特許第5978495号(P5978495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978495
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】油圧式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/66 20060101AFI20160817BHJP
   F16H 39/14 20060101ALI20160817BHJP
   F16H 47/04 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   F16H61/66
   F16H39/14
   F16H47/04 D
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-213375(P2012-213375)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-66331(P2014-66331A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】久保 了一
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−185111(JP,A)
【文献】 特開平04−219568(JP,A)
【文献】 特開昭60−011773(JP,A)
【文献】 特開昭57−116969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 39/04,39/06,39/08,39/10,39/14
F16H 47/04
F16H 61/66,61/4061,61/438
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転動力が入力される入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用プランジャと、
前記油圧ポンプ用のプランジャの先端に摺接し、前記軸線に対する傾斜量を変更可能に設けられた油圧ポンプ用斜板と、
前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用プランジャと、
前記油圧モータ用プランジャの先端が摺接する油圧モータ用斜板と、
前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量を変更するための斜板用アクチュエータと、
変速要求に従って駆動するステップモータと、
前記斜板用アクチュエータへ供給する油圧を制御して、当該斜板用アクチュエータの出力部の変位量を調整するための変速制御用バルブと、
両端部に前記ステップモータの出力部および前記油圧ポンプ用斜板を、中間部に前記変速制御用バルブのスプールを連結したリンクバーと、
を備え、
前記油圧ポンプ用斜板の前記軸線に対する傾斜量を変更することにより、前進、ニュートラル、後進の切替を行う油圧式無段変速機であって、
前記変速制御用バルブは、
スリーブ弁孔を有するバルブハウジングと、
前記スリーブ弁孔に移動自在に挿入された、スプール弁孔を有するスリーブと、
前記スプール弁孔に移動自在に挿入されたスプールと、
を有し、
前記スリーブは、Dレンジ圧によってDレンジ位置に、Rレンジ圧によってRレンジ位置に位置が切替わるように設けられ、前記スリーブがDレンジ位置にあるとき、ステップモータの全可動範囲に対して、前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量が、前進からニュートラルの範囲に制限され、前記スリーブがRレンジ位置にあるとき、ステップモータの全可動範囲に対して、前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量が、ニュートラルから後進の範囲に制限されるように構成されたことを特徴とする油圧式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧式無段変速機において、
シフト操作部と連動して、スプールが各シフトレンジに応じた位置をとるマニュアルバルブを備えており、
前記変速制御用バルブには、前記マニュアルバルブが前進レンジにあるときに、当該マニュアルバルブからDレンジ圧が供給されるDポートと、前記マニュアルバルブが後進レンジにあるときに、当該マニュアルバルブからRレンジ圧が供給されるRポートとが別々に設けられており、
さらに、前記変速制御用バルブには、前記マニュアルバルブから前記DポートにDレンジ圧が供給され、前記スリーブがDレンジ位置に移動した場合にDレンジ圧を出力し、前記マニュアルバルブから前記RポートにRレンジ圧が供給され、前記スリーブがRレンジ位置に移動した場合にRレンジ圧を出力する出力ポートが設けられており、
前記出力ポートからDレンジ圧又はRレンジ圧が出力された場合に限り、油圧式無段変速機から駆動輪に至るまでの途中に設けられたクラッチに対する作動油圧が供給されるように構成された、ことを特徴とする油圧式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに対して油圧ポンプと油圧モータとを配置してなる油圧式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HMT(Hydraulic Mechanical Transmission)あるいはこれに類する油圧式無段変速機として、下記特許文献1に開示されているようなものが提案されている。この油圧式無段変速機は、シリンダブロックに対し、可変容量型の油圧ポンプおよび油圧モータを配置した構成とされている。この油圧式無段変速機は、油圧ポンプ用構成部材として、上記シリンダブロックの軸線方向一方に、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧ポンプ用プランジャ、該油圧ポンプ用プランジャの端部に摺接する油圧ポンプ用斜板、該油圧ポンプ用斜板の傾斜量を変化させる油圧サーボなどを備えている。また、上記シリンダブロックの軸線方向他方には、油圧モータ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧モータ用プランジャ、該油圧モータ用プランジャの端部に摺接する固定傾斜角の油圧モータ用斜板などを備えている。
【0003】
シリンダブロックは入力軸と一体に回転し、このシリンダブロックに嵌入された油圧ポンプ用プランジャが軸線方向に対して傾斜した油圧ポンプ用斜板等によって往復動されて、油圧を発生させる。これにより発生した油圧によって油圧モータ用プランジャを往復動させることで、当該油圧モータ用プランジャに押圧される油圧モータ用斜板が回転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−185111号公報
【特許文献2】特開2003−329125号公報
【非特許文献1】日景繁行、日比利文、安保佳寿:変速機を取り巻く環境とCVT技術、自動車技術会論文集、Vol.58、No.1、2004、p63−68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記油圧式無段変速機に関し、本願出願人は、図6に示すような変速システムについて研究ないし検討を行っている。この変速システムを有する油圧式無段変速機は、搖動中心Oを中心に揺動可能な油圧ポンプ用斜板50、該斜板70の傾斜量を変化させるために上記斜板70に設けられた接続片102に連結されたアクチュエータ104(油圧シリンダ)のほか、変速制御用バルブ200、ステップモータ150、リンクバー160等を備えている。
【0006】
変速制御用バルブ200は、スプール201の位置を切り替えることで、アクチュエータ104のシリンダロッド105を伸長または伸縮させて所望の位置で保持させることができる。油圧ポンプ用斜板50における、プランジャとの摺接面が入力軸(不図示)に対して略直交する状態になると変速比が1となる。変速比が1の状態より、アクチュエータ104のシリンダロッド105が収縮すると、油圧ポンプ用斜板50は、図6において搖動中心Oを中心に左回転し、変速比がHi側へ変化する(減速比が小さくなる)。一方、変速比が1の状態より、アクチュエータ104のシリンダロッド105が伸長すると、油圧ポンプ用斜板50は、図6において搖動中心Oを中心に右回転し、変速比がLo側へ変化し(減速比が大きくなり)、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量がある値に達すると、ニュートラル状態となる。更に、油圧ポンプ用斜板50が右回転すると、リバース状態となる。
【0007】
リンクバー160の両端部には、油圧ポンプ用斜板50の一部と、直動型ステップモータ150の出力軸151とがそれぞれ連結されている。また、リンクバー150の中間部には、変速制御用バルブ200のスプール201の一端部が連結されている。なお、上記リンクバー160に類似するものは、特許文献2、非特許文献1に開示されている。
【0008】
ステップモータ150の出力軸151の位置を変化させることで、変速制御用バルブ200のスプール201が連動して動作し、アクチュエータ104、油圧ポンプ用斜板50も作動する。その結果、ステップモータ150で設定した任意の変速比に機械的にフィードバックされ、この変速制御システムを狙いの変速比に収束させることができるようになっている。なお、図6に示す変速制御用バルブ200のスプール201は、アクチュエータ104の作動油出入口104a,104bと、ライン圧およびドレンポートとを遮断して、シリンダロッド105の位置を保持させる位置(収束位置)にある。
【0009】
例えば、変速要求によるステップモータ150の作動、ステップモータ150の作動後の収束過渡期、入力トルクの変化等により、変速制御用バルブ200のスプール201が収束位置から図7に示すように、図中右側へ移動すると、ライン圧がアクチュエータ104のロッド側ポート104aに供給され、ヘッド側ポート104bの油圧が変速制御用バルブ200のドレンポートから解放される。これにより、アクチュエータ104のシリンダロッド105が収縮し、油圧ポンプ用斜板50は、Lo側からHi側へ変化する方向へ搖動中心Oを中心に回転(左回転)する。この回転は、油圧ポンプ用斜板50とリンクバー160を介して連動する変速制御用バルブ200のスプール201を収束位置へ移動させ、スプール201が収束位置に戻ると、アクチュエータ104の動作および油圧ポンプ用斜板50の回転が停止する。
【0010】
また、変速要求によるステップモータ150の作動、ステップモータ150の作動後の収束過渡期、入力トルクの変化等により、変速制御用バルブ200のスプール201が収束位置から図8に示すように、図中左側へ移動すると、ライン圧がアクチュエータ104のヘッド側ポート104bに供給され、ロッド側ポート104aの油圧が変速制御用バルブ200のドレンポートから解放される。これにより、アクチュエータ104のシリンダロッド105が伸長し、油圧ポンプ用斜板50は、Hi側からLo側へ変化する方向へ搖動中心Oを中心に回転(右回転)する。この回転は、油圧ポンプ用斜板50とリンクバー160を介して連動する変速制御用バルブ200のスプール201を収束位置へ移動させ、スプール201が収束位置に戻ると、アクチュエータ104の動作および油圧ポンプ用斜板50の回転が停止する。
【0011】
ところが、以上のような変速制御システムを有する油圧式無段変速機をIVT等に適用する場合、前進と後進の切り分けを、ステップモータを動作させる範囲を制御的に制限することでしか規制できない。このため、ドイバーが選択した進行方向にのみ走行することに対する保証が十分でない。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、前進と後進の切り分けをハード的に保証することができる油圧式無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の油圧式無段変速機は、エンジンの回転動力が入力される入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用プランジャと、前記油圧ポンプ用のプランジャの先端に摺接し、前記軸線に対する傾斜量を変更可能に設けられた油圧ポンプ用斜板と、前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用プランジャと、前記油圧モータ用プランジャの先端が摺接する油圧モータ用斜板と、前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量を変更するための斜板用アクチュエータと、変速要求に従って駆動するステップモータと、前記斜板用アクチュエータへ供給する油圧を制御して、当該斜板用アクチュエータの出力部の変位量を調整するための変速制御用バルブと、両端部に前記ステップモータの出力部および前記油圧ポンプ用斜板を、中間部に前記変速制御用バルブのスプールを連結したリンクバーと、を備え、前記油圧ポンプ用斜板の前記軸線に対する傾斜量を変更することにより、前進、ニュートラル、後進の切替を行うものを前提としている。そして、前記変速制御用バルブは、スリーブ弁孔を有するバルブハウジングと、前記スリーブ弁孔に移動自在に挿入された、スプール弁孔を有するスリーブと、前記スプール弁孔に移動自在に挿入されたスプールと、を有するものであり、前記スリーブは、Dレンジ圧によってDレンジ位置に、Rレンジ圧によってRレンジ位置に位置が切替わるように設けられ、前記スリーブがDレンジ位置にあるとき、ステップモータの全可動範囲に対して、前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量が、前進からニュートラルの範囲に制限され、前記スリーブがRレンジ位置にあるとき、ステップモータの全可動範囲に対して、前記油圧ポンプ用斜板の前記傾斜量が、ニュートラルから後進の範囲に制限されるように構成されたことを特徴とするものである。
【0014】
かかる構成を備える油圧式無段変速機によれば、上記変速制御用バルブを採用したことにより、前進と後進の切り分けを制御に頼らずハード的に行うことができる。これにより、制御上の故障・誤作動や電気的デバイスの故障・誤作動が発生しても十分な安全性が確保される。また、ステップモータが故障して作動しなくなっても、変速制御用バルブにDレンジ圧又はRレンジ圧が供給されることで、少なくとも前後進の切替が可能となる。
【0015】
また、本発明の油圧式無段変速機は、上記構成を備えるものにおいて、シフト操作部と連動して、スプールが各シフトレンジに応じた位置をとるマニュアルバルブを備えたものとし、前記変速制御用バルブには、前記マニュアルバルブが前進レンジにあるときに、当該マニュアルバブルからDレンジ圧が供給されるDポートと、前記マニュアルバルブが後進レンジにあるときに、当該マニュアルバブルからRレンジ圧が供給されるRポートとが別々に設けられており、さらに、前記変速制御用バルブには、前記マニュアルバブルから前記DポートにDレンジ圧が供給され、前記スリーブがDレンジ位置に移動した場合にDレンジ圧を出力し、前記マニュアルバブルから前記RポートにRレンジ圧が供給され、前記スリーブがRレンジ位置に移動した場合にRレンジ圧を出力する出力ポートが設けられているものとする。そして、前記出力ポートからDレンジ圧又はRレンジ圧が出力された場合に限り、油圧式無段変速機から駆動輪に至るまでの途中に設けられたクラッチに対する作動油圧が供給されるように構成された、ものとすることが望ましい。
【0016】
かかる構成を備える油圧式無段変速機によれば、変速制御用バルブのスリーブの位置がスティック等により切替わらなかったときは、クラッチに作動油圧が供給されず、クラッチは常に切れた状態となり、車両の走行を禁止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前進と後進の切り分けを制御に頼らずハード的に行うことができる。これにより、制御上の故障・誤作動や電気的デバイスの故障・誤作動が発生しても十分な安全性が確保される。また、ステップモータが故障して作動しなくなっても、変速制御用バルブにDレンジ圧又はRレンジ圧が供給されることで、少なくとも前後進の切替が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る油圧式無段変速機を搭載した車両のドライブトレーンの一部を示した断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る油圧式無段変速機の要部を示した図である。
図3】本発明の実施の形態に係る油圧式無段変速機の要部を示した図であって、シフトレンジがDレンジにあるときの状態を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る油圧式無段変速機の要部を示した図であって、シフトレンジがRevレンジにあるときの状態を示す図である。
図5】リンクバーの位置、傾き等を示す図である。
図6】本願発明の前段階で検討された油圧式無段変速機の要部を示した図である。
図7】本願発明の前段階で検討された油圧式無段変速機の要部を示した図である。
図8】本願発明の前段階で検討された油圧式無段変速機の要部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る油圧式無段変速機10について図面を参照しながら説明する。以下では、先ず、油圧式無段変速機10等の全体構成について説明し、その後、油圧式無段変速機10の特徴的な部分について説明する。
【0020】
図1に示す油圧式無段変速機10は、いわゆるHMTあるいはこれに類するものである。この油圧式無段変速機10は、入力軸20、シリンダブロック30、油圧ポンプ用プランジャ40、油圧ポンプ用斜板50、油圧モータ用プランジャ60、油圧モータ用斜板70、及び斜板傾斜調整機構100等を主要な構成部材として備えている。
【0021】
油圧式無段変速機10は、シリンダブロック30に対して可変容量型の油圧ポンプPおよび油圧モータMを配置することにより構成された油圧式無段変速部Xを有する。油圧式無段変速部Xは、入力軸20とシリンダブロック30とが一体的に回転することにより油圧ポンプPにおいて発生する油圧を油圧モータMに供給し、回転動力を出力部90に出力する。以下、油圧式無段変速部Xを中心として構成される油圧式無段変速機10の各部の構成について、さらに詳細に説明する。
【0022】
入力軸20は、ボールベアリング22,24を介してトランスミッションケース16内に回転自在に支持されている。この入力軸20には、エンジン(図示せず)の回転動力が、ダンパー12を介して伝達される。
【0023】
シリンダブロック30は、入力軸20の途中位置に一体的に設けられている。シリンダブロック30の軸線方向一方側(エンジン側)には、油圧ポンプPが構成され、他方側には油圧モータMが構成されている。
【0024】
具体的には、油圧ポンプPは、シリンダブロック30の一方側に設けられた油圧ポンプ用プランジャ40及び油圧ポンプ用斜板50によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、シリンダブロック30の一方側(エンジン側)に、軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、スプリング41によって油圧ポンプ用斜板50側に付勢されている。なお、本実施形態では油圧ポンプ用プランジャ40は3個以上の奇数個とされている。
【0025】
油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52、ポンプ用斜板本体54、及びベアリング56,58によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52に対し、ポンプ用斜板本体54を装着した構成とされている。ポンプ用クレードル52とポンプ用斜板本体54との間には、ベアリング56,58が介在している。これにより、ポンプ用斜板本体54は、ポンプ用クレードル52に対して回転自在に支持されている。
【0026】
ポンプ用クレードル52は、入力軸20の軸線回りに回転不能に支持されている。また、ポンプ用クレードル52は、後に詳述する斜板傾斜調整機構100に対して接続されている。油圧ポンプ用斜板50は、斜板傾斜調整機構100を作動させ、ポンプ用クレードル52を入力軸20の軸線上に位置する揺動中心Oを中心として揺動させることにより、ポンプ用斜板本体54の入力軸20の軸線に対する傾斜量を任意に調整することができる。
【0027】
油圧ポンプPは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧ポンプ用プランジャ40が軸線回りに回転することにより、ポンプ作用を発動する。具体的には、入力軸20に連動してシリンダブロック30が入力軸20の軸線回りに一周する間に、シリンダブロック30とポンプ用斜板本体54との間において各油圧ポンプ用プランジャ40がストローク可能な長さが増減する。そのため、入力軸20の回転に伴い、シリンダブロック30と共に油圧ポンプ用プランジャ40が入力軸20の軸線回りに回転すると、ポンプ用斜板本体54に摺接している油圧ポンプ用プランジャ40が往復動し、油圧ポンプ用スプール弁V1とともにポンプ作用を発動する。なお、油圧ポンプ用スプール弁V1は、シリンダブロック30の内径側に設けられ、各プランジャ40毎に設けられている。各油圧ポンプ用スプール弁V1は、それぞれ対応するプランジャ40の回転位置に応じて開閉弁動作をし、プランジャ40によって吸入又は排出される作動油の油路を切り換える。
【0028】
このようにして、油圧ポンプPにおいて発生する油圧は、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量に応じて調整される。油圧ポンプPにおいて発生した油圧は、油圧モータM側(油圧モータ用プランジャ60の基部を押圧するシリンダブロック30内の油圧室)に供給される。
【0029】
油圧モータMは、シリンダブロック30の軸線方向他方側(エンジン及び油圧ポンプPとは反対側)に設けられた油圧モータ用プランジャ60及び油圧モータ用斜板70によって主要部が構成されている。油圧モータ用プランジャ60は、入力軸20の軸線周りの円周上に等間隔をあけて往復摺動可能に複数挿入されている。油圧モータ用プランジャ60は、スプリング61によって油圧モータ用斜板70側に付勢されている。油圧ポンプ用プランジャ40と油圧モータ用プランジャ60とはシリンダブロック30内での周方向位置を違えている。なお、本実施形態では油圧モータ用プランジャ60は3個以上の奇数個とされている。
【0030】
油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72、モータ用斜板本体74及びベアリング76,78によって主要部が構成されている。油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72に、モータ用斜板本体74を装着した構成とされている。モータ用クレードル72とモータ用斜板本体74との間には、ベアリング76,78が介在している。これにより、モータ用斜板本体74は、モータ用クレードル72に対して回転可能に支持されている。
【0031】
モータ用クレードル72は、上述したポンプ用クレードル52とは異なり角度調整不可能とされ、入力軸20に対して回転可能に支持されている。具体的には、モータ用クレードル72は、入力軸20を挿通可能な略筒状の部材であり、その軸穴に嵌着されたボールベアリング80を介して入力軸20に対して相対回転自在に支持されている。また、モータ用クレードル72の一端側の外周部は、アンギュラボールベアリング88を介してトランスミッションケース16内に回転自在に支持されている。
【0032】
モータ用斜板本体74は、入力軸20に対して所定の角度で傾斜するように取り付けられている。つまり、油圧モータ用斜板70において、モータ用斜板本体74は、一定の角度で保持されており、上述した油圧ポンプ用斜板50のポンプ用斜板本体54のように傾斜量を変更することができない。また、モータ用斜板本体74には、油圧モータ用プランジャ60がスプリング61によって付勢され、摺接している。
【0033】
油圧モータMは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧モータ用プランジャ60が入力軸20の軸線回りに回転することにより、モータとしての機能を発揮する。具体的には、油圧モータ用プランジャ60は、油圧モータ用スプール弁V2を介して油圧ポンプP側から供給される圧油によって往復動摺動し、油圧モータ用斜板70にスラスト荷重を与えつつ、シリンダブロック30と共に入力軸20の軸線回りに回転する。これにより、油圧モータMがモータとしての機能を発揮し、出力部90に向けて回転動力を出力させる。なお、上記油圧モータ用スプール弁V2は、シリンダブロック30の内径側に周方向に設けられ、各プランジャ60毎に設けられている。各スプール弁V2は、それぞれ対応するプランジャ60の回転位置に応じて開閉弁動作をし、プランジャ60によって吸入又は排出される作動油の油路を切り換える。
【0034】
油圧モータMから出力される回転速度(減速比)は、上述した油圧ポンプPから供給される油圧に応じて変化する。そのため、斜板傾斜調整機構100を作動させて油圧ポンプ用斜板50の傾斜を変化させることにより、出力部90に出力される回転速度(減速比)を調整することができる。
【0035】
図1に示すように、出力部90は、油圧ポンプPの作用に伴い発生した回転動力を差動ギア120及びこれに接続されたドライブシャフト122に向けて出力する。出力部90は、入力軸20に対して略平行に配置された出力軸92(第二軸)を中心として構成されている。出力軸92は、ボールベアリング93を介してトランスミッションケース16内に回転自在に支持されている。出力軸92には、軸方向にクラッチ95、パーキングギア97、及び平行軸ギア98がこの順で設けられている。
【0036】
出力軸92の一端側には、第二平行軸ギア96が一体的に回転可能なように設けられている。また、第二平行軸ギア96は、モータ用クレードル72の外周部に一体的に設けられた第一平行軸ギア94と噛合している。そのため、油圧ポンプPの作動によって発生した回転動力が、両ギア94,96を介して入力軸20から出力軸92に伝達される。また、出力軸92の他端側には、平行軸ギア98が設けられている。平行軸ギア98は、差動ギア120側に設けられた平行軸ギア124と噛合している。これにより、油圧ポンプPから出力軸92に伝達された回転動力は、差動ギア120を介してドライブシャフト122に伝達される。
【0037】
油圧式無段変速機10は、斜板傾斜調整機構100を用いて油圧ポンプ用斜板50の傾斜を調整することにより、出力部90を介してドライブシャフト122に出力される回転速度(減速比)の調整を行うだけでなく、出力される回転方向を切り替えることができる。斜板傾斜調整機構100は、油圧ポンプ用斜板50のポンプ用クレードル52に接続された接続片102と、接続片102に接続されたアクチュエータ104とを有し、上記アクチュエータ104を作動させることにより、ポンプ用クレードル52を揺動させ、傾斜量を調整することができる。
【0038】
ここで、油圧式無段変速機10においては、アクチュエータ104を収縮させ、油圧ポンプ用斜板50を図1中に矢印A方向に傾斜させることにより、減速比を減少させ、出力部90に出力される回転速度を加速させることができる。これとは逆に、アクチュエータ104の突出量を増加させ、矢印Aとは逆方向(矢印B方向)に傾斜させることにより、減速比を増加させ、出力部90に出力される回転速度を減速させることができる。油圧ポンプ用斜板本体54のプランジャ40との接触面が入力軸20に対して略直交すると、プランジャ40は、往復動を停止したまま入力軸の周りを回転するため、ポンプPから油圧モータMに油圧が供給されず、減速比が1となり、入力軸20とモータ用クレードル72に形成された第一平行軸ギア94は同速回転する。
【0039】
一方減速比1の状態より、油圧ポンプ用斜板50を減速方向(矢印B方向)に所定の角度だけ傾斜させると、減速比が無限大になり、ニュートラル状態となる。減速比が無限大になる際の油圧ポンプ用斜板50の角度を境界角度θとした場合、油圧ポンプ用斜板50を境界角度θよりもさらに矢印B方向(減速方向/減速比の増加方向)に傾斜させると、出力部90に出力される回転方向を逆転させることができる。
【0040】
次に、油圧式無段変速機10の特徴的な部分について説明する。油圧式無段変速機10は、図2に示すように、変速制御用バルブ130、ステップモータ150、リンクバー160、マニュアルバルブ170等を備えている。なお、図6図8に基づき説明した構成部材と同様のものについては同符号を付している。
【0041】
変速制御用バルブ130は、バルブハウジング131、スリーブ132、スプール133等で構成されている。バブルハウジング131は弁孔134(以下「スリーブ弁孔134」という。)を有し、このスリーブ弁孔134に、スリーブ132が移動自在に挿入されている。また、スリーブ132も弁孔135(以下「スプール弁孔135」という。)を有し、このスプール弁孔135にスプール133が移動自在に挿入されている。
【0042】
変速制御用バルブ130は、マニュアルバルブ170からDレンジ圧が供給される第1ポート136a(Dポート)、マニュアルバルブ170からRレンジ圧が供給される第2ポート136b(Rポート)、Dレンジ圧又はRレンジ圧を出力する第3ポート136c(出力ポート)、ライン圧が供給される第4ポート136d、アクチュエータ104のロッド側ポート104aと連通する第5ポート136e、アクチュエータ104のヘッド側ポート104bと連通する第6ポート136f等を有している。
【0043】
第1ポート136aに、マニュアルバルブ170からDレンジ圧が供給されると、スリーブ132は、Dレンジ位置(図2において中心線より下側に示すような左位置)に移動する。一方、第2ポート136bにマニュアルバルブ170からRレンジ圧が供給されると、スリーブ132は、リターンスプリング137の付勢力に抗して、Rレンジ位置(図2において中心線より上側に示すような右位置)に移動する。
【0044】
スプール133の収束位置、つまり、変速制御用バルブ130がアクチュエータ104の作動油出入口104a,104bと、ライン圧およびドレンポートとを遮断するときのスプール133の位置は、スリーブ132とともに移動する。すなわち、スリーブ132がDレンジ位置(図2において左位置)にあるとき、スプール133の収束位置も左側へ移動し、スリーブ132がRレンジ位置(図2において右位置)にあるとき、スプール133の収束位置も右側へ移動する。
【0045】
ステップモータ150は、例えば直動式のものからなり、車両のトランスミッション用ECU(不図示)からの指令に従ってその出力軸151の位置を変更する。
【0046】
リンクバー160の両端部には、油圧ポンプ用斜板50の一部(第2接続片103)と、ステップモータ150の出力軸151とがそれぞれ連結されている。さらに、リンクバー160の中間部には、変速制御用バルブ130のスプール133の一端部が連結されている。
【0047】
マニュアルバルブ170は、一般的なCVT、AT等で使用されているマニュアルバルブと同様に、運転席に設置されたシフト操作部と連動して、スプール171が各シフトレンジに応じた位置をとるようになっている。シフト操作部によるシフトレンジが、「L」、「2」、「D」等の前進レンジにあるとき、変速制御用バルブ130の第1ポート136aにライン圧をDレンジ圧として供給する。一方、シフトレンジが、「R」、つまり、後進レンジにあるとき、変速制御用バルブ130の第2ポート136bにライン圧をRレンジ圧として供給する。なお、シフトレンジが、ニュートラルポジション、パーキングポジションにあるとき、ライン圧は第1および第2ポート136a,136bの何れにも供給されない。このとき、変速制御用バルブ130のスリーブ132は、リターンスプリング137によってDレンジ位置に配置される。
【0048】
以上の構成によれば、変速制御用バルブ130のスリーブ132がDレンジ位置にあるとき(図3参照)、ステップモータ150の全可動範囲に対して、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量が、前進からニュートラルの範囲に制限され、変速制御用バルブ130のスリーブ132がRレンジ位置にあるとき(図4参照)、ステップモータ150の全可動範囲に対して、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量が、ニュートラルから後進の範囲に制限される。
【0049】
すなわち、スリーブ132がDレンジ位置にあるときのスプール133の収束位置と、スリーブ132がRレンジ位置にあるときのスプール133の収束位置とをある程度違えることにより、スプール133とリンクバー160との連結点Pd,Pr(図5参照)の位置もある程度相違させることができる。そして、リンクバー160は、上記連結点を支点として動作することから、ステップモータ150の出力軸151の全可動範囲に対して、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量の範囲を制限することができる。本実施形態では、スリーブ132がDレンジ位置にあるときに、スプール133とリンクバー160との連結点が図5に示す左側の連結点Pdとなり、ステップモータ150の出力軸151とリンクバー160との連結点Psの全可動範囲Sに対して、油圧ポンプ用斜板50の第2接続片103とリンクバー160との連結点Paの可動範囲が制限される結果、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量が、前進からニュートラルの範囲(図5のハッチングAで示す範囲)に制限される。また、スリーブ132がRレンジ位置にあるときは、スプール133とリンクバー160との連結点が図5に示す右側の連結点Prとなり、ステップモータ150の出力軸151の出力軸151とリンクバー160との連結点Psの全可動範囲Sに対して、油圧ポンプ用斜板50の第2接続片103とリンクバー160との連結点Paの可動範囲が制限される結果、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量が、ニュートラルから後進の範囲(図5のハッチングBで示す範囲)に制限される。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る油圧式無段変速機10によれば、スリーブ132、スプール133等を有する変速制御用バルブ131を採用したことにより、前進と後進の切り分けを制御に頼らずハード的に行う(保証する)ことができる。これにより、制御上の故障・誤作動や電気的デバイス(ステップモータ150)の故障・誤作動が発生しても十分な安全性が確保される。また、ステップモータ150が故障して作動しなくなっても、マニュアルバルブ170から変速制御用バルブ130にDレンジ圧又はRレンジ圧が供給されることで、少なくとも前後進の切替が可能となる。
【0051】
ところで、上記変速制御用バルブ130には、マニュアルバブル170から第1ポート136a(Dポート)にDレンジ圧が供給され、スリーブ132がDレンジ位置に移動した場合にDレンジ圧を出力し、マニュアルバブル170から第2ポート136b(Rポート)にRレンジ圧が供給され、スリーブ132がRレンジ位置に移動した場合にRレンジ圧を出力する第3ポート136c(出力ポート)が設けられている。また、油圧式無段変速機10から駆動輪(図示せず)に至るまでの途中に回転動力を断接するクラッチ95が設けられており、第3ポート136cからDレンジ圧又はRレンジ圧が出力された場合に限り、クラッチ95の作動油圧が供給されるように、この油圧式無段変速機10の油圧回路(図示せず)が構築されている。したがって、クラッチ95は、この作動油圧が供給されている場合に限り、クラッチの断接動作が可能となり、作動油圧が供給されていない場合は、常にクラッチ断の状態となり、動力を伝達することができない。よって、変速制御用バルブ130のスリーブ132の位置がスティック等により切替わらなかったときは、クラッチ95に作動油圧が供給されず、クラッチは常に切れた状態となり、車両の走行を禁止できる。これにより、運転者がシフト操作を前進レンジにしたにもかかわらず、車両が後進することや、シフト操作を後進レンジにしたにもかかわらず車両が前進することを確実に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、自動車、自動二輪車、トラクター等の作業用車両をはじめとする車両全般において搭載される油圧式無段変速機として利用可能であり、特に軽自動車等のコンパクトな構成の車両において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 油圧式無段変速機
20 入力軸
30 シリンダブロック
40 油圧ポンプ用プランジャ
50 油圧ポンプ用斜板
60 油圧モータ用プランジャ
70 油圧モータ用斜板
95 クラッチ
104 アクチュエータ(斜板用アクチュエータ)
130 変速制御用バルブ
150 ステップモータ
151 ステップモータの出力軸(ステップモータの出力部)
160 リンクバー
131 バルブハウジング
132 スリーブ
133 スプール
134 スリーブ弁孔
135 スプール弁孔
136c 第3ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8