(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979011
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】車両用収納構造
(51)【国際特許分類】
B60R 7/06 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
B60R7/06 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-1949(P2013-1949)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-133460(P2014-133460A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 勇輝
【審査官】
高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−196731(JP,A)
【文献】
特開2009−101985(JP,A)
【文献】
特開平10−119653(JP,A)
【文献】
特開平11−028958(JP,A)
【文献】
特開平10−203250(JP,A)
【文献】
特開2006−315593(JP,A)
【文献】
特開2011−105224(JP,A)
【文献】
特開2007−331427(JP,A)
【文献】
実開昭51−158038(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員と対向する位置に開口部を有するインストルメントパネル、および該開口部の奥に設置される収納部材を含む車両用収納構造であって、
前記収納部材は、乗員側が開口した箱形状を有し、該箱形状は、底面部、車幅方向両側の側壁部、前記乗員から遠い奥壁部、および天面部を含み、
前記収納部材は、
前記奥壁部と前記天面部との間に設けられ該天面部の開閉を可能にするヒンジ部と、
前記側壁部の上縁に設けられて前記天面部が連結するツメ部と、
をさらに備え、
前記天面部は、該天面部の前記乗員側の端部の近傍に、周囲の領域に比べて乗員側上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜した第1の傾斜領域を有することを特徴とする車両用収納構造。
【請求項2】
前記インストルメントパネルの開口部は、シートクッションよりも上方となる位置に設けられることを特徴とする請求項1に記載の車両用収納構造。
【請求項3】
前記収納部材は樹脂製であって、前記ヒンジ部は樹脂を薄肉化することによって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用収納構造。
【請求項4】
前記収納部材は、前記底面部または前記側壁部に前記インストルメントパネルに固定される固定部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用収納構造。
【請求項5】
前記底面部は、該底面部の前記乗員側の端部の近傍に、周囲の領域に比べて乗員側上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜した第2の傾斜領域を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用収納構造。
【請求項6】
前記ツメ部は、車両前側に設けられる第1ツメ部と、該第1ツメ部よりも前記乗員側に設けられる第2ツメ部を含み、前記第2ツメ部は前記第1ツメ部よりも小型であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用収納構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストルメントパネルの内部に所定の収納物を収納可能にする車両用収納構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のインストルメントパネルは、運転席および助手席に対向する領域を覆うように設けられた大型の部材であって、計器類やエアコン等の取付部材として、また車室内の美観を向上させる意匠部材として利用されている。その他にも、インストルメントパネルには、例えば助手席側の下部に設けられるグローブボックスなど、車内空間を快適にするための様々な収納空間が設けられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−18180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した通り、インストルメントパネルは乗員に対向する位置に設けられている。そのため、万一の緊急時などにおいて車両に衝撃が加えられると、インストルメントパネルには、慣性によって乗員が接触する場合がある。そのような場合までも考慮して、インストルメントパネルは乗員に対する衝撃エネルギーを吸収するような構造であることが望ましい。しかし、例えば特許文献1のグローブボックスがインストルメントパネルの内側に存在していた場合、グローブボックスがインストルメントパネルと車両前方(エンジンルーム側)の部位との間によって突っ張ることで、乗員が受ける衝撃が大きくなってしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、万が一に乗員が接触した際に、乗員に対する衝撃エネルギーを吸収することが可能な車両用収納構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用収納部材の代表的な構成は、乗員と対向する位置に開口部を有するインストルメントパネル、および開口部の奥に設置される収納部材を含む車両用収納構造であって、収納部材は、乗員側が開口した箱形状を有し、箱形状は、底面部、車幅方向両側の側壁部、乗員から遠い奥壁部、および天面部を含み、収納部材は、奥壁部と天面部との間に設けられ天面部の開閉を可能にするヒンジ部と、側壁部の上縁に設けられて天面部が連結するツメ部と、をさらに備え、天面部は、天面部の乗員側の端部の近傍に、周囲の領域に比べて乗員側上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜した第1の傾斜領域を有することを特徴とする。
【0007】
緊急時、例えば前方衝突などによって車両に衝撃が発生した場合、インストルメントパネルには、乗員が接触し、これに突き上げられるような方向へ荷重が加えられる場合がある。その場合、上記収納部材の天面部は、乗員側を向いた第1の傾斜領域を有していて、これによって乗員がインストルメントパネルに接触した際の荷重を受けやすくなっている。そして、この天面部は、車両前側にヒンジ部を有しているため、ツメ部で連結されつつもある程度のクッション性を有している。すなわち、上記の天面部は、荷重を受けやすく、かつ衝撃を吸収しやすくなっている。これにより、上記構成であれば、乗員に対する衝撃エネルギーを吸収することが可能になる。
【0008】
上記のインストルメントパネルの開口部は、シートクッションよりも上方となる位置に設けられるとよい。この位置は、乗員の身体、例えば膝部などが下方から突き上げるように接触するおそれがある。したがって、この位置であれば、当該車両用収納構造の持つ衝撃吸収性を好適に発揮することが可能になる。
【0009】
上記の収納部材は樹脂製であって、ヒンジ部は樹脂を薄肉化することによって形成されているとよい。このヒンジ部を備えることで、衝撃を吸収しやすい天面部を実現することが可能になる。
【0010】
上記の収納部材は、底面部または側壁部にインストルメントパネルに固定される固定部を有するとよい。言い換えると、天面部以外の箇所に固定部を設けることで、天面部のクッション性を高く保つことが可能になる。
【0011】
上記の底面部は、底面部の乗員側の端部の近傍に、周囲の領域に比べて乗員側上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜した第2の傾斜領域を有してもよい。この第2の傾斜領域も、乗員側を向くように延びているため、乗員からの荷重を受けやすくなっている。そして、この第2の傾斜領域で受けた乗員からの荷重は、収納部材の乗員側を上方かつ車両前方に回転させるような方向へ流れて、天面部に加えられる。したがって、この構成によっても、天面部で衝撃を吸収することが可能になる。
【0012】
上記のツメ部は、車両前側に設けられる第1ツメ部と、第1ツメ部よりも乗員側に設けられる第2ツメ部を含み、第2ツメ部は第1ツメ部よりも小型であるとよい。この構成は、すなわち、車両前側の第1ツメ部よりも、乗員側の第2ツメ部のほうが外れやすい構成である。これにより、上述した車両後側から荷重を受けた際に、その衝撃をより吸収しやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、万が一に乗員が接触した際に、乗員に対する衝撃エネルギーを吸収することが可能な車両用収納構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態にかかる車両用収納構造の概要を示した図である。
【
図4】
図2の車両用収納構造を裏から見た図である。
【
図5】
図4の収納部材に施された衝撃吸収のための構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用収納構造(以下、収納構造100)の概要を示した図である。この収納構造100は、インストルメントパネル102に収納物を収納するための構造である。収納物を出し入れする開口部106は、インストルメントパネル102のうち前列左座席103の座席空間E1に位置する領域の、左側下部に設けられている。
【0017】
図2は、
図1のA部拡大図である。
図2に示すように、インストルメントパネル102の内側(車両前方側)であって開口部106の奥には、収納部材104が設けられている。この収納部材104には、乗員が小物類等の収納物を任意に収納することが可能である。
【0018】
本実施形態の収納構造は、乗員に対する衝撃エネルギーの吸収を目標として構成されている。これは、万が一の緊急時などにおいて、乗員は慣性によってインストルメントパネル102に接触するおそれがあるからである。特に、
図1のインストルメントパネル102のうち、開口部106が設けられている座席空間E1の下方の領域は、乗員の膝部が接触しやすい。そのような万が一の事態に備えて、当該収納構造100は、衝撃の吸収が可能な構成となっている。以下、まずは収納部材104の具体的な構成から説明する。
【0019】
図3は、
図2の収納部材104を単独で表した図である。
図3(a)は、収納部材104の全体の概要を表している。この収納部材104は、樹脂製であって、乗員側(車両後方側)が開口した箱形状を有している。収納部材104の各部位を詳細に説明すると、まず底面部108、そして車幅方向両側の側壁部110a・110b、箱形状の奥であって乗員から見て遠くに位置する壁部である奥壁部112、および天面部114から構成されている。
【0020】
図3(b)は、
図3(a)の天面部114を開いた図である。このように、天面部114は、開閉が可能になっている。これは、収納部材104の全体を一体成型可能にするための構成である。収納部材104が箱形状のままでは型抜きが困難であるが、このように天面部114が開いた形状であることで型抜きを可能にしている。
【0021】
上述した天面部114の開閉を可能にするために、収納部材104は天面部114と奥壁部112との間にヒンジ部116を有している。ヒンジ部116は、樹脂を薄肉化することによって形成されている。そして、成型後の天面部114を閉じて収納部材104を箱形状にするために、側壁部110aの上縁118には、天面部114と連結するツメ部が設けられている。ツメ部は、車両前方側の第1ツメ部120aと、乗員側(車両後方側)の第2ツメ部120bとを含んでいる(側壁部110b側も同様)。
【0022】
収納部材104は、側壁部110aの乗員側の下部に、インストルメントパネル102に固定するための固定部122a・122bを有している。
図4は、
図2の車両用収納構造100を裏から見た図である。このように、収納部材104は、固定部122aにボルト124、およびリブ130を利用して、インストルメントパネル102の内側に締結される。この時、インストルメントパネル102には、ボルト124を受けるボス部126(
図5(a)参照)が設けられている。なお、固定部は、底面部の下側などに設けてもよい。
【0023】
前述したように、当該収納構造100は、乗員が接触した際に、衝撃の吸収が可能になっている。これを実現するために、収納部材104の構成には工夫が施されている。以下、そのことを踏まえ、収納部材104のさらなる構成について説明する。
【0024】
図5は、
図4の収納部材104に施された衝撃吸収のための構成を示す図である。
図5(a)は、
図4の
B−B断面図である。
図5(a)に示すように、収納部材104の天面部114には、乗員側の端部である後端128の近傍に、第1の傾斜領域(傾斜領域132)が設けられている。この傾斜領域132は、周囲の領域に比べて、乗員側の上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜して設けられている。
【0025】
緊急時において、例えば前方衝突などによって車両に衝撃が発生した場合、インストルメントパネル102の例えば下部などには、乗員の膝部134が接触しやすい。そのような場合、インストルメントパネル102の内側に収納部材104が存在していると、収納部材104がインストルメントパネル102と車両前方の部位との間によって突っ張ることで、乗員が受ける衝撃が大きくなるおそれがある。この衝撃を吸収するために、本実施形態では、天面部114に傾斜領域132を設けている。
【0026】
傾斜領域132は、周囲の領域に比べて、乗員側を向いている。この傾斜領域132は、インストルメントパネル102に乗員の膝部134が接触した場合の、突き上げられるような方向への荷重P1を受けやすくするための構成である。そして、この天面部114は、車両前側にヒンジ部116を有しているため、ツメ部(
図3(a)等の第1ツメ部120a・第2ツメ部120b)で連結されつつもある程度のクッション性を有している。すなわち、本実施形態の天面部114は、荷重P1を受けやすく、かつ衝撃を吸収しやすくなっている。
【0027】
また、底面部108にも、第2の傾斜領域(傾斜領域136)が設けられている。傾斜領域136は、底面部108のうち乗員側の端部である後端138の近傍に、周囲の領域に比べて乗員側の上方へ向かって斜めに延びるよう傾斜して設けられている。すなわち、傾斜領域136も、乗員側を向くように延びて、乗員からの荷重P1を受けやすくなっている。この傾斜領域136で乗員からの荷重P1を受けると、荷重P1は、固定部122aを中心に、収納部材104の乗員側を上方かつ車両前方に回転させるような方向(矢印R1)へ流れて、天面部114に加えられる。したがって、この構成によっても、天面部114で衝撃を吸収することが可能になっている。
【0028】
図5(b)は、
図4の収納構造100を車幅方向から見た図である。
図5(b)に示すように、乗員側の第2ツメ部120bは、車両前方側の第1ツメ部120aよりも小型である。この構成は、すなわち、第1ツメ部120aよりも第2ツメ部120bのほうが外れやすい構成である。これにより、天面部114は後端128側ほどゆがみやすく、車両後側の乗員から荷重P1(
図5(a)参照)を受けた際に、その衝撃をより吸収しやすくなっている。なお、天面部114は、衝撃を受けると、各ツメ部から外れて開く構成としても、衝撃の吸収の点で好適である。
【0029】
上記のように、収納部材104は天面部114をもって衝撃を吸収することが可能である。そのため、収納部材104の固定部122aは、側壁部110aの後側下部など、天面部114以外の箇所に設けることが有益である。これにより、天面部114のクッション性を高く保つことができるからである。
【0030】
以上説明したように、当該収納構造100は、万が一に乗員が接触した際に、乗員に対する衝撃エネルギーを吸収することができる。この収納構造100は、乗員が接触しやすい位置であると、性能がより発揮できる。本実施形態では、
図1に示したように、インストルメントパネル102のうち、座席空間E1の下方の位置に設けられている。より詳しくは、インストルメントパネル102の開口とその奥の収納部材104は、座席空間E1の下方でありつつも、前列左座席103のシートクッション105よりも上方となる位置に設けられている。例えば
図5(a)に示すように、収納部材104の設置位置である高さH1は、シートクッション105(
図1参照)の座面の高さH2よりも高い。この設置位置は、シートクッション105に座った乗員の膝部134がより接触しやすい高さであるため、乗員の膝部に与え得る衝撃の吸収に特に有効となっている。
【0031】
なお、傾斜領域132・136を設けることは、収納部材104の乗員側における収納容量を拡大する効果もある。特に、収納部材104の乗員側を拡大することで、収納物の出し入れが容易になる。また、傾斜領域136によって、底面部108から収納物が運転者の足元に転がり落ちることが防止でき、運転中の安全性の向上に資することができる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車両のインストルメントパネルの内部に所定の収納物を収納可能にする車両用収納構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
E1 …前列左座席の座席空間、H1 …収納部材の設置位置の高さ、H2 …シートクッションの座面の高さ、P1 …荷重、R1 …矢印、100 …収納構造、102 …インストルメントパネル、103 …前列左座席、104 …収納部材、105 …シートクッション、106 …開口部、108 …底面部、110a・110b …側壁部、112 …奥壁部、114 …天面部、116 …ヒンジ部、118 …側壁部の上縁、120a …第1ツメ部、120b …第2ツメ部、122a・122b …固定部、124 …ボルト、126 …ボス部、128 …天面部の後端、130 …リブ、132 …天面部の傾斜領域、134 …乗員の膝部、136 …底面部の傾斜領域
138 …底面部の後端