(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978474
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】開閉器の引き外し装置
(51)【国際特許分類】
H01H 83/02 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
H01H83/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-119537(P2012-119537)
(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2013-246955(P2013-246955A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227401
【氏名又は名称】日東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】伊東 雄一
(72)【発明者】
【氏名】八原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】安村 直樹
【審査官】
岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−005088(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 69/00−69/01
H01H 71/00−83/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押圧ボタンにより押下げられる薄板金属板からなる可動接触子と、この可動接触子との接触により引き外し回路を閉路して開閉機構をトリップさせる金属体からなる固定接触子とを備えた開閉器の引き外し装置において、
押下げられた可動接触子の固定接触子との接触箇所が、固定接触子の形状に対応して弾性変形することにより、固定接触子と接触して通電する位置と、押圧解除時に可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置とを異ならせたことを特徴とする開閉器の引き外し装置。
【請求項2】
押圧ボタンの可動接触子の押圧部は、可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置より可動接触子の左右方向にずらした位置に形成した請求項1記載の開閉器の引き外し装置。
【請求項3】
固定接触子に対して、可動接触子を傾斜させて配置したことを特徴とする請求項2記載の開閉器の引き外し装置。
【請求項4】
固定接触子と可動接触子との接触位置において、押圧ボタンを固定接触子に対して平行に配置したことを特徴とする請求項3記載の開閉器の引き外し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作安定性に優れた開閉器の引き外し装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から開閉器には、特許文献1に示すような引き外し装置が組み込まれている。この引き外し装置は可動鉄心を作動させる電磁ソレノイド、アーマチュアの先端に組み込まれたトリガレバー等からなる。電磁ソレノイドには外部リード線が接続されており、外部からトリップ指令を与えると電圧引き外し装置の電磁ソレノイドが励磁され、アーマチュアを引き寄せる。これによりトリガレバーが動いて開閉機構部の係止を解除し、トリップ動作が行われる。
【0003】
電磁ソレノイドに励磁され続けるとコイルが焼損してしまう恐れがあるため、特許文献2に示すように、補助スイッチを形成し電磁ソレノイドに励磁された後に回路を開状態とするように形成されている。
【0004】
特許文献2に示すように補助スイッチは押圧ボタンで形成されているものであるが、補助スイッチの構成として特許文献3に示すように、薄肉金属からなるテストフィンガと接触子からなるような構成で使用することも可能である。この場合には、開閉器の外郭に設けられた押圧ボタンを押すとテストフィンガが押圧されて接触子と接触し、引き外し装置の電磁ソレノイドが励磁されるように形成されるものである。
【0005】
しかし、特許文献3に示すような構造を焼損防止スイッチとして構成する場合には、電磁ソレノイド内のコイルには100Vまたは200Vの実電圧が印加されているため、テストフィンガと接触子とが開極するときにアークが発生し、テストフィンガや接触子にススが付着する。このため押圧ボタンの使用を繰り返すと接触子の接点に次第にススが堆積し、導電性が不安定になって動作不良に至る可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−113794号公報
【特許文献2】特開2000-003658号公報
【特許文献3】実用新案登録第2548796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、押圧ボタンの使用を繰り返しても導電性が不安定となることのない開閉器の引き外し装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、押圧ボタンにより押下げられる薄板金属板からなる可動接触子と、この可動接触子との接触により引き外し回路を閉路して開閉機構をトリップさせる金属体からなる固定接触子とを備えた開閉器の引き外し装置において、押下げられた可動接触子
の固定接触子との接触箇所が、固定接触子の形状に対応して弾性変形することにより、固定接触子と接触して通電する位置と、押圧解除時に可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置とを異ならせたことを特徴とすることを特徴とするものである。
【0009】
なお、請求項2のように、押圧ボタンの可動接触子の押圧部は、可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置より可動接触子の左右方向にずらした位置に形成した構造とすることができる。また、請求項3のように、固定接触子に対して、可動接触子を傾斜させて配置した構造とすることができる。また請求項4のように、固定接触子と可動接触子との接触位置において、押圧ボタンを固定接触子に対して平行に配置した構造とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の開閉器の引き外し装置は、押下げられた可動接触子
の固定接触子との接触箇所が、固定接触子の形状に対応して弾性変形することにより、可動接触子が固定接触子と接触して通電する位置と、押圧解除時に可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置とを異ならせたものである。アークは押圧解除時に可動接触子が固定接触子から最後に離間する位置で発生するため、トリップ操作を繰り返し行っても電流が流れる接触面にアークによるススが堆積することがない。このためテストフィンガを繰り返し使用しても導電性が不安定となることがない。
【0011】
請求項2のように、押圧ボタンの可動接触子の押圧部は、可動接触子が固定接触子から最後に離間する一より可動接触子の左右方向にずらした位置に形成し、更に、請求項3のように、固定接触子に対して可動接触子を傾斜させて配置した構造とすれば、押圧ボタンの押圧に連れて固定接触子に対する可動接触子の接触位置が移動するため、通電位置と最後に離間する位置とを異ならせることができる。
【0012】
請求項4のように、固定接触子と可動接触子との接触位置において、押圧ボタンを固定接触子に対して平行に配置した構造とすれば、正確に可動接触子を押圧することができる。また可動接触子の押圧を小さい力で行うことができるため、過度の荷重を加えることによる可動接触子の変形なども防止することができ、開閉耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の引き外し装置を備えた開閉器を示す外観斜視図である。
【
図2】第1の実施形態の引き外し装置を示す斜視図である。
【
図3】第1の実施形態の引き外し装置を示す側面図である。
【
図9】第2の実施形態の要部を示す作動説明図である。
【
図10】第3の実施形態の要部を示す作動説明図である。
【
図11】本発明を漏電開閉器に適用した第4の実施形態を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。以下に示す第1〜第3の実施形態は漏電遮断機能を持たない開閉器に組み込まれた引き外し装置である。
図1において、1は開閉器の筐体、2は回路を手動で開閉操作するためのハンドルである。また3は筐体1の内部に組み込まれた開閉機構をトリップ動作させるためのトリガレバー、4は開閉機構をトリップ動作させるための引き外し装置である。ハンドル2、トリガレバー3、筐体1内に組み込まれた開閉機構等は公知のものであり、本発明の要部ではないため説明を省略する。
【0015】
図2〜
図4に引き外し装置を示す。この引き外し装置は電圧引き外し回路に電圧を印加することにより、トリップ動作を行わせるものである。これらの図において、11はトリップベース、12はこのトリップベース11に組み込まれたボビンであり、引き外しコイルを内蔵している。引き外しコイルに通電すると電磁力により可動鉄心13が引き寄せられ、可動鉄心13が取付けられているトリガレバー動作部14が動いてトリガレバー3を動かし、公知のトリップ動作を行わせて回路を遮断する。
【0016】
トリップベース11の上部には可動接触子15と固定接触子16が設けられている。また可動接触子15を押圧するための押圧ボタン17が設けられている。可動接触子15と固定接触子16はそれぞれリード線40によってボビン12に接続されており、電圧引き外し回路を構成している。このため、押圧ボタン17を押圧して可動接触子15を固定接触子16に接触させると引き外しコイルに通電する準備が完了し、
図8に示すように、開閉器1より離れた位置に形成されたスイッチ100を閉操作することにより、引き外しコイルに通電され、上記のようにトリップ動作を行わせる。このように形成されることにより、開閉器1の開閉操作を遠隔で行うことが可能となっているものである。
【0017】
図5に示すように、可動接触子15は弾性薄板金属板を略コの字状に折り曲げたもので、リード線等を接続する基部15a、押圧ボタン17により押圧される押圧部15b、これらを連結する連結部15cからなる。押圧部15bは斜め上方に折れ曲がっている。そして、可動接触子15の先端の下方には金属体からなる固定接触子16が形成
されている。
図5に示すようにワイヤー状のものが望ましいものであるが、板状のものであっても良いものである。可動接触子15のうち、固定接触子16の直上にある部分が接触面20となる。通常の状態では可動接触子15はそれ自体の弾性により固定接触子16から離れている。しかし、押圧ボタン17が可動接触子15の上面を押圧すると可動接触子15は下方に撓み、接触面20が固定接触子16と接触する。なお押圧ボタン17の押圧部は
図6に示すように傾斜面18となっている。
【0018】
図7にその動きの詳細を示す。Aの初期状態からBのように押圧ボタン17を押し下げると、可動接触子15の接触面の一端が斜め方向に延びる固定接触子16と最初に接触する。この点を接触点19と呼ぶ。さらにCのように押圧ボタン17を押し下げると、可動接触子15は接触点19に隣接する部分が傾斜面18によって固定接触子16に沿って順次押下げられ、所定長さの面で接触する。この部位を接触面20と呼ぶ。この接触面20を介して電流が流れ、引き外しコイルに通電されてトリップ動作が行われる。
【0019】
その後に押圧ボタン17の押圧が解除されると、Dの状態を経てEの初期状態に復帰することとなるが、Dの状態では接触点19が、可動接触子15が固定接触子16から最後に離間する位置となり、この点でアークが発生する。すなわち、可動接触子15と固定接触子16との接触が解除される際に、電流によって空気の絶縁が破壊されて高温のプラズマ状態のアークが発生する。このため押圧ボタン17の押圧を繰り返すと接触点19の部分にアークによってススが堆積することとなるが、本発明では、通電は接触点19とは異なる接触面20で行われるので、ススによる通電不良が生ずることはない。このため開閉耐久性の向上を図ることができる。
【0020】
図6及び
図7に示すように、押圧ボタン17の接触点19に対応する位置に空間部17a、可動接触子15を押圧する押圧部17bから構成され、押圧部17bと接触点19は可動接触子15の左右方向にズレた位置に形成している。これにより、押圧ボタン17が可動接触子15を押圧していくと、先ず可動接触子15の接触点19と固定接触子16が接触し、その後、可動接触子15の接触面20と固定接触子16が接触するように形成されるものである。また、前記したように、押圧ボタン17の押圧部は傾斜面18となっており、
図7のCに示すように固定接触子16と可動接触子15との接触位置において、押圧ボタン17の傾斜面18は固定接触子16に対して平行となっている。これにより上記したように接触点19から接触面20に向って順次接触位置を移動させることが容易となる。このため小さい力で可動接触子15を動かすことができ、過度の力を加える必要がないため可動接触子15の変形を防止することができる。
【0021】
なお
図8にこの実施形態の回路図を示す。なお、
図4及び
図8に示すように、リード線40により、固定接触子16、ボビン12、開閉器1の負荷側端子60、開閉器1の外部に設置されたスイッチ100が接続され電圧引き外し回路を構成している。可動接触子15の開閉操作はハンドル2の操作に連動するように形成されているものであるため、ハンドル2の操作が行われると押圧ボタン17は
図7のA〜Cの操作が行われ、そして、スイッチ100を閉操作することにより引き外しコイルに電圧が印加され、押圧ボタン17は
図7のD〜Eの操作が行われるものである。
【0022】
図9と
図10に本発明の第2、第3の実施形態を示す。第2の実施形態は、傾斜面18を構成せずに可動接触子16の押圧部17bをブロック状のものとして形成するものであっても良い。このような実施形態においても、押圧ボタン17の接触点19に対応する位置に空間部17aを形成しているものである。このため、Aの状態から押圧ボタン17の押圧部17bにより可動接触子15を押圧すると、Bの状態のように、可動接触子15の先端が固定接触子16に接触し、この点が接触点19となる。さらに可動接触子15を押圧部17bで押圧するとCの状態のように、可動接触子15の先端面が次第に固定接触子16に接触して行き、この面が接触面20となる。
【0023】
この第2の実施形態においても第1の実施形態と同様、押圧ボタン17の押圧を解除すると、可動接触子15が固定接触子16から最後に離間するのは接触点19であり、この部位でアークが発生する。この実施形態においても、接触点19と押圧部17bは可動接触子15の左右方向にズレて形成しているものである。このように、押下げられた可動接触子15が固定接触子16と接触して通電する接触面20と、押圧解除時に可動接触子15が固定接触子16から最後に離間する接触点19とが異なる位置となるので、アークに伴って発生するススが接触面20の通電不良を招くことがない。
【0024】
図10に本発明の第3の実施形態を示す。この第3の実施形態では、固定接触子16は傾斜させずに水平に形成し、反対に可動接触子15が固定接触子に対して傾斜するように形成しているものである。押圧ボタン17の接触点19に対応する位置に空間部17aを形成し、この場合にも、Bの状態のように、可動接触子16の先端が固定接触し16に接触し、この点が接触点19となる。さらに可動接触子15を押圧部17bで押圧するとCの状態のように可動接触子15の先端面が次第に固定接触子16に接触して行き、この面が接触面20となる。これによる作用効果は第1及び第2の実施形態と同様である。
【0025】
図11は本発明を漏電開閉器に適用した第4の実施形態を示す回路図である。主回路の漏電はZCT30によって検出され、漏電検出回路31が引き外しコイルに通電してトリップ動作を行わせることは従来と同様である。このほか、疑似抵抗31を備えた疑似回路32が設けられており、押圧ボタンにより可動接触子15を固定接触子16に接触させると疑似回路32に電流が流れる。疑似回路32はZCT30を貫通させてあるので、疑似回路32に電流が流れると主回路の相間バランスが崩れ、漏電と同様の状態を作り出す。この結果、漏電検出回路31が引き外しコイルに通電してトリップ動作を行わせる。従ってこの引き外し装置は、背景技術の項で説明したと同様、漏電検出機能が正常に動作するか否かをテストするために使用される。
【0026】
この疑似回路32の可動接触子15と固定接触子16との接触部分に上記したような構成を用いれば、テストボタンに相当する押圧ボタンを繰り返して使用しても、アークによる接点の導通不良が生ずることはない。
【符号の説明】
【0027】
1 筐体
2 ハンドル
3 トリガレバー
4 引き外し装置
11 トリップベース
12 ボビン
13 可動鉄心
14 トリガレバー動作部
15 可動接触子
15a 基部
15b 押圧部
15c 連結部
16 固定接触子
17 押圧ボタン
17a 空間部
17b 押圧部
18 傾斜面
19 接触点
20 接触面
21 折曲げ片
22 凹部
30 ZCT
31 疑似抵抗
32 疑似回路
40 リード線
50 開閉器の電源側端子
60 開閉器の負荷側端子
70 開閉器の開閉機構部
80 電路
100 スイッチ