(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属部材と樹脂部材とを有する金属−樹脂複合部材が加熱過程と冷却過程からなる熱工程を通過した後の形状を、コンピューターを使用して予測するシミュレーション方法であって、
前記金属部材の機械的特性パラメーター、および前記樹脂部材が熱硬化性樹脂であるとして当該熱硬化性樹脂が硬化後の機械的特性パラメーターを前記樹脂部材の機械的特性パラメーターとして設定する段階と、
前記金属−樹脂複合部材が前記熱工程を通過する間のうち、前記樹脂部材が硬化する前までは前記樹脂部材の存在を無視して前記金属部材の計算をし、前記樹脂部材が硬化した後は前記金属部材および前記樹脂部材の両方が存在するものとして計算して、前記金属−樹脂複合部材が前記熱工程を通過した後の形状を予測する段階と、
を有することを特徴とするシミュレーション方法。
前記金属−樹脂複合部材が前記熱工程を通過した後の形状を予測する段階は、前記加熱過程の間は前記樹脂部材が硬化する前であり、前記冷却過程の間は前記樹脂部材が硬化した後であるとして、前記加熱過程の間は前記樹脂部材が存在せず前記金属部材のみであるとして計算し、前記冷却過程の間は前記金属部材および前記樹脂部材の両方が存在するものとして計算することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
前記シミュレーション方法は、有限要素法によるシミュレーションソフトウェアを用いて計算するものであって、前記金属−樹脂複合部材の形状をメッシュモデルにより設定し、
前記金属−樹脂複合部材が前記熱工程を通過した後の形状を予測する段階においては、前記樹脂部材が硬化する前は樹脂部材部分のメッシュ要素をオフにして計算し、前記樹脂部材が硬化した後は樹脂部材部分のメッシュ要素をオンにして計算することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0012】
図1は、本発明を適用した実施形態である金属−樹脂複合部材の熱工程実施後の形状を予測するシミュレーションの手順を示すフローチャートである。
【0013】
本実施形態では、コンピューターに金属−樹脂複合部材の熱工程実施後の形状を予測するシミュレーションソフトウェア(シミュレーションを実行するソフトウェアをソルバーと称している)を組み込んだ装置を用いている。ここではこのような装置をシミュレーション装置と称する。使用するシミュレーションソフトウェアは、有限要素法により部材の温度履歴に対応した形状を予測することのできるシミュレーションソフトウェアであればよく、特に限定されない。したがって、市販されているシミュレーションソフトウェアを用いることが可能である。また、コンピューターについても一般的なパソコンやワークステーションなど、上記シミュレーションソフトウェアを実行することのできるものであればよい。
【0014】
形状を予測する対象となる金属−樹脂複合部材は、金属部材の少なくとも一部に熱硬化性樹脂からなる樹脂部材が接合している部材である。
【0015】
図1を参照して、シミュレーションの手順を説明する。
【0016】
まず、操作者(シミュレーション操作をする者)が、シミュレーション装置に、シミュレーションを行うために必要な部材の機械的特性パタメーターおよび温度条件などを設定する(S1)
パタメーターの一つは、形状を予測する対象となる金属−樹脂複合部材についての機械的特性を示すパラメーター(機械的特性パラメーター)である。ここで設定する機械的特性パラメーターは、金属部材と樹脂部材のそれぞれについて、少なくともそれら部材のヤング率と線膨張係数を設定する。ヤング率と線膨張係数は、熱を加えられた部材の形状を予測するために必要なパラメーターである。ただし、樹脂部材は熱硬化性樹脂が使用されているものとして、熱硬化性樹脂が硬化した後の機械的特性(少なくともヤング率と線膨張係数)のみを設定すればよい。すなわち、熱硬化性樹脂が硬化する前の状態における機械的特性は設定しない。熱硬化性樹脂が硬化する前の状態における機械的特性を設定しない理由については後述する。
【0017】
また、そのほかに金属部材および樹脂部材(樹脂部材は硬化後の特性のみ)の機械的特性パラメーターとして、密度、ポアソン比、膨張方向、樹脂部材のみ弾性体としての伸縮方向などが設定される。
【0018】
また、このS1のステップにおいては、シミュレーションに必要な温度条件として加熱過程における昇温開始温度と昇温到達温度、冷却過程における降温開始温度と降温到達温度を設定する。ここで昇温開始温度と降温到達温度は同じであり、通常は常温(たとえば25℃)を設定する。また、昇温到達温度と降温開始温度は同じであり、熱工程における最高温度である。
【0019】
図2は熱工程における温度履歴を説明するための説明図であり、
図2(a)は、一般的な塗装工程における温度と時間の関係を示すグラフ、
図2(b)はシミュレーションにおける温度変化を説明するグラフである。
【0020】
図2(a)に示すように、一般的な塗装工程における温度履歴は、室温(a)から上昇して、所望の昇温到達温度(b)となるまで加熱される(加熱過程a−b間)。その後、塗料が十分に乾燥、硬化するまで一定時間その温度が保持される(温度保持過程b−c間)。その後、加熱を止めて温度が室温(d)に下がるのを待つことになる(冷却過程c−d間)。ここで温度保持過程b−c間は、塗料を十分に乾燥硬化させるために必要な時間である。そして、この温度保持過程b−c間で樹脂部材(熱硬化性樹脂)も硬化する。したがって、加熱過程a−b間では樹脂部材(熱硬化性樹脂)は硬化していない。このため、加熱過程a−b間から温度保持過程b−c間の途中までは、熱硬化性樹脂は粘弾性体としての特性を示していることになる。
【0021】
一方、シミュレーションにおいては、
図2(b)に示すように、室温(A)から昇温到達温度(B)までの加熱過程A−B間によって変化する形状を計算し、続けて、昇温到達温度(B)から室温(C)に下がるまでの冷却過程B−C間によって変化する形状を計算する。すなわち、シミュレーションにおいては、実際の熱工程における温度保持過程(
図2(a)のb−c間)の間における形状予測の計算は不要である。なぜならこの温度保持過程(
図2(a)のb−c間)においては、温度変化がないので部材の熱変形も起こらないためである。なお、
図2(b)において横軸はシミュレーションにおける時間経過(計算ステップ)であり実際の時間経過とは異なる。
【0022】
続いて、操作者が、シミュレーション装置に、シミュレーションを実行する際の部材形状をメッシュモデルとして設定する(S2)。この時メッシュの間隔(または部材内における節点の数)は任意であり、形状として予測したい大きさに合わせて設定すればよい。大きい部材や平面の領域が多ければ、メッシュ間隔は大きく、小さい部材や曲面、折れ曲がりなどの領域では細かく設定するなどである。
【0023】
続いて、シミュレーション装置によって樹脂部材部分が存在しないものとして加熱過程における形状を予測させる(S3)。つまり、このS3の加熱過程においては樹脂部材が存在しないものと仮定して、金属部材部分のみ加熱過程により変化した形状を予測することになる。
【0024】
これは、既に説明したように(
図2(a)参照)、熱硬化性樹脂は加熱過程の後、温度保持過程の間で硬化するものである。このため、加熱過程の間では、熱硬化性樹脂は未硬化であるとみなすことができるためである。
【0025】
樹脂部材部分が存在しないものとして扱うには、たとえば、シミュレーション装置に対して樹脂部材部分のメッシュ要素をオフにすることにより行う。なお、シミュレーションソフトウェアによって設定方法が異なる場合には、この加熱過程において樹脂部材部分の機械的特性パラメーターを無視または樹脂部材そのものが存在しないように設定すればよい。
【0026】
続いて、シミュレーション装置により樹脂部材部分が存在するものとして冷却過程における形状を予測させる(S4)。つまり、このS4の段階においては、冷却過程において金属部材と共に樹脂部材部分の形状の変化も計算するのである。このとき、金属部材と樹脂部材は、その境界面において接合しているものとして計算を始める。したがって、このS4の段階では、金属部材と樹脂部材の相互作用による形状が予測されることになる。
【0027】
これには、たとえばシミュレーション装置に対して樹脂部材部分のメッシュ要素をオンにすることにより行う。なお、シミュレーションソフトウェアによって設定方法が異なる場合には、この冷却過程において樹脂部材部分の機械的特性パラメーターを有効または樹脂部材が存在しているものとなるように設定すればよい。
【0028】
最後に、シミュレーションによって得られた最終的な部材の予測形状(熱工程通過により変化したメッシュモデル)、または変形量(熱工程前後における部材形状の変化量)を出力して(S5)、シミュレーションを終了する。
【0029】
なお、上記手順において、S1とS2はその順番が逆でもよい。S2をS1より先に行う方がむしろより有効なケースもある。また、S3とS4はあらかじめ(たとえばS3に入る前の段階において)、S3では樹脂部材部分のメッシュ要素オフ、S4では樹脂部材部分のメッシュ要素オンとなるように設定しておいて連続的に実行させるようにしてもよい。または樹脂部材部分のメッシュ要素オンによりS3を実行後、いったんシミュレーションを停止させ、その後樹脂部材部分のメッシュ要素をオンしてS4を実行するようにしてもよい。
【0031】
本実施形態では、すでに説明したシミュレーション手順からもわかるように、熱工程(加熱過程と冷却過程)における加熱過程においては樹脂部材部分が存在しないものとして扱うのである。その理由は以下のとおりである。
【0032】
自動車の車体などに使用されているパネルなどは、金属部材と構造用充填材である樹脂部材からなる。そして構造用充填材として使用されている樹脂部材は、熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤である。
【0033】
図3は、熱硬化性樹脂におけるヤング率と温度の関係を示したグラフである。
【0034】
熱硬化性樹脂は、熱が加えられて硬化する前の状態(図中硬化前)では、粘弾性体としての特性を示し、ヤング率が低い。一方、熱が加えられて硬化した後(加熱後一定時間その温度で保持された後)は、弾性体としての特性を示して、温度によらず硬化前よりも高いほぼ一定のヤング率となる。
【0035】
このような材料特性を有する熱硬化性樹脂は、硬化前の状態では加熱されても金属部材の熱膨張に伴いそのまま変形する。この変形により樹脂部材にはひずみが発生するが、時間の経過により、発生したひずみは緩和または解消する。したがって、硬化前の熱硬化性樹脂は金属部材の熱膨張を妨げることがない。このため熱硬化性樹脂が硬化する前の状態である加熱過程では、樹脂部材の存在そのものを考慮しなくても、金属部材の変形量を予測するだけで、金属−樹脂複合部材の形状を予測することができる。
【0036】
一方、硬化後の熱硬化樹脂は、硬化前よりも高いヤング率を有した弾性体となっている。このため、冷却過程では金属部材が冷えて収縮する際に樹脂部材の変形が影響することになる。そこで本実施形態では、冷却過程については樹脂部材が存在するものとして金属−樹脂複合部材の形状を予測しているのである。
【0037】
表1は、金属部材と樹脂部材においてそれぞれに設定したヤング率および線膨張係数を、どの過程で用いているかをまとめた表である。表において○印はその設定を用いていることを示し、×印は用いていないことを示している。また、表1には、金属部材として車両用鋼板におけるヤング率および線膨張係数の一例と、車両パネルの構造用充填材として用いられる熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤のヤング率および線膨張係数の一例を示した。なお、これらの値はあくまでも一例であり、車両やパネル部位(ドア、ルーフ、ボンネット、リアなど)によって非常に多くの材料が用いられている。したがって、実際のシミュレーションにおいては、使用する金属部材および樹脂部材のそれぞれの材料における機械的特性を使用することになる。
【0039】
表1のとおり、加熱過程では、金属部材はヤング率および線膨張係数ともに使用し、樹脂部材はヤング率および線膨張係数ともに使用しない(すなわち樹脂部材が存在しないものとして扱う)。一方、冷却過程では、金属部材および樹脂部材ともにヤング率および線膨張係数を使用することになる。
【0040】
(実施例)
金属−樹脂複合部材として、自動車車体のボンネットを例に、本実施形態により加熱過程で樹脂部材を無視したシミュレーション(実施例)、加熱過程および冷却過程の両方で樹脂部材が存在するものとしたシミュレーション(比較例1)を行い、それらの形状の変形量を求めた。また、実際のボンネットにおける熱工程通過前後の形状の変形量(比較例2)と比較した。ここで形状の変化量とは、熱工程前の形状から熱工程実施後の形状を引き算して求めた値である。
【0041】
実施例も比較例1も、金属部材、および樹脂部材硬化後の機械的パラメーターとして、ヤング率、線膨張係数、密度、ポアソン比を同じ値に設定し、膨張方向は等方的に膨張/収縮するものとし、樹脂部材の弾性体としての伸縮方向は等方的であるとした。また、加熱過程および冷却過程における開始温度と到達温度も同じである。
【0042】
比較例1のシミュレーションにおいては加熱過程では硬化前の樹脂部材のヤング率、線膨張係数を用いた。
【0043】
シミュレーションソフトウェア(ソルバー)はABAQUS/Standardを用いた。
【0044】
図4は、ボンネット用のパネルの形状モデルを説明する説明図であり、
図4(a)は、シミュレーションに使用するメッシュモデル、
図4(b)はパネル外形を示す斜視図である。
【0045】
図示するように、このボンネット用のパネルは、2枚の板状の金属部材1および2の間に、構造用充填材3を入れて接合している。構造用充填材3は熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤により形成されている。したがって、接着剤である熱硬化性樹脂が硬化した後には構造用充填材3が金属部材1および2と接合する。構造用充填材3は、ボンネット用のパネルのほぼ中央部の領域内において均等に配置してある。
【0046】
図5は、実施例、比較例1および2のそれぞれにおける変形量を示すグラフである。グラフに示した変形量の値は、
図4(a)において、先端部分FRと両側部分RHおよびLHとして示したそれぞれの外周端部分を均等に割り振った点で計測した値である。
【0047】
図5のグラフからわかるように、実施例(加熱過程で樹脂部材を無視したシミュレーション)の変形量と比較例2(実機)の変形量との差は、よく一致しており、その誤差が少ない。一方、比較例1(加熱過程で樹脂部材が存在するシミュレーション)の変形量と比較例2の変形量との差は、実施例と比較例2と差よりも大きくなっている。
【0048】
この結果について説明する。加熱過程における樹脂部材は、未硬化であり、粘弾性体としてふるまう。このためこの状態ではヤング率が低いので金属部材の熱膨張に伴い変形する。この変形により樹脂部材にはひずみが発生するが粘弾性体であるため時間の経過により、そのひずみが低下する。このため加熱過程終了時においては金属部材の熱膨張による変形に対して、樹脂部材の影響はほとんどないものとなる。したがって、実施例のように、加熱過程においては樹脂部材が存在しないものとして計算する方が、実際の部材の熱変形をよく再現した結果になったものと考えられる。
【0049】
一方、比較例1は弾性体としてモデル化した樹脂部材を使って加熱過程から冷却過程まですべての熱工程を通じて計算している。ここでは弾性体のヤング率は硬化前と後では異なるようにしているものの、加熱過程においては樹脂部材に発生したひずみが残った状態のまま冷却過程の計算に移ることになる。そうすると実際には加熱過程で発生したひずみが冷却過程の前までには緩和されているにもかかわらず、このひずみが緩和された現象を加味することなく計算してしまうことになる。このため実機との差が大きくなったと考えられる。
【0050】
図6は、実施例と比較例1のシミュレーション時間を示したグラフである。このグラフにおいて、縦軸はシミュレーションに要した時間であり、比較例1を1とした場合の相対値で示した。
【0051】
図6に示したように、実施例の方が比較例1よりも、シミュレーションに要する時間が約15%短くなった。
【0052】
このように、本実施例のシミュレーションでは、加熱工程において樹脂部材を無視しても、熱工程実施後の金属―樹脂複合部材の変形量を精度良く予測でき、しかも、シミュレーション時間を短くすることができた。
【0053】
次に、以上説明した本実施形態による効果を説明する。
【0054】
(1)本実施形態では、樹脂部材として熱硬化性樹脂を用いたものとして、この熱硬化性樹脂が硬化する前は熱硬化性樹脂が存在しないものとして扱い、熱硬化性樹脂が硬化した後には熱硬化性樹脂硬化後の機械的特性を用いて形状を予測している。これにより熱硬化性樹脂は硬化する前は樹脂部材部分が存在しないものとして計算できるので、加熱過程で樹脂部分が存在するものとして計算した場合よりも短時間で熱工程実施後の形状を予測することができる。
【0055】
また、粘弾性体としての特性を示す硬化前の樹脂部材の機械的特性パラメーターを設定する必要がなくなるので、より簡単に熱工程実施後の形状を予測するための設定を行うことができる。さらに樹脂部材が硬化する前においては、樹脂部材が存在しないこととした方が、実際の形状変化によく一致するようになり、形状の予測精度も向上させることができる。
【0056】
(2)本実施形態では、加熱過程と冷却過程からなる熱工程において、加熱過程の間は樹脂部材が硬化する前であり、冷却過程の間は樹脂部材が硬化した後であるとして、加熱過程の間は樹脂部材が存在せず金属部材のみであるとして計算し、冷却過程の間は金属部材および樹脂部材の両方が存在するものとして計算することとした。このため加熱過程と冷却過程のそれぞれで樹脂部材の有無を設定するだけでよいので、設定が容易になる。
【0057】
(3)本実施形態では、熱による部材の変形に影響がある機械的特性パラメーターとして少なくともヤング率と線膨張係数を設定することとした。これにより、熱工程実施後の形状を予測することができる。
【0058】
(4)本実施形態では、有限要素法によるシミュレーションソフトウェアを用いて、金属−樹脂複合部材の形状をメッシュモデルによる設定している。そして樹脂部材が硬化する前は樹脂部材部分のメッシュ要素をオフにして計算し、樹脂部材が硬化した後は樹脂部材部分のメッシュ要素をオンにして計算することとした。これにより、金属部材と樹脂部材の両方の形状をはじめにメッシュモデルと設定しておけば、あとは樹脂部材部分のメッシュ要素のオン/オフを指令だけで、加熱過程から冷却過程まで連続的にシミュレーションすることができる。
【0059】
以上、本発明を適用した実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施形態では、熱工程として、塗装工程を例に説明したが、加熱過程と冷却過程を実施する工程であれば、どのような工程であっても適用可能である。
【0061】
また、実施形態では、加熱過程の間は樹脂部材が硬化する前であり、冷却過程の間は樹脂部材が硬化した後であるとして計算したが、実際に熱硬化性樹脂が硬化するか否かにより、樹脂部材の存在を無視するか否かを決めてもよい。たとえば、加熱過程中において熱硬化性樹脂が十分に硬化してしまうような場合である。このような場合は、熱硬化性樹脂が十分に硬化したことを判断することができる加熱過程中の経過時間または温度を用いて、それ以前は、熱硬化性樹脂の存在を無視して計算し、それ以後は存在するものとして計算すればよい。
【0062】
また、実施例では、2枚の板状の金属部材の間に接着剤である熱硬化性樹脂を充填することで、熱硬化性樹脂が硬化した後は、2枚の板状の金属部材の両方に樹脂部材が接着(接合)した状態となっている。しかし、本発明は、このような2枚の板状の金属部材限らず、たとえば、1枚の板状の金属部材に、剛体バー(金属、カーボンファイバー、その他の剛体)を接着剤である熱硬化性樹脂によって貼り付けた構造でも適用可能である。あるいは、1枚の板状の金属部材の片面または両面の少なくとも一部に熱硬化性樹脂を貼り付けた構造でも適用可能である。
【0063】
また、本発明は、金属部材に樹脂部材が接合した状態だけでなく、金属部材と樹脂部材が接合していなくてもよい。たとえば、複数の金属部材の間に熱硬化性樹脂が充填されて、熱硬化性樹脂が硬化した後は、樹脂部材が金属部材と接合せずに、金属部材の間に挟まれているだけの状態となるような部材(金属部材を離すと樹脂部材が取り外せる状態)であっても、同様に熱工程実施後の変形量を予測することができる。
【0064】
より具体的には、たとえば中空の金属部材の空間内に接着性のない熱硬化性樹脂を充填する場合、あるいは複数の板状の金属部材の間隔を所定の長さに保持するための充填材などである。このような場合は、金属部材と樹脂部材は接合していないので、金属部材の収縮時に収縮する方向には樹脂部材が金属部材に対してすべるため、金属部材の収縮に樹脂部材はほとんど影響しない。しかし、金属部材と硬化後の樹脂部材とでは線膨張係数が異なるため、特に金属部材よりも硬化後の樹脂部材の線膨張係数が小さい場合、加熱過程で金属部材および樹脂部材が膨張した後、樹脂部材がその大きさで硬化すると、冷却過程では金属部材の収縮より樹脂部材の収縮が少ないことがある。そうすると、空間内で樹脂部材が金属部材を圧迫することになって、金属部材に変形が生じるおそれがある。このように金属部材と樹脂部材が接合していなくても、樹脂部材硬化後金属部材を圧迫するような形状においては、本発明を適用することで、より短時間で、熱工程実施後の形状を予測することができる。
【0065】
さらに本発明はここで説明した実施形態および実施例以外の構成であってもよく、本発明は特許請求の範囲により規定した事項によって定められる様々な変形形態が可能であることはいうまでもない。