特許第5978782号(P5978782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5978782熱硬化性接着組成物、熱硬化性接着シート及び補強フレキシブルプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978782
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】熱硬化性接着組成物、熱硬化性接着シート及び補強フレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/10 20060101AFI20160817BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160817BHJP
   C08F 8/34 20060101ALI20160817BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C09J163/10
   C09J163/00
   C09J11/06
   C09J7/02 Z
   C08F8/34
   C08G59/40
   C09J133/04
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-129390(P2012-129390)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-253163(P2013-253163A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名取 稔城
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−253162(JP,A)
【文献】 特開2011−079959(JP,A)
【文献】 特開2004−115612(JP,A)
【文献】 特開2010−260925(JP,A)
【文献】 特開平08−060117(JP,A)
【文献】 特表2013−543901(JP,A)
【文献】 特開昭58−067718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 163/10
C08F 8/34
C08G 59/40
C09J 7/02
C09J 11/06
C09J 133/04
C09J 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリル系共重合体、(B)エポキシ樹脂及び(C)エポキシ樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性接着組成物であって、
(A)アクリル系共重合体が、(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー65〜75質量%、(b)アクリロニトリルモノマー20〜35質量%、(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー3〜15質量%及び(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物0.05〜0.5質量%を反応させることによりエポキシ基が部分的に架橋しており、
(C)エポキシ樹脂用硬化剤が、平均粒子径0.5〜15μmの有機酸ジヒドラジドである熱硬化性接着組成物。
【請求項2】
(A)アクリル系共重合体におけるエポキシ基の部分架橋が、(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(b)アクリロニトリルモノマー、及び(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体のエポキシ基を、(d)チオール基含有化合物とアミン触媒で架橋したものである請求項1記載の熱硬化性接着組成物。
【請求項3】
有機酸ジヒドラジドが、アジピン酸ジヒドラジドまたは7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドである請求項1又は記載の熱硬化性接着組成物。
【請求項4】
基材フィルム上に、請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性接着組成物から形成した熱硬化性接着層が形成されてなる熱硬化性接着シート。
【請求項5】
フレキシブルプリント配線板が補強用基材で裏打ちされている補強フレキシブルプリント配線板であって、フレキシブルプリント配線板と補強用基材とが請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性接着組成物の熱硬化物で接着固定されている補強フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系共重合体、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性接着組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムからなるフレキシブルプリント配線板の端子部等をポリイミドフィルム、ガラスエポキシ板、金属板等の補強用基材で裏打ちし、その強度を高めることが行われている。ここで、フレキシブルプリント配線板のポリイミドフィルムと補強用基材との間の接着は、それらの間に設けた熱硬化性接着剤の硬化により行うことが一般的である。そして、熱硬化性接着剤としては、良好なリフロー耐熱性を得るため、カルボキシル基とエポキシ基の双方を含有するアクリル系ポリマーに、硬化成分としてレゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂を含有させた樹脂組成物(特許文献1)や、カルボキシル基を含有するアクリル系ポリマーとエポキシ基を含有するアクリル系ポリマーに、硬化成分としてレゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂を含有させた樹脂組成物(特許文献2)が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの熱硬化性接着剤は、カルボキシル基、エポキシ基、レゾール型フェノール樹脂といった3次元網目構造を形成する官能基を多数含有しているため、良好な接着性は有するが、保管中に反応が進行してしまうので、常温で数ヶ月程度保管すると接着性や耐熱性が低下するという問題がある。また、製造直後の熱硬化性接着剤を用いてフレキシブルプリント配線板を補強用基材で裏打ちした場合でも、補強用基材で裏打ちしたフレキシブルプリント配線板の保管中に、硬化した熱硬化性接着剤が吸湿することによりリフロー実装時に発泡が生じるという吸湿半田耐熱性の問題がある。
【0004】
そこで、フレキシブルプリント配線板と補強用基材との接着固定に使用する熱硬化性組成物を、(A)アクリル系共重合体と(B)エポキシ樹脂と(C)エポキシ樹脂用硬化剤とを含有するものとし、この(A)アクリル系共重合体として、(a)エポキシ基非含有アクリル系モノマーと(b)アクリロニトリルモノマーと(c)エポキシ基含有アクリル系モノマーとを共重合させたアクリル系共重合体を使用し、(C)エポキシ樹脂用硬化剤として、特定の粒子径を有する有機酸ジヒドラジド粒子を使用することが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2007−9058号公報
【特許文献2】特開平2007−9057号公報
【特許文献3】特開2011−79959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の(A)アクリル系共重合体と(B)エポキシ樹脂と(C)エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する熱硬化性組成物(特許文献3)に対して、その保管安定性を向上させると共に吸湿半田耐熱性もさらに向上させ、補強用基材で裏打ちしたフレキシブルプリント配線板を夏場などの高湿度環境で保管した後においても、リフロー実装時に発泡が生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、(A)アクリル系共重合体と(B)エポキシ樹脂と(C)エポキシ樹脂用硬化剤とを含有する熱硬化性組成物において、(A)アクリル系共重合体として、そのエポキシ基をチオール基含有化合物で部分的に架橋したものを使用すると、熱硬化性組成物の保管安定性が向上し、また、その硬化物の吸湿半田耐熱性も顕著に向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)アクリル系共重合体、(B)エポキシ樹脂及び(C)エポキシ樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性接着組成物であって、
(A)アクリル系共重合体が、(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー65〜75質量%、(b)アクリロニトリルモノマー20〜35質量%、(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー3〜15質量%及び(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物0.05〜0.5質量%を反応させることによりエポキシ基が部分的に架橋しており、
(C)エポキシ樹脂用硬化剤が、平均粒子径0.5〜15μmの有機酸ジヒドラジドである熱硬化性接着組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、基材フィルム上に、上述の熱硬化性接着組成物から形成した熱硬化性接着層が形成されてなる熱硬化性接着シートを提供し、フレキシブルプリント配線板が補強用基材で裏打ちされている補強フレキシブルプリント配線板であって、フレキシブルプリント配線板と補強用基材とが上述の熱硬化性接着組成物の熱硬化物で接着固定されている補強フレキシブルプリント配線板を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性接着組成物は、ポリイミドフィルム等で形成されたフレキシブルプリント配線板と、ポリイミドフィルム、ガラスエポキシ板、ステンレス板等の補強用基材とを高い剥離強度で良好に接着することができる。また、常温、湿度60%RHで6ヶ月という長期に亘って保管しても剥離強度の低下が10%未満であるという優れた常温保管特性を有する。したがって、熱硬化性接着組成物の保管のために冷蔵等の設備が不要となり、運搬や保管の取り扱い性が向上する。
【0011】
さらに、熱硬化性接着組成物で補強用基材をフレキシブルプリント配線板に接着固定したものを温度40℃、湿度90%RHという湿熱条件で4日間保管することにより、フレキシブルプリント配線板、補強用基材、熱硬化性接着組成物で形成した接着層のいずれをも飽和状態まで吸湿させた場合にも、リフロー実装時や半田浴に浮かべたときに発泡が生じないという優れた吸湿半田耐熱性を有する。したがって、有鉛半田リフローに比してリフロー温度が高温となる無鉛半田リフローを夏場などの高湿度下行う場合でも、実装時の耐無鉛半田リフロ−性が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱硬化性接着組成物は、(A)アクリル系共重合体、(B)エポキシ樹脂及び(C)エポキシ樹脂用硬化剤を含有する。
【0013】
ここで、(A)成分のアクリル系共重合体は、フィルム成形時に成膜性をもたせ、硬化物に可撓性質、強靭性をもたせるためのものであり、(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー65〜75質量%、(b)アクリロニトリルモノマー20〜35質量%、(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー3〜15質量%及び(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物0.05〜0.5質量%を反応させることにより、エポキシ基が部分的に架橋したものである。
【0014】
(A)成分のアクリル系共重合体を構成するモノマーのうち、(a)成分のエポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができ、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタリレート、2−エチルヘキシルメタリレート、i−ノニルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、i−ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられ、これらの一種又は複数を適宜組み合わせて使用することができる。中でもブチルアクリレート又はエチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0015】
(A)成分のアクリル系共重合体の調製時における(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの使用量は65〜75質量%、好ましくは65〜70質量%である。少なすぎると剥離強度が低下し、多すぎると耐熱性が低下する。
【0016】
一方、(b)成分のアクリロニトリルモノマーは、耐熱性の向上のために使用される。
【0017】
(A)成分のアクリル系共重合体の調製時における(b)アクリロニトリルモノマーの使用量は20〜35質量%、好ましくは25〜30質量%である。少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると溶剤に溶解し難くなり、後述するように、基材フィルム上に熱硬化性接着組成物をフィルム化して熱硬化性接着シートを製造するにあたり、熱硬化性接着組成物を溶剤に稀釈して塗工することが困難となる。
【0018】
(c)成分のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、本発明の熱硬化性接着組成物において、(B)成分のエポキシ樹脂の他に、(A)成分のアクリル系共重合体にもエポキシ基をもたせ、(C)成分のエポキシ樹脂用硬化剤と反応させ、熱硬化性接着組成物の硬化物に3次元架橋構造が形成されるようにするために使用されている。3次元架橋構造が形成されると硬化物の耐湿性及び耐熱性が向上し、例えば、熱硬化性接着組成物の硬化物による接着固定で補強用樹脂シートが裏打ちされた補強フレキシブルプリント配線板に、260℃以上での半田処理(例えば半田リフロー処理)を行った場合でも、その接着固定部に、吸湿を原因とする膨れ現象が発生することを防止することが可能となる。このような(c)成分のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、電子部品分野に適用されている従来のアクリル系熱硬化性接着剤で使用されているものから適宜選択して使用することができ、例えば、グリシジルアクリレート(GA)、グリシジルメタクリレート(GMA)等が挙げられる。中でも、安全性、市場入手容易性の点からグルシジルメタクリレート(GMA)を使用することが好ましい。
【0019】
(A)成分のアクリル系共重合体の調製時における(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの使用量は3〜15質量%、好ましく5〜9質量%である。少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると剥離強度が低下する傾向がある。
【0020】
(d)成分の1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物は、(A)成分のアクリル系共重合体において(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーのエポキシ基を部分的に架橋しておき、吸湿半田耐熱性を向上させるために使用されている。チオール基含有化合物において、1分子中のチオール基の個数が4個以上となると、常温保管性が低下するので好ましくない。これは、1分子中のチオール基が4個以上のチオール基含有化合物を使用すると、(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーのエポキシ基の架橋が過度に進み、熱硬化性接着組成物から形成した熱硬化性接着シートが硬くなりすぎるため、補強用基材と加熱密着させる際に補強用基材の濡れが不十分となることにより剥離強度が低下したり、補強用基材に対する埋め込み性が不十分となることにより気泡残りが発生したりするためである。
【0021】
(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物の具体例としては、例えば、1−ブタンジオール、ビスムチオール、2,4,6,−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン等をあげることができ、中でも、ビスムチオールが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
(A)成分のアクリル系共重合体の調製時における(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物の使用量は0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%である。少なすぎると(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーのエポキシ基を十分に架橋することができないために吸湿半田耐熱性を向上させることができず、多すぎると(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーのエポキシ基の架橋が過度に進行するので、弾性率が上がり、プレス圧着時に段差を埋め込むことができない。
【0024】
(A)成分のアクリル系共重合体は、上述した(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(b)アクリロニトリルモノマー、及び(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを共重合させ、その共重合体のエポキシ基を、(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物とアミン触媒で部分架橋させることにより得ることができる。この場合、エポキシ基の部分架橋の程度は、チオール基含有化合物の添加量に応じて決まり、好ましくは、(A)成分のアクリル系共重合体に含まれるエポキシ基の1〜15%である。
【0025】
(A)成分のアクリル系共重合体は、上述の部分架橋により残存しているエポキシ基を有するが、エポキシ基以外の官能基、例えば、−COOH、−OH、−NH2等はできる限り無いものが好ましい。
【0026】
(A)成分のアクリル系共重合体は、その分子量が小さすぎると剥離強度並びに耐熱性が低下し、大きすぎると溶液粘度が上がり、塗布性が悪化する傾向があるので、好ましくは重量平均分子量500000〜700000、より好ましくは550000〜650000とする。
【0027】
一方、(B)成分のエポキシ樹脂は、熱硬化性接着組成物が所定温度の加熱により3次元網目構造を形成して硬化し、その硬化物が良好な耐熱性と接着性を得るために使用される。
【0028】
(B)成分のエポキシ樹脂としては、電子部品分野に適用されている従来のエポキシ樹脂系熱硬化性接着剤で使用されている液状あるいは固体状のエポキシ樹脂から適宜選択して使用することができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンポリオール(ネオペンチルグリコールなど)ポリグリシジルエーテル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等が挙げられ、これらの1種又は複数を適宜組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明の熱硬化性接着組成物における(B)成分のエポキシ樹脂の使用量は、少なすぎると耐熱性が低下し、多すぎると接着性が低下する傾向があるので、(A)成分のアクリル系共重合体100質量部に対し、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部である。
【0030】
(C)成分のエポキシ樹脂用硬化剤は、(A)成分のアクリル系共重合体に含有される(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来のエポキシ基と、(B)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基の硬化剤として含有されている。本発明においては、この硬化剤として、有機酸ジヒドラジドを使用する。有機酸ジヒドラジドは常温で固体であるため、これを熱硬化性接着組成物の硬化剤とすることにより、熱硬化性接着組成物の常温保管特性を向上させることができる。
【0031】
(C)成分の有機酸ジヒドラジドとしては、従来よりエポキシ樹脂の硬化剤として使用されている有機酸ジヒドラジドの中から適宜選択して使用することができ、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、ヘキサデカンジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、アミキュアVDH、アミキュアUDH(商品名、味の素(株)製)、クエン酸トリヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でも比較的低融点であり、硬化性のバランスに優れ、入手が容易であるという点から、アジピン酸ジヒドラジドまたは7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジドを使用することが好ましい。
【0032】
また、(C)成分の有機酸ジヒドラジドとしては、平均粒子径が0.5〜15μm、好ましくは1〜5μmの粒子を使用する。有機酸ジヒドラジド粒子の平均粒子径が小さすぎると、熱硬化性接着組成物を有機溶剤で稀釈して塗工する場合に、その有機溶剤に有機酸ジヒドラジド粒子が溶解し、熱硬化性接着組成物の熱硬化物の常温保管特性が低下することが懸念される。反対に、有機酸ジヒドラジドの平均粒子径が大きすぎると、熱硬化性接着組成物の塗布性が低下し、また、(A)成分のアクリル系共重合体や(B)成分のエポキシ樹脂と十分に混合することが難しくなる。
【0033】
本発明の熱硬化性接着組成物における(C)成分の有機酸ジヒドラジドの使用量は、少なすぎると未反応のエポキシ基が残り、架橋も十分でないため、耐熱性、接着性が低下し、多すぎると過剰の硬化剤が未反応のまま残るため、耐熱性、接着性が低下する傾向があるので、(A)アクリル系共重合体及び(B)エポキシ樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは4〜20質量部、より好ましくは6〜15質量部である。
【0034】
本発明の熱硬化性接着組成物は、以上説明した成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じ、有機酸ジヒドラジドの溶解を促進させないような金属不活性剤、消泡剤、防錆剤、分散剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0035】
本発明の熱硬化性接着組成物は、(A)アクリル系共重合体、(B)エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、及び必要に応じて使用される添加剤を、常法により均一に混合することにより調製することができる。その形態としては、ペースト、フィルム、分散液状などとすることができる。中でも、保管性や使用時のハンドリング性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等の基材フィルム、あるいはこれらのフィルムに必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルムに、本発明の熱硬化性接着組成物を10〜50μmの厚さに塗工してフィルム化した熱硬化性接着シートの態様として使用することが好ましい。
【0036】
この熱硬化性接着シートは、次のように熱硬化性接着層形成用塗料調製工程及び熱硬化性接着層形成工程を経て製造することができる。
【0037】
まず、熱硬化性接着層形成用塗料調製工程では、本発明の熱硬化性接着組成物をメチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤に、調製する当該塗料の塗布方法に応じた粘度となる量で投入する。これにより、投入した熱硬化性接着組成物の構成成分である(A)アクリル系共重合体及び(B)エポキシ樹脂は有機溶剤中に溶解し、(C)有機酸ジヒドラジド(エポキシ樹脂用硬化剤)が有機溶剤中に分散した熱硬化性接着層形成用塗料を得る。この場合、室温下で全有機酸ジヒドラジド粒子の少なくとも70質量%が熱硬化性接着層形成用塗料中に固体粒子として分散していることが好ましい。熱硬化性接着シートの常温保管性を高めるためである。
【0038】
次に、熱硬化性接着層形成工程では、上述の熱硬化性接着層形成用塗料を、基材フィルム上にバーコーター、ロールコーター等により乾燥厚が10〜50μmとなるように塗布し、常法により乾燥することにより熱硬化性接着層を形成する。こうして基材フィルム上に熱硬化性接着層が形成されている熱硬化性接着シートを得ることができる。
【0039】
本発明の熱硬化性接着組成物は、電子部品分野で好ましく使用することができる。即ち、本発明の熱硬化性接着組成物から形成した熱硬化性接着層(例えば、上述の熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層)を、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、それを裏打ちするためのポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ガラスエポキシ板、ステンレス板、アルミニウム板等の厚さ50μm〜2mmの補強用基材との間に介在させ、加熱加圧し、フレキシブルプリント配線板と補強用基材とを接着固定することにより、接着強度や吸湿半田耐熱性に優れた補強フレキシブルプリント配線板を生産性よく製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0041】
実施例1〜3、比較例1〜3
(1)熱硬化性接着組成物の製造
表1に示したモノマーからなる熱硬化性接着組成物を製造した。
この場合、まず(a)エポキシ基非含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(b)アクリロニトリルモノマー、及び(c)エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーを共重合させ、得られた共重合体と(d)1分子中のチオール基が1〜3個のチオール基含有化合物と3級アミン触媒を反応させることにより(A)成分のアクリル系共重合体をえた。次に、このアクリル系共重合体に(B)成分のエポキシ樹脂及び(C)成分のエポキシ樹脂用硬化剤を加えて均一に混合し、熱硬化性接着組成物を製造した。
【0042】
(2)熱硬化性接着層形成用塗料の調製
(1)で得た熱硬化性接着組成物に希釈溶媒を加え、均一に混合して熱硬化性接着層形成用塗料を調製した。
【0043】
(3)熱硬化性接着シートの作製
基材フィルムとして剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、これに(2)で得た熱硬化性接着層形成用塗料を塗布し、100〜120℃の乾燥炉で乾燥し、35μm厚の熱硬化性接着層を形成することにより、熱硬化性接着シートを作成した。
【0044】
(4)評価
(4-1)試験片の作製
(3)で得た直後の熱硬化性接着シートを短冊(5cm×10cm)にカットし、その熱硬化性接着層を、175μm厚のポリイミドフィルム(175AH、カネカ(株)製)に80℃に設定したラミネーターで仮貼りし、次いで基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの50μm厚のポリイミドフィルム(カプトン200H、デュポン社)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持し、試験片1を得た。
【0045】
また、短冊(5cm×10cm)にカットした熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を、0.5mmのSUS304板または厚さ1mmのガラスエポキシ板に押し当てて仮貼りした後、基材フィルムを取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、短冊状の厚さ50μmのポリイミドフィルム(5cm×10cm)を上から重ね合わせ、170℃で2.0MPaの圧力で60秒間加熱加圧した後、140℃のオーブン中に60分間保持し、試験片2、3を得た。
【0046】
(4-2)剥離強度
(4-1)で得た試験片1〜3の50μm厚のポリイミドフィルムに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がすのに要した力を測定した。結果を表1に示す。剥離強度は実用上10N/cmであることが望まれている。
【0047】
(4-3)吸湿リフロー耐熱性
(4-1)で得た試験片1を140℃、90%RHの湿熱オーブン中で96時間放置した。この湿熱処理後の試験片1を、トップ温度260℃、30秒に設定したリフロー炉に通し、試験片1における発泡の有無を観察した。結果を表1に示す。表1において、「260℃Pass」は発泡が観察されなかったことを意味する。
【0048】
(4-4)吸湿半田フロート耐熱性
(4-1)で得た試験片1を所定温度に設定した半田浴の液面に1分間浮かべ、試験片1に発泡が生じない上限温度を測定した。結果を表1に示す。表1において、「260℃Pass」は260℃の半田浴で発泡が観察されなかったことを意味し、「230℃」又は「240℃」は、それぞれ発泡が観察されなかった上限の温度を意味する。
【0049】
なお、吸湿リフロー耐熱性試験のリフロー炉の温度と吸湿半田フロート耐熱性試験の半田浴の温度が同じでも、吸湿半田フロート耐熱性試験の方が直接かつ瞬間的に高熱になるため、厳しい試験となる。
【0050】
(4-5)常温保管性
(4-1)で得た試験片1を25℃で6ヶ月保管(湿度65%RH)し、保管前後の剥離強度を測定した。一般にこの差は30%未満であることが望まれているが、本発明ではさらに厳格な評価基準とし、その差が10%未満である2N/cm未満の場合を良好、2N/cm以上の場合を不良と評価した。































【0051】
【表1】





【0052】
表1の結果から、実施例1〜3の熱硬化性接着組成物は、補強用基材としてポリイミド、ステンレス、ガラスエポキシのいずれで形成されたものもポリイミドフィルムと充分な剥離強度を有し、接着性に優れ、さらに常温保管性についても6ヶ月常温保管後の剥離強度の低下が10%未満と優れ、吸湿半田耐熱性についても、吸湿半田フロート耐熱性試験という厳しい試験で優れた結果となっていることがわかる。
【0053】
これに対し、比較例1の熱硬化性接着組成物では(A)成分のアクリル系共重合体にエポキシ基が含まれないために常温保管性と吸湿半田耐熱性が劣ること、比較例2の熱硬化性接着組成物では(A)成分のアクリル系共重合体にエポキシ基が含まれているが、そのエポキシ基が架橋されていないために吸湿半田耐熱性が劣ること、比較例3の熱硬化性接着組成物では(A)成分のアクリル系共重合体にエポキシ基が含まれているが、そのエポキシ基の架橋を4官能のチオール基含有化合物で行ったために常温保管性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の熱硬化性接着組成物及び熱硬化性接着シートは、ポリイミドフィルム等の樹脂基板と、ポリイミドフィルム、ステンレス板、ガラスエポキシ板等の補強用基材とを、良好に接着でき、しかも数ヶ月という長期に亘り優れた常温保管特性を示し、さらに、吸湿半田耐熱性にも優れている。従って、ポリイミド材料を多用する電子部品分野における接着剤として有用である。