特許第5978984号(P5978984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978984
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】予備発泡粒子及び発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/224 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   C08J9/224CET
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-282397(P2012-282397)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-125519(P2014-125519A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中岫 弘
(72)【発明者】
【氏名】浅野 一生
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231175(JP,A)
【文献】 特開2005−187715(JP,A)
【文献】 特開2007−144969(JP,A)
【文献】 特開2005−015593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル・スチレン樹脂を基材とする予備発泡粒子の表面に、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着してなり、
上記パラフィン系ワックスの付着量は、上記予備発泡粒子100質量部に対して1〜20質量部であり、
上記脂肪酸アマイドの付着量は、上記予備発泡粒子100質量部に対して2質量部以下(但し、0を除く)であることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子において、上記パラフィン系ワックスの融点が40℃〜100℃であることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子において、上記脂肪酸アマイドは、炭素数14〜24の不飽和脂肪酸アマイドであることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子において、上記脂肪酸アマイドは、エルカ酸アマイド及び/又はオレイン酸アマイドであることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子において、アクリロニトリル・スチレン樹脂中のアクリロニトリル成分の含有量が10〜50質量%であることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子において、該予備発泡粒子の平均粒子径が1.5〜6.0mmで、かつ嵩発泡倍率が5〜70倍であることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子を型内成形してなることを特徴とする発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子、及びこれらを型内成形してなる発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル・スチレン樹脂(以下、適宜「AS樹脂」という)は、ポリスチレンと比較して、耐油性、耐薬品性、耐熱性等に優れることが知られている。そこで、この特徴を活かし、ポリスチレン樹脂予備発泡粒子の成形体では使用が困難であった、耐油性、耐薬品性、耐熱性等が要求される用途にAS樹脂予備発泡粒子の成形体が使用されている。
【0003】
AS樹脂予備発泡粒子の成形加工は、ポリスチレン樹脂予備発泡粒子と同様の装置で行われる。成形加工工程においては、冷却時間が成形時間の50%以上を占めるため、冷却時間を短くすることが成形時間を短縮することになり、生産性の向上につながる。しかし、一般に、AS樹脂予備発泡粒子は、ポリスチレン樹脂予備発泡粒子と比較して発泡剤の保持性に優れ、発泡粒子中に残存する発泡剤が多くなるため、成形加工において発泡圧力が高くなり、冷却時間が長くなる傾向にある。
【0004】
冷却時間を短くする方法としては、樹脂粒子の表面にある種の添加剤を被覆する方法が提案されている。例えば、脂肪酸グリセライドを発泡性スチレン系樹脂粒子に被覆する方法(特許文献1参照)や、アセチル化モノグリセライドを発泡性AS樹脂粒子に被覆する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−127968号公報
【特許文献2】特開2002−161163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、脂肪酸グリセライドは、ポリスチレンを基材とする予備発泡粒子に被覆した場合には、十分な冷却短縮効果が得られるが、耐油性に優れるAS樹脂予備発泡粒子においては、冷却時間の短縮効果が非常に小さくなる。そのため、脂肪酸グリセライドを用いた上記従来の方法は、AS樹脂を基材とする予備発泡粒子の型内成形の冷却時間を充分に短縮化させることができない。
一方、アセチル化モノグリセライドは、AS樹脂を基材とする予備発泡粒子においても冷却時間を短縮する効果はある。しかし、アセチル化モノグリセライドを用いると、発泡性樹脂粒子の発泡時に発泡粒子同士が互着してしまうブロッキングが発生しやすくなる。ブロッキングが増大すると、発泡粒子の金型への充填性が低下し、良好な成形体が得られなくなるおそれがある。
【0007】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであって、耐ブロッキング性に優れ、型内成形における冷却時間を短縮することができると共に、融着性に優れた発泡粒子成形体を製造することができるアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子、及びその成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、アクリロニトリル・スチレン樹脂を基材とする予備発泡粒子の表面に、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着してなり、
上記パラフィン系ワックスの付着量は、上記予備発泡粒子100質量部に対して1〜20質量部であり、
上記脂肪酸アマイドの付着量は、上記予備発泡粒子100質量部に対して2質量部以下(但し、0を除く)であることを特徴とするアクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子にある(請求項1)。
【0009】
本発明の他の態様は、上記アクリロニトリル・スチレン樹脂予備発泡粒子を型内成形してなることを特徴とする発泡粒子成形体にある(請求項7)。
【発明の効果】
【0010】
上記AS樹脂予備発泡粒子においては、上記AS樹脂を基材とする予備発泡粒子の表面にパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが上記特定量で付着している。そのため、上記AS樹脂予備発泡粒子を型内成形する際に、冷却時間を短縮できる。その結果、成形時間を大幅に短縮することができ、発泡粒子成形体の生産性を向上させることができる。
【0011】
また、一般に、冷却時間をより短縮しようと冷却短縮効果のある添加剤を多量に予備発泡粒子の表面に付着させた場合には、上述のごとく発泡時のブロックングが増大し、成形型内への予備発泡粒子の充填性が低下してしまう傾向にある。
これに対し、上記予備発泡粒子においては、上記パラフィン系ワックスと共に、上記脂肪酸アマイドが予備発泡粒子の表面に特定量付着している。そのため、上記予備発泡粒子同士のブロッキングの発生を抑制することができ、上記予備発泡粒子は取扱い性に優れている。また、上記予備発泡粒子においては、型内成形時の予備発泡粒子同士の融着性を阻害することなく、予備発泡粒子が本来有する優れた融着性を発揮することができる。そのため、曲げ強さ等の機械的強度を損ねることなく、機械的強度に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。
即ち、上記予備発泡粒子においては、ブロッキングを抑制し、融着性を損ねることなく機械的強度に優れた発泡粒子成形体を得ることができ、成形時の冷却時間の短縮化を図ることができる。
【0012】
また、上記発泡粒子成形体は、上記パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが表面に特定量付着したAS樹脂予備発泡粒子を型内成形することにより製造できる。そして、上記発泡粒子成形体は、上記AS樹脂予備発泡粒子の上述の優れた融着性等をいかして、優れた機械的強度を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、上記予備発泡粒子及び上記発泡粒子成形体の好ましい実施形態について説明する。
上記予備発泡粒子は、AS樹脂を基材とする予備発泡粒子と、その表面に付着したパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドとからなる。
【0014】
AS樹脂は、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(コポリマー)であり、別名スチレンアクリロニトリルコポリマー(SAN)とも言う。
上記AS樹脂予備発泡粒子は、発泡性AS樹脂粒子を発泡させて得ることができる。その発泡倍率は、所望の物性に応じて適宜調整することができる。
【0015】
上記パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドは、上記AS樹脂予備発泡粒子の表面に付着しているだけでなく、その一部が粒子の表面付近の内部に含浸されていてもよい。
【0016】
上記AS樹脂予備発泡粒子にパラフィン系ワックスを付着させる方法としては、予備発泡時に発泡性AS樹脂粒子にパラフィン系ワックスを添加し、パラフィン系ワックスの共存下で予備発泡を行なう方法がある。また、パラフィン系ワックスを融点以上に加熱し液体状態とし、これを発泡後のAS樹脂予備発泡粒子に塗布する方法等でもよい。
【0017】
これらの方法の中でも、特に製造工程が簡便で、かつより優れた冷却短縮効果、融着性が得られるという観点から、予備発泡時にパラフィン系ワックスを添加し、パラフィン系ワックスの共存下で発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させる方法が好ましい。
【0018】
また、上記AS樹脂予備発泡粒子の表面に脂肪酸アマイドを付着させる方法としては、予め発泡性AS樹脂粒子に脂肪酸アマイドを付着させ、次いで発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させる方法がある。また、その他にも、予備発泡時に発泡性AS樹脂粒子に脂肪酸アマイドを添加し、脂肪酸アマイドの共存下で予備発泡を行なう方法がある。さらに、発泡後のAS樹脂予備発泡粒子に脂肪酸アマイドを塗布する方法等でもよい。
【0019】
これらの方法の中でも、特に製造工程が簡便で、かつより優れた冷却時間短縮効果が得られるという観点から、予め発泡性AS樹脂粒子に脂肪酸アマイドを付着させ発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させる方法や、予備発泡時に脂肪酸アマイドを添加して脂肪酸アマイドの共存下で発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させる方法が好ましい。
【0020】
上記予備発泡粒子を作製する際に、上述のように脂肪酸アマイド及びパラフィンワックスの共存下で発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させる方法を採用する場合には、発泡槽へ供給する前段階で、発泡性AS樹脂粒子と脂肪酸アマイド及びパラフィン系ワックスとを共存させた後、これらを発泡槽内に供給する方法を採用することができる。また、発泡槽内に発泡性樹脂粒子を供給した後に脂肪酸アマイド及びパラフィンワックスを同時又は別々に供給する方法を採用することもできる。なお、脂肪酸アマイドとパラフィンワックスとを別々に供給する場合には、どちらを先に供給してもよい。
【0021】
上記パラフィン系ワックスとしては、単一の種類を使用してもよいし、複数の種類を混合して使用してもよい。
上記パラフィン系ワックスの融点が低すぎると、パラフィン系ワックスのべたつきが大きくなり、その取り扱いが困難になる。一方、融点が高すぎると、パラフィン系ワックスの共存下で発泡性AS樹脂粒子を予備発泡させて上記予備発泡粒子を作製する際に、パラフィン系ワックスが溶融し難くなり、予備発泡粒子に付着させることが困難になるおそれがある。また、パラフィン系ワックスの融点が高すぎると、発泡機内でパラフィン系ワックスをAS樹脂予備発泡粒子に付着させる際に、発泡機の槽内を著しく汚染させてしまうおそれがある。したがって、パラフィン系ワックスの融点は40〜100℃であることが好ましく(請求項2)、50℃〜80℃であることがより好ましい。
【0022】
上記予備発泡粒子において、パラフィン系ワックスの付着量は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを除くAS樹脂予備発泡粒子100質量部に対して1質量部以上かつ20質量部以下である。この範囲を下回る場合には、上記予備発泡粒子の融着性が低下し、この範囲を上回る場合には、ブロッキングが増大する。同様の観点から、パラフィン系ワックスの付着量は、好ましくは5質量部以上かつ18質量部以下がよく、さらに好ましくは10質量部以上かつ18質量部以下がよい。
【0023】
また、上記脂肪酸アマイドとしては、例えばオレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、ステアリン酸アマイドなどの炭素数12〜24の脂肪酸アマイドを用いることができる。脂肪酸アマイドとしては、単一の種類を使用してもよいし、複数の種類を混合して使用してもよい。
好ましくは、上記脂肪酸アマイドは、炭素数14〜24の不飽和脂肪酸アマイドであることがよい(請求項3)。
この場合には、予備発泡粒子の融着性を損ねることなく、冷却時間の短縮効果が得られるという上述の作用効果がより顕著になる。より好ましくは、脂肪酸アマイドとしては、オレイン酸アマイド及び/又はエルカ酸アマイドがよい(請求項4)。
【0024】
上記予備発泡粒子において、脂肪酸アマイドの付着量は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを除くAS樹脂予備発泡粒子100質量部に対して2質量部以下(但し、0を除く)である。この範囲を上回る場合には、融着性が低下し、予備発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体の外観が悪くなると共に、強度が低下する。同様の観点から、脂肪酸アマイドの付着量は、好ましくは1質量部以下がよく、さらに好ましくは0.5質量部以下がよい。また、冷却時間短縮効果をより向上させるという観点から、脂肪酸アマイドの付着量は、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上がさらに好ましい。
【0025】
上記予備発泡粒子に付着しているパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量は次のようにして測定することができる。
即ち、まず、任意の量のパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着した予備発泡粒子群の重量を計測する。次いで、該予備発泡粒子群を十分量のテトラヒドロフランなどの溶媒にて溶解し、予備発泡粒子表面に付着するパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを抽出し、ガスクロマトグラフ測定によりパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量を求めることができる。
【0026】
上記AS樹脂予備発泡粒子を構成するAS樹脂のアクリロニトリル成分の含有量は10〜50質量%であることが好ましい(請求項5)。
アクリロニトリルの含有量が上記範囲内にある場合には、パラフィン系樹脂と脂肪酸アマイドとを特定量付着させることによる冷却時間短縮効果がより顕著になる。より好ましくは、アクリロニトリルの含有量は20〜35質量%であることがよい。
【0027】
上記AS樹脂予備発泡粒子は、上述のように発泡性AS樹脂粒子を発泡させて得ることができるが、発泡性AS樹脂粒子は、AS樹脂粒子に発泡剤を含浸させることにより得ることができる。上記AS樹脂粒子には、本発明の効果を損なわない限り、気泡調整剤、顔料、スリップ剤、帯電防止剤、難燃剤等の添加剤を含有させておくことができる。
【0028】
上記AS樹脂粒子は、アクリロニトリル単量体及びスチレン単量体を懸濁重合することにより製造することができる。また、上記AS樹脂粒子は、市販の樹脂ペレットを押出機で溶融混練した後、ストランドカット方式、ホットカット方式、水中カット方式等により細粒化することにより製造することができる。AS樹脂粒子の粒子径は、懸濁重合の場合には懸濁剤の添加量や攪拌動力を調整することにより適宜調整することができる。また、押出機を使用する場合には溶融混練物と吐出量とそれをカットする速度とを調整することにより適宜調整することができる。所望の粒子径が得られる方法であれば他の方法により行うこともできる。
【0029】
次に、上記予備発泡粒子においては、その平均粒子径が1.5〜6.0mmで、かつ嵩発泡倍率が5〜70倍であることが好ましい(請求項6)。
上記予備発泡粒子の平均粒径が小さすぎる場合には、ブロッキングや融着性に悪影響を及ぼすおそれがある。かかる観点から、予備発泡粒子の平均粒子径は上述のごとく1.5mm以上が好ましい。より好ましくは2.0mm以上がよい。一方、予備発泡粒子の平均粒子径が大きすぎる場合には、型内成形により上記発泡粒子成形体を作製する際に金型への充填性が悪くなる。かかる観点から、予備発泡粒子の平均粒径は上述のごとく6.0mm以下が好ましい。より好ましくは4.0mm以下がよく、さらに好ましくは3.0mm以下がよい。
上記予備発泡粒子の平均粒子径は、発泡性AS樹脂粒子の粒子径及びその発泡倍率を調整することにより制御することができる。
【0030】
また、予備発泡粒子の嵩発泡倍率が低すぎる場合には、上記予備発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体が本来有する軽量性を充分に発揮することができなくなるおそれがある。かかる観点から、予備発泡粒子の嵩倍率は上述のごとく5倍以上が好ましい。より好ましくは20倍以上がよく、さらに好ましくは30倍以上がよい。一方、予備発泡粒子の嵩発泡倍率が大きすぎる場合には、所望の機械的強度が得られなくなるおそれがある。かかる観点から、予備発泡粒子の嵩発泡倍率は上述のごとく70倍以下が好ましい。より好ましくは50倍以下がよく、さらに好ましくは40倍以下がよい。
予備発泡粒子の嵩発泡倍率は、主として発泡性樹脂粒子中の発泡剤の含有量の増減により調整することができ、発泡時の温度や時間によって微調整することができる。発泡性樹脂粒子中の発泡剤の含有量は、樹脂粒子へ含浸させる発泡剤の量や、発泡剤含浸後の熟成時間などにより調整する。
【0031】
上記パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着した予備発泡粒子の平均粒子径は、次のようにして測定することができる。
即ち、まず、温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日放置した任意の量の予備発泡粒子群(予備発泡粒子群の質量W1)を上記メスシリンダー内の水中に金網などの道具を使用して沈める。そして、金網などの道具の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる予備発泡粒子群の容積V1[L]を測定し、この容積V1をメスシリンダーに入れた予備発泡粒子の個数(N)にて割り算(V1/N)することにより、予備発泡粒子1個あたりの平均体積を算出する。そして、得られた平均体積と同じ体積を有する仮想真球の直径をもって予備発泡粒子の平均粒子径[mm]とする。
【0032】
また、上記パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着した予備発泡粒子の嵩発泡倍率は例えば次のようにして測定することができる。
即ち、まず、温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日放置した任意の量の予備発泡粒子群(予備発泡粒子群の質量W1)を金網などの道具を使用してメスシリンダー内の水中に沈める。そして、金網等の道具の体積を考慮して、水位上昇分より読みとられる予備発泡粒子群の容積V1[L]を測定し、メスシリンダーに入れた樹脂予備発泡粒子群の質量W1[g]を容積V1で割り算(W1/V1)することにより、予備発泡粒子の見掛け密度ρ1を求める。この密度ρ1を、予備発泡粒子を構成するAS樹脂の密度で除算し、さらに1.6倍することにより予備発泡粒子の嵩発泡倍率を求めることができる。
【0033】
上記パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着した予備発泡粒子を型内成形することにより発泡粒子成形体(アクリロニトリル・スチレン樹脂発泡粒子成形体)を得ることができる。即ち、上記予備発泡粒子を成形型内に充填し、加熱媒体を成形型内に導入するなどして予備発泡粒子を相互に融着させることにより上記熱予備発泡粒子成形体を得ることができる。
型内成形は、金型内に発泡粒子を充填し均一な密度分布で発泡成形品(発泡粒子成形体)を得ることができる好適な方法である。
【0034】
発泡粒子成形体を得る際の加熱媒体としては、例えば飽和蒸気、無機ガス、及びこれらの混合ガスなどを用いることができる。
また、無機ガスとしては、空気、窒素、炭酸ガス、アルゴン、ヘリウム、酸素、ネオンなどを用いることができる。経済的な観点からは無機ガスとしては空気を用いることが最も好ましい。
【0035】
上記発泡粒子成形体は、自動車の内装材、梱包材、電化製品の断熱部材等のように、耐熱性、耐油性、耐薬品性が必要な用途に用いることがよい。
【実施例】
【0036】
以下、予備発泡粒子及び発泡粒子成形体の実施例及び比較例について説明する。
(実施例1〜11)
実施例に係る予備発泡粒子は、AS樹脂を基材とする予備発泡粒子の少なくとも表面にパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着してなり、パラフィン系ワックスの付着量は、該予備発泡粒子100質量部に対して1質量部以上かつ20質量部以下であり、脂肪酸アマイドの付着量は、該予備発泡粒子100質量部に対して2質量部以下(但し、0を除く)である予備発泡粒子である。また、発泡粒子成形体は、予備発泡粒子を型内成形してなる。なお、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量は、これらのパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着した予備発泡粒子の質量からパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量分を差し引いて求めた質量100質量部に対する値である。
【0037】
本例の予備発泡粒子は、発泡性AS樹脂粒子をワックス及び脂肪酸アマイド存在下で発泡させて作製することができる。以下、その製造方法について具体的に説明する。
まず、発泡性AS樹脂粒子として、(株)JSP製の「HA300」を準備した。この発泡性AS樹脂粒子のAS樹脂を構成する単量体成分は、アクリロニトリル28質量%、及びスチレン72質量%であり、発泡性AS樹脂粒子の平均粒子径は1mmである。発泡性AS樹脂粒子の平均粒子径は、測定試料として発泡性AS樹脂粒子を用いた以外は、上述の予備発泡粒子の平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定した。なお、測定には約500ccの発泡性樹脂粒子群を用いた。
【0038】
また、パラフィン系ワックスとしては、後述の表1及び表2に示すように、日本精蝋株式会社製のパラフィンワックス「PALVAX1230」(融点65℃)、「PALVAX1330」(融点64℃)、「POLYCOTE3030」(融点75℃)を用いた。また、脂肪酸アマイドとしては、大日化学株式会社製のオレイン酸アマイド(ダイワックスOA、融点75℃)、花王株式会社製のエルカ酸アマイド(アマイドE、融点80℃)、大日化学株式会社製のステアリン酸アマイド(ダイワックスSA−200、融点100℃)を用いた。
【0039】
次に、発泡性AS樹脂粒子100質量部に対して表1及び表2に示す各配合割合でパラフィン系ワックス及び脂肪酸マイドを添加して混合した。そして、容積60Lのバッチ式発泡機により、発泡性AS樹脂粒子をパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを含まない嵩発泡倍率で40倍に発泡させ、表面にパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着した予備発泡粒子を得た。次いで、得られた予備発泡粒子をサイロ内で1日間室温放置することにより熟成させた。このようにして、実施例1〜11の11種類の予備発泡粒子を得た。
【0040】
各実施例にかかる予備発泡粒子について、作製時に使用した発泡性AS樹脂粒子、パラフィン系ワックス、及び脂肪酸アマイドの種類及び配合量を表1及び表2に示す。
各予備発泡粒子について、平均粒子径[mm]、嵩発泡倍率[倍]を上述の方法により測定した。その結果を表1及び表2に示す。なお、平均粒子径および嵩発泡倍率の測定には約500ccの予備発泡粒子群を用い、嵩発泡倍率の計算にはAS樹脂の密度として1g/cm3を採用した。さらに、表1及び表2には、参考までにパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを除いた部分の予備発泡粒子の嵩発泡倍率(嵩倍率)を示す。
【0041】
また、各予備発泡粒子について、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量を以下のようにガスクロマトグラフィにより測定した。そして、その結果をAS樹脂予備発泡粒子100質量部に対する、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量[質量部]として後述の表1及び表2に示す。
【0042】
[前処理条件]
パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着している予備発泡粒子約100mgをテトラヒドロフラン3mlで希釈し、これをガスクロマトグラフィ用試料とする。
[ガスクロマトグラフィ条件]
装置 :(株)島津製作所製のGC−2010
注入量 :1.0μL
気化室温度 :280℃
カラム :アジレント・テクノロジー(株)製のHP−5MS(30m×0.25mm×0.25μm)
カラム槽 :100℃(5min保持)から280℃まで、15℃/minで昇温
カラム流量 :He 1.0ml/min(スプリット比1/50)
検出器 :FID
【0043】
次に、各予備発泡粒子について、以下のようにして耐ブロッキング性の評価を行った。
「耐ブロッキング性」
パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドが付着した予備発泡粒子同士がサイロ内で互いに融着し、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを付着させていない予備発泡粒子に比べて流動性が著しく悪くなったものを「×」、流動性に問題がなかったものを「○」として評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0044】
次に、MDX−10VS自動成型機(日立化成工業株式会社製)を用いて各実施例の予備発泡粒子をそれぞれ成形し、発泡粒子成形体(AS樹脂発泡粒子成形体)を作製した。
具体的には、予備発泡粒子を寸法700mm×500mm×25mmの金型に充填した。そして、元圧0.08MPa(G)の蒸気を金型内に導入して15秒間加熱して予備発泡粒子を二次発泡及び融着させた。次いで、水冷を8秒行った後、発泡体圧力が0.01MPaになるまで真空冷却し、発泡粒子成形体を得た。なお、上記(G)はゲージ圧を意味する。この時の真空冷却時間を冷却時間[秒]とし、その結果を表1及び表2に示す。また、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを付着させていない予備発泡粒子を型内成形して得られた発泡粒子成形体(後述の比較例1)の冷却時間に対する各実施例の発泡粒子成形体の冷却時間の短縮率(冷却時間短縮率;%)を算出した。その結果を表1及び表2に示す。また、蒸気の元圧を0.08MPa(G)から、0.07MPa(G)、0.09MPa(G)に変更し、上記と同様の条件にてそれぞれ発泡粒子成形体を得た。
【0045】
次に、得られた発泡粒子成形体について、以下のようにして融着率、曲げ強さを測定し、さらに曲げ強さ保持率を求めた。
「融着率」
各発泡粒子成形体を長手方向(700mmの方向)の中央部(350mmの位置)付近で割り、その破断面を目視により観察した。そして、破断面における全発泡粒子数に対する、発泡粒子内部から破断した発泡粒子数の比率(百分率)を算出し、これを融着率(%)とした。なお、融着率は、成形圧(元圧)0.07MPa(G)、0.08MPa(G)、0.09MPa(G)の蒸気を用いて作製した各発泡粒子成形体について、それぞれ算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0046】
「曲げ強さ及び曲げ強さ保持率」
曲げ強さは、JIS K7221−2:2006に準拠して測定した。測定にあたっては、成形圧(元圧)0.08MPa(G)の蒸気にて作製した発泡粒子成形体から成形スキンを除去せず(25mm)に、得られた発泡粒子成形体を100×350mmにカットして試験片を作製した。支点間距離は300mm、加圧くさびの速度は20mm/min、試験温度は23℃、試験湿度は相対湿度で50%とした。
また、曲げ強さ保持率は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを用いずに倍率40倍で作製した発泡粒子成形体の曲げ強さを測定してこれを基準値とし、この基準値に対する100分率で示した。具体的には、後述の比較例1の発泡粒子成形体の曲げ強さを基準値とした。基準値に対する比較は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを含まない倍率に換算した発泡倍率が同じものを用いて行なった。発泡粒子の融着性が低下しているほど曲げ強さ保持率の値が低くなる。その結果を表1及び表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(比較例1〜10)
次に、実施例1〜11との比較用の予備発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。
比較例1は、後述の表3に示すごとく、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを用いずに作製した点を除いては、上述の実施例と同様に作製した。
【0050】
比較例2及び3は、後述の表3に示すごとく、脂肪酸アマイドを用いずにパラフィン系ワックスのみを用いて作製した点を除いては、実施例と同様にして作製した。比較例2及び3は、それぞれ互いにパラフィン系ワックスの添加量を変更して予備発泡粒子におけるパラフィン系ワックスの付着量を変えた例である。
【0051】
比較例4及び5は、後述の表3に示すごとく、パラフィン系ワックスを用いずに脂肪酸アマイドのみを用いて作製した点を除いては、実施例と同様にして作製した。比較例4及び5は、それぞれ互いに脂肪酸アマイドの種類を変更した例である。
【0052】
比較例6〜9は、後述の表4に示すごとく、実施例と同様にパラフィン系ワックスと脂肪酸アマイドの両方を用いて作製した予備発泡粒子及び発泡粒子成形体の例である。比較例6〜9は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの添加量を変更して予備発泡粒子のワックス及び脂肪酸アマイドの付着量を変えた点を除いては、実施例と同様にして作製した。比較例6及び7においては、パラフィン系ワックスの量を実施例に比べて多くし、比較例8及び9においては、脂肪酸アマイドの量を実施例に比べて多くして予備発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。
【0053】
比較例10は、後述の表4に示すごとく、発泡性AS樹脂粒子の代わりに発泡性ポリスチレン粒子(株式会社JSP製 FB250 平均粒子径0.9mm)を用いた点を除いては、実施例と同様にして予備発泡粒子を作製した例である。
【0054】
上記のようにして得られた比較例1〜9の予備発泡粒子について、AS樹脂予備発泡粒子100質量部に対するパラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの付着量[質量部]、平均粒子径[mm]、及び嵩発泡倍率[倍]を上述の実施例と同様にして測定し、さらに耐ブロッキング性を上述の実施例と同様にして評価した。その結果を表3及び4に示す。
また、比較例1〜9の発泡粒子成形体について、上述の実施例と同様にして、冷却時間[秒]を測定し、冷却時間の短縮率[%]を求めた。また、比較例1〜9の発泡粒子成形体について、曲げ強さ[kPa]を測定し、曲げ強さ保持率[%]を求めた。その結果を表3及び表4に示す。
なお、比較例10については、発泡性AS樹脂粒子が発泡途中で収縮し、所定の発泡倍率に到達させることができなかった。そのため、比較例10については、予備発泡粒子及び発泡粒子成形体に関する各種測定を行うことができなかった。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
表1及び表2より知られるごとく、パラフィン系ワックス1質量部以上かつ20質量部以下、及び脂肪酸アマイド2質量部以下(但し、0を除く)がAS樹脂発泡粒子の表面に付着した予備発泡粒子(実施例1〜11)は耐ブロッキング性に優れることがわかる。また、かかる予備発泡粒子は、成形の際の冷却時間が短いことがわかる。さらに、これらの予備発泡粒子を用いて作製した発泡粒子成形体は、発泡粒子相互の融着性に優れ、曲げ強さに優れていることがわかる。
【0058】
これに対し、表3より知られるごとく、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドの両方を付着していない比較例1、パラフィン系ワックスのみを付着した比較例2及び3は、成形の際の冷却時間が長くなった。
【0059】
また、表3より知られるごとく、脂肪酸アマイドのみを用いた比較例4及び5の予備発泡粒子を用いて作製した発泡粒子成形体は、発泡粒子相互の融着性が低下し、曲げ強さが不十分であった。
【0060】
また、表4より知られるごとく、パラフィン系ワックスの付着量が多すぎる比較例6及び7の予備発泡粒子は、耐ブロッキング性が劣っていた。
【0061】
また、表4より知られるごとく、脂肪酸アマイドの付着量が多すぎる比較例8及び9の予備発泡粒子を用いて作製した発泡粒子成形体は、発泡粒子相互の融着性が低下し、曲げ強さが不十分であった。
【0062】
また、表4より知られるごとく、発泡性ポリスチレン粒子を用いた比較例10は、パラフィン系ワックス及び脂肪酸アマイドを付着させると、予備発泡工程において、粒子が収縮し、所定の発泡倍率に到達しなかった。
【0063】
このように、本例によれば、AS樹脂を基材とする予備発泡粒子の表面にパラフィン系ワックス1質量部以上かつ20質量部以下、及び脂肪酸アマイド2質量部以下(但し、0を除く)が付着してなる予備発泡粒子は、耐ブロッキング性に優れ、取り扱い性に優れていることがわかる。さらにこれらの予備発泡粒子を用いると、成形時の冷却時間を短くすることができ、曲げ強さ等の機械的強度に優れた発泡粒子成形体を製造できることがわかる。