特許第5978441号(P5978441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5978441-油圧式無段変速機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978441
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】油圧式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 39/14 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   F16H39/14
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-120541(P2012-120541)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-245779(P2013-245779A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 正広
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭太
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−066823(JP,A)
【文献】 特開2006−275224(JP,A)
【文献】 特開2001−140951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/00−37/16、39/00−47/12、
49/00、61/14、61/38−61/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転動力が入力される入力軸と、
前記入力軸に対して動力伝達可能に接続された油圧式無段変速部と、
前記入力軸に沿うように配され、前記油圧式無段変速部の出力側に動力伝達可能に接続された出力軸と、
前記入力軸、前記油圧式無段変速部、及び前記出力軸を収容するハウジングとを有し、
前記油圧式無段変速部が、
エンジンの回転動力が入力される入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用のプランジャと、
前記油圧ポンプ用プランジャの先端に摺接する油圧ポンプ用の斜板と、
前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用のプランジャと、
前記油圧モータ用のプランジャの先端が摺接する油圧モータ用の斜板とを有し、
前記油圧ポンプ用の斜板及び油圧モータ用の斜板のうち、一方の斜板が前記入力軸に対して揺動可能かつ回転不可能な第一クレードルに対して前記油圧ポンプ用のプランジャが摺接する第一斜板本体が支持されたものであり、他方が前記入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能な第二クレードルに対して前記油圧モータ用のプランジャが摺接する第二斜板本体が支持されたものであり、
前記第二クレードルが、アンギュラボールベアリングを介してハウジングに対して回転可能に支持されると共に、前記入力軸との間に配された第二クレードル支持用のボールベアリングを介して回転可能に支持されており、
前記入力軸において第二クレードル側の端部が、前記ハウジングに対して入力軸支持用のボールベアリングによって支持されており、
前記アンギュラボールベアリング及び前記入力軸支持用のボールベアリングが、前記入力軸及び前記出力軸に対して交差する方向に重複する位置に設けられていることを特徴とする油圧式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに対して油圧ポンプと油圧モータとを配置してなる油圧式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HMT(Hydraulic Mechanical Transmission)あるいはこれに類する油圧式無段変速機として、下記特許文献1〜3等に開示されているようなものが提供されている。この油圧式無段変速機は、シリンダブロックに対し、可変容量型の油圧ポンプおよび油圧モータを配置した構成とされている。この油圧式無段変速機は、油圧ポンプ用構成部材として、上記シリンダブロックの軸線方向一方に、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧ポンプ用プランジャ、該油圧ポンプ用プランジャの端部に摺接する油圧ポンプ用斜板、該油圧ポンプ用斜板の傾斜量を変化させる油圧サーボなどを備えている。また、上記シリンダブロックの軸線方向他方には、油圧モータ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧モータ用プランジャ、該油圧モータ用プランジャの端部に摺接する固定傾斜角の油圧モータ用斜板などを備えている。
【0003】
シリンダブロックは入力軸と一体に回転し、このシリンダブロックに嵌入された油圧ポンプ用プランジャが軸線方向に対して傾斜した油圧ポンプ用斜板等によって往復動されて、油圧を発生させる。これにより発生した油圧によって油圧モータ用プランジャを往復動させることで、当該油圧モータ用プランジャに押圧される油圧モータ用斜板が回転される。
【0004】
上記特許文献1〜3に開示されているような油圧式無段変速機においては、油圧ポンプ用斜板及び油圧モータ用斜板のうち一方が入力軸に対して揺動可能かつ回転不可能なクレードル(以下、「第一クレードル」とも称す)に対してプランジャが摺接する斜板本体が支持されたものとされている。また、他方の斜板は、入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能なクレードル(以下、「第二クレードル」とも称す)に対して斜板本体が支持された構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−185111号公報
【特許文献2】特開2012−66823号公報
【特許文献3】特開2006−275224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した油圧式無段変速機を自動車等の車両に搭載する場合には、燃費特性の向上、重量増加の抑制、あるいは製造コストの抑制等の観点から、動力伝達ロスを最小限に抑制しつつ、安価かつ最小限の数量のベアリングにより各部を軸支可能な構成とすることが望ましい。しかしながら、上記特許文献1,2に開示されている油圧式無段変速機においては、入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能な斜板が、テーパーローラベアリング及びニードルローラベアリングを用いて支持されている。テーパーローラベアリングやニードルベアリングは、動力伝達ロスが大きく高価である。そのため、上記特許文献1,2に係る油圧式無段変速機によっては、前述した種々の問題を解消し得ない。
【0007】
また、上記特許文献3に開示されている油圧式無段変速機においては、入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能な斜板を、ハウジング及び軸を用いて支持した構成が開示されている。具体的には、特許文献3に開示されている油圧式無段変速機においては、ラジアル力をハウジング及び軸との間に設けられた2個のボールベアリングで支持し、スラスト力をアンギュラボールベアリングによって支持した構成とされている。特許文献3の構成を採用した場合には、斜板の外径側及びシリンダブロックの外径側にボールベアリングが配置されるため、駆動時に周速の増加を招き、伝達トルクロスが大きくなるという問題が生じる。また、特許文献3の構造においては、少なくとも3つのベアリングが必要となるため、その分だけ動力伝達ロスや重量が増加し、燃費特性が悪化してしまうという問題がある。また、多数のベアリングを用いることにより、製造コストが高くつくという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は、動力伝達ロスを最小限に抑制しつつ、小型かつ軽量であって製造コストが安価な油圧式無段変速機の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の油圧式無段変速機は、エンジンの回転動力が入力される入力軸と、前記入力軸に対して動力伝達可能に接続された油圧式無段変速部と、前記入力軸に沿うように配され、前記油圧式無段変速部の出力側に動力伝達可能に接続された出力軸と、前記入力軸、前記油圧式無段変速部、及び前記出力軸を収容するハウジングとを有し、前記油圧式無段変速部が、エンジンの回転動力が入力される入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用のプランジャと、前記油圧ポンプ用プランジャの先端に摺接する油圧ポンプ用の斜板と、前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用のプランジャと、前記油圧モータ用のプランジャの先端が摺接する油圧モータ用の斜板とを有し、前記油圧ポンプ用の斜板及び油圧モータ用の斜板のうち、一方の斜板が前記入力軸に対して揺動可能かつ回転不可能な第一クレードルに対して前記油圧ポンプ用のプランジャが摺接する第一斜板本体が支持されたものであり、他方が前記入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能な第二クレードルに対して前記油圧モータ用のプランジャが摺接する第二斜板本体が支持されたものであり、前記第二クレードルが、アンギュラボールベアリングを介してハウジングに対して回転可能に支持されると共に、前記入力軸との間に配された第二クレードル支持用のボールベアリングを介して回転可能に支持されており、前記入力軸において第二クレードル側の端部が、前記ハウジングに対して入力軸支持用のボールベアリングによって支持されており、前記アンギュラボールベアリング及び前記入力軸支持用のボールベアリングが、前記入力軸及び前記出力軸に対して交差する方向に重複する位置に設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の油圧式無段変速機においては、第二クレードルが、アンギュラボールベアリングによりハウジングに対して回転可能に支持されると共に、入力軸との間に配されたボールベアリングにより入力軸に対して揺動不可能かつ回転可能なように支持されている。本発明においては、テーパーローラベアリングあるいはニードルベアリングのように、動力伝達ロスが大きくて高価なベアリングを用いることなく、第二クレードルを支持することができる。また、第二クレードルの支持に必要なベアリングの数量を最小限に抑制することができる。そのため、本発明によれば、動力伝達ロスが少なく、小型かつ軽量であって製造コストが安価な油圧式無段変速機を提供することができる。
【0011】
また、本発明の油圧式無段変速機においては、入力軸の端部を支持するために設けられた入力軸支持用のボールベアリングがハウジングに対して取り付けられている。この入力軸支持用のボールベアリングは、第二クレードル支持用に設けられたアンギュラボールベアリングに対して入力軸及び出力軸に対して交差する方向(軸間方向)に重複する位置関係となるように設けられている。これにより、油圧式無段変速機を軸間方向にコンパクトな構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、動力伝達ロスを最小限に抑制しつつ、小型かつ軽量であって製造コストが安価な油圧式無段変速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る油圧式無段変速機を搭載した車両のドライブトレーンの一部を示した断面図である。
図2】増速比と斜板角度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る油圧式無段変速機10について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に示した油圧式無段変速機10は、いわゆるHMTあるいはこれに類するものである。油圧式無段変速機10は、入力軸20、シリンダブロック30、油圧ポンプ用プランジャ40、油圧ポンプ用斜板50、油圧モータ用プランジャ60、油圧モータ用斜板70、及び斜板傾斜調整機構100等を主要な構成部材として備えている。
【0015】
油圧式無段変速機10は、シリンダブロック30に対して可変容量型の油圧ポンプPおよび油圧モータMを配置することにより構成された油圧式無段変速部Xを有する。油圧式無段変速部Xは、入力軸20とシリンダブロック30とが一体的に回転することにより油圧ポンプPにおいて発生する油圧を油圧モータMに供給し、回転動力を出力部90に出力させることが可能とされている。以下、油圧式無段変速部Xを中心として構成される油圧式無段変速機10の各部の構成について、さらに詳細に説明する。
【0016】
入力軸20は、ボールベアリング22,24を介してトランスミッションケース16内において回転自在に支持されている。具体的には、トランスミッションケース16は、入力軸20の先端側(動力伝達の下流側)に壁面16aを有する。壁面16aにおいて入力軸20に対応する位置には、入力軸用ボス部16bが設けられている。入力軸20は、入力軸用ボス部16b内に設けられたボールベアリング22により、先端部が回転自在に支持されている。また、入力軸20の基端側(動力伝達の上流側)は、ボールベアリング24により回転自在に支持されている。入力軸20には、エンジン(図示せず)の回転動力が、ダンパー12、オイルポンプ14等を介して伝達される。
【0017】
シリンダブロック30は、入力軸20の途中位置に一体的に設けられている。シリンダブロック30の軸線方向一方側(エンジン側)には、油圧ポンプPが構成され、他方側には油圧モータMが構成されている。
【0018】
具体的には、油圧ポンプPは、シリンダブロック30の一方側に設けられた油圧ポンプ用プランジャ40、及び油圧ポンプ用斜板50によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、シリンダブロック30の一方側(エンジン側)に、軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、スプリングによって油圧ポンプ用斜板50側に付勢されている。なお、本実施形態では油圧ポンプ用プランジャ40は3個以上の奇数個とされている。
【0019】
油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52(第一クレードル)、ポンプ用斜板本体54、及びベアリング56,58によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52に対し、ポンプ用斜板本体54を装着した構成とされている。ポンプ用クレードル52とポンプ用斜板本体54との間には、ベアリング56,58が介在している。これにより、ポンプ用斜板本体54は、ポンプ用クレードル52に対して回転自在に支持されている。
【0020】
ポンプ用クレードル52は、入力軸20の軸線回りに回転不能に支持されている。また、ポンプ用クレードル52は、後に詳述する斜板傾斜調整機構100に対して接続されている。従って、油圧ポンプ用斜板50は、斜板傾斜調整機構100を作動させ、ポンプ用クレードル52を入力軸20の軸線上に位置する揺動中心Oを中心として揺動させることにより、ポンプ用斜板本体54の入力軸20の軸線に対する傾斜量を任意に調整することができる。
【0021】
油圧ポンプPは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧ポンプ用プランジャ40が軸線回りに回転することにより、ポンプ作用を発動する。具体的には、入力軸20に連動してシリンダブロック30が入力軸20の軸線回りに一周する間に、シリンダブロック30とポンプ用斜板本体54との間において各油圧ポンプ用プランジャ40がストローク可能な長さが増減する。そのため、入力軸20の回転に伴い、シリンダブロック30及びこれに装着されている油圧ポンプ用プランジャ40が入力軸20の軸線回りに回転すると、ポンプ用斜板本体54に摺接している油圧ポンプ用プランジャ40が往復動し、ポンプ作用を発動する。油圧ポンプPにおいて発生する油圧は、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量に応じて調整できる。油圧ポンプPにおいて発生した油圧は、油圧モータM側(油圧モータ用プランジャ60の基部を押圧するシリンダブロック30内の油圧室)に供給される。
【0022】
油圧モータMは、シリンダブロック30の軸線方向他方側(エンジン及び油圧ポンプPとは反対側)に設けられた油圧モータ用プランジャ60、及び油圧モータ用斜板70によって主要部が構成されている。油圧モータ用プランジャ60は、入力軸20の軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧モータ用プランジャ60は、スプリングによって油圧モータ用斜板70側に付勢されている。油圧ポンプ用斜板50と油圧モータ用プランジャ60とはシリンダブロック30内での周方向位置を違えている。なお、本実施形態では油圧モータ用プランジャ60は3個以上の奇数個とされている。
【0023】
油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72(第二クレードル)、モータ用斜板本体74、及びベアリング76,78によって主要部が構成されている。油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72に対し、モータ用斜板本体74を装着した構成とされている。モータ用クレードル72とモータ用斜板本体74との間には、ベアリング76,78が介在している。これにより、モータ用斜板本体74は、モータ用クレードル72に対して回転可能に支持されている。
【0024】
モータ用クレードル72は、上述したポンプ用クレードル52とは異なり角度調整不可能とされている。具体的には、モータ用クレードル72は、ボールベアリング80を介して入力軸20に対して相対回転自在に支持されている。また、油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72の端部において外周側に装着されたアンギュラボールベアリング88により、トランスミッションケース16内に回転自在に支持されている。さらに詳細には、トランスミッションケース16の壁面16aには、入力軸20の先端側(動力伝達の下流側)に、モータ用クレードル72の端部を挿入可能なクレードル用ボス部16cが設けられている。モータ用クレードル72は、クレードル用ボス部16c内に設けられたアンギュラボールベアリング88により、回転自在に支持されている。アンギュラボールベアリング88は、入力軸20の支持用に設けられたボールベアリング22に対して入力軸20及び出力軸92に対して交差する方向にラップ(重複)する位置に設置されている。
【0025】
モータ用斜板本体74は、上述したモータ用クレードル72に対して装着されている。そのため、油圧モータ用斜板70は、上述した油圧ポンプ用斜板50のポンプ用斜板本体54とは異なり、モータ用斜板本体74の傾斜量を変化させることができない。また、モータ用斜板本体74には、油圧モータ用プランジャ60の先端部が摺接している。
【0026】
油圧モータMは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧モータ用プランジャ60が入力軸20の軸線回りに回転することにより、モータとしての機能を発揮する。具体的には、油圧モータ用プランジャ60は、油圧ポンプ側から供給される圧油によって往復動摺動し、油圧モータ用斜板70にスラスト荷重を与えつつ、シリンダブロック30と共に入力軸20の軸線回りに回転する。これにより、油圧モータMがモータとしての機能を発揮し、出力部90に向けて回転動力を出力させることができる。油圧モータMから出力される回転速度(減速比)は、上述した油圧ポンプPから供給される油圧に応じて変化する。そのため、斜板傾斜調整機構100を作動させて油圧ポンプ用斜板50の傾斜を変化させることにより、出力部90に出力される回転速度(減速比)を調整することができる。
【0027】
出力部90は、油圧ポンプPの作用に伴い発生した回転動力を差動ギア120及びこれに接続されたドライブシャフト122に向けて出力する部分である。出力部90は、入力軸20に対して略平行に配置された出力軸92(第二軸)を中心として構成されている。出力軸92は、トランスミッションケース16の壁面16aに形成された出力軸用ボス部16d内に設けられているボールベアリング93を介して回転自在に支持されている。ボールベアリング93は、上述したポンプ用クレードル52の支持用として設けられたアンギュラボールベアリング88、及び入力軸20の支持用として設けられたボールベアリング22に対して入力軸20及び出力軸92に対して交差する方向にラップ(重複)する位置に設置されている。また、出力軸92には、軸方向に湿式摩擦クラッチ95、パーキングギア97、及び平行軸ギア98がこの順で設けられている。
【0028】
出力軸92の一端側には、第二平行軸ギア96が一体的に回転可能なように設けられている。また、第二平行軸ギア96は、モータ用クレードル72の外周部に一体的に設けられた第一平行軸ギア94と噛合している。そのため、油圧ポンプPの作動によって発生した回転動力を、両ギア94,96を介して入力軸20から出力軸92に伝達させることができる。また、出力軸92の他端側には、平行軸ギア98が設けられている。平行軸ギア98は、差動ギア120側に設けられた平行軸ギア124と噛合している。そのため、油圧ポンプPから出力軸92に伝達された回転動力を、差動ギア120を介してドライブシャフト122に伝達させることができる。
【0029】
図2に示すように、油圧式無段変速機10は、斜板傾斜調整機構100を用いて油圧ポンプ用斜板50の傾斜を調整することにより、出力部90を介してドライブシャフト122に出力される回転速度(減速比)の調整を行うだけでなく、出力される回転方向を切り替えることができる。具体的には、斜板傾斜調整機構100は、油圧ポンプ用斜板50のポンプ用クレードル52に接続された接続片102と、接続片102に接続されたアクチュエータ104とを有する。斜板傾斜調整機構100は、アクチュエータ104を作動させることにより、モータ用クレードル72を揺動させ、傾斜量を調整することにより、回転速度を調整できる。さらに、減速比が無限大となる角度よりもさらに減速側にモータ用クレードル72を傾斜させることにより、回転方向を後進側に切り替えることができる。
【0030】
ここで、油圧式無段変速機10においては、アクチュエータ104を収縮させ、油圧ポンプ用斜板50を図1中に矢印A方向に傾斜させることにより、減速比を減少させ、出力部90に出力される回転速度を加速させることができる。これとは逆に、アクチュエータ104の突出量を増加させ、矢印Aとは逆方向(矢印B方向)に傾斜させることにより、減速比を増加させ、出力部90に出力される回転速度を減速させることができる。また、油圧ポンプ用斜板50を減速方向(矢印B方向)に所定の角度だけ傾斜させた状態にすると、減速比が無限大になる。減速比が無限大になる際の油圧ポンプ用斜板50の角度を境界角度θとした場合、油圧ポンプ用斜板50を境界角度θよりもさらに矢印B方向(減速方向/減速比の増加方向)に傾斜させると、出力部90に出力される回転方向を逆転させることができる。
【0031】
上述したように、本実施形態の油圧式無段変速機10では、モータ用クレードル72が、アンギュラボールベアリング88によりトランスミッションケース16に対して回転可能に支持されると共に、入力軸20との間に配されたボールベアリング80により入力軸20に対して揺動不可能かつ回転可能なように支持されている。このような構成とすることにより、テーパーローラベアリングあるいはニードルベアリングのように、動力伝達ロスが大きくて高価なベアリングを用いることなく、モータ用クレードル72を支持できる。また、モータ用クレードル72の支持に必要なベアリングが、アンギュラボールベアリング88及びボールベアリング80の二つで済む。そのため、上述した構成によれば、油圧式無段変速機10における動力伝達ロスを最小限に抑制しつつ、油圧式無段変速機10を小型かつ軽量であって製造コストなものとすることができる。また、油圧式無段変速機10を軽量化することにより、これを搭載した車両の燃費特性をより一層改善することが可能となる。
【0032】
また、油圧式無段変速機10においては、ボールベアリング22をモータ用クレードル72側の端部において外周側に取り付けた構成としている。これにより、モータ用クレードル72の支持用のアンギュラボールベアリング88と、入力軸20の支持用のボールベアリング22とを入力軸20及び出力軸92に対して交差する方向(軸間方向)にラップ(重複)するように配置できる。従って、油圧式無段変速機1は、軸間方向にコンパクトな構成とすることができる。
【0033】
本実施形態においては、油圧ポンプ用斜板50の傾斜を斜板傾斜調整機構100により可変とし、油圧モータ用斜板70の傾斜を固定とした例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、油圧ポンプ用斜板50に代えて油圧モータ用斜板70の傾斜を斜板傾斜調整機構100に相当する機構により可変とした構成、あるいは油圧ポンプ用斜板50に加えて油圧モータ用斜板70について傾斜を可変とした構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、例えば、自動車、自動二輪車、トラクター等の作業用車両をはじめとする車両全般において搭載される油圧式無段変速機として利用可能であり、特に軽自動車等のコンパクトな構成の車両において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 油圧式無段変速機
16 トランスミッションケース(ハウジング)
20 入力軸
22 ボールベアリング
30 シリンダブロック
40 油圧ポンプ用プランジャ
50 油圧ポンプ用斜板
52 ポンプ用クレードル(第一クレードル)
54 ポンプ用斜板本体(第一斜板本体)
60 油圧モータ用プランジャ
70 油圧モータ用斜板
72 モータ用クレードル(第二クレードル)
74 モータ用斜板本体(第二斜板本体)
80 ボールベアリング
88 アンギュラボールベアリング
92 出力軸
図1
図2