(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978701
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】端子金具およびこの端子金具を備えたモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/22 20060101AFI20160817BHJP
H01R 4/18 20060101ALI20160817BHJP
H02K 11/30 20160101ALI20160817BHJP
【FI】
H02K5/22
H01R4/18 A
H02K11/30
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-72312(P2012-72312)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-207865(P2013-207865A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(72)【発明者】
【氏名】前山 研
【審査官】
安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−042009(JP,U)
【文献】
実開昭62−021752(JP,U)
【文献】
実開平06−021353(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/22
H01R 4/18
H02K 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材からなり、一部を切起こして折返した折返し片と、前記折返し片と対向する対向面とで導線を挟持する端子金具であって、
前記折返し片または前記対向面の少なくとも一方には、前記導線を挟持したとき、前記導線と電気的に接合するためのセレーションが設けられ、
前記端子金具には、前記折返し片と同一方向に切起こされ、前記折返し片の先端側を押さえるための切起こし片が設けられることを特徴とする端子金具。
【請求項2】
ステータコアにインシュレータを介して導線が巻回されたステータと、前記ステータと回転可能な状態で対向して配置したロータと、前記インシュレータに間隔をもって取付けた回路基板と、前記インシュレータと前記回路基板との間に取付けられ、前記導線と前記回路基板とを電気的に接続した端子金具とを備えたモータであって、
前記回路基板は、前記端子金具の一端が挿入される端子用孔を備え、
前記インシュレータは、前記端子金具の他端が挿入される端子台を備え、
前記端子金具は、金属板材からなり、一端に前記端子用孔に挿入する接続部と、他端に前記端子台に挿入する挿入部と、前記接続部と前記挿入部との間を切起こして折返した折返し片と、前記折返し片と対向する対向面とを備え、
前記折返し片または前記対向面の少なくとも一方には、前記インシュレータに巻回された前記導線の引出部を前記折返し片と前記対向面とで挟持したとき、前記引出部と電気的に接合するためのセレーションを有するとともに、
前記端子金具には、前記折返し片と同一方向に切起こされ、前記折返し片の先端側を押さえるための切起こし片を有していることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具およびこの端子金具を備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムまたはアルミニウム合金の撚り線からなる芯線と芯線の外周を覆う被膜とを備えた導線が接合される端子金具が知られている。この種の端子金具として、導線が接合されるセレーションを備えた端子金具がある(例えば、特許文献1参照)。この端子金具は、芯線を圧着することで芯線がセレーションに食い込み、導線との電気的な接合が得られ、芯線との接合部分がスプリングバックしないように、Fクリンプ形状の圧着構造になっている。
【0003】
また、モータに備えられたステータにインシュレータを介して巻回される巻線と、インシュレータの端面に取付けた回路基板とを電気的に接続する端子金具として、金属板材からなるとともに、金属板材の一部を切起こして折返した折返し片と、折返し片と対向する金属板材の対向面とで巻線を挟持する端子金具が知られている。この端子金具は、折返し片と対向面との間に所定の電圧を印加して巻線と端子金具とを溶着することで電気的な接合が得られ、巻線との接合部分がスプリングバックしないようになっている。
【0004】
ところで、この巻線には、銅からなる芯線と芯線の外周を覆う被膜とを備えた導線が用いられるが、導線の芯線として、銅に替えてアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いると、アルミニウムまたはアルミニウム合金は銅よりも融点が低いため、折返し片と対向面との間に、芯線として銅を用いたときと同じ電圧を印加すると、導線が溶けて断線するおそれがあるという問題点があった。
【0005】
この導線が溶けて断線するおそれがある問題点を解決するため、巻線と回路基板とを電気的に接続する端子金具として、巻線と端子金具とを溶着しない代わりに、セレーションを備えた端子金具を用いることが考えられるが、巻線に用いられる導線の芯線は撚り線ではなく単線であるため、スプリングバックしないように、撚り線の隙間に食い込ませたFクリンプ形状の圧着構造を用いることができないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−55936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、従来の折返し片と対向面とで導線を挟持する端子金具の構造を利用しつつ、融点の低い導線であっても、折返し片のスプリングバックを防止することが可能な端子金具およびこの端子金具を備えたモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の端子金具は、金属板材からなり、一部を切起こして折返した折返し片と、折返し片と対向する対向面とで導線を挟持するものである。折返し片または対向面の少なくとも一方には、導線を挟持したとき、導線と電気的に接合するためのセレーションが設けられる。端子金具には、折返し片と同一方向に切起こされ、折返し片の先端側を押さえるための切起こし片が設けられる。
【0009】
また、本発明のモータは、ステータコアにインシュレータを介して導線が巻回されたステータと、ステータと回転可能な状態で対向して配置したロータと、インシュレータに間隔をもって取付けた回路基板と、インシュレータと回路基板との間に取付けられ、導線と回路基板とを電気的に接続した端子金具とを備えている。回路基板は、端子金具の一端が挿入される端子用孔を備え、インシュレータは、端子金具の他端が挿入される端子台を備えている。端子金具は、金属板材からなり、一端に端子用孔に挿入する接続部と、他端に端子台に挿入する挿入部と、接続部と挿入部との間を切起こして折返した折返し片と、折返し片と対向する対向面とを備えている。折返し片または対向面の少なくとも一方には、インシュレータに巻回された導線の引出部を折返し片と対向面とで挟持したとき、引出部と電気的に接合するためのセレーションを有するとともに、端子金具には、折返し片と同一方向に切起こされ、折返し片の先端側を押さえるための切起こし片を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の端子金具およびこの端子金具を備えたモータによれば、従来の折返し片と対向面とで導線を挟持する端子金具の構造を利用しつつ、融点の低い導線であっても、折返し片のスプリングバックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による端子金具を備えたモータを示す断面図である。
【
図2】モータに備えられたインシュレータと端子金具と回路基板とを示す側面図である。
【
図3】本発明による端子金具を示す説明図で、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図4】本発明による端子金具に導線を接合する方法を示す説明図で、(a)は折返し片と対向面との間に導線を配置する状態を示す側面図、(b)は折返し片と対向面とで導線を挟持したとき、セレーションで端子金具と導線とを電気的に接合する状態を示す側面図、(c)は切起こし片により折返し片を対向面に当接した状態で保持する状態を示す側面図である。
【
図5】本発明による端子金具に導線を接合した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。本発明による端子金具として、モータに備えられた端子金具を例に挙げて説明する。なお、本発明による端子金具は、モータ以外のジェネレータなどの回転電機やコイルなどの電気部品に適用してもよい。また、本実施形態による端子金具を備えたモータとして、インナーロータ構造を有するラジアルギャップ型モータを説明するが、アキシャルギャップ型モータに適用してもよい。
【0013】
図1に示すように、本実施形態による端子金具を備えたモータMは、円筒形状のステータ1と、ステータ1の内径側に配置されたロータ2と、ステータ1の一端側に間隔をもって取付けた回路基板4と、ステータ1とロータ2と回路基板4などを覆ったブラケット5とを備えている。
【0014】
ステータ1は、ステータコア1Aと、ステータコア1Aの周囲に合成樹脂で形成されたインシュレータ7と、インシュレータ7に巻回された導線6とを備えている。インシュレータ7の回路基板4に対向する一端側には、回路基板4を支持する基板支持部8が形成されている。導線6は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の単線からなる芯線と芯線の外周を覆う被膜からなっている。
【0015】
ロータ2は、中心に回転軸2Bを有し、回転軸2Bの外周にロータコア2Aを備えている。ロータコア2Aの外周には、永久磁石が貼り付けられている。ロータ2は、導線6に通電することにより発生する回転磁界の磁力を永久磁石が受けることで回転する。なお、ロータ2は、ロータコア2Aの内側に永久磁石を埋設したものでもよい。
【0016】
回路基板4は、インシュレータ7の対向面とは反対側の表面に、通電により発熱する電子部品3が実装されている。電子部品3は、ステータ1に備えられた導線6に流す電流を制御するものである。電子部品3とブラケット5との間には、放熱シート9、アルミブロック10およびシリコン11が順に配置されている。通電により電子部品3で発生した熱は、放熱シート9、アルミブロック10、シリコン11を伝わって、ブラケット5から外部に放熱される。
【0017】
図2に示すように、モータMは、インシュレータ7と回路基板4との間に取付けられ、導線6(図示を省略。)が接合される端子金具12を備えている。インシュレータ7の回路基板4に対向する一端側には、端子金具12が挿入される端子台13が形成されている。回路基板4には、基板支持部8の先端が挿入される基板支持部用孔20と、端子金具12が挿入される端子用孔21が形成されている。
【0018】
回路基板4は、基板支持部8の先端を基板支持部用孔20に挿入することでインシュレータ7に支持される。また、回路基板4は、端子金具12の一端を端子用孔21に挿入し回路基板4上の配線パターンと半田付けすることで端子金具12を通じて導線6と電気的に接続される。端子金具12は、端子金具12の他端を端子台13に挿入することでインシュレータ7に保持される。
【0019】
次に、本発明の特徴である端子金具12について
図3を用いて説明する。
図3(a)乃至
図3(c)に示すように、端子金具12は、例えば、黄銅の板材にスズメッキを施した金属板材からなっている。端子金具12は、一端に端子用孔21に挿入する接続部14と、他端に端子台13に挿入する挿入部15と、挿入部15の一端寄り近傍に端子台13に挿入部15を保持させるための一対の突出片16と、接続部14と挿入部15との間(端子金具12の中央部)を切起こして折返した折返し片17と、折返し片17と対向する対向面18とを備えている。この端子金具12は、
図1に示すインシュレータ7に巻回された導線6の引出部を折返し片17と対向面18とで挟持する。
【0020】
折返し片17と対向面18には、導線6の引出部を挟持したとき、導線6の引出部と電気的に接合するための第1セレーション170と第1セレーション170に対向する第2セレーション180とが設けられている。第1セレーション170と第2セレーション180は、折返し片17と対向面18の根元側にそれぞれ複数設けられ、導線6の引出部を挟んで、互いに向かい合わないように、互い違いに配置されている。
【0021】
第1セレーション170と第2セレーション180は、図示を省略した治具を用いて
図3(c)に示す矢印Aの方向から打ち出し成形を行い、凸部とその間に凹部を交互に形成したものである。また、第1セレーション170と第2セレーション180は、導線6の引出部を挟持したとき、導線6の長さ方向に交差する方向に延びるように形成されている。なお、第1セレーション170または第2セレーション180のみを設けるようにした折返し片17と対向面18であってもよい。
【0022】
端子金具12には、折返し片17と同一方向に切起こされ、折返し片17の先端側を押さえるための切起こし片19が設けられている。切起こし片19は、接続部14と折返し片17との間を切起こしている。折返し片17と切起こし片19とは、対向面18に同一方向にコ字状の切込みを入れ、同一方向に起こされたものであり、折返し片17は、さらに対向面18に対向するように折返されている。
【0023】
以上説明してきた構造からなる端子金具12に導線6を接合する接合方法について
図4および
図5を用いて説明する。最初に、
図4(a)に示すように、折返し片17と対向面18との間、すなわち、第1セレーション170と第2セレーション180との間に導線6の引出部6Aを配置する。このとき、導線6の長さ方向が第1セレーション170と第2セレーション180と交差する方向になるように配置する。
【0024】
次に、
図4(b)に示すように、導線6の引出部6Aを折返し片17と対向面18とで挟持し、端子金具12と導線6とを電気的に接合する。このとき、折返し片17の先端側が対向面18に当接するように、折返し片17の根元側をかしめる。この結果、第1セレーション170と第2セレーション180は、導線6の被膜を破り、導線6の芯線と電気的に接合される。
【0025】
最後に、
図4(c)に示すように、切起こし片19を折り曲げて折返し片17の先端側を切起こし片19で押さえる。このとき、折返し片17の先端部171が対向面18と当接した状態になるように、切起こし片19を折返し片17の先端側に折り曲げてかしめる。この結果、折返し片17の先端側が切起こし片19により金属板材に当接した状態で保持される。以上説明してきた接合方法により、
図5に示すように、導線6が端子金具12に接合される。
【0026】
なお、図示を省略するが、この後、モータMとして組立てるため、端子金具12の挿入部15がインシュレータ7の端子台13に挿入されるとともに、端子金具12の接続部14が回路基板4の端子用孔21に挿入されて回路基板4上の配線パターンに半田付けされる。
【0027】
以上説明してきた本発明の端子金具12およびこの端子金具12を備えたモータMによれば、端子金具12に備えられた折返し片17と対向面18には、導線6を挟持したとき、導線6と電気的に接合するための第1セレーション170と第2セレーション180が設けられている。端子金具12には、折返し片17と同一方向に切起こされ、折返し片17の先端側を押さえるための切起こし片19が設けられている。
【0028】
本発明では、第1セレーション170と第2セレーション180により導線6を挟持して導線6の被膜を破り、導線6の芯線と電気的に接合させ、折返し片17の先端側を切起こし片19で押さえて金属板材に当接した状態に保持させる。このため、従来の端子金具のように、折返し片と対向面との間に所定の電圧を印加して導線と端子金具とを溶着する工程が不要になる。従って、端子金具12に接合される導線6として、銅に比べて融点の低いアルミニウムなどの芯線を備えたものであっても、導線6が溶けて断線するおそれを防ぐことができる。また、端子金具12では、特許文献1のようなFクリンプ形状の圧着構造を用いることなく、折返し片17の先端側を切起こし片19で押さえて金属板材に当接した状態で保持することで、導線6との接合部分のスプリングバックを防ぐことができる。
【0029】
また、本発明の端子金具12では、折返し片17の第1セレーション170と対向面18の第2セレーション180が、導線6の引出部6Aを挟んで、互いに向かい合わないように、互い違いに配置されている。この結果、第1セレーション170と第2セレーション180により、端子金具12と導線6との接触面積が増え、導線6の電気的な接合性を向上することができる。また、第1セレーション170と第2セレーション180が導線6の一カ所に集中して挟持されないため、導線6が断線するおそれを小さくすることができる。
【0030】
なお、本実施形態による端子金具12では、接続部14と挿入部15との間(端子金具12の中央部)を切起こして折返した折返し片17と、接続部14と折返し片19との間を切起こした切起こし片19とを備えるようにしたが、本発明はこれに限らず、端子金具12の一部、例えば、挿入部15のある金属板材の他端側を切起こして折返した折返し片と、接続部14と折返し片との間を切起こした切起こし片とを備えるようにしてもよい。また、本実施形態による端子金具12では、第1セレーション170と第2セレーション180が、導線6の引出部6Aを挟んで、互いに向かい合わないように、互い違いに配置されているが、本発明はこれに限らず、第1セレーション170と第2セレーション180が、導線6の引出部6Aを挟んで、互いに向かい合うように配置してもよい。
【符号の説明】
【0031】
M モータ
1 ステータ
1A ステータコア
2 ロータ
2A ロータコア
2B 回転軸
3 電子部品
4 回路基板
5 ブラケット
6 導線
6A 引出部
7 インシュレータ
8 基板支持部
9 放熱シート
10 アルミブロック
11 シリコン
12 端子金具
13 端子台
14 接続部
15 挿入部
16 突出片
17 折返し片
170 第1セレーション
171 先端部
18 対向面
180 第2セレーション
19 切起こし片
20 基板支持部用孔
21 端子用孔