(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリ乳酸系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含有するフィルムであって、熱可塑性樹脂(B)が、脂肪族ポリエステル系樹脂、および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%において、ポリ乳酸系樹脂(A)が20〜95質量%、熱可塑性樹脂(B)が5〜80質量%であり、フィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を有し、不連続部分の高さが50〜150μmであり、透湿度が500〜3,000g/(m2・day)であり、耐水度が200mm以上であるポリ乳酸系フィルム。
熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体及びポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂と、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂より選ばれる少なくとも1つの樹脂との組み合わせからなる請求項1または2に記載のポリ乳酸系フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明者らは、前記課題、つまり、透湿性、防水性、柔軟性、加工性に優れ、かつ、高バイオマス度である、ポリ乳酸系フィルムについて鋭意検討した結果、フィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を有し、透湿度を一定の条件内に納めることにより、かかる課題の解決に初めて成功したものである。
【0021】
すなわち本発明は、ポリ乳酸系樹脂(A)を含有するフィルムであって、フィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を有し、透湿度が500〜3,000g/(m
2・day)であるポリ乳酸系フィルムである。
【0022】
以下、本発明のポリ乳酸系フィルムについて説明する。
(ポリ乳酸系樹脂(A))
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)を含むことが重要である。
【0023】
ポリ乳酸系樹脂(A)とは、L−乳酸ユニットおよびD−乳酸ユニットから選ばれる単量体ユニットを主たる構成成分とする重合体である。ここで主たる構成成分とは、重合体の構成単位中において、乳酸ユニットの質量割合が最大であることを意味する。ポリ乳酸系樹脂(A)における乳酸ユニットの質量割合は、好ましくは重合体100質量%中において70質量%〜100質量%である。
【0024】
ポリ乳酸系樹脂としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸などが好ましく用いられる。本発明でいうポリL−乳酸とは、重合体中の全乳酸ユニット100mol%中において、L−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものをいう。一方、本発明でいうポリD−乳酸とは、重合体中の全乳酸ユニット100mol%中において、D−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものをいう。
【0025】
ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づく。逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づく。逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0026】
ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合、あるいは、ポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合は、フィルムの機械強度を維持する観点から、全乳酸ユニット100mol%中において80〜100mol%が好ましく、より好ましくは85〜100mol%である。
【0027】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)は、乳酸ユニット以外の他の単量体ユニットを共重合してもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の乳酸ユニット以外の他の単量体ユニットの共重合量は、重合体中の単量体ユニット全体100mol%中において、30mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましい。なお、上記した単量体ユニットの中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
【0028】
また、ポリ乳酸系樹脂(A)について、主成分がポリL−乳酸の場合はポリD−乳酸を、また、主成分がポリD−乳酸の場合はポリL−乳酸を、少量混合することも好ましい。これにより形成されるステレオコンプレックス結晶は、通常のポリ乳酸の結晶(α結晶)よりも融点が高いため、フィルムの耐熱性が向上するためである。
【0029】
ポリ乳酸系樹脂(A)の質量平均分子量は、実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、8万〜40万であることがより好ましく、10万〜30万であることがさらに好ましい。
【0030】
ポリ乳酸系樹脂(A)の製造方法としては、詳細は後述するが、既知の重合方法を用いることができる。具体的には、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0031】
本発明のポリ乳酸系フィルムに含まれるポリ乳酸系樹脂(A)の含有量は、特に限定されず、該フィルム中にポリ乳酸系樹脂(A)が含有されさえすれば構わない。
【0032】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)だけでなく、後述するポリ乳酸系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含有することが好ましい。そして、本発明のポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%中において、ポリ乳酸系樹脂(A)が10〜95質量%であり、熱可塑性樹脂(B)が5〜90質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明のフィルムがポリ乳酸系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含有し、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%において、ポリ乳酸系樹脂(A)を10質量%以上とすることで、耐熱性、バイオマス性に優れたフィルムとなり、またポリ乳酸系樹脂(A)を95質量%以下とすることで、柔軟性に優れたフィルムとなる。フィルム中のポリ乳酸系樹脂(A)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%中において、20〜90質量%であることがより好ましく、30〜85質量%であることがさらに好ましく、40〜80質量%であることが特に好ましい。
【0034】
また、本発明のポリ乳酸系フィルム全体に対するポリ乳酸系樹脂(A)の含有量は、5〜90質量%であることが好ましく、10〜85質量%であることがより好ましく、15〜80質量%であることがさらに好ましく、20〜75質量%であることが特に好ましい。
(エンボス加工)
本発明において、フィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を設ける方法は特に限定されないが、エンボス加工による方法であることが好ましい。エンボス加工では、エンボス部の局所延伸により、フィルム中に、多数の局所的な微細空孔が形成されること、及び/または、多数の薄膜化部分が形成されることにより、フィルム製造時の延伸工程に拠ることなく、透湿性、防水性、柔軟性、加工性を付与せしめることができる。
【0035】
上記の点で、本発明のポリ乳酸系フィルムは、多数の微細空孔が形成されているフィルム、すなわち、多孔性フィルムであることが好ましい。
【0036】
以下に、エンボス加工で使用するエンボスロールの一例について、
図1、
図2を参照しながら説明する。
【0037】
本発明で使用するエンボスロール表面の凹凸差は、50〜700μmであることが好ましい。ここでいう凹凸差とは、エンボスロール表面の高さが最も低い部分と、最も高い部分との差にあたる長さ(
図1のaに相当)である。上記凹凸差が50μm以上であることで、エンボス加工後のフィルムは、エンボス加工による凹部または凸部の不連続部分を有すこととなり、透湿性、柔軟性に優れたものとなる。また、上記凹凸差が700μm以下であることで、エンボス加工後のフィルムは、エンボス加工による凹部または凸部の不連続部分の高さを適切に制御することができ、防水性、加工性に優れたものとなる。エンボスロール表面の凹凸差は、100〜500μmであることがより好ましく、200〜400μmであることがさらに好ましい。
【0038】
本発明で使用するエンボスロール表面の凹部または凸部のピッチは、0.5〜2.0mmであることが好ましい。ここでいう凹部または凸部のピッチとは、エンボスロール表面の凹部または凸部の繰り返し長さの最も短い長さ(
図1のbに相当)である。上記凹部または凸部のピッチが0.5mm以上であることで、エンボス加工後のフィルムは、防水性、加工性に優れたものとなる。また、上記凹部または凸部のピッチが2.0mm以下であることで、エンボス加工後のフィルムは、透湿性、柔軟性に優れたものとなる。エンボスロール表面の凹部または凸部のピッチは、0.5〜1.5mmであることがより好ましく、0.5〜1.0mmであることがさらに好ましい。
【0039】
本発明で使用するエンボスロールの模様(パターン)は、特に制限は無く、四角凸柄、格子凸柄、亀甲柄、ダイヤ柄、四角錐台柄、円錐台柄、縦線柄、横線柄などが使用できるが、その圧着面積は、0.02〜0.80mm
2であることが好ましい。ここでいう圧着面積とは、エンボスロールの模様(パターン)ひとつあたりの、エンボスロール表面の高さが高い部分の面積(
図2のc×dに相当する平面の面積)である。つまり、エンボスロール表面に凸部が存在する場合には、凸部の表面の面積である。一方で、エンボスロール表面に凹部が存在する場合には、凹部以外がエンボスロール表面の高さが高い部分なので、該部分の面積である。圧着面積はより好ましくは0.04〜0.60mm
2、さらに好ましくは0.06〜0.40mm
2である。また、圧着面積率は、8〜40%であることが好ましい。ここでいう圧着面積率とは、エンボスロールの単位面積あたりの、エンボスロール表面の高さが高い部分の面積(
図2のc×dに相当する平面の面積)の割合である。つまり、エンボスロール表面に凸部が存在する場合には、凸部の表面の面積割合である。一方で、エンボスロール表面に凹部が存在する場合には、凹部以外がエンボスロール表面の高さが高い部分なので、該部分の面積割合である。圧着面積率はより好ましくは12〜30%、さらに好ましくは16〜20%である。凹凸の配置は、凹凸が縦横に並ぶ正配列でもよいし、千鳥配列でもよい。
【0040】
本発明におけるエンボス加工方法としては、エンボスロールと、ゴムロール、ペーパーロール、ウールンペーパーロールなどの弾性ロールの組み合わせのほか、エンボスロールと、その凹凸形状に対応する雌エンボスロールとの組み合わせでもよい。エンボスロールの材質は特に限定されないが、金属ロールであることが一般的である。雌エンボスロールの材質の具体例としては、エンボスロールと同様の金属ロールに加え、ゴムロールなどの弾性ロール、ペーパーロール、ウールンペーパーロールなどの弾性ロールが挙げられる。
【0041】
ここで、本発明のフィルムの製造方法は、凸部を有するロールと凹部を有するロールが雄雌を形成し、その間にフィルムを通すエンボス工程を有するフィルムの製造方法であって、前記凹部の深さが、前記凸部の高さの5〜80%であることが好ましい。その際、凸部を有するロールの材質は金属ロール、凹部を有するロールの材質はペーパーロールであることが好ましい。また、凹部の深さは、凸部の高さの25〜80%であることがより好ましく、45〜80%であることがさらに好ましい。前記凹部の深さが、前記凸部の高さの5%以上とすることで、透湿性が優れたフィルムが得られる。前記凹部の深さが、前記凸部の高さの80%以下とすることで、防水性、加工性が優れたフィルムが得られる。
(フィルム形状)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、フィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を有していることが重要である。なお、凹部または凸部の不連続部分は、エンボス加工により形成されることが好ましい態様である。ここで、凹部または凸部の不連続部分を有している、とは、フィルムの少なくとも片面の表面全体が同一面(断面方向からみて同じ高さ)にある連続状ではなく、フィルムの少なくとも片面の表面全体が凹部または凸部の存在のために同一面にないことをいう。
【0042】
以下に、本発明のポリ乳酸系フィルムの形状について、
図3を参照しながら説明する。
【0043】
本発明のポリ乳酸系フィルムの不連続部分の高さは、20〜150μmであることが好ましい。ここでいう不連続部分の高さとは、不連続部分を含む断面を観察したときの、フィルム表面の高さが最も低い部分と、最も高い部分との差にあたる長さ(
図3のeに相当)である。上記不連続部分の高さが20μm以上であることで、透湿性、柔軟性に優れたフィルムとなる。また、上記不連続部分の高さが150μm以下であることで、防水性、加工性に優れたフィルムとなる。不連続部分の高さは、50〜145μmであることがより好ましく、100〜140μmであることがさらに好ましい。不連続部分の高さを上記20〜150μmの範囲とするための方法は、例えば、前述した好ましい形状を有するエンボスロールを用い、後述する好ましいロール温度、線圧、ロール速度でエンボス加工することである。
【0044】
本発明のポリ乳酸系フィルムの不連続部分のピッチは0.5〜2.0mmであることが好ましい。ここでいう不連続部分のピッチとは、フィルムの凹部または凸部の繰り返し長さの最も短い長さ(
図3のfに相当)である。上記不連続部分のピッチが0.5μm以上であることで、防水性、加工性に優れたフィルムとなる。また、上記不連続部分の高さが2.0mm以下であることで、透湿性、柔軟性に優れたフィルムとなる。不連続部分のピッチは、0.7〜1.5mmであることがより好ましく、0.9〜1.2mmであることがさらに好ましい。不連続部分のピッチを上記範囲とするための方法は、例えば、前記した好ましい凹部または凸部のピッチを有するエンボスロールでエンボス加工することである。
【0045】
本発明のポリ乳酸系フィルムの不連続部分の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。本発明でいうフィルムの不連続部分の厚さとは、不連続部分(凹部及び凸部)のなかで最も薄い部分の厚さのことをいう(例えば、
図3のgやhに相当する部分)。上記不連続部分の厚さが5μm以上であることで、防水性、加工性に優れたフィルムとなる。また、上記不連続部分の厚さが50μm以下であることで、透湿性、柔軟性に優れたフィルムとなる。不連続部分の厚さは、8〜30μmであることがより好ましく、10〜20μmであることがさらに好ましい。不連続部分の厚さを上記範囲とするための方法は、例えば、前述した好ましい形状を有するエンボスロールを用い、また、好ましい材質、組み合わせのロールを用い、後述する好ましいロール温度、線圧、ロール速度でエンボス加工することである。
(透湿度)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、透湿度が500〜3,000g/(m
2・day)であることが重要である。本発明でいう透湿度の測定方法は、実施例の「透湿性」の項に記載した通りである。本発明においては、ポリ乳酸系樹脂(A)を含有するフィルムに、例えば、前述した好ましい形状を有するエンボスロールを用い、また、好ましい材質、組み合わせのロールを用い、後述する好ましいロール温度、線圧、ロール速度でエンボス加工することにより、透湿度を上記範囲とすることができる。透湿度がこの範囲にあることで、透湿性を必要とする用途に好ましく用いることが可能となる。
【0046】
透湿度は、1,000〜3,000g/(m
2・day)であることが好ましく、1,500〜3,000g/(m
2・day)であることがより好ましく、2,000〜3,000g/(m
2・day)であることが特に好ましい。
(ポリ乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂(B))
本発明のポリ乳酸系フィルムは、柔軟性、透湿性、防水性、加工性を向上させるために、ポリ乳酸系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(本発明において、熱可塑性樹脂(B)と呼ぶ)を含むことが好ましい。該熱可塑性樹脂(B)としては、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体、デンプンを含むポリマー、樹脂系の可塑剤などが使用できる。
【0047】
ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ(エチレンサクシネート・テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート・テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)などの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂;ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、などの脂肪族ポリエステル系樹脂が使用できる。これらの中でも、生分解性を維持する観点から、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂または脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0048】
さらに熱可塑性樹脂(B)として用いる脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂としては、柔軟性、透湿性、防水性を向上する観点から、比較的柔軟性の高い、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトンが好ましい。熱可塑性樹脂(B)として、これらの比較的柔軟性の高いポリエステルを含む場合、インフレーション製膜することで、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)が、フィルムの厚み方向に幾層にも重なった、層状アロイ構造を形成する。この層状アロイ構造がエンボス加工したフィルムの、特に防水性の発現に大きく貢献することを本発明で見出した。
【0049】
熱可塑性樹脂(B)として好適なデンプンを含むポリマーの具体例としては、ノバモント社の生分解性樹脂“マタービー”(登録商標)などが使用できる。
【0050】
熱可塑性樹脂(B)として好適な樹脂系の可塑剤の具体例としては、ポリプロピレングリコールセバシン酸エステルなどのポリエステル系可塑剤、ポリアルキレンエーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、アクリレート系可塑剤などが使用できる。かかる可塑剤の中でも、フィルム全体の生分解性を維持する観点から、樹脂系の可塑剤としては、生分解性を有することが好ましい。さらに、可塑剤の耐ブリードアウト性や、フィルムの耐熱性および耐ブロッキング性の観点から、樹脂系の可塑剤は、例えば数平均分子量1,000以上のポリエチレングリコールなど、常温(20℃±15℃)で固体状、つまり、融点が35℃を超えるものが好ましい。また、ポリ乳酸系樹脂(A)との溶融加工温度を合わせる点で、融点が150℃以下であることが好ましい。
【0051】
同様の観点から、熱可塑性樹脂(B)として好適な樹脂系の可塑剤は、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、または、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体であることがさらに好ましい。ここで、可塑化成分は、ポリエーテルセグメントおよびポリエステルセグメントとなる。ここで、ポリエステルセグメントとは、ポリ乳酸以外のポリエステルからなるセグメントを意味する。以下、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、および、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体を、総称して「ブロック共重合体可塑剤」と記す。これらブロック共重合体可塑剤について以下に説明する。
【0052】
ブロック共重合体可塑剤に含まれるポリ乳酸セグメントの質量割合は、ブロック共重合体可塑剤全体の50質量%以下であることが、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましく、5質量%以上であることが、ブリードアウト抑制の点から好ましい。好ましくは、ブロック共重合体可塑剤100質量%中において、乳酸ユニットの質量割合が5質量%〜45質量%であり、ポリエーテルセグメントやポリエステルセグメントの質量割合が55質量%〜95質量%である。
【0053】
また、ブロック共重合体可塑剤1分子中のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は1,200〜10,000であることが好ましい。ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントの数平均分子量が、1,200以上であると、熱可塑性樹脂(B)であるブロック共重合体可塑剤と樹脂(A)であるポリ乳酸系樹脂との間に十分な親和性が生じる。また、該ポリ乳酸セグメントの一部は、樹脂(A)から形成される結晶中に取り込まれ、いわゆる共晶を形成することで、熱可塑性樹脂(B)であるブロック共重合体可塑剤を樹脂(A)につなぎ止める作用を生じ、ブロック共重合体可塑剤のブリードアウト抑制に大きな効果を発揮する。その結果、フィルムの耐ブロッキング性も優れることになる。また、このブロック共重合体可塑剤は、常温で液状の可塑剤や常温で個体状であっても共晶を形成しない可塑剤と比較して透湿性に大きく優れる。これは、形成される共晶が後述するエンボス加工による空孔形成効率を向上させているためである。ブロック共重合体可塑剤中のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、1,500〜6,000であることがより好ましく、2,000〜5,000であることがさらに好ましい。なお、ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントにおいて、L−乳酸ユニットが95〜100質量%であるか、あるいはD−乳酸ユニットが95〜100質量%であることが、特にブリードアウトが抑制されるため好ましい。
【0054】
ブロック共重合体可塑剤がポリエーテルセグメントを有する場合は、ポリエーテルセグメントとしてポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有することがより好ましい。具体的には、ポリエーテルセグメントとして、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などからなるセグメントが挙げられる。特にポリエチレングリコールからなるセグメントは、ポリ乳酸系樹脂(A)との親和性が高いために改質効率に優れ、特に少量の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましい。
【0055】
また、ブロック共重合体可塑剤がポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有する場合、成形時などで加熱する際にポリアルキレンエーテルセグメントが酸化や熱分解され易い傾向があるため、後述するヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤などの酸化防止剤やリン系熱安定剤などの熱安定剤を併用することが好ましい。
【0056】
ブロック共重合体可塑剤がポリエステルセグメントを有する場合は、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオールなどの脂肪族ジオールと、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなるポリエステルなどが、ポリエステルセグメントとして好適に用いられる。
【0057】
なお、ブロック共重合体可塑剤は、その1分子中に、ポリエーテルセグメントとポリエステルセグメントの両方の成分を含有してもよいし、いずれか一方の成分のみを含有してもよい。可塑剤の生産性やコスト等の理由から、いずれか一方の成分とする場合は、より少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できる観点から、ポリエーテルセグメントを用いる方が好ましい。つまりブロック共重合体可塑剤として好ましい態様は、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体である。
【0058】
さらにまた、ブロック共重合体可塑剤の1分子中のポリエーテルセグメントやポリエステルセグメントの数平均分子量は、7,000〜20,000であることが好ましい。上記範囲とすることで、ポリ乳酸系フィルムを構成する組成物に十分な柔軟性を持たせ、なおかつ、ポリ乳酸系樹脂(A)を含む組成物とした際に溶融粘度を適度なレベルとし、インフレーション製膜法などの製膜加工性を安定させることができる。
【0059】
前記ポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントと、ポリ乳酸セグメントの各セグメントブロックの順序構成に特に制限は無いが、より効果的にブリードアウトを抑制する観点から、少なくとも1ブロックのポリ乳酸セグメントがブロック共重合体可塑剤分子の端にあることが好ましい。ポリ乳酸セグメントのブロックがブロック共重合体可塑剤分子の両端にあることが最も好ましい。
【0060】
このブロック共重合体可塑剤は、ポリ乳酸系樹脂(A)を柔軟化することでフィルム全体の柔軟性の発現、また、フィルムの透湿性、防水性の発現に寄与する。
【0061】
次に、ポリエーテルセグメントとして、両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(以下ポリエチレングリコールをPEGとする)を採用したブロック共重合体可塑剤について具体的に説明する。
【0062】
両末端に水酸基末端を有するPEGの数平均分子量(以下、PEGの数平均分子量をM
PEGとする)は、通常、市販品などの場合、中和法などにより求めた水酸基価から計算される。両末端に水酸基末端を有するPEGのw
E質量部に対し、ラクチドw
L質量部を添加した系において、PEGの両水酸基末端にラクチドを開環付加重合させ十分に反応させると、実質的にPLA−PEG−PLA型のブロック共重合体を得ることができる(ここでPLAはポリ乳酸を示す)。この反応は、必要に応じてオクチル酸錫などの触媒併存下でおこなわれる。このブロック共重合体可塑剤の一つのポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、(1/2)×(w
L/w
E)×M
PEGと求めることができる。また、ポリ乳酸セグメント成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w
L/(w
L+w
E)%と求めることができる。さらに、ポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑剤成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w
E/(w
L+w
E)%と求めることができる。
【0063】
なお、フィルムからブロック共重合体可塑剤を分離して、ブロック共重合体可塑剤中の各セグメントの数平均分子量の評価をする場合は、以下のようにして行うことができる。フィルムから、ブロック共重合体可塑剤を分離する方法としては、例えばクロロホルムなどの適当な良溶媒にフィルムを均一溶解した後、水や水/メタノール混合溶液など適当な貧溶媒に滴下する。ろ過などにより沈殿物を除去し、ろ液の溶媒を揮発させることによりブロック共重合体可塑剤を得る。こうして分離されたブロック共重合体可塑剤について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(以後Mとする)を測定する。また、
1H−NMR測定により、ポリ乳酸セグメント、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを特定する。そして、ブロック共重合体が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量は、M×{1/(1分子中のポリ乳酸セグメントの数)}×(I
PLA×72)/[(I
PE×UM
PE/N
PE)+(I
PLA×72)]により算出される。ここで、I
PLAは、PLA主鎖部のメチン基の水素に由来する
1H−NMR測定でのシグナル積分強度、I
PEはポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントに由来する
1H−NMR測定でのシグナル積分強度をしめす。また、UM
PEは、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントのモノマー単位の分子量、N
PEはポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントのうち、I
PEに相当する
1H−NMR測定でのシグナルを与える化学的に等価なプロトンの数である。また、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントの数平均分子量は、M−(ポリ乳酸セグメントの数平均分子量)×(1分子中のポリ乳酸セグメントの数)で計算できる。
【0064】
なお、エンボス加工を施すフィルムには、通常は可塑剤を含有しない。それは、エンボス加工時の圧着により、可塑剤がブリードアウトしやすく、フィルムの物性が変化してしまうことに加え、ブリードアウトした可塑剤がエンボスロールを汚してしまうからである。本発明では、可塑剤として、樹脂系の可塑剤を用いることで上記の問題点の解決を図ることができたものである。また、樹脂系の可塑剤のなかでも、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、または、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体を用いることが好ましいことを見出した。
【0065】
熱可塑性樹脂(B)を含有することによる、柔軟性と透湿性以外の効果としては、樹脂の種類によるが、例えば、溶融粘度および溶融張力が向上することによる、インフレーション製膜法におけるバブル形成の安定化が挙げられる。また、熱可塑性樹脂(B)としてポリ(メタ)アクリレートを含有する場合は、ポリ乳酸系フィルムの高温剛性向上、ポリエステルを含有する場合は、ポリ乳酸系フィルムの耐衝撃性および靭性向上、デンプンを含むポリマーを含有する場合は、ポリ乳酸系フィルムの生分解性促進などが挙げられる。
【0066】
本発明のポリ乳酸系フィルムに含まれる熱可塑性樹脂(B)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%中において、5〜90質量%であることが好ましい。5質量%以上とすることで、柔軟性に優れたフィルムとなる。90質量%以下とすることで、耐熱性に優れたフィルムとなる。熱可塑性樹脂(B)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%中において、10〜80質量%であることがより好ましく、15〜70質量%であることがさらに好ましく、20〜60質量%であることが特に好ましい。
(熱可塑性樹脂(B)の組み合わせ)
本発明のポリ乳酸系フィルムには、前述の熱可塑性樹脂(B)の1種のみを含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。組み合わせる樹脂には特に制限はなく、熱可塑性樹脂(B)として前述したポリ乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂群から選ばれた樹脂をそれぞれ組み合わせることができる。その中でも、柔軟性と透湿性を両立させる点から、樹脂系の可塑剤と、樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂との組み合わせが好ましい。特に、熱可塑性樹脂(B)として、樹脂系の可塑剤と、樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂とを組み合わせた際に、透湿性と防水性が飛躍的に向上することを見出した。
【0067】
樹脂系の可塑剤の中では、耐熱性、透湿性、耐ブロッキング性および耐ブリードアウト性の観点から、前述したブロック共重合体可塑剤、つまり、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、または、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体が好ましい。より好ましくは、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体である。
【0068】
樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂の中では、生分解性の観点から、前述した脂肪族ポリエステル系樹脂や脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂が好ましい。それらの中でも、柔軟性、防水性の観点からは、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトンから選ばれた樹脂がより好ましい。
【0069】
つまり熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、脂肪族ポリエステル系樹脂、および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂が好ましい。さらに、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体およびポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂(樹脂系の可塑剤)と、脂肪族ポリエステル系樹脂および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂より選ばれる少なくとも1つの樹脂(樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂)との組み合わせからなることが、透湿性向上の観点からより好ましい。
【0070】
本発明では、前記組み合わせの組成のフィルムに、エンボス加工などによりフィルムの少なくとも片面に、凹部または凸部の不連続部分を設けた場合、ブロック共重合体により柔軟化したポリ乳酸系樹脂(A)の透湿性、防水性の発現効果と、層状アロイ構造による防水性の発現効果との相乗効果により、透湿性と防水性の両立が非常に高いレベルで達成することができることを見出した。
【0071】
熱可塑性樹脂(B)が、樹脂系の可塑剤と、樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂との組み合わせである場合、その配合質量比は、(樹脂系の可塑剤/樹脂系の可塑剤以外の熱可塑性樹脂)=(5/95)〜(95/5)であることが好ましく、(10/90)〜(80/20)であることがより好ましく、(20/80)〜(60/40)であることがさらに好ましい。
(結晶性ポリ乳酸系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂の混合)
本発明のポリ乳酸系フィルムに含有されるポリ乳酸系樹脂(A)は、結晶性ポリ乳酸系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂の混合物であることが好ましい。混合物とすることにより、結晶性および、非晶性、それぞれのポリ乳酸系樹脂の利点を両立できるからである。
【0072】
なお、結晶性ポリ乳酸系樹脂とは、該ポリ乳酸系樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量計(DSC)にて測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する融点が観測されるポリ乳酸系樹脂のことをいう。一方で非晶性ポリ乳酸系樹脂とは、同様の測定を行った際に、明確な融点を示さないポリ乳酸系樹脂のことをいう。
【0073】
結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有は、フィルムの耐熱性および耐ブロッキング性向上に好適である。また、樹脂(B)として前述のブロック共重合体可塑剤を用いる場合、結晶性ポリ乳酸系樹脂はブロック共重合体可塑剤が有するポリ乳酸セグメントと共晶を形成することで、耐ブリードアウト性に大きな効果を発揮する。
【0074】
一方、非晶性ポリ乳酸系樹脂の含有は、フィルムの柔軟性および耐ブリードアウト性の向上に好適である。これは、フィルムに非晶性ポリ乳酸系樹脂が含有されることにより非晶部分が提供され、そこに可塑剤が分散しやすくなることが影響している。
【0075】
結晶性ポリ乳酸系樹脂は、耐熱性および耐ブロッキング性向上の観点から、ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合、あるいは、ポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が全乳酸ユニット100mol%中において96〜100mol%が好ましく、より好ましくは98〜100mol%である。
【0076】
結晶性ポリ乳酸系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂の混合物を用いる場合、結晶性ポリ乳酸系樹脂と非晶性ポリ乳酸系樹脂の合計を100質量%としたとき、結晶性ポリ乳酸系樹脂の含有量は5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。
(充填剤(C))
本発明のポリ乳酸系フィルムは、透湿性を向上させるために、充填剤(C)を含むことが好ましい。充填剤(C)としては、無機充填剤および/または有機充填剤が使用できる。
【0077】
充填剤とは、諸性質を改善するために基材として加えられる物質、あるいは増量、増容、製品のコスト低減などを目的として添加する不活性物質をいう。
【0078】
無機充填剤の例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;酸化亜鉛、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、アルミナなどの金属酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;珪酸塩鉱物、ヒドロキシアパタイト、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイト、ゼオライト等の複合酸化物;リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸塩;塩化リチウム、フッ化リチウム等の金属塩などを使用することができる。
【0079】
これらのなかでも、フィルムの透湿性向上や強度、伸度といった機械特性の維持、および低コスト化の観点から、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイトが好ましい。
【0080】
充填剤(C)の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜10μmが好ましい。平均粒径が0.01μm以上であることで、フィルム中に高充填することが可能となり、その結果、フィルムの多孔化および透湿性向上のポテンシャルが高いフィルムとなる。平均粒径が10μm以下であることで、フィルムのエンボス加工性、つまり、局所延伸性が良好となり、その結果、フィルムの多孔化および透湿性向上のポテンシャルが高いフィルムとなる。平均粒径は、より好ましくは0.1〜8μm、さらに好ましくは0.5〜5μm、最も好ましくは1〜3μmである。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱式の方法で測定される累積分布50%平均粒子径とする。
【0081】
充填剤(C)は、必要に応じて、表面処理することができる。表面処理を行うための表面処理剤としては、リン酸エステル系化合物、脂肪酸、界面活性剤、油脂、ワックス、カルボン酸系カップリング剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、高分子系表面処理剤などを使用することができる。これらの中でも、リン酸エステル系化合物、脂肪酸、高分子系表面処理剤、界面活性剤、シランカップリング剤、およびチタネートカップリング剤から選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。リン酸エステル系化合物および脂肪酸から選ばれる化合物がより好ましい。表面処理することにより、マトリックス樹脂との親和性が向上し、充填剤の凝集抑制および分散性向上に効果があり、樹脂組成物中に均一に分散させることができるようになる。その結果、良好な透湿度を発現するための延伸などの加工性に優れたフィルムを得ることが可能となる。
【0082】
また、充填剤(C)の樹脂組成物中での分散性を向上させるため、さらに分散剤を添加することが好ましい。
【0083】
フィルム中の充填剤(C)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましい。フィルム中の充填剤(C)の含有量を、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して1質量部以上とすることで、透湿性に優れたフィルムとなる。また、フィルム中の充填剤(C)の含有量を、ポリ乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して200質量部以下とすることで、フィルムの引張強度および引張伸度を維持して加工性に優れたフィルムとなり、フィルムを製造する際の溶融加工性、エンボス加工性、つまり、局所延伸性などが良好なものとなる。充填剤(C)の配合量は、樹脂(A)と樹脂(B)の合計100質量部に対して、3〜150質量部であることがより好ましく、5〜100質量部であることがさらに好ましく、25〜70質量部であることが特に好ましい。
【0084】
特に本発明では、前記した層状アロイ構造を形成しうる組成中に充填剤(C)を含む場合、エンボス加工時に、この充填剤(C)が起点となり、層状アロイの界面剥離を誘発し、透湿性を大きく向上できることを見出した。
(引張伸度)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、長さ方向および幅方向(長さ方向と垂直な方向)の引張伸度が、いずれも50〜300%であることが好ましい。引張伸度は本発明のポリ乳酸系フィルムを様々な用途に適用する際の加工性に関する指標となり、引張伸度が大きいほど加工性が良好となる。引張伸度が300%以下であると製造時にロール間走行時や巻き取り時のタルミやシワが生じにくく、ロール巻姿や巻出し性が良好となる。長さ方向および幅方向の引張伸度は、100〜290%がより好ましく、150〜280%がさらに好ましい。長さ方向および幅方向の引張伸度をいずれも50〜300%とするための方法としては、例えば、前記した好ましい種類、含有量の各原料を配合した樹脂組成物からなるフィルムを、前記した好ましい形状を有するエンボスロールを用い、前記した好ましいロール温度、線圧でエンボス加工することが挙げられる。
(引張弾性率)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、十分な柔軟性を付与するために、長さ方向および幅方向それぞれの引張弾性率が200〜1,500MPaであることが好ましい。引張弾性率は柔軟性に関する指標となり、引張弾性率が小さいほど柔軟性が良好となる。引張弾性率が200MPa以上であると製造時にロール間走行時や巻き取り時のタルミやシワが生じにくく、ロール巻姿や巻出し性が良好となる。引張弾性率は、250〜1,200MPaであることがより好ましく、280〜1,000MPaであることがさらに好ましく、300〜900MPaであることが特に好ましい。長さ方向および幅方向それぞれの引張弾性率を200〜1,500MPaとするための方法としては、例えば、前記した好ましい種類、含有量の各原料を配合した樹脂組成物からなるフィルムを、前記した好ましい形状を有するエンボスロールを用い、前記した好ましいロール温度、線圧でエンボス加工することが挙げられる。
(厚み)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、フィルム厚みが5〜200μmであることが好ましい。フィルム厚みを5μm以上とすることで、フィルムとした際のコシが強くなり、取り扱い性に優れ、また、ロール巻姿や巻出し性が良好となる。フィルム厚みを200μm以下とすることで柔軟性および透湿性に優れるものとなり、また、特にインフレーション製膜法においては、自重によりバブルが不安定化しない。フィルム厚みは、7〜150μmがより好ましく、10〜100μmがさらに好ましく、12〜50μmがさらにより好ましい。
(添加剤)
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で前述した以外の添加剤を含有してもよい。例えば、公知の可塑剤、酸化防止剤、結晶核剤、有機滑剤、紫外線安定化剤、末端封鎖剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、粘着性付与剤、消泡剤、着色顔料、染料などが使用できる。
【0085】
有機滑剤としては、脂肪酸アミド系の化合物が好ましく使用できる。
【0086】
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤など好ましく使用できる。
【0087】
末端封鎖剤としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が好ましく使用できる。
(乳酸オリゴマー成分量)
本発明のポリ乳酸系フィルムは、フィルム中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.3質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。フィルム中に含まれる乳酸オリゴマー成分量を0.3質量%以下とすることで、フィルム中に残留している乳酸オリゴマー成分が粉末状あるいは液状として析出することによるハンドリング性の悪化を抑制したり、ポリ乳酸系樹脂の加水分解進行を抑制してフィルムの耐経時性劣化を防止したり、さらには、ポリ乳酸特有の臭気を抑制することができる。ここでいう乳酸オリゴマー成分とは、フィルム中に存在する乳酸や乳酸の線状オリゴマーや環状オリゴマーなどの中で量的に最も代表的である乳酸の環状二量体(ラクチド)、すなわちLL−ラクチド、DD−ラクチド、およびDL(メソ)−ラクチドである。乳酸オリゴマー成分量を0.3質量%以下とする方法は後述する。
(製造方法)
次に、本発明のポリ乳酸系フィルムを製造する方法について具体的に説明するがこれに限定されるものではない。
【0088】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂(A)は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸を用いる。前述した乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。さらにジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0089】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を有機溶媒、特に好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0090】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによって高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後にリン系化合物を添加して触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0091】
本発明のポリ乳酸系フィルムを構成する組成物、つまり、ポリ乳酸系樹脂(A)や、必要に応じ、熱可塑性樹脂(B)、充填剤(C)およびその他の成分を含有する組成物を得るにあたっては、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法が、溶媒への原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要であるので好ましい。溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0092】
溶融混練時の温度は150℃〜240℃の範囲が好ましく、ポリ乳酸系樹脂の劣化を防ぐ意味から、190℃〜210℃の範囲がより好ましい。
【0093】
本発明のポリ乳酸系フィルムは、例えば上記した方法により得られた組成物を用いて、公知のインフレーション法、チューブラー法、Tダイキャスト法などの既存の製膜方法と、エンボス加工を組み合わせることにより得ることができる。
【0094】
本発明のポリ乳酸系フィルムを製膜するにあたっては、例えば前述した方法により得られたポリ乳酸系樹脂を含有する組成物を一旦ペレット化し、再度溶融混練して押出・製膜する際には、ペレットを60〜100℃にて6時間以上乾燥するなどして、水分量を500ppm(質量基準)以下とした組成物を用いることが好ましい。さらに、真空度10torr以下の高真空下で真空乾燥をすることで、該組成物中のラクチド含有量を低減させることが好ましい。該組成物の水分量を500ppm(質量基準)以下、ラクチド含有量を低減することで、溶融混練中のポリ乳酸系樹脂の加水分解を防ぎ、それにより分子量低下を防ぐことができ、得られる組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、製膜工程を安定させることができるため好ましい。また、同様の観点から、組成物を一旦ペレット化、あるいは溶融押出・製膜する際には、ベント孔付きの2軸押出機を使用し、水分や低分子量物などの揮発物を除去しながら溶融押出することが好ましい。
【0095】
本発明のポリ乳酸系フィルムをインフレーション法により製膜する方法を以下に例示する。
【0096】
前述のような方法により製造した組成物を真空ベント孔付き2軸押出機にて溶融押出して環状ダイスに導き、環状ダイスから押出して内部には乾燥エアーを供給して風船状(バブル)に形成する。さらにエアーリングにより均一に空冷固化させ、ニップロールでフラットに折りたたみながら所定の引き取り速度で引き取った後、必要に応じて両端、または片方の端を切り開いて巻き取ることで、エンボス加工前のフィルムを得ることができる。良好な透湿性を発現させるためには環状ダイスの温度が重要であり、環状ダイスの温度は好ましくは150〜190℃、より好ましくは155〜185℃の範囲である。環状ダイスは、得られるフィルムの厚み精度および均一性の点から、回転式、かつ、スパイラル型を用いるのが良い。また、フィルムに成形した後に、印刷性、ラミネート適性、コーティング適性などを向上させる目的で、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などの表面処理を施しても良い
続いて、エンボス加工する方法を以下に例示する。
【0097】
前述のような方法により製膜したフィルムを、エンボスロールとゴムロールもしくはペーパーロールなどの間を通してエンボス加工を施し、目的とするポリ乳酸系フィルムを得る。このとき、ロール温度は20〜80℃が好ましく、ニップ圧力(線圧)は20〜100kg/cmが好ましく、ロール回転速度は0.5〜30m/minが好ましい。エンボス加工は通常1度だけ行うが、必要に応じ2度以上行ってもよい。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)引張弾性率(MPa)
(株)オリエンテック製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて、引張弾性率を測定した。具体的には、測定方向に長さ150mm、幅10mmの短冊状にサンプルを切り出し、初期引張チャック間距離50mm、引張速度200mm/minで、JIS K 7127 (1999)に規定された方法にしたがって、長さ方向、幅方向それぞれについて10回の測定を行い、その平均値を引張弾性率とした。
(2)引張伸度(%)
(株)オリエンテック製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて、引張伸度を測定した。具体的には、測定方向に長さ150mm、幅10mmの短冊状にサンプルを切り出し、初期引張チャック間距離50mm、引張速度200mm/minで、JIS K 7127 (1999)に規定された方法にしたがって、長さ方向、幅方向それぞれについて10回の測定を行い、その平均値を引張伸度とした。
(3)透湿性
25℃、90%RHに設定した恒温恒湿装置にて、JIS Z 0208 (1976)に規定された方法に従って透湿度(g/(m
2・day))の測定を3回行い、その平均値を用いて、以下の基準にて評価した。
【0099】
AA:2,000g/(m
2・day)以上
A:1,500g/(m
2・day)以上2,000g/(m
2・day)未満
B:1,000g/(m
2・day)以上1,500g/(m
2・day)未満
C:500g/(m
2・day)以上1,000g/(m
2・day)未満
D:500g/(m
2・day)未満。
(4)耐水性
JIS L 1092 (2009)に規定された方法に従って、耐水度試験(静水圧法;A法(低水圧法))を行った。このとき、水準装置の水位上昇速度は600mm/min±30mm/minとした。この耐水度(mm)の測定を3回行い、その平均値を用いて、以下の基準にて評価した。
【0100】
AA:400mm以上
A:300mm以上400mm未満
B:200mm以上300mm未満
C:100mm以上200mm未満
D:100mm未満
(5)質量平均分子量、数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにWATERS社MODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP-806MとShodex GPC HFIP-LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
(6)不連続部分の高さ
フィルムサンプルを、ウルトラミクロトームを用い、フィルム面を真上から見た際に凹部または凸部の形状の重心を通る断面が観察面となるように、−100℃で超薄切片を採取した。このフィルム断面の薄膜切片を、走査型電子顕微鏡を用いて、フィルム表面の高さが最も低い部分と、最も高い部分との差にあたる長さが確認できる倍率(例えば200倍)で断面写真を撮影し、不連続部分の高さを測定した。これを、観察する凹部または凸部を変えて5箇所で行い、得られた値の平均値を、本発明における、不連続部分の高さ(μm)とした。
【0101】
以下に、実施例で使用した材料について説明する。
[ポリ乳酸系樹脂(A)]
(A1)
結晶性ポリL−乳酸樹脂、質量平均分子量=200,000、D体含有量=1.4%、融点=166℃
(A2)
結晶性ポリL−乳酸樹脂、質量平均分子量=200,000、D体含有量=5.0%、融点=150℃、
(A3)
非晶性ポリL−乳酸樹脂、質量平均分子量=200,000、D体含有量=12.0%、融点=無し
上記の融点は、ポリ乳酸樹脂を100℃の熱風オーブン中で24時間加熱させた後に、セイコーインスツル社製示差走査熱量計RDC220を用い、試料5mgをアルミニウム製受皿にセットし、25℃から昇温速度20℃/minで250℃まで昇温した際の結晶融解ピークのピーク温度として求めた。
[ポリ乳酸系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)]
(B1)
ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂(BASF社製、商品名“エコフレックス”(登録商標)FBX7011)
(B2)
ポリブチレンサクシネート系樹脂(三菱化学(株)製、商品名“GSPla”(登録商標)AZ91T)
(B3)
ポリブチレンサクシネート・アジペート系樹脂(昭和高分子(株)製、商品名“ビオノーレ”(登録商標)#3001)
(B4)
数平均分子量8,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.05質量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で、窒素雰囲気下160℃で3時間重合することで、数平均分子量8,000のポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,500のポリL−乳酸セグメントを有するブロック共重合体可塑剤B4を得た。
[可塑剤(P)]
(P1)
アセチルクエン酸トリブチル、ファイザー(株)製、商品名“シトロフレックス”(登録商標)A−4)。
[充填剤(C)]
(C1)
炭酸カルシウム(三共精粉(株)製、商品名“トップフロー”(登録商標)H200、平均粒子径:1.7μm)
[金属製エンボスロール]
(I) 模様:正四角錐台柄、正配列、凹凸差:0.1mm、ピッチ:1.0mm、圧着面積:0.16mm
2、圧着面積率:16%、凹凸断面の角度θ:18°
(II) 模様:正四角錐台柄、正配列、凹凸差:0.3mm、ピッチ:1.0mm、圧着面積:0.09mm
2、圧着面積率:9%、凹凸断面の角度θ:18°
(III) 模様:正四角錐台柄、正配列、凹凸差:0.5mm、ピッチ:1.0mm、圧着面積:0.04mm
2、圧着面積率:4%、凹凸断面の角度θ:18°
(IV) 模様:正四角錐台柄、正配列、凹凸差:0.3mm、ピッチ:1.0mm、圧着面積:0.16mm
2、圧着面積率:16%、凹凸断面の角度θ:18°
(V) 模様:正四角錐台柄、正配列、凹凸差:0.3mm、ピッチ:0.5mm、圧着面積:0.04mm
2、圧着面積率:16%、凹凸断面の角度θ:18°
[ポリ乳酸系フィルムの作製]
(比較例1)
ポリ乳酸樹脂(A1)20質量部、ポリ乳酸樹脂(A3)50質量部、可塑剤(P1)30質量部の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し、均質化した後にペレット化して組成物を得た。
【0102】
この組成物のペレットを、回転式ドラム型真空乾燥機を用いて、温度60℃で12時間真空乾燥した。
【0103】
この乾燥した組成物のペレットを、シリンダー温度180℃の単軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度160℃の回転式スパイラル型環状ダイスより、ブロー比2.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれワインダーにて巻き取り、最終厚みが20μmのフィルムを得た。このとき、ドロー比は27であった。得られたフィルムの物性を表1に示した。
(
参考例1)
フィルムの組成を表1のように変更した以外は、比較例1と同様にして厚さ20μmのフィルムを得た。
【0104】
次いで、上記フィルムを、由利ロール(株)製電気加熱式エンボス機HTEM−300型にセットした、エンボスロール(II)(上段)と、硬度D−90の超硬質ゴムロール(下段)の間を、ロール温度50℃(上段、下段両方)、ニップ圧力(線圧)50kg/cm、ロール回転速度1.0m/minの条件で通すことで、エンボス加工した。フィルムの物性を表1に示した。
(実施例
1〜
18、参考例2〜6、比較例2〜3)
フィルムの組成と、エンボス加工条件を表1〜4のように変更した以外は、
参考例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1〜4に示した。
(比較例4)
フィルムの組成を表3のように変更した以外は、比較例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表3に示した。
(実施例
19)
フィルムの組成を表4のように変更した以外は、比較例1と同様にして厚さ20μmのフィルムを得た。
【0105】
次いで、上記フィルムを、由利ロール社製電気加熱式エンボス機HTEM−300型にセットした、エンボスロール(V)(上段)と、エンボスロール(V)と雄雌を形成する凹み部を有し、その凹み部の深さがエンボスロール(V)の凸部の高さの25%であるペーパーロール(下段)の間を、ロール温度50℃(上段、下段両方)、ニップ圧力(線圧)50kg/cm、ロール回転速度1.0m/minの条件で通すことで、エンボス加工した。フィルムの物性を表4に示した。
(実施例
20)
ペーパーロール(下段)の凹み部の深さがエンボスロール(V)の凸部の高さの45%であるものに変更した以外は、実施例
19と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表4に示した。
(実施例
21)
ペーパーロール(下段)の凹み部の深さがエンボスロール(V)の凸部の高さの80%であるものに変更した以外は、実施例
19と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表4に示した。
(比較例5)
ペーパーロール(下段)の凹み部の深さがエンボスロール(V)の凸部の高さの100%であるものに変更した以外は、実施例
19と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表4に示した。
(実施例
22〜
23、参考例7、比較例6)
フィルムの組成と、エンボス加工条件を表4のように変更した以外は、実施例
21と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表4に示した。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
なお、
参考例1、2では、得られたフィルムから可塑剤のブリードアウトが観測され、また、加工後のエンボスロールにはブリードアウトした可塑剤が付着していた。
【0111】
その他の実施例
および参考例では上記のような問題は起こらなかった。
【0112】
また、
参考例1、実施例
8、比較例1、比較例4以外の実施例、比較例
および参考例について、前記(6)項に記載の方法で断面観察を行ったところ、多数の微細空孔が形成されているフィルム、すなわち、多孔性フィルムであった。