【文献】
Aluha J, et al.,Palladium-Based Catalysts with Improved Sulphur Tolerance for Diesel-Engine Exhaust Systems,Topics in Catalysis,2009年 7月16日,52,P.1977-1982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の希薄燃焼エンジンを搭載した自動車の排ガス通路には、排ガス中のパティキュレート(炭素質微粒子等のPM:Particulate matter)を捕集するフィルタが設けられている。このフィルタのPM堆積量が多くなると、フィルタの目詰まりを招く。そのため、フィルタの前後に設けられた圧力センサの圧力差等に基づいてPM堆積量を推定し、その堆積量が所定値になった時点で、エンジンの燃料噴射制御(燃料増量や後噴射等)によって、フィルタに到達する排ガスの温度を高め、PMを燃焼除去するようにされている。そして、このPMの燃焼を促進するために、フィルタの排ガス通路壁に触媒が担持されており、特に触媒金属として白金(Pt)を担持することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、PMの燃焼速度を向上するために、フィルタの排ガス通路壁に、ジルコニウム(Zr)と、ネオジム(Nd)と、セリウム(Ce)及びNd以外の希土類元素とを含有する複合酸化物粒子にPtを担持又はドープした触媒材を設けることが開示されている。このような触媒材を用いると、複合酸化物粒子からPtを介して活性酸素が放出され、この活性酸素がPMと反応するため、PMの燃焼を促進できる。
【0004】
また、特許文献2には、特に、三元触媒、選択的触媒還元(Selective Catalytic Reduction:SCR)触媒、又はフィルタの上流若しくは下流に配設されるディーゼル酸化触媒として、Ptではなくパラジウム(Pd)をCe含有複合酸化物に担持した触媒材を用いることが開示されている。特許文献2において、このような複合酸化物とPM燃焼との関連性については開示されていない。
【0005】
また、特許文献3には、三元触媒として、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)等の遷移金属と、Pt又はPdとを合金化した合金触媒をアルミナに担持した触媒材を用いることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の触媒付きパティキュレートフィルタでは、触媒層表面のPM堆積量が少ないときは、そのPMが比較的効率良く燃焼除去されるが、PM堆積量が多くなると、PMの燃焼除去に時間がかかる傾向がみられる。その理由は、本発明者の実験・研究に基づく知見によれば、次の通りである。
【0008】
すなわち、
図1のグラフは触媒層に堆積したPMが燃焼していくときのPM残存割合の経時変化を模式的に示す。当初はPMの燃焼が急速に進むが、その急速燃焼領域(例えば、PM残存割合が100%から50%になるまでの燃焼前期)を経た後、PMの燃焼が緩慢になる緩慢燃焼領域(PM残存割合が50%から0%になるまでの燃焼後期)に移る。この点を以下詳述する。
【0009】
図2の写真に示すように、燃焼当初はPMがフィルタの表面に担持された触媒層に接触している。このため、例えば触媒層がCe含有酸化物粒子やZr含有酸化物粒子を含んでいる場合、
図3に模式的に示すように、それら酸化物粒子から放出される活性な内部酸素が触媒層に接触しているPMに高活性状態で供給される。その結果、触媒層表面のPMが急速に燃焼していく。
【0010】
しかし、上述の如く、触媒層表面のPMが燃焼除去される結果、
図4の写真に示すように、触媒層とPM堆積層との間に数十μm程度の隙間を部分的に生ずる。そのため、
図5に模式的に示すように、酸化物粒子内部から放出される活性酸素は、ごく短時間であれば活性を維持するが、ほとんどの活性酸素がPMに到達する前に活性が低下し、例えば、気相中の酸素と同じ通常の酸素となる。その結果、PMの燃焼が緩慢になる。もちろん、
図5左上及び左下に示すように排ガス中の酸素もPMの燃焼に寄与するが、上述の活性酸素による燃焼に比べると、その燃焼は緩慢である。
【0011】
PM燃焼速度を向上するために、触媒金属であるPtをより多く用いてもよいが、Ptは高価であり、コストが増大してしまう。そこで、Ptに代わる触媒金属として、Pdを用いることが考えられている。PtはPdよりも価格が低く、特に急速燃焼領域におけるPM燃焼速度を向上できるという利点を有する。しかしながら、Pdは、排ガス中の硫黄(S)成分によりS被毒を受けるおそれがあり、S被毒を受けると、触媒金属からの活性酸素の放出が困難となり、PMの燃焼性能が著しく低下することとなる。
【0012】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒金属としてPdを用いてコストを低減すると共に、PdのS被毒を抑制することで、フィルタに堆積したPMの燃焼が効率良く進むようにし、PM燃焼速度を向上できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の目的を達成するために、さらに実験・研究を進めた結果、PdとPtとの合金を触媒金属として用いることにより、PdのS被毒を防止でき、PMの燃焼性能を向上できることを見出して本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタは、排ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタの排ガス通路壁に、触媒層が設けられており、触媒層は、ジルコニウム(Zr)と、セリウム(Ce)以外の希土類元素とを含むZr系複合酸化物に触媒金属としてパラジウム(Pd)と白金(Pt)との合金が担持されたPdPt合金担持Zr系複合酸化物を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタでは、上記の通り、触媒層に含まれる触媒金属として、PdとPtとの合金が用いられている。Pdは、通常S被毒を受けやすいことが知られているが、PdとPtとを合金化すると、電気陰性度が高いPtにPdの電子が引き寄せられてPdが電子不足の状態になるため、電子受容性を有する硫黄化合物とPdとの親和力が弱くなる。その結果、PdのS被毒を抑制することができる。さらに、PdとPtとを合金化すると、Pt上で酸素が解離されやすくなるとともに、その酸素を近接するPdが受け取り、活性な酸素として脱離しやすくなるため、PdのS被毒が若干生じたとしても、その活性酸素によりS化合物がPdから脱離しやすくなる。以上から、PdとPtとの合金を触媒金属として用いている本発明の触媒付パティキュレートフィルタによると、PdのS被毒に起因する触媒金属の触媒性能の低下を防止できるため、PMの燃焼速度を向上できる。
【0016】
また、Zr系複合酸化物は、酸素吸蔵放出能が必ずしも高くないが、イオン伝導性が高く、PM燃焼に有効に働く活性酸素を多く放出できる。さらに、触媒金属としてPdを用いると急速燃焼領域における燃焼促進に有効な貴金属の活性点が増加すると考えられている。このようなPdをPtと合金化してZrCe系複合酸化物に担持することで、PdPt合金が活性の高い酸化状態に保たれ、特に急速燃焼領域における優れたPM燃焼性能を有することとなる。
【0017】
これらにより、本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタは、トータルのPM燃焼速度を向上することができ、上述したエンジン噴射制御が短時間となる、換言すると、燃料消費量が少なくなり、燃費性能が向上する。さらに、触媒金属として単体のPtでなく、PtとPdとの合金を用いるため、用いるPtの総量を低減できて、コストを低減することが可能となる。
【0018】
本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタにおいて、触媒層は、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物にロジウム(Rh)が含有されたRh含有ZrCe系複合酸化物をさらに含むことが好ましい。
【0019】
ZrCe系複合酸化物は、高い酸素吸蔵放出能を有し、酸素交換反応を起こして反応活性が高い酸素を放出できる。このため、PMの燃焼に伴ってその燃焼部位の酸素が局部的に消費されても、ZrCe系複合酸化物によって酸素が速やかに補われてPM燃焼が維持される。また、Rhを含むことにより酸素吸蔵放出及び酸素交換反応を促進できて、且つ、触媒と接触しないPMに対して、活性の持続性が高い脱離散素を供給する効果により、触媒層とPMとの間に隙間が形成された後の緩慢燃焼領域のPM燃焼速度を特に向上できる。
【0020】
なお、Rh含有ZrCe系複合酸化物は、ZrCe系複合酸化物にRhが固溶してなるRhドープZrCe系複合酸化物であってもよいし、ZrCe系複合酸化物にRhが担持してなるRh担持ZrCe系複合酸化物であってもよい。
【0021】
また、Rh含有ZrCe系複合酸化物には、触媒金属としてPtがさらに担持されていてもよく、このようにすると、急速燃焼領域におけるPM燃焼速度を向上することができる。加えて、Pt上にて気相の酸素が解離しやすくなることで、Rhへの酸素の供給量が増え、活性の持続性の高い脱離酸素の放出が増加するため、緩慢燃焼領域のPM燃焼速度についても向上する。
【0022】
上記のような触媒層を有する本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタの製造方法は、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含
み且つCeを含まないZr系複合酸化物に、Pdを含む溶液及びPtを含む溶液を含浸する含浸工程と、それらの溶液が含浸されたZr系複合酸化物を乾燥する乾燥工程と、乾燥工程に続いて、Zr系複合酸化物に対して、800℃以上の熱処理を行うことにより、PdとPtとを合金化する合金化工程とを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタの製造方法によると、上記のようなPdとPtとの合金がZr系複合酸化物に担持されたPdPt合金担持Zr系複合酸化物を含み、PM燃焼性能が高い触媒層を有する触媒付パティキュレートフィルタを得ることができる。また、本発明の製造方法では、乾燥工程に続いて800℃以上の熱処理による合金化工程を行うため、PdとPtとが均一に混じり合った状態の合金を形成できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るパティキュレートフィルタによると、PdのS被毒を抑制できて、PM燃焼性能を向上できるため、PMの燃焼を効率良く進めることができ、燃費性能も向上できる。さらに、触媒金属として用いられるPtの量を低減できるため、コストを低減することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでない。
【0027】
<パティキュレートフィルタの構造>
以下、PMを捕集するためのパティキュレートフィルタの構造について説明する。
【0028】
図6はディーゼルエンジンの排ガス通路11に配置されたパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)10を示す。フィルタ10よりも排ガス流の上流側の排ガス通路11には、酸化物等からなるサポート材にPt、Pd等に代表される触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。配置される酸化触媒に、本実施形態に係る排ガス成分浄化触媒材を用いることができる。このような酸化触媒をフィルタ10の上流側に配置するときは、該酸化触媒によって排ガス中のHC、COを酸化させ、その酸化燃焼熱でフィルタ10に流入する排ガス温度を高めてフィルタ10を加熱することができ、PMの燃焼除去に有利になる。また、NOが酸化触媒でNO
2に酸化され、該NO
2がフィルタ10にPMを燃焼させる酸化剤として供給されることになる。
【0029】
図7及び
図8に模式的に示すように、フィルタ10は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排ガス通路12、13を備えている。すなわち、フィルタ10は、下流端が栓14により閉塞された排ガス流入路12と、上流端が栓14により閉塞された排ガス流出路13とが交互に設けられ、排ガス流入路12と排ガス流出路13とは薄肉の隔壁15を介して隔てられている。なお、
図7においてハッチングを付した部分は排ガス流出路13の上流端の栓14を示している。
【0030】
フィルタ10は、前記隔壁15を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si
3N
4、サイアロン、AlTiO
3のような無機多孔質材料から形成されている。排ガス流入路12内に流入した排ガスは
図8において矢印で示したように周囲の隔壁15を通って隣接する排ガス流出路13内に流出する。すなわち、
図9に示すように、隔壁15は排ガス流入路12と排ガス流出路13とを連通する微小な細孔(排ガス通路)16を有し、この細孔16を排ガスが通る。PMは主に排ガス流入路12及び細孔16の壁部に捕捉され堆積する。
【0031】
上記フィルタ本体の排ガス通路(排ガス流入路12、排ガス流出路13及び細孔16)を形成する壁面には触媒層17が形成されている。なお、排ガス流出路13側の壁面に触媒層を形成することは必ずしも要しない。
【0032】
<触媒材について>
次に、本発明の実施形態に係るパティキュレートフィルタに用いられる触媒材について説明する。
【0033】
本発明者等は、PM燃焼性能が良好な触媒材について、実験・研究を進めた結果、PdとPtとの合金を触媒金属として用いることにより、PdのS被毒を抑制でき、PM燃焼性能を向上できることを見出した。ここで、Zr系複合酸化物にPdとPtとの合金を担持させた触媒材、及びZr系複合酸化物に合金化されていない単体であるPdとPtとを担持させた触媒材を用いて、それぞれの耐S被毒性を比較した試験について説明する。
【0034】
本試験では、上記のそれぞれの触媒材を担持したサンプルフィルタを作製し、これらのサンプルフィルタにS被毒処理を行った後に、それぞれのカーボン燃焼速度を評価した。
【0035】
具体的に、サンプルフィルタは、SiCからなる担体(容量:11mL、セル壁厚:16mil、セル数:178cpsi)に対して、Zr系複合酸化物であるZrNdPrO
xに触媒金属としてPdとPtとの合金が担持された触媒材、又はZrNdPrO
xに触媒金属として合金化されていない単体のPdとPtとが担持された触媒材を20g/Lコーティングし、乾燥及び焼成することにより作製した。ここで、触媒金属の担持量は0.1g/Lとし、PdとPtとの質量比は1:1とした。また、PtとPdとが合金化された触媒材では、ZrNdPrO
xにPtとPdとを担持した後に、800℃で6時間の熱処理をすることによりPtとPdとを合金化した。一方、PtとPdとが合金化されていない触媒材では、ZrNdPrO
xに対して800℃で6時間の熱処理を行った後にPtとPdとを担持した。なお、各触媒材の調製方法の詳細は、後に説明する。
【0036】
触媒材が担持されたサンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、前処理として模擬排ガス(C
3H
6:200ppmC、CO:400ppm、NO:100ppm、O
2:10%、CO
2:4.5%、H
2O:10%、残N
2)を40L/minの流量でフィルタに通した。このとき、30℃/minで600℃まで昇温した後、同じガス組成条件のままで、自然降温によって室温まで温度を下げた。
【0037】
その後、S被毒処理として、S成分を含むガス(SO
2:50ppmS、O
2:10%、残N
2)を25L/minの流量でフィルタに通した。このとき、フィルタを150℃で1時間保持した。
【0038】
S被毒処理の後、フィルタにカーボンを堆積した。カーボンの堆積は、担体容量1L当たり5g相当のカーボンブラックをイオン交換水中に分散させた溶液に、フィルタの入口側を浸漬させ、出口側から吸引した。その後、余分な水分を除去し、150℃で1時間乾燥した。
【0039】
上記の処理の後、サンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、N
2ガスを流通させながらそのガス温度を上昇させた。フィルタ入口温度が540℃で安定した後、N
2ガスから模擬排ガス(O
2:7.5%、NO:300ppm、残N
2)に切り換え、該模擬排ガスを空間速度45000/hで流した。そして、カーボンが燃焼することにより生じるCO及びCO
2のガス中濃度をフィルタ出口においてリアルタイムで測定した。さらに、それらの濃度から、下記の計算式を用いて、所定時間毎に、カーボン燃焼速度(単位時間当たりのPM燃焼量)を計算した。
【0040】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO
2)濃度(ppm)/(1×10
6)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
このカーボン燃焼試験(耐S被毒性試験)の結果を
図10及び
図11に示す。
図10は、N
2ガスからO
2を含む模擬排ガスに切り換えた時点(0秒とする)から100秒後までのCO
2生成量を示し、
図11は、燃焼初期(カーボン燃焼率20%まで)のカーボン燃焼速度を示すグラフである。
【0041】
図10及び
図11に示すように、PdとPtとの合金を含む触媒材は、合金化されていない単体のPdとPtとを含む触媒材と比較して、カーボン燃焼性能が高く、特に、燃焼初期におけるカーボン燃焼性能が高いことがわかる。すなわち、PdとPtとの合金化により、触媒材の耐S被毒性が向上することが示唆された。これは、PdがS被毒を受けにくくなり、且つS被毒を若干受けたとしてもPtを介してPdから放出される活性酸素の働きでS成分を脱離できるからであると考えられる。
【0042】
次に、このようなPdとPtとの合金を含む触媒材が用いられた本実施形態に係る触媒付パティキュレートフィルタの構成、特にその触媒層の構成について説明する。
【0043】
図12に示すように、本実施形態では、フィルタの排ガス通路壁における壁面(フィルタ担体21)の表面に触媒層22が形成されており、触媒層22には、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含むZr系複合酸化物23に、触媒金属として、PdとPtとの合金(PdPt合金)24が担持されたPdPt合金担持Zr系複合酸化物が含まれている。なお、Zr系複合酸化物23に担持された合金におけるPdとPtとの構成比率は、特に限定されず、適宜調整することができる。
【0044】
また、触媒層22には、上記PdPt合金担持Zr系複合酸化物の他に、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物25にロジウム(Rh)26が含有されたRh含有ZrCe系複合酸化物をさらに含んでいてもよい。このようにすると、上述の通り、Rh含有ZrCe系複合酸化物は、触媒と接触しないPMに対して、活性の持続性が高い脱離散素を供給できるため、触媒層とPMとの間に隙間が形成された後の緩慢燃焼領域のPM燃焼速度を特に向上できる。なお、Rh26は、ZrCe系複合酸化物25に含まれていれば表面に担持されることに限らず、例えば固溶されてZrCe系複合酸化物25に含まれていてもよい(ドープ型)。さらに、Rh含有ZrCe系複合酸化物には、Pt27が担持されていてもよい。このようにすると、急速燃焼領域及び緩慢燃焼領域におけるPM燃焼性能を向上できる。
【0045】
<触媒材の調製方法>
次に、本発明の実施形態に係るパティキュレートフィルタに設けられる触媒材の調製方法について説明する。最初にZr系複合酸化物としてZrNdPr複合酸化物を調製する方法について説明する。
【0046】
まず、オキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸プラセオジムとをイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、ZrNdPr複合酸化物の前駆体(共沈体)を得る。この共沈物を遠心分離し、上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより平均粒子径100nm程度まで粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりZrNdPr複合酸化物粒子材を得ることができる。
【0047】
次に、このZrNdPr複合酸化物粒子材にPdとPtとの合金を担持する方法について説明する。ここでは、担持方法として蒸発乾固法を説明する。
【0048】
まず、ZrNdPr複合酸化物粒子材にイオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラー等により十分に撹拌する。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量のジニトロジアミンPd硝酸溶液、及びジニトロジアミンPt硝酸溶液を滴下して含浸し、十分に撹拌する(含浸工程)。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させる(乾燥工程)。蒸発後、その乾燥工程に続いて、大気中において、例えば800℃で2時間焼成する(合金化工程)。これにより、Pd原子とPt原子とが均一に混じり合ったPdとPtとの合金が形成され、その結果、ZrNdPr複合酸化物粒子材にPdとPtとの合金が担持されてPdPt合金担持Zr系複合酸化物が得られる。
【0049】
なお、合金化工程は、Pd原子とPt原子とが均一に混じり合った状態の合金を形成するために800℃以上の温度で行う必要がある。但し、この熱処理を行う時間は、特に2時間に限られず、適宜調製することができ、上述のS被毒試験の場合のように6時間の熱処理を行ってもよい。また、乾燥工程と合金化工程との間に、熱処理を行わないようにする必要もある。例えば、乾燥工程と合金化工程との間に、500℃程度で数時間程度の熱処理を行うと、合金化されていないPdとPtとがそのまま複合酸化物上に固定化されることとなる。固定化された後に、合金化工程を行ったとしてもPd原子とPt原子とが均一に混じり合った状態の合金を形成することができず、例えばそれらが凝集した状態になったり、一方が他方を被覆するような均一でない状態になってしまい、合金化することができない。そうすると、PtとPdとの合金化による耐S被毒性効果を得ることができなくなる。このため、乾燥工程に続いて合金化工程を行う必要がある。
【0050】
次に、CeとZrとを含み、さらにRhを含有するRh含有ZrCe系複合酸化物として、RhドープCeZrNdO
x複合酸化物の調製方法について説明する。
【0051】
まず、硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸ロジウム溶液とをイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより平均粒子径100nm程度まで粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりRhドープCeZrNdO
x複合酸化物粒子材を得ることができる。なお、Rhをドープせずに担持する場合は、最初に硝酸ロジウムを硝酸セリウム6水和物等と共に混合せずに、CeZrNdO
x複合酸化物を調製した後に、そのCeZrNdO
x複合酸化物と硝酸ロジウムとを用いて上記と同様に蒸発乾固法によって、RhをCeZrNdO
x複合酸化物粒子材に担持すればよい。さらにPtを担持する場合も上記と同様に、ジニトロジアミンPt硝酸溶液を用いて蒸発乾固法を行えばよい。
【0052】
上記のようにして得られたそれぞれの複合酸化物粒子材に、イオン交換水及びバインダを加え、混合してスラリー状にする。このスラリーをフィルタにコーティングし、乾燥させた後、500℃で2時間焼成することにより、触媒付パティキュレートフィルタが得られる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明に係る触媒付パティキュレートフィルタを詳細に説明するための実施例を示す。
【0054】
実施例では、触媒材として上記のPdPt合金担持ZrNdPrO
xを用い、また、RhドープCeZrNdO
x、又はPt担持RhドープCeZrNdO
xと組み合わせて用いて、それぞれの場合のカーボン燃焼性能を評価した。また、単体のPdとPtとが合金化されずにそれぞれZrNdPrO
xに担持された触媒材を用いた場合を比較例1とし、この比較例1にPt担持RhドープCeZrNdO
xを含むものを比較例2とした。各実施例及び比較例の触媒材の組成を以下の表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3の触媒材に含まれるPdPt合金担持ZrNdPrO
x、実施例2のRhドープCeZrNdO
x、及び実施例3のPt担持RhドープCeZrNdO
xは、上述の触媒材の調製方法に従って調製した。比較例1及び2の触媒材に含まれるPdとPtが合金化していない非合金PdPt担持ZrNdPrO
xは、上述の乾燥工程の後に合金化工程の代わりに500℃で2時間焼成を行った。このようにすると、PdとPtとは合金化することなく、互いに個別に存在するようになる。
【0057】
各実施例及び比較例では、それらをフィルタにコーティングすることによりサンプルフィルタ(触媒付パティキュレートフィルタ)を得た。なお、各実施例及び比較例におけるZrNdPrO
xの構成比率は、ZrO
2:Nd
2O
3:Pr
2O
3=46:22:32(質量比)とした。また、RhドープCeZrNdO
x及びPt担持RhドープCeZrNdO
xでは、Rhが0.1質量%であり、他のCeZrNdO
xの構成比率は、CeO
2:ZrO
2:Nd
2O
3=28:62:10(質量比)とした。
【0058】
また、各実施例及び比較例において、フィルタへの複合酸化物のコーティング量は、20g/Lとし、Pd、Pt及びRhの総貴金属量は、0.1g/Lとした。それらの貴金属の構成比は、PdとPtとを含む場合は、Pd及びPtの両方を0.05g/Lとし、Pt、Pd及びRhを含む場合は、PtとPdとを0.045g/Lとし、Rhを0.01g/Lとした。また、第一成分と第二成分とを含む場合は、第一成分と第二成分との質量比を1:1とした。
【0059】
各実施例及び比較例の触媒材をフィルタにコーティングして得られたサンプルフィルタに対してエージングを行った後に、カーボン(カーボンブラック)を堆積させてカーボン燃焼速度を測定した。エージングはサンプルフィルタを大気中で800℃の温度に24時間保持する熱処理である。また、カーボンの堆積及びS被毒処理は、上述の耐S被毒性試験で行った方法と同様の方法で行った。
【0060】
その後、得られた各サンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、上述の耐S被毒性試験と同様の条件及び方法でカーボン燃焼速度を算出した。なお、ここでは、所定時間毎のカーボン燃焼速度に基づいてカーボン燃焼量積算値の経時変化を求め、カーボン燃焼率が0%から50%、50%から90%及び0%から90%に達するまでに要した時間とその間のカーボン燃焼量の積算値とからカーボン燃焼速度(フィルタ1Lでの1分間当たりのPM燃焼量(mg/min-L))を求めた。その結果を
図13に示す。
【0061】
図13に示すように、実施例1〜3と比較例1及び2を比較すると、PdとPtとが合金化されている実施例1〜3の方が、PdとPtとが合金化されていない比較例1及び2よりも、明らかにカーボン燃焼速度が高い。
【0062】
また、実施例1と比較して、RhドープCeZrNdO
xをさらに含む実施例2では、特に緩慢燃焼領域におけるPM燃焼性能が向上し、その結果、トータルのPM燃焼速度が向上している。また、実施例2と比較して、Pt担持RhドープCeZrNdO
xを含む実施例3は、急速燃焼領域及び緩慢燃焼領域のいずれかにおいてもPM燃焼性能が向上し、その結果、トータルのPM燃焼速度が向上している。
【0063】
一方、PdとPtとが非合金である比較例1及び2では、実施例1〜3と比較して、特に急速燃焼領域におけるPM燃焼性能が低いことがわかる。これは、PdがS被毒され、効率良く活性酸素を放出できないためであると考えられる。
【0064】
以上により、PdとPtとの合金を触媒金属として用いることにより、PdのS被毒を抑制することができ、その結果、PMの燃焼性能を向上できることが示唆された。