(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978514
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20160817BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20160817BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 E
B41J2/01 501
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-28919(P2013-28919)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2013-216864(P2013-216864A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-58511(P2012-58511)
(32)【優先日】2012年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征寿
(72)【発明者】
【氏名】依田 純
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−047700(JP,A)
【文献】
国際公開第00/075245(WO,A1)
【文献】
特開2004−123905(JP,A)
【文献】
特開2010−047660(JP,A)
【文献】
特開2005−272847(JP,A)
【文献】
特許第3505718(JP,B2)
【文献】
特開2011−074336(JP,A)
【文献】
特開2011−245670(JP,A)
【文献】
特開2011−006657(JP,A)
【文献】
特開2001−354889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、顔料、バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子、さらに水溶性有機溶剤を2種以上含む水性インクジェットインクにおいて、前記水溶性有機溶剤のうち、少なくとも1種は沸点が100℃以上180℃以下の範囲である(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類であり、少なくとも1種は沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類であり、前記水性インク組成中における前記(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類の含有量が5重量%以上20重量%以下であり、前記水性インク組成中における前記アルカンジオール類の含有量が10重量%以上25重量%以下であることを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類がプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の水性インクジェットインク。(ただし、前記プロピレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は1〜4である。)
【請求項3】
前記アルカンジオール類が炭素数4〜6の1,2−アルカンジオールであることを特徴とする請求項1または2記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
シリコン系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
顔料が、シアン、マゼンタ、イエロー、またはブラック顔料であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
顔料がシアンである請求項5記載の水性インクジェットインク、顔料がマゼンタである請求項5記載の水性インクジェットインク、顔料がイエローである請求項5記載の水性インクジェットインク、および顔料がブラックである請求項5記載の水性インクジェットインクを少なくとも含む水性インクジェットインクセット。
【請求項7】
インクの液滴を吐出させて印刷基材上に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、前記インクとして請求項1〜5のいずれか記載の水性インクジェットインクを用いる、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1〜5いずれか記載の水性インクジェットインクで印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性の高い難吸収性基材への印刷適性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性、塗膜耐性に優れる水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、幅広い分野で開発、商品化がされており、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、様々な用途でインクジェットプリンターの実用化が進んできている。
【0003】
従来、インクジェットプリンターを用いて難吸収性基材上に画像形成するためには、乾燥性の良好なインクが求められていた。特に産業用途として使用されているポリ塩化ビニルシートはインクが吸収し難く、高生産性が求められることから溶剤インクやUV硬化型インクなどの速乾性を有するインクが使用されていることが多かった。しかしながら、溶剤インクは乾燥時に揮発する溶剤の臭気や有害性が環境に影響することが懸念され、UVインクは使用するモノマーによっては皮膚に対して強い刺激性を与えるものや臭気を有するものが多く、インクを扱う作業者に対しての問題があった。
【0004】
環境に対する影響が少なく、作業者に対して安全性の高いインクとして、水性インクの開発が近年、進められてきている。また、水性インクは環境に対する負荷が少ないことから、屋内外全ての用途での使用が期待され、インクジェットプリンターの汎用性を広げるため、普通紙や専用紙などのインクを吸収し易い紙系基材のみならず、コート紙、アート紙、ポリ塩化ビニルシートなどのようなインクが吸収し難い様々な印刷基材に対して、直描で画像形成できる水性インクが求められてきている。
【0005】
一般的に、水性インクの乾燥機構は、インクが基材へ着弾後、基材への浸透と蒸発に分類されるが、浸透の寄与が非常に大きく、産業用途として使用されているコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性が高い難吸収性基材は浸透が遅いため、多色印刷の場合はインクが混色してきれいな画像を形成できない、印刷速度を上げられない等の問題があった。
【0006】
インクジェット用の水性インクとしては特許文献1〜4のように印刷対象を普通紙や写真用紙のような専用紙とした水性インクの開発が古くからなされている。しかし、産業用途などに使用されるような難吸収性の印刷基材に対しては、これらのインクを使用しても十分な印刷品質をもった印刷物を得ることはできず、実用上使用することができなかった。これは難吸収性の基材に対して水性インクは濡れ広がり難いことと、基材へのインクの浸透が起こりづらくドット同士が融着して滲んでしまうことが原因である。
【0007】
難吸収性の印刷基材に対して画像形成させる水性インクとして、特定構造を有する水溶性樹脂を用いることによりポリ塩化ビニルシート上で優れた塗膜耐性、高い光沢を有する優れた画像品質が得られることが特許文献5、6に挙げられている。しかしながら、これらのインクを使用しても、ポリ塩化ビニルシート上にける乾燥性が乏しく、印刷時にドット同士が融着し混色滲みが発生しやすいという問題があった。また、水溶性樹脂の成膜性が十分ではなく、強い摩擦に耐えうるインク塗膜の形成が困難であった。
【0008】
特定構造を有するシリコン系界面活性剤と樹脂微粒子を用いることで専用紙上における発色性や基材に対する定着性に優れ、印字ムラ、光沢ムラの少ない良好な印字品質が得られることが特許文献7に記載されている。しかしながら、ポリ塩化ビニルシートなどの難吸収性基材に対しては、使用している水溶性有機溶剤の濡れ性や乾燥性が十分ではなく、白抜けやドット滲みが発生し、優れた印刷適性が得られなかった。
【0009】
さらに、特許文献8には特定の高分子分散剤、アミン中和された樹脂を用いることで乾燥過程における粘度上昇により滲みを抑制し、さらに乾燥時の顔料の凝集を抑えることにより、ポリ塩化ビニルシート上で高い光沢を有する良好な画像品質が得られることが記載されている。しかしながら上記のアミン中和された樹脂の中で、水溶性樹脂を使用した場合、成膜性に乏しくドットが十分に乾かないため、基材上で滲みが生じる問題があった。また、インク塗膜も強い摩擦に耐えうるものではなかった。一方、水分散性樹脂微粒子を使用した場合、良好な塗膜耐性は得られても、インクジェットノズル上でインクが乾燥して固化しやすく、十分な吐出安定性を確保することが難しかった。また、水分散性樹脂微粒子が乾燥時に成膜することにより、ドットが十分に濡れ広がる前に乾燥してしまい、基材上で均一な塗膜が形成できず、高い光沢を有する印刷品質を達成することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−072905号
【特許文献2】特開2003−012583号
【特許文献3】特許第3994734号
【特許文献4】特許第4595281号
【特許文献5】特開2011−026545号
【特許文献6】特開2011−094082号
【特許文献7】特許第4292749号
【特許文献8】特開2011−074336号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性の高い難吸収性基材への印刷適性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性、塗膜耐性に優れる水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
即ち、本発明は、少なくとも水、顔料、バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子、さらに水溶性有機溶剤を2種以上含む水性インクジェットインクにおいて、前記水溶性有機溶剤のうち、少なくとも1種は沸点が100℃以上180℃以下の範囲である(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類であり、少なくとも1種は沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類であり、前記水性インク組成中における前記(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類の含有量が5重量%以上20重量%以下であり、前記水性インク組成中における前記アルカンジオール類の含有量が10重量%以上25重量%以下であることを特徴とする水性インクジェットインクに関する。
【0013】
また、本発明は、前記(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類がプロピレングリコールモノ
アルキルエーテル、ジプロピレングリコールジ
メチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記発明の水性インクジェットインクに関する。
(ただし、前記プロピレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は1〜4である。)
また、本発明は、前記アルカンジオール類が
炭素数4〜6の1,2−アルカンジオールであることを特徴とする上記発明の水性インクジェットインクに関する。
また、本発明は、シリコン系界面活性剤を含むことを特徴とする上記発明の水性インクジェットインクに関する。
また、本発明は、
顔料がシアンである上記発明の水性インクジェットインク、顔料がマゼンタである上記発明の水性インクジェットインク、顔料がイエローである上記発明の水性インクジェットインク、および顔料がブラックである上記発明の水性インクジェットインクを少なくとも含む水性インクジェットインクセットに関する。
また、本発明は、インクの液滴を吐出させて印刷基材上に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、前記インクとして上記発明の水性インクジェットインクを用いる、インクジェット記録方法に関する。
さらに本発明は、上記発明の水性インクジェットインクで印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性の高い難吸収性基材への印刷適性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性、塗膜耐性に優れる水性インクジェットインクを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の水性インクジェットインクについて説明する。
【0016】
本発明の水性インクジェットインクは、少なくとも水、顔料、バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子、水溶性有機溶剤を2種以上含むことを特徴とする。
先ず、本発明を特徴づける水溶性有機溶剤について説明する。
【0017】
一般的に、コート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性の高い難吸収性基材は、基材自体の表面張力が低いため、これらの基材上でインクを十分に濡れ広げるのは容易ではないことが知られている。インクが十分な濡れ性を有していないと、印字部がインクで十分埋まらず、白抜け等が発生しやすくなる。また、濡れ性が十分でないとドット同士が融着して滲みが生じやすくなってしまう。さらに、これらの基材はインクが吸収し難いため、使用している溶媒の基材に対する浸透や蒸発による乾燥性が悪いと、基材上に溶媒が残存することで、ドット同士がつながり、滲みが生じるため、鮮明な画像が得られない。そのため、これらの難吸収性基材上で印刷を行うには、インクの濡れ性と乾燥性を十分に確保する必要がある。
【0018】
特に、水は溶媒の中でも極めて表面張力が高いことから、疎水性の高い基材上で濡れ難く、浸透の寄与も低いため、水性インクの濡れ性、乾燥性を十分に得ることは非常に難しい。
【0019】
一般的に、水性インクの濡れ性及び、乾燥性を高める目的で水溶性有機溶剤が用いられる。水溶性有機溶剤は水に比べると表面張力が低いため、難吸収性基材上で濡れ性を向上させるには必要不可欠である。また、疎水性の高い水溶性有機溶剤を用いることで、難吸収性基材に対する浸透性を高め、インクの乾燥性を向上させることも可能である。しかしながら、インクの乾燥性が高すぎると、基材上でドットが濡れ広がる前に乾燥してしまい、印字部が完全にインクで埋まらず白抜け等が発生する。また、十分に濡れ広がらずにドットが乾燥してしまうことで、均一なインク塗膜を形成できず、塗膜表面に凹凸が生じてしまい、光沢低下を引き起こす。そのため、難吸収性基材上で優れた印刷適性を得るためには、基材上におけるインクの濡れ性、乾燥性を制御することが必要である。
【0020】
本発明者らは、種々の水溶性有機溶剤が難吸収性基材上における画像形成に与える影響について検討を行い、沸点が100℃以上180℃以下の範囲である(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類と沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類を併用することで、難吸収性基材に対して優れた印刷適性が得られることを見出した。
【0021】
優れた印刷適性が得られる理由については定かではないが次のようなことが推察される。(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類は、溶剤自体が溶解性に優れ、難吸収性基材に対する浸透性が高いことから、乾燥性を向上させるには好適である。また、乾燥過程において水分散性樹脂微粒子の成膜を促進させ、ドット同士の滲みを抑えることが可能である。しかしながら、(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類を単独で使用した場合、基材上でインクが十分に濡れ広がる前に乾燥してしまい、画像形成するための最適な濡れ性が得られにくい。一方、アルカンジオール類は、溶剤自体の溶解性は低いため、難吸収性基材上で留まりやすく、濡れ性を十分に確保するには好適である。しかしながら、アルカンジオール類を単独で使用した場合には、インクの乾燥性が不十分なため、ドット同士が融着して滲みが発生しやすくなる。好適な範囲の沸点を有する上記溶剤を併用することで、難吸収性基材上における濡れ性及び乾燥性が制御され、優れた印刷適性が得られているものと考えられる。
【0022】
本発明で用いられる (ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類の沸点は、優れた乾燥性を有するという観点から、100℃以上180℃以下が好ましく、100℃以上160℃以下がより好ましい。特に好ましくは、100℃以上140℃以下である。沸点が100℃より低い場合、乾燥が早すぎてしまい、難吸収性基材上におけるインクの濡れ性が悪化し、白抜けの発生や光沢の低下につながる。また、インクジェットノズル上でインクが乾燥しやすく吐出安定性が損なわれる可能性がある。さらに、樹脂微粒子が成膜する前に溶剤が揮発してしまい十分な塗膜耐性が得られ難いため、好ましくない。一方、沸点が180℃を超えると、難吸収性基材上で溶剤が残存してしまい、乾燥性が悪化してしまう。また、乾燥過程で残存した溶剤が顔料分散体の分散破壊をもたらし、インク塗膜中で顔料が凝集することで光沢を低下させる可能性があるため好ましくない。
【0023】
沸点が100℃以上180℃以下の(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、単独もしくは複数使用することができる。
【0024】
沸点が100℃以上160℃以下の(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0025】
沸点が100℃以上140℃以下の(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0026】
上記の好適な沸点を有する(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類を用いることで、難吸収基材上での浸透性に加え、溶剤自身の揮発性が高いため、ドット同士の混色・滲みを抑えた優れた乾燥性を得ることが可能となる。
【0027】
本発明で用いられる沸点が100℃以上180℃以下の(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類は、高い光沢を有し、優れた乾燥性や印刷適性を得るという観点から、水性インク組成中における含有量は5重量%以上20重量%以下であることが好ましく、5重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。20重量%を超えてしまうと、乾燥性が悪化し、溶剤がインク塗膜中に残存することにより、画像品質を損なう可能性がある。また、5重量%よりも少ないと難吸収性基材に対する浸透性が不足し、ドットが融着しやすくなるため好ましくない。
【0028】
本発明で用いられるアルカンジオール類は、難吸収性基材上での濡れ性及びインクジェットノズル上での保湿性を高めるという観点から、沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類であることが好ましい。上記範囲よりも高い沸点を有するアルカンジオール類を使用した場合、乾燥性が悪化してしまい、優れた印刷適性が得られないため好ましくない。また、アルカンジオール類の炭素数が4未満の場合、難吸収性基材上において十分な濡れ性が得られないため好ましくない。
【0029】
本発明で用いられる沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類としては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等が挙げられ、単独もしくは複数使用することができる。難吸収性基材上で優れた濡れ性を得るという観点から、上記アルカンジオール類の中でも1,2−(炭素数が4〜6のアルカン)ジオール類を使用することがより好ましい。
【0030】
本発明で用いられる沸点が180℃以上230℃以下のアルカンジオール類のインク組成中における含有量は、難吸収性基材上で優れた濡れ性や乾燥性を確保するという観点から、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、10重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。含有量が10重量%よりも少ない場合、インクジェットノズル上での保湿性が不十分なため、吐出安定性を損なう可能性がある。また、難吸収性基材上でインクの濡れ性が不十分となり、白抜け等が生じてしまう。25重量%よりも多い場合、インクの乾燥性が悪化し、難吸収性基材上でドットがつながり、混色滲みや白抜け等の問題につながる。
【0031】
上記アルカンジオール類は、溶剤自身の溶解性がそこまで高くないため、顔料分散体に対する安定性が比較的良好であり、保存安定性を向上させることが可能である。また、乾燥過程において顔料分散体が分散を保ったままの状態で、均一なインク塗膜の形成が可能であり、高い光沢を有する印刷品質を得ることができる。
【0032】
また、本発明の効果が小さくならない程度の好適な含有量の範囲内であれば、上記以外の溶剤を単独もしくは複数併用することができる。
【0033】
上記以外の溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
さらに、難吸収性基材に対する浸透及び密着性を向上させる目的で、水溶性の含窒素系溶剤を添加することもできる。
【0035】
含窒素系溶剤としては、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン、N,N−ジメチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−エトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−2−エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−オクトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−オクトキシプロピオンアミドなどが挙げられる。
【0036】
本発明で用いられる水溶性有機溶剤のインク組成中における含有量の合計は20重量%以上40重量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量の合計が20重量%を下回るとインクの保湿性が不足し、吐出安定性が損なわれる可能性がある。また、難吸収性基材上での濡れ性が低下し印刷品質が悪化する可能性がある。水溶性有機溶剤の含有量の合計が40重量%よりも多い場合、インクの粘度が高くなってしまい、吐出安定性を損なう可能性がある。また、インクの保存安定性や乾燥性も実用に適さなくなり、印刷品質が悪化する可能性がある。
【0037】
<バインダー樹脂>
本発明の水性インクジェットインクは、疎水性の高い難吸収性基材上でのドットの乾燥性や印字物の塗膜耐性を高めるためにバインダー樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては水分散性樹脂微粒子を使用することが好ましい。水性インクのバインダー樹脂としては大別して水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られているが、一般に樹脂微粒子は水溶性樹脂と比較して高分子量であり、高い耐性を実現することができる。また、樹脂微粒子はインクの粘度を低くすることができ、より多量の樹脂をインク中に配合することができることから、インクジェットインクの耐性を高めるのに適していると言える。樹脂微粒子の種類としてはアクリル系、ウレタン系、スチレンブタジエン系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系等が挙げられる。
【0038】
水分散性樹脂微粒子のガラス転移点温度(Tg)を高くすることで耐擦性、耐薬品性等の耐性を向上させることが可能であり、好ましくは50〜100℃の範囲であり、より好ましくは75℃〜90℃の範囲である。50℃よりも低い場合には十分な耐性が得られず、実用にて印刷物から印刷が剥がれる場合がある。また、100℃よりも高い場合には塗膜が非常に硬くなり、印刷物を折り曲げた際に印刷面にワレ、ヒビが生じる場合がある。
【0039】
また、水分散性樹脂微粒子は印字物の塗膜耐性を高めるだけでなく、液滴が着弾した後に速やかに成膜することで、ドット同士の滲みを抑制し、色間の滲みのない優れた印刷品質を得ることができる。
【0040】
上述したように、水分散性脂微粒子は成膜性に優れる反面、インクが乾燥しやすくなり、インクジェットノズル面で固化しやすい。一度成膜してしまうと再溶解しないため、インクの保湿性が不十分な場合、ノズル付近でインクが乾燥して固着してしまい、吐出安定性を損なう可能性がある。本発明においては、上記した好適な範囲の沸点を有する水溶性有機溶剤を使用することで、十分な保湿性を確保できる。そのため、水分散性樹脂微粒子を使用しても優れた吐出安定性と塗膜耐性の両立が可能となる。
【0041】
上記したような水分散性樹脂微粒子のインク組成中における含有量は、不揮発分でインクの全重量の3〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0042】
<水>
本発明の水性インクジェットインクに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0043】
本発明で使用することができる水の含有量としては、インクの全重量の20〜80重量%の範囲である。
【0044】
<顔料>
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等が挙げられる。
【0045】
本発明で使用することができるマゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、238、269、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられる。
【0046】
本発明で使用することができるイエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185、213等が挙げられる。
【0047】
本発明で使用することができるブラックの顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10重量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、
No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0048】
本発明では上述した顔料に限定されるものではなく、その他の顔料を使用してオレンジ、グリーン、ホワイト等の特色や顔料を含まないクリアを組み合わせたインクセットとして使用することができる。
【0049】
本発明で使用することができる顔料の含有量としては、インク組成中で0.1〜20重量%の範囲である。
【0050】
<顔料分散樹脂>
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料分散樹脂としては、従来既知のものが使用できるが、一般に、(メタ)アクリル酸共重合物が使用される。これは、顔料表面に吸着した(メタ)アクリル酸共重合物がイオン化した際の電荷反発により、水性溶媒中で、顔料どうしの電荷反発が起こり、安定した顔料分散状態を保つことができるためと考えられる。
【0051】
本発明では単色のインクだけではなく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクを組み合わせた4色以上のインクセットとしても利用することができる。各色のインクについては特に組成を限定するものではないが、顔料以外の成分は全て同様の組成とすることが望ましい。同様の組成にすることで印刷時の乾燥速度や基材上での濡れ広がりを全色均一にし、印刷品質を向上させることができる。
【0052】
<界面活性剤>
本発明の水性インクジェットインクは、表面張力を調整し基材上の濡れ性を確保する目的で界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、アセチレン系、シリコン系、アクリル系、フッ素系など用途に合わせて様々なものが知られているが、インクの表面張力を十分に下げるという観点からシリコン系界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤の添加量の例としては、インクの全重量に対して、0.1〜5重量%が好適である。
【0053】
<その他の成分>
また、本発明のインクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インクの全重量に対して、0.01〜10重量%が好適である。
【0054】
<インクの調製方法>
上記したような成分からなる本発明のインクの調製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性有機溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインクとする。
【0055】
本発明のインクの調製方法においては、上記で述べたように、インクの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0056】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0057】
さらに、上記した顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散樹脂は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、水溶性有機溶剤と水の混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0058】
本発明のインクは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインクをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0059】
<記録方法>
本発明で用いられる記録方法は、印刷基材上に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、上記の水性インクジェットインクを使用したインクジェット記録方法が提供される。
【0060】
<記録物>
また、本発明によれば、上記した水性インクジェットインクで印刷してなる印刷物が提供される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0062】
<顔料分散樹脂の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、およびV−601(和光純薬製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は約16000であった。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を200部添加し、水性化した。これを1gサンプリングして、180℃20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に水性化した樹脂溶液の不揮発分が20%になるように水を加えた。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分20%の水性化溶液を得た。
【0063】
<水分散性樹脂微粒子の製造例>
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート10部、メチルメタクリレート57部、スチレン30部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で不揮発分を40%に調整して樹脂微粒子水分散体を得た。得られた樹脂微粒子水分散体を水分散性樹脂微粒子1とした。水分散性樹脂微粒子1の計算上のガラス転移点温度は80℃である。
【0064】
<顔料分散液の製造>
[シアン顔料分散液の製造]
顔料としてPigment Blue 15:3を20部、顔料分散樹脂1の水溶液を42.9部、水37.1部をマヨネーズ瓶に仕込み、ディスパーで予備分散した後、分散メディアとして直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、シアン顔料分散液を得た。このシアン顔料分散液を顔料分散液Aとした。
【0065】
[マゼンタ顔料分散液の製造]
顔料としてPigment Red 122を20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、マゼンタ顔料分散液を得た。このマゼンタ顔料分散液を顔料分散液Bとした。
【0066】
[イエロー顔料分散液の製造]
顔料としてPigment Yellow 120を20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、イエロー顔料分散液を得た。このイエロー顔料分散液を顔料分散液Cとした。
【0067】
[ブラック顔料分散液の製造]
顔料としてカーボンブラックを20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、ブラック顔料分散液を得た。このブラック顔料分散液を顔料分散液Dとした。
【0068】
実施例、比較例で使用する水溶性有機溶剤について以下に示す。
<(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類>
・PGMME:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:120℃)
・PGMPE:プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:150℃)
・DPGDME:ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃)
・DPGMME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:189.6℃)
・PGDME:プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:96℃)
<アルカンジオール類>
・1,3−BD:1,3−ブタンジオール(沸点:207.5℃)
・1,5−PenD:1,5−ペンタンジオール(沸点:239℃)
・1,2−PD:1,2−プロパンジオール(沸点:187.6℃)
・1,2−BD:1,2−ブタンジオール(沸点:194℃)
・1,2−HexD:1,2−ヘキサンジオール(沸点:224℃)
<上記以外の水溶性有機溶剤>
・MB:3−メトキシ−1−ブタノール(沸点:157℃)
・DEGDME:ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:162℃)
・DEGMBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230.4℃)
・TEGMBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:278℃)
【0069】
<実施例1〜20及び比較例1〜13>
上記の顔料分散体A〜Dを用いて表1、表2に記載のとおりの原料をディスパーにて撹拌を行いながら混合し、十分に均一になるまで攪拌した後、1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しインクを調製した。調製したシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを1組のインクセットとし、組成の異なる実施例1〜20、比較例1〜13のインクセットを得た。これらのインクセットを用いて以下の評価を行った。
【0070】
調製したインクの評価方法について下記に示す。
【0071】
<評価1:粘度の安定性評価>
実施例1〜20、比較例1〜13で得られたインクの粘度をE型粘度計(東機産業社製TVE−20L)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定した。このインクを70℃の恒温機に保存し、経時促進させた後、経時前後でのインクの粘度変化を評価した。評価基準は下記のとおりであり、A、 B評価が実用可能領域である。
A:4週間保存後の粘度変化率が±5%未満
B:2週間保存後の粘度変化率が±5%未満
C:1週間保存後の粘度変化率が±5%以上
【0072】
<評価2:インクの濡れ性評価>
実施例1〜20、比較例1〜13で得られたインクについて、25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンターに充填し、下記基材を50℃に加温しながら印字率100%のベタ印刷を行い、印刷物の白抜け度合を目視で確認した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:インクが十分に広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく均一な画像が得られているもの
A:インクが程良く広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく良好な画像が得られているもの
B:インクが程良く広がり、目視で白抜けがないもの
C:インクの広がりが不十分であり、目視で僅かに白抜けが発生しているもの
D:インクの広がりが不十分であり、目視で明らかに白抜けが発生しているもの
(評価基材)
・コート紙:王子製紙社製OKトップコート+
・ポリ塩化ビニルシート(PVC):メタマーク社製MD−5
【0073】
<評価3:印刷物の混色評価>
実施例1〜20、比較例1〜13で得られたインクについて、評価2と同様の基材及び印刷条件で印刷を行った。但し、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックを隣り合うように(色の順序はランダムでよい)印刷し、色間における混色度合を目視により評価した。また、ドットのつながりはルーペで観察し評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:ドットの融着、色間の色混じりや滲みが全くなく、各色の境界が鮮明であるもの
A:ドットの融着が僅かにあるが、目視で色間の色混じりや滲みが全くなく、各色の境界が鮮明であるもの
B:ドットの融着が僅かにあるが、目視で色間の色混じりや滲みが全くないもの
C:目視で色間の色混じりや滲みが僅かに見られるもの
D:目視で色間の色混じりや滲みが明らかに見られるもの
<評価4:印刷物の光沢評価>
評価2の条件で印字した印刷物を室温で2時間乾燥させた後、印刷物の光沢度合を目視及び60°光沢計にて測定し評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:光沢値が非常に高く、印刷物表面の光沢の均一性に優れる
A:光沢値が高く、印刷物表面の光沢の均一性が良好
B:光沢値が高いが、印刷物表面の光沢が僅かに不均一
C:印刷物表面の光沢の均一性が悪く、光沢値も低い
D:印刷物表面の光沢の均一性が著しく悪く、光沢値も低い
<評価5:吐出安定性の評価>
評価2と同様の条件でPVC上に印字率100%のベタ印字を行い、10分ごとにノズルチェックパターンを印字してノズル抜けの有無を確認し評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、A、B評価が実用可能領域である。
A:30分間印字を行ってもノズル抜け無し
B:20分間印字を行ってもノズル抜け無し
C:20分以内でノズル抜けが発生する
【0074】
<評価6:塗膜耐性の評価>
印刷基材としてPVCを使用して印字を行った印刷物を70℃で3分間加熱乾燥させた後、学振型摩擦堅牢試験機AB−301(テスター産業株式会社製)を用いて、荷重500g,摩擦回数100回の条件で、摩擦用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子と印字サンプルとを擦り合わせ、画像の表面状態を目視にて観察した。評価基準は下記のとおりであり、A、Bの評価であると耐擦性に優れた画像を形成していると判断できる。
A:カナキンにインクの付着が全くない
B:カナキンにインクの付着が僅かにあるが、印刷基材は見えない
C:印刷基材が見えるほどインクがとれる
【0075】
上記の評価結果は、実施例1〜20については表3に示す。また、比較例1〜13については表4に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
実施例1〜20では請求項の範囲内の沸点を有する水溶性有機溶剤、バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子を使用することで疎水性の高い難吸収性基材への印刷適性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性、塗膜耐性に優れる水性インクジェットインクが得られている。
【0081】
一方、本発明の範囲外である比較例においては全ての評価項目を満足し、実用可能な品質のインクとすることができないことが示されている。沸点が100℃以上180℃以下の範囲である(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類の含有量が本発明の範囲外である比較例1、2は、難吸収性基材上において優れた印刷品質が得られていない。沸点が180℃以上230℃以下の炭素数が4以上のアルカンジオール類の含有量が本発明の範囲外である比較例3、4においても同様に難吸収性基材上において優れた印刷品質が得られていない。アルカンジオール類の沸点が本発明の範囲よりも高い比較例5においては、インクの乾燥性が不十分なため優れた印刷適性が得られていない。炭素数が4未満のアルカンジオール類を使用した比較例6は難吸収性基材上における濡れ性が不十分で優れた印刷品質が得られていない。また、(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類の沸点が本発明の範囲よりも高い比較例7及び沸点が本発明の範囲よりも低い比較例8においてはいずれも全ての評価項目を満足せず、優れた印刷適性が得られていない。アルカンジオール類を含まない比較例9においては、保存安定性が悪化し実用に適したインクとすることができていない。また、保湿性が不十分なため、吐出安定性や印刷品質が悪かった。(ポリ)プロピレングリコールアルキルエーテル類を含まない比較例10〜12においては乾燥性が不十分なため、優れた印刷品質が得られていない。バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用した比較例13は、成膜性に乏しいため、難吸収性基材上でのインクの乾燥性が不十分であり、ドットが融着しやすく混色滲みが悪化していた。また、インク塗膜の耐性も満足できるものではなかった。