(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978745
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】インバータ装置及びインバータ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20160817BHJP
H02M 7/537 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/537 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-106595(P2012-106595)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-236448(P2013-236448A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 信行
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 直人
(72)【発明者】
【氏名】大場 智広
【審査官】
服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−204579(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/039094(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/537
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置であって、
前記駆動信号生成手段は、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を拡大した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置。
【請求項2】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置であって、
前記駆動信号生成手段は、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を縮小した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置。
【請求項3】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置であって、
前記駆動信号生成手段は、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を拡大及び縮小した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置。
【請求項4】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置の制御方法であって、
前記駆動信号生成手段において、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を拡大した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置の制御方法。
【請求項5】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置の制御方法であって、
前記駆動信号生成手段において、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を縮小した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置の制御方法。
【請求項6】
複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、
搬送波を発生する搬送波発生手段と、
前記インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、
前記搬送波と前記指令信号との比較結果に基づいて前記スイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号を前記インバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置の制御方法であって、
前記駆動信号生成手段において、前記インバータの前記スイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、前記駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更して、前記スイッチング素子のオン期間を拡大及び縮小した変更後駆動信号を生成する、インバータ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置及びインバータ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流から直流、さらに直流から交流に変換するダブルコンバータ変換装置を備える電力変換装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の電力変換装置は、コンバータ側のスイッチング素子のターンオフ指令とインバータ側のスイッチング素子のターンオフ指令とが設定時間内に発生する場合、もしくは、コンバータ側のスイッチング素子のターンオン指令とインバータ側のスイッチング素子のターンオン指令とが設定時間内に発生する場合に、立ち上がりまたは立ち下がりの遅い側のスイッチング素子の指令信号を他方のスイッチング素子の指令信号に対して遅延させる遅延回路を備えている。この電力変換装置では、遅延回路によりコンバータ側のスイッチング素子とインバータ側のスイッチング素子の同時スイッチングを防止することで、スイッチング時のサージ電圧を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−60708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、直流を交流に変換して負荷に供給する三相出力のインバータ装置においては、一の相のスイッチング素子のスイッチングにより発生する大きなサージ電圧が、自相又は他の相のスイッチング素子と当該スイッチング素子の駆動を制御するドライバICとの間の電位に影響を与え、その結果そのドライバICが誤作動してしまうことがある。このドライバICの誤作動は、例えば、ある相のスイッチング素子のスイッチングに伴い他の相のドライバICのVs−COM間やVss−COM間に推奨動作範囲を超える電圧が誘起されることにより生じる。そして、ドライバICの誤動作中はマイコンからの指令(例えば、OFFからONへの切り替え)がスイッチング素子に正確に伝達されないため、スイッチング素子を適切に制御できないという問題が発生する。
【0005】
このような問題を解決する方法として、素子のスイッチング速度を遅くして発生するサージ電圧を抑制する(小さくする)ことが考えられる。しかしながら、スイッチング速度を遅くすると、スイッチング損失が大きくなり、また、素子の発熱が大きくなるといった別の問題が生じてしまう。また、スイッチング素子の駆動を制御する制御素子としてドライバICに変えてサージ電圧の影響を受けないフォトカプラを用いると、スイッチングに伴うサージ電圧の影響による誤作動は抑制できるが、どうしてもコストが増大してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、コストの増大を抑制できると共にサージ電圧による駆動素子の誤作動を抑制できるインバータ装置及びインバータ装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るインバータ装置は、複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、搬送波を発生する搬送波発生手段と、インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、搬送波と指令信号との比較結果に基づいてスイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、駆動信号をインバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置であって、駆動信号生成手段は、インバータのスイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更してスイッチング素子のオン期間を変更した変更後駆動信号を生成することを特徴とする。なお、誤作動時間とは、駆動信号の立ち上り及び立ち下りエッジを起点として設定される極短い時間であって、ある相のスイッチング素子のスイッチングに伴い自相又は他の相の駆動素子が誤作動する可能性のある期間である。
【0008】
このインバータ装置では、インバータのスイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更してスイッチング素子のオン期間を変更した変更後駆動信号を生成する。このようにすると、例えば一の相のスイッチング素子のスイッチング動作時にサージ電圧が発生した場合であっても、他の相のスイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが当該スイッチング素子を制御する駆動信号出力手段(ドライバIC)の誤作動時間内に含まれない。すなわち、本発明では、インバータの各相のスイッチング素子が、誤作動時間内に同時にスイッチングしないように駆動信号を生成している。したがって、それぞれの駆動信号出力手段は駆動信号生成手段で生成された駆動信号を確実に認識できるため、各スイッチング素子の駆動を適切に制御することができる。また、駆動信号のオン期間を変更することによりスイッチング素子の誤作動を抑制するため、構成部品を変える必要がない。したがって、コストの増大を抑制できる。なお、誤作動時間は非常に短い時間であるため、指令信号の変更量は微少ですみ、インバータ装置の出力性能を維持できる。
【0009】
一実施形態においては、駆動信号生成手段は、指令信号の大きさを変更して、スイッチング素子のオン期間を拡大した変更後駆動信号を生成する。このようにすると、スイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが外側にシフトされる。これにより、各相のスイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが誤作動時間内に含まれないようにすることができる。したがって、スイッチング素子の誤作動をより好適に抑制できる。
【0010】
一実施形態においては、駆動信号生成手段は、指令信号の大きさを変更して、スイッチング素子のオン期間を縮小した変更後駆動信号を生成する。このようにすると、スイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが内側にシフトされる。これにより、各相のスイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが誤作動時間内に含まれないようにすることができる。したがって、スイッチング素子の誤作動をより好適に抑制できる。また、スイッチング素子のオン期間が短くなるので、発熱を抑制できる。
【0011】
一実施形態においては、駆動信号生成手段は、指令信号の大きさを変更して、スイッチング素子のオン期間を拡大及び縮小した変更後駆動信号を生成する。このようにすると、スイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが内側や外側にシフトされる。これにより、各相のスイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが誤作動時間内に含まれないようにすることができる。したがって、スイッチング素子の誤作動をより好適に抑制できる。
【0012】
本発明に係るインバータ装置の制御方法は、複数相の上下アームのスイッチング素子をそれぞれ順次オン・オフ動作させることにより直流を交流に変換して出力するインバータと、搬送波を発生する搬送波発生手段と、インバータの各相の出力の指令信号を出力する指令信号発生手段と、搬送波と指令信号との比較結果に基づいてスイッチング素子のオン・オフを制御する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、駆動信号をインバータのスイッチング素子に出力する駆動信号出力手段と、を備えるインバータ装置の制御方法であって、駆動信号生成手段において、インバータのスイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更してスイッチング素子のオン期間を変更した変更後駆動信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コストの増大を抑制できると共にサージ電圧による誤作動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るインバータ装置を含む電源回路の回路図である。
【
図2】駆動信号生成部において生成される駆動信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、一実施形態に係るインバータ装置を含む電源回路の回路図である。
図1に示す電源回路1は、インバータ装置2を備えている。インバータ装置2は、インバータ3と、インバータ制御装置5とを有している。
【0017】
インバータ3には、負荷として例えば三相モータMが接続されている。インバータ3は、スイッチング素子SW1〜SW6を有している。スイッチング素子SW1〜SW6は、各相(U相、V相、W相)にそれぞれ2個ずつ設けられており、インバータ3において計6個設けられている。スイッチング素子SW1〜SW6は、コンデンサCに並列に接続されている。スイッチング素子SW1,SW3,SW5は、上アームのスイッチング素子であり、スイッチング素子SW2,SW4,SW6は、下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW1〜SW6は、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタなどである。コンデンサCは、図示しないコンデンサ基板に設けられており、平滑用のコンデンサである。
【0018】
インバータ3は、6個のスイッチング素子SW1〜SW6が後述するインバータ制御装置5から出力される駆動信号によりオン、オフが制御されることによって、直流電力を互いに120°位相の異なる交流電力に変換して三相モータMに出力する。
【0019】
インバータ制御装置5は、制御回路7と、複数(ここでは3個)のドライバIC9A〜9C(駆動信号出力手段)とを含んで構成されている。インバータ3とインバータ制御装置5(ドライバIC9A〜9C)とは、例えば図示しないFFC(フレキシブルフラットケーブル)により接続されている。スイッチング素子SW1〜SW6は、例えばIMS(Insulated Metal Substrate:絶縁金属基板)に実装され、IMSに設けられたFFCのコネクタと電気的に接続されている。ドライバIC9A〜9Cは、例えば図示しない制御基板に実装され、制御基板に設けられたFFCコネクタと電気的に接続されている。この制御基板のコネクタとIMSのコネクタとがFFCにより接続されることにより、インバータ3とインバータ制御装置5とが接続されている。
【0020】
制御回路7は、例えばマイコンであり、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成されている。制御回路7は、3つのドライバIC9A〜9Cのそれぞれと接続されており、ドライバIC9A〜9Cにスイッチング素子SW1〜SW6の駆動を制御する駆動信号を出力する。制御回路7は、三角波キャリア信号(搬送波)を発生する三角波発生部(搬送波発生手段)100と、指令信号発生部(指令信号発生手段)101と、駆動信号を生成する駆動信号生成部(駆動信号生成手段)102と備えている。
【0021】
三角波発生部100は、駆動信号生成部102においてキャリア比較方式により駆動信号を生成するための基準信号である三角波キャリア信号を発生する。三角波発生部100は、発生した三角波キャリア信号を駆動信号生成部102に出力する。
【0022】
指令信号発生部101は、インバータ3の各相の出力の指令信号を出力する。指令信号発生部101は、インバータ3の各相(U相、V相、W相)の出力の指令信号を生成し、生成した指令信号を駆動信号生成部102に出力する。各相の指令信号は、モータMの制御に応じて設定される電圧値である。
【0023】
駆動信号生成部102は、三角波キャリア信号と各相の指令信号との比較結果に基づいて、スイッチング素子SW1〜SW6のオン・オフを制御する駆動信号を生成する。駆動信号生成部102は、駆動信号におけるパルス幅を制御してスイッチング素子SW1〜SW6のオン期間、オフ期間を設定する。駆動信号生成部102は、三角波発生部100から出力された三角波キャリア信号と指令信号発生部101から出力された指令信号とを受け取ると、この三角波キャリア信号と各相の指令信号とを比較し、比較結果により駆動信号を生成する。
【0024】
本実施形態では、駆動信号生成部102は、インバータ3のスイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間内に含まれないように、指令信号の大きさを変更してスイッチング素子のオン期間を変更した変更後駆動信号を生成する。具体的には、
図2を参照しながら説明する。
図2は、駆動信号生成部において生成される駆動信号の一例を示す図である。
図2では、V相のスイッチング素子のターンオンに伴い設定される誤作動時間T内にU相の駆動信号S1の立ち上り、また、U相のスイッチング素子のターンオフに伴い設定される誤作動時間T内にV相の立ち下りのエッジが含まれないように、V相の駆動信号S2を生成する一例を説明する。なお、
図2では、駆動信号を一周期(例えば、100μs)分だけ示している。
【0025】
図2に示すように、駆動信号生成部102は、駆動信号S1と駆動信号S2とを生成する。駆動信号生成部102は、三角波キャリア信号S0と指令信号C1とを比較した結果に基づいて、U相の上アームのスイッチング素子SW1の駆動信号S1を生成する。駆動信号生成部102は、三角波キャリア信号S0と指令信号C2とを比較した結果に基づいて、V相の上アームのスイッチング素子SW3の駆動信号S2を生成する。本実施形態では、駆動信号生成部102は、U相の駆動信号S1の立ち上り及び立ち下りのエッジがV相の誤作動時間T内に含まれないように、また、V相の駆動信号S2の立ち上り及び立ち下りのエッジがU相の誤作動時間T内に含まれないように、駆動信号(変更後駆動信号)S2を生成する。誤作動時間Tは、駆動信号S1,S2の立ち上り及び立ち下がりエッジを起点として設定される極短い時間である。この誤作動時間Tは、サージ電圧によりドライバICが誤作動する虞のある期間として設定され、回路の構成などに応じて実験的に設定される時間である。なお、
図2では、U相の駆動信号S1の立ち下りエッジを起点として設定される誤作動時間T及びV相の駆動信号S2の立ち上りエッジを起点として設定される誤作動時間Tのみを図示している。
【0026】
駆動信号生成部102は、駆動信号S1と初期の指令信号C2’により生成される駆動信号とを比較し、駆動信号S1の立ち上り及び立ち下りのエッジが指令信号C2’により生成される駆動信号により発生する誤作動時間T内、及び、指令信号C2’により生成される駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが駆動信号S1により発生する誤作動時間T内に含まれると判断した場合に、指令信号C2’を指令信号C2に変更し、駆動信号S2を生成する。
【0027】
駆動信号生成部102は、U相の駆動信号S1の立ち上り及び立ち下りのエッジがV相の誤作動時間T内に含まれないように、また、生成するV相の駆動信号S2の立ち上り及び立ち下りのエッジがU相の誤作動時間T内に含まれないようにするために、駆動信号S2のオン期間(パルス幅)を拡大する。具体的には、駆動信号生成部102は、初期の指令信号C2’(図中2点鎖線で示す)よりも指令信号C2を大きく設定する。これにより、駆動信号S2では、オン期間が拡大される。駆動信号S2が拡大されると、駆動信号S2の立ち上り及び立ち下りの各エッジを含む各誤作動時間Tがそれぞれ外側にシフトする。そのため、駆動信号S1の立ち上り及び立ち下りエッジは、ドライバIC9Aの誤作動時間T内に含まれず、また、駆動信号S2の立ち上り及び立ち下りエッジは、ドライバIC9Bの誤作動時間T内に含まれない。駆動信号生成部102は、生成した駆動信号をドライバIC9A〜9Cに出力する。
【0028】
ドライバIC9A〜9Cは、各相に対応してそれぞれ設けられている。本実施形態では、ドライバIC9AはU相に対応して設けられており、ドライバIC9BはV相に対応して設けられており、ドライバIC9CはW相に対応して設けられている。ドライバIC9A〜9Cは、駆動信号生成部102から出力された駆動信号のオン、オフに応じた駆動信号を各スイッチング素子SW1〜SW6に出力する。
【0029】
続いて、本実施形態のインバータ制御装置5の作用・効果について説明する。
図3は、従来の駆動信号の一例を示す図である。
図3に示す従来のインバータ装置の制御回路から出力される駆動信号S11,S12では、以下のような問題が生じ得る。V相の駆動信号S12によりスイッチング素子がターンオンされた際、サージ電圧が発生し、U相のドライバICが所定の期間(誤作動時間T)、誤作動することがある。このU相のドライバICが誤作動している誤作動時間に制御回路からU相のドライバICへスイッチング素子をターンオンさせる信号(駆動信号S11)が出力されても、U相のドライバICはその信号を認識できず、ドライバICからスイッチング素子への出力はオフのままとなる。すなわち、スイッチング素子の切り替え制御がなされないといった問題が生じる。
【0030】
これに対して、本実施形態では、駆動信号生成部102において、インバータ3のスイッチング素子の各相の駆動信号を生成する際に、駆動信号の立ち上り及び立ち下りのエッジが他の駆動信号の誤作動時間T内に含まれないように、指令信号の大きさを変更してスイッチング素子のオン期間を変更した駆動信号を生成する。このようにすると、例えば一の相のスイッチング素子の動作時にサージ電圧が発生した場合であっても、他の相のスイッチング素子の駆動信号の立ち上り及び立ち下りが当該スイッチング素子のドライバICの誤作動時間T内に含まれない。つまり、本実施形態では、インバータ3の各相のスイッチング素子が、誤作動時間T内に同時にスイッチングしないように駆動信号を生成している。
【0031】
これにより、例えば、
図2に示すように、ドライバIC9Aは、制御回路7から出力された駆動信号S1を認識でき、ドライバIC9Bは、制御回路7から出力された駆動信号S2を認識できる。そのため、ドライバIC9A,9Bは、制御回路7から出力された駆動信号S1,S2のオン、オフに応じた駆動信号をスイッチング素子SW1,SW2に出力する。以上のように、本実施形態では、スイッチング素子SW1〜SW6の誤作動を抑制できる。
【0032】
また、本実施形態では、制御回路7においてプログラム処理によりスイッチング素子SW1〜SW6のオン期間を変更することによりスイッチング素子SW1〜SW6の誤作動を抑制できるため、ハードウェア構成の変更を必要としない。そのため、コストの増大を抑制できる。さらに、ドライバICの誤作動時間Tは非常に短いため、オン期間の変更量は微少ですみ、インバータ3の出力性能を維持できる。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、駆動信号生成部102において、駆動信号のオン期間を拡大した信号を生成する形態を一例に説明したが、駆動信号は、オン期間を縮小してもよい。具体的には、
図4を参照しながら説明する。
【0034】
図4は、他の形態に係る駆動信号を示す図である。
図4に示すように、駆動信号生成部102は、駆動信号S21と駆動信号S22とを生成している。駆動信号生成部102は、三角波キャリア信号S0と指令信号C22とを比較した結果に基づいて、V相の上アームのスイッチング素子SW3の駆動信号S22を生成する。駆動信号生成部102は、U相の駆動信号S21の立ち上り及び立ち下りのエッジがV相の誤作動時間T内に含まれないように、また、V相の駆動信号S22の立ち上り及び立ち下りのエッジがU相の誤作動時間T内に含まれないように駆動信号S22を生成する。
【0035】
具体的には、駆動信号生成部102は、駆動信号S22のオン期間を縮小するために、初期の指令信号C2’(図中2点鎖線で示す)よりも指令信号C22を小さく設定する。これにより、駆動信号S22では、オン期間が縮小される。駆動信号S22が縮小されると、駆動信号S22の立ち上り及び立ち下りのエッジを含む誤作動時間Tがそれぞれ内側にシフトする。そのため、駆動信号S21の立ち上り及び立ち下りのエッジ、また、駆動信号S22の立ち上り及び立ち下りのエッジは、誤作動時間Tに含まれない。
【0036】
また、上記実施形態では、駆動信号S2のオン期間を拡大する制御と、駆動信号S22のオン期間を縮小する形態についてそれぞれ説明したが、オン期間を拡大する制御とオン期間を縮小する制御との両方が実施されてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、V相の駆動信号S2,S22のオン期間を変更しているが、U相の駆動信号S1,S21のオン期間を変更してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…電源回路、3…インバータ、5…インバータ制御装置、100…三角波発生部(搬送波発生手段)、101…指令信号発生部(指令信号発生手段)、102…駆動信号生成部(駆動信号生成手段)、SW1〜SW6…スイッチング素子。