特許第5978779号(P5978779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5978779酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維
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  • 特許5978779-酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978779
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20160817BHJP
   C08K 5/526 20060101ALI20160817BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20160817BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160817BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/526
   C08K5/098
   C08K3/22
   D01F6/46 A
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-127946(P2012-127946)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-14751(P2013-14751A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2015年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-129830(P2011-129830)
(32)【優先日】2011年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】三輪 伸二
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−146121(JP,A)
【文献】 特開2008−260929(JP,A)
【文献】 特開2002−212347(JP,A)
【文献】 特開2008−274001(JP,A)
【文献】 特開平06−263930(JP,A)
【文献】 特開平07−076640(JP,A)
【文献】 特開平09−241447(JP,A)
【文献】 特開2002−003661(JP,A)
【文献】 特開平10−182897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に対し、(A)同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤、(B)リン系酸化防止剤、(C)高級脂肪族の周期律表第II族金属塩及び(D)ハイドロタルサイト系化合物の4成分を必須として含有する樹脂組成物であって、(A)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%未満、(B)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.15重量%以下、(C)成分の樹脂組成物中含有量が、0.05重量%以上0.15重量%以下、(D)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%以下であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量の比が、1:0.5〜1:5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(ただし、式(I)及び式(II)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Xは単なる結合又は−CHR−基(Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を示す)を表し、A、Aは炭素数2〜8のアルキレン基を表し、Aは単なる結合又は炭素数2〜8のアルキレン基を表す。)
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかの項に記載の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂が、密度0.94g/cm以上0.96g/cm以下の高密度ポリエチレン樹脂を含有することを特徴とする請求項に記載の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
【請求項6】
下記式(1)で表される耐変色指数(ΔYI)が10.0以下、下記式(2)で表される酸素誘導時間(OIT)が、10.0以上であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかの項に記載の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物。
式(1) ΔYI=NOx曝露後YI−初期値YI
式(2) OIT(分)=窒素雰囲気下で試料を所定温度(210℃)に達するまで昇温し、温度が安定化したところで酸素に切り替えた時点から、その後前記試料が酸化により発熱を開始する時点までの所要時間
(式中、YIは、JIS K 7105−1981に準拠して測定した黄色度である。)
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする衛生製品用合成樹脂繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維に関し、さらに詳しくは、マスクなどの衛生用品用途に用いる極細繊維の形状としたものであっても、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れる樹脂組成物及びそれを用いた衛生製品用合成樹脂繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン等の合成樹脂組成物に求められる性能は多岐にわたるが、近年特に需要が高まりつつあるマスクなどの衛生用品に用いる極細繊維用の樹脂組成物においては、酸化耐熱と耐変色性という、2つの両立し難い性能が要求されている。
すなわち、こうした樹脂製の極細繊維は保管時に綿状の固まりとして倉庫内で保管される際に、綿内に含まれた空気に触れて樹脂組成物の表面が酸化し発熱する危険性がある。そのため、かかる極細繊維用樹脂組成物としては、高温かつ酸素存在下で発熱しにくいという指標の酸化耐熱の基準をクリアすることが求められている。
一方で、衛生用品用途としては、褐色の色は清潔感を損なうため、より白色の樹脂組成物であること、すなわち、耐変色性が求められている。
【0003】
本願明細書に添付の図1は、こうした酸化耐熱の特性(縦軸のOIT)と耐変色性の特性(横軸のΔYI)を、本願の実施例比較例の値との関係でグラフ化して示した図である。OITの値は大きいほど酸化耐熱性が高いため好ましく、ΔYIの値は小さいほど変色が小さいため好ましい。そのため、図中左上の領域(OIT≧10.0、ΔYI≦10.0)の樹脂組成物を得ることが求められている。
従来こうした酸化耐熱と耐変色性を両方とも兼ね備えた樹脂組成物を得るために、種々の樹脂配合の探索が試みられていたが、現実的には、両方の性能を同時に改良した樹脂組成物を得ることは非常に難しかった。なぜなら酸化耐熱性と耐変色性は、傾向としてグラフ中右上がりの関係を有することが経験上知られており、そのため、酸化耐熱性を向上させようとして酸化防止剤の量を増やすと(縦軸上方)、酸化防止剤由来の着色がおきて、耐変色性は悪化(縦軸右方)するからである。
【0004】
例えば酸化防止剤として2種の酸化防止剤(リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤)を用い、無機化合物として、高級脂肪族の周期律表第II族金属塩であるステアリン酸カルシウムを組み合せた樹脂組成物はよく知られた樹脂組成物の組合せであるが、図1中A1〜A3(比較例1〜3)に示すように、酸化防止剤の量を増減しても、OITの値、ΔYIの値共に目的とする左上の領域には達することができない。
また、酸化耐熱を得るためには酸化耐熱に優れた酸化防止剤を使用することも考えられる。例えば、同一分子内に亜リン酸エステル構造とフェノール構造を有する酸化防止剤(例えば、商品名 スミライザー(登録商標)GP)は、単独で使用しても耐変色性と酸化耐熱に優れた酸化防止剤として既知の酸化防止剤である。
【0005】
たとえば、該酸化防止剤に各その他の添加剤を添加した、樹脂組成物としては、次のようなものが提案されている。
加工耐熱に対して十分な安定性を有し、かつ優れた色相安定性を有し、延伸テープや繊維などの延伸加工を行う用途に好適なポリエチレン樹脂組成物を提供することを目的として、ポリエチレン樹脂100重量部に対し、本願発明のA成分に相当する同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤0.01〜1重量部、本願発明のD成分に相当するハイドロタルサイト系化合物0.01〜1重量部および/または本願発明のC成分に相当する高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩0.01〜1重量部を含有することを特徴とするポリエチレン樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、耐着色性、熱安定性、加工性に優れるポリオレフィン系樹脂組成物、その樹脂組成物を用いて得られる成形体を提供することを課題として、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、本願発明のA成分に相当する特定の式で示される亜リン酸エステル類0.001〜5重量部、及び有機系過酸化物0.0001〜0.5重量部、さらに中和剤として本願発明のC成分に相当するステアリン酸カルシウムを加熱溶融混合して得られることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
また、NOxガスに対する耐変色性、加工安定性、帯電防止性、耐候性および耐熱老化性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物およびその樹脂組成物からなる成形体を提供することを課題として、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、本願発明のA成分に相当する特定の式で示される亜リン酸エステル類0.001〜5重量部と、アミド系帯電防止剤0.01〜5重量部、さらに中和剤として本願発明のC成分に相当するステアリン酸カルシウムを含有することを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。
また、加工安定性、耐熱着色性および耐NOx着色性が改善された新規な熱可塑性樹脂組成物及び熱可塑性樹脂の加工安定性、耐熱着色性および耐NOx着色性を改善することにより熱可塑性樹脂を安定化する方法を提供することを課題として、熱可塑性樹脂に本願発明のA成分に相当する特定の式で示される亜リン酸エステル類と、コハク酸ジメチルおよび4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物と、本願発明のD成分に相当するハイドロタルサイトとを含有した熱可塑性樹脂組成物が提案され、さらに本願発明のB成分に相当する有機リン系酸化防止剤を併用添加した実施例も示されている(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、こうした公知の樹脂組成物では、確かにある程度酸化耐熱性と耐変色性が向上するものの、本願発明の目的とするような、より高いレベルの酸化耐熱と耐変色性を双方とも満たす、図1のグラフ中左上領域に達する樹脂組成物を得ることはできなかった。また、各々の添加量の増減による変化カーブや、添加剤の相違による性能の向上の程度を見ても、左上領域に達する樹脂組成物を得ることは難しいと思われていた。
すなわち、本願図1中A4〜A6(比較例4〜6)は、同一分子内に亜リン酸エステル構造とフェノール構造を有する酸化防止剤(成分A)に、ステアリン酸カルシウム(成分C)を加えた樹脂組成物の値を示しており、A7〜A9(比較例7〜9)は該酸化防止剤(A)、ステアリン酸カルシウム(C)に加えてハイドロタルサイト系化合物(D)を加えた樹脂組成物の値を示している。
A10〜A12は、該酸化防止剤(A)にリン系酸化防止剤(B)、ステアリン酸カルシウム(C)を添加した例であり、A13〜A14は該酸化防止剤(A)にリン系酸化防止剤(B)、ハイドロタルサイト系化合物(D)を添加した例である。
いずれも、A1〜3(比較例1〜3)に比べると酸化耐熱性(OIT)耐変色性(ΔYI)共に向上しているが、酸化耐熱性を向上するために酸化防止剤の添加量を増加すると耐変色性は悪化してしまい、その変化カーブを見ても、酸化防止剤の増減を行っても目的とする図中左上の領域に達することができないことは明らかである。
【0008】
そのため、他に両性能が向上した新規酸化防止剤の探索もされてきたが、化合物の安全性の面で使い難い化合物であったり、コスト面で現実には使用し難い化合物であったり等、実際の使用には制約があった。
【0009】
したがって、化合物の安定性、コスト面での問題なく、マスクなどの衛生用品に用いる極細繊維用の樹脂組成物に要求される、高いレベルの酸化耐熱と耐変色性という、2つの両立し難い性能を満たす樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−146121号公報
【特許文献2】特開2002−212347号公報
【特許文献3】特開2003−231779号公報
【特許文献4】特開2008−260929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、マスクなどの衛生用品用途に用いる極細繊維の形状としたものであっても、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れる樹脂組成物及びそれを用いた衛生製品用合成樹脂繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記したとおり、化合物の安全性、コスト面での問題なく、マスクなどの衛生用品に用いる極細繊維用の樹脂組成物に要求される、高いレベルでの酸化耐熱と耐変色性という、2つの両立し難い性能を満たす樹脂組成物が求められていた状況下、本発明者も、長年、高レベルの酸化耐熱と耐変色性を両方充たす樹脂組成物を得るため種々検討してきたが、なかなか実用的に両性能を充たす樹脂組成物が得られず苦慮していた。
ところが、今般、実験中に条件設定の誤りをきっかけとして、意外にも、両性能を同時に改良した樹脂組成物が得られることを見出し到達したのが、本発明である。
すなわち、種々実験中に、偶然(A)成分と(C)成分を含有したマスターバッチに対し、(B)成分と、(C)成分に間違えて(D)成分を含有したマスターバッチを組み合わせた樹脂組成物において、両性能を充たす新しい領域の樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。この、2種類の(A)と(B)という特定の酸化防止剤の組み合わせと、2種類の(C)と(D)という特定の無機化合物の組み合わせという、4成分を必須とし、かつ(A)成分の含有量を比較的低い添加量範囲と限定することで、4成分のうちの3成分だけの組み合わせや、他の酸化防止剤との組み合わせの結果からは想定しえない、スプリットした領域の性能を有する樹脂組成物が得られたのである。
なお、(A)成分と(B)成分は酸化防止剤として、(C)成分と(D)成分はポリエチレン樹脂の中和剤等として、いずれも公知の樹脂添加剤ではあるが、通常(A)成分の酸化防止剤は単独で使用しても十分効果があると知られているため、単独で使用するのが通常で、また、(C)成分と(D)成分も一般的に同じ目的に使用する添加剤であり、用途に適した性能とコストに応じていずれかを選択することが通常である。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、熱可塑性樹脂に対し、(A)同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤、(B)リン系酸化防止剤、(C)高級脂肪族の周期律表第II族金属塩及び(D)ハイドロタルサイト系化合物の4成分を必須として含有する樹脂組成物であって、(A)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%未満であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(B)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.15重量%以下、(C)成分の樹脂組成物中含有量が、0.05重量%以上0.15重量%以下、(D)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%以下であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量の比が、1:0.5〜1:5の範囲であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、(A)成分は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示される化合物であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【化1】
【化2】
(ただし、式(I)及び式(II)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Xは単なる結合又は−CHR−基(Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を示す)を表し、A、Aは炭素数2〜8のアルキレン基を表し、Aは単なる結合又は炭素数2〜8のアルキレン基を表す。)
【0017】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記ポリエチレン系樹脂が、密度0.94g/cm以上0.96g/cm以下の高密度ポリエチレン樹脂を含有することを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
【0019】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、下記式(1)で表される耐変色指数(ΔYI)が10.0以下、下記式(2)で表される酸素誘導時間(OIT)が、10.0以上であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物が提供される。
式(1) ΔYI=NOx曝露後YI−初期値YI
式(2) OIT(分)=窒素雰囲気下で試料を所定温度(210℃)に達するまで昇温し、温度が安定化したところで酸素に切り替えた時点から、その後前記試料が酸化により発熱を開始する時点までの所要時間
(式中、YIは、JIS K 7105−1981に準拠して測定した黄色度である。)
【0020】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする衛生製品用合成樹脂繊維が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維は、マスクなどの衛生用品用途に用いる極細繊維の形状としたものであっても、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例において、酸素誘導時間(OIT)と耐変色指数(ΔYI)との関係を示したグラフである。
図2】本発明の実施例において、酸素誘導時間(OIT)と耐変色指数(ΔYI)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、熱可塑性樹脂に対し、(A)同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤、(B)リン系酸化防止剤、(C)高級脂肪族の周期律表第II族金属塩及び(D)ハイドロタルサイト系化合物の4成分を必須として含有する樹脂組成物であって、(A)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%未満であることを特徴とする酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物に関する。
また、本発明は、上記樹脂組成物を用いてなる衛生製品用合成樹脂繊維に関する。
以下、本発明の樹脂組成物及びその成分並びに合成樹脂繊維などについて、詳細に説明する。
【0024】
1.樹脂組成物の成分
(1)熱可塑性樹脂
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を必須として含有する。
前記熱可塑性樹脂としては、種々のものが使用可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−αオレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にポリエチレン樹脂が好ましい。
【0025】
本発明で用いられるポリエチレン樹脂は、チーグラー系触媒、フィリップス系触媒(クロム系触媒)、あるいはシングルサイト触媒を用いて製造されたポリエチレン樹脂、高圧ラジカル法ポリエチレン樹脂を包含し、その製造方法や製造触媒に限定されるものではない。
また、前記ポリエチレン樹脂は、密度が0.94g/cm以上である高密度ポリエチレンを含有することが好ましい。該高密度ポリエチレンとしては、例えばエチレンの単独重合体、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、繊維系が数デニールといった極細繊維に用いられる高密度ポリエチレンとしては、密度が0.94g/cm以上0.96g/cm以下のエチレンのホモポリマー、エチレンと1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのオレフィンから選ばれる少なくとも1種とのコポリマーが好ましい。加えて、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトが10〜50g/10分、好ましくは15〜25g/10分の範囲にあるものが好適である。
密度が0.940g/cm未満では不織布製品にした時の嵩高性(ボリューム感)などが低下するおそれがあり、0.960g/cmを超えると繊維同士の熱融着性等が悪化するので好ましくない。また、メルトフローレイトが10g/10分未満では紡糸性に難点を生じ、50g/10分を超えると繊維の強度低下を招くので好ましくない。
なお、本発明において、メルトフローレイト(MFRともいう。)は、JIS K 7210:1999に準拠して、各条件にて測定した値である。
【0026】
本発明における高密度ポリエチレンの製造方法は、チーグラー型、フィリップス型、シングルサイト型触媒等の存在下、実質的に溶媒の存在しない気相重合法、スラリー重合法、溶液重合法などで製造され、実質的に酸素、水などを断った状態で、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素などに例示される不活性炭化水素溶媒の存在下または不存在下で製造される。
重合条件は特に限定されないが、重合温度は通常15〜350℃、好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは50〜110℃であり、重合圧力は低中圧法の場合、通常常圧〜70kg/cmG、好ましくは常圧〜20kg/cmGであり、高圧法の場合、通常1500kg/cmG以下である。重合時間は低中圧法の場合、通常3分〜10時間、好ましくは5分〜5時間程度が望ましい。高圧法の場合、通常1分〜30分、好ましくは2分〜20分程度である。また、重合は一段重合法はもちろん、水素濃度、モノマー濃度、重合圧力、重合温度、触媒などの重合条件が互いに異なる2段階以上の多段重合法など特に限定されるものではない。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂は、2種以上の樹脂からなるものであってもよく、例えば、ポリエチレン樹脂と他の樹脂とを含有してもよい。他の樹脂とは、例えば、高圧ラジカル法ポリエチレン樹脂、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレンと多不飽和化合物との共重合体、エチレンとビニルエステルとの共重合体、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体との共重合体などが挙げられる。また、前記ポリエチレン樹脂の酸変性されたもの、例えば、α,β−不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、またはこれらの誘導体でグラフト変性された重合体であってもよい。また、ポリエチレン樹脂には、ゴム状、脂肪状、ワックス状の重合体も含まれる。さらに、本発明においては、用途に応じて、これらポリエチレン樹脂に、合成ゴムや無機充填剤を添加した混合物を用いることができる。
【0028】
(2)同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤(A)
本発明の樹脂組成物は、同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤(A)(以下、「酸化防止剤(A)」、「(A)成分」ともいう。)を必須として含有する。
前記酸化防止剤(A)としては、下記一般式(I)又は一般式(II)で示される化合物などが例示されるが、本発明の効果は具体例に示された化合物に限定されるものではない。本発明における亜リン酸エステル構造とは、亜リン酸P(OH)の水素原子が炭化水素基に置換された構造のことをいう。また、本発明におけるヒンダードフェノール構造とは、フェノールの2,6位の水素原子が炭化水素基に置換された構造のことをいう。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
式(I)および式(II)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。ここで、炭素原子数1〜8のアルキル基の代表例としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、t−ペンチル、iso−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0032】
なかでも、R、Rは、t−ブチル、t−ペンチル、t−オクチルなどのt−アルキル基であることが好ましい。Rは、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、t−ペンチルなどの炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、とりわけメチル、t−ブチル、t−ペンチルであることが好ましい。Rは、水素原子、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、t−ペンチルなどの炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。
【0033】
置換基Rは、水素原子または炭素原子数1〜8のアルキル基を表すが、炭素原子数1〜8のアルキル基としては、例えば前記と同様のアルキル基が挙げられる。好ましくは水素原子または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0034】
Xは単なる結合、もしくは−CHR−基(Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を示す)を表す。ここで、Xは、単なる結合、メチレン基またはメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、t−ブチルなどが置換したメチレン基であることが好ましく、特に単なる結合であることが好ましい。
【0035】
、Aは炭素数2〜8のアルキレン基を表す。また、Aは単なる結合あるいは炭素数2〜8のアルキレン基を表す。アルキレン基の代表例としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、2,2−ジメチル−1,3−プロピレンなどが挙げられる。
【0036】
一般式(I)で表わされる化合物の一例としては、6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(R、R、R:t−ブチル基、R:水素、R:メチル基、X:単なる結合、A:炭素数3のアルキレン基)が挙げられる。また、一般式(II)で表わされる化合物の一例としては6−{2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エトキシ}−2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(R、R、R:t−ブチル基、R:水素、R:メチル基、X:単なる結合、A、A:炭素数2のアルキレン基)が挙げられる。
一般式(I)で示される化合物は、市販のものとしては、住友化学株式会社製の「スミライザー(登録商標)GP」が挙げられる。
【0037】
本発明における酸化防止剤(A)の配合量は、樹脂組成物全体を基準として0.02重量%以上0.1重量%未満、好ましくは0.03重量%以上0.08重量%未満である。(A)成分の配合量が0.02重量%未満では酸化耐熱性が不良となるおそれがある。また、(A)成分の配合量が0.1重量%以上であると、耐変色性が不良となるおそれがある。
【0038】
(3)リン系酸化防止剤(B)
本発明の樹脂組成物は、リン系酸化防止剤(B)(以下、「酸化防止剤(B)」、「(B)成分」ともいう。)を必須として含有する。なお、酸化防止剤(B)は、酸化防止剤(A)(同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤)とは異なるリン系酸化防止剤である。
【0039】
前記酸化防止剤(B)の具体例としては、例えば、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスファイトジエチルエステル、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)ジホスホスピロウンデカン、ビス(ステアリル)ジホスホスピロウンデカン、環状ネトペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、ビス(ノニルフェニルフェノキシ)ジホスホスピロウンデカン、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキシド、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル−2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチル−フェニル]エチルホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ)ジホスホスピロウンデカン、トリラウリルトリチオホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト5−t−ブチルフェニル)ブタン、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロホスファイト、4,4’−イソプロピリデンジフェノールアルキル(C12〜C15)ホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)−ジ−トリデシルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、
【0040】
ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリス−(モノノニルフェニルとジノニルフェニルの混合)ホスファイト、フェニル−ビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ラウリルチオ)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−4−n−オクタデシルオキシカルボニルエチル−フェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジーホスホナイト、テトラキス[2,6−ジ−t−ブチル−4−(2,4’−ジ−t−ブチルフェニルオキシカルボニル)−フェニル]−4,4’−ビフェニレン−ジーホスホナイト)、トリセチルトリチオホスファイト、ジ−t−ブチルフェニル−m−クレジルホスホナイトとビフェニルとの縮合物、サイクリックブチルエチルプロパンジオール−2,4,6−トリ−ブチルフェニルホスファイト、トリス−[2−(2,4,8,10−テトラブチル−5,7−ジオキサ−6−ホスホジベンゾ−{a,c}シクロヘプテン−6−イルーオキシ)エチル]アミン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、3,9−ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノキシ}−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0041】
酸化防止剤(B)は、市販のものとしては、BASFジャパン社製の「イルガフォス(登録商標)168」、「イルガフォス(登録商標)12」等が挙げられる。
【0042】
本発明における酸化防止剤(B)の配合量は、樹脂組成物全体を基準として0.02重量%以上0.15重量%以下、好ましくは0.04重量%以上0.12重量%以下である。(B)成分の配合量が0.02重量%未満では酸化防止剤(A)との併用において酸化耐熱向上に相乗効果が得られないおそれがある。また、(B)成分の配合量が0.15重量%を超えると、製品表面に吹き出すおそれがある。
【0043】
また、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の比が重量を基準として1:0.5〜1:5の範囲が好ましく、より好ましくは1:1〜1:2.5の範囲である。
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の比が前記範囲を超え、(A)成分の含有量が多くなるか、または(B)成分の含有量が多くなると、酸化耐熱向上に相乗効果が乏しくなるおそれがあるため好ましくない。
【0044】
(4)高級脂肪族の周期律表第II族金属塩(C)
本発明の樹脂組成物は、高級脂肪族の周期律表第II族金属塩(C)(以下、「中和剤(C)」、「(C)成分」ともいう。)を必須として含有する。
【0045】
前記(C)の具体例としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウムなどが挙げられる。これらの高級脂肪酸金属塩は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その配合量は、樹脂組成物中、0.05重量%以上0.15重量%以下、好ましくは0.07重量%以上0.13重量%以下である。この配合量が0.05重量%未満では耐変色抑制が困難となり、0.15重量%を超えると樹脂中の分散が困難となるので、好ましくない。
【0046】
(5)ハイドロタルサイト系化合物(D)
本発明の樹脂組成物は、ハイドロタルサイト系化合物(D)(以下、「中和剤(D)」、「(D)成分」ともいう。)を必須として含有する。
【0047】
前記ハイドロタルサイト系化合物は、マグネシウム、アルミニウムの含水塩基性炭酸塩である。これらは天然物または合成品のいずれであってもよい。天然物は、MgAl(OH)16CO・4HOで示される化学構造を有し、一方、合成品としてはMgとAlとの比が異なったもの、例えば化学式Mgl2(OH)12CO・3HO、MgAl(OH)14CO・4HO、Mg10Al(OH)22(CO・4HO、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HOで示されるものなどが挙げられる。これらのハイドロタルサイト系化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その配合量は、樹脂組成物中0.02重量%以上0.1重量%以下、好ましくは0.07重量%以下である。この配合量が0.02重量%未満では酸化耐熱性が不十分であるし、0.1重量%を超えると樹脂中の分散に問題が生じるようになる。
【0048】
2.樹脂組成物の特徴
本発明の樹脂組成物は上記(A)(B)(C)(D)の4成分を必須とし、かつ、(A)成分の含有量が、比較的低含有量(樹脂組成物中0.02重量%以上0.1重量%未満)であることを特徴とするものであり、更に好ましくは(B)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.15重量%以下、(C)成分の樹脂組成物中含有量が、0.05重量%以上0.15重量%以下、(D)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%以下であること、更に好ましくは、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の比が、1:0.5〜1:5の範囲であることを特徴とすることにより、絶妙のバランスで、相反する性能である、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れた樹脂組成物を得ることができる。
本発明の樹脂組成物は、下記式(1)で表される耐変色指数(ΔYI)が10.0以下、下記式(2)で表される酸素誘導時間(OIT)が、10.0以上であることが好ましい。
式(1) ΔYI=NOx曝露後YI−初期値YI
式(2) OIT(分)=窒素雰囲気下で試料を所定温度(210℃)に達するまで昇温し、温度が安定化したところで酸素に切り替えた時点から、その後前記試料が酸化により発熱を開始する時点までの所要時間
【0049】
上記式(1)において、YIは、JIS K 7105−1981に準拠して測定した黄色度である。なお、「初期値YI」とは、調整した試料の初期のYIであり、「NOx曝露後YI」とは、調整した試料を密閉容器中に静置し500ppm濃度のNOxガスを充満させ7日間曝露したのちに測定した黄色度である。
ΔYIは、10.0以下であり、好ましくは9以下である。
ΔYIが10.0より大きいと、変色度合いが顕著であり衛生材料用途として好ましくない。またΔYIはより小さい方が好ましいため下限は限定されないが、本願発明によれば少なくとも7.0以上10.0以下のΔYI値を有し、かつOITの値が10.0以上の樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
また、上記式(2)において、OIT(Oxigen induction time)とは、「窒素雰囲気下で試料を所定温度(210℃)に達するまで昇温し、温度が安定化したところで酸素に切り替えた時点から、その後前記試料が酸化により発熱を開始する時点までの所要時間」であり、「発熱を開始する時点までの所要時間」は、例えば、熱分析装置を用いて計測した、昇温開始時点から発熱開始時点までの所要時間である。
OITは、10.0以上であり、好ましくは15.0以上、更に好ましくは20.0以上である。
OITが10.0より小さいと、繊維製品では酸化発熱による自然発火のリスクが高まるため好ましくない。
また、OITはより高い方が好ましいため上限は限定されないが、本願発明によれば少なくとも10.0以上40.0以下のOIT値を有し、かつΔYI値が10.0以下の樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
3.樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂に対し、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の4成分を必須として含有する樹脂組成物であるが、樹脂組成物の製造方法としては、通常行われている方法を用いることができる。上記成分の添加順序は特に制限はない。
【0052】
4.衛生製品用合成樹脂繊維
本発明の衛生製品用合成樹脂繊維は、本発明の樹脂組成物を用いて製造されるが、その製造方法については特に制限はなく、従来から行われている公知の方法により製造することができる。例えば、ポリエチレン樹脂組成物をモノフィラメント用ダイを備えた押出し機で押出し、これを一旦冷却後、ローラに導く。ローラを通過した後に、加熱槽により加熱し、前記ローラよりも回転速度の早いローラを通過させる。二つのローラの周速比の違いにより、フィラメントを延伸させ、繊維を製造することができる。
前記衛生製品用合成樹脂繊維は、繊維径が数デニールといった極細繊維とすることができ、この場合、酸化耐熱と耐変色性とが優れた繊維であるため、好適である。こうした樹脂製の極細繊維は保管時に綿状の固まりとして倉庫内で保管される際に、綿内に含まれた空気に触れて樹脂組成物の表面が酸化し発熱する危険性があるが、本発明の繊維は繊維径が数デニールであっても約210℃といった高温かつ酸素存在下で発熱しにくいものであり、加えて、耐変色性が優れ、黄変しにくいため、マスクなどの衛生用品に用いる場合に好適である。
【0053】
5.その他の用途
本発明の樹脂組成物は、ボトルキャップ等や白色フィルム等、耐変色性と酸化耐熱が求められるものにも特に好適に使用される。
具体的には、炭酸飲料ボトルキャップ等が例示され、好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下において、本発明をより具体的にかつ明確に説明するために、本発明を実施例及び比較例との対照において説明し、本発明の構成の要件の合理性と有意性を実証する。
なお、各実施例及び比較例において、用いた重合体の各物性の評価方法を以下に示す。
【0055】
1.評価方法
(1)メルトフローレイト(MFR)
MFRは、JIS K 7210:1999に準拠して、各条件にて測定した。
(2)密度
ラミフィルムをタテヨコ2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃で、JIS K7112に準拠して、測定した。
【0056】
(3)ΔYI(耐変色指数)
I)測定用試料調整
試料である試験用フィルムの巾両端を裁断し、厚み精度良好(30μ±10%)となるよう調整した。厚み精度を調整したフィルム50mを筒状に巻き、両端をホースバンドによりトルク10Kg・cmで締付けて固定し測定用試料とした。
II)YI(初期値)の測定
前記I)で調整した試料端面の一方を測定面に決め、日本電色製カラーコンピューター(機種名:ZE2000)でYIを測定しこの値をYI初期値とした。
III)ΔYIの算出
JIS L0855に準拠し、上記I)で調整した試料を密閉容器中に静置し500ppm濃度のNOxガスを充満させ23℃下7日間曝露した。曝露期間終了後速やかに試料を取り出し、上記II)と同様の方法でYIを計測し下記の式(1)によりΔYIを算出した。
ΔYI=NOx曝露後YI−初期値YI (1)
【0057】
(4)酸素誘導時間(OIT)
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 DSC7020の熱分析装置を用い、下記条件で測定を行った。
測定温度:210℃
昇温速度:20℃/分
窒素流量:50ml/分
酸素流量:50ml/分
試料:30μmフィルム
試料重量:15mg
窒素雰囲気下で所定温度(210℃)に達するまで昇温し、温度が安定化したところで酸素に切り替えるとその後試料が酸化により発熱を開始する。
酸素に切替を開始した時点から発熱を開始する時点までの所要時間を酸素誘導時間(OIT)とした。
【0058】
2.成分
(1)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂として、高密度ポリエチレンである、日本ポリエチレン社製「ノバテック(登録商標)HD:HE490」重合時の無添加パウダー(製造時に採取した添加剤を配合していないポリエチレンパウダー)、MFR(JIS K6922−2準拠):22g/10分、密度(JIS K7112準拠):0.956g/cmを使用した。
【0059】
(2)酸化防止剤
酸化防止剤(A)である、同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤として、住友化学社製リン系酸化防止剤、商品名「スミライザーGP」を使用した。
酸化防止剤(B)である、リン系酸化防止剤として、BASFジャパン社製リン系酸化防止剤、商品名「イルガフォス168」を使用した。
また、酸化防止剤(E)として、BASFジャパン社製フェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス1076」を使用した。
【0060】
(3)中和剤
中和剤(C)である、高級脂肪族の周期律表第II族金属塩として、日油社製ステアリン酸カルシウム、商品名「カルシウムステアレートG」を使用した。
中和剤(D)である、ハイドロタルサイト系化合物として、協和化学社製ハイドロタルサイト、商品名「DHT−4A」を使用した。
【0061】
3.実施例及び比較例
(実施例1〜8及び比較例1〜17)
(1)樹脂組成物の調整
ベースとなる前記高密度ポリエチレンパウダーに表1〜3に示した所定量の添加剤を計量し、ヘンシェルミキサーにより3分間攪拌しポリエチレンと添加剤が均質混合されるよう調整した。(表中の数字は組成物中の各添加剤の重量%を示す)
(2)ペレット化
前記で調整した添加剤入りポリエチレンパウダーをフィルム成形機に供するため、押出機を使用し以下の条件で押出造粒を行いペレットを得た。
押出機:モダンマシナリー製50mmφ(単軸)
L/D:24
スクリュー圧縮比:2.5 (3ステージフルフライトタイプ)
押出機温度設定(℃)
シリンダー1:140
シリンダー2〜シリンダー3:160
押出機ヘッド〜ダイ:140
ノズル:3mmφ(穴径)×8(穴数)
スクリーンメッシュ構成:100/120/100
押出量:22Kg/Hr
ストランド冷却:水冷(常温)
ペレット化:自社製ペレタイザー
(3)フィルム成形
前記条件で得られたペレットを以下の条件でフィルム製膜し評価試料とした。
装置:三菱重工製50mmφTダイフィルム成型装置
L/D:24 スクリュー圧縮比:2.8 (3ステージフルフライトタイプ)
Tダイ:ダイ巾300mm リップ巾1.0mm(コートハンガータイプ)
押出機温度設定(℃)
シリンダー1:180
シリンダー2〜シリンダー3:200
アダプター、ダイ1〜ダイ3:200
フィルム冷却方式:チルロール+エアナイフ
チルロール温度設定(℃):80
フィルム厚み:30μm
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
4.評価
以下、本願実施例と比較例の説明を図1及び図2に示すグラフをもとに説明する。
実施例と比較例において、酸素誘導時間(OIT)と耐変色指数(ΔYI)との関係をグラフにし、図1及び図2に示した。
図1は、実施例1〜8及び比較例1〜17の、OITとΔYIとの関係をグラフ化したものである。また、図2は、実施例1、比較例3、比較例11及び比較例13におけるOITとΔYIの値をグラフ化したものである。
比較例1〜3は、酸化防止剤の組み合わせが本願発明の(A)成分と(B)成分ではなく、(B)成分と他の酸化防止剤(E)を組み合わせた例であり、無機化合物(中和剤)として1成分(C)のみを用いた例であり、各々酸化防止剤(E)の添加量0.1重量%、0.05重量%、0.025重量%と変化させた例である。この系の樹脂組成物の結果は、図1のA1〜A3のプロットに示すように、酸化耐熱のレベルも低く、耐変色性も好ましくない。
比較例4〜6は、酸化防止剤として1種の(A)成分と、中和剤として1成分(C)のみを用いた例である。比較例1〜3に比べると、酸化耐熱と耐変色性のレベルが若干向上しているが、目的とする領域(ΔYIが10.0以下で且つOITが10.0以上)までは達していない。
比較例7〜9は酸化防止剤として1種の(A)成分と中和剤として2種の(C)成分と(D)成分を用いた例である。酸化防止剤(A)の添加量が0.05重量%、0.1重量%では酸化耐熱の目標であるOITが10.0以上を十分に満足するが、耐変色性は目標であるΔYIが10.0以下に未達であった。
比較例10〜12は、酸化防止剤として2種の(A)成分と(B)成分を併用し、中和剤として1成分(C)を用いた例である。酸化耐熱のレベルは向上しているが、耐変色性がやはり劣っていて、目的とする領域まで達していない。
比較例13〜14は、酸化防止剤として2種の(A)成分と(B)成分を併用し、中和剤として1成分(D)を用いた例である。これも酸化耐熱のレベルは向上するものの、耐変色性が劣り、(A)成分の添加量を加減しても、目的とする領域まで達してはいない。
少なくともこの3成分必須の比較例10〜12(ABC)と比較例13〜14(ABD)を見ても、本発明の(A)(B)(C)及び(D)の4成分必須の系が、下記に示すとおり顕著な効果を有することは予期し得ない。
また、比較例15〜17は、酸化防止剤として2種の(A)(B)成分、中和剤として2種の(C)(D)成分を用いているが、(A)成分の添加量が本願発明で特定する範囲より高い場合を示す例である。(A)成分を0.15重量%〜0.3重量%添加した樹脂組成物は、グラフ中に示すように、酸化耐熱の値は高いが、耐変色性(ΔYI)のレベルが高く、本発明の目的とする領域(ΔYIが10.0以下で且つOITが10.0以上)には、達することができない。
これに対し、本願発明の効果は実施例1〜8(図中B1〜B8)に示すとおりである。
また、図2は、実施例1(B1)と、比較例5(A5)、比較例11(A11)及び比較例13(A13)におけるOIT(左側)とΔYI(右側)の値をグラフ化し示した図である。なお、左側に示すOIT(酸化耐熱性)は高い方が好ましく、右側に示すΔYI(変色性)は小さい方が好ましい。
この図2から、上記4成分のうちの2成分や3成分だけの組み合わせに比べて、本願発明の4成分必須の系のものは、OITとΔYI共に、顕著に際立って良好であることが明示されている。特に、(A)+(B)+(C)成分のA11と(A)+(B)+(D)成分のA13の結果から予測される効果に比べて、本願発明の(A)+(B)+(C)+(D)の効果は特異的に良好であることが明示されている。
したがって、本願発明の(A)(B)(C)及び(D)の4成分を必須とし、かつ(A)成分の含有量を特定範囲とすることで、ΔYIが10.0以下で且つOITが10.0以上という、酸化耐熱と、耐変色性を両方とも兼ね備える新しい領域の樹脂組成物を得ることが可能となることが確認された。
【0066】
以上のとおり、表1〜3に示す結果から、実施例1〜8と比較例1〜17とを対比すると、本発明の樹脂組成物の特定事項である「熱可塑性樹脂に対し、(A)同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤、(B)リン系酸化防止剤、(C)高級脂肪族の周期律表第II族金属塩及び(D)ハイドロタルサイト系化合物の4成分を必須として含有する樹脂組成物であって、(A)成分の樹脂組成物中含有量が、0.02重量%以上0.1重量%未満である」との要件を満たさない樹脂組成物による比較例1〜17に示すものは、酸化耐熱と、耐変色性を両方とも兼ね備えるものとはならなかった。
これらの比較例に比べて、本発明による樹脂組成物は、実施例1〜8に示すとおり、酸化耐熱と、耐変色性を両方とも兼ね備えるものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂組成物及び衛生製品用合成樹脂繊維は、マスクなどの衛生用品用途に用いる極細繊維の形状としたものであっても、酸化耐熱と耐変色性の両性能に優れるものであるため、特に、酸化耐熱と同時に、耐変色性が求められる、繊維径が数デニールといった衛生用品用途に用いる極細繊維に特に好適に使用することができ、産業上大いに有用である。
図1
図2