(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978492
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】油圧式無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 39/12 20060101AFI20160817BHJP
F16C 32/06 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
F16H39/12
F16C32/06 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-72811(P2012-72811)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204653(P2013-204653A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】檀上 弥輝
【審査官】
北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−061679(JP,A)
【文献】
特開2011−208717(JP,A)
【文献】
実開平03−108874(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 39/00−47/12
F16C 32/00−32/06
F04B 1/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの軸線周りの円周上に間隔をあけて設けられた挿入部内に往復摺動可能に挿入されたプランジャと、
前記プランジャの先端に摺接した斜板とを有し、
前記挿入部の内周面と前記プランジャの外周面との間にプランジャガイドが介在しており、
前記プランジャを外周側から支持する静圧軸受機構が、前記プランジャの周方向に複数、所定の間隔毎に配置されており、
前記静圧軸受機構が、
前記プランジャガイドの外周面に軸方向に延びるように形成された凹部と前記挿入部の内周面との間に形成されたオイル送り溝と、
前記オイル送り溝に連通し、プランジャガイドの肉厚方向に向けて形成されたオイルを前記オイル送り溝に供給可能なオイル送り孔と、
前記オイル送り溝に対する絞りとして毛細管絞り又はオリフィス絞りからなる絞り部と、
前記プランジャガイドの内周面において前記プランジャに面するように設けられ、前記絞り部によって前記オイル送り溝と連通する油圧ポケット部とを備えたものであることを特徴とする油圧式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに対して油圧ポンプと油圧モータとを配置してなる油圧式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜3に開示されているような油圧式無段変速機が、自動二輪車やトラクターなどの作業用車両等に用いられている。
【0003】
特許文献1〜3に開示されている油圧式無段変速機は、可変容量型の油圧ポンプおよび油圧モータからなり、これらの油圧ポンプおよび油圧モータの間に両者に兼用されるシリンダブロックが介設されたものである。上記シリンダブロックの軸線方向一方には、油圧ポンプ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧ポンプ用プランジャ、該油圧ポンプ用プランジャの端部に摺接する油圧ポンプ用斜板、該油圧ポンプ用斜板の傾斜量を変化させる油圧サーボなどを備えている。また、上記シリンダブロックの軸線方向他方には、油圧モータ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧モータ用プランジャ、該油圧モータ用プランジャの端部に摺接する固定傾斜角の油圧モータ用斜板などを備えている。
【0004】
シリンダブロックは入力軸と一体に回転し、このシリンダブロックに嵌入された油圧ポンプ用プランジャが軸線方向に対して傾斜した油圧ポンプ用斜板等によって往復動されて、油圧を発生させる。これにより発生した油圧が油圧モータ用プランジャを往復動させることで、当該油圧モータ用プランジャに押圧される油圧モータ用斜板が回転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−256980号公報
【特許文献2】特開2008−185111号公報
【特許文献3】特開2010−264809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した油圧式無段変速機を自動車等の車両に搭載する場合には、可能な限りコンパクトな構成とすることが望ましい。そのため、油圧式無段変速機に設けられた油圧ポンプ用プランジャや、油圧モータ用プランジャを支持するためにシリンダブロックに設けられた支持部についても短くすることが求められている。その一方で、油圧ポンプ用プランジャ、あるいは油圧モータ用プランジャとシリンダブロックとの金属接触を防止し、摩耗や焼き付き、摩擦損失等の懸念を抑制するためには、これらのプランジャが軸線に対して傾斜しないように支持できる構成とすることが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、油圧式無段変速機に設けられたプランジャの傾斜を抑制することで、スムーズに作動可能とし、シリンダブロック等とプランジャとの金属接触や、摩耗、焼き付き、摩擦損失等の問題を抑制可能な油圧式無段変速機の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の油圧式無段変速機は、入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの軸線周りの円周上に間隔をあけて設けられた挿入部内に往復摺動可能に挿入されたプランジャと、前記プランジャの先端に摺接した斜板とを有し、前記挿入部の内周面と前記プランジャの外周面との間にプランジャガイドが介在しており、前記プランジャを外周側から支持する静圧軸受機構が、前記プランジャの周方向に複数、所定の間隔毎に配置されており、前記静圧軸受機構が、前記プランジャガイドの外周面
に軸方向に延びるように形成された凹部と前記挿入部の内周面との間に形成されたオイル送り溝と、前記オイル送り溝に連通し、プランジャガイド
の肉厚方向に向けて形成されたオイルを前記オイル送り溝に供給可能なオイル送り孔と、前記
オイル送り溝に対する絞りとして毛細管絞り又はオリフィス絞りからなる絞り部と、前記プランジャガイドの内周面において前記プランジャに面するように設けら
れ、前記絞り部によって前記オイル送り溝と連通する油圧ポケット部とを備えたものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の油圧式無段変速機が備えている静圧軸受機構は、挿入部に供給されプランジャガイド内に導入されたオイルが、オイル送り孔を介してオイル送り溝に導入され、絞り部を介してプランジャガイドの内周面に設けられた油圧ポケット部に到達するように形成されたものである。静圧軸受機構は、絞り部をなす毛細管絞り又はオリフィス絞りがオイル流出入の抵抗となり、静圧軸受としてプランジャを外周側から支持することができる。
【0010】
本発明の油圧式無段変速機においては、上述したような静圧軸受機構が、プランジャの周方向に複数、所定の間隔毎に設けられている。そのため、各静圧軸受機構により、プランジャに対して周方向にバランス良く支持力を作用させ、プランジャを軸線方向に略真っ直ぐに往復動させることができる。従って、本発明の油圧式無段変速機においては、プランジャガイドあるいはシリンダブロックとプランジャとの間における金属接触や、摩耗、焼き付き、摩擦損失等の問題を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、油圧式無段変速機に設けられたプランジャの傾斜を抑制してスムーズに作動可能とし、プランジャとシリンダブロックとの金属接触や、摩耗、焼き付き、摩擦損失等の問題を抑制可能な油圧式無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る油圧式無段変速機を搭載した車両のドライブトレーンの一部を示す概略図である。
【
図2】
図1の要部の具体的例を示した断面図である。
【
図4】変形例に係る油圧式無段変速機の要部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る油圧式無段変速機10について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、油圧式無段変速機10は、シリンダブロックにおけるプランジャの取付部分における構造に特徴を有するものであるが、当該特徴部分の説明に先だって油圧式無段変速機10の概略構成について説明する。
【0014】
≪油圧式無段変速機の概略構成について≫
油圧式無段変速機10は、いわゆるHSTを含んで構成されるものである。
図1及び
図2に示すように、油圧式無段変速機10は、入力軸20、シリンダブロック30、油圧ポンプ用プランジャ40、油圧ポンプ用斜板50、油圧モータ用プランジャ60、油圧モータ用斜板70等を主要な構成部材として備えている。
【0015】
入力軸20は、図示しないトランスミッションケース内にベアリング22を介して回転自在に支持されている。入力軸20には、エンジンEの回転動力が、ダンパー12、前後進切替機構14等を介して伝達される。
【0016】
シリンダブロック30は、入力軸20の途中位置において入力軸20に対して回転一体に設けられている。シリンダブロック30の軸線方向一方側(エンジンE側)には、油圧ポンプ用プランジャ40が、軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、図示しないスプリングによって油圧ポンプ用斜板50側に付勢されている。なお、本実施形態では油圧ポンプ用プランジャ40は3個以上の奇数個とされている。
【0017】
また、シリンダブロック30の軸線方向他方側(エンジンEとは反対側)には、油圧モータ用プランジャ60が、軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧モータ用プランジャ60は、図示しないスプリングによって油圧モータ用斜板70側に付勢されている。油圧ポンプ用斜板50と油圧モータ用プランジャ60とはシリンダブロック30内での周方向位置を違えている。なお、本実施形態では油圧モータ用プランジャ60は3個以上の奇数個とされている。
【0018】
油圧ポンプ用斜板50は、入力軸20の軸線に対する傾斜量が可変となっている。つまり、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量は、所定のアクチュエータ52によって変更可能となっている。油圧ポンプ用斜板50は、軸線回りに回転不能とされ、油圧ポンプ用斜板50に、摺接している油圧ポンプ用プランジャ40の先端部が入力軸20の軸線回りに回転することで、油圧ポンプ用プランジャ40が往復動してポンプ作用を発動し、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量に応じた圧油を油圧モータ側(油圧モータ用プランジャ60の基部を押圧するシリンダブロック30内の油圧室)へ供給する。
【0019】
油圧モータ用斜板70は、その斜面70aの傾斜量が不変となっている。油圧モータ用斜板70は、入力軸20との間に介在しているニードルベアリング72により入力軸20に対して相対回転自在に支持されると共に、ベアリング74を介してトランスミッションケース16(
図2参照)内に回転自在に支持されている。油圧モータ用斜板70には、入力軸20の軸線回りに回転する油圧モータ用プランジャ60の先端部が摺接している。入力軸20が回転すると、油圧モータ用プランジャ60も同軸回りに回転しながら、油圧ポンプ側から供給される圧油によって、往復動摺動しつつ、油圧モータ用斜板70にスラスト荷重を与えながら回転させる。
【0020】
油圧モータ用斜板70の外周部には、ヘリカルギアからなる第一ギア76が一体的に設けられている。第一ギア76は、入力軸20に対して略平行に配置された出力軸80に対して一体的に取り付けられたヘリカルギアからなる第二ギア78と噛み合っている。出力軸80は、ベアリング82を介してトランスミッションケース16(
図2参照)内に回転自在に支持されている。
【0021】
≪シリンダブロックにおけるプランジャの取付部分における構造について≫
図2に示すように、シリンダブロック30には、油圧ポンプおよび油圧モータとして機能させるために必要な油路32やシリンダブロック30の回転位置に応じて油路を開閉するバルブ機構34が設けられている。また、シリンダブロック30には、挿入部100が設けられている。
【0022】
挿入部100は、油圧ポンプ用プランジャ40を挿入するためのもの(以下、「油圧ポンプ用プランジャ挿入部102」とも称す)と、油圧モータ用プランジャ60を挿入するためのもの(以下、「油圧モータ用プランジャ挿入部104」とも称す)とからなる。油圧ポンプ用プランジャ挿入部102は、シリンダブロック30においてエンジンE側に向く面に開口するように形成されており、油圧モータ用プランジャ挿入部104は、エンジンEとは反対側の面に開口するように形成されている。
【0023】
油路32は、シリンダブロック30の中心側から外側に向けて形成されており、挿入部100(油圧ポンプ用プランジャ挿入部102,油圧モータ用プランジャ挿入部104)と連通している。そのため、油路32を介して供給されるオイルを、挿入部100内に導入することができる。
【0024】
図2及び
図3に示すように、挿入部100には、円筒状のプランジャガイド110が内挿されている。プランジャガイド110は、挿入部100の内周面と油圧ポンプ用プランジャ40あるいは油圧モータ用プランジャ60(以下、「プランジャ120」と総称する)の外周面との間に介在するように配置されている。プランジャガイド110を挿入部100内に配置することにより、静圧軸受機構130が形成されている。
【0025】
図3(b)に示すように、静圧軸受機構130は、プランジャ120の外周側に複数、略等間隔に形成されている。静圧軸受機構130は、プランジャ120を外周側から支持するための軸受機構でである。
図3(a)に示すように静圧軸受機構130は、オイル送り溝132、オイル送り孔134、絞り部136、及び油圧ポケット部138の組み合わせによって構成されている。オイル送り溝132は、プランジャガイド110の外周面に軸方向に延びるように形成された凹部と挿入部100の内周面との間に形成された溝である。
【0026】
オイル送り孔134は、プランジャガイド110の肉厚方向(径方向)に向けて形成された孔によって構成されている。オイル送り孔134は、オイル送り溝132に対して交差し、連通するように形成されている。オイル送り孔134は、油路32を介して挿入部100及びプランジャガイド110内に導入されたオイルを、オイル送り溝132に供給可能とされている。
【0027】
絞り部136は、オイル送り溝132に対して連通するように形成された絞りであり、毛細管絞り又はオリフィス絞りによって構成することができる。本実施形態において、絞り部136は、毛細管絞りによって構成されている。また、油圧ポケット部138は、プランジャガイド110の内周面において、プランジャ120に面する位置に形成された凹部である。油圧ポケット部138は、絞り部136に連通するように形成されている。
【0028】
絞り部136をなす毛細管の開口径、毛細管の長さ、及び油圧ポケット部138の開口の大きさの最適値は、実験的に導出すること、シミュレーションに基づいて導出すること、あるいは所定の数式に基づいて導出することが可能である。
【0029】
静圧軸受機構130においては、油路32を介して挿入部100に供給され、プランジャガイド110に設けられたオイル流出入口140を介してプランジャガイド110内に導入されたオイルが、オイル送り孔134を介してオイル送り溝132、絞り部136、及び油圧ポケット部138に導入される。静圧軸受機構130は、絞り部136をなす毛細管絞りがオイル流出入の抵抗となることにより、静圧軸受としてプランジャ120を外周側から支持することができる。
【0030】
本実施形態の油圧式無段変速機10においては、上述したような静圧軸受機構130が、プランジャ120の周方向に複数、所定の間隔毎に設けられており、各静圧軸受機構130によってプランジャ120に対して周方向にバランス良く支持力を作用させうる。そのため、プランジャ120を軸線方向に略真っ直ぐに往復動させることができる。従って、油圧式無段変速機10においては、プランジャガイド110あるいはシリンダブロック30とプランジャ120との間における金属接触や、摩耗、焼き付き、摩擦損失等の問題を抑制することができる。
【0031】
本実施形態においては、静圧軸受機構130をなす絞り部136を毛細管絞りによって構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、オリフィス絞りによって構成することも可能である。具体的には、絞り部136をオリフィス絞りとする場合には、
図4に示すようにオイル送り溝に連通した凹部142を設け、凹部142と油圧ポケット部138とを繋ぐようにオリフィス144を形成した構成等とすることができる。
【0032】
本実施形態においては、静圧軸受機構130を周方向に4つ、略均等配置することによりプランジャ120を支持する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、静圧軸受機構130の数及び配置は、プランジャ120を周方向にバランス良く支持力を作用させることが可能なものであれば良く、適宜変更可能である。プランジャ120を挿入部100においてバランス良く支持するためには、静圧軸受機構130を3つ以上設け、プランジャ120の周方向に略均等配置することが望ましい。
【0033】
また、本実施形態の油圧式無段変速機10においては、挿入部100たる油圧ポンプ用プランジャ挿入部102及び油圧モータ用プランジャ挿入部104の双方においてプランジャガイド110を内挿し、静圧ジャーナル軸受機構130を設けた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、油圧式無段変速機10は、油圧ポンプ用プランジャ挿入部102あるいは油圧モータ用プランジャ挿入部104のいずれか一方にのみプランジャガイド110を内挿し、静圧ジャーナル軸受機構130を形成したものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、例えば、自動車、トラクター等の作業用車両をはじめとする車両全般において搭載される油圧式無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 油圧式無段変速機
20 入力軸
30 シリンダブロック
40 油圧ポンプ用プランジャ
50 油圧ポンプ用斜板
60 油圧モータ用プランジャ
70 油圧モータ用斜板
100 挿入部
110 プランジャガイド
120 プランジャ
130 静圧ジャーナル軸受機構
132 オイル送り溝
134 オイル送り孔
136 絞り部
138 油圧ポケット部