(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部に気筒が形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロック上に配置されたシリンダヘッドと、前記気筒内に嵌挿されたピストンと、前記シリンダブロックと該シリンダヘッドと前記ピストンとによって区画される燃焼室内に燃料噴霧を噴射する燃料噴射弁と、を備え、前記燃料噴射弁により燃料噴霧を噴射する期間を圧縮行程後期に設定すると共に、前記燃焼室内に噴射した燃料噴霧を自己着火させるようした圧縮自己着火エンジンであって、
前記シリンダヘッドは、その下面の中央部に内壁が径方向の中央から外方に向かって下方に傾斜する凹部が形成されていると共に、その下面における該凹部の径方向の外方に該凹部に連続する外周部が形成されており、
前記ピストンは、その冠面の中央部に径方向の外方から中央に向かって隆起する隆起部が形成されていると共に、その冠面における前記外周部に対応する部分に圧縮行程後期にその冠面に沿って径方向の外方から中央に向かって流れるスキッシュ流を前記外周部と共に発生させるスキッシュ発生部が形成され、その冠面における前記隆起部及び前記スキッシュ発生部の間にこれらに曲面状に滑らかに連続する中間部が形成されており、
前記燃料噴射弁は、前記シリンダヘッドに前記気筒の軸心に沿って配置されかつ、燃料噴霧を前記燃焼室内における前記凹部と前記隆起部と前記中間部とによって区画される部分に噴射し、
圧縮行程後期において、前記燃料噴射弁のノズル口の中心軸線に直交する方向に関して、前記中心軸線から前記凹部の内壁までの距離が該中心軸線から前記ピストンの冠面までの距離よりも長く設定されることを特徴とする圧縮自己着火エンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮自己着火エンジンにおいて、高負荷運転時や高回転運転時に過早着火や燃焼騒音を抑制するために、圧縮行程後期に燃焼噴射弁から燃料を噴射することがある。
【0006】
しかしながら、圧縮行程後期に燃焼室の容積が小さくなる高圧縮比の圧縮自己着火エンジンにおいて、圧縮行程後期に燃料を噴射すると、噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達し、燃焼室壁面付近でも混合気濃度が高まり、高温の燃焼ガスが燃焼室壁面に接触して、冷却損失が大きくなるという課題がある。特に、幾何学的圧縮比が高くなるほど、気筒内の混合気が圧縮されて燃焼ガス温度が高くなるため、燃焼室壁面を通じて放出される熱放出量が大きくなる。従って、従来よりも高圧縮化したものにおいて、前記課題はとりわけて顕著になる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、気筒内に供給された燃料を圧縮自己着火により燃焼させる圧縮自己着火エンジンにおいて、冷却損失を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本発明は、圧縮行程後期において、燃焼噴射弁のノズル口の中心軸線に直交する方向に関して、中心軸線からシリンダヘッドの下面に形成された凹部の内壁までの距離を中心軸線からピストンの冠面までの距離よりも長く設定すると共に、圧縮行程後期にピストンの冠面に沿って径方向の外方から中央に向かって流れるスキッシュ流を発生させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、本発明は、内部に気筒が形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロック上に配置されたシリンダヘッドと、前記気筒内に嵌挿されたピストンと、前記シリンダブロックと該シリンダヘッドと前記ピストンとによって区画される燃焼室内に燃料噴霧を噴射する燃料噴射弁と、を備え、前記燃料噴射弁により燃料噴霧を噴射する期間を圧縮行程後期に設定すると共に、前記燃焼室内に噴射した燃料噴霧を自己着火させるようした圧縮自己着火エンジンを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明は、前記シリンダヘッドは、その下面の中央部に内壁が径方向の中央から外方に向かって下方に傾斜する凹部が形成されていると共に、その下面における該凹部の径方向の外方に該凹部に連続する外周部が形成されており、前記ピストンは、その冠面の中央部に径方向の外方から中央に向かって隆起する隆起部が形成されていると共に、その冠面における前記外周部に対応する部分に圧縮行程後期にその冠面に沿って径方向の外方から中央に向かって流れるスキッシュ流を前記外周部と共に発生させるスキッシュ発生部が形成され、その冠面における前記隆起部及び前記スキッシュ発生部の間にこれらに
曲面状に滑らかに連続する中間部が形成されており、前記燃料噴射弁は、前記シリンダヘッドに前記気筒の軸心に沿って配置されかつ、燃料噴霧を前記燃焼室内における前記凹部と前記隆起部と前記中間部とによって区画される部分に噴射し、圧縮行程後期において、前記燃
料射弁のノズル口の中心軸線に直交する方向に関して、前記中心軸線から前記凹部の内壁までの距離が該中心軸線から前記ピストンの冠面までの距離よりも長く設定されることを特徴とするものである。
【0011】
これによれば、圧縮行程後期において、燃焼噴射弁のノズル口の中心軸線に直交する方向に関して、中心軸線からシリンダヘッドの下面に形成された凹部の内壁までの距離を中心軸線からピストンの冠面までの距離よりも長く設定するため、圧縮行程後期に噴射された燃料噴霧をシリンダヘッドの下面(凹部の内壁)に到達(衝突)しないようにすることができ、凹部の内壁と燃料噴霧との間に空気層(エアーカーテン)を介在させることができる。その結果、燃焼ガスがシリンダヘッドの下面に接触することを抑制することができ、冷却損失を低減することができる。
【0012】
また、スキッシュ流を、圧縮行程後期にピストンの冠面(スキッシュ発生部、中間部及び隆起部)に沿って径方向の外方から中央に向かって流すため、ピストンの冠面と圧縮行程後期に噴射された燃料噴霧との間に空気層(エアーカーテン)を形成することができ、中心軸線からピストンの冠面までの距離を短くしたにも拘わらず、燃料噴霧がピストンの冠面に到達することを抑制することができる。その結果、燃焼ガスがピストンの冠面に接触することを抑制することができ、冷却損失をより低減することができる。
【0013】
尚、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−燃焼室の区画面の温度)によって決定されるため、前述したように、エアーカーテンを形成すると、熱伝達率が大きくなってしまうが、従来のように、圧縮行程後期に噴射された燃料が燃焼室の区画面に到達して燃焼ガスの熱が燃焼室区画面を通じて放出される場合よりも、冷却損失が低減する。
【0014】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記凹部の内壁は、底壁と、該底壁の径方向の外方に該底壁に連続するように形成されかつ、前記気筒の軸心方向に対する傾斜が前記底壁よりも大きい側壁とによって構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
これによれば、凹部の内壁を、底壁と、底壁の径方向の外方に底壁に連続するように形成されかつ、気筒の軸心方向に対する傾斜が底壁よりも大きい側壁とによって構成しているため、噴霧渦流が広がっていくことを凹部の側壁によって抑制することができ、噴霧渦流を燃焼室の中央部に集中させることができる。
【0016】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記燃焼室を区画する区画面のうち少なくとも前記凹部の内壁には断熱層が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
これによれば、燃焼室を区画する区画面のうち少なくとも凹部の内壁に断熱層を設けているため、燃焼室を断熱化することができ、冷却損失をより低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧縮行程後期において、燃焼噴射弁のノズル口の中心軸線に直交する方向に関して、中心軸線からシリンダヘッドの下面に形成された凹部の内壁までの距離を中心軸線からピストンの冠面までの距離よりも長く設定するため、圧縮行程後期に噴射された燃料噴霧をシリンダヘッドの下面に到達しないようにすることができ、凹部の内壁と燃料噴霧との間に空気層を介在させることができ、その結果、圧縮行程後期に燃焼室内に燃料噴霧を噴射しかつ、圧縮行程後期に燃焼室の容積が小さくなる高圧縮比の圧縮自己着火エンジンにおいて、燃焼ガスがシリンダヘッドの下面に接触することを抑制することができ、冷却損失を低減することができると共に、スキッシュ流を、圧縮行程後期にピストンの冠面に沿って径方向の外方から中央に向かって流すため、ピストンの冠面と燃料噴霧との間に空気層を形成することができ、中心軸線からピストンの冠面までの距離を短くしたにも拘わらず、燃料噴霧がピストンの冠面に到達することを抑制することができ、その結果、前記高圧縮比の圧縮自己着火エンジンにおいて、燃焼ガスがピストンの冠面に接触することを抑制することができ、冷却損失をより低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
図1は、実施形態に係るエンジン1の概略構成を示す。このエンジン1は、自動車等の車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給される圧縮自己着火式内燃機関であって、図例では一つのみ図示するが、複数のシリンダ(気筒)11を有する。エンジン1は、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部にシリンダ11が形成されている。各シリンダ11内には、ピストン14が摺動可能に嵌挿されており、ピストン14は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室15を区画している。
【0021】
シリンダヘッド13の下面(燃焼室15の上面を区画する天井面)には、その中央部に内壁(内面)が径方向の中央から外方に向かって下方に傾斜する、シリンダ11の軸心X方向から見ると円状のヘッド側凹部13aが凹嵌して形成されている。ヘッド側凹部13aは、その中心軸がシリンダ11の軸心Xに一致して配置され、この例では、その内壁は、円錐状の底壁13bと、底壁13bの径方向の外方に底壁13bに連続するように形成されかつ、シリンダ11の軸心X方向に対する傾斜が底壁13bよりも大きい側壁13cとによって構成されている。また、ヘッド側凹部13a底部からヘッド側凹部13a開口に向かって、ヘッド側凹部13aが拡径するように、ヘッド側凹部13aの側壁13cが、シリンダ11の軸心X方向に対して傾斜している。シリンダヘッド13の下面には、ヘッド側凹部13aの径方向の外方にヘッド側凹部13aの側壁13cに連続する、シリンダ11の軸心X方向から見ると円環状の外周部13dが形成されている。外周部13dは、その中心軸がシリンダ11の軸心Xに一致して配置され、シリンダ11の軸心Xに対して垂直な面で構成されている。
【0022】
ピストン14の冠面には、その中央部に径方向の外方から中央に向かって隆起する略円錐台状の隆起部14aが形成されている。隆起部14aは、その中心軸がシリンダ11の軸心Xに一致して配置され、その側壁(側面)が後述する燃料噴射弁17により噴射される燃料噴霧Fに対応した形状でかつ、燃料噴霧Fに沿った形状に形成されている。さらに、隆起部14aは、隆起部14a頂部が径方向の外方から中央に向かって沈下するように、その頂壁が、シリンダ11の軸心Xに直交する方向に対して傾斜している。ピストン14の冠面には、隆起部14aの径方向の外方でかつ、外周部13dに対応する部分にシリンダ11の軸心X方向から見ると円環状のスキッシュ発生部14bが形成されている。スキッシュ発生部14bは、その中心軸がシリンダ11の軸心Xに一致して配置され、外周部13dに対応して、外周部13dと平行に延びている。ピストン14の冠面には、隆起部14a及びスキッシュ発生部14bの間に隆起部14aの側壁及びスキッシュ発生部14bに
曲面状に滑らかに連続する、シリンダ11の軸心X方向から見ると円環状の中間部14cが形成されている。中間部14cは、その中心軸がシリンダ11の軸心Xに一致して配置され、その径方向の中央部が両端部よりも沈下するように、その一部が、シリンダ11の軸心Xに直交する方向に対して傾斜している。また、中間部14c及び隆起部14aの側壁は、その連続部が曲面状になるように滑らかに連続している。
【0023】
こうして、このエンジン1では、ヘッド側凹部13aと、隆起部14aと、中間部14cと、外周部13dとスキッシュ発生部14bとにより区画されるスキッシュエリア16とによって、高い幾何学的圧縮比を実現している。幾何学的圧縮比は、本実施形態では、好ましくは20以上、より好ましくは25以上40以下である。
【0024】
シリンダヘッド13には、各シリンダ11毎に吸気ポート及び排気ポート(図示省略)が2つずつ形成されていると共に、これら吸気ポート及び排気ポートの燃焼室15側の開口を開閉する吸気弁及び排気弁(図示省略)がそれぞれ配設されている。
【0025】
シリンダヘッド13には、各シリンダ11毎に燃料噴射弁17が設けられている。燃料噴射弁17は、シリンダ11の軸心Xに沿って配置され、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取り付けられている。燃料噴射弁17の先端は、燃焼室15の天井面(ヘッド側凹部13aの内壁)の中心に臨んでいる。
【0026】
図2に示すように、燃料噴射弁17は、燃焼室15内に燃料噴霧Fを噴射するノズル口18を開閉する外開弁19を有する、外開弁式のインジェクタである。ノズル口18は、シリンダ11の軸心Xに沿って延びる燃料管20の先端部において、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。燃料管20の基端側の端部は、内部にピエゾ素子(図示省略)が配設されたケース21に接続されている。外開弁19は、弁本体19aと、弁本体19aから燃料管20内を通ってピエゾ素子に接続された連結部19bとを有している。弁本体19aの連結部19b側の部分が、ノズル口18と略同じ形状を有しており、該部分がノズル口18に当接(着座)しているときには、ノズル口18が閉状態となる。このとき、弁本体19aの先端側の部分は、燃料管20の外側に突出した状態となっている。
【0027】
ピエゾ素子は、電圧の印加による変形により、外開弁19をシリンダ11の軸心X方向の燃焼室15側に押圧することで、その外開弁19を、ノズル口18を閉じた状態からリフトさせてノズル口18を開放する。このとき、ノズル口18から燃焼室15内(詳しくは燃焼室15内におけるヘッド側凹部13aと隆起部14aと中間部14cとによって区画される部分)に燃料噴霧Fが、シリンダ11の軸心Xを中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。そして、ピエゾ素子への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子が元の状態に復帰することで、外開弁19がノズル口18を再び閉状態とする。
【0028】
そうして、このエンジン1では、燃料噴射弁17により燃料噴霧Fを噴射する噴射期間を、圧縮行程後期でかつ、スキッシュエリア16によって発生させる(生成する)スキッシュ流Sの発生期間の範囲内、例えばエンジン回転数が2000rpmのときにおいてBTDC20°〜30°CA(圧縮行程上死点付近)に設定する。スキッシュ流Sの発生期間は、例えば
図3に示すように、BTDC50°〜60°CAから上死点の範囲である。この例では、スキッシュ流速は、徐々に速くなって、BTDC5°CA付近で最大となり、その後、徐々に遅くなって、上死点で0となる(
図1の(a)〜(d)も参照)。尚、
図3のスキッシュ流速は、燃焼室15の、スキッシュ発生部14bと中間部14cとの境界部(外周部13dとヘッド側凹部13aとの境界部)におけるスキッシュ流Sの平均流速を示している。また、膨張行程では、逆スキッシュ流が発生する。
【0029】
ここで、図中の符号Yは、ノズル口18の中心軸線(燃料噴霧Fの噴霧軸線)であり、この中心軸線Yは、断面視においてノズル口18のコーン状開放部分(
図2の(b)を参照)の中心を通る、各位置における直線を示している。
【0030】
そうして、圧縮行程後期でかつ、燃料噴霧Fが噴射された後において、例えば、
図1の(c)及び(d)に示すように、エンジン回転数が2000rpmのときにおけるBTDC10°CA(又はBTDC15°CA)から上死点の範囲において、ノズル口18の中心軸線Yに直交する方向に関して、中心軸線Yからヘッド側凹部13aの内壁までの距離L1が中心軸線Yからピストン14の冠面(詳しくは隆起部14aの側壁及び中間部14c)までの距離L2よりも長く設定されている(
図1の(a)及び(b)では、距離L1が距離L2よりも短くなっている。)。この例では、中心軸線Y上の全ての区間(隆起部14aの側壁及び中間部14c上の全ての区間)において、距離L1が距離L2よりも長くなっている。距離L1が距離L2よりも長い期間は、圧縮行程後期でかつ、燃料噴霧Fが噴射された後の全ての範囲であってもよいし、少なくとも上死点を含む、その範囲の一部であってもよい。また、距離L1が距離L2よりも長い区間は、中心軸線Y上の全ての区間であってもよいし、この区間の一部であってもよい。
【0031】
また、燃焼室15は、
図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン14の冠面と、シリンダヘッド13の下面と、吸気弁及び排気弁それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されており、シリンダヘッド13の下面に、後述する構成を有する断熱層22が設けられることによって、燃焼室15が断熱化されている。断熱層22は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、少なくともヘッド側凹部13aの内壁を含む、これらの区画面の一部に設けてもよい。尚、
図1に図示する断熱層22の厚みは実際の厚みを示すものではなく単なる例示である。
【0032】
燃焼室15の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室15の断熱構造は、前述したように、燃焼室15を区画する各区画面のうちシリンダヘッド13の下面に設けた断熱層22によって構成されるが、この断熱層22は、燃焼室15内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室15を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、シリンダヘッド13の下面に設けた断熱層22についてはシリンダヘッド13が母材である。従って、母材の材質は、シリンダヘッド13については、アルミニウム合金や鋳鉄となる。
【0033】
また、断熱層22は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室15内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
【0034】
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、前述したように、燃焼室15の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。
【0035】
そこで、前記の断熱層22は熱容量を小さくし、燃焼室15の区画面の温度が、燃焼室15内のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。
【0036】
断熱層22の例示として、この断熱層22は、シリンダヘッド13の下面に、例えばプラズマ溶射により形成した、ジルコニア(ZrO
2)、又は、部分安定化ジルコニア(PSZ)の皮膜によって構成してもよい。ジルコニア又は部分安定化ジルコニアは、熱伝導率が比較的低くかつ、容積比熱も比較的小さいため、母材よりも熱伝導率が低くかつ、容積比熱が母材と同じか、それよりも小さい断熱層22が構成される。
【0037】
ここで、エンジン1は、前述したように、シリンダヘッド13内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、シリンダヘッド13は、ピストン14よりも冷却損失が大きくなる。
【0038】
圧縮行程後期における燃焼室15内の状態について説明する。圧縮行程後期に、ピストン14の上昇に伴って、シリンダ11の軸心Xに対して垂直な面で構成されている外周部13d及びスキッシュ発生部14bに挟まれた部分の空気が径方向の中央側のより広い空間へと押し出されることによって、スキッシュエリア16からピストン14の冠面(中間部14c及び隆起部14aの側壁)に沿って径方向の外方から中央に向かって流れるスキッシュ流Sが発生する。そして、圧縮行程上死点付近で、燃料噴射弁17のノズル口18から燃焼室15内に燃料噴霧Fが、シリンダ11の軸心X位置から径方向の外方にかつ、中間部14cに向かって、コーン状に噴射される。
【0039】
燃料噴霧Fの噴射に伴って燃料噴射弁17の先端付近に負圧が発生することによって、燃料噴霧Fの上方側及び下方側(径方向の外方側及び内方側)それぞれに、燃料噴霧Fから離れる方向に流れた後に燃料噴射弁17の先端に向かって(燃料噴霧Fの噴霧方向とは逆方向に)流れる噴霧渦流Rが発生する。燃料噴霧F上方側(シリンダヘッド13側)の噴霧渦流Rは、燃料噴霧F下方側(ピストン14側)の噴霧渦流Rよりも大きさが大きい。また、燃焼室15の中央部に、燃料噴射弁17の先端に向かって上方に流れるファンネルフロー(図示省略)も発生する。
【0040】
ここで、前述したように、圧縮行程後期でかつ、燃料噴霧Fが噴射された後において、ノズル口18の中心軸線Yに直交する方向に関して、中心軸線Yからシリンダヘッド13の下面に形成されたヘッド側凹部13aの内壁までの距離L1を中心軸線Yからピストン14の冠面(詳しくは隆起部14aの側壁及び中間部14c)までの距離L2よりも長く設定するため、圧縮行程上死点付近で噴射された燃料噴霧Fを、冷却損失が大きいシリンダヘッド13の下面(ヘッド側凹部13aの内壁)に到達(衝突)しないようにすることができ、ヘッド側凹部13aの内壁と燃料噴霧Fとの間に空気層(エアーカーテン)を介在させることができる。その結果、燃焼ガスがシリンダヘッド13の下面に接触することを抑制することができ、冷却損失を低減することができる。つまり、圧縮行程後期でかつ、燃料噴霧Fが噴射された後において、距離L1,L2は、燃料噴霧Fがシリンダヘッド13の下面(ヘッド側凹部13aの内壁)に到達しないような長さにそれぞれ設定される。
【0041】
また、スキッシュ流Sを、圧縮行程後期にピストン14の冠面(スキッシュ発生部14b、中間部14c及び隆起部14aの側壁)に沿って径方向の外方から中央に向かって流すことによって、ピストン14の冠面と燃料噴霧Fとの間に空気層(エアーカーテン)を形成することができ、中心軸線Yからピストン14の冠面までの距離を短くしたにも拘わらず、燃料噴霧F、特に燃料噴霧F下方側の噴霧渦流Rに含まれる燃料噴霧Fがピストン14の冠面に到達することを抑制することができる。その結果、燃焼ガスがピストン14の冠面に接触することを抑制することができ、冷却損失をより低減することができる。
【0042】
さらに、ヘッド側凹部13aの内壁を、底壁13bと、底壁13bの径方向の外方に底壁13bに連続するように形成されかつ、シリンダ11の軸心X方向に対する傾斜が底壁13bよりも大きい側壁13cとによって構成していることによって、燃料噴霧Fが径方向の外方に広がるのに伴って燃料噴霧F上方側の噴霧渦流Rが径方向の外方に広がっていくことをヘッド側凹部13aの側壁13cによって抑制することができ、燃料噴霧F上方側の噴霧渦流Rを燃焼室15の中央部に集中させることができる。
【0043】
また、ピストン14の冠面に径方向の外方から中央に向かって隆起する隆起部14aを形成していることによって、ピストン14の上昇に伴ってコーン状に噴射された燃料噴霧F内の中央空間を隆起部14aによって圧縮することができ、燃料噴霧Fがピストン14の冠面に到達することをより抑制することができる。その結果、燃焼ガスがピストン14の冠面に接触することをより抑制することができ、冷却損失をより低減することができる。
【0044】
さらに、中間部14c及び隆起部14aの側壁を、その連続部が曲面状になるように滑らかに連続させていることによって、スキッシュ流Sを中間部14c及び隆起部14aの側壁に沿って滑らかに流すことができ、スキッシュ流Sが燃料噴霧Fに向かって流れることを抑制することができる。
【0045】
また、隆起部14aをピストン14の冠面に形成していることによって、燃料噴霧Fが径方向の外方に広がるのに伴って燃料噴霧F下方側の噴霧渦流Rが径方向の外方に広がっていくことを隆起部14aによって抑制することができ、燃料噴霧F下方側の噴霧渦流Rを燃焼室15の中央部に集中させることができる。
【0046】
さらに、隆起部14aを、その側壁が燃料噴霧Fに対応した形状でかつ、燃料噴霧Fに沿った形状に形成していることによって、燃料噴霧Fの形状を維持することができる。
【0047】
また、隆起部14a頂部が径方向の外方から中央に向かって沈下するように、隆起部14aの頂壁を、シリンダ11の軸心Xに直交する方向に対して傾斜させていることによって、隆起部14aの頂壁を燃料噴霧F下方側の噴霧渦流Rに対応した形状にすることができ、燃料噴霧F下方側の噴霧渦流Rを隆起部14aの頂壁によって、確実に燃料噴射弁17の先端に向かって上方に流すことができる。
【0048】
(その他の実施形態)
尚、隆起部14aは、その頂壁がシリンダ11の軸心Xに直交する方向に対して傾斜しているが、隆起部は、その頂壁がシリンダ11の軸心Xに対して垂直な面で構成されてもよい。
【0049】
また、ヘッド側凹部13aは、その内壁が底壁13bと側壁13cとによって二段構成されているが、ヘッド側凹部は、その内壁が径方向の中央から外方に向かって下方に傾斜する限り、一段又は三段以上で構成されてもよい。
【0050】
さらに、ヘッド側凹部13aの底壁13b及び側壁13cの、シリンダ11の軸心Xに対する傾斜の大きさは、全周に亘って同一であるが、その大きさは、0にならない限り、変化してもよい。同様に、隆起部14aの側壁の傾斜の大きさも、変化してもよい。
【0051】
また、スキッシュ発生部14bは、外周部13dと平行に延びているが、スキッシュ発生部は、スキッシュ流Sがピストン14の冠面に沿って径方向の外方から中央に向かって流れる限り、外周部13dに対して傾斜してもよい。
【0052】
さらに、中間部14c
は、その径方向の中央部が両端部よりも沈下するように、その一部が、シリンダ11の軸心Xに直交する方向に対して傾斜しているが、中間部は、シリンダ11の軸心Xに対して垂直な面で構成されてもよい。
【0053】
また、燃料噴射期間は、圧縮行程上死点付近に設定されているが、燃料噴射期間は、圧縮行程後期でかつ、スキッシュ流Sの発生期間の範囲内で、適宜設定すればよい。
【0054】
さらに、断熱層22は、ジルコニア又は部分安定化ジルコニアの皮膜によって構成しているが、断熱層は、例えば、ジルコニア以外のセラミック系、非セラミック系、又は、シリコン系樹脂の皮膜によって構成してもよい。
【0055】
また、エンジン1は、ディーゼルエンジンによって構成しているが、エンジンは、例えば、ガソリンエンジンによって構成してもよい。このとき、エンジンは、例えば、HCCIモードで運転される。
【0056】
さらに、燃料噴射弁17は、アクチュエータとしてピエゾ素子を採用しているが、燃料噴射弁は、例えば、アクチュエータとしてソレノイドを採用してもよい。