特許第5978624号(P5978624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5978624光導波路形成用樹脂組成物、ドライフィルム、およびこれらを用いてなる光導波路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978624
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】光導波路形成用樹脂組成物、ドライフィルム、およびこれらを用いてなる光導波路
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   G02B6/12 371
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-550767(P2011-550767)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2011076880
(87)【国際公開番号】WO2012105111
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2014年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-17910(P2011-17910)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤森 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二
(72)【発明者】
【氏名】曽田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】松岡 豪
【審査官】 里村 利光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−051917(JP,A)
【文献】 特開平06−280032(JP,A)
【文献】 特開2009−069241(JP,A)
【文献】 特表平09−507312(JP,A)
【文献】 特開2010−191156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
C08K 5/36
C08L 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物、(B)アクリレートモノマー、(C)光ラジカル重合開始剤を必須成分として含有する組成物からなり、該(B)アクリレートモノマーとして、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、及びイソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(D)硫黄原子含有化合物を含有する組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(E)シアネートエステルプレポリマーの硬化触媒を含有する組成物からなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)シアネートエステルプレポリマーが1分子中に少なくとも2個以上のシアネート基を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分100質量部に対し(B)成分が20〜150質量部、(C)成分が0.01〜10質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分と(D)成分の総量100質量部に対し、(A)成分が50〜99.5質量部、(D)成分が0.5〜50質量部であり、かつ(A)成分と(D)成分の総量100質量部に対し(B)成分が20〜150質量部、(C)成分が0.01〜10質量部であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分と(B)成分の総量100質量部に対し、(A)成分が10〜90質量部、(B)成分が10〜90質量部であり、かつ(C)成分が0.1〜10質量部、(E)成分が0.001〜10質量部であることを特徴とする請求項3〜4のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の、光導波路形成用樹脂組成物からなる未硬化状態の該樹脂組成物層を有することを特徴とする光導波路形成用ドライフィルム。
【請求項9】
クラッドとコアからなり、クラッドよりもコアの平均屈折率が高い光導波路において、コアおよび/またはクラッドが請求項1〜6のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物または請求項8記載の光導波路形成用ドライフィルムを用いて形成されてなり、それらのガラス転移温度が150℃〜250℃であることを特徴とする光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、光伝送特性、硬化収縮性、加工性等に優れた光導波路形成用樹脂組成物、ドライフィルム、およびこれらを用いてなる光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや携帯電話等の情報端末において大容量のデータ演算、蓄積、表示等、高性能化の要請が急速に強まり、それに伴ってデバイスの高速化、高密度化の技術が急速に発展している。しかしながら、従来の電気配線技術ではプリント配線板における信号遅延、クロストーク等、配線密度上の物理的限界があり、将来の更なる要求に対応困難な状況が予想されている。これらの問題を解決するために光インターコネクション技術が有力視されており、基板間や基板内といった比較的短距離用の光伝送媒体としては、狭い空間において効率的に配線化が可能で、また低コストで簡便に接続・実装可能な高分子系光導波路が盛んに研究されている。
【0003】
高分子系光導波路はクラッドによって囲まれたコアにより構成され、コア中に通信光を閉じ込めて伝送するシステムである。高分子系光導波路材料において最も重要な点の1つは通信波長におけるコア材料の透過率であり、できるだけ低い伝搬損失を有する高分子系導波路の開発が行われている。基板間の光インターコネンクションでは、結合部で光路を直角に変換して基板外に光信号を取り出すために、光信号の光源としてコンパクトで低消費電力性に優れた面発光型半導体レーザーが用いられる。現在最も普及している面発光レーザーの発振波長は0.85μm(850nm)であり、導波路材料の設計指針として、この波長におけるコア材料の低光伝搬損失(実用的にはおよそ0.5dB/cm以下)が課題となっている。
光導波路材料として別の重要な点は屈折率の制御である。コア中に通信光を閉じ込めて伝送するには、コアの平均屈折率がクラッドの平均屈折率よりも高い必要がある。両者の屈折率差は、少なくとも0.5%以上は必要とされており、簡便に精度よく屈折率を制御出来る材料が望まれている。高分子系光導波路はフレキシブルなフィルム形態で使用されるだけでなく、基板表面上あるいは基板内部にリジッドな状態で搭載され、金属配線と混載されて使用される場合もある。後者の場合、鉛フリー半田リフロー実装工程に耐える耐熱性が高分子系光導波路に要求される。このように高い透明性と高い耐熱性の両方を有する光導波路材料としてフッ素化ポリイミド(例えば特許文献1参照)やエポキシ樹脂/エチレン性二重結合含有樹脂(例えば特許文献2参照)、エポキシ樹脂/アクリレート樹脂(例えば特許文献3参照)、ラジカル重合性化合物/エチレン性不飽和基含有化合物(例えば特許文献4参照)などが開発されている。
【0004】
フッ素化ポリイミドの場合、製膜には300℃以上で数十分から数時間の加熱条件が必要だが、既存の電気配線板の耐熱性が不十分のため、電気配線板上での製膜が困難であった。また基板との密着性も十分とは言えなかった。さらにフッ素化ポリイミドは液状の材料を基板に塗布して製膜する方法を用いて光導波路を作製するため、膜厚管理が煩雑であるなど、光導波路の作製、すなわち加工性に関わる課題があった。
【0005】
一方、特許文献2〜4はドライフィルムによる光導波路製造に関するもので、膜厚に関する上記加工性の問題は改善されており、またいずれも優れた耐熱性、透明性が得られている。しかしながら、アクリレート基やエポキシ基による硬化反応においては一般的に硬化収縮が大きいために、基板との密着性が低下したりパターン形成精度の低下を招くという問題があった。
【0006】
上記のように、高分子光導波路の物性において高い耐熱性と低い伝搬損失を両立しつつ精度よく屈折率制御が可能で、かつ光導波路成形性に優れるドライフィルムを用いた光導波路の製造において、低い硬化収縮を満足するものは従来にはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−40774号公報
【特許文献2】特開2006−71880号公報
【特許文献3】特開2007−84773号公報
【特許文献4】特開2008−33239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み、高い耐熱性、実用レベルの低い伝搬損失、屈折率制御が可能で、低い硬化収縮性を有する光導波路形成用樹脂組成物、ドライフィルムおよびこれらを用いてなる光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の問題を鑑み、鋭意検討を積み重ねた結果、シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物、アクリレートモノマー、光ラジカル重合開始剤を必須成分として含有する組成物によって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
1.(A)シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物、(B)アクリレートモノマー、(C)光ラジカル重合開始剤を必須成分として含有する組成物からなり、該(B)アクリレートモノマーとして、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、及びイソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする光導波路形成用樹脂組成物、
2.さらに(D)硫黄原子含有化合物を含有する組成物からなることを特徴とする上記1に記載の光導波路形成用樹脂組成物、
3.さらに、(E)シアネートエステルプレポリマーの硬化触媒を含有する組成物からなることを特徴とする上記1〜2のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物、
4.前記(A)シアネートエステルプレポリマーが1分子中に少なくとも2個以上のシアネート基を有する化合物であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物、
5.(A)成分100質量部に対し(B)成分が20〜150質量部、(C)成分が0.01〜10質量部であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物、
6.(A)成分と(D)成分の総量100質量部に対し、(A)成分が50〜99.5質量部、(D)成分が0.5〜50質量部であり、かつ(A)成分と(D)成分の総量100質量部に対し(B)成分が20〜150質量部、(C)成分が0.01〜10質量部であることを特徴とする上記2〜5のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物、
7.(A)成分と(B)成分の総量100質量部に対し、(A)成分が10〜90質量部、(B)成分が10〜90質量部であり、かつ(C)成分が0.1〜10質量部、(E)成分が0.001〜10質量部であることを特徴とする上記3〜4のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物、
8.上記1〜7のいずれかに記載の、光導波路形成用樹脂組成物からなる未硬化状態の該樹脂組成物層を有することを特徴とする光導波路形成用ドライフィルム、
9.クラッドとコアからなり、クラッドよりもコアの平均屈折率が高い光導波路において、コアおよび/またはクラッドが上記1〜6のいずれかに記載の光導波路形成用樹脂組成物または上記10記載の光導波路形成用ドライフィルムを用いて形成されてなり、それらのガラス転移温度が150℃〜250℃であることを特徴とする光導波路、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光導波路形成用樹脂組成物または導波路形成用ドライフィルムを用いれば、高い耐熱性と実用レベルの低い光伝搬損失を有する優れた物性の光導波路を提供することが可能になる。さらには高精度な屈折率制御や膜厚制御が容易で、コアパターン形成時には著しく大きな硬化収縮が起こらないことから、光導波路製造プロセスにおいて生産性良くコアパターン形成精度の高い光導波路を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0012】
本発明の光導波路形成用樹脂組成物、ドライフィルム、およびこれらを用いてなる光導波路は、(A)シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物、(B)アクリレートモノマー、(C)光ラジカル重合開始剤を必須成分として含有する組成物からなる。
ここで用いる(A)シアネートエステルプレポリマーは、公知のものを含め特に限定はされないが、分子中に2個以上のシアネート基を有するものが好ましい。例えば、1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物を重合して得られた樹脂や、下記一般式(1)で表されるノボラック型のシアネートエステル樹脂、下記一般式(2)で表されるジシクロペンタジエンビスフェノール型のシアネートエステル樹脂などを例示することができる。これらは単独で用いても2種類以上を併用して用いても構わない。
【化1】

(式中、nは1〜20の整数である)
【化2】

(式中、nは1〜20の整数である)
【0013】
前記の1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物としては公知のものを含め特に限定はされないが、例えば、1,3−ジシアネートベンゼン、1,4−ジシアネートベンゼン、2−tert−ブチル−1,4−ジシアネートベンゼン、2,4−ジメチル−1,3−ジシアネートベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ジシアネートベンゼン、テトラメチル−1,4−ジシアネートベンゼン、4−クロロ−1,3−ジシアネートベンゼン、1,3,5−トリシアネートベンゼン、2,2’−ジシアネートビフェニル、4,4’−ジシアネートビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジシアネートビフェニル、3,3’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジシアネートビフェニル、3,3’,5,5’−テトラクロロ−2,2’−ジシアネートビフェニル、1,3−ジシアネートナフタレン、1,4−ジシアネートナフタレン、1,5−ジシアネートナフタレン、1,6−ジシアネートナフタレン、1,8−ジシアネートナフタレン、2,6−ジシアネートナフタレン、2,7−ジシアネートナフタレン、1,3,6−トリシアネートナフタレン、4,4’−ビス〔(3−シアネート)−フェノキシ〕−ジフェニル、4,4’−ビス〔(4−シアネート)−フェノキシ〕−ジフェニル、2,2’−ジシアネート−1,1’−ビナフチル、4,4’−ジシアネートジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジシアネートエーテル、3,3’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジシアネートフェニルエーテル、4,4’−ビス(p−シアネートフェノキシ)−ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(p−シアネートフェニルイソプロピル)−ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(p−シアネートフェノキシ)−ベンゼン、4,4’−ビス(m−シアネートフェノキシ)−ジフェニルエーテル、4,4’−ビス〔4−(4−シアネートフェノキシ)フェニルスルホン〕−ジフェニルエーテル、4,4’−ジシアネートジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジシアネートジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ビス(p−シアネートフェニルイソプロピル)−ジフェニルスルホン、4,4’−ビス〔(4−シアネート)−フェノキシ〕−ジフェニルスルホン、4,4’−ビス〔(3−シアネート)−フェノキシ〕−ジフェニルスルホン、4,4’−ビス〔4−(4−シアネートフェニルイソプロピル)−フェノキシ〕−ジフェニルスルホン、4,4’−ビス〔4−(4−シアネートフェニルスルホン)−フェノキシ〕−ジフェニルスルホン、4,4’−ビス〔4−(4−シアネート)−ジフェノキシ〕−ジフェニルスルホン、4,4’−ジシアネートジフェニルメタン、4,4’−ビス(p−シアネートフェニル)−ジフェニルメタン、2,2’−ビス(4−シアネートフェニル)−プロパン、2,2’−ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)−プロパン、2,2’−ビス(3,5−ジクロロ−4−シアネートフェニル)−プロパン、2,2’−ビス(3,5−ジブロモ−4−シアネートフェニル)−プロパン、1,1−ビス(4−シアネートフェニル)−エタン、1,1’−ビス(p−シアネートフェニル)−シクロヘキサン、ビス(2−シアネート−1−ナフチル)−メタン、1,2−ビス(p−シアネートフェニル)−1,1,2,2−テトラメチルエタン、4,4’−ジシアネートベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−シアネート)−フェノキシベンゾフェノン、1,4−ビス(p−シアネートフェニルフェニルイソプロピル)−ベンゼン、ジアリルビスフェノールAシアネートエステル、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェニルシアネート)、2,2’−ビス(p−シアネートフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種類以上を併用して用いることもできる。中でも、特に、2,2’−ビス(4−シアネートフェニル)−プロパンや1,1−ビス(4−シアネートフェニル)−エタン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテルが透明性、耐熱性などの点で、好ましい。さらに、入手容易性、透明性、耐熱性などの点で2,2’−ビス(4−シアネートフェニル)−プロパンがより好ましい。
【0014】
これら1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物を重合してシアネートエステルプレポリマーを得る方法としては、所望の樹脂を得ることができる条件であれば特に限定はない。シアネートエステル化合物の重合反応とは、シアネート基が3量化し、トリアジン環を形成する反応のことである。シアネート基は約230℃以上の温度で反応することが知られているが、この反応を促進するために触媒を添加することができる。例えば、塩酸、リン酸に代表されるプロトン酸;塩化アルミニウム、塩化亜鉛に代表されるルイス酸;フェノール、クミルフェノール、ピロカテコール、ジヒドロキシナフタレンに代表される芳香族ヒドロキシ化合物;ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛などの有機金属塩;銅アセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、鉄アレーン錯体、ルテニウムアレーン錯体などに代表される有機金属錯体;トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン類;塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムに代表される4級アンモニウム塩;イミダゾール類、水酸化ナトリウム、トリフェニルホスフィン、およびこれらの混合系などを挙げることができる。これらの触媒の中で好ましくはオクチル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛などの有機金属塩を挙げることができる。これらの触媒はシアネートエステル化合物に対して任意の割合で添加することができるが、0.005〜20重量%、好ましくは0.01〜5重量%である。重合反応温度は100〜250℃、好ましくは100〜200℃である。
【0015】
前記重合反応において、必要に応じ、これらと共重合反応することが知られている化合物を添加し、シアネートエステルプレポリマーを変性することもできる。例えばエポキシ基含有化合物、ビスマレイミド化合物、フェノール基含有化合物、カルボン酸基含有化合物、アミド基含有化合物、アルコール化合物、チオール化合物などを挙げることができる。これらの添加量に限定はないが、シアネートエステル化合物100mol%に対して50mol%以下であることが好ましい。
【0016】
前記重合反応はシアネートエステル化合物のみでも可能であるが、有機溶媒中で重合することもできる。使用する有機溶媒はシアネートエステル化合物を十分に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、アセトン、ルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルグリコールアセテート、クロロホルムなどを挙げることができる。これらは2種類以上を併用して用いることができる。
【0017】
このようにして得られたシアネートエステルプレポリマーは、少なくともトリアジン環が1個以上形成された化合物であることが好ましい。形成したトリアジン環数の上限は用いたシアネートエステル化合物の特性等にもよるので特に限定はないが、6個以下であることが好ましく、さらに好ましくは4個以下である。著しく重合が進行すると有機溶媒に不溶となってしまうので好ましくない。
【0018】
本発明における(B)アクリレートモノマーとしては、従来公知のものを含め特に制限なく用いることが可能である。この様な化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、エポライト70Pメタクリル酸付加物、エポライト200Pアクリル酸付加物、エポライト80MFアクリル酸付加物、グリセロール変性エポキシアクリレート、アリールアルコール変性エポキシアクリレート、1,6−ヘキサンジオール変性アクリレート、ポリプロピレングリコール変性エポキシアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、フタル酸変性エポキシアクリレート、エポライト3002アクリル酸付加物、ビスフェノールAグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールA(PO)2エポキシアクリレート、エトキシ化−o−フェニルフェノールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#500アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルサクシネート、イソステアリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600アクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート、ポリテトラメチレングリコール#650ジアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロイシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、2−メタクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシポリエチレングリコール#400メタアクリレート、メトキシポリエチレングリコール#1000メタアクリレート、フェノキシエチレングリコールメタアクリレート、ステアリルメタアクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルサクシネート、フェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、2−エチルヘキシルEO変性アクリレート、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、ビスフェノールFEO変性ジアクリレート、ビスフェノールAEO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO性トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロイシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタトリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、多塩基変性アクリルオリゴマー;などが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種類以上併用して用いることもできる。2種類以上併用して用いる場合、シアネートエステルと共重合反応が可能な化合物と2個以上のアクリロイル基を含む化合物を組み合わせると高い耐熱性、柔軟性を有する硬化物が得られるので好適である。シアネートエステルと共重合反応が可能な化合物としては、反応性が適度であるという点で4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ビスフェノールAEO変性ジアクリレートが好ましく用いられ、パターン形成性が良好であるという点から4−ヒドロキシブチルアクリレートがより好ましく用いられる。2個以上のアクリロイル基を含む化合物としては、透明性、シアネートエステルプレポリマーとの相溶性がより良好であるという点でエトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、イソシアヌル酸EO変性ジおよびトリアクリレートが好ましく用いられ、屈折率の点から9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンがより好ましく用いられる。
【0019】
本発明の樹脂組成物中の(B)成分の質量割合は、(A)成分100質量部に対し、20〜150質量部であり、好ましくは25〜120質量部、より好ましくは30〜100質量部である。該質量割合が少ないと光硬化性が低下する傾向にあり好ましくない。また該質量割合を多くすると硬化物の耐熱性低下や硬化収縮が生じる傾向にあり好ましくない。より好ましい(B)の質量割合は50〜100質量部である。
【0020】
発明における(C)光ラジカル重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生し、(B)アクリレートモノマーの重合を開始し得るものであればよく、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、3−メチルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノンなどのアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾイン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、3,3'−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4
’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4 ’−ジアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン系光ラジカル重合開始剤;メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのケトン系光ラジカル重合開始剤;2,2'−ビス(2−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニル−1,2'−イミダゾールなどのイミダゾール系光ラジカル重合開始剤;1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(0−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)などのオキシムエステル系光ラジカル開始剤;ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムなどのチタノセン系光ラジカル重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2 ,6−ジメトキシベンゾイル)−2
,4 ,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤;2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−[2−(フラン−2−イル)ビニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどのトリクロロメチルトリアジン系光ラジカル重合開始剤;カルバゾール系光ラジカル重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、パターニング性等の改良のため、2種以上を併用してもよい。中でも、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等は、重合速度、熱処理後の透明性の観点から好ましく用いられる。
(C)光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えばIRGACURE184、1300、1800、1870、2022、2100、2959、369、379、500、651、754、784、819、907、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02、DAROCUR1173、4265、DAROCUR MBF、DAROCUR TPO(以上、BASFジャパン社製)、TAZ−110、TAZ−204(以上、みどり化学社製)、Luna BP、Luna100、200、800、900、907、393、251,2959、Luna TPO(以上、DKSHジャパン社製)、KAYACURE DETX、KAYACURE MBP、KAYACUREDMBI、KAYACURE EPA、KAYACURE OA(以上、日本化薬社製)などを例示することができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物中の(C)成分の質量割合は(A)成分100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部であり、該質量割合が少ないと(B)成分の重合速度が低下し重合が十分に進行しない傾向があり好ましくない。また該質量割合を多くすると経済的ではないばかりか透明性が低下する傾向にあり好ましくない。より好ましい(C)の質量割合は0.5〜5質量部である。
【0022】
本発明においては、光ラジカル重合開始剤と共に光増感剤を用いることができる。光増感剤としては特に制限はなく、公知の光増感剤用いることができる。例えば、イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物;アントラキノン、2−エチルアントラキノン、ヒペリシンなどのアントラキノン系化合物;アントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−プロポキシアントラセンなどのアントラセン系化合物;ベンゾフェノン、4−(メチルフェニルチオ)フェニルフェニルケトン、4,4‘−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N
− メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4 − ジメチルアミノ安息香酸、4 − ジメチルアミノ安息香酸メチル、4 − ジメチルアミノ安息香酸エチル、4
− ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物などが挙げられる。光増感剤の添加量は、(A)成分100質量部に対し、0.001〜5質量部が好ましい。
【0023】
本発明においては、(E)シアネートエステルプレポリマーの硬化触媒を添加しても構わない。シアネートエステル硬化触媒は、シアネート基が3量化し、トリアジン環を形成する反応を促進するものであれば特に限定することなく用いることができる。例えば、塩酸、リン酸に代表されるプロトン酸;塩化アルミニウム、塩化亜鉛に代表されるルイス酸;フェノール、クミルフェノール、ピロカテコール、ジヒドロキシナフタレンに代表される芳香族ヒドロキシ化合物;ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛などの有機金属塩;銅アセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、鉄アレーン錯体、ルテニウムアレーン錯体などに代表される有機金属錯体;トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン類;塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムに代表される4級アンモニウム塩;イミダゾール類、水酸化ナトリウム、トリフェニルホスフィン、およびこれらの混合系などを挙げることができる。これらの触媒の中で好ましくはオクチル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛などの有機金属塩を挙げることができる。また、このほかに必要に応じて、本発明の光導波路形成用樹脂組成物の中に、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、着色剤、可塑剤、安定剤、無機充填剤、内部離型剤、難燃剤などの添加剤を本発明の効果に悪影響を及ぼさない割合で添加しても構わない。
【0024】
(E)の硬化触媒は、(A)成分に対して任意の割合で添加することができるが、本発明の樹脂組成物中の質量割合は、(A)成分100質量部に対し好ましくは、0.001〜10質量部であり、該質量割合が少ないと、(A)成分の熱硬化速度が低下し、硬化が十分に進行しない傾向があり好ましくない。また該質量割合を多くすると透明性が低下する傾向にあり好ましくない。より好ましい(E)の質量割合は0.01〜5質量部である。
【0025】
本発明における(D)硫黄原子含有化合物としては、従来公知のものを含め特に制限なく用いることが可能である。この様な化合物の具体例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、2,2’−チオジエタノール、チオシアヌル酸、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ジチアン,2−チオフェンメタノール、ビス(3−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、2,2’−ジメルカプトジエチルスルフィド、2,2’−(エチレンジチオ)ジエタノール、1,2,3−プロパントリオール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ペンタエリトリチルテトラチオール、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、ジメルカプト−ドデカヒドロ−ジメタノシクロペンタ[b]ナフタレン、1,4−ベンゼンジメタンチオール、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルチオ)フェノール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールジリチウム塩、1,2,3−トリ[2−(2−メルカプトエチルチオ)エチルチオ]プロパン、トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレート、エチルイソチオシアヌレート、2,5−ジイソシアネートチオフェン、テトラヒドロ−2−[(p−ビニルフェニル)チオ]ピラン、テトラヒドロ−メタクリロイルメルカプト−2−ピラン、2−メチル−2−プロペノイックアシッド(2−チオキソ−1,3−オキサチオラン−5−イル)メチルエステル、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジオール、ペンタエリトリチルトリチオール、2,7−ビスメルカプトメチル−9,9−ジメチルフルオレンなどが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種類以上を併用して用いることもできる。これらの中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−チオビスベンゼンチオール、は透明性、屈折率向上性、入手容易性、シアネート基との反応性、シアネートエステルとの相溶性が良好であるという点で好ましい。透明性、屈折率向上性の面からビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドがより好ましい。
【0026】
これら硫黄原子含有化合物のうち、シアネートエステルとの共重合反応が可能なものは、プレポリマー変性に用いることもできる。
【0027】
本発明の樹脂組成物中の(A)成分100質量部に対する(D)硫黄原子含有化合物の割合は、通常0.5〜50質量部であり、該質量割合が少ないと屈折率向上効果が低下するためコア用樹脂組成物として用いる場合好ましくない。また、該質量割合を多くすると硬化物の耐熱性が低下する傾向にあり好ましくない。より好ましい(D)の質量割合は10〜20質量部である。
【0028】
次に、本発明のドライフィルムについて詳述する。
本発明のドライフィルムとは、上記の(A)〜(C)成分を必須成分として含有する未硬化状態の感光性樹脂組成物層を有するものである。この樹脂組成物層は液状ではなく、例えば乾燥した状態であることが好ましい。好ましくは上記(A)〜(C)を含有する光導波路形成用樹脂組成物を有機溶剤に溶解して液状化とし、支持フィルムに塗布・乾燥して得られる該樹脂組成物からなる塗膜を有している。さらに好ましくは前記未硬化状態の感光性樹脂組成物層の上に該層を保護するためのカバーフィルムが積層されているものである。なお、前記未硬化状態の感光性樹脂組成物層には、必要に応じて前述の(D)成分や(E)成分を、前述の添加量の範囲にて添加することができる。
【0029】
支持フィルムの材料について特に限定はされないが、透明で耐熱性、平滑性、耐溶剤性、柔軟性および強靭性を有することが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルサルファイト、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなど挙げることができる。中でもコストや物性バランスに優れている観点でポリエチレンテレフタレートが好適である。ベースフィルムの厚みは特に限定はないが、5〜150μmであることが好ましい。5μmより小さいと支持体としての力学強度が不足してしまい好ましくなく、150μmを超えると露光におけるパターン形成時のマスクとのギャップが大きくなり、微細なパターン形成が困難になり好ましくない。以上の観点から、より好ましいベースフィルムの厚みは10〜50μmである。
ベースフィルムには滑り性を向上させるための滑剤や酸化防止剤、熱安定剤、粘度調整剤、可塑剤、色素改良剤、核剤などの添加剤を加えることができる。また本発明の効果に悪影響を及ぼさない程度に該ベースフィルムの両面または片面にコロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、電子線照射、化学処理などによる疎水性付与、親水性付与、帯電防止性付与、離型性付与などの表面改質処理を行なっても構わない。
【0030】
カバーフィルムの材料について特に限定はされないが、柔軟で未硬化の感光性樹脂組成物層との良好な剥離性と表面平滑性を有していることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリアミドなど挙げることができる。中でもコストや物性バランスに優れているという点でポリオレフィンが好適である。カバーフィルムの厚みは特に限定はないが、1〜50μmであることが好ましい。1μmより小さいと支持体としての力学強度が不足してしまい好ましくなく、50μmを超えると柔軟性が不足し好ましくない。カバーフィルムには滑り性を向上させるための滑剤や酸化防止剤、熱安定剤、粘度調整剤、可塑剤、色素改良剤、核剤などの添加剤を加えることができる。また本発明の効果に悪影響を及ぼさない程度に該ベースフィルムの両面または片面にコロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、電子線照射、化学処理などによる疎水性付与、親水性付与、帯電防止性付与、離型性付与などの表面改質処理を行なっても構わない。
【0031】
本発明のドライフィルムは、上記の(A)〜(C)成分を必須成分として含有する未硬化状態の感光性樹脂組成物を有機溶媒に溶解した樹脂溶液とし、これをベースフィルムに塗布し、溶媒を加熱し蒸発させて除去することにより製造することができる。
ここで用いる有機溶媒としては該樹脂組成物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルグリコールアセテートなどを挙げることができる。これらは2種類以上を併用して用いることができる。樹脂溶液中の樹脂分濃度としては、20〜80質量%であることが好ましい。
【0032】
支持フィルム上に感光性樹脂組成物層を形成する方法は特に限定されるものではないが、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法、シルクスクリーン法、インクジェット法等の方法を用いてベースフィルム上に塗布した後、乾燥機等を用いて溶剤を飛散させる方法などが挙げられる。塗布する膜厚は製造される光導波路の設計構造や樹脂溶液濃度に応じ、適宜選択すればよいが、通常、1μm〜1000μmの範囲が好ましい。乾燥は常圧でも減圧雰囲気でもよく、有機溶剤を飛散させる温度条件は50〜150℃である。
乾燥後に残留する有機溶媒の含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。10質量%を超えるとドライフィルムの保存安定性に悪影響を与えたり、露光によるパターン形成の精度を悪化させるなどの問題があり好ましくない。
乾燥後の感光性樹脂組成物層の膜厚は、通常、1〜250μmである。
このようにして得られたドライフィルムは、例えばロール状に巻き取ることによって容易に貯蔵、保管することが出来るようになる。
【0033】
次に、本発明の光導波路形成用樹脂組成物からなるドライフィルムを用いて光導波路を形成する方法について述べる。
本発明の光導波路は上部クラッド/コア/下部クラッドから構成され、本発明の光導波路形成用樹脂組成物からなるドライフィルムはこれらコアおよび/またはクラッドを形成する材料である。コアの屈折率はクラッドの屈折率よりも高い必要があり、比屈折率差は少なくとも0.5%以上、より好ましくは1.0%以上である。本発明の光導波路形成用樹脂組成物においては、(A)〜(D)成分のそれぞれの屈折率に応じ、各組成物の配合量を変更することによって屈折率を任意に制御することが可能であり、特に配合割合が多い(A)成分、(B)成分、(D)成分のそれぞれの屈折率および配合比に依存する傾向がある。特に(D)成分を含有する場合においては、(D)成分の量を変えることで樹脂の特性を大きく変えることなく屈折率を制御することが出来る。上部クラッド組成は下部クラッド組成と同一であることが望ましい。コア層の厚みは20〜60μmが好ましく、クラッド層(アンダークラッド、コア上オーバークラッド)の厚みは10〜200μmが好ましい。
【0034】
まず、本発明の光導波路形成用樹脂組成物からなるドライフィルムを用いて下部クラッドを作製する方法について詳述する。
ドライフィルムにカバーフィルムが積層してある場合には、そのカバーフィルムを剥離後、基板上に樹脂組成物層面(クラッド組成)を密着させ、加熱しながら圧着(ラミネート)することで製膜することができる。基板への密着性、形状追従性を良好にするために減圧下で加熱ラミネートすることもできる。ドライフィルムのラミネート温度は50〜150℃とすることが好ましく、圧着圧力は0.1〜1.0MPaとすることが好ましいが、これらの条件には特に制限はない。
次いで支持フィルムを介して活性エネルギー線を照射し(B)成分であるアクリレートモノマーを硬化する。活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、X線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線を挙げることができるが、特に紫外線が好ましい。紫外線の光源としては公知のものを含め特に限定されるものではないが、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプ、LEDなどを挙げることができる。活性エネルギー線を照射する雰囲気条件に特に限定はないが、(B)成分の硬化反応が酸素によって阻害を受けやすいため低酸素条件下で照射することが好ましい。
次いで支持フィルムを剥離した後、(A)成分であるシアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物を硬化するために熱処理を行なうが、コアおよび上部クラッドを形成した後に、これらの熱処理と同時に行なっても構わない。熱処理条件は50〜250℃、より好ましくは180℃〜230℃の熱処理温度で、5分間〜5時間、より好ましくは30分間〜1時間の熱処理時間とすればよく、段階的に加熱温度を上げて熱処理を行なっても良い。
【0035】
次に本発明の光導波路形成用樹脂組成物からなるドライフィルムを用いてコアを作製する方法について詳述する。
上記の方法あるいは任意の方法にて下部クラッドを形成した後、該下部クラッドの上にコア層を形成する。ドライフィルムにカバーフィルムが積層してある場合には、そのカバーフィルムを剥離後、下部クラッド上に樹脂組成物層面(コア組成)を密着させ、加熱しながら圧着(ラミネート)することで製膜することができる。下部クラッドへの密着性、形状追従性を良好にするために減圧下で加熱ラミネートすることもできる。ドライフィルムのラミネート温度は50〜150℃とすることが好ましく、圧着圧力は0.1〜1.0MPaとすることが好ましいが、これらの条件には特に制限はない。
ドライフィルムの支持フィルムの上にネガマスクを載せ、該ネガマスクを介して上記活性エネルギー線を照射する。ネガマスクは真空密着させることが好ましい。なお必要に応じ、支持フィルムを剥離し、感光性樹脂組成物層に直接、該ネガマスクを載せて活性エネルギー線を照射することもできる。活性エネルギー線を照射する雰囲気条件に特に限定はないが、(C)成分の硬化反応が酸素によって阻害を受けやすいため低酸素条件下で照射することが好ましい。
次いでウェット現像処理を行い、活性エネルギー線の未照射部、すなわち未硬化部を除去することでコアパターンを形成する。現像方法としては、静置浸漬法、揺動浸漬法、パドル法、スプレー法、ブラッシング法、スクラッピング法、超音波法等の公知の方法により行なうが、これらに限定されるものではない。
現像液に用いる有機溶媒としてはコア組成用の光導波路形成用樹脂組成物を分散、溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、アセトン、ルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルグリコールアセテートなどを挙げることができる。これらは2種類以上を併用して用いることができる。また引火防止のため、これらの有機溶剤に0.5〜20質量%の範囲で水を添加することもできる。
現像時間は通常5〜600秒である。必要に応じ、現像後に洗浄を行なっても構わない。洗浄液に特に限定はないが、水を含め現像に用いた上記有機溶媒を挙げることができる。これらは2種類以上併用して用いることができる。
次いで(A)成分であるシアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物を硬化するために熱処理を行なうが、上部クラッドを形成した後、クラッドの熱処理と同時に行なっても構わない。熱処理条件は50〜250℃、より好ましくは180℃〜230℃の熱処理温度で、5分間〜5時間、より好ましくは30分間〜1時間の熱処理時間とすればよく、段階的に加熱温度を上げて熱処理を行なっても良い。
【0036】
次に本発明の光導波路形成用樹脂組成物からなるドライフィルムを用いて上部クラッドを作製する方法について述べる。
上記の方法あるいは任意の方法にてコアを形成した後、該コアの上に上部クラッドを形成するが、下部クラッド作製と同様のラミネート方法、および活性エネルギー線の照射を行なうことができる。支持フィルムを剥離した後、(A)成分であるシアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有するシアネートエステル化合物を硬化するために熱処理を行なう。熱処理条件は、通常、50〜250℃で5分間〜5時間とすればよく、段階的に加熱温度を上げて熱処理を行なっても良い。なお、この熱処理は、下部クラッド層および/またはコア層の(A)成分の熱処理を兼ねて行なうこともできる。
【0037】
クラッド層あるいはコア層の製膜方法は、上記ドライフィルムを用いる方法以外に任意の方法で行なうこともできる。例えば、本発明の導波路形成用樹脂組成物を有機溶媒に溶解してなるドープを用い、バーコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディッピング法等の方法などが挙げられる。
【0038】
本発明の光導波路におけるコアおよび/またはクラッドのガラス転移温度は150〜250℃であることが好ましい。より好ましくは180〜250℃である。ガラス転移温度が150℃よりも低いと、鉛フリー半田リフロー工程の温度において、コアやクラッドに変形が生じたり、あるいはコア/クラッドとの界面に歪みが起こるなどして光伝搬性が低下する可能性あり好ましくない。ガラス転移温度が250℃よりも高い場合、物性上は何も問題はないが、熱硬化処理温度を高温にする必要があり好ましくない。一般に熱硬化樹脂のガラス転移温度は、その硬化処理温度に強く依存する傾向があり、高いガラス転移温度を得ようとすると、より高温での熱硬化処理が必要になる傾向がある。このような場合、生産性が低下するだけでなく、光導波路を搭載する基板材料の物性にも悪影響を及ぼす可能性があり好ましくない。
【0039】
本発明の光導波路におけるコアおよび/またはクラッドが光導波路形成用ドライフィルムから形成されるとき、それらの硬化収縮率は0%〜5%であることが好ましい。本発明における硬化収縮率には、活性エネルギー線を照射することによって硬化する収縮率と、その後の熱処理によって硬化にする収縮率が含まれる。収縮率は密度法を用いて測定することが可能で、ドライフィルムを構成する導波路形成用樹脂組成物の比重、活性エネルギー線による硬化後の比重、さらに熱処理によって硬化した後の比重をそれぞれ測定することにより算出することが出来る。隣接する基板や樹脂層との密着性の観点から硬化収縮率は0%〜5%であることが好ましいが、0%より小さい場合、あるいは5%よりも大きい場合は、隣接する基板や樹脂層との間に歪みが生じ、密着性が低下する傾向にあり好ましくない。本発明の光導波路用ドライフィルムや樹脂組成物から埋め込み型光導波路を作製することができる。埋め込み型光導波路とは、クラッドとなる基板上にコアとなる材料を薄膜作製し、種々の方法により導波路部分を形成し、その上に基板と同じクラッド層を設けた構造体である。得られた埋め込み型光導波路の光伝搬損失は0.1dB/cm以下(850nm,)が好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
<光導波路形成用樹脂組成物および光導波路形成用ドライフィルム(コア用)の作製と評価−1>(実施例1〜2、比較例1〜3)
[シアネートエステルプレポリマー(A−1)の合成例]
セパラブルフラスコに2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン111g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(東京化成工業社製)11g、4−ヒドロキシブチルアクリレート13.8g、Zn(C16
0.0175g、γ―ブチロラクトン46gを入れ、100℃で60分攪拌しながら反応させた。
表1に示す、成分(A):シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有する化合物中に、成分(D):硫黄原子含有化合物、成分(B):アクリレートモノマー、成分(C):光ラジカル重合開始剤を80℃で加熱しながら加え、0.2μmフィルターで加圧ろ過、脱泡することで、光導波路形成用ドライフィルム作製用の樹脂ワニスを得た。
これをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ16μm)にアプリケーターを用いて塗布し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した。このとき、乾燥後のドライフィルムの樹脂組成物層の厚さが40μmになるようにアプリケーターの間隔を調整した。
なお、以下の例における特性は次の方法により評価した。
[ラミネート性]
光導波路形成用ドライフィルムを熱ロール圧着法(150℃)にて基板へ転写した。このとき、基板に均一に転写できた場合を「○」、基板に転写できなかったり、未硬化の感光性樹脂組成物層の厚みが不均一だったものを「×」とした。なおここで使用した基板は、スライドガラス上にA−9300−1CL/NEOPOL8319/IRGACURE754=60/40/4をスピンコーターで塗布し、露光により硬化させたものを用いた。
[パターン形成性]
上記基板に光導波路形成用ドライフィルムを熱ラミネートし、支持フィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムの上からマスク(40μm幅コアパターン)を介して紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cmの紫外線を300秒間照射した。これをγ−ブチロラクトン溶媒中で120秒間浸漬処理して現像(比較例3はN−メチル−2−ピロリドン)を行なった後、メチルエチルケトンで洗浄した。顕微鏡観察により40μmコア形状が精度良く形成されているものを「○」、コア形状やコア幅が著しく変化してコア形状が精度よく形成されていなかったもしくは全くパターンニングできなかったものを「×」、コア形状が精度よく形成されているが、○よりやや劣るものを「△」としてパターン形成性を評価した。
[屈折率]
スライドガラス上に上記樹脂ワニスを塗布し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)後、窒素雰囲気下で紫外線露光機(マクスアライナ、ルミナス社製、LM/250)にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を360秒間照射し、加熱(120℃で15分→150℃で30分→180℃で60分)することで硬化した。硬化物をメトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)を用いて、結合プリズムを通してサンプルに波長633nmのレーザー光を入射し、TE偏光およびTM偏光における屈折率を測定した。平均屈折率は、〔2×(TE偏光での屈折率)+(TM偏光での屈折率)〕/3として算出した。
[UV硬化収縮率]
UV露光前とUV露光後のそれぞれの比重を自動比重計(D−H100、東洋精機製作所)を用いて測定し下記式より硬化収縮率を算出した。実施例1〜3、比較例1〜3にワニスをテフロン(登録商標)シートに滴下し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した後、固形状物の比重を測定してUV露光前比重とした。一方、該固形状物を窒素雰囲気中で紫外線露光(波長360nm、照度10mW/cmの紫外線を300秒間照射)し、得られた硬化物の比重を測定してUV露光前比重とした。
UV硬化収縮率(%)=(UV露光後の比重−UV露光前の比重)/(UV露光後の比重)×100
【0041】
【表1】
(表中の各成分配合量は質量部を示す)
A−9300−1CL(新中村化学社製)
:ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート
NEOPOL8319(日本ユピカ社製)
臭素ビスフェノールA型2官能アクリレート
A−BPEF(新中村化学社製)
:9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン
IRGACURE754(BASFジャパン社製)
構造非開示
IRGACURE819(BASFジャパン社製)
:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド
DAROCUR1173(BASFジャパン社製)
:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン
【0042】
上記評価の結果、実施例1、2はラミネート性、パターン形成性に優れ、UV硬化収縮率の小さい光導波路形成用ドライフィルム(コア用)が得られた。比較例1では成分(B)のA-9300-1CLが配合されていないためにモビリティーがやや低く露光時の反応率がやや低かったことからパターン形成性が最良ではなかった。比較例2では成分(B)がプレポリマー中しか含まれていないためパターン形成性が不十分となった。比較例3ではアクリレートモノマーのみからなる組成であったため、150℃でのラミネート時に熱溶融してしまい所望の膜厚を保持できず、さらに、UV硬化収縮率はアクリレート単独組成であるため大きくなった。比較例4は成分(C)の光ラジカル発生剤が配合されていないため、パターン形成性が不十分となった。
【0043】
<スラブ型光導波路の作製と評価>
(実施例3、4)
ガラス基板上に実施例1、2で作製したドライフィルム(コア用)を熱ロール圧着法(100℃)にてラミネートした。次に支持フィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムの上から紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を360秒間照射した。次いで窒素雰囲気中で段階的な加熱処理(120℃で20分、150℃で30分、180℃で60分、230℃で60分)を行い膜を硬化させ、ガラス基板をクラッドとするスラブ型光導波路を作製した。
なお、以下の例における物性値は次の方法により測定した。
[ガラス転移温度:Tg]
島津社製の示差走査熱量計(DSC−50)を用い、試料重量4mg、温度測定範囲30℃〜300℃、昇温速度10℃/分における熱フロー曲線からガラス転移温度を求めた。
[屈折率;n]
メトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)を用いて、結合プリズムを通してサンプルに波長850nmのレーザー光を入射し、TE偏光およびTM偏光における屈折率を測定した。平均屈折率は、〔2×(TE偏光での屈折率)+(TM偏光での屈折率)〕/3として算出した。
[複屈折;Δn]
メトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)を用いて、結合プリズムを通してサンプルに波長850nmのレーザー光を入射し、TE偏光およびTM偏光における屈折率を測定し、TE偏光での屈折率からTM偏光での屈折率を減じることで複屈折を算出した。
[比屈折率差]
下記計算式から比屈折率差を算出した。
比屈折率差(%)=100×(nco2−ncl2)/(2×nco2
ここで、ncoはコアの平均屈折率、nclはクラッドの平均屈折率を表す。
[光伝搬損失]
メトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)を用いて、850nmにおける光伝搬損失を測定した。コア硬化膜に波長850nmのレーザー光をプリズムを介して入射させ、直線的に伝搬する光波のストリーク光強度をファイバープローブで測定し、このストリーク光強度(P)と伝搬経路長(L)との関係において、Lに対してlogPをプロットしたときの傾きを伝搬損失(dB/cm)として求めた。光伝搬損失が小さいほど、コア硬化膜の透明性が良好であることを意味する。
【0044】
【表2】
*)クラッド(ガラス基板)の屈折率=1.512(850 nmとして計算した)
【0045】
表2から、実施例3、4は高い耐熱性を維持しつつ、850nmにおける伝搬損失は0.1dB/cmと実用レベル上、問題ない低い値を示した。
<埋め込み型光導波路の作製>
(実施例5)
シアネートエステルプレポリマー(A−1)/イソシアヌル酸トリス(2−アクリロイルオキシエチル)/DAROCUR1173/γ−ブチロラクトン=60/40/3/70(質量比)からなるクラッド用ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)にアプリケーターを用いて塗布し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した。このとき、乾燥後のドライフィルムの樹脂組成物層の厚さが30μmになるようにアプリケーターの間隔を調整した。得られたクラッド用ドライフィルムをFR4(ガラス・エポキシ)基板上に熱ロール圧着法(100℃)にてラミネートし、次いで支持フィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムの上から紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を360秒間照射してアクリレートを硬化させ、次いで窒素雰囲気中で段階的な加熱処理(120℃で20分、150℃で30分、180℃で60分)を行い、シアネートエステルプレポリマーを硬化させてクラッドを作製した。
次いでこのクラッド層上に、実施例2と同様にして作製したコア用ドライフィルムを上記と同様の方法でラミネートした後、支持フィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムの上にフォトマスク(コア幅40μm)を載せて真空密着させ、紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を360秒間照射した。支持フィルムを剥がし、γ−ブチロラクトン溶媒中で120秒間浸漬処理して現像を行なった後、メチルエチルケトンで洗浄し、コアパターンを得た。
このコア層上に上記のクラッド用ワニスをスピンコートし、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した後、紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を300秒間照射(窒素雰囲気中)してアクリレートを硬化させ、次いで窒素雰囲気中で段階的な加熱処理(120℃で20分、150℃で30分、180℃で60分)を行い、上部クラッド硬化膜を作製した。さらに構造物全体を230℃で60分間、窒素雰囲気中で熱処理することでクラッドおよびコア中の未反応シアネート基を反応させた。得られた構造体の断面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、長方形コア断面(上下辺39μm、高さ40μm)が形成されており、埋め込み型光導波路が作製できていることを確認した。なおコアとクラッドの比屈折率差は2.1%であった。850nmにおける伝搬損失は0.1dB/cmと実用レベル上、問題ない低い値を示した。
【0046】
<光導波路用樹脂組成物および光導波路用ドライフィルム(コア用)の作製と評価−2>(実施例6〜10)
[シアネートエステルプレポリマー(A−2)の合成例]
フラスコに2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン5.56g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(東京化成工業社製)0.03g、4−ヒドロキシブチルアクリレート(東京化成工業社製)1.39g、Zn(C16
0.00875gをγ−ブチロラクトン2.0gを入れ、100℃で60分攪拌しながら反応させた。
[シアネートエステルプレポリマー(A−3)の合成例]
フラスコに2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン5.56g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(東京化成工業社製)1.39g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド0.872g、4―ヒドロキシブチルアクリレート0.03gZn(C16
0.0175g、γ−ブチロラクトン4.4gを入れ、100℃で60分攪拌しながら反応させた。フラスコより反応物を回収し、透明のシアネートエステルプレポリマー(A−3)を得た。
[シアネートエステルプレポリマー(A−4)の合成例]
フラスコに2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン11.1g、4,4’−チオビスベンゼンチオール(東京化成工業社製)1.1g、DA-250 2.8g、Zn(C16
0.0087g、γ−ブチロラクトン4.6gを入れ、100℃で40分攪拌しながら反応させた。フラスコより反応物を回収し、透明のシアネートエステルプレポリマー(A−4)を得た。
表3に示す、成分(A):シアネートエステルプレポリマーおよび/または1分子中に2個以上のシアネート基を有する化合物、成分(D):硫黄原子含有化合物に成分(B):アクリレートモノマー、成分(C):光ラジカル重合開始剤を添加して光導波路形成用ドライフィルム作製用の樹脂ワニスを得た。
これをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)にアプリケーターを用いて塗布し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した。このとき、乾燥後のドライフィルムの樹脂組成物層の厚さが40μmになるようにアプリケーターの間隔を調整した。
【0047】
【表3】
(表中の各成分配合量は質量部を示す)
※A−1〜4はB成分である硫黄原子含有化合物、C成分であるアクリレートモノマーを含むシアネートエステルプレポリマーである。
A−9300−1CL(新中村化学社製)
ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート
A−9300(新中村化学社製)
エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート
【0048】
上記評価の結果、実施例6〜10はラミネート性、パターン形成性に優れた光導波路用ドライフィルム(コア用)が得られ、また、(A)、(B)、(C)、(D)の各成分の配合比や種類を変更することで、耐熱性やUV硬化収縮率を大幅に変化させること無く、任意の屈折率に調整できた。実施例8はシアネートエステルプレポリマー変性に用いたアクリレートを変更したことで耐熱性が向上した。
【0049】
(実施例11〜13、比較例5〜6)
[シアネートエステルプレポリマー(A−5)の合成例]
還流器の付いたフラスコに2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンを17.6g、p−クミルフェノールを2.4g、テトラヒドロフランを8.5g入れ、さらに反応触媒として2−エチルヘキサン酸亜鉛を20ppm添加し、攪拌しながら150℃で2時間反応させた。エバポレーターによりテトラヒドロフランを留去し、白色のシアネートエステルプレポリマー(A−5)を得た。
表1に示す、成分(A):シアネートエステルプレポリマー、成分(B):1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、成分(C):光ラジカル重合開始剤、成分(D):シアネートエステルプレポリマーの硬化触媒を1,4−ジオキサンに溶解して光導波路形成用ドライフィルム作製用の樹脂ワニスを得た。
これをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)にアプリケーターを用いて塗布し、常圧乾燥(80℃で10分間)、次いで減圧乾燥(80℃で30分間)した。このとき、乾燥後のドライフィルムの樹脂組成物層の厚さが30μmになるようにアプリケーターの間隔を調整した。
【0050】
【表4】
(表中の各成分配合量は質量部を示す)
【0051】
上記評価の結果、実施例11〜13はラミネート性およびパターン形成性に優れた光導波路形成用ドライフィルム(コア用)が得られた。しかし、比較例5では成分(B)が配合されていないためパターン形成性不十分となり、また比較例6ではアクリレートモノマーのみからなる組成であったため、100℃でのラミネート時に熱溶融してしまい所望の膜厚を保持できなかった。UV硬化収縮率は比較例6では三官能アクリレート単体組成であるため非常に大きな収縮率となったが、実施例11〜13はUV硬化性を示さない成分(A)とのブレンド組成であるため、UV硬化収縮率は3〜4%と比較的小さい値であった。
【0052】
<スラブ型光導波路の作製と評価>
(実施例14〜16)
ガラス基板上に実施例11〜13で作製したドライフィルム(コア用)を熱ロール圧着法(100℃)にてラミネートした。次に支持フィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムの上から紫外線露光機にて波長360nm、照度10mW/cm2の紫外線を300
秒間照射した。次いで窒素雰囲気中で段階的な加熱処理(120℃で20分、150℃で30分、180℃で60分、230℃で60分)を行い膜を硬化させ、ガラス基板をクラッドとするスラブ型光導波路を作製した。
【0053】
【表5】
*)クラッド(ガラス基板)の屈折率=1.512(850 nmとして計算した)
【0054】
表5から、実施例14〜16のガラス転移温度(Tg)が190℃以上と高い耐熱性を示し、また850nmにおける伝搬損失も0.1dB/cmと実用レベル上、問題ない低い値を示した。つまり実施例14〜16は、高耐熱性、高透明性の両方を満足していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光導波路形成用樹脂組成物または導波路形成用ドライフィルムを用いれば、高い耐熱性と実用レベルの低い伝搬損失を有する優れた物性の光導波路を提供することが可能になる。さらには屈折率の高精度な制御や高精度な膜厚制御が容易で、コアパターン形成時には著しく大きな硬化収縮が起こらないことから、光導波路製造プロセスにおいて生産性良くコアパターン形成精度の高い光導波路を提供することができる。
本発明の光導波路は、光伝送体、光合波器や光分波器、光変調器、光スイッチなどの光デバイス、タッチパネル用途などに好適である。