似することを実証するのに使用することができる多数のパラメータを理解するであろう。一実施形態では、本発明の足場は、応力および歪に対して異方性の様式で機械的に応答する能力を有することを特徴とする。
【0104】
当技術分野においてよく認識されたいくつかのパラメータは、組織工学足場の挙動を特徴づけるのに有用である。表1は、これらのパラメータの一部についての報告値の例(およびそのそれぞれの刊行物の引用)を提供する。
【0107】
【数2】
表2は、天然血管と実質的に同様である機械的特性をTE足場またはTEBVにもたらすことを目的とする、表1に引用された文献に基づく特徴づけの基準を提供する。
【0108】
【表2】
これらのパラメータは、本発明の組織工学足場の機械的挙動を特徴づけることにおいて、特に、足場が天然血管の特性と実質的に同様の特性を示すかどうかを判定することにおいて有用である。本発明は、表2の値によって特徴づけられ、天然血管の機械的特性と実質的に同様の機械的特性、好ましくは、(i)J字型応力/歪曲線を特徴とする応力および歪に対する機械的応答;(ii)破損に対する耐性;(iii)粘弾性;または(iv)(i)〜(iii)の任意の組合せを示す組織工学足場を対象とする。さらに、足場は、TEBVを形成するための細胞播種の目的のための様々な細胞型へのアクセスのしやすさを特徴とする。
【0109】
一実施形態では、本発明の組織工学足場によって示されるJ字型応力/歪曲線の特徴は、(i)約0.1MPa〜約0.5MPaの円周方向管弾性率1(ii)約3.0MPa〜約6.0MPaの円周方向管弾性率2;および(iii)約0.57〜約1.12の円周方向弾性率移行部、ならびにこれらの任意の組合せに起因する。別の実施形態では、円周方向管弾性率1は、約0.1MPa、0.13MPa、約0.15MPa、約0.17MPa、約0.2MPa、約0.22MPa、約0.25MPa、約0.27MPa、約0.3MPa、約0.32MPa、約0.35MPa、約0.37MPa、約0.4MPa、約0.42MPa、約0.45MPa、約0.47MPa、または約0.5MPaである。別の実施形態では、円周方向管弾性率2は、約3.0MPa、約3.2MPa、約3.5MPa、約3.7MPa、約4.0MPa、約4.2MPa、約4.5MPa、約4.7MPa、約5.0MPa、約5.2MPa、約5.5MPa、約5.7MPa、または約6.0MPaである。別の実施形態では、円周方向弾性率移行部は、約0.57、約0.59、約0.61、約0.63、約0.65、約0.67、約0.69、約0.71、約0.73、約0.75、約0.77、約0.79、約0.81、約0.83、約0.85、約0.87、約0.89、約0.91、約0.93、約0.95、約0.97、約0.99、約1.01、約1.03、約1.05、約1.07、約1.09、約1.11、または約1.12である。
【0110】
別の実施形態では、破損に対する耐性に好都合な特性は、(i)約0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;(ii)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;または(iii)(i)および(ii)の組合せである。バイオマテリアルの靭性は、破損に対するその耐性を判定するのに役立つ1つのパラメータである。明らかに、破損または断裂に対する耐性は、TE足場における所望の特徴であり、その理由はこれが、TE足場から派生する任意のTEBVまたは血管移植片の開存性を保証するのに役立つためである。天然血管は、流体の周期的負荷の応力および歪に応答して変形を受けやすい。したがって、これらは縦方向もしくは軸方向に、および/または円周方向に分裂または破損の危険性がある。天然血管と同様に、本発明のTE足場およびTEBVから派生する血管移植片も破損の危険性がある。本発明は、特定の軸方向靭性および/または特定の円周方向靭性は、破損または断裂に対して耐性であるTE足場に寄与するという発見に関係する。一実施形態では、円周方向管靭性は、約0.45MJ/m
3、約0.50MJ/m
3、約0.55MJ/m
3、約0.60MJ/m
3、約0.65MJ/m
3、約0.70MJ/m
3、約0.75MJ/m
3、約0.80MJ/m
3、約0.85MJ/m
3、約0.90MJ/m
3、約0.95MJ/m
3、約1.0MJ/m
3である。別の実施形態では、軸方向管靭性は、約0.1MJ/m
3、約0.15MJ/m
3、約0.20MJ/m
3、約0.25MJ/m
3、約0.30MJ/m
3、約0.35MJ/m
3、約0.40MJ/m
3、約0.45MJ/m
3、または約0.50MJ/m
3である。別の実施形態では、本発明のTE足場は、i)J字型応力/歪曲線を特徴とする応力および歪に対する機械的応答を有する足場;ii)破損耐性の足場;およびiii)粘弾性の足場の1つまたは複数を特徴とする。
【0111】
別の実施形態では、TE足場の粘弾性特性は、(i)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;(ii)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率;または(iii)(i)および(ii)の組合せを特徴とする。粘弾性材料は、変形に対する応答において粘性および弾性の特徴の両方を示す。粘性材料は、応力がかけられるとき、時間とともに直線的に歪に抵抗する一方で、弾性材料は応力に応答して瞬時に歪み、応力が除かれるとその元の状態に急速に戻る。粘弾性材料は、応力に応答して時間に依存する歪を示し、これは一般に、非晶質材料内の原子または分子の拡散を伴う
。天然血管は、流体の周期的負荷に対処するための粘弾性を示し、この特徴は、TEBVまたは血管移植片を作り出すのに使用される本発明のTE足場にとって望ましい。本発明は、本発明のTE足場の粘弾性は、特定のタンジェントδ値および/または特定の貯蔵弾性率値によって特徴づけられるという発見に関する。一実施形態では、タンジェントδは、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.10、約0.11、約0.12、約0.13、約0.14、約0.15、約0.16、約0.17、約0.18、約0.19、約0.20、約0.21、約0.22、約0.23、約0.24、約0.25、約0.26、約0.27、約0.28、約0.29、または約0.30である。他の実施形態では、貯蔵弾性率は、約400MPa、約350MPa、約300MPa、約250MPa、約200MPa、約150MPa、約100MPa、約90MPa、約80MPa、約70MPa、約60MPa、約50MPa、約40MPa、約30MPa、約20MPa、約10MPa、約9MPa、約8MPa、約7MPa、約6MPa、約5MPa、約4MPa、約3MPa、約2MPa、約1MPa、約0.9MPa、約0.8MPa、約0.7MPa、約0.6MPa、約0.5MPa、約0.4MPa、約0.3MPa、約0.2MPa、約0.19MPa、約0.18MPa、約0.17MPa、約0.16MPa、約0.15MPa、約0.14MPa、約0.13MPa、または約0.12MPaである。
【0112】
本発明の足場にとって望ましい特性を同定し、特徴づけるのに適した、当業者に周知のいくつかの技法がある。これらの技法には、限定することなく、破裂圧力試験;円周方向における準静的機械的検査(別名引っ張り試験)(応力/歪図においてもたらされる結果);多孔度および孔サイズの決定(例えば、水銀圧入ポロシメトリーによる);細胞結合アッセイ;および分解速度;移植片のコンプライアンスを測定するための圧力/体積曲線が含まれる。
【0113】
4.TE足場を作製する方法
本発明の方法は、天然血管に相応する、適当な、持続性の生体力学的特性を有するTE足場の構築に関する。一態様では、本発明の方法は、積層構造、すなわち、弾性エレメント、外側表面、および内側管腔表面を備える第1の管状エレメントと;引っ張りエレメント、外側表面、および第1の管状エレメントの外側表面に接触した内側管腔表面を備える第2の管状エレメントとを有する血管足場を作製する方法を提供する。
図3に例示するように、第1の管状エレメント
4は、限定することなく、エレクトロスピニング
2(
図3A)および注型
3(
図3B)、ならびにこれらの任意の組合せを含めた当技術分野で公知の技法によって、マンドレル
1上に形成することができる。エラスチンおよび/または弾性ポリマーなどの弾性エレメントは、少なくともインビボ用途に必要な名目上のサイズである第1の直径を有する第1の管状エレメントを形成するのに使用することができる。エレクトロスピニングは、(i)1つまたは複数の弾性天然成分および/もしくはより多くの弾性合成成分のうちの1つを含有し;かつ/または(ii)1つまたは複数の引っ張り天然成分および/もしくはより多くの引っ張り合成成分のうちの1つを含有する溶液を塗布することによって実施することができる。エレクトロスピニングは、弾性エレメントの繊維を円周方向に配置する利点を提供し、したがって血管の強度を増大させる。
【0114】
形成されると、弾性エレメントを含有する第1の管状エレメントは、限定することなく、可変直径を有するマンドレルの利用、またはより大きいマンドレル上での第1の管状エレメントの取り出しおよび配置を含めた、当技術分野で公知の技法によって第2の直径に拡張される。可変直径を有するマンドレルの使用は、摩擦によって問題となり得る、マンドレルからの第1の管状エレメントの取り出しを回避するという利点を有する。第1の管状エレメントの第2の直径への拡張は、動脈が通常の機能の間に受ける生理的歪の範囲、すなわち、約5%〜約35%を考慮するために意図される。
【0115】
一実施形態では、第1の管状エレメントは、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、または約10mmの第1の直径を有するように、本明細書に記載される技法によって形成される。好適な実施形態では、第1の直径は約3mm〜約8mm、より好ましくは約4mm〜約7mm、最も好ましくは約5mm〜約6mmである。
【0116】
別の実施形態では、第1の管状エレメントが本明細書に記載される技法によって拡張される第2の直径は、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約11mm、約12mm、約13mm、約14mm、約15mm、または約16mmである。好適な実施形態では、第2の直径は、約5mm〜約10mm、より好ましくは約6mm〜約9mm、最も好ましくは約7mm〜約8mmである。
【0117】
第2の直径に拡張されると、第2の管状エレメントは、限定することなく、注型またはエレクトロスピニングを含めた、当技術分野で公知の技法によって、第1の管状エレメントの外側表面上に形成または層状化される。コラーゲンおよび/または伸張性ポリマーなどの引っ張りエレメントを、第2の管状エレメントを形成するのに使用することができる。第2の管状エレメントを提供または形成する方法としてのエレクトロスピニングは、様々な長さの伸張性繊維を形成する能力のために有利である。
【0118】
第1の管状エレメント上に第2の管状エレメントを形成した後、当業者に公知の様々な技法によって層を結合することができる。そのような技法には、限定することなく、フィブリンに基づくものなどの外科的接着剤の使用;または様々な割合の存在する任意の合成ポリマーとの溶媒相互作用の使用が含まれる。
【0119】
一実施形態では、結合するステップは、第2の管状エレメントが第1の管状エレメント上に形成または配置された後に実施され、第1の管状エレメントと材料の追加の層との間で第2の管状エレメントの接着サンドイッチを可能にするために、第2の管状エレメントの外側表面上に材料の追加の層を塗布するステップを含む。別の実施形態では、追加の層は、第1の管状層を形成するのに使用された同じ種類の材料を含有する。別の実施形態では、結合は、弾性エレメント(例えば、以下に記載されるような天然/合成弾性材料混合物を含有する、例えば溶液1)を含有する追加の層をエレクトロスピニングで塗布して実現される。
【0120】
当業者は、層内および層間の両方で架橋結合するのに他の技法を使用することができることを理解するであろう。例えば、熱処理は、縮合反応に基づいて引っ張りエレメント(例えば、コラーゲン)内に架橋を形成することを示した。他の生体適合性の化学的架橋処理も、同様にこの領域で有効であることが示された。
【0121】
図4Aは、本明細書に記載される新規の足場構造を作製するエレクトロスピニング法を例示する。例えば、天然/合成弾性材料混合物を含有する溶液1が、回転しているマンドレル
2上にスピニング
1されることによって、第1の直径D
o3を有する第1の管状エレメントが作製される。次いで、マンドレルの直径は、天然血管における生理的な歪に相応する値である第2の直径D
f4に増大され(あるいは、足場がより大きい直径のマンドレル上に配置され)、例えば、天然/合成引っ張り材料混合物を含有する溶液2が、溶液1を用いて作製された第1の管状エレメント上にエレクトロスピニング
5されることによって、第2の直径D
f6を有する第1の管状エレメント上に第2の管状エレメントが形成される。これは、予め応力がかけられた積層構造の形成をもたらす。
図4Bに示した最終ステップは、マンドレルを第1の直径D
o3に戻し、今度は第1および第2の管状エレメントの両方を含む足場
7を取り出すステップを伴う。溶液2でできた外側積層品の構造分析は、円周方向での繊維構造における波形
8を明らかにし、これは
図4Bの引き伸ばされた部分に示されている。
【0122】
図4Eは、拡大するマンドレルプロセスの代替の実施形態を表す。第1の管状エレメントは、上述したように溶液1から形成
1されることによって、第1の直径D
o3を有する第1の管状エレメントが作製される(A)。マンドレルの直径は第2の直径D
fに増大され(B)、この時点で天然/合成引っ張り材料を含有する第2の管状エレメント
6が、第1の管状エレメント
3が拡大されたマンドレル
4上にある間に第1の管状エレメント
3上に配置される(C)。第2の管状エレメント
6を配置した後、溶液1の追加の薄層
7を、第2の管状エレメント
6の頂部にエレクトロスピニングすることによって、溶液1のそれぞれの層の間に第2の管状エレメント
6の接着サンドイッチを可能にすることができる(D)。溶液1の薄層
7を塗布した後、拡大されたマンドレルに直径は、第1の直径D
o2に戻される(E)。第1の管状エレメントの収縮は第2の管状エレメントを同調させ、波形をつけられた、またはよじれた均一な表面の特徴を生じる。一実施形態では、第2の管状エレメントはメッシュの形態である。
【0123】
上述したように、血管移植片が天然血管に結合している界面でのコンプライアンスミスマッチは、内膜過形成に導く場合があり、これは、血管移植片の開存性の喪失に関連する重要な失敗様式であることが周知である。そのような内膜過形成は、動脈瘤形成および移植片の拡張に導き得ることが公知である。それぞれのラミナが異なるコンプライアンスを有する多積層構造において生じる問題は、層間剥離である。これは、ラミナ間に突然の移行部があり、したがって、対応して高い応力集中の可能性がある構造において特に問題となり得る。これに対抗するために、ラミナ間の突然の移行部は、各連続的な層が不均質性のゾーンを有し、そこでこれが次の連続的なゾーンに突き当たることを確実にすることによって和らげることができる。
【0124】
図4Cはこの概念を例示する。層同士間の移行部が接近するにつれて、隣接する層を含む2つの材料間で混合して、段階的な勾配が存在する。このゾーングラデーションは、いくつかの方法で実現することができるが、最も明確には、複数のシリンジおよび溶液勾配を使用して実現することができる。
【0125】
図4Dは、ゾーングラデーションを実現するためのエレクトロスピニング法を例示する。この方法は、2つのスピナレット、2つの材料溶液、および2つの材料から構築されるラミナ間に段階的な移行部を作製するために連続した塗布(重なりを伴って)を使用する。例えば、天然/合成弾性材料混合物を含有する溶液1が、回転しているマンドレル上にスピニング
1されることによって、第1の直径D
o2を有する第1の管状エレメント
3が作製されるが(A)、溶液1の塗布が完了する前に、マンドレルが第2の直径D
f4に拡大され、例えば、天然/合成引っ張り材料混合物を含有する溶液2が塗布
5されることによって(B)、第1の管状エレメント上に第2の管状エレメント
6が形成される(C)。溶液2の塗布
5は、溶液1の塗布
1の終了付近で始まることが好ましい。溶液1および溶液2の塗布は、溶液1の塗布が完了するまで同時に続く(B)。こうして、溶液1中の材料と溶液2中の材料の段階的なブレンドが、第1および第2の管状エレメントの間のゾーンで作られる。これにより、ゾーングラデーションを有する、予め応力がかけられた積層構造が形成される。
【0126】
一実施形態では、ゾーングラデーションを備える本発明の組織工学による足場は、弾性エレメントを含有する第1の管状エレメント、第1の管状エレメントの外側に接触した、引っ張りエレメントを含有する第2の管状エレメント、および第1の管状エレメントの弾性エレメントと第2の管状エレメントの引っ張りエレメントの段階的な移行部または勾配混合物のゾーンから構成されている。別の実施形態では、組織工学による足場のゾーングラデーションは、第1および第2の管状エレメントからの材料を有する不均質性の移行ゾーンを備える。
【0127】
上述したように、本発明は、マンドレルの直径が、第1の直径(D
o)から別個の第2の直径(D
f)に増大され、次いで引き続いて第1の直径(D
o)に戻される方法を提供する。別の実施形態では、本発明は、マンドレル直径が、第1の直径(D
o)から第2の直径(D
f)に増大され、その間、エレクトロスピニングの間に直径が連続して増大する方法を提供する。直径の連続した増大を実現するために、第1の管状エレメント上に第2の管状エレメントを形成するための溶液2のエレクトロスピニングの間に、直径が、連続的な速度で、第1の直径(D
o)から第2の直径(D
f)に増大するようにマンドレルをプログラムすることができる。この手法は、2層のラミナ構造が円周方向に広がる間に、外側の引っ張り層が様々な歪値で噛み合うことを保証し、かつより自然な「J」字型曲線に関連したより段階的な曲率を保証する。
【0128】
図5は、回転する間に直径を連続的に変化させることができる拡大するマンドレルデバイスを例示する。
図5Aは、マンドレルの直径を収縮させることによって、エレクトロスピニングされた管を容易に取り出すことができるほぼ最小の直径を示す。
図5Bは、最大直径の構成でのマンドレルを示す。マンドレルセクションは、予めプログラムされた速度で、スピニングの間に連続的な移動を可能にする、スクリューで動かされる軌道内にある。
【0129】
一実施形態では、新規の足場構造の直径を増大および減少させるステップは、エレクトロスピニングするステップと並行して実施される。好適な実施形態では、例えば、天然/合成弾性材料混合物を含有する溶液1から形成された第1の管状エレメントの第1の直径D
oは、第1の管状エレメント上に、例えば、天然/合成引っ張り材料混合物を含有する溶液2を同時にエレクトロスピニングしながら、安定な連続的速度で第2の直径D
fに増大する。最終結果は、弾性エレメントを含有する第1の管状エレメント上への、引っ張りエレメントを含有する第2の管状エレメントの堆積であり、その結果、引っ張りエレメントは、引っ張り繊維の連続体として新規の足場構造内に存在する。新規の足場構造を通じて徐々に増加する体積の流体が循環すると、第1の管状エレメントの第1の直径D
oは、それに応答して、第1の管状エレメント中に含まれる弾性エレメントにより徐々に増大し、この第1の直径が増大するので、第2の管状エレメント中に存在する引っ張り繊維の連続体は、第1の直径D
oが、流体の循環により第2の直径D
fに徐々に増大するにつれて、連続体上に噛み合う。したがって、本発明の方法によって作られた引っ張り繊維の連続体は、通過する流体の体積が増加するにつれて、引っ張り繊維の段階的な噛み合いの特性を新規の足場構造に浸透させる。そのような特性は、本発明の組織工学足場によって示される天然血管との実質的な類似性にさらに寄与する。
【0130】
上述したように、本発明の方法は、第1の管状エレメント上に第2の管状エレメントを作製するためにエレクトロスピニングを使用することができる。一実施形態では、第2の管状エレメントはエレクトロスピニングによって形成されないが、むしろ第1の管状エレメント上に配置することができる、モノフィラメント(径方向に厚い1つのフィラメント)の編まれた、織られた、またはメッシュ構造である。この実施形態では、第1の管状エレメントは、第1の管状エレメントを囲む位置に、編まれた/織られた/メッシュの第2の管状エレメントを移動させる前に、作製され、選択された歪値を伴った所望の直径に拡大される。編まれた/織られた/メッシュの第2の管状エレメントのサイズは、
図6中に示したように所望の拡大サイズの第1の管状エレメントにぴったりと収めるために予め選択することができる。配置した後、第2の管状エレメントを、上述した結合技法によって第1の管状エレメントに固定することができる。
【0131】
本明細書に記載されるように、血管足場は、外側表面、および内側管腔表面を備える第1の管状エレメントと、外側表面、および内側管腔表面を備える第2の管状エレメントとを含む。結合した後、第1の管状エレメントの外側表面は、第2の管状エレメントの内側管腔表面に接触している。第1の管状エレメントの内側管腔表面、および第2の管状エレメントの外側表面はともに、さらに操作するためにこの時点でアクセス可能である。
【0132】
結合が完了した後、第1の管状エレメントの第2の直径は、その第1の、かつ元の直径に減少される。これは、可変マンドレルを第1の直径に低減することによって、または注型の場合、単純により大きいマンドレルから足場を取り出すことによって実施することができる。第1の管状エレメントが収縮してその第1の直径に戻ることにより、引っ張りエレメントを含有する第2の管状エレメントの繊維に一連の波形が付与される。
【0133】
他の一実施形態では、本発明の方法は、様々な程度のよじれを有する第1の管状エレメント(弾性エレメントを含有する)に繊維、特に、固有の程度のよじれを有する引っ張りフィラメントを塗布するステップを含む。そのような繊維は、例えば、膀胱置換足場の形成に使用されるような不織フェルトから分離することができる。これらの繊維は、直径が12〜18μm(長さ:約2cm)であり、不織りフェルト形成における針縫いプロセスのために、この形状にとって必須の必要性に基づいたよじれた形態を有する。
【0134】
図7は、フェルト材料から実現することができる繊維形態を例示する。様々な形態は、第1の管状エレメント(弾性エレメントを含有する)が拡大されるにつれて、硬化物質の連続体に寄与する。一実施形態では、これらの非連続的な繊維は、その所望の拡大サイズでの第1の管状エレメントに付着され、場合により一般に円周方向に配向している。塗布されると、この繊維は、上述した結合技法の1つを適用することによって、第1の管状エレメント中に封じ込め、またはこれに結合することができる。別の実施形態では、
図7に例示したように、繊維間連結が材料自体内にもたらされることによって、様々な異なる程度の個々の繊維形態に基づいて、硬化物質の連続体が付与される。この繊維間連結は、結合の前に実施することができる。機械的には、これらの繊維を適用することの有利な効果は(第1の管状エレメントに連結し、かつ/または結合したら)、歪ませると、最小量のよじれを有する繊維が最初にまっすぐになり、噛み合うものである。適用される繊維におけるよじれの程度が連続しているので、歪が増大するにつれて、繊維は様々な間隔で噛み合い、応力/歪図の段階的な丸めに導き、天然材料にはるかにより類似した応答を提供する。
【0135】
好適な実施形態では、組織工学による血管足場を作製する方法は、(a)外側表面、内側管腔表面、および第1の直径を備える弾性管状エレメントを提供または形成するステップと;(b)弾性管状エレメントを第2の直径に拡張するステップと;(c)ステップ(b)の弾性管状エレメントの外側表面上に、外側表面および第2の直径を備える引っ張り管状エレメントを提供または形成するステップと;(d)引っ張り管状エレメントを弾性管状エレメントの外側表面に結合するステップと;(e)弾性管状エレメントの第2の直径を、第1の直径に減少させるステップとを含む。
【0136】
一態様では、本明細書に提供される方法は、当業者に、TE足場の作製において、高度の調整力を実行することを可能にする。この方法の様々な異なる態様によって、本明細書に記載される機械的特性は、当業者によって望まれる様式で調整される。一実施形態では、機械的特性の調整は、以下のうちの1つまたは複数の変更を含む:管状足場を提供するのに使用される材料の選択、管状エレメントの拡大の直径、エレクトロスピニングの間の針とマンドレルの間の距離、および使用される管状エレメント厚さ。別の実施形態では、調整は、上記の表2に列挙された1つまたは複数のパラメータの変更を含む。当業者は、TE足場の機械的特性を調整するのに変更することができる他のパラメータを理解するであろう。
【0137】
5.組織工学による血管(TEBV)
別の態様では、本発明は、本発明のTE足場から得られる組織工学による血管(TEBV)を提供する。天然血管との実質的な類似性を考慮すると、足場は、改変してTEBVを作製するのに特に適用でき、これはさらには心血管障害を治療するための血管バイパス移植片として使用することができる。血管バイパス移植片には動静脈(AV)シャントが含まれる。好適な実施形態では、本発明の足場は、心血管障害を治療するのに使用するために、一般に6mm未満の小直径を有するTEBVを作製するのに使用することができる。
【0138】
本明細書で論じられるように、ある特定の実施形態のTE足場は、様々な弾性率および弾性率移行部、ならびにこれらの任意の組合せに起因するJ字型応力/歪曲線を特徴とする、応力ならびに歪に対する機械的応答を示すことが示されている。弾性率パラメータに加えて、血管移植片の作製において使用するのにTE足場を魅力的にする、TE足場によって示される他の特性がある。一態様では、本発明のTE足場は、まず第一にTEBVまたは血管移植片を作製すること、および血管移植片が、移植されたら開存性を保持することを保証することについて、本発明のTE足場を特に適したものにする、ある特定の特性を示す。そのような特性には、限定することなく、足場上の細胞の播種を可能にするもの、足場の破損に対して耐性をもたらすもの、および足場に粘弾性をもたらすものが含まれる。
【0139】
一実施形態では、TE足場上の細胞の播種を有利にする特性は、管状エレメントの外膜側または外側での約100ミクロンから、管腔側または内側での約5〜約15ミクロンに孔径が徐々に減少する孔勾配に起因する。孔径が、TE足場上またはTE足場内への細胞の播種に成功するための重要な要因であることは、当技術分野で周知である。例えば、孔径は、様々な細胞型が足場の表面に、かつ足場を通って遊走するために十分大きくなければならず、その結果、これらの細胞型は、インビボで観察される様式と同様の様式で他の遊走性細胞と相互作用することができる。本発明は、特定の孔勾配が、細胞の播種の成功に寄与するという発見に関する。一実施形態では、孔勾配は、TE足場を細胞にアクセス可能にし、それによって細胞播種のためのその能力を増強する。別の実施形態では、孔勾配は、約100ミクロン(外側)から約5ミクロン(内側)、約100ミクロン(外側)から約6ミクロン(内側)、約100ミクロン(外側)から約7ミクロン(内側)、約100ミクロン(外側)から約8ミクロン(内側)、約100ミクロン(外側)から約9ミクロン(内側)、または約100ミクロン(外側)から約10ミクロン(内側)である。
【0140】
一態様では、孔勾配は、TE足場の管腔の、内側上への細胞播種、およびTE足場の外側の、外膜側上への細胞播種に有利な構造を提供する。一実施形態では、管腔の、内側表面上のより小さい孔は、内側表面上および内側表面内への内皮細胞の播種に適しており、外側の、外膜側上のより大きい孔サイズは、外側表面上および外側表面内への平滑筋細胞の播種に適している。別の実施形態では、内皮細胞が、TE足場の内側の、管腔表面上およびこの表面内に播種されて単層もしくは平らなシート様構造を形成し、かつ/または平滑筋細胞が、TE足場の外側の外膜表面上および/もしくはこの表面内に播種される。
【0141】
いくつかの実施形態では、TE足場の内側の、管腔表面上およびこの表面全体にわたって播種された内皮細胞は、ある特定の孔サイズを越えて、外側の、外膜表面に向けて遊走することができない。好適な実施形態では、孔サイズは約15〜約20ミクロンである。別の好適な実施形態では、孔サイズは約15ミクロン、約16ミクロン、約17ミクロン、約18ミクロン、約19ミクロン、または約20ミクロンである。
【0142】
別の実施形態では、破損に対する耐性に有利な特性は、(i)約0.45MJ/m
3〜約1.0MJ/m
3の円周方向管靭性;(ii)約0.1MJ/m
3〜約0.5MJ/m
3の軸方向管靭性;または(iii)(i)と(ii)の組合せである。バイオマテリアルの靭性は、破損に対するその耐性を判定するのに役立つ1つのパラメータである。
【0143】
別の実施形態では、TE足場の粘弾性に有利な特性は、(i)約0.05〜約0.3のタンジェントδ;(ii)約400MPa〜約0.12MPaの貯蔵弾性率;または(iii)(i)と(ii)の組合せである。
【0144】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載されるTE足場から得られる組織工学による血管(TEBV)を提供する。結果として、TEBVは、天然血管に見出されるものと実質的に同様の、構造的および機能的特性を示す。上記に論じたように、血管における2つの主要なタンパク質成分、すなわちコラーゲンおよびエラスチンの相乗的相互作用は、J字型応力/歪曲線を特徴とする、応力および歪に対する機械的応答を生じる(Roachら(1957年) Can. J. Biochem. Physiol. 35巻:681〜690頁)。一実施形態では、本発明のTEBVは、応力および歪に対して異方性の様式で機械的に応答する能力を有することを特徴とする。別の実施形態では、TEBVは、(i)足場の破損に対する耐性に有利な特性;および/または(ii)足場の粘弾性に有利な特性を有する。
【0145】
別の態様では、本発明の組織工学による血管(TEBV)は、移植後に観察されてきた、血管移植片に関連するある特定の合併症を調節することができる。一実施形態では、TEBVは、移植後のコンプライアンスミスマッチを調節する。別の実施形態では、調節には以下のうちの1つまたは複数が含まれる:動脈瘤形成に対する耐性、拡張に対する耐性、破損に対する耐性、血栓症に対する耐性、吻合部過形成に対する耐性、および内膜過形成に対する耐性。当業者は、TEBVによって調節を受けやすい追加の要因を理解するであろう。
【0146】
一実施形態では、本発明のTEBVは、本明細書に記載されるように、TE足場を備える。本発明のTE足場は、さらに操作されることによって、必要のある哺乳動物への移植に適したものとなるTEBVを形成することができる。例えば、TE足場は、本明細書に記載される方法により、1つまたは複数の細胞集団を添加することによって操作することができる。当業者は、本発明が、限定することなく、頸動脈、鎖骨下動脈、腹腔動脈、腸間膜動脈、腎動脈、腸骨動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、鎖骨下静脈、頸静脈、腎静脈、腸骨静脈、大静脈を含めた多くの種類の血管に関係することを理解するであろう。
【0147】
一実施形態では、TEBVは、TEBVの第2の管状エレメント内、および/または第2の管状エレメントの外側表面上に第1の細胞集団をさらに含む。好適な実施形態では、第1の細胞集団は平滑筋細胞集団である。当業者は、限定することなく、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒト臍帯動脈平滑筋細胞、ヒト肺動脈平滑筋細胞、ヒト冠動脈平滑筋細胞、ヒト気管支平滑筋細胞、ヒト橈骨動脈平滑筋細胞、およびヒト伏在静脈または頸静脈平滑筋細胞を含めた、様々な種類の平滑筋細胞(SMC)が、本発明において使用するのに適したものであり得ることを理解するであろう(その全体が参照により本明細書に組み込まれているBertramらの米国公開出願第20070190037号を参照)。Bertramらの米国公開出願第20070190037号に記載されているように、SMCは、例えば、生存対象からの生検、および死体からの全臓器回収(whole−organ recover)を含めた、様々な供給源から単離することができる。単離される細胞は、レシピエントであることが意図された対象からの生検によって得られた自己細胞であることが好ましい。
【0148】
別の実施形態では、TEBVは、TEBVの内側表面または管腔表面上に第2の細胞集団を含む。好適な実施形態では、第2の細胞集団は内皮細胞集団である。当業者は、限定することなく、動脈および静脈の内皮細胞(EC)、例えば、ヒト冠動脈内皮細胞、ヒト大動脈内皮細胞、ヒト肺動脈内皮細胞、皮膚微小血管内皮細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト臍帯動脈内皮細胞、ヒト伏在静脈内皮細胞、ヒト頸静脈内皮細胞、ヒト橈骨動脈内皮細胞、およびヒト内胸動脈内皮細胞などを含めた、様々な種類のECが、本発明において使用するのに適したものであり得ることを理解するであろう(その全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国公開出願第20070190037号を参照)。ECは、限定することなく、血管実質、循環内皮細胞、ならびに内皮細胞前駆体、例えば、骨髄前駆細胞、末梢血幹細胞、および胚性幹細胞などを含めた、様々な供給源から単離することができる(そのそれぞれの全体が参照により組み込まれている、Bischoffらの米国公開出願第20040044403号、およびRaffiらの米国特許第6,852,533号を参照)。
【0149】
当業者は、本明細書に記載される1つまたは複数の細胞集団の播種または堆積は、様々な当技術分野で公知の様々な方法によって実現することができることを理解するであろう。例えば、バイオリアクターインキュベーションおよび培養(Bertramら 米国公開出願第20070276507号;McAllisterら 米国特許第7,112,218号;Augerら 米国特許第5,618,718号;Niklasonら 米国特許第6,537,567号);圧力に誘導された播種(Torigoeら(2007年) Cell Transplant.、16巻(7号):729〜39頁;Wangら(2006年) Biomaterials. 5月;27巻(13号):2738〜46頁);および静電気的な播種(Bowlinら 米国特許第5,723,324号)を使用することができる。さらに、エレクトロスピニングされる繊維を、細胞のエアロゾルとともに同時にコートする最近の技法は、播種または堆積に適することができる(Stankusら(2007年) Biomaterials, 28巻:2738〜2746頁)。
【0150】
一実施形態では、細胞の堆積は、管状足場を細胞付着増強(cell attachment enhancing)タンパク質と接触させるステップを含む。別の実施形態では、増強タンパク質は、以下のうちの1つまたは複数である:フィブロネクチン(fibronection)、コラーゲン、およびMATRIGEL(商標)。他の一実施形態では、管状足場は、細胞付着増強タンパク質がない。別の実施形態では、細胞の堆積は、管状足場を1つまたは複数の細胞集団と接触させた後、培養するステップを含む。さらに別の実施形態では、培養は、バイオリアクター内で拍動性流および/または定常流によってコンディショニングするステップを含むことができる。
【0151】
一態様では、本発明は、心血管疾患または障害の治療を必要とする対象において、これらを治療する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、必要とする対象を同定するステップを含む。別の実施形態では、この方法は、対象から1つまたは複数の生検試料を得るステップを含む。他の一実施形態では、この方法は、TEBVを提供するために、試料から1つまたは複数の細胞集団を単離し、TE足場上でこの1つまたは複数の細胞集団を培養するステップを含む。別の実施形態では、培養するステップは、バイオリアクター内で、細胞を播種したTEBV足場をコンディショニングするステップを含む。一実施形態では、コンディショニングは、バイオリアクター内で、定常流および/または拍動性流を含む。別の実施形態では、この方法は、心血管疾患または障害を治療するために、その必要のある対象に、細胞を播種し、コンディショニングしたTEBVを移植することを含む。
【0152】
当業者は、本発明の方法によって治療するのに適した様々な心血管障害を理解するであろう。
【0153】
別の実施形態では、本発明は、必要とする対象において心血管障害を治療するのに有用な薬剤を調製するための、本明細書に記載されるTE足場および/またはTEBVの使用を提供する。
【0154】
以下の実施例は、例示的な目的のみのために提供され、本発明の範囲を限定することが意図されることはまったくない。
【0155】
本明細書に引用されるすべての特許、特許出願、および文献参照は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【実施例】
【0156】
(実施例1)−ラテックス管上の縫合ラップ(suture wrap)
2成分管状構造における「J」字型機械的応答の生成。
【0157】
2成分システムにおける「J」字型機械的挙動の生成が可能である、いくつかの方法が存在する。堅い外側層(引っ張りエレメント)に結合した弾性内側層の組合せからの結果を以下に示す。この場合、内側層はラテックスであり、外側層は、ラップされたポリジオキサンノン(PDO)、または縫われたVICRYL(商標)(90:10 PLGA)のいずれかの縫合糸である。
図14A〜Bは、ラテックス管の外側円周の周囲に縫合されたVICRYL(商標)から作製された足場を示す。縫合は、ラテックス管がより大きい直径に拡大されている間に施した。ラテックス管をその静止直径で撮影した。これが、より大きい直径で施された縫合が、ラテックス管の円周の周囲にループを形成している理由である。スケールバーは0.5cmである。A)軸方向図 B)側面図。
【0158】
方法
内径3.175mm(D
1)を有する薄肉のラテックス管(Primeline Industries)を、外径8.0mm(D
2)を有するマンドレル上で伸ばし、円周方向の長さを151%増加させた。この新しい、より大きい円周で、PDO縫合糸(1.0メートル、Ethicon)を、ラテックス管の長さにわたってらせん状に手で巻いた。縫合糸の頂部に液体ラテックス(Environmental Technologies, Inc.)の薄層を塗布することによって、PDO縫合糸を適所に固定した。
【0159】
室温および標準気圧(大気圧)で硬化させた後、複合体をマンドレルから取り出し、この時点で直径を最初の直径(D
1)に戻した。次いでMTS Bionix引っ張り試験システム(MTS, Inc.)で標準的に実行してこの複合体を試験した。簡単に言えば、管を特別に束縛して取り付け、破損が起こるまで5mm/秒の速度で歪をかけた。
【0160】
同じ薄肉のラテックス管(D
1)を、より大きい直径(D
2)のマンドレル上で伸ばし、円周方向の長さを151%増加させた。この新しい円周で、管壁の厚さの半分を超えて貫入しないで、らせん状に管の円周の周囲に、Vicryl縫合糸材料(1.5メートル、Ethicon)を手で縫合した。接着剤のコーティングは必要でなかった。先に述べたように、破損するまで試験を実施した。
【0161】
結果
これらの試験試料のそれぞれの引っ張り負荷は、最初の低弾性率(スチフネス)領域、その後の最初の弾性率から1桁以上増加した弾性率への鋭い上昇を特徴とする「J」字型曲線をもたらした。
図8は、ラテックス/PDO構造の得られた挙動を示す。最初の弾性率および最終的な弾性率の計算値は、それぞれ0.3MPaおよび2MPaである。
図9は、ラテックス/Vicryl構造の得られた挙動を示す。この試料の弾性率は、曲線の最初の領域および最終的な領域のそれぞれについて、2MPaおよび20MPaであると計算された。
図10は、PDOおよびVicrylのそれぞれの応力/歪挙動を実証し、これらはそれぞれ、3GPaおよび9GPa〜18GPaの弾性率を有する。
図11は、ラテックスの応力/歪関係を実証し、これは、0.3MPa〜0.5MPaの弾性率を有する。
【0162】
これらの結果は、引っ張り成分を堆積する前に、弾性成分を伸ばすことを伴う主要な要因を用いて「J」字型の機械的挙動を生成するために、2成分システムを使用することの実現可能性を例示する。層堆積における他の変形も可能である。例えば、ラッピング、注型、エレクトロスピニング、またはこれらの任意の組合せによって作製された1つまたは複数の層。
【0163】
材料選択も、一方の材料が低弾性率を伴って高度に弾性であり、他方の材料が高弾性率(他の材料より最低でも1桁大きい)および低弾性である限り、利用可能な材料に基づく広範囲の組合せに開かれている。材料についての可能な選択は、本明細書に記載されている。
【0164】
様々な材料、様々な予歪値、および様々な層の厚さの選択を用いて、足場設計における「J」字型機械的挙動に対して、高度の調整力(tenability)が利用可能である。
【0165】
(実施例2)
堅い外側層(引っ張りエレメント)に結合した弾性内側層の組合せも試験した。内側層はエレクトロスピニングしたポリウレタン(PU)であり、外側層はエレクトロスピニングしたポリグリコール酸(PGA)である。
【0166】
方法
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)中の10%PU、およびHFIP中の10%のPGAが、エレクトロスピニングにおいて使用したベース溶液であった。標準的なエレクトロスピニング手順を利用して、5mmのODのマンドレル上に10%のPU約2ミリリットルをエレクトロスピニングした。完了した後、PU管を、5mmのODのマンドレルから回転して外し、8mmのODのマンドレル上に回転して取り付けた。5mmのODおよび8mmのODのマンドレルの使用は、円周方向の長さの60%の増加に匹敵する。
【0167】
次いで拡張したPU管の表面上に、完全にコーティングされるまで、10%のPGAをエレクトロスピニングし、これはPGA溶液約1mlの全体積に匹敵した。コーティングした後、層間剥離を最小限にするように注意を払いながらハイブリッド管を取り出した。
【0168】
サブサンプルを純粋なPUから取り、MTS Bionix引っ張り試験システム(MTS, Inc.)で標準的に実行して、PGA管を、積層ハイブリッドとともに試験した。簡単に言えば、管を特別に束縛して取り付け、破損が起こるまで5mm/秒の速度で歪をかけた。
【0169】
結果
図12は、純粋なPGAおよび純粋なPUから構築した管の応力/歪挙動、ならびに上述したように構築した両材料のハイブリッドから得られた応力/歪挙動の両方を例示する。ハイブリッドの引っ張り負荷は、最初の低弾性率(スチフネス)領域、その後の最初の弾性率の約2倍の弾性率(0.5MPa対0.24MPa)までの鋭い上昇を特徴とする「J」字型曲線をもたらした。
【0170】
図13は、天然のブタ頸動脈と比較した、PU/PGAハイブリッドの得られた応力/歪挙動を示す。
【0171】
これらの結果は、引っ張り成分を堆積する前に、弾性成分を伸ばすことを伴う重要な要因を用いて「J」字型の機械的挙動を生成するために、少なくとも2成分システムを使用することの実現可能性を支持する。2成分システムの他の繰り返しは、材料選択の変化、および追加の層の堆積を包含する。例えば、両層は、予め形成された層として提供することができ、またはラッピング、注型、エレクトロスピニング、およびこれらの任意の組合せによって形成することができる。
【0172】
(実施例3)−拡大するマンドレルを使用した足場形成
ここでは、本発明者らは、多成分の構成的な改変を通じて、天然血管の複雑な応力/歪挙動を反復することに成功する新規の方法を記載する。さらに、この方法は、材料選択と形成プロセスの変形の組合せを通じて、これらの複雑な生体力学的特性を「調整」するための機会を提示する。Tecothane 1074またはポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン、およびポリグリコール酸で編まれたメッシュ管で作製された管状足場は、0.5MPa〜3.97MPaの弾性率、および平均1676mm−Hgの破裂圧力を有する、天然血管に特徴的な応力/歪挙動を生じた。
【0173】
10%のポリウレタン(PU:Tecothane 1074、Lubrizol, Inc.)および12%のポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)(PLCL:Lakeshore Biomaterials)を、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP:Sigma)中に原液として維持した。これらの材料の長さ12cmの管(内径4mm〜6mm、約4〜5mlの原液)を、他で記載したようにエレクトロスピニングによって形成した(Dahl 2007年 上記を参照)。PUおよびPLCLについてのエレクトロスピニングパラメータを表3に示す。
【0174】
【表3】
エレクトロスピニングの後、受託開発のマンドレルを管中に挿入する。この受託開発のマンドレルは、円形断面を維持しながら、エンドウェッジによって離された複数のセクションからなる(
図5に例示した)。この様式では、ポリマー管を短時間でより大きい内部/外部直径にすることができる。例えば、このマンドレルは、6mmの内径(ID)を有する管について最大160%、または4mmのIDを有する管について最大250%、管の内径を増加させる。IDを増加させた後、マンドレルをその元の設定値に戻すことによって、管をその元の直径に弾性的に後退させることができる。
【0175】
PUまたはPLCLの6mmのIDの管を、8mmのIDのポリグリコール酸(PGA)で編まれたメッシュ管(Concordia)中に挿入した後、その元の直径の140%(新しい直径)に拡大した。この新しい直径で、PUまたはPLCL管を、編まれたメッシュPGA管によってしっかりと結合させた。この時点で、合成物(PUまたはPLCL)のそれぞれの層の間で、メッシュの接着サンドイッチを可能にする様式で、メッシュおよび管の頂部に、PUまたはPLCLの追加の薄層(ポリマー溶液約1ml)をエレクトロスピニングした。PUまたはPLCL管/PGAメッシュ複合体を、最初に利用したPUまたはPLCL管の元の直径に戻させた。下にある管の収縮は、メッシュ管を同調させ、波形をつけられた(よじれた)均一な表面特徴を生じる。この「拡大するマンドレル」プロセスの図解を
図4Eに示す。
【0176】
足場形成
図15A〜Bは、拡大するマンドレル技法を使用して構築される足場に一般的な肉眼像を例示する。このPU/PGA足場の長さを伝わる波形が、低拡大率A)、および大拡大率B)で眼で見える。足場の大きさは約12cmである。
【0177】
図16A〜BはPU/PGA足場の5倍の断面図を示し、拡大するマンドレル技法の結果として形成された円周方向に均一な波形をさらに例示する。
図15Aに示したスケールバーは700μmである。
図16Aにおいて、PGAは存在しないが、形成プロセスはPGAメッシュが存在する
図16Bにおいて行った形成プロセスと同じままである。両画像において、この形成プロセスの結果として波形を見ることができ、メッシュの存在の結果として
図16Bにおいて波形が強調されている。
図16Aにおいて波形の程度が小さいのは、PU管の拡大後に塗布したPUの追加の層のためである。足場の壁厚および長さは、一般にそれぞれ700μmおよび12cmの程度である。
【0178】
(実施例4)−機械的検査
破裂圧力試験
社内製の破裂試験装置は、高圧シリンジポンプ(Cole−Parmer)、ステンレス鋼の20mlシリンジ(Cole−Parmer)、および較正された最大100psiの液体/ガス圧力計(Omega)からなっていた。このシステムは、Labview
v8.5、およびコンパクトフィールドポイント(National Instruments)を使用して制御した。試験の間に確実に漏れがないようにするために、管状足場の内側管腔を、円筒形の5mmのIDの標準的なラテックスバルーン(Unique Industries, Inc.)で裏打ちした。破損が起こるまで、液体体積を1ml/分の定常速度で足場に送達した。機械的破損直前の最大値が、報告される破裂圧力値である。
【0179】
円周方向の試験(環試験):次いで、MTS Bionix引っ張り試験システム(MTS, Inc.)で標準的に実行して足場を試験した。簡単に言えば、足場を特別に束縛して取り付け、破損が起こるまで5mm/秒の速度で変位をかけた。試験した足場の寸法(厚さ、開始長、幅)を慎重にマイクロメートル測定して、得られた未処理の力/変位データを応力/歪プロットに変換した。
【0180】
結果
試験した管状足場は、2成分システムに相応した応力/歪挙動を常に生じた(
図17)。すべての足場は、機械的破損の前に374±229%の移行歪で高スチフネスゾーン(E=3.97±1.6MPa)を生じる、最初の低スチフネス挙動(E=0.5±0.24MPa)からなる機械的挙動を実証する。
図18は、管状足場の破裂圧力試験からの結果を例示する。全破裂圧力は1676±676mm−Hgであった。要約データを表4に示す。
【0181】
【表4】
足場調整力:管状足場は、形成パラメータ、例えば利用される拡大するマンドレルの最終直径、PGAメッシュの伸び、およびエレクトロスピニングされる層の厚さなどに関係する様々な程度の自由を有する多成分システムである。
図19は、これらの足場の構築の可能な様々な要素である全体的な機械的特性のばらつきの一部を示す。これは、管状足場の機械的特性が調整可能であることを示す。
図19Aは、PGAメッシュ管の破損が、合成のエレクトロスピニングされた管の破損と同時に起こる、好都合な力学を表す。
【0182】
図19Bは、補強PGAメッシュ管が噛み合う前のエレクトロスピニングされた弾性管の破損を表す。この場合、拡大されたマンドレル上で、第1の管状エレメント上にはめられるとき、第2の管状エレメント上に施されるPUまたはPLCLの薄層は、通常の距離の約半分のマンドレル/針の距離、すなわち、PUについて約5cm〜約7cm、およびPLCLについて約6cm〜約8cmでエレクトロスピニングされる。針により近く近接していることは、通常の距離でのエレクトロスピニングと比較して、PU/PLCL溶液が、針から第2の管状エレメントの表面に移動する際に空気に曝される時間が減少し、これにより、より多くの量の溶媒が、第2の管状エレメントおよび下にある第1の管状エレメントに接触することを意味する。溶媒の接触が増大すると第1の管状エレメントの融解が生じ、これは第1の管状エレメントをより脆性にする。
【0183】
図19Cは、内側のエレクトロスピニングされた管が破綻する前のPGAメッシュ管の仮想の噛み合いおよび破損を表す。
【0184】
(実施例5)−エレクトロスピニングされたPLCLまたはPUとの細胞相互作用
ガラスカバーガラスをエレクトロスピニングされたPLCLまたはPUの薄層でコーティングし、その後細胞外基質タンパク質でコーティングした。フィブロネクチンコーティングについては、PBS中の5ug/mlのヒトフィブロネクチンI(Chemicon
FC010)中に、4Cで一晩足場を浸漬した。低濃度コラーゲンコーティングについては、0.1%の酢酸中の50ug/mlのラット尾コラーゲンI(BD354236)中に、RTで1時間、足場を浸漬した後、PBSで簡単に洗浄した。低濃度コラーゲン足場は、播種する前に空気乾燥した。高濃度コラーゲン足場は、3mg/mlのラット尾コラーゲンI(BD 354236)の薄層を塗布し、次いで閉じたチャンバー内で3分間足場をアンモニア蒸気に曝すことによって調製した。次いで高濃度コラーゲン足場を水で簡単に洗浄し、その後PBS中で一晩洗浄した。最後に、MATRIGEL(商標)コーティングについては、足場を、MATRIGEL(商標)溶液(BD356234)の薄層で覆い、37Cで30分間インキュベートすることによって、タンパク質重合を可能にした。
【0185】
播種の前に、フィブリン接着剤(Quixil)を用いて、すべての足場を6ウェル細胞培養皿の底部に接着させた。ヒト大動脈内皮細胞(Cascade Biologicis、C−006)を成長培地250uL中に再懸濁させ、1cm
2当たり40,000個の細胞の密度で足場表面上に直接播種した。播種された足場を37C、5%のCO
2で3時間インキュベートすることによって、十分な細胞結合を可能にした。次いで、LSGSキット成分(Cascade Biologics、S−003)で補充したMedia200(Cascade Biologics、M−200)3mlでウェルを満たした。播種された足場は、培地の交換を3日毎に行って14日間培養した。
【0186】
播種された足場をPBS中の4%のパラホルムアルデヒド中で、4Cで一晩固定した。細胞を、2ug/mlのCD31(Dako M0823)一次抗体で染色し、その後に2ug/mlのAlexa488ヤギ抗−マウスIgG1二次抗体で染色した。最後に、核を3uMのDAPI(Invitrogen)で染色した。
【0187】
図20は、静置培養における、管状足場において内側構造として使用した2つの合成物(PU/PLCL)上での細胞結合および細胞の拡散を例示する。細胞付着増強タンパク質、すなわち、フィブロネクチン、コラーゲン、およびMATRIGEL(商標)で処理した後に、この試験において使用した、エレクトロスピニングされた合成ポリマーの組織化学が示されている。いずれのコーティングもない場合、PLCLはPUより多くの細胞を保持する。3つのコーティング、すなわち、フィブロネクチン、コラーゲン1、およびMATRIGEL(商標)のうちで、MATRIGEL(商標)およびコラーゲン1(用量依存応答)は、最高数の細胞を保持するように思われた。さらに、コラーゲン1およびMATRIGEL(商標)コーティングの場合では、CD31について強い染色があり、コンフルエンシーが明白であった。
【0188】
(実施例6)−細胞播種およびバイオリアクターコンディショニング
PLCLおよびPGAメッシュから、以前に述べたように2つの管状足場を構築し、これらはそれぞれの長さが6cmおよび10cmであり、それぞれ短い、および長いと呼んだ。
【0189】
細胞播種:主要なヒト大動脈内皮細胞(HAEC;Cascade Biologics、C−006)を、2%のウシ胎児血清、1ug/mlのヒドロコルチゾン、10ng/mlのhEGF、3ng/mlのbFGF、10ug/mlのヘパリン、および1倍濃度のゲンタマイシン/アンホテリシンB溶液(Cascade Biologics、S−003)で補充したMedium 200(Cascade Biologics、M−200)中に維持した。足場に播種するために、5〜10の継代の細胞を、0.05%のトリプシン−EDTA(Gibco、25300)を用いてトリプシン処理し、1ml当たり12x10
6個で、補充されたM−200中に再懸濁させた。すべての管腔表面を覆うのに十分な体積を用いて、遠位ポートを通じて細胞懸濁液を管バイオリアクター中に注入した。すべての管を密閉した後、バイオリアクターをローラーボトル装置に移し、0.2rpmで、37Cで2時間回転させた。このステップの後、バイオリアクターチャンバーを、以下に記載される流れ回路に無菌的に接続した。
【0190】
バイオリアクターコンディショニング:
図23に例示するように、バイオリアクターシステムを、拍動性の流れを付与することができる、受託開発で設計した制御システムを用いて社内で作製した。リザーバ(A)からの流れは蠕動ポンプ(B)を通過し、逆行する流れを制限するための一方向チェックバルブ(D)を有するパルス緩衝装置(C)に入る。足場が保持されているバイオリアクターチャンバー(F)の前方の圧力トランスデューサー(E)の後に、後方の圧力トランスデューサー(G)が続き、リザーバに戻る前にピンチバルブ(H)へと続く。(図示せず:コンパクトフィールドポイントによるコンピューター制御)。
【0191】
播種された構築物を生理的な拍動性および剪断力に徐々に慣れされるために設計されたプロトコール(表5)に基づいて、8日の過程にわたってコンディショニングを行い、こうして細胞結合および組込みのための機会を最大にした。
【0192】
【表5】
8日のコンディショニングプロトコールの後に、一連の細胞アッセイを利用することによって、構築物との細胞相互作用を評価した。
【0193】
(実施例7)−コンディショニングした足場の細胞アッセイ
生/死(Live/Dead)染色(Invitrogen、L3224):各導管の遠位および近位セクションからの1つの代表的な断片を、蛍光染色のために確保した。構築物セクションを過剰のDPBS中で洗浄した。DPBSを除去し、調製した染色剤2.5mlで置換した。(DPBS 10ml、カルセインAM(緑色)20μl、エチジウムホモ二量体−1(赤色)5μl)。10分インキュベーションした後、足場セクションを、倒立蛍光顕微鏡を使用して視覚化した。断片は著しい程度の湾曲を維持しており、視覚化をかなり困難にした。ウェル内で、構築物セクションの頂部に円形のカバースリップを置くことによって、断片を平らにするのに役立てた。
【0194】
図21は、実験で利用した播種密度で、細胞は、大部分はコンフルエントであり、能動的細胞死の徴候はわずかであったことを実証する(A−短い近位;B−短い近位;C−長い近位;D−長い遠位;E−短い遠位)。長いセグメントの試料では、細胞は丸みを帯びており、無傷の内皮の明らかな形成はまったくない。短いセグメントの試料は、足場上に拡散し、細胞間結合を明らかに作っており、痕跡の内皮を示している細胞を示す。
【0195】
バイオリアクター内で細胞播種およびコンディショニングした後の、長い、および短いPLCL/PGAメッシュの血管状(vascular tubular)足場からの近位および遠位のセグメント(流れの入口および出口に対して)の生/死染色を示す。いずれの非生細胞も赤色で強調されている。
【0196】
全血凝固アッセイ:ACD全血4.25mlを、塩化カルシウム(0.1M)425μlを添加することによって活性化した。十分混合した活性化された血液のアリコート10μlを、対照または足場表面上に置き、様々な長さの時間インキュベートした。所定の時点で蒸留水300μlを添加し、これは、血餅中に組み込まれなかったRBSを溶解する。得られる水/ヘモグロビン溶液の吸光度を読み、これは凝固の量に反比例する。ガラスカバースリップは、凝固に対する陽性対照表面として機能を果たし、CoStar Low Binding 6ウェルプレートは、陰性対照表面として機能を果たした。
【0197】
図22は、対照と比較した、播種された移植片足場についての時間の関数としての凝固発生を示す。播種された、コンディショニングされた足場セグメント、陽性および陰性対照、ならびに播種されていない/コンディショニングされていない足場材料上の全血凝固が示されている。陽性対照は、35分で最大付近の凝固(85%)を発生し、45分でそれほど増大しない。播種されていない対照では、35分と45分の時点の間で、40%の凝固から最大の凝固(約75%)への上昇が見られる。陰性対照は、実験の開始時点で痕跡の凝固を示すが、すべての残りの時点について、一貫して凝固をまったく示さない。最後に、播種された移植片は、15分の時点で最大の凝固(約30%)を示すが、45分までに約10%の凝固に減少した。
【0198】
eNOS検出:eNOS産生は、健康な、無傷の内皮を示す。製造者のプロトコールに従って、R&D SystemのeNOS ELISAシステムを使用して、細胞に関連するeNOSを定量化した。足場断片、すなわち各構築物からの4断片(2つの遠位および2つの近位)を、細胞溶解緩衝液150μlとともに微小遠心管中に入れた。次いでこれらの溶解産物を、アッセイするまで−80Cで凍結した。解凍して溶解産物を遠心分離することによって細胞の残骸を除去すると、各試料から100μlがアッセイに利用可能であった。
【0199】
表6は、播種およびコンディショニングされた移植片管状足場からのeNOS産生の結果を示す。長い、および短い、播種され、コンディショニングされた管状足場の両方から単離されたセグメント中のeNOS産生の検出が示されている。eNOSは、移植片の表面積に対して正規化されている。短い移植片では、大量のeNOS(約500pg eNOS/0.25cm2)が両試料中で検出された。短い足場では、0.25cm2当たり62.5pg未満のeNOSが各試料中で検出され、報告している正のeNOSについての閾値未満の短いグラフを占めている。
【0200】
【表6】
代謝分析:各足場は、その8日のインキュベーション/コンディショニングのために900mlの培地を有した。短いおよび長い足場に関して、グルコースおよび乳酸において検出された全体的な変化は同等であったが、グルコースの使用は、長い足場の方が短い足場と比較してわずかに少なく(それぞれ0.07g/Lおよび.008g/L)、乳酸産生は、各移植片について0.053g/Lであった。アンモニア産生は、長い移植片の方が短い移植片と比較した場合わずかに高かった(それぞれ0.880mmol/L対0.783mmol/L)。
【0201】
表7は、消費されたバイオリアクター培地の代謝分析を示す。各バイオリアクターから確保された培地を、Nova BioProfile 400で分析し、結果を新鮮な培地対照と比較した。
【0202】
【表7】
実施例1〜7は、天然血管を連想させる「J」字型の機械的挙動を生成するために、多成分システムを使用することの実現可能性を例示し、引っ張り成分(PGAメッシュ管)を堆積する前に、弾性成分(PU、またはPLCL)が伸ばされる。この技法は、血管において見られる様式と同様の様式で機能する(たとえより大きいスケールにおいてでも)、波形をつけられた/よじれた構造を提供する。
【0203】
管状足場の機械的試験は、天然血管において一般に見られる弾性率1と弾性率2の1桁の差を実証した(
図1参照)。さらに、天然血管において見られる値を正確に一致させるために、引っ張り材料としてPGAを選択し、弾性材料としてPLCLまたはPUを選択した(表1)。実際に、管状足場を提供または形成するための技法は、一方の材料が低弾性率を伴って非常に弾性であり、他方の材料が高弾性率であり(他方の材料より最低でも桁で大きい)、低弾性である限り、合成であっても天然であっても、多くの材料選択肢に適用することができる。
【0204】
平均の変曲点の位置(すなわち、弾性率1から弾性率2への移行が起こる歪)は、約374%の歪単位であった。一般に、天然血管では、この移行部は約100%の染色単位付近で見られる(表1)。この値についての説明は、実験において利用される、編まれたPGAメッシュ管の静止直径および特性、ならびに対応して、拡大するマンドレルの直径を増加させる能力に関係する。例えば、管状足場における変曲点をより低い値にシフトさせるためには、繊維が負荷に遭遇し始める前に、編まれた管がその静止直径を超えてどの程度拡大するかを理解しなければならない。負荷の前の編まれたメッシュの拡大特性およびその静止内径を調整する能力を用いて、どの歪でメッシュが噛み合い、結果としてこの値で内側の弾性管を結合するかを選択することができる。
【0205】
PGAメッシュはかなりの量の負荷に耐えることができる。実際にこれは、1676mm−Hgという平均の生理的に妥当な破裂圧力を観察することができるという知見によって実証される。しかしこの方法は、メッシュに限定されない。上述したように、様々な材料を利用することができるが、引っ張り外側層(ならびに内側弾性層)を塗布するための様々な技法も扱うことができる。例えば、後の繰り返しは、ラップされる層、注型される層、エレクトロスピニングされる層、またはこれらの任意の組合せを包含し得る。
【0206】
細胞播種実験およびバイオリアクターコンディショニング実験は、管状足場がどのようにインビボで機能するかについての洞察を提供した。
図20に示したように、コラーゲン1、MATRIGEL(商標)、またはフィブロネクチンで足場をプレコーティングすることなどの、細胞結合を増強するための標準的な処理は、合成材料との細胞:細胞および細胞:バイオマテリアル相互作用の両方において著しい改善を示す。細胞結合を増強するための他の方法には、それだけに限らないが、この試験で利用されるバルクの合成ポリマーの化学修飾が含まれる。
【0207】
コンディショニングされた足場の生/死アッセイは、非生細胞の存在をほとんど示さなかった。実際に、長い移植片および短い移植片の両方は、細胞密度において同じ有効範囲を有するように思われた。しかし長い移植片上で、細胞形態において明らかな差があった。
図22中に一まとめにされた凝固結果は、移植片上の細胞の存在に対して利点を明らかに示すが、長い足場においてeNOS(表6)が欠けていた。eNOS産生は、健康な、無傷の内皮を示すことが公知であり、細胞は、長い移植片上に明らかに存在するが、これらは短い足場に見られる様式と同じ様式で拡散しておらず、隣接する細胞と結合を形成していない。これらの2つの足場は同じ材料であり、同じ様式で作製されたことを考慮すると、これは、これらの足場のコンディショニングがどういうわけか異なっていたことを示す。実際に、両移植片に同じコンディショニングプロトコールを与えたが、1つの可能な説明は、幾何学的な考慮事項が、異なる足場内の流れの差に導いた場合があることである。流体力学的要因への細胞感度を考慮すると、これは、乱流状態が、長い足場において見られる丸みを帯びた形態の細胞、およびこれらの結果として起こるeNOS発現の欠如に導いたということである場合がある。さらに、eNOS発現に見られる不一致は、8日のコンディショニングプロトコールの過程の間で、長い足場と短い足場の間のグルコース消費におけるわずかな変化(長い足場がわずかに少なく消費する)を示す代謝データ(表7)において示されている場合がある。長い移植片によるeNOS産生の欠如とともに、この知見は、長い移植片中の細胞の活性の低い表現型をおそらく示すものである。
【0208】
天然血管の複雑な力学を模倣する能力を有する多成分管状足場を形成するための新規の構造的技法が本明細書に記載される。技法および材料選択の両方の融通性により、血管特性のかなり正確な調整、したがって正確なマッチングが可能になる。将来、血管移植片環境におけるコンプライアンスミスマッチを最小限にし、または取り除く長期の利点を評価するためのインビボ動物実験を実施することができる。
【0209】
(実施例8)−足場上の播種された細胞の保持
インビボ移植後の、TEBV上に播種された細胞の保持は、Flugelmanの米国公開特許出願第20070190037号の実施例26の改良版で評価することができる。
【0210】
本発明の組織工学による血管(TEBV)は、管腔側上の組織工学による足場に内皮細胞を播種し、外膜側上に平滑筋細胞を播種することによって調製される。
【0211】
ウサギに麻酔をし、次いで挿管した。実験の間のモニタリングシステムには、血圧測定、パルス酸素飽和度測定、およびECGが含まれる。移植片移植のためにTEBVを露出し、準備した後、全身抗凝固のためにヘパリンを静脈内に注射する。手順の間に定期的に血液試料を採取して(例えば、30分毎)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)を測定することによってヘパリン処置の有効性を評価する。
【0212】
次いでTEBVを頸動脈および大腿動脈中の端側に(end to side)、両側に移植する。移植したTEBVを血流に曝して30分後、かつ回収する前に、直接の触診、ドップラー流量計(Transonic Animal Research Flowmeter、NY、USA)を使用した流量測定によって、および選択的な血管造影を実施することによってTEBVの開存性を評価する。
【0213】
大腿および頸動脈の移植したTEBVを移植して2時間後に回収する。回収したTEBVの内側表面上の細胞保持を蛍光顕微鏡観察によって分析する。
【0214】
(実施例9)−インビボ動静脈シャント(A−Vシャント)
本発明のTEBVのインビボの有効性は、Corteらの米国特許第7,459,564号に記載されている、「In Vivo Rabbit Arterio−Venous Shunt Thrombosis Model」の改良版で試験することができる。
【0215】
適切な体重のウサギを麻酔する。本発明の食塩水で満たしたTEBVを、大腿動脈カニューレと大腿静脈カニューレの間に接続する。血液は、動静脈シャント(AV−シャント)として作用するTEBVを介して大腿動脈から大腿静脈へと流れる。TEBVの開存性は、当技術分野で公知の様々な技法を使用して、このモデルを使用してインビボで評価することができる。例えば、著しい狭窄を伴わずに移植片を通る血流の存在、および目詰まりの非存在が評価される。超音波技法を移植したTEBVを観察するのに使用することができる。TEBVの、針穿刺から回復する能力も、開存性を試験するのに使用される。試験の最後に動物を屠殺し、移植したTEBVを取り出して、TEBV上の細胞の数、および播種した細胞がインビボの間に再生プロセスを開始した範囲などをさらに検査する。さらに、TEBVの機械的特性を評価し、天然の血管移植片および/または移植前のTEBVの機械的特性と比較する。
【0216】
同じタイプのAV−シャントモデルを、位置間血管移植片に使用されるTEBVの開存性を試験するのに使用することができる。