特許第5978999号(P5978999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5978999-二次電池 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978999
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20160817BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20160817BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20160817BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160817BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160817BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/0585
   H01M4/38 Z
   H01M4/48
   H01M4/587
   H01M4/36 E
   H01M4/36 B
   H01M4/62 Z
   H01M2/02 K
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-531737(P2012-531737)
(86)(22)【出願日】2011年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2011066201
(87)【国際公開番号】WO2012029420
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-196625(P2010-196625)
(32)【優先日】2010年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 和明
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須黒 雅博
(72)【発明者】
【氏名】志村 緑
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 洋子
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−139886(JP,A)
【文献】 特開2005−149957(JP,A)
【文献】 特開2007−311279(JP,A)
【文献】 特開2002−319431(JP,A)
【文献】 特開2002−280061(JP,A)
【文献】 特開平10−223257(JP,A)
【文献】 特開2004−014351(JP,A)
【文献】 特開2007−123097(JP,A)
【文献】 特開2007−299542(JP,A)
【文献】 特開2008−085462(JP,A)
【文献】 特開2009−224258(JP,A)
【文献】 特開2009−289557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 2/02
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液と、前記電極素子および前記電解液を内包する外装体と、を有する二次電池であって、
前記負極は、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含む負極活物質が、負極結着剤によって負極集電体と結着されてなり、
前記電解液は支持塩と電解溶媒とを含み、
前記電解溶媒は、それぞれ下記一般式(1)乃至(3)で表される亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル及びビスホスホン酸エステルから選ばれるリン酸エステル系化合物少なくとも1種を前記電解溶媒中40質量%以上含み、さらにフッ素化カーボネートを前記電解溶媒中0.1〜10質量%含むことを特徴とする二次電池。
【化1】
[R乃至Rは、それぞれ独立に、総炭素数1〜12のアルキル基、総炭素数6〜18のアリール基、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基を表す。]
【化2】
[Rは、水素原子、又は総炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、総炭素数1〜12のアルキル基、総炭素数6〜18のアリール基、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基を表す。]
【化3】
[R総炭素数1〜6のアルキレン基を表し、R乃至R11は、それぞれ独立に、総炭素数1〜12のアルキル基、総炭素数6〜18のアリール基、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基を表す。]
【請求項2】
前記フッ素化カーボネートはフッ素化環状カーボネートである請求項に記載の二次電池。
【請求項3】
前記フッ素化環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートである請求項に記載の二次電池。
【請求項4】
前記電解溶媒は、さらに、フッ素化カーボネート以外のカーボネートを含む請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解溶媒は、さらに、リン酸エステルを含む請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項6】
前記支持塩の含有量が前記電解液中0.8〜3.0Mである請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項7】
前記金属酸化物(b)の全部又は一部がアモルファス構造を有する請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項8】
前記金属酸化物(b)が前記金属(a)を構成する金属の酸化物である請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項9】
前記金属(a)がシリコンである請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項10】
前記金属(a)の全部又は一部が前記金属酸化物(b)中に分散している請求項1乃至のいずれかに記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極結着剤がポリイミド又はポリアミドイミドである請求項1乃至10のいずれかに記載の二次電池。
【請求項12】
前記電極素子が平面状の積層構造を有し、前記外装体がラミネートフィルムである請求項1乃至11のいずれかに記載の二次電池。
【請求項13】
前記外装体がアルミニウムラミネートフィルムである請求項1乃至12のいずれかに記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、二次電池に関し、特にリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、電気自動車などの急速な市場拡大に伴い、高エネルギー密度の二次電池が求められている。高エネルギー密度の二次電池を得る手段として、容量の大きな負極材料を用いる方法や、安定性に優れた非水電解液を使用する方法などが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、ケイ素の酸化物またはケイ酸塩を二次電池の負極活物質に利用することが開示されている。特許文献2には、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料粒子、リチウムと合金可能な金属粒子、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る酸化物粒子を含む活物質層を備えた二次電池用負極が開示されている。特許文献3には、ケイ素の微結晶がケイ素化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングした二次電池用負極材料が開示されている。
【0004】
特許文献4には、下記構造を有する含フッ素リン酸エステルを含む非水電解液が開示されている。
【0005】
【化1】
【0006】
(式中、Rf、RfおよびRfは同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜3の含フッ素アルキル基である。)
特許文献5には、リン酸エステル並びにビスホスホン酸エステル及び/又はホストン酸エステルを含む非水電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−325765号公報
【特許文献2】特開2003−123740号公報
【特許文献3】特開2004−47404号公報
【特許文献4】特開2008−21560号公報
【特許文献5】特開2002−280061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたケイ素の酸化物を負極活物質に利用した二次電池を45℃以上で充放電させると、充放電サイクルに伴う容量低下が著しく大きくなる場合があった。
【0009】
特許文献2に記載された二次電池用負極は、3種の成分の充放電電位の違いにより、リチウムを吸蔵、放出する際、負極全体としての体積変化を緩和させる効果がある。しかしながら、特許文献2では3種の成分の共存状態における関係や、リチウムイオン二次電池を形成する上で不可欠な結着剤、電解液、電極素子構造、および外装体について、十分に検討されていない点が見られた。
【0010】
特許文献3に記載された二次電池用負極材料も、負極全体として体積変化を緩和させる効果がある。しかしながら、特許文献3では、リチウムイオン二次電池を形成する上で不可欠な結着剤、電解液、電極素子構造、および外装体について、十分に検討されていない点が見られた。
【0011】
特許文献4及び5では、リチウムイオン二次電池を形成する上で不可欠な負極活物質、負極結着剤、電極素子構造、および外装体について、十分に検討されていない点が見られた。
【0012】
また、従来、二次電池では、難燃性を付与するために電解液にリン酸系化合物を添加することが行われているが、リン酸系化合物の含有量を増やすとサイクル特性が低下する場合がある。
【0013】
そこで、本実施形態は、難燃性及びサイクル特性に優れた高性能の二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施形態は、
正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液と、前記電極素子および前記電解液を内包する外装体と、を有する二次電池であって、
前記負極は、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含む負極活物質が、負極結着剤によって負極集電体と結着されてなり、
前記電解液は支持塩と電解溶媒とを含み、
前記電解溶媒は、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル及びビスホスホン酸エステルから選ばれるリン酸エステル系化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態に係る電解液を用いることにより、難燃性及びサイクル特性に優れた高性能の二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】積層ラミネート型の二次電池が有する電極素子の構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る二次電池は、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液とが外装体に内包されている。二次電池の形状は、円筒型、扁平捲回角型、積層角型、コイン型、扁平捲回ラミネート型および積層ラミネート型のいずれでもよいが、積層ラミネート型が好ましい。以下、積層ラミネート型の二次電池について説明する。
【0019】
図1は、積層ラミネート型の二次電池が有する電極素子の構造を示す模式的断面図である。電極素子は平面状の正極及び負極が対向配置された積層構造を有し、図1に示す電極素子は、正極cの複数および負極aの複数がセパレータbを挟みつつ交互に積み重ねられて形成されている。各正極cが有する正極集電体eは、正極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に正極端子fが溶接されている。各負極aが有する負極集電体dは、負極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に負極端子gが溶接されている。
【0020】
このような平面的な積層構造を有する電極素子は、Rの小さい部分(捲回構造の巻き芯に近い領域)がないため、捲回構造を持つ電極素子に比べて、充放電に伴う電極の体積変化に対する悪影響を受けにくいという利点がある。すなわち、体積膨張を起こしやすい活物質を用いた電極素子として有効である。
【0021】
[1]負極
負極は、負極活物質が負極用結着剤によって負極集電体に結着されてなる。
【0022】
本実施形態における負極活物質は、リチウムと合金可能な金属(a)、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物(b)、及びリチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(c)を含む。
【0023】
金属(a)としては、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金を用いることができる。特に、金属(a)としてシリコン(Si)を含むことが好ましい。
【0024】
金属酸化物(b)としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物を用いることができる。特に、金属酸化物(b)として酸化シリコンを含むことが好ましい。これは、酸化シリコンは、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。また、金属酸化物(b)に、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物(b)の電気伝導性を向上させることができる。
【0025】
炭素材料(c)としては、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物を用いることができる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる正極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
【0026】
金属酸化物(b)はその全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造の金属酸化物(b)は、炭素材料(c)や金属(a)の体積膨張を抑制することができ、リン酸エステル化合物を含むような電解液の分解を抑制することもできる。このメカニズムは明確ではないが、金属酸化物(b)がアモルファス構造であることにより、炭素材料(c)と電解液の界面への被膜形成に何らかの影響があるものと推定される。また、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないと考えられる。なお、金属酸化物(b)の全部または一部がアモルファス構造を有することは、エックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。具体的には、金属酸化物(b)がアモルファス構造を有しない場合には、金属酸化物(b)に固有のピークが観測されるが、金属酸化物(b)の全部または一部がアモルファス構造を有する場合が、金属酸化物(b)に固有ピークがブロードとなって観測される。
【0027】
金属酸化物(b)は、金属(a)を構成する金属の酸化物であることが好ましい。また、金属(a)及び金属酸化物(b)は、それぞれシリコン(Si)及び酸化シリコン(SiO)であることが好ましい。以下、金属(a)及び金属酸化物(b)としてそれぞれシリコン及び酸化シリコンを用いた場合の負極活物質をSi/SiO/C系活物質とも略す。
【0028】
金属(a)は、その全部または一部が金属酸化物(b)中に分散していることが好ましい。金属(a)の少なくとも一部を金属酸化物(b)中に分散させることで、負極全体としての体積膨張をより抑制することができ、電解液の分解も抑制することができる。なお、金属(a)の全部または一部が金属酸化物(b)中に分散していることは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM観察)とエネルギー分散型X線分光法測定(一般的なEDX測定)を併用することで確認することができる。具体的には、金属粒子(a)を含むサンプルの断面を観察し、金属酸化物(b)中に分散している金属粒子(a)の酸素濃度を測定し、金属粒子(a)を構成している金属が酸化物となっていないことを確認することができる。
【0029】
金属酸化物(b)の全部または一部がアモルファス構造であり、金属(a)の全部または一部が金属酸化物(b)中に分散しているような負極活物質は、例えば、特許文献3で開示されているような方法で作製することができる。すなわち、金属酸化物(b)をメタンガスなどの有機物ガスを含む雰囲気下でCVD処理を行うことで、金属酸化物(b)中の金属(a)がナノクラスター化し、かつ表面が炭素材料(c)で被覆された複合体を得ることができる。また、炭素材料(c)と金属(a)と金属酸化物(b)とをメカニカルミリングで混合することでも、上記負極活物質を作製することができる。
【0030】
上述のように、金属(a)、金属酸化物(b)及び炭素材料(c)の合計に対するそれぞれの金属(a)、金属酸化物(b)及び炭素材料(c)の含有量は、それぞれ、5質量%以上90質量%以下、5質量%以上90質量%以下及び2質量%以上80質量%以下であることが好ましい。また、金属(a)、金属酸化物(b)及び炭素材料(c)の合計に対するそれぞれの金属(a)、金属酸化物(b)及び炭素材料(c)の含有量は、それぞれ、20質量%以上50質量%以下、40質量%以上70質量%以下及び2質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
また、金属(a)、金属酸化物(b)及び炭素材料(c)は、特に制限するものではないが、それぞれ粒子状のものを用いることができる。例えば、金属(a)の平均粒子径は、炭素材料(c)の平均粒子径および金属酸化物(b)の平均粒子径よりも小さい構成とすることができる。このようにすれば、充放電時にともなう体積変化の小さい金属(a)が相対的に小粒径となり、体積変化の大きい炭素材料(c)や金属酸化物(b)が相対的に大粒径となるため、デンドライト生成および合金の微粉化がより効果的に抑制される。また、充放電の過程で大粒径の粒子、小粒径の粒子、大粒径の粒子の順にリチウムが吸蔵、放出されることとなり、この点からも、残留応力、残留歪みの発生が抑制される。金属(a)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0032】
また、金属酸化物(b)の平均粒子径が炭素材料(c)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましく、金属(a)の平均粒子径が金属酸化物(b)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。さらに、金属酸化物(b)の平均粒子径が炭素材料(c)の平均粒子径の1/2以下であり、かつ金属(a)の平均粒子径が金属酸化物(b)の平均粒子径の1/2以下であることがより好ましい。平均粒子径をこのような範囲に制御すれば、金属および合金相の体積膨脹の緩和効果がより有効に得ることができ、エネルギー密度、サイクル寿命と効率のバランスに優れた二次電池を得ることができる。より具体的には、シリコン酸化物(b)の平均粒子径を黒鉛(c)の平均粒子径の1/2以下とし、シリコン(a)の平均粒子径をシリコン酸化物(b)の平均粒子径の1/2以下とすることが好ましい。またより具体的には、シリコン(a)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0033】
負極用結着剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を用いることができる。これらの中でも、ポリイミドまたはポリアミドイミドが好ましい。負極結着剤としてポリイミド又はポリアミドイミドを用いることによって、負極活物質と集電体との密着性が向上し、充放電を繰り返しても集電体と負極活物質との電気的な接触が良好に保たれるため、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0034】
負極結着剤の含有量は、負極活物質と負極結着剤の総量に対して1〜30質量%の範囲であることが好ましく、2〜25質量%であることがより好ましい。1質量%以上とすることにより、活物質同士あるいは活物質と集電体との密着性が向上し、サイクル特性が良好になる。また、30質量%以下とすることにより、活物質比率が向上し、負極容量を向上することができる。
【0035】
負極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0036】
負極は、負極集電体上に、負極活物質と負極用結着剤を含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法などが挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極集電体としてもよい。
【0037】
[2]正極
正極は、例えば、正極活物質が正極用結着剤によって正極集電体を覆うように結着されてなる。
【0038】
正極活物質としては、LiMnO、LiMn(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの等が挙げられる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)またはLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。正極活物質は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものと用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。正極結着剤の含有量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質と正極結着剤の総量に対して1〜20質量%の範囲であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。
【0040】
正極集電体としては、負極集電体と同様のものを用いることができる。
【0041】
正極活物質を含む正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0042】
[3]電解液
本実施形態で用いる電解液は支持塩と電解溶媒とを含む。該電解溶媒は、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル及びビスホスホン酸エステルから選ばれるリン酸エステル系化合物を少なくとも1種含む。
【0043】
本実施形態では、前記リン酸エステル系化合物を含む電解溶媒と、上記の負極活物質とを用いることにより、難燃性及びサイクル特性に優れる二次電池を提供することができる。
【0044】
亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル及びビスホスホン酸エステルはそれぞれ下記一般式(1)乃至(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
[R乃至Rは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のシリル基を表す。]
【0047】
【化3】
【0048】
[Rは、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のシリル基を表す。]
【0049】
【化4】
【0050】
[Rはアルキレン基を表し、R乃至R11は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のシリル基を表す。]
上記一般式(1)のR乃至Rにおいて、アルキル基は、総炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、総炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、総炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましい。なお、アルキル基は、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、又は環状のアルキル基を含み、直鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。アリール基は、総炭素数6〜18のアリール基であることが好ましく、総炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましく、総炭素数6〜10のアリール基であることがさらに好ましい。また、置換若しくは無置換のシリル基は、−SiRで表され、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6の分岐しても良いアルキル基である。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(2)のRにおいて、アルキル基は、総炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、総炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、総炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0052】
上記一般式(2)のR及びRにおいて、アルキル基は、総炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、総炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、総炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましい。なお、アルキル基は、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、又は環状のアルキル基を含み、直鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。アリール基は、総炭素数6〜18のアリール基であることが好ましく、総炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましく、総炭素数6〜10のアリール基であることがさらに好ましい。また、置換若しくは無置換のシリル基は、−SiRで表され、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6の分岐しても良いアルキル基である。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基等が挙げられる。
【0053】
上記一般式(3)のRにおいて、アルキレン基は、総炭素数1〜6のアルレン基であることが好ましく、総炭素数1〜4のアルキレン基であることがより好ましく、総炭素数1〜2のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0054】
上記一般式(3)のR乃至R11において、アルキル基は、総炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、総炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、総炭素数1〜4のアルキル基であることがさらに好ましい。なお、アルキル基は、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、又は環状のアルキル基を含み、直鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。アリール基は、総炭素数6〜18のアリール基であることが好ましく、総炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましく、総炭素数6〜10のアリール基であることがさらに好ましい。また、置換若しくは無置換のシリル基は、−SiRで表され、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6の分岐しても良いアルキル基である。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基又はトリエチルシリル基等が挙げられる。
【0055】
また、アルキル基及びアリール基の置換基としては、より具体的には、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基)、ヒドロキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基)、炭素数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)、炭素数0〜6のアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基を含む)、又はハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)等が挙げられる。
【0056】
リン酸エステル系化合物の含有量は、特に制限されないが、難燃性を付与する観点から、電解溶媒中10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
電解溶媒は、リン酸エステル系化合物に加えて、さらにフッ素化カーボネートを含むことが好ましい。電解液にフッ素化カーボネートを添加することにより、サイクル特性をさらに向上することができる。フッ素化カーボネートは、鎖状及び環状のものを含み、環状のフッ素化カーボネート(以下、フッ素化環状カーボネートとも略す)であることが好ましい。
【0058】
フッ素化カーボネートの含有量は、例えば、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜8質量%の範囲であることがより好ましく、1〜5質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0059】
フッ素化環状カーボネートとしては、特に制限されないが、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートの一部をフッ素化した化合物等を用いることもできる。より具体的には、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート、以下FECとも称す)、(cis又はtrans)4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等を用いることができる。これらの中でも、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。
【0060】
鎖状のフッ素化カーボネートとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネートの一部あるいは全部の水素をフッ素に置換した化合物を用いることもできる。より具体的には、例えば、ビス(フルオロエチル)カーボネート、3−フルオロプロピルメチルカーボネート、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0061】
また、フッ素化カーボネートの添加によるサイクル特性の向上はリン酸エステル系化合物の含有量が大きい場合に顕著に現れる。つまり、本実施形態では、リン酸エステル系化合物を高い濃度で含有させ、かつフッ素化カーボネートを含有させることにより、高い難燃性を有し、かつサイクル特性に優れた電池を得ることができる。そのような観点から、電解溶媒は、フッ素化カーボネートを含む場合、リン酸エステル系化合物の含有量を20質量%以上とすることが好ましく、40質量%とすることがより好ましい。この場合、フッ素化カーボネートはフッ素化環状カーボネートであることがより好ましい。
【0062】
電解溶媒は、さらに他の非水系溶媒を含むことができる。このような非水系溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等の環状のカーボネート系化合物;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状のカーボネート系化合物;プロピレンカーボネート誘導体等のカーボネート系化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族のカルボン酸エステル類;などの非プロトン性有機溶媒が挙げられる。さらに、プロパンスルトン(PS)やブタンスルトン(BS)等も加えてもよい。また、ジエチルエーテルやジメチルエーテルなどのエーテル類や、これらのエーテルの一部の水素をフッ素化したエーテルであっても良い。このような非水系溶媒は、一種または二種以上を組み合わせて添加することができる。
【0063】
本実施形態では、電解溶媒は、さらに、フッ素化カーボネート以外のカーボネート(以下、非フッ素化カーボネートとも称す)を含むことが好ましい。非フッ素化カーボネートを用いることにより、電解液のイオン解離性が向上し、また電解液の粘度が下がる。そのため、イオン移動度を向上することができる。非フッ素化カーボネートとしては、上述のように、鎖状のものや環状のもの(非フッ素化)が挙げられる。
【0064】
また、電解溶媒は、リン酸エステル系化合物とフッ素化カーボネートと上記の非フッ素化カーボネートとを含み、リン酸エステル系化合物の含有量が40質量%以上であり、フッ素化カーボネートの含有量が0.1〜10質量%であり、残部が非フッ素化カーボネートであることが好ましい。この場合、フッ素化カーボネートはフッ素化環状カーボネートであることがより好ましい。
【0065】
また、電解溶媒は、リン酸エステルを含んでもよい。リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等が挙げられる。リン酸エステルの電解溶媒中の含有量は、例えば、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
【0066】
また、電解溶媒は、リン酸エステル系化合物とフッ素化カーボネートとリン酸エステルとを含み、リン酸エステル系化合物の含有量が40質量%以上であり、フッ素化カーボネートの含有量が0.1〜10質量%であり、残部がリン酸エステルであることが好ましい。この場合、フッ素化カーボネートはフッ素化環状カーボネートであることがより好ましい。
【0067】
電解液は、さらに支持塩を含む。支持塩としては、特に制限されるものではないが、リチウム塩が好ましい。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFSO2、LiN(C25SO等が挙げられる。これらの中でも、LiPFが好ましい。支持塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
本実施形態において、電解液中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.8M以上3M以下とすることができる。
【0069】
また、リン酸エステル系化合物の含有量が増加するにつれて、リチウム塩の濃度が高くなることが望ましい。具体的には、リン酸エステル系化合物の電解溶媒中の含有量が20%未満の場合、リチウム塩の電解液中の濃度は0.8M以上1.2M以下の範囲が好ましい。また、リン酸エステル系化合物の電解溶媒中の含有量が20%以上40%未満の場合、1.0M以上1.6M以下の範囲であることが好ましい。また、リン酸エステル系化合物の電解溶媒中の含有量が40%以上の場合、リチウム塩の電解液中の濃度は1.0M以上1.8M以下の範囲であることが好ましい。
【0070】
一方で、FEC等のフッ素化カーボネートを更に加えた場合は、リン酸エステル系化合物の電解溶媒中の含有量にかかわらず、リチウム塩の電解液中の濃度は0.8M以上1.5M以下の範囲にあることが好ましく、1.0M以上1.2M以下の範囲であることがより好ましい。
【0071】
[4]セパレータ
セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。
【0072】
[5]外装体
外装体としては、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、適宜選択することができる。例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明する。なお、実施例1〜4、8、15は参考例を示す。
【0074】
(実施例1)
金属(a)としての平均粒径5μmのシリコンと、金属酸化物(b)としての平均粒径13μmの非晶質酸化シリコン(SiO、0<x≦2)と、炭素材料(c)としての平均粒径30μmの黒鉛と、を、30:62:8の質量比で計量した。そして、これら材料をいわゆるメカニカルミリングで24時間混合して、負極活物質を得た。なお、この負極活物質において、金属(a)であるシリコンは、金属酸化物(b)である酸化シリコン(SiO、0<x≦2)中に分散している。
【0075】
上記負極活物質(平均粒径:D50=5μm)と、負極用結着剤としてのポリイミド(宇部興産株式会社製、商品名:UワニスA)とを、85:15の質量比で計量し、それらをn−メチルピロリドンと混合して、負極スラリーを調製した。負極スラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布した後に乾燥し、さらに窒素雰囲気300℃の熱処理を行うことで、負極を作製した。なお、表1において、負極結着剤の含有量(%)は、負極活物質と負極結着剤中の負極結着剤の含有量(質量%)を示す。
【0076】
正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNi0.80Co0.15Al0.152)と、導電補助材としてのカーボンブラックと、正極用結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、90:5:5の質量比で計量した。そして、これら材料をn−メチルピロリドンと混合して、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布した後に乾燥し、さらにプレスすることで、正極を作製した。
【0077】
得られた正極の3層と負極の4層を、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質フィルムを挟みつつ交互に重ねた。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接した。さらに、その溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面状の積層構造を有する電極素子を得た。
【0078】
一方、リン酸系エステル化合物としての亜リン酸トリエチルと非フッ素化カーボネートとをそれぞれ20質量部及び80質量部の割合で混合し、電解溶媒を調製した。さらに、この電解溶媒中に支持塩としてのLiPFを1M(モル/l)の濃度で溶解させて、電解液を調製した。なお、非フッ素化カーボネートとしては、EC/DEC=30/70(体積比)の混合溶媒を用いた。なお、表1において、含有量(%)は電解溶媒中の含有量(質量%)を示す。
【0079】
上記電極素子を外装体としてのアルミニウムラミネートフィルムで包み、内部に電解液を注液した後、0.1気圧まで減圧しつつ封止することで、二次電池を作製した。
【0080】
<評価>
(20℃サイクル)
作製した二次電池に対し、20℃に保った恒温槽中で、2.5Vから4.2Vの電圧範囲で充放電を繰り返す試験を行い、維持率(%)について評価した。結果を表3に示す。表3において、「維持率(%)」は、(10サイクル目の放電容量)/(2サイクル目の放電容量)(単位:%)を表す。
【0081】
(燃焼性試験)
幅3mm、長さ30mm、厚さ0.7mmのガラス繊維濾紙に、電解液を50μl浸した。ピンセットで当該濾紙の片側をもち、反対側を高さ2cmのガスバーナーの炎に近づけた。炎に2秒間近づけた後、炎から当該濾紙を遠ざけ炎の有無を目視により確認した。炎が観測され、あるいは炎が確認されたが3秒以内に炎が消えた場合を「不燃」、3秒以上炎が消えない場合を「可燃」と判断した。結果を表3に示す。
【0082】
(実施例2)
支持塩の濃度を表1で示した値とした以外は実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0083】
(実施例3)
リン酸エステル系化合物の含有量、及び非フッ素化カーボネートの含有量を表1で示した値とした以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0084】
(実施例4)
支持塩の濃度を表1で示した値とした以外は、実施例3と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0085】
(実施例5、6)
リン酸エステル系化合物の含有量、非フッ素化カーボネートの含有量を表1で示した値とし、電解溶媒にFECを2質量%の含有量で添加した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0086】
(実施例7)
リン酸エステル系化合物の含有量を表1で示した値とし、非フッ素化カーボネートを用いず、電解溶媒にFECを2質量%の含有量で添加した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0087】
(実施例8)
リン酸エステル系化合物の種類を表1に示したものとした以外は、実施例4と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0088】
(実施例9〜14)
リン酸エステル系化合物の種類を表1に示したものとした以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0089】
(実施例15)
特許文献3に記載された方法に準じて、シリコンと非晶質酸化シリコン(SiO、0<x≦2)とカーボンとを30:62:8の質量比で含む負極活物質を得た。なお、この負極活物質において、金属(a)であるシリコンは、金属酸化物(b)である非晶質酸化シリコン中に分散している。そして、この負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0090】
(実施例16)
実施例15と同じ負極活物質を用いたこと以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0091】
(実施例17)
電解溶媒として、エチルホスホン酸ジエチルとリン酸トリエチル(TEP)とFECとを表2に示した割合で混合したものを用いた以外は、実施例15と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0092】
(実施例18)
電解溶媒として、メチレンジホスホン酸テトラエチルとリン酸トリエチル(TEP)とFECとを表2に示した割合で混合したものを用いた以外は、実施例15と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0093】
(実施例19)
電解溶媒として、メチレンジホスホン酸テトラプロピルとリン酸トリエチル(TEP)とFECとを表2に示した割合で混合したものを用いた以外は、実施例15と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0094】
(実施例20)
電解溶媒として、メトキシメチルホスホン酸ジエチルとリン酸トリエチル(TEP)とFECとを表2に示した割合で混合したものを用いた以外は、実施例15と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0095】
(比較例1)
負極活物質として黒鉛を用い、非フッ素化カーボネートのみからなる電解溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0096】
(比較例2)
負極活物質として黒鉛を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0097】
(比較例3)
負極活物質として黒鉛を用いた以外は、実施例3と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0098】
(比較例4)
負極活物質として黒鉛を用いた以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0099】
(比較例5)
負極活物質として黒鉛を用いた以外は、実施例7と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0100】
(比較例6)
負極活物質として黒鉛を用いた以外は、実施例12と同様にして二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表1及び2に示されるように、負極活物質に黒鉛を用いた場合、亜リン酸トリエチルの含有量の増加に伴ってサイクル特性が大きく低下する(比較例1〜3)。一方、負極活物質にSi/SiO/C系活物質を用いた場合、サイクル特性の低下は黒鉛系活物質を用いた場合よりも維持率低下の度合いが小さい(実施例1及び3)。さらに、電解液中のリチウム塩の濃度を高くすることで、亜リン酸エステルの含有量を増やしても、サイクル維持率の低下が抑えられることを見出した(実施例2,4)。したがって、Si/SiO/C系の負極活物質とリン酸系エステル系化合物を含む非水電解液とを用いることにより、難燃性とサイクル特性に優れる二次電池を得ることができる。
【0105】
また、Si/SiO/C系活物質とリン酸系エステル系化合物を含む電解液を用いた場合、リチウム塩の濃度を高くしなくても、非水電解液にフルオロエチレンカーボネートを添加すると、サイクル特性がより良好になる(実施例5〜7)。この現象は、黒鉛を負極活物質とした場合では有効に現れず、(比較例4、5)、Si/SiO/C系活物質の場合に顕著に現れ、特にリン酸エステル系化合物の含有量を大きくした場合により顕著に現れた。この要因は、黒鉛とSi/SiO/C系活物質とでは電池内部での反応電位が異なるために電極表面上に形成される膜の組成や膜厚が変わり、Si/SiO/C系活物質の場合においてフッ素化環状カーボネートが電池特性によい影響を与えるためと推測される。また、リン酸エステル系化合物の含有量が増えた場合に特にサイクル特性が向上した要因について考察を以下に述べる。非フッ素化カーボネートが多い電解液では、充電時にフッ素化カーボネートよりも非フッ素化カーボネートが優先的に分解して被膜を形成すると考えられる。一方、リン酸エステル系化合物が多い電解液では、リン酸エステル系化合物よりもフッ素化カーボネートの分解が優先的に起き、フッ素化カーボネート由来の被膜が負極に形成されると考えられる。そして、フッ素化カーボネート由来の被膜とリン酸エステル系化合物との相互作用により、サイクル特性が向上したものと推測される。したがって、リン酸エステル系化合物を高い濃度で含有させ、かつフッ素化カーボネートを含有する電解液を用いることにより、難燃性及びサイクル特性に優れた電池を提供することが可能である。
【0106】
また、支持塩の濃度を増加させるとサイクル特性が向上する傾向が見られた(実施例1,2、4)。
【0107】
この出願は、2010年9月2日に出願された日本出願特願2010−196625を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0108】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本実施形態は、電源を必要とするあらゆる産業分野、ならびに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野にて利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車などの電動車両を含む、電車や衛星や潜水艦などの移動・輸送用媒体の電源;UPSなどのバックアップ電源;太陽光発電、風力発電などで発電した電力を貯める蓄電設備;などに、利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
a 負極
b セパレータ
c 正極
d 負極集電体
e 正極集電体
f 正極端子
g 負極端子
図1